土御門十二神〜赤の章〜

猫又

文字の大きさ
上 下
17 / 58

再生の見鬼

しおりを挟む
 だが赤狼の言うことはもっともだと桜子は思った。あのネズミ人間は思い出すだけでも恐ろしい。生臭い息づかいに汚らしい毛皮。真っ黒の大きな瞳に鋭く尖った爪。思い出すだけで身震いがする。なので桜子は赤狼が回復しますように、と思いながら自分の中の気を赤狼に向かって送り込むように念じた。きちんと修行をした事もなく自己流だが、桜子にはそれしか出来なかった。
 やがて桜子の身体全体がぽうっと緑色に光り、それは肩を抱いている赤狼の腕や顔、身体にまで広がった。
「おお、さすがに再生の見鬼やなぁ。ええなぁ。わしかて昨日、あの二人を運んだりしとるんやけどなぁ。あー肩こったなぁ」
 と紫亀が首をコキコキとならしながら言った。
 はっと桜子が目を開け、
「そ、そうですよね。すみません。先生」
 ぱっと赤狼から離れて、紫亀の両手を掴んだ。
 赤狼が鼻に皺を寄せて紫亀を睨んだ。
 桜子の両手から紫亀の手に再生の気が流れ、紫亀は満足そうには~~と息をついた。
「極楽やぁ。再生の見鬼様の極上の癒やしの気やぁ~~あ~元気出る~」
 と紫亀が言ったので、桜子はふふっと笑った
「いい加減にしろ!」
 とりゃっと赤狼の手刀が紫亀の手首に振り下ろされ、紫亀はぎゃっと両手を引っ込めた。
「桜子に無理させんな! 亀!」
「なんや、自分ばっかり」
 紫亀は手首をさするとブツブツと文句を言った。
「それで先生、佐山先生の魂を抜いたというのは一体、誰なんですか?」
 と桜子が本題に触れた。
 紫亀は机の上の湯飲みを持ち上げて一口茶を飲んだ。
「それや。魂を抜いたんは……はっきり顔は見えんかったし、わしも全ての人間を知ってるわけでもない。けど、あの霊波の波動は土御門の能力者には違いない」
「え?!!」
 一瞬、間があって桜子は赤狼の顔を見てからまた紫亀に視線を戻した。
「土御門の能力者がどうして佐山先生ともう一人の人間の魂を?」
「さあなぁ。そこまでは分からん。能力者によってわしらも得手不得手がある。不得手な能力者相手にはなかなか心まで読み取れんのや。まあ、けど、魂の使い道はいろいろあるのは確かや」
「どうやって?」
 と勢い込む桜子を赤狼が押さえた。
「そう突っ走るな。最初から片付けよう。担任が旧校舎であの男と会っていた理由は?」
「それは読んだ。魂を抜かれてたとは言っても、身体が記憶してるからな。あの二人を運ぶ途中で全部読ませてもろたで。まず、あの男、男っちゅうてもまだ十七歳や。佐山先生が前に通っていたみなと学園の元教え子や。悪い奴でな。不良ちゅう奴や。こいつが先生を強姦した」
「ええ!!!」
 桜子が大きな声で悲鳴を上げた。
「酷い……」
「そうや。それをネタに脅して金品やまた身体の関係を……を繰り返してた。佐山先生はそれですっかり病んでみなと学園を逃げ出してここに来た。んやけど男は手を尽くして探したんやろうな。どうも都議かなんか有力者の息子みたいやで」
「そ、それでこの学園にまで佐山先生を脅しに来たんですか?」
「うーん、佐山先生はそう思うて怖がってたし、怒りも沸いてきてた。でもな、あの男はどうも佐山先生を好いてたみたいでな。それを後悔して謝りに来たみたいなんやけど、もう遅いわな。佐山先生の恐怖と憎悪は最高潮に達しとった。佐山先生にとりついた雑魚霊がそれを増幅させる。あの男を喰わせろ、誰にも分からないように始末してやると囁かれ、佐山先生はあの男を雑魚霊の捧げ物にする気で旧校舎に呼び出した。雑魚霊は二人の生体エネルギーを吸い取って巨大化しネズミ人間になった。ネズミ人間はあの男どころか佐山先生も生きて返す気はなかった。二人をぼりぼり喰うつもりやったんや。魂ごと身体もな。けど、そこで桜子ちゃんが旧校舎に来た。極上の再の気やで、人間を二体喰らうよりご馳走や。二人を喰うのは後に回して桜子ちゃんを襲いに行ったんやけど、赤い狼に返り討ちや。その隙に何者かが二人の魂を抜き取った、のが真相や」
「それが土御門の何者か、か」
「そうや、でもまあ、魂抜きは簡単にできる術ではないし、土御門では禁忌のはずやからかなり上位の能力者やろうな。修行中の学生に出来る技ではない」
「ふん、くだらねえな。どうせお家騒動の一端だろう。一族内での能力争いか何かだろ」
 と赤狼が言うと、紫亀も、
「ほんまやなぁ。いつもそんな争いばっかりや」
 と言った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

月華後宮伝

織部ソマリ
キャラ文芸
【10月中旬】5巻発売です!どうぞよろしくー! ◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――? ◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます! ◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

俺の知らない大和撫子

葉泉 大和
キャラ文芸
 松城高校二年三組に在籍する諏訪悠陽は、隣の席にいる更科茉莉のことを何も知らない。  何故なら、彼女は今年の四月に松城高校に転入して来たからだ。  長く綺麗な黒髪で、まるで大和撫子が現代に飛び出したような容姿をしている茉莉は、その美貌も重なって、瞬く間に学校中の人気者になった。  そんな彼女のせいで、悠陽の周りは騒がしくなってしまい、平穏な学校生活を送ることが出来なくなっていた。  しかし、茉莉が松城高校に転入してから三週間ほどが経った頃、あることをきっかけに、悠陽は茉莉の秘密を知ってしまう。  その秘密は、大和撫子のようなお淑やかな彼女からは想像が出来ないもので、彼女の与えるイメージとは全くかけ離れたものだった。  そして、その秘密のせいで更に悠陽は厄介事に巻き込まれることになり……? (※こちらの作品は小説家になろう様にて同時連載をしております)

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

処理中です...