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地階の探検2
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手すりもなにもない木の階段をゆっくりと下りていくと、地下倉庫で乱雑に物が積み上げられていた。
その一番奥に綾子の後ろ姿が見えた。
「先生」
綾子はぺたんと床に座り込んでおり、その向こうにあお向けに倒れた男がいた。
桜子の呼びかけにも綾子は反応せずにただ宙を見ている。
「先生!」
桜子は綾子の肩を揺さぶってみたが、がくんがくんと身体が揺れるだけだった。
赤狼が倒れている男の側に寄って意識を確かめた。
「赤狼君、その人、し、死んでるの?」
「いや、死んではないようだ。でも、このままじゃ危ないな。生体エネルギーをずいぶんと抜かれてるようだしな」
「生体エネルギー?」
「小さいネズミ野郎がたくさん集まって巨大化したのがさっき俺が倒したやつだ。先生とこの男の生体エネルギーを喰らって巨大化したんだろうな。とにかく先生を正気に戻さないと」
「どうやって?」
「先生の手を握って桜子の再の気を分けてやればいい」
と赤狼が言ったので、桜子は綾子の手を取った。
「それで?」
桜子は赤狼を見た。綾子の手を取ったが別に何も起こらない。
「先生を回復するというイメージで手のひらに自分の気を集めてみろ。さっき手のひらに集めただろ?」
「分かった」
桜子は綾子を回復したい、と思いながら自分の手のひらに意識を集中した。
ぽわぁと桜子の手のひらが緑の色に明るくなる。
それは綾子の手の先を緑色に染めたが、それ以上は何も起こらなかった。
赤狼が綾子の側に寄って、ふんふんと匂いを嗅ぐような素振りをした。
「魂を抜かれてしまったか。多分、こっちの男も」
「え……魂を抜くなんて……どうしたらいいの?」
「どうにもならない」
「え?」
「魂を取り戻すには抜いたやつを捕まえるしかない。が、もう喰われてしまったというならどうにもならない。もう消化されてるだろうな」
「え、そ、そうなの? でもあの大きなネズミ人間は赤狼君がやっつけたじゃない?」
「だから魂を抜いたやつは別なんだろう。上物に傷もつけずに魂を抜き取るのはなかなか知恵のある奴だ。そのままがぶりと喰っちまっても同じなのにな」
「じゃ、じゃあ、魂が消化されたらもう先生はこのままなの?」
「そうだ。だが身体を残したって事は喰うのが目的ではないのかもな」
「どういう……事?」
「さあ、そこまでは。喰ってないならまだどこかに保存されてる可能性もある。だけどあまり長い間身体から離れるとまずい。戻れなくなるからな」
「……」
桜子はもう何が何だか分からなくなって脳みそがパンクしそうだった。
「とりあえず、この二人は外に出したほうがいい。このままだとまた雑魚が沸いて身体も喰われちまうしな」
「う、うん」
桜子は綾子の身体に手をかけて彼女の身体を背負おうとした。
「……さすがに無理だろ」
「え、でも」
「今下りてきた階段を上る自信があるのか?」
「え」
そういえばそうだった。
背負うだけでも厳しいのだ。
「だ、大丈夫よ」
そう言って桜子は綾子を背負った。
綾子は細くスリムな体型だったが、意識のない人間はとても重い。
背負うだけで精一杯で一歩を踏み出す事も出来ない。
「ぐ……」
と桜子は歯を食いしばって力んだ。
「無理だろ。いいから下ろせ」
赤狼が桜子の背中から綾子の身体をぐいっと引っ張った。
急に背中が軽くなって桜子は後ろにひっくり返ってしまった。
「いてて」
「無理すんな」
「で、でも、私、何の役にもたってないし。ここまで赤狼君の負担ばかりだし。私が勝手にした事なのに」
赤狼はふっと笑った。
それは桜子の事が非常に愛おしいという優しい笑顔だったが、暗闇の中でそれは桜子には届かなかった。
「力持ちがそこまで来てるから大丈夫だ」
と赤狼が言った。
「え?」
その一番奥に綾子の後ろ姿が見えた。
「先生」
綾子はぺたんと床に座り込んでおり、その向こうにあお向けに倒れた男がいた。
桜子の呼びかけにも綾子は反応せずにただ宙を見ている。
「先生!」
桜子は綾子の肩を揺さぶってみたが、がくんがくんと身体が揺れるだけだった。
赤狼が倒れている男の側に寄って意識を確かめた。
「赤狼君、その人、し、死んでるの?」
「いや、死んではないようだ。でも、このままじゃ危ないな。生体エネルギーをずいぶんと抜かれてるようだしな」
「生体エネルギー?」
「小さいネズミ野郎がたくさん集まって巨大化したのがさっき俺が倒したやつだ。先生とこの男の生体エネルギーを喰らって巨大化したんだろうな。とにかく先生を正気に戻さないと」
「どうやって?」
「先生の手を握って桜子の再の気を分けてやればいい」
と赤狼が言ったので、桜子は綾子の手を取った。
「それで?」
桜子は赤狼を見た。綾子の手を取ったが別に何も起こらない。
「先生を回復するというイメージで手のひらに自分の気を集めてみろ。さっき手のひらに集めただろ?」
「分かった」
桜子は綾子を回復したい、と思いながら自分の手のひらに意識を集中した。
ぽわぁと桜子の手のひらが緑の色に明るくなる。
それは綾子の手の先を緑色に染めたが、それ以上は何も起こらなかった。
赤狼が綾子の側に寄って、ふんふんと匂いを嗅ぐような素振りをした。
「魂を抜かれてしまったか。多分、こっちの男も」
「え……魂を抜くなんて……どうしたらいいの?」
「どうにもならない」
「え?」
「魂を取り戻すには抜いたやつを捕まえるしかない。が、もう喰われてしまったというならどうにもならない。もう消化されてるだろうな」
「え、そ、そうなの? でもあの大きなネズミ人間は赤狼君がやっつけたじゃない?」
「だから魂を抜いたやつは別なんだろう。上物に傷もつけずに魂を抜き取るのはなかなか知恵のある奴だ。そのままがぶりと喰っちまっても同じなのにな」
「じゃ、じゃあ、魂が消化されたらもう先生はこのままなの?」
「そうだ。だが身体を残したって事は喰うのが目的ではないのかもな」
「どういう……事?」
「さあ、そこまでは。喰ってないならまだどこかに保存されてる可能性もある。だけどあまり長い間身体から離れるとまずい。戻れなくなるからな」
「……」
桜子はもう何が何だか分からなくなって脳みそがパンクしそうだった。
「とりあえず、この二人は外に出したほうがいい。このままだとまた雑魚が沸いて身体も喰われちまうしな」
「う、うん」
桜子は綾子の身体に手をかけて彼女の身体を背負おうとした。
「……さすがに無理だろ」
「え、でも」
「今下りてきた階段を上る自信があるのか?」
「え」
そういえばそうだった。
背負うだけでも厳しいのだ。
「だ、大丈夫よ」
そう言って桜子は綾子を背負った。
綾子は細くスリムな体型だったが、意識のない人間はとても重い。
背負うだけで精一杯で一歩を踏み出す事も出来ない。
「ぐ……」
と桜子は歯を食いしばって力んだ。
「無理だろ。いいから下ろせ」
赤狼が桜子の背中から綾子の身体をぐいっと引っ張った。
急に背中が軽くなって桜子は後ろにひっくり返ってしまった。
「いてて」
「無理すんな」
「で、でも、私、何の役にもたってないし。ここまで赤狼君の負担ばかりだし。私が勝手にした事なのに」
赤狼はふっと笑った。
それは桜子の事が非常に愛おしいという優しい笑顔だったが、暗闇の中でそれは桜子には届かなかった。
「力持ちがそこまで来てるから大丈夫だ」
と赤狼が言った。
「え?」
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