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地階の探検
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「十二式神って……」
と桜子が驚いた表情で言いかけた時、どこからかゴトンゴトンと鈍い音が響いた。
赤狼がしっと指を立てた。
耳を澄ませてから足下を指さした。
「下? でもこの旧校舎には地階なんてなかったんじゃない?」
と桜子が小声で言った。
「この屋敷中で地下にだけ人間の気配がある。どこか隠し階段でもあるんじゃないのか? ここは昔、土御門神道の拠点地だったからな」
「本当?」
「ああ」
「赤狼君て何でも知ってるのね。佐山先生を探さなくちゃ。さっき赤狼君がやっつけたからこの旧校舎にもうネズミ人間はいないの?」
と桜子があたりを見渡してから聞いた。
「今は気配もないようだけどな、ああいうのはすぐに沸いてくる。ちょっとした人間の悪意や悲しみを嗅ぎつけて群がっては、さらにその意識を増幅させる」
「そうなんだ」
「今回のネズミ野郎の出所が担任の感情なら、そいつをどうにかしないといくらでも沸いてくるぞ」
そう言いながら赤狼が歩き出したので桜子は慌てて後を追った。
ネズミ人間をやっつけたとはいえ、古く薄暗い旧校舎が不気味なのには変わりがないからだ。そして助けてくれたのは間違いないようだが、前を歩く赤狼も得体の知れない者だった。
(十二式神筆頭神って言ったわ…)
十二式神とは千年もの昔、土御門家先祖の安倍家において非常に優秀な陰陽師、安倍晴明が使役していたという式神達である。その数が十二神、晴明はそれらの式神を側に置いて占術の使役から身の回りの世話までさせてたという文献が残っている。あまりにも数が多く、その一部は屋敷の近くの橋の下に待機させていたといい、その橋は現存している。
土御門家からは戦力外とされてはいるが、桜子にもこれくらいの知識はある。
そして十二神もの式神を同時に操れる術者は現在ではいない。
現在の土御門家の当主、土御門左京が二体、その息子の如月が一体の式神を保持しているという噂だけが駆け巡っているが、それを視られるのはよほど彼らに近い立場でなければ不可能だった。ましてや桜子など当主に会ったのも生涯で二度きりだし、次期当主と名高い如月も遠くから眺めるだけだった。
転校してきてすぐに次代の如月から呼び出された事や、中等部総括の愛美達も鼻であしらうほどの力というのもうなずける。十二神というのは土御門本家にとってそれだけ重要な式神のはずなのだが、何故、今、人間のふりをして自分の前に現れたのだろう、と桜子はそんな事を考えた。
「こっちだな」
前を歩く赤狼が校舎の一番奥の部屋に入って行った。
中に入ると窓もなく、ほとんど真っ暗だったが赤狼は夜目が利くのかすいすいと椅子やテーブルの間を歩いて行く。
「ちょ、待ってって、あいたたた!!」
ドスンガスンと何かに当たっては膝や腰を打つ桜子が悲鳴のような声を上げた。
赤狼は振り返り埃まみれの桜子を見て笑った。
「ちょっと待って……」
「しょうがないな」
赤狼が桜子の方へ向いて手を差し出したような仕草をしたので、桜子は手を引いてもらえるとばかりに自分の手を差し出した。
「あちっ!」
手を引いてくれるどころか、赤狼の手のひらに真っ赤な炎がメラメラと燃えていたので、桜子はぎょっと身体を引いた。
「な、何これ」
「明かり代わりに」
確かに部屋の中が炎でぼうっと照らされて周囲が見えるようになった。
「ここか」
部屋にはテーブルといくつかソファがあったがそれは全て部屋の端に乱雑に寄せられていた。空いた部屋の真ん中にはめくられた絨毯と地下へ降りる階段が見える穴がぽっかりと空いていた。
「せ、先生、この下に降りたのかしら?」
「だろうな。どうする?」
「え、ここまで来たんだから……行かないと……」
「勇気あるな」
「え?」
「怪異どもの美味な餌として有名な土御門の再生の見鬼だぞ? こんな闇の中に飛び込んでたちが悪い奴らがいたらあっという間にミイラだぞ?」
と赤狼が軽く言ったので、桜子はうっと詰まった。
「自分の立場が分かってるのか?」
「それは……私なんかが先生を助けようなんておこがましいのは分かってるけど、もし、このまま知らん振りして戻って、明日の朝、先生の訃報とか聞いたら……すごく後悔するんだろうなぁって思うの。赤狼君がいなかったらここに来るまでにもう駄目だった気もしないでもない……んだけど……お願い! もう少し! つきあってください!」
桜子は両手を合わせてお願いのポーズをした。
「何だよ。つきあってほしいなんて、積極的だな」
「いや、ちがっ、そういう意味じゃなくて」
「まあ、いいさ。そういうとこは変わらないな」
と赤狼が言って笑った。
「じゃ、じゃあ、降りるわね」
と言って桜子が一段下りた。
「これ持ってけ」
と赤狼の手から炎が離れてふらふらと桜子の先を照らしながら下りていった。
暖かい赤い炎は暗闇の中で桜子の心をほっとさせる。
自分が一段下りるたびに赤狼が同じずつすぐ後ろを下りてくるので桜子は心強く感じた。
と桜子が驚いた表情で言いかけた時、どこからかゴトンゴトンと鈍い音が響いた。
赤狼がしっと指を立てた。
耳を澄ませてから足下を指さした。
「下? でもこの旧校舎には地階なんてなかったんじゃない?」
と桜子が小声で言った。
「この屋敷中で地下にだけ人間の気配がある。どこか隠し階段でもあるんじゃないのか? ここは昔、土御門神道の拠点地だったからな」
「本当?」
「ああ」
「赤狼君て何でも知ってるのね。佐山先生を探さなくちゃ。さっき赤狼君がやっつけたからこの旧校舎にもうネズミ人間はいないの?」
と桜子があたりを見渡してから聞いた。
「今は気配もないようだけどな、ああいうのはすぐに沸いてくる。ちょっとした人間の悪意や悲しみを嗅ぎつけて群がっては、さらにその意識を増幅させる」
「そうなんだ」
「今回のネズミ野郎の出所が担任の感情なら、そいつをどうにかしないといくらでも沸いてくるぞ」
そう言いながら赤狼が歩き出したので桜子は慌てて後を追った。
ネズミ人間をやっつけたとはいえ、古く薄暗い旧校舎が不気味なのには変わりがないからだ。そして助けてくれたのは間違いないようだが、前を歩く赤狼も得体の知れない者だった。
(十二式神筆頭神って言ったわ…)
十二式神とは千年もの昔、土御門家先祖の安倍家において非常に優秀な陰陽師、安倍晴明が使役していたという式神達である。その数が十二神、晴明はそれらの式神を側に置いて占術の使役から身の回りの世話までさせてたという文献が残っている。あまりにも数が多く、その一部は屋敷の近くの橋の下に待機させていたといい、その橋は現存している。
土御門家からは戦力外とされてはいるが、桜子にもこれくらいの知識はある。
そして十二神もの式神を同時に操れる術者は現在ではいない。
現在の土御門家の当主、土御門左京が二体、その息子の如月が一体の式神を保持しているという噂だけが駆け巡っているが、それを視られるのはよほど彼らに近い立場でなければ不可能だった。ましてや桜子など当主に会ったのも生涯で二度きりだし、次期当主と名高い如月も遠くから眺めるだけだった。
転校してきてすぐに次代の如月から呼び出された事や、中等部総括の愛美達も鼻であしらうほどの力というのもうなずける。十二神というのは土御門本家にとってそれだけ重要な式神のはずなのだが、何故、今、人間のふりをして自分の前に現れたのだろう、と桜子はそんな事を考えた。
「こっちだな」
前を歩く赤狼が校舎の一番奥の部屋に入って行った。
中に入ると窓もなく、ほとんど真っ暗だったが赤狼は夜目が利くのかすいすいと椅子やテーブルの間を歩いて行く。
「ちょ、待ってって、あいたたた!!」
ドスンガスンと何かに当たっては膝や腰を打つ桜子が悲鳴のような声を上げた。
赤狼は振り返り埃まみれの桜子を見て笑った。
「ちょっと待って……」
「しょうがないな」
赤狼が桜子の方へ向いて手を差し出したような仕草をしたので、桜子は手を引いてもらえるとばかりに自分の手を差し出した。
「あちっ!」
手を引いてくれるどころか、赤狼の手のひらに真っ赤な炎がメラメラと燃えていたので、桜子はぎょっと身体を引いた。
「な、何これ」
「明かり代わりに」
確かに部屋の中が炎でぼうっと照らされて周囲が見えるようになった。
「ここか」
部屋にはテーブルといくつかソファがあったがそれは全て部屋の端に乱雑に寄せられていた。空いた部屋の真ん中にはめくられた絨毯と地下へ降りる階段が見える穴がぽっかりと空いていた。
「せ、先生、この下に降りたのかしら?」
「だろうな。どうする?」
「え、ここまで来たんだから……行かないと……」
「勇気あるな」
「え?」
「怪異どもの美味な餌として有名な土御門の再生の見鬼だぞ? こんな闇の中に飛び込んでたちが悪い奴らがいたらあっという間にミイラだぞ?」
と赤狼が軽く言ったので、桜子はうっと詰まった。
「自分の立場が分かってるのか?」
「それは……私なんかが先生を助けようなんておこがましいのは分かってるけど、もし、このまま知らん振りして戻って、明日の朝、先生の訃報とか聞いたら……すごく後悔するんだろうなぁって思うの。赤狼君がいなかったらここに来るまでにもう駄目だった気もしないでもない……んだけど……お願い! もう少し! つきあってください!」
桜子は両手を合わせてお願いのポーズをした。
「何だよ。つきあってほしいなんて、積極的だな」
「いや、ちがっ、そういう意味じゃなくて」
「まあ、いいさ。そういうとこは変わらないな」
と赤狼が言って笑った。
「じゃ、じゃあ、降りるわね」
と言って桜子が一段下りた。
「これ持ってけ」
と赤狼の手から炎が離れてふらふらと桜子の先を照らしながら下りていった。
暖かい赤い炎は暗闇の中で桜子の心をほっとさせる。
自分が一段下りるたびに赤狼が同じずつすぐ後ろを下りてくるので桜子は心強く感じた。
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