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十二式神筆頭神 赤狼
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大きな赤い狼は血が滴っている自分の口の周りをぺろり舐めてから、桜子に近づいてきた。
「消えた……」
と桜子は小声で呟いた。
赤狼が怒号を発した瞬間に赤い狼に変身した、という事実を桜子は受け止めかねていた。
目の前の大きな赤い狼は毛並みも佇まいも素晴らしく美しく、どうせ食べられるならネズミ人間に囓られるよりは狼の方がましかもしれないと思った。
真っ赤な狼は床に腰を抜かして蹲っている桜子の側に座ると、桜子の頬をぺろっと舐めた。
「ちょ! ネズミ人間食べた口で舐めた!」
と言ってしまってから、桜子は慌てて口をつぐんだ。
「あんな不味いもん喰うか」
と狼がまともに返事を返してきた。
「……あなた赤狼君なの? 狼なの?」
狼は少し首をかしげて桜子をじっと見た。
その瞳も赤い毛並みと同じく少し赤みがかっていた。
「この姿を見てもやっぱり思い出さないんだな」
「?」
「まあ、いいさ」
赤い狼は腰を上げ、桜子に背を向けるように姿勢を変えた。
その瞬間赤い狼の身体がふっと歪んで見え、次の瞬間には皇城学園のブレザー制服を着た中学生の姿に形を変えた。
「赤い狼だから赤狼という名前なの?」
「まあ、そんなとこ。前の主が言葉遊びのような名前をつけてて、皆、それが気に入ってしまってな、以来、その名で通している」
「皆? あなた以外って? それに主って?」
「今はそれを説明している暇はないかな。担任の先生を探しに来たんじゃないのか?」
「あ、そうだ!」
桜子は慌てて立ち上がった。
「佐山先生、どこにいるのかしら? 赤狼君、一緒に探してくれる? いつもよりもたくさんのネズミ人間を連れていたわ。あ、こんな大きくなくて小さいサイズだけど」
首をかしげて自分を見た桜子の視線に赤狼は照れたような一瞬照れたような顔をした。
「あー、ちょっと休憩」
そう言って赤狼は桜子の手を取り引き寄せた。
「え?」
「疲れたわけじゃないけど」
と言って赤狼の腕が桜子の肩を引き寄せぎゅうっと抱きしめた。
「ええ!?」
桜子の顔は真っ赤になり、身体が硬直してしまった。
「ちょっとこのままで」
「あ、赤狼君?」
「やっぱり桜子の再の気が一番効くな」
桜子の身体を抱きしめたまま赤狼は満足げに言った。
「ど、どういう事?」
「桜子は再生の見鬼だって事だ」
「見鬼って何らかの霊能力を持つ人の事よね? 霊視が出来たり、祈祷や調伏をしたり。私がそうだっていうの?」
という桜子を赤狼はまじまじと見て、
「本当に何も知らないんだな。自分に霊能力があることは自覚してるんだろ? 授業中に手のひらに再の気を集めてただろう」
と言った。
「うん……」
桜子は赤狼の腕をそっとほどいて、少しだけ離れた。
左の手の平を上に向けて赤狼の方へ差し出す。
ふわぁと緑色の小さな渦が巻き起こって、それは少しずつ丸く大きくなっていった。
「私ね、土御門で霊能力が開花するとされている五歳になっても何の能力も発動しなかったの。だから能力者の修行からは外されたのね。この能力が出たのは中等部に入った十三歳になってからなんだけど誰にも言ってないの。私には必要のないものだと思ってたし」
「なるほどな、だから土御門の連中も桜子を仲間はずれのようにしてるのか。誰一人として桜子の能力に気づかないとは愚かな連中だな」
赤狼はケッと言った。
「しかも滅多に現れない再生の見鬼だぞ!」
「その、再生の見鬼って何?」
「再生の見鬼とは攻撃力は皆無だが、素晴らしい回復力を持つ癒やしの気の能力の事だ。桜子は土御門の歴代の再生の見鬼の中でも上位に立つ」
「ふーん」
と桜子は言ったがあまり興味がなさそうだった。
能力者だと言われても、今更土御門で厳しい修行をするつもりもなかった。
「そんな無防備でよく今まで悪妖らに囓られなかったな。再の気は能力者には霊能力の回復を促すが、怪異に対しても滋養の源になる」
「え……じゃあ、あのネズミ人間がこの緑に寄ってくるのは」
桜子はまだ自分の手のひらの上でぽわぽわ浮いている緑色の丸まった気を見た。
「滅多にありつけない土御門のご馳走さ」
赤狼はそれを指でつまむとひょいと自分の口に放り込んだ。
「え、食べた」
「桜子の頭から足先まで丸ごと囓ればすげえ能力を手に入れられると、少しは知恵のあるやつならそう思うぜ」
「そう……じゃあ、あんまり外に出さない方がいいって事よね?」
「再生の見鬼は自衛が出来ないからな」
「自衛って自分の身を守るってこと?」
「そうだ。気を振り絞れば絞るほど敵が喜ぶだけだ」
「そっか……分かったわ。それで……あなたは何者なの? どうしてそんな事を知ってるの? 赤狼君、あなたも妖なんでしょう? 赤い狼が正体なの?」
「そうだ。俺は……十二式神筆頭神の赤狼だ」
「消えた……」
と桜子は小声で呟いた。
赤狼が怒号を発した瞬間に赤い狼に変身した、という事実を桜子は受け止めかねていた。
目の前の大きな赤い狼は毛並みも佇まいも素晴らしく美しく、どうせ食べられるならネズミ人間に囓られるよりは狼の方がましかもしれないと思った。
真っ赤な狼は床に腰を抜かして蹲っている桜子の側に座ると、桜子の頬をぺろっと舐めた。
「ちょ! ネズミ人間食べた口で舐めた!」
と言ってしまってから、桜子は慌てて口をつぐんだ。
「あんな不味いもん喰うか」
と狼がまともに返事を返してきた。
「……あなた赤狼君なの? 狼なの?」
狼は少し首をかしげて桜子をじっと見た。
その瞳も赤い毛並みと同じく少し赤みがかっていた。
「この姿を見てもやっぱり思い出さないんだな」
「?」
「まあ、いいさ」
赤い狼は腰を上げ、桜子に背を向けるように姿勢を変えた。
その瞬間赤い狼の身体がふっと歪んで見え、次の瞬間には皇城学園のブレザー制服を着た中学生の姿に形を変えた。
「赤い狼だから赤狼という名前なの?」
「まあ、そんなとこ。前の主が言葉遊びのような名前をつけてて、皆、それが気に入ってしまってな、以来、その名で通している」
「皆? あなた以外って? それに主って?」
「今はそれを説明している暇はないかな。担任の先生を探しに来たんじゃないのか?」
「あ、そうだ!」
桜子は慌てて立ち上がった。
「佐山先生、どこにいるのかしら? 赤狼君、一緒に探してくれる? いつもよりもたくさんのネズミ人間を連れていたわ。あ、こんな大きくなくて小さいサイズだけど」
首をかしげて自分を見た桜子の視線に赤狼は照れたような一瞬照れたような顔をした。
「あー、ちょっと休憩」
そう言って赤狼は桜子の手を取り引き寄せた。
「え?」
「疲れたわけじゃないけど」
と言って赤狼の腕が桜子の肩を引き寄せぎゅうっと抱きしめた。
「ええ!?」
桜子の顔は真っ赤になり、身体が硬直してしまった。
「ちょっとこのままで」
「あ、赤狼君?」
「やっぱり桜子の再の気が一番効くな」
桜子の身体を抱きしめたまま赤狼は満足げに言った。
「ど、どういう事?」
「桜子は再生の見鬼だって事だ」
「見鬼って何らかの霊能力を持つ人の事よね? 霊視が出来たり、祈祷や調伏をしたり。私がそうだっていうの?」
という桜子を赤狼はまじまじと見て、
「本当に何も知らないんだな。自分に霊能力があることは自覚してるんだろ? 授業中に手のひらに再の気を集めてただろう」
と言った。
「うん……」
桜子は赤狼の腕をそっとほどいて、少しだけ離れた。
左の手の平を上に向けて赤狼の方へ差し出す。
ふわぁと緑色の小さな渦が巻き起こって、それは少しずつ丸く大きくなっていった。
「私ね、土御門で霊能力が開花するとされている五歳になっても何の能力も発動しなかったの。だから能力者の修行からは外されたのね。この能力が出たのは中等部に入った十三歳になってからなんだけど誰にも言ってないの。私には必要のないものだと思ってたし」
「なるほどな、だから土御門の連中も桜子を仲間はずれのようにしてるのか。誰一人として桜子の能力に気づかないとは愚かな連中だな」
赤狼はケッと言った。
「しかも滅多に現れない再生の見鬼だぞ!」
「その、再生の見鬼って何?」
「再生の見鬼とは攻撃力は皆無だが、素晴らしい回復力を持つ癒やしの気の能力の事だ。桜子は土御門の歴代の再生の見鬼の中でも上位に立つ」
「ふーん」
と桜子は言ったがあまり興味がなさそうだった。
能力者だと言われても、今更土御門で厳しい修行をするつもりもなかった。
「そんな無防備でよく今まで悪妖らに囓られなかったな。再の気は能力者には霊能力の回復を促すが、怪異に対しても滋養の源になる」
「え……じゃあ、あのネズミ人間がこの緑に寄ってくるのは」
桜子はまだ自分の手のひらの上でぽわぽわ浮いている緑色の丸まった気を見た。
「滅多にありつけない土御門のご馳走さ」
赤狼はそれを指でつまむとひょいと自分の口に放り込んだ。
「え、食べた」
「桜子の頭から足先まで丸ごと囓ればすげえ能力を手に入れられると、少しは知恵のあるやつならそう思うぜ」
「そう……じゃあ、あんまり外に出さない方がいいって事よね?」
「再生の見鬼は自衛が出来ないからな」
「自衛って自分の身を守るってこと?」
「そうだ。気を振り絞れば絞るほど敵が喜ぶだけだ」
「そっか……分かったわ。それで……あなたは何者なの? どうしてそんな事を知ってるの? 赤狼君、あなたも妖なんでしょう? 赤い狼が正体なの?」
「そうだ。俺は……十二式神筆頭神の赤狼だ」
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