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陰陽寮
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学園の敷地は広大過ぎて校舎から寮までじつに一キロはある。寮生活の学生は自転車を使って移動しており、桜子もディスカウントショップで買った自転車を愛用している。
土御門家に歓迎されていない桜子は学園内でも遠巻きに見られている事が多く、友人と言えば中学部から入ってきた真理子くらいだった。
その真理子は自宅からのバス通学なので夕食を一緒にする事もなく、学園敷地の居住区で衣食住が賄える桜子はめったに学園の外にも出ない。
ハンバーガーショップでセットを買い、桜子はまた寮の方へ自転車を走らせた。
「あれ? 佐山先生」
通りの角を綾子が歩いて曲がって行くのを目にした桜子は自転車をそちらの方へ走らせた。郵便局や銀行のATM、宅配便などを出せる施設が一つになった建物の角だった。
その角を曲がれば今は使われていない古い校舎への道で、金網でぐるりと囲まれて鍵もついているはずだった。
綾子の肩には朝に見たネズミ人間が乗っているし、それだけではなく足下にも腰の辺りにもネズミ人間がまとわりついている。
桜子は息を一つついてから自転車で綾子を追ってその角を曲がった。
綾子は何かに引き寄せられるようにふらふらと歩いていく。
後をついていく桜子には顔は見えないが荷物もなく両手はぶらんとしたままだ。
時々つまづいてよろけたりしながらも綾子はどんどんと歩いて行く。
綺麗に舗装していたアスファルトが途切れて砂利道になり、だんだんと草むらに入り込んでいく。
この古い校舎にあった理科室などが新校舎に移動し、全く使われなくなって十年だが、道や庭などに草木が生い茂っている。手入れもされずに放りっぱなしで、生徒達がいなくなった建物はいかにも寂しい佇まいだ。
夕刻にただ一人で訪れるには不気味な場所だが、綾子はふらふらと進んで行く。
綾子の身体にまとわりついているネズミ人間達はまるで喜んでいるようにぴょんぴょんと飛びはねている。
「どこまで行くんだろう」
桜子は少々不安になりながらも今更綾子を放っておけずに、間を置いて後を追った。
自転車を押しながら砂利道を綾子の歩調に合わせてそろそろと歩く。
霊能力を保持した土御門の生徒達は皇城学園内にはどんな怪異も侵入を許さない、というのが使命と考えているので、ささやかでも怪しいモノは調査するようにしているはずだ。
だが実際にはネズミ人間が何匹出ようが中等部では誰も気がついていない。
桜子は土御門の生徒には避けられているので、ネズミ人間を忠告しようにも彼らは話も聞こうとしない。
仕方なく桜子は自らの能力をおとりに一匹ずつせっせと退治しているのだった。
旧校舎の入り口は金網を張って立ち入り禁止になっており、本来ならばその入り口には南京錠で施錠されていたが、力尽くで錠をむしりとったような形で壊れていた。
桜子はその前で自転車を止めた。
ハンバーガーの袋を持って行くべきかどうか迷ったが、袋はそのままカゴの中に置いておいた。
そっと金網の入り口から中に入る。
荒れ果てているが中庭があり、今は水面に苔が一杯の噴水台がある。
その噴水台をぐるりと回った先に旧校舎の入り口が見えた。
明治時代まで政府経済に関与していた陰陽寮という機関が解散した後、土御門神道という独自の発達を遂げて出来たのが現在の煌城学園の前衛である。
その元になる建物がこの旧校舎であるが、校舎というよりも明治時代を彷彿とさせるようなモダンな洋館だった。
桜子は正面の木の大きな扉に手をかけて引っ張った。
ギイイイイときしんだ音とともに重いドアが開いた。
土御門家に歓迎されていない桜子は学園内でも遠巻きに見られている事が多く、友人と言えば中学部から入ってきた真理子くらいだった。
その真理子は自宅からのバス通学なので夕食を一緒にする事もなく、学園敷地の居住区で衣食住が賄える桜子はめったに学園の外にも出ない。
ハンバーガーショップでセットを買い、桜子はまた寮の方へ自転車を走らせた。
「あれ? 佐山先生」
通りの角を綾子が歩いて曲がって行くのを目にした桜子は自転車をそちらの方へ走らせた。郵便局や銀行のATM、宅配便などを出せる施設が一つになった建物の角だった。
その角を曲がれば今は使われていない古い校舎への道で、金網でぐるりと囲まれて鍵もついているはずだった。
綾子の肩には朝に見たネズミ人間が乗っているし、それだけではなく足下にも腰の辺りにもネズミ人間がまとわりついている。
桜子は息を一つついてから自転車で綾子を追ってその角を曲がった。
綾子は何かに引き寄せられるようにふらふらと歩いていく。
後をついていく桜子には顔は見えないが荷物もなく両手はぶらんとしたままだ。
時々つまづいてよろけたりしながらも綾子はどんどんと歩いて行く。
綺麗に舗装していたアスファルトが途切れて砂利道になり、だんだんと草むらに入り込んでいく。
この古い校舎にあった理科室などが新校舎に移動し、全く使われなくなって十年だが、道や庭などに草木が生い茂っている。手入れもされずに放りっぱなしで、生徒達がいなくなった建物はいかにも寂しい佇まいだ。
夕刻にただ一人で訪れるには不気味な場所だが、綾子はふらふらと進んで行く。
綾子の身体にまとわりついているネズミ人間達はまるで喜んでいるようにぴょんぴょんと飛びはねている。
「どこまで行くんだろう」
桜子は少々不安になりながらも今更綾子を放っておけずに、間を置いて後を追った。
自転車を押しながら砂利道を綾子の歩調に合わせてそろそろと歩く。
霊能力を保持した土御門の生徒達は皇城学園内にはどんな怪異も侵入を許さない、というのが使命と考えているので、ささやかでも怪しいモノは調査するようにしているはずだ。
だが実際にはネズミ人間が何匹出ようが中等部では誰も気がついていない。
桜子は土御門の生徒には避けられているので、ネズミ人間を忠告しようにも彼らは話も聞こうとしない。
仕方なく桜子は自らの能力をおとりに一匹ずつせっせと退治しているのだった。
旧校舎の入り口は金網を張って立ち入り禁止になっており、本来ならばその入り口には南京錠で施錠されていたが、力尽くで錠をむしりとったような形で壊れていた。
桜子はその前で自転車を止めた。
ハンバーガーの袋を持って行くべきかどうか迷ったが、袋はそのままカゴの中に置いておいた。
そっと金網の入り口から中に入る。
荒れ果てているが中庭があり、今は水面に苔が一杯の噴水台がある。
その噴水台をぐるりと回った先に旧校舎の入り口が見えた。
明治時代まで政府経済に関与していた陰陽寮という機関が解散した後、土御門神道という独自の発達を遂げて出来たのが現在の煌城学園の前衛である。
その元になる建物がこの旧校舎であるが、校舎というよりも明治時代を彷彿とさせるようなモダンな洋館だった。
桜子は正面の木の大きな扉に手をかけて引っ張った。
ギイイイイときしんだ音とともに重いドアが開いた。
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