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生い立ち
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皇城学園は巨大な敷地に建っており、学園以外の居住区ではスーパーやコンビニ、ハンバーガーショップ、カフェレストラン、衣料雑貨の店、郵便局や銀行、映画館、本屋、雑貨店、スポーツ施設などがあり一つの街になっていた。
その敷地内には学生寮もあり、中、高、大学部の生徒で希望者は寮に入れるようになっている。桜子には両親がおらず中等部入学より寮生活だった。
授業が終わり、学生寮の自分の部屋に戻って桜子はどさっと椅子に腰をかけた。
「あー、なんか疲れる一日だった」
部屋は一人部屋でベッドと勉強机に椅子、丸い座布団に小さな丸いテーブルが一つの簡素な部屋だった。
桜子にはすでに両親がおらず土御門家だけが係累だったが、父親が不義理をした為に桜子は微妙な存在だった。
父親は土御門本家血縁で陰陽師として働いていた。そして土御門では有力な陰陽師に限っては血統を守る為に全国に広がる一族の娘から結婚相手を選ばなければならなかった。
だが父親は霊能力を保持しながらも一族外の無力な女性と結婚したので破門のような形で外の世界へ出た。そして桜子が三歳の時に両親ともに事故で死んだのだった。
まだ幼い桜子を土御門本家は引き取り養育したが、能力が開花すると言われている五歳になっても桜子に霊的能力が発動されなかった。
そして桜子は戦力外と位置づけされてしまった。
土御門姓を持ちながらも一族に名前がないのはそういう理由があり、他の土御門姓の生徒には一段低く見られているのは事実だった。
桜子はその生活にももう慣れていた。
十二歳まで本家で暮らしていたが、霊能力ない者は使用人のような立場だからだ。
土御門では霊能力の保持とその能力を極限まで上げる事が一番の命題であり、最初から霊能力のない者は一段下に置かれる。
だから土御門から出ていくのが桜子の夢だった。
この学園を卒業して外へ出れば自由になれると思っていた。
だが皮肉にも本家を出された中等部進学を境に桜子の霊的能力は発動した。
その事は誰にも言っていない。本家の耳に入れば連れ戻されるかもしれないからだ。
能力を上げる為に土御門の能力者達が修行しているのであれば、何もしなければ能力は消えていくかもしれないと思い、しばらくはその能力を意識しまいとしていた。
だが桜子の能力に惹かれるモノが現れるようになった。
それはネズミ人間のような悪霊達だ。
普通ならばそれらは土御門の能力を恐れる。
厄介な呪文と印で簡単に消滅させられるからだ。
だが桜子の能力には何故か惹かれるように寄ってくる。
分厚い本で叩き潰せば消えるモノもいれば、一瞬は消えてもまたどこからか現れるモノもいる。
そのうちに手のひらから緑色の何かが現れるようになった。それは桜子の思考と同調しているようで、手のひらから切り離し遠くへふわふわと飛ばしたり出来るようになった。
悪霊達はその緑色の何かに格別引き寄せられる様子で、ふわふわと飛んで行くそれに群がるので叩き潰すのが簡単になった。
桜子には悪霊を退治するという意識はなく、ただ自分に寄ってくる災難を振り払っているだけだ。だが今日のように担任の佐山綾子に日に日に黒い靄が集まり、そしてネズミ人間がまとわりついているのを視るとつい追い払ってやってしまう。
悪霊を退治するなどという格好いいものではない。
ただ知っていて知らないふりをするのが出来ないだけだ。
知らないふりをした後の後悔に比べれば、少しぐらいの霊能力を使ったところで何でもない。クラスにも学年にも学園全体に何百人という陰陽師の卵達がいるが、彼らに気づかれなければそれでよかった。そして今のところは誰も桜子の能力を知らない。
だが今日転校してきた赤狼由良は桜子を呼び捨てにしたばかりか、その能力まで見抜いていた。
「何者なんだろう。赤狼君て。私の能力の事を知ってるみたいだったけど。それに総括の愛美さん達が束になってもかなわないなんて。土御門相手に揉めなきゃいいけど」
制服のまま机にうつぶしていた桜子は顔を上げた。
「あー、何か買い物に行かなくちゃ……晩ご飯、どうしよう」
時計を見ると四時半だった。
初夏の空はまだまだ明るい。
寮の部屋にはミニキッチンついているので自炊も出来るし、学生食堂は午後七時まで開いている。大学部まで行けば夜の十時まで食事が可能だった。
「何か買ってこよっと」
桜子は立ち上がり、財布を手に部屋を出た。
その敷地内には学生寮もあり、中、高、大学部の生徒で希望者は寮に入れるようになっている。桜子には両親がおらず中等部入学より寮生活だった。
授業が終わり、学生寮の自分の部屋に戻って桜子はどさっと椅子に腰をかけた。
「あー、なんか疲れる一日だった」
部屋は一人部屋でベッドと勉強机に椅子、丸い座布団に小さな丸いテーブルが一つの簡素な部屋だった。
桜子にはすでに両親がおらず土御門家だけが係累だったが、父親が不義理をした為に桜子は微妙な存在だった。
父親は土御門本家血縁で陰陽師として働いていた。そして土御門では有力な陰陽師に限っては血統を守る為に全国に広がる一族の娘から結婚相手を選ばなければならなかった。
だが父親は霊能力を保持しながらも一族外の無力な女性と結婚したので破門のような形で外の世界へ出た。そして桜子が三歳の時に両親ともに事故で死んだのだった。
まだ幼い桜子を土御門本家は引き取り養育したが、能力が開花すると言われている五歳になっても桜子に霊的能力が発動されなかった。
そして桜子は戦力外と位置づけされてしまった。
土御門姓を持ちながらも一族に名前がないのはそういう理由があり、他の土御門姓の生徒には一段低く見られているのは事実だった。
桜子はその生活にももう慣れていた。
十二歳まで本家で暮らしていたが、霊能力ない者は使用人のような立場だからだ。
土御門では霊能力の保持とその能力を極限まで上げる事が一番の命題であり、最初から霊能力のない者は一段下に置かれる。
だから土御門から出ていくのが桜子の夢だった。
この学園を卒業して外へ出れば自由になれると思っていた。
だが皮肉にも本家を出された中等部進学を境に桜子の霊的能力は発動した。
その事は誰にも言っていない。本家の耳に入れば連れ戻されるかもしれないからだ。
能力を上げる為に土御門の能力者達が修行しているのであれば、何もしなければ能力は消えていくかもしれないと思い、しばらくはその能力を意識しまいとしていた。
だが桜子の能力に惹かれるモノが現れるようになった。
それはネズミ人間のような悪霊達だ。
普通ならばそれらは土御門の能力を恐れる。
厄介な呪文と印で簡単に消滅させられるからだ。
だが桜子の能力には何故か惹かれるように寄ってくる。
分厚い本で叩き潰せば消えるモノもいれば、一瞬は消えてもまたどこからか現れるモノもいる。
そのうちに手のひらから緑色の何かが現れるようになった。それは桜子の思考と同調しているようで、手のひらから切り離し遠くへふわふわと飛ばしたり出来るようになった。
悪霊達はその緑色の何かに格別引き寄せられる様子で、ふわふわと飛んで行くそれに群がるので叩き潰すのが簡単になった。
桜子には悪霊を退治するという意識はなく、ただ自分に寄ってくる災難を振り払っているだけだ。だが今日のように担任の佐山綾子に日に日に黒い靄が集まり、そしてネズミ人間がまとわりついているのを視るとつい追い払ってやってしまう。
悪霊を退治するなどという格好いいものではない。
ただ知っていて知らないふりをするのが出来ないだけだ。
知らないふりをした後の後悔に比べれば、少しぐらいの霊能力を使ったところで何でもない。クラスにも学年にも学園全体に何百人という陰陽師の卵達がいるが、彼らに気づかれなければそれでよかった。そして今のところは誰も桜子の能力を知らない。
だが今日転校してきた赤狼由良は桜子を呼び捨てにしたばかりか、その能力まで見抜いていた。
「何者なんだろう。赤狼君て。私の能力の事を知ってるみたいだったけど。それに総括の愛美さん達が束になってもかなわないなんて。土御門相手に揉めなきゃいいけど」
制服のまま机にうつぶしていた桜子は顔を上げた。
「あー、何か買い物に行かなくちゃ……晩ご飯、どうしよう」
時計を見ると四時半だった。
初夏の空はまだまだ明るい。
寮の部屋にはミニキッチンついているので自炊も出来るし、学生食堂は午後七時まで開いている。大学部まで行けば夜の十時まで食事が可能だった。
「何か買ってこよっと」
桜子は立ち上がり、財布を手に部屋を出た。
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