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ランチタイム
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「こっちよ! 桜子!」
カフェの中で真理子が手を振っている。
四人がけのテーブルを陣取って、自分はすでに大盛りオムライスを半分ほど平らげていた。桜子は真理子の隣に座りランチ袋をテーブルの上に置いた。
「赤狼君、そこで食券を買って、カウンターで注文するのよ」
と真理子が教えると赤狼はポケットに手を突っ込んで券売機の方へ歩いて行った。
「ねえ、大丈夫だったの? 土御門愛美さんに厳しくやられたんじゃないの?」
と真理子が小声で桜子に聞いた。
「え、うん。まあ……」
と桜子は言葉を濁した。先ほどの事を説明しても真理子には何のことだか分からないだろうからだ。真理子のような一般人には土御門の霊能力は理解しがたい話だ。
一般の生徒は土御門家が千年も続く由緒ある家柄で有名な政治家を数多く排出し、皇城学園にも多大な寄付をし発言権を持つ、という理由しか知らなかった。
皆が恐れ入るから自分も土御門には逆らわない、というのが学園の風習だった。
真理子にしてみれば何故愛美や潔が支配的なのかを知るよしもなかったし、桜子が霊能力を持っているのも知らなかった。ただ土御門一族には逆らわないというのが皇城学園の常識だった。
「大丈夫よ。赤狼君はよそから来ただけだもん。土御門には何の関係もなさそうよ」
と桜子が言った。
「桜子も大変よね~同じ名字なだけで、なんやかんや絡まれてない?」
「まあね」
ふふっと桜子が笑った。
「ふふん、ちょっと優越感よね」
と真理子が笑った。
「え?」
「だってほら周りを見なさいよ。もうイケメン転校生の話題でもちきりよ。あたし達、早速ランチを一緒に出来てラッキーだったね」
と真理子が言ったので、桜子は周囲を見渡した。
確かにカフェでランチタイムをしている女生徒がこちらを見てひそひそ話ている。
そこへ紙コップを一つだけ持った赤狼が二人のテーブルへと戻ってきた。
「赤狼君、コーヒーだけなの? お腹すいちゃうわよ」
と真理子が言った。
「あんまり食べなくても平気な体質だから」
と赤狼が答えた。
「へえ、あ、佐山先生」
残りのオムライスを食べながら真理子が言った。
真理子の視線の先にカフェへ入ってきたばかりの綾子がいた。
うつむいて憂鬱そうな青白い顔だった。券売機で食券を買い、カウンターに並んだ。
「あれ」
と桜子が言った。
「何?」
「ううん、何でも」
と言って桜子は自分のお弁当を食べ始めた。
先ほど退治したはずのネズミ人間がまた綾子の肩に乗っかっていたからだ。
「佐山先生って、最近、暗いよねー。やっぱり本当なのかな。あの噂」
と真理子が言った。
「あの噂って?」
「知らないの?」
と言って真理子は口の中に残っていたオムライスの残りをごくんと飲み込んでから、声をひそめた。
「佐山先生ってさ、この春にこの学園に赴任してきたじゃない? その前にいた学校で何か問題を起こして逃げてきたらしいって噂が流れてるのよ」
「問題?」
「本当かどうかは分からないけどさ、中等部の一年の子が別の学校の友達からそんな話を仕入れてきて、それが広がってさ。父兄の耳にも入っててさ」
「へえ」
「ほら、うちみたいな私立は親がうるさいじゃない? 一部の父兄が騒ぎ立ててるとか。出所だってはっきりしない噂だし、今は調査中みたいな感じらしいけど。でもあの先生、暗いしいつもおどおどしてるじゃない? だから本当に何かあったんじゃないかってみんな言ってるわ」
真理子の話を聞きながら桜子は綾子を見た。
確かにおどおどとした態度は何かに怯えているように見える。
「佐山先生っていくつ?」
と赤狼がコーヒーを飲みながら真理子に聞いた。
「二十五くらいじゃないかなぁ」
「前の学校ってどこだったの?」
と桜子が聞くと真理子は眉をひそめて
「市立みなと学園よ。悪名高い」
と言った。
「悪名?」
「そう、みんながみんなってわけじゃないけど、悪い子が多いのは確かね。そこで何かあったっていうならいじめられたんじゃないかな。それでオドオドしてるんじゃない?」
「悲しみ、というよりも恐怖、怒りの気の方がでかいな」
と赤狼が言った。
「恐怖?」
と桜子が言うのと、真理子が身体を乗り出して、
「赤狼君、そういうの分かるんだぁ? 土御門の人みたいね。あの人達、いつも何かさ、そういうオカルト的な話してるのよね。あなた達、視えないで幸せよねぇ、とかちょっと上から目線で言ってくるんだけど」
と言い、それを聞いた桜子が笑った。
カフェの中で真理子が手を振っている。
四人がけのテーブルを陣取って、自分はすでに大盛りオムライスを半分ほど平らげていた。桜子は真理子の隣に座りランチ袋をテーブルの上に置いた。
「赤狼君、そこで食券を買って、カウンターで注文するのよ」
と真理子が教えると赤狼はポケットに手を突っ込んで券売機の方へ歩いて行った。
「ねえ、大丈夫だったの? 土御門愛美さんに厳しくやられたんじゃないの?」
と真理子が小声で桜子に聞いた。
「え、うん。まあ……」
と桜子は言葉を濁した。先ほどの事を説明しても真理子には何のことだか分からないだろうからだ。真理子のような一般人には土御門の霊能力は理解しがたい話だ。
一般の生徒は土御門家が千年も続く由緒ある家柄で有名な政治家を数多く排出し、皇城学園にも多大な寄付をし発言権を持つ、という理由しか知らなかった。
皆が恐れ入るから自分も土御門には逆らわない、というのが学園の風習だった。
真理子にしてみれば何故愛美や潔が支配的なのかを知るよしもなかったし、桜子が霊能力を持っているのも知らなかった。ただ土御門一族には逆らわないというのが皇城学園の常識だった。
「大丈夫よ。赤狼君はよそから来ただけだもん。土御門には何の関係もなさそうよ」
と桜子が言った。
「桜子も大変よね~同じ名字なだけで、なんやかんや絡まれてない?」
「まあね」
ふふっと桜子が笑った。
「ふふん、ちょっと優越感よね」
と真理子が笑った。
「え?」
「だってほら周りを見なさいよ。もうイケメン転校生の話題でもちきりよ。あたし達、早速ランチを一緒に出来てラッキーだったね」
と真理子が言ったので、桜子は周囲を見渡した。
確かにカフェでランチタイムをしている女生徒がこちらを見てひそひそ話ている。
そこへ紙コップを一つだけ持った赤狼が二人のテーブルへと戻ってきた。
「赤狼君、コーヒーだけなの? お腹すいちゃうわよ」
と真理子が言った。
「あんまり食べなくても平気な体質だから」
と赤狼が答えた。
「へえ、あ、佐山先生」
残りのオムライスを食べながら真理子が言った。
真理子の視線の先にカフェへ入ってきたばかりの綾子がいた。
うつむいて憂鬱そうな青白い顔だった。券売機で食券を買い、カウンターに並んだ。
「あれ」
と桜子が言った。
「何?」
「ううん、何でも」
と言って桜子は自分のお弁当を食べ始めた。
先ほど退治したはずのネズミ人間がまた綾子の肩に乗っかっていたからだ。
「佐山先生って、最近、暗いよねー。やっぱり本当なのかな。あの噂」
と真理子が言った。
「あの噂って?」
「知らないの?」
と言って真理子は口の中に残っていたオムライスの残りをごくんと飲み込んでから、声をひそめた。
「佐山先生ってさ、この春にこの学園に赴任してきたじゃない? その前にいた学校で何か問題を起こして逃げてきたらしいって噂が流れてるのよ」
「問題?」
「本当かどうかは分からないけどさ、中等部の一年の子が別の学校の友達からそんな話を仕入れてきて、それが広がってさ。父兄の耳にも入っててさ」
「へえ」
「ほら、うちみたいな私立は親がうるさいじゃない? 一部の父兄が騒ぎ立ててるとか。出所だってはっきりしない噂だし、今は調査中みたいな感じらしいけど。でもあの先生、暗いしいつもおどおどしてるじゃない? だから本当に何かあったんじゃないかってみんな言ってるわ」
真理子の話を聞きながら桜子は綾子を見た。
確かにおどおどとした態度は何かに怯えているように見える。
「佐山先生っていくつ?」
と赤狼がコーヒーを飲みながら真理子に聞いた。
「二十五くらいじゃないかなぁ」
「前の学校ってどこだったの?」
と桜子が聞くと真理子は眉をひそめて
「市立みなと学園よ。悪名高い」
と言った。
「悪名?」
「そう、みんながみんなってわけじゃないけど、悪い子が多いのは確かね。そこで何かあったっていうならいじめられたんじゃないかな。それでオドオドしてるんじゃない?」
「悲しみ、というよりも恐怖、怒りの気の方がでかいな」
と赤狼が言った。
「恐怖?」
と桜子が言うのと、真理子が身体を乗り出して、
「赤狼君、そういうの分かるんだぁ? 土御門の人みたいね。あの人達、いつも何かさ、そういうオカルト的な話してるのよね。あなた達、視えないで幸せよねぇ、とかちょっと上から目線で言ってくるんだけど」
と言い、それを聞いた桜子が笑った。
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