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皇城学園中学部総括
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やがて授業に集中している桜子の耳に「邪魔しやがって」と呟く声が聞こえてきた。
どこから聞こえてきたのか誰の声か皆目検討もつかない。低いような遠いような、人のようなそうでない何者かのような声だった。
桜子はそっと周囲を見渡した。クラスメイトは真面目にノートを取りながら先生の授業を聞いている。三年生になってまだ一ヶ月しかたっておらず、担任になった綾子は大人しい女性だった。
生徒に対しても怒るというのを見た事がなく、むしろ気弱なその性質が気位の高いこの学園の生徒に馬鹿にされている様子も見受けられる。
「どちらかというと、先生の方が心に鬱積した物を抱えてそうなんだけど」
と桜子は呟いた。
「桜子! あたし今日お弁当じゃないんだぁ。ララ・カフェかダイニング和合に行かない? 赤狼君も案内したげようよ」
真理子がそう声をかけてきたので、桜子の思考は中断された。
顔を上げると真理子が赤狼の腕をつかんで立っていた。。
いつの間にか授業は終わり、昼休みの時間だった。
桜子は視線を真理子の背後に移した。クラスの女子がひそひそと話しながらこちらを見ている。廊下側の窓から他クラスの生徒も覗いている。
イケメン転校生の噂は瞬く間に広がり、声をかけるチャンスを伺っているようだが、押しの強い真理子の隙をつけなかったようだ。
「いいよ」
桜子は自分の机の横に下げておいたランチ袋を取り上げた。
「カフェにする? ダイニングにする?」
と歩きながら真理子が言ったので、赤狼は首をかしげた。
「カフェとダイニングって、食堂が二つもあるんだ?」
「そうよ、カフェは軽食系のランチとかスイーツとか。ダイニングはがっつり系の定食からコース料理まであるのよ」
と真理子が答えた。
「へえ、さすが皇城学園だな」
校舎から出て四季折々の花が咲き誇る美しい中庭を通る。
中庭だけでも広く、四阿や噴水、ベンチまであり、ランチボックスを広げる生徒達の姿も見える。
「まあね、幼稚舎、小学部で二つ、中、高等部で二つ、大学部で二つの六つの食堂があるもんね。中学部のカフェのおすすめはとろとろ卵のオムライスで、ダイニングの日替わり定食は和洋中と三種類あってボリュームも」
真理子が自慢そうに食堂のメニューを話すのをクスクスという笑い声が遮った。
「本当にいつも食べる物の話ばかりしてるのね、藤村さん」
「え、あ」
真理子の顔がみるみる赤くなってうつむいた。
先頭に腕組みをした女子生徒がいて、そのぐるりを男女取り混ぜた生徒達が従うように立っていた。
「だからそんなに太ってるのよ」
「太ってるから食べ物の話しかしないんじゃないの?」
女子生徒に従うように何人かが真理子の悪口を言い、それに皆が一斉に笑った。
「お昼休みにこれから何を食べるか話をするのがそんなにおかしい?」
と桜子が言った。
先頭に立っていた土御門愛美は勝ち気そうな顔でふんっと桜子を見下ろした。
「べつにあなた方の話には興味ないわ。用があるのはそちらの転校生よ」
と愛美が言った。
土御門愛美は中等部三年一組のクラス委員であり、皇城学園中等部を統べる者でもある。
彼女に付き従う者も土御門の一員かその恩恵に預かりたい者達で構成されている。
同じクラスの潔も愛美の一歩下がった右横に立っていた。
土御門本家は皇城学園に多額の寄付をしており、土御門の姓を持つ者は文武において優秀でなければならず、一般の生徒を率いていくように心がけるのが家訓ともなっていた。 それ故、責任感が強く家訓を守る土御門もいれば、権力に酔いしれる土御門の者もいるのが現状だった。
どこから聞こえてきたのか誰の声か皆目検討もつかない。低いような遠いような、人のようなそうでない何者かのような声だった。
桜子はそっと周囲を見渡した。クラスメイトは真面目にノートを取りながら先生の授業を聞いている。三年生になってまだ一ヶ月しかたっておらず、担任になった綾子は大人しい女性だった。
生徒に対しても怒るというのを見た事がなく、むしろ気弱なその性質が気位の高いこの学園の生徒に馬鹿にされている様子も見受けられる。
「どちらかというと、先生の方が心に鬱積した物を抱えてそうなんだけど」
と桜子は呟いた。
「桜子! あたし今日お弁当じゃないんだぁ。ララ・カフェかダイニング和合に行かない? 赤狼君も案内したげようよ」
真理子がそう声をかけてきたので、桜子の思考は中断された。
顔を上げると真理子が赤狼の腕をつかんで立っていた。。
いつの間にか授業は終わり、昼休みの時間だった。
桜子は視線を真理子の背後に移した。クラスの女子がひそひそと話しながらこちらを見ている。廊下側の窓から他クラスの生徒も覗いている。
イケメン転校生の噂は瞬く間に広がり、声をかけるチャンスを伺っているようだが、押しの強い真理子の隙をつけなかったようだ。
「いいよ」
桜子は自分の机の横に下げておいたランチ袋を取り上げた。
「カフェにする? ダイニングにする?」
と歩きながら真理子が言ったので、赤狼は首をかしげた。
「カフェとダイニングって、食堂が二つもあるんだ?」
「そうよ、カフェは軽食系のランチとかスイーツとか。ダイニングはがっつり系の定食からコース料理まであるのよ」
と真理子が答えた。
「へえ、さすが皇城学園だな」
校舎から出て四季折々の花が咲き誇る美しい中庭を通る。
中庭だけでも広く、四阿や噴水、ベンチまであり、ランチボックスを広げる生徒達の姿も見える。
「まあね、幼稚舎、小学部で二つ、中、高等部で二つ、大学部で二つの六つの食堂があるもんね。中学部のカフェのおすすめはとろとろ卵のオムライスで、ダイニングの日替わり定食は和洋中と三種類あってボリュームも」
真理子が自慢そうに食堂のメニューを話すのをクスクスという笑い声が遮った。
「本当にいつも食べる物の話ばかりしてるのね、藤村さん」
「え、あ」
真理子の顔がみるみる赤くなってうつむいた。
先頭に腕組みをした女子生徒がいて、そのぐるりを男女取り混ぜた生徒達が従うように立っていた。
「だからそんなに太ってるのよ」
「太ってるから食べ物の話しかしないんじゃないの?」
女子生徒に従うように何人かが真理子の悪口を言い、それに皆が一斉に笑った。
「お昼休みにこれから何を食べるか話をするのがそんなにおかしい?」
と桜子が言った。
先頭に立っていた土御門愛美は勝ち気そうな顔でふんっと桜子を見下ろした。
「べつにあなた方の話には興味ないわ。用があるのはそちらの転校生よ」
と愛美が言った。
土御門愛美は中等部三年一組のクラス委員であり、皇城学園中等部を統べる者でもある。
彼女に付き従う者も土御門の一員かその恩恵に預かりたい者達で構成されている。
同じクラスの潔も愛美の一歩下がった右横に立っていた。
土御門本家は皇城学園に多額の寄付をしており、土御門の姓を持つ者は文武において優秀でなければならず、一般の生徒を率いていくように心がけるのが家訓ともなっていた。 それ故、責任感が強く家訓を守る土御門もいれば、権力に酔いしれる土御門の者もいるのが現状だった。
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