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小児性愛に効く薬毒4
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「助け……て!」
はっと目が覚めた。
顔面の痛さはそのままだ。
布団の中で汗をかいてパジャマはびしょ濡れだった。
重い綿の布団を身体からのけて、美優は周囲を見渡した。
いつもの自分の部屋だ。
いつの間にか隣の布団からは継父が消えて、妹が美優に背中を向けて寝ている。
「夢……」
夢だったんだ。
だがそれがただの夢ではない事を美優は身体で感じて、汗をかいている肌が一瞬にして冷めた。
鳥肌が立つ。
美優は同級生に貰った夢見の薬毒を夕べ飲んだのだ。
怪しげな薬だとは思ったが、もう死んでもよかった。
そして知ったのは遠くない未来。
あれは間違いなく美優と妹の数年後の姿だろう。
「ど、どうしよう……」
美優は起き上がった。
どうしていいかは分からないが、静かにパジャマから服に着替える。
泣き疲れて眠っている妹も、酒を飲んで寝ている継父も、妹と夫の情事を見て見ぬ振りをする為に睡眠薬を常用している母親もよほどの事がなければ起きる事がない。
深夜だが美優はそっと家を出た。
何故だか同級生の家は知っていた。
足が動く方へ進むだけだ。
時折、にゃーおと猫の鳴く声がして、それがだんだんと近づいてくる。
その角を曲がった場所に薬毒店があった。
がんがんがんと格子ガラスの戸を叩いていると、室内に明かりが灯り、
「何だい、こんな真夜中にうるさいねえ」
と声がした。
がらがらと戸が開き、ショールをまとった老婆が立っていた。
その肩に黒猫がのっかっている。
「あ、あの……ハナちゃんは……」
と美優が言った。
「何時だと思ってんだい? 中学生は寝てる時間さね」
「あ、す、すみません……」
美優はおどおどと下を向いた。
「まあ、いいさ。お入りな」
と老婆が背中を向けて店の中に入ったので、美優も恐る恐る後に続いた。
「で? ハナに何の用事だい?」
店先の椅子を勧められ、美優はそこに腰をかけた。
老婆はカウンター内の椅子に腰を下ろし、その膝の上にすかさず黒猫が座り込む。
「あの……ハナちゃんに薬をもらって……私と妹の将来の姿が見えるって……」
「飲んだのかい?」
「はい……」
「で、どうだった?」
「怖い……夢を見ました」
「そうかい、可哀想に。それはきっと実現するだろうよ」
老婆の声が酷く冷たく響いた。
「とても恐ろしくて……妹も私も……あんな未来……」
「見なきゃよかったかい?」
と老婆が言って少しだけ笑った。
「え……」
美優は戸惑ったような顔で老婆と黒猫を見た。
「知らなきゃよかったかい?」
「……」
「ハナはあんたの為に薬毒を持ち出したんだろうがね。まあ、あんたが見なきゃ良かった知りたく無かったというなら、うちの店の落ち度さ」
老婆はそう言って、美優の前に二つの薬包を差し出した。
白い包みと茶色い包みがあった、
「何も知りたくなかったんなら帰って白い包みを飲みな。そして眠るんだ。明日の朝には全部忘れてる」
「忘れる……」
「そうさ、全て忘れる」
「で、でも、あれはあの未来は……」
老婆はあははははと陽気に笑った。
「もちろん、確実に近づいてくるさ。あんたの知らない間にね」
「そんな……」
泣き顔の美優に、老婆は今度は優しい声で、
「それが嫌なら、茶色い包みを妹に飲ませな」
と言った。
「え、杏里に?」
「そうさ、あんたはもう一包み薬毒を飲んでる。今度は妹さ。未来を変えたいのなら、二人でさ。まあ、どんな未来になるかどうかは知らないがね」
美優は老婆の顔をぽかんと見上げたままだった。
思考はまとまらず、どうしていいのか分からない。
だが夢にみたあのおぞましい未来だけは絶対に嫌だ。
恐る恐る美優の手が茶色い包みを取った。
その美優の手を押さえた者がいた。
柔らかく丸い小さな前足がちょこんと美優の手を押さえた。
「言っとくけど、うちの薬毒は高いぜ」
「え」
老婆の膝の上から黒いしなやかな身体を起こして、黒猫が美優にそう言った。
「何だい、その顔。まさかただで何とかしてもらおうなんて思っちゃいねえよな」
美優の顔がぽかんとしたのは猫がしゃべった事についてであるがすぐに、
「あの、えと、今はお金を持ってなくて……」
と泣きそうな声で言った。
「家に戻ってもないものはないだろう? ましてや中学生じゃあなぁ、金を稼ぐ手段もないしな」
と黒猫ドゥが素っ気なく言った。
「まあ、金なんていいじゃないかドゥ。ハナもそんなつもりで薬毒を渡したんじゃないだろうさ」
ドゥはちっと舌打ちをして美優の手から前足を離した。
「ハヤテさんが戻ったら怒られるぜ。慈善事業じゃないってさ」
「ふん」
と老婆は鼻で笑った。
「もちろん慈善事業なんかじゃない、ただの暇つぶしさ。さあ、持っておいき。ただし、飲ませるのは二週間以内だよ? それを守れなきゃ効果は出ない」
「は、はい。あの、ありがとうございます」
おずおずと美優はその薬包を握りしめた。
「この薬毒を使ったからって、あんたと妹の未来が全て良い方にいくとは限らない。ただ当面の危機を回避するだけのもんさ。この先の未来はまあ、二人でがんばんな」
老婆がそう言い優しく笑ったので、美優はぽろぽろと涙をこぼしながら大事そうに薬包を握りしめて帰って行った。
「あーあ、いいのか? 娘に渡したのは「腐りの薬毒」だろう?」
ドゥが大欠伸をしながら、身体を前後に伸ばして言った。
「かまやしないだろう? ははは、何日であのママチチが腐って死ぬか面白そうじゃないか」
はっと目が覚めた。
顔面の痛さはそのままだ。
布団の中で汗をかいてパジャマはびしょ濡れだった。
重い綿の布団を身体からのけて、美優は周囲を見渡した。
いつもの自分の部屋だ。
いつの間にか隣の布団からは継父が消えて、妹が美優に背中を向けて寝ている。
「夢……」
夢だったんだ。
だがそれがただの夢ではない事を美優は身体で感じて、汗をかいている肌が一瞬にして冷めた。
鳥肌が立つ。
美優は同級生に貰った夢見の薬毒を夕べ飲んだのだ。
怪しげな薬だとは思ったが、もう死んでもよかった。
そして知ったのは遠くない未来。
あれは間違いなく美優と妹の数年後の姿だろう。
「ど、どうしよう……」
美優は起き上がった。
どうしていいかは分からないが、静かにパジャマから服に着替える。
泣き疲れて眠っている妹も、酒を飲んで寝ている継父も、妹と夫の情事を見て見ぬ振りをする為に睡眠薬を常用している母親もよほどの事がなければ起きる事がない。
深夜だが美優はそっと家を出た。
何故だか同級生の家は知っていた。
足が動く方へ進むだけだ。
時折、にゃーおと猫の鳴く声がして、それがだんだんと近づいてくる。
その角を曲がった場所に薬毒店があった。
がんがんがんと格子ガラスの戸を叩いていると、室内に明かりが灯り、
「何だい、こんな真夜中にうるさいねえ」
と声がした。
がらがらと戸が開き、ショールをまとった老婆が立っていた。
その肩に黒猫がのっかっている。
「あ、あの……ハナちゃんは……」
と美優が言った。
「何時だと思ってんだい? 中学生は寝てる時間さね」
「あ、す、すみません……」
美優はおどおどと下を向いた。
「まあ、いいさ。お入りな」
と老婆が背中を向けて店の中に入ったので、美優も恐る恐る後に続いた。
「で? ハナに何の用事だい?」
店先の椅子を勧められ、美優はそこに腰をかけた。
老婆はカウンター内の椅子に腰を下ろし、その膝の上にすかさず黒猫が座り込む。
「あの……ハナちゃんに薬をもらって……私と妹の将来の姿が見えるって……」
「飲んだのかい?」
「はい……」
「で、どうだった?」
「怖い……夢を見ました」
「そうかい、可哀想に。それはきっと実現するだろうよ」
老婆の声が酷く冷たく響いた。
「とても恐ろしくて……妹も私も……あんな未来……」
「見なきゃよかったかい?」
と老婆が言って少しだけ笑った。
「え……」
美優は戸惑ったような顔で老婆と黒猫を見た。
「知らなきゃよかったかい?」
「……」
「ハナはあんたの為に薬毒を持ち出したんだろうがね。まあ、あんたが見なきゃ良かった知りたく無かったというなら、うちの店の落ち度さ」
老婆はそう言って、美優の前に二つの薬包を差し出した。
白い包みと茶色い包みがあった、
「何も知りたくなかったんなら帰って白い包みを飲みな。そして眠るんだ。明日の朝には全部忘れてる」
「忘れる……」
「そうさ、全て忘れる」
「で、でも、あれはあの未来は……」
老婆はあははははと陽気に笑った。
「もちろん、確実に近づいてくるさ。あんたの知らない間にね」
「そんな……」
泣き顔の美優に、老婆は今度は優しい声で、
「それが嫌なら、茶色い包みを妹に飲ませな」
と言った。
「え、杏里に?」
「そうさ、あんたはもう一包み薬毒を飲んでる。今度は妹さ。未来を変えたいのなら、二人でさ。まあ、どんな未来になるかどうかは知らないがね」
美優は老婆の顔をぽかんと見上げたままだった。
思考はまとまらず、どうしていいのか分からない。
だが夢にみたあのおぞましい未来だけは絶対に嫌だ。
恐る恐る美優の手が茶色い包みを取った。
その美優の手を押さえた者がいた。
柔らかく丸い小さな前足がちょこんと美優の手を押さえた。
「言っとくけど、うちの薬毒は高いぜ」
「え」
老婆の膝の上から黒いしなやかな身体を起こして、黒猫が美優にそう言った。
「何だい、その顔。まさかただで何とかしてもらおうなんて思っちゃいねえよな」
美優の顔がぽかんとしたのは猫がしゃべった事についてであるがすぐに、
「あの、えと、今はお金を持ってなくて……」
と泣きそうな声で言った。
「家に戻ってもないものはないだろう? ましてや中学生じゃあなぁ、金を稼ぐ手段もないしな」
と黒猫ドゥが素っ気なく言った。
「まあ、金なんていいじゃないかドゥ。ハナもそんなつもりで薬毒を渡したんじゃないだろうさ」
ドゥはちっと舌打ちをして美優の手から前足を離した。
「ハヤテさんが戻ったら怒られるぜ。慈善事業じゃないってさ」
「ふん」
と老婆は鼻で笑った。
「もちろん慈善事業なんかじゃない、ただの暇つぶしさ。さあ、持っておいき。ただし、飲ませるのは二週間以内だよ? それを守れなきゃ効果は出ない」
「は、はい。あの、ありがとうございます」
おずおずと美優はその薬包を握りしめた。
「この薬毒を使ったからって、あんたと妹の未来が全て良い方にいくとは限らない。ただ当面の危機を回避するだけのもんさ。この先の未来はまあ、二人でがんばんな」
老婆がそう言い優しく笑ったので、美優はぽろぽろと涙をこぼしながら大事そうに薬包を握りしめて帰って行った。
「あーあ、いいのか? 娘に渡したのは「腐りの薬毒」だろう?」
ドゥが大欠伸をしながら、身体を前後に伸ばして言った。
「かまやしないだろう? ははは、何日であのママチチが腐って死ぬか面白そうじゃないか」
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