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「ガチャ」
 会議室へ入ったのは手を繋ぎ仲睦まじそうな男女。
 男は達雄で女はふわふわした感じの可愛い派遣社員だった。
「課長、たまにはホテルでも行きましょうよぉ」
 女が言い、達雄はチッと舌打ちをした後でにっこり笑った。
「外をうろついて誰かに見られたら君、破滅だよ? 専務の息子とうまくいってんだろ? そもそも刺激がたまらないって言って、会社で会う事にしたんだろ?」
 達雄はそう言って上着を脱いだ。
「まあ、そうですけどぉ、先週、プロポーズされて、ご家族に挨拶に行ったんです。式は来年の春くらいでぇ、だから今日で最後にしてもらっていいですか?」
 と女が言った。
「え? そうなんだ。やったじゃん。でも終わりになんてしなくていいだろ? これからもうまくやればさ」
 達雄は女を抱きしめて、キスをした。
 手が女の身体を這い回り、尻を撫でる。
 女は頬を上気させて、潤んだ目で達雄を見た。
「いいんですか? お家、火事になってお子さん亡くしたんでしょ? それなのに仕事だなんて遊んでて」
 達雄の手で衣服をはぎ取られ、その動作に悶えながら女が言った。
「いいんだよ。あいつショックで実家に帰ってるんだ。なんか離婚するとか言ってるけど貧乏な兄がいるだけで、身よりもないし、この年で俺に捨てられたらのたれ死に。そのうち頭が冷えて現実が見えてきたら帰ってくるだろ」
「酷い、奥様にそんな言い方ぁ」

 すでに女はスーツの上着もスカートも脱ぎ捨て、白いブラウスの前をはだけて白い乳房がはみ出ている。ガーターベルトで留めたストッキングの足が艶めかしい。
「真面目で面白くもない女だ。妻、母親としてはまあまあだが、女としてはないな。触る気にもならないよ。この先、醜くなるばかりの女」
「でも、離婚する気はないんでしょう?」
「ああ、ないね。既婚だから自由に遊べるのさ。社会的地位もある」
「悪い人ねぇ」
「そうかな? さあ、妻の話はもういいよ」
 クスクスと女の笑い声がした。

「吉岡さん、もういいですか? 証拠は十分だと思いますけど」
 吉岡専務とその息子は怒りで顔が真っ赤であり、手も震えている。
 秋山さんの協力を得て、会議室のパソコンのウエブカメラで全てが暴露された。
「確かに……」
 吉岡専務の声は震えていた。
 そして私達は会議室へと乗り込んだ。
 
 ドアを開けた瞬間、繋がっていた彼らは慌てふためき机から床に落ちた。
「何だ!」
 と言った達雄は専務の顔を見て、それから私を見た。
 顔色はすぐに真っ白になり、隣にいる女を突き飛ばして立ち上がった。
「せ、専務……美咲、どうしてここへ……」

「休日出勤のはずなのに仕事なんかしていないみたいね。会社に損害をかけるのは申し訳ないから様子を見に来たのよ」
「ち、違うんだ、これは……」
 達雄は衣服の乱れを直しながら、
「これは……勘違いです。私は仕事をしていました」
 と言ったが、専務は達雄と女を見て、
「君達には呆れ果てた。啓太、お前はどうする? こんな女とまさか結婚するまいな? 婚約しておきながらの不貞、訴えてもいいくらいだ」
 と言った。
「違うんですぅ。私、休日出勤を命じられて、仕事に来たらいきなり襲われたんですぅ」
 と女が言いながら専務の息子の腕にしなだれかかった。
 専務の息子の啓太氏はもの凄く嫌そうな顔でそれを振り払い、
「もちろん、婚約は破棄です。汚らしい!」
 と言った。
「そんな! 酷いわ! 私は被害者なのにぃ。課長が私を無理矢理ぃ」
 女はしくしくと涙を流した。
「よくもそんな事を!」
 達雄は顔面蒼白になっている。
「仕事だと嘘をついて出勤して会議室で淫らな行為。それも専務の息子さんの婚約者となんて、考えられない事をしでかすのね。クビになるかもしれないわね。私はあなたと離婚しますからどうでもいいですけど。もちろんそちらのお嬢さんにも慰謝料を請求させていただきますからね」
 と私は言った。
「え? 美咲! 何故だ!」
「頭おかしいの? 何故だって聞く? こちらが何故だって聞きたいわ。そんなに若い女と遊びたいなら離婚してやるから遊べばいいじゃない。娘を亡くした悲しみもあんたにはないんでしょ? 若い女を抱けたらそれで幸せなんでしょ? じゃあ、そうすればいいわ。一生若い女を追いかけて快楽を楽しみなさいよ。言っておくけど、慰謝料と共有財産の半分はきっちりいただきますから。家を立て直すお金が残ればいいわね」
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