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「兄さん」
待ち合わせ場所は実家で、兄はすでに引っ越しを終えているので実家はがらんとした様子だった。
「ここの名義はお前にしてあるから、何かあったら使えよ。売ってもいいし」
「そんな! 私の物にしていいの?」
「いいさ、事業が立ちゆくまでずっとここに住んで俺が使わせてもらったんだ。これからはお前が使え。リフォームもしてあるから」
実家のマンションは綺麗にリフォームされていた。
風呂場やキッチンの水回りも、シンクや換気扇も交換され、全てが新品だった。
「ありがとう、兄さん、香織さんも」
兄嫁の香織さんはにっこり笑った。
とても美しい人で頭もいいし、さらに優しい人だ。
「あなた、今、幸せなの? お宅の姑さんずいぶんキツい人でしょ?」
「え、ええ」
「健司さんにも何度も電話してきて、しつけがどうの、これだから親のない子はってずいぶん言われたわよ」
「ご、ごめんなさい」
「いいえ、あなたを責めてるんじゃないの。もし、あなたが我慢して婚家にいるんだったら、いくらでも力になるって言いたいだけなの。分かるでしょ?」
香織さんは弁護士でばりキャリな人だ。
「ありがとうございます」
「まあ、姑なんてどうせ先にいなくなるんだから、あなたが大丈夫ならそれでいいのよ」
「うん」
「それにしても、お宅の姑さん、親がいないってだけで兄である健司さんをずいぶんと下に見てるけど、健司さんが会社を経営してるって知らないの? 私達を貧乏夫婦みたいに言ってたけど。一番最近の電話では金に困っても頼ってくるなって言われたわよ」
「え、そんな事を? 香織さんは弁護士だし、兄さんだって会社をやってるんだから、そんなのあり得ないのに。1度話したと思うんだけど、忘れてるのかしら……本当にごめんんなさい」
「いいのよ。面白いから、七人目の子供が生まれそうなんですって言ったら、ガチャ切りされたんだけど」
と香織さんが笑った。
「香織が電話の度にそうやって引っかき回すから向こうも誤解してしまったんだよ」
と兄が苦笑しながら言った。
マンションのカギだけもらい、権利書は兄に管理してもらう事にして私は家に戻った。
久しぶりに夕食でもと誘われたが愛衣を置いてきているし、土産を買って帰る約束もしたので、また今度と言って別れた。
最寄りのデパートでお総菜とプリンを買い、家に急ぐ。
けれど民衆に囲まれた家は燃えていた。
消防車が水を放出していたが火は燃えさかっていた。
「え、嘘! 愛衣!」
慌てて家に駆けよるが、止められた。
「危ないなら近寄らないで!」
「娘が! 愛衣、愛衣! 無事なの?」
家事を取り囲む近所の人間はたくさんいたが、夫も愛衣の姿もなかった。
「達雄さん! 愛衣! どこにいるの? 誰か娘を知りませんか!?」
そこへ、
「美咲!」
と声がして、振り返ると夫がいた。ジャケット姿なのは外出していたに違いない。
それなら愛衣も一緒のはずだ。
「あなた、良かった。無事なのね。愛衣は? 愛衣も一緒でしょ?」
「それが……よく寝ていたから……」
「え?」
待ち合わせ場所は実家で、兄はすでに引っ越しを終えているので実家はがらんとした様子だった。
「ここの名義はお前にしてあるから、何かあったら使えよ。売ってもいいし」
「そんな! 私の物にしていいの?」
「いいさ、事業が立ちゆくまでずっとここに住んで俺が使わせてもらったんだ。これからはお前が使え。リフォームもしてあるから」
実家のマンションは綺麗にリフォームされていた。
風呂場やキッチンの水回りも、シンクや換気扇も交換され、全てが新品だった。
「ありがとう、兄さん、香織さんも」
兄嫁の香織さんはにっこり笑った。
とても美しい人で頭もいいし、さらに優しい人だ。
「あなた、今、幸せなの? お宅の姑さんずいぶんキツい人でしょ?」
「え、ええ」
「健司さんにも何度も電話してきて、しつけがどうの、これだから親のない子はってずいぶん言われたわよ」
「ご、ごめんなさい」
「いいえ、あなたを責めてるんじゃないの。もし、あなたが我慢して婚家にいるんだったら、いくらでも力になるって言いたいだけなの。分かるでしょ?」
香織さんは弁護士でばりキャリな人だ。
「ありがとうございます」
「まあ、姑なんてどうせ先にいなくなるんだから、あなたが大丈夫ならそれでいいのよ」
「うん」
「それにしても、お宅の姑さん、親がいないってだけで兄である健司さんをずいぶんと下に見てるけど、健司さんが会社を経営してるって知らないの? 私達を貧乏夫婦みたいに言ってたけど。一番最近の電話では金に困っても頼ってくるなって言われたわよ」
「え、そんな事を? 香織さんは弁護士だし、兄さんだって会社をやってるんだから、そんなのあり得ないのに。1度話したと思うんだけど、忘れてるのかしら……本当にごめんんなさい」
「いいのよ。面白いから、七人目の子供が生まれそうなんですって言ったら、ガチャ切りされたんだけど」
と香織さんが笑った。
「香織が電話の度にそうやって引っかき回すから向こうも誤解してしまったんだよ」
と兄が苦笑しながら言った。
マンションのカギだけもらい、権利書は兄に管理してもらう事にして私は家に戻った。
久しぶりに夕食でもと誘われたが愛衣を置いてきているし、土産を買って帰る約束もしたので、また今度と言って別れた。
最寄りのデパートでお総菜とプリンを買い、家に急ぐ。
けれど民衆に囲まれた家は燃えていた。
消防車が水を放出していたが火は燃えさかっていた。
「え、嘘! 愛衣!」
慌てて家に駆けよるが、止められた。
「危ないなら近寄らないで!」
「娘が! 愛衣、愛衣! 無事なの?」
家事を取り囲む近所の人間はたくさんいたが、夫も愛衣の姿もなかった。
「達雄さん! 愛衣! どこにいるの? 誰か娘を知りませんか!?」
そこへ、
「美咲!」
と声がして、振り返ると夫がいた。ジャケット姿なのは外出していたに違いない。
それなら愛衣も一緒のはずだ。
「あなた、良かった。無事なのね。愛衣は? 愛衣も一緒でしょ?」
「それが……よく寝ていたから……」
「え?」
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