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第十七話
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よっちゃんは甘えて彼の腕によりかかってる女の耳元に何かをささやいている。
女が大きな口を開けて笑った。下品な笑み。
「どうした?」
「いいえ」
どうしよう。凄く気になる。走って追いかけて行きたい気持ち。
「あの、あたしここで降りるわ」
「ここで?」
「ええ、止めてちょうだい」
早くしないと、行ってしまう。
「こんな所で降りてどうするんだ」
「いいから、止めてよ!」
キッと車が止まった。
「ありがとう。それじゃ」
あたしは慌てて車を降りて、走った。
どうしよう。でも、二人に追いついてもどうしていいか分からない。
目の前まで行っても、きっと言葉なんかでない。彼をなじったりできないような気がする。でも、どんな関係かは気になる。
あたしはどんどん走った。
角を曲がると、人ごみの中に二人の姿があった。
仲よさそうに寄り添ってる。まるで恋人どうしみたいだ。
そうかもしれない。二人は恋人同士なんだろう。
だって、二人はどんどんラヴホテル街の方へ行ってる。
終わりだな、と思った。たった今、彼とのつながりをパチンとはさみで切られたような気がした。
それでも、足は勝手に二人の後を追って行く。
「おい!」
肩に手を置かれて、驚いて振り返ると、湊がいた。
「どこに行くんだ? こっちはホテル街だぜ」
「ああ、びっくりした。別に何でもないわ。ただ、知ってる人を見かけたような気がして、追いかけただけよ」
「へえ。恋人とか」
「……」
「当たり? どいつ?」
「違うわ」
「おもしろそうだな。どいつだよ」
湊は嬉しそうな顔をして、ずんずんと歩きだした。
「ちょっと、もう帰りましょうよ。もういいから」
正直言って、格好悪い。湊にこんな所を見られるなんて。
「いいから、こいよ。こういう事は、その場で決着をつけた方がいいんだ」
そんな事言ったって。
「分かった。あいつだな」
湊が指さした所に二人がいた。
立ち止まってるのは、どのホテルに入ろうかもめてるんだろう。
「行くぞ」
湊はあたしの肩を抱いて、二人に接近する。
ホテルの入り口で話し込んでる二人に湊が声をかけた。
「失礼、いつまでもそんな所でもめられたら、後が迷惑なんだが?」
「あ、どうも」
と、よっちゃんが言って、脇にどこうとした。そして、
「さ、桜!」
と叫んだ。
「桜、知り合いか?」
湊があたしを見た。
な、何て言えばいいんだろう。
「ええ、まあ」
「お前、何やってんだよ!」
自分の事は棚に上げて、よっちゃんの口調はあたしを責めている風だった。
「何って、こんな所に来てやる事は一つじゃないのか? 君もそのお嬢さんとそういう目的で来たんだろう?」
「な、何だよ、てめえ!」
よっちゃんが湊に詰め寄った時、よっちゃんの彼女が、
「ねえ、何やってんのぉ? 財布、見つかったの? やっぱ、さっき、誰かとぶつかった時にすられたんじゃないの?」
と、けだるそうに言った。
「いや、その」
「お金がないんならあたし、帰るわよ?」
格好悪い! 財布がなくて、もめてたんだ。
よっちゃんはおろおろとなった。はぁ。
湊はくすくすと笑いながら、
「何だ、君、サイフをすられたのか?」
湊はそう言うと、自分のポケットから財布を取り出した。
「ここまで来て彼女にふられるのは気の毒だ。よかったら、これを使ってくれ。桜が世話になったようだしね」
と、財布から一万円札の束を出した。
この男も半端じゃないわね。一万円札、十枚はあるよ。
「やっだぁ、お兄さん、気前いいじゃん!」
彼女が湊に両手を差し出した。あつかましい女ね。
「やめろよ」
さすがによっちゃんは格好悪いと思ったのか、彼女を制した。
「何言ってんの? あんたが財布をすられたのが、間抜けなんじゃん? くれるって言うんだから、もらっとこうよ。あーあ、あたしもこのお兄さんみたいな彼氏、欲しいな」
「そんな事、言うなよ」
むごい。よっちゃん、むごすぎるよ。
「そうだな、君ももう少しましな男とつきあっ方がいいと思うよ? そんなに美人なんだから。この男にはもったいないな。それじゃ、これで」
そう言うと、湊は一万円札をばっとよっちゃんの顔にたたきつけた。
うっわ。きつい。
彼女が慌てて飛び散った一万円札を拾い集める。
湊はあたしの手を引っ張って、ホテルの中に入った。
後ろからよっちゃんの怒鳴り声と彼女の金切り声が聞こえてきたが、
「振り返るなよ」
と湊が言ったので、そのままあたしは前を向いたままだった。
女が大きな口を開けて笑った。下品な笑み。
「どうした?」
「いいえ」
どうしよう。凄く気になる。走って追いかけて行きたい気持ち。
「あの、あたしここで降りるわ」
「ここで?」
「ええ、止めてちょうだい」
早くしないと、行ってしまう。
「こんな所で降りてどうするんだ」
「いいから、止めてよ!」
キッと車が止まった。
「ありがとう。それじゃ」
あたしは慌てて車を降りて、走った。
どうしよう。でも、二人に追いついてもどうしていいか分からない。
目の前まで行っても、きっと言葉なんかでない。彼をなじったりできないような気がする。でも、どんな関係かは気になる。
あたしはどんどん走った。
角を曲がると、人ごみの中に二人の姿があった。
仲よさそうに寄り添ってる。まるで恋人どうしみたいだ。
そうかもしれない。二人は恋人同士なんだろう。
だって、二人はどんどんラヴホテル街の方へ行ってる。
終わりだな、と思った。たった今、彼とのつながりをパチンとはさみで切られたような気がした。
それでも、足は勝手に二人の後を追って行く。
「おい!」
肩に手を置かれて、驚いて振り返ると、湊がいた。
「どこに行くんだ? こっちはホテル街だぜ」
「ああ、びっくりした。別に何でもないわ。ただ、知ってる人を見かけたような気がして、追いかけただけよ」
「へえ。恋人とか」
「……」
「当たり? どいつ?」
「違うわ」
「おもしろそうだな。どいつだよ」
湊は嬉しそうな顔をして、ずんずんと歩きだした。
「ちょっと、もう帰りましょうよ。もういいから」
正直言って、格好悪い。湊にこんな所を見られるなんて。
「いいから、こいよ。こういう事は、その場で決着をつけた方がいいんだ」
そんな事言ったって。
「分かった。あいつだな」
湊が指さした所に二人がいた。
立ち止まってるのは、どのホテルに入ろうかもめてるんだろう。
「行くぞ」
湊はあたしの肩を抱いて、二人に接近する。
ホテルの入り口で話し込んでる二人に湊が声をかけた。
「失礼、いつまでもそんな所でもめられたら、後が迷惑なんだが?」
「あ、どうも」
と、よっちゃんが言って、脇にどこうとした。そして、
「さ、桜!」
と叫んだ。
「桜、知り合いか?」
湊があたしを見た。
な、何て言えばいいんだろう。
「ええ、まあ」
「お前、何やってんだよ!」
自分の事は棚に上げて、よっちゃんの口調はあたしを責めている風だった。
「何って、こんな所に来てやる事は一つじゃないのか? 君もそのお嬢さんとそういう目的で来たんだろう?」
「な、何だよ、てめえ!」
よっちゃんが湊に詰め寄った時、よっちゃんの彼女が、
「ねえ、何やってんのぉ? 財布、見つかったの? やっぱ、さっき、誰かとぶつかった時にすられたんじゃないの?」
と、けだるそうに言った。
「いや、その」
「お金がないんならあたし、帰るわよ?」
格好悪い! 財布がなくて、もめてたんだ。
よっちゃんはおろおろとなった。はぁ。
湊はくすくすと笑いながら、
「何だ、君、サイフをすられたのか?」
湊はそう言うと、自分のポケットから財布を取り出した。
「ここまで来て彼女にふられるのは気の毒だ。よかったら、これを使ってくれ。桜が世話になったようだしね」
と、財布から一万円札の束を出した。
この男も半端じゃないわね。一万円札、十枚はあるよ。
「やっだぁ、お兄さん、気前いいじゃん!」
彼女が湊に両手を差し出した。あつかましい女ね。
「やめろよ」
さすがによっちゃんは格好悪いと思ったのか、彼女を制した。
「何言ってんの? あんたが財布をすられたのが、間抜けなんじゃん? くれるって言うんだから、もらっとこうよ。あーあ、あたしもこのお兄さんみたいな彼氏、欲しいな」
「そんな事、言うなよ」
むごい。よっちゃん、むごすぎるよ。
「そうだな、君ももう少しましな男とつきあっ方がいいと思うよ? そんなに美人なんだから。この男にはもったいないな。それじゃ、これで」
そう言うと、湊は一万円札をばっとよっちゃんの顔にたたきつけた。
うっわ。きつい。
彼女が慌てて飛び散った一万円札を拾い集める。
湊はあたしの手を引っ張って、ホテルの中に入った。
後ろからよっちゃんの怒鳴り声と彼女の金切り声が聞こえてきたが、
「振り返るなよ」
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