9 / 51
第九話
しおりを挟む
「ち、ちょっと。何するんですか」
「金持ちの男と出かけるんだろ? 俺もその条件に合うと思うがね」
「ちょっと! それは母に言ういいわけで、私は帰るんですけど」
「じゃ、送って行こう」
「結構です! それにおばさまの誕生パーティなのに、ここにいなくていいんですか?」
湊一也の長いコンパスにチビのあたしは必死で歩く。腕をつかまれたままだから、転んでしまいそうなのだ。
「挨拶はもう済ませたし、来客が次々とやって来るんだ。いつまでいても仕方がないさ」
「送るなら、真弓さんを送ってあげたらどうですか? お見合い相手なんだから」
湊一也は立ち止まった。
「君、彼女とは義理以外で会えないと思わないか?」
彼、まじまじとあたしの顔をのぞき込む。
「それは……知りませんよ、そんな事」
「連れて歩くなら奇麗な方がいいさ」
また湊一也は歩きだし、玄関口で待機していたボーイが小走りにやってくる。
「俺の車を頼む」
「かしこまりました」
やがて回された車はボルボだった。渋い!
「さ、どうぞ、お嬢さん」
「どーも」
送ってもらうだけならいいか。
ボルボはスーっと靜かに走りだした。
「えっと、大学生だっけ? 二十?」
「ええ。S大です。湊さんはおいくつですか?」
「二十四。君、結婚相手を探してるのかい?」
「え? 探してませんよ。母がうるさいだけです。真弓さんにだけは負けられない、と思ってるんですよ。特に、湊さんとのお見合いに触発されたみたいですね。それに松本のおばさまがあなたの事を随分褒めてましたから」
「それは光栄だな」
湊一也はくっくと笑った。
やがてボルボはキキッとブレーキをかけて止まった。
「あの……?」
「そのドレスじゃ、どこにも行けないだろう」
「ん?」
げ、シャネルだって。
「でも帰るだけだから」
「そう言うなよ。せっかく知り合ったんだし、このまま帰るとはつれないんじゃないか」
湊一也は強引にあたしを助手席からひっぱり出した。
「金持ちの男と出かけるんだろ? 俺もその条件に合うと思うがね」
「ちょっと! それは母に言ういいわけで、私は帰るんですけど」
「じゃ、送って行こう」
「結構です! それにおばさまの誕生パーティなのに、ここにいなくていいんですか?」
湊一也の長いコンパスにチビのあたしは必死で歩く。腕をつかまれたままだから、転んでしまいそうなのだ。
「挨拶はもう済ませたし、来客が次々とやって来るんだ。いつまでいても仕方がないさ」
「送るなら、真弓さんを送ってあげたらどうですか? お見合い相手なんだから」
湊一也は立ち止まった。
「君、彼女とは義理以外で会えないと思わないか?」
彼、まじまじとあたしの顔をのぞき込む。
「それは……知りませんよ、そんな事」
「連れて歩くなら奇麗な方がいいさ」
また湊一也は歩きだし、玄関口で待機していたボーイが小走りにやってくる。
「俺の車を頼む」
「かしこまりました」
やがて回された車はボルボだった。渋い!
「さ、どうぞ、お嬢さん」
「どーも」
送ってもらうだけならいいか。
ボルボはスーっと靜かに走りだした。
「えっと、大学生だっけ? 二十?」
「ええ。S大です。湊さんはおいくつですか?」
「二十四。君、結婚相手を探してるのかい?」
「え? 探してませんよ。母がうるさいだけです。真弓さんにだけは負けられない、と思ってるんですよ。特に、湊さんとのお見合いに触発されたみたいですね。それに松本のおばさまがあなたの事を随分褒めてましたから」
「それは光栄だな」
湊一也はくっくと笑った。
やがてボルボはキキッとブレーキをかけて止まった。
「あの……?」
「そのドレスじゃ、どこにも行けないだろう」
「ん?」
げ、シャネルだって。
「でも帰るだけだから」
「そう言うなよ。せっかく知り合ったんだし、このまま帰るとはつれないんじゃないか」
湊一也は強引にあたしを助手席からひっぱり出した。
1
お気に入りに追加
230
あなたにおすすめの小説
魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される
ねこいかいち
恋愛
魔法で栄えた国家グリスタニア。人々にとって魔力の有無や保有する魔力《オド》の量が存在価値ともいえる中、魔力の量は多くとも魔法が使えない『不良品』というレッテルを貼られた伯爵令嬢レティシア。両親や妹すらまともに接してくれない日々をずっと送っていた。成人間近のある日、魔導公爵が嫁探しのパーティーを開くという話が持ち上がる。妹のおまけとして参加させられたパーティーで、もの静かな青年に声をかけられ……。
一度は書いてみたかった王道恋愛ファンタジーです!
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから
gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる