CODE;FACTOR -コードファクター-

ゆづのすけ

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「しかし武蔵さん。彼女は本来ならこのような準備はしなくとも、実戦投入は不要なのではありませんか?」
「そりゃ『赤城』の話であって、あいつの話じゃねェ。お前と一緒だ」
「……」
「事情が変わった。もうウカウカしてられんのは、分かるだろう」
「はい。……、……」
「大丈夫ですよぉ、そんなに怖い顔なさらなくても。確かにドイツは残念でしたが、大丈夫です。僕の方は、つつがなく」
「……新型ワクチンの臨床試験も、進んでいます」
「博打だが、賭けねば勝てん。いいな」
「大和さん。小鳥遊に対して思うところはあるでしょうが、イカサマはお任せください。その為の僕なんですから☆」
「……はい」

 *

「赤城ちゃん。やっぱり私としては賛成できないわ」
 赤城の話を一通り聞いたあと、大家は鍋を混ぜる手を止めてそう言った。
「頑張ったのは分かるけど、そんな危ないことしちゃ駄目よおかしいと思わない?高校生でいきなり軍に連れていかれて戦え、さもなくば死ぬ、なんて」
「それはそう、だけど……」
「寮はきっと、それはもう名坂で一番安全よ。でも、だからって戦闘員にはならなくていいんじゃないかしら。サポート役とか、他に道はあるはずだから」
 大家の提案になるほどと思わず声が漏れた。大和のように、戦闘員を支える役目もあるはずだ。
 ……ならばどうして、はじめから大和は赤城を戦闘員として迎え入れたのだろうか。
 長門の戦闘能力から察するに、赤城の手助けが必要とは思えない。むしろ、バイタリティを生かした機動的な戦闘スタイルは、赤城がいる方がいっそ足手まといではないだろうか。
 テレビでは、機関──人類進化保全機関EAエアの就任会見の様子が報道されていた。
『本日付けで西太平洋事務局、理事長を拝命致しました、桐島きりしまきょうです。皆様の明日の為に……』
 画面のなかでフラッシュを一心に浴びるスーツの青年は、赤城の視線を釘付けにした。
「こないだからその話ばっかりよねぇ。あらどうしたの、赤城ちゃん?男前に見惚れちゃった?」
 その男こそ、赤城がミユとともにゲートまで案内した茶髪の男そのものだったのだ。
(私、凄い人を助けたんだ……)

 大家の部屋を辞して自分の部屋に帰り、トートバッグの中身を取り出し整理していると、一枚のカードキーが滑り出てきた。しばらく何のカードか思い出せなかったが、やがて日向に突き付けられた記憶が蘇る。
「…………あっ……」

 皮肉なことに、その夜はぐっすりと眠れた。
 長門はどうだか知らないが。

 *

 長門の目の前に居たのは、一匹の黒猫だった。
 車のいない道路の中央線を、悠々と歩いている。
 だがその猫が放つ気配は、長門の戦闘本能にアラートを鳴りやませることを許さない。
 一台の乗用車が、猫と長門の間を駆け抜けた。

「そう殺気立てないでおくれよ、瀬良長門君」
 猫の姿は既にそこにはなく、代わりに街灯下にひとりの茶髪男が立っている。
「それとも──長門、と呼ぼうか?」
 姿形こそ違えど、その声は長門の表情を歪める。長門は、その声を嫌というほど知っていた。
 脳裏にこびりついて離れないその声は、しかし他人の顔で、演説でもするかのように高々と言葉を紡ぐ。
「素晴らしいねこの街は。皆が平和だ!ああ、平和とは素晴らしい。実に素晴らしい。このような素晴らしい人達こそ、進化すべきだ!」
 長門は腰を下ろし、隠していた銃のグリップをそっと握る。握る力に徐々に力を込める。セーフティの解除は、指先が覚えている。あと一ミリ、あと一ミリ握れば、解除され─

「だというに君は、平和を壊す気かい?あの日のように」

 最後の一言は、長門の冷静さを吹き飛ばし銃を抜き放ち構え撃鉄を起こし銃口に男を捉え引き金を引かせるのには、充分すぎた。
 引き金を引いた瞬間、長門の指先が捉えた感触は『外した』であった。サイレンサーもない銃声の残響とアスファルトを叩く空薬莢の音が、夜の街にこだまする。
 誰もいない道路でひとり、浅い息を繰り返す長門の頬を、冷たい海風が撫でた。

 *

 翌日の朝ホームルームはクラス各員の自己紹介が行われた。担任としては初日に長門が居なかったので今日に持ち越したようだったが、やはり長門の姿は無かった。始業式をすっぽかし、授業二日目も不在となると、クラスの声はいよいよ「他校とガチ喧嘩して少年院行きってマジ?」「夜中に警察に補導されてたって聞いた」などと見も蓋もない噂話が溢れる。以前の赤城も同じようなイメージを持っていたが、瀬良長門という男を知った今となっては、思わず笑ってしまう。
「遅いぞ瀬良ァ!!何やってる!!」
「るッッッッせーーーんだよハゲ!!来たんだから文句ねーだろ黙ってろ!!」
 廊下から突如響いた怒鳴り声に、一同はひっと息を呑んだ。
「それが教師に対する態度か!制服はどうした!その金髪も染め直せと何度言わせる!!」
「地毛だっつってんだろ!!自分がハゲだからって髪の毛に嫉妬してんじゃねえぞクソ野郎!!腹立つなあ……」
 教室の引き戸が乱暴に開き、スポーツバッグを肩に引っ掛けた長身のジャージ姿が舌打ち混じりに現れた。クラスメイトがそっと彼に道を開いていくさまは、まるでモーセだ。
 赤城の背後で、椅子がガタガタとこれまた乱暴に床を引っかく音がする。どかりと腰掛けて突っ伏しかけた長門は、そこで新しいクラスでの初登校と思い出したのか、はたと顔を上げてクラスを見渡し、「あ、おはよ」と挨拶したが、答える者はいなかった。
「……マジかー」
 露骨にしょげる気配を背後に感じながら、赤城は笑いを堪えるのに必死だ。それはもう、他校と喧嘩して補導されているらしい不良が初回からこんな登場をしたらドン引きされるに決まっている。もっとも長門の喧嘩相手は、他校の不良などという可愛いものではなく、不死生命体であり文字通り食うか食われるかの命懸けなのだが。
 苗字の五十音順に並べられていた席では赤城の後ろの席が長門なのだが、学校では不思議なことに長門は声を掛けてこなかった。授業中は後ろからすぅすぅと寝息が聞こえてくる。後ろの席からプリントを回収する際は、赤城が振り返って長門の白紙のプリントを抜き取って、記名して返す羽目になる。丸められた教科書が彼の頭を叩く音は、昼下がりの生徒の眠気覚ましに大いに役に立った。

 五時限目が終了しても、クラスメイトにとって長門はやはり近寄りがたいようで、まるで猛獣のような扱いだ。無理もないが、長門はそれに対してしょげた顔をするのがさらに怒っているように見えているらしく、ますます人を遠ざけてしまう。野球部のやんちゃキャプテンである高橋くんも、長門が居る教室では騒げずにいた。
 帰りのホームルームでは、唐突に担任に自己紹介を促された長門はきょとんとしている。
「今朝みんな自己紹介したの。まだやってないの瀬良くんだけだから……。出身とか、名前とか」
「ほーん……?」
 クラスじゅうの視線を受けながら、長門はよく分からなさげな顔で立ち上がる。
「瀬良長門。出身はロンドン、えーと……?誕生日は十一月九日、O型……」
 長門はその立場上、公にできないプロフィールもあるのか言葉を選んでいるといった様子だが、ロンドンという言葉に一同がどよめく。よほど見も蓋もない想像プロフィールが浸透していたのだろう。
「瀬良くんは帰国子女なんですよね」
「そうだよ」
 担任の言葉に、長門は笑顔で頷いた。たどたどしい日本語も、ご愛嬌だ。
 放課後は数人に囲まれ「イギリスってどんなとこ?」「英語得意なの?」「ハーフなの?」と質問攻めに遭っていた。幾分かクラスの緊張は解けたようだが、長門にはハーフの意味が分からなかったらしく、首を傾げていた。
 今受け答えしているジャージの帰国子女が、裏ではまさか二丁拳銃を操り名坂を守る最強部隊の隊長などとは夢にも思うまい。そう思うと赤城の中には、ちょっとした優越感が芽生えるのだった。

 放課後、部活に顔を出し、今後部活への参加は不定期になることを告げた。県大会を目指していた赤城にとって悔しさがないと言えばうそにはなるが、それよりも人を守らねばならないという使命感のような、不思議な感覚が彼女の背を押していた。


 名坂支部に到着し、大和に挨拶をしに行くと、そこでは長い黒髪の少女が彼と話をしていた。
「ああ、赤城さん。ちょうどいいところに。ちょうどいいところに。こちら萩原はぎわら五月雨さみだれさん。赤城さんの一歳下ですが、同期になります。で、こちら、先程お話しした東雲赤城さん。名坂高校、二年生です。」
「初めまして。この度TEARS研修生の末席に加えていただきました、萩原五月雨です。よろしくお願いします」
 五月雨と名乗った少女は赤城に向き直り、深々と頭を下げた。礼儀の良さと胸の大きさに面食らう。
「お二人にお願いしたいのは、市民の支援任務です」
「支援任務?」
「近隣の港にて発症が中規模発生しました。海からの密派遣とさらなる敵増援が予想されるため先ほどS部隊が隔離区域に派遣されたですが、餌とする為か市民が周辺に集められておりまして。その市民の応急手当などの支援が人員不足であるため、援護をお願いします」
「分かりました」
「了解しました。医薬品の補充準備のち、ただちに出立します」
 五月雨は、赤城よりも TEARS としての任務に慣れているように感じる。移動キャンプ車に武器を積み込む赤城を見て、五月雨は「赤城先輩は……戦闘員なのですね」と呟いた。
「S部隊の長門先輩と共同行動を取ることになっていると伺いました。……」
 どことなく不安げな、低い声の五月雨に、赤城は努めて明るく返す。
「戦闘って言っても全然だよ。今回だってこうして別行動だし」
「……そうですか」
「五月雨ちゃんも、研修生なんだよね?何だかこういう任務に慣れてそうな感じがするんだけど」
「私ですか?私は……以前から TEARS のお手伝いをさせていただいてましたから。この四月から、入隊条件の最低年齢を満年齢でクリアするので、こうして晴れて TEARS を名乗れるんです」
 そう言って五月雨は嬉しそうに腕章をそっと示してみせる。
「何にせよ、同期がいるのって凄く心強いよ。一緒に頑張ろうね」
 赤城が差し出す手を、五月雨も笑顔で握り返した。

 現場に到着すると、五月雨はてきぱきと積み込んできた支援物資を降ろす。手伝おうとした赤城にインカムで通信が入る。
『あ。赤城さん、おはようございます~☆』
「おは、よう……ございます?」
『今北ゲートに居ますよね?武器を持って、ちょっと中に入って欲しいんですよぉ』
「中に……?」
『赤城さんにしか頼めないんですよぉ。できれば急ぎがいいんですけど』
 慌てて荷台に積んだケースからクロスボウを引っ張り出し、ゲート解除して隔離区域内へと踏み込んだ。

 区域内は、コンテナが乱雑に積まれた港湾地帯だ。古びたフェンスに囲まれたプレハブや、コンクリート塀なども点在している。長らく使われていなさそうな小型漁船も、気だるげに係留されていた。
『そのままコンテナの影を使って、海の方へ向かってください。三ブロック進んだら、周囲警戒、報告をお願いしますねぇ』
 ルイスの指示に従い、夕暮れの港湾を策敵していく。予告通り三ブロック進むと、何やらびちゃびちゃという粘りけを含んだ水のような音が聞こえた。
 コンテナの向こうに居る異形は、四つ這いの巨大なウーパールーパーのような形をしており、地面に残った血液を舐めている。
「ルイスさん!敵が……」
 インカムに通信しようとすると同時に、向こうから呑気な声がやってきた。
『はい、先程偵察班から情報ありまして解析したところです~☆ 敵はレベル二、【ベスゴ】ちゃんですね。ふふっ、いい名前でしょう? ……現状では危険です、交戦はしないでください。赤城さん、今から数分ほど走れますか?』
「えっ??……ぶ、部活では袴着て走り込みしてるので……一五分程度なら」
『わぁ、願ってもない~☆ では今から誘導するので、それに従って敵さんに追っ掛られけてもらっていいですか?』
「はいぃ……!?」
『はーい! では、よーいどん☆』
 赤城が物陰から【ベスゴ】と呼ばれた異形の前に躍り出ると、ベスゴは大きな口を醜悪に歪めて嗤った。
「……エサ、ミツケタ……」

 インカムの指示に従い区域内を駆けていく間、背後からべたべたという不快な足音(?)が聞こえ続けている。
『赤城さん、足速いですねぇ。いつも定期接種から逃げる長門さんのハンター係もお願いしたいぐらいですよぉ』
 冗談じゃない。思い返せば一年の頃に、廊下を逃げる長門とすれ違ったことがあるが駆け抜けた瞬間の風圧は凄まじかった。あんな猛獣の飼育係はごめんだ。
『凄いですぉ。五十メートル、八秒〇一。ちなみに長門くんの記録が六秒五二で、これは日向さんから逃げた時に医務棟から整備場までの記録ですねぇ。あの辺だいたい百メートルぐらいあるので』
 いらない情報だ。少なくとも、まさにゾンビに追い掛けられている今この瞬間には。
『赤城さん飛ばしすぎですよぉ、ゾンビ振り切っちゃってます。それはそれで凄いんですけど……』
友人に追われるのとゾンビに追われるのとでは訳が違う。捕まれば死ぬのだ、文字通り死ぬ気で走る。
「まだですか!?」
『いえ、もういいですよ。はい、ゴール☆』
 そう言うと同時に、赤城が駆け抜ける隣に黒い影が反対方向へ吹き抜けた。

 振り返ると、ベスゴは地面と水平に口から真っ二つになっている。傍らで黒い服の男が、日本刀を振り抜いて血を払っていた。その腕には、 TEARS と書かれた腕章が着用されている。ルイスは、この青年のもとにベスゴを誘導させたのだ。
 一瞬の出来事にぽかんとする赤城に、黒服の青年は向き直った。黒髪の下に、青藍色の瞳が覗く。
「お陰で索敵の手間が省けた。感謝する」
「い、いえ、そんな……」
「……まさか二匹とも連れてくるとはな」
 えっ?
 赤城がそう思うと同時に、古いプレハブを突き破って巨大な鉤の腕が躍り出た。
「気を抜くな。来るぞ」
 青年は刀を両手で構える。黒いブーツが破片を踏み締めるジャリッという音が響くと共に、黒い影は弓矢のように飛び出した。
『はい、 No.321 【ベスゴ】と共に隣のブロックを並走してきていたヤツです。レベル三、 No.322 【黒鰭ブラックフィン】。ほらほら、時雨さんにお誂え向きですね~☆』
「くだらないな」
 黒鰭、と呼ばれた乱入者は、腕とくちばしが黒く鉤のように硬化しており、それを攻撃と防御に使用してくる。近隣の塀や柵ごと振り抜いてくるため、クロスボウも容易に狙いが定まらない。青年はそれらの猛攻を軽々とかわし、硬化部分と腕の付け根の皮膚部分を切り裂いていく。赤城が放つクロスボウが柔らかな腹に突き立ったが、猛攻は衰える気配を見せない。
「核細胞は鉤の内部だ。厄介だが腕を切り落とす必要がある」
『気を付けてくださいね。真っ二つになっちゃいますよぉ』
「冗談じゃない」
 同時に、青年のもう一振りの短刀──主に彼が振るっていた日本刀に比べ、刀身は太くて厚いものだ──が鉤の腕に深々と突き立つ。青年は黒鰭の背に立ちその柄を蹴り付けて肉を切り裂きながら、日本刀で無防備な黒鰭の頸を一閃した。
振り抜かれた日本刀はそのまま、鉤の腕も斬り飛ばす。
 勢い余って吹き飛んだ腕の断面は、赤城の目にはもはや大型の的でしかない。中央に、さながら心臓のように桃色に蠢く巨大な肉の塊が晒されていた。コアだ。そのコアへと向かう一直の線が、赤城には見えている。
「──貰った!」
 矢は肉片の中央をどんと射抜いた。

「……あの一瞬で中央を射抜くとは。瀬良みたいな芸当をするな……本当に初心者なのか?」
 コアを射抜かれた鉤の細胞が腐り落ちていく。そのさまを眺めながら、黒衣の青年は呟いた。予想外の称賛に、赤城は頬がこそばゆい。
「……挨拶が遅れたな。S部隊、萩原はぎわら時雨しぐれだ。改めて、援護に感謝する」
「あ、えっと……東雲赤城です。瀬良く……瀬良さんに教え……て?もらっています」
『長門さんが瀬良さんって呼ばれてると何だか不思議な感じですよね~☆』
「同感だ」
 そういえば長門に何か、習ったことがあっただろうか。
『到着時、先ほどのブラックフィンちゃんが北ゲート付近に居たんですよぉ。あんな腕してますし、ゲートを破られちゃたいへんですからね~。S部隊は中央で交戦中だったので、北ゲートに回せる人員がありませんでした。赤城さん、お見事です~☆』
 イヤホンの向こうから、ぱちぱちという呑気な音が聞こえる。
「そういうことは先に言ってください」
『えぇ~、ネタバレなんて面白味に欠けるじゃありませんか~』
 機会があれば一度ルイスを殴りたい。それが赤城の、率直な感想だ。
 時雨の視線が一瞬赤城の背後に向いて、また赤城に戻った。
「……?」
「いや。処理班が来た。……他の敵も片付いたようだな。帰ろう」
 歩き始める時雨に倣って赤城も振り返ると、どんと大きな壁にぶつかった。
「う゛わぁぁぁああ!!??」
「うぃ、お疲れ~」
 金髪ジャージの隊長は、たたらを踏む赤城の肩に腕を回して「帰ろ帰ろ」と時雨について歩く。身長差が大きく、赤城の目線は長門の肩の位置であり、大柄な長門の腕はその筋肉量もあってか随分と重い。
「S部隊……って、名坂の一番強い部隊なんだよね?最強の部隊を出すほどの数じゃないと思うんだけど……」
「えぇ?何で赤城と俺が別行動させられたと思ってんの?俺ってば十五ぐらいやっつけたよ。途中で誰かさんがふらっとどっか行くからさ~」
 長門に背中を小突かれた時雨は、不服そうに返す。
「新人がレベル三の囮になってこちらに突っ込んできてると言われたら援護するしかないだろう。そのまま交戦区域に巻き込むわけにもいかない。……あの程度なら隊長殿にはどうということはないだろうという判断だ」
「まあね~?長門様にはヨユーかな~?うんうん。わかってんじゃん時雨クン」
「私二匹も連れてきてたとか知らなかったんですけど……」
『敵を一頭認識しているからといって、二頭目が存在しないわけではない、ってことですよぉ。油断したら真っ二つです。ねっ、時雨さん☆』
「……そこで俺に振るあたり、本当に性格が悪いな、お前は……」
「はなはだいかん」
 果たして長門は甚だ遺憾の意味を知っているのだろうか。

 などと話しているうちに、隔離区域のゲートに到達した。赤城たちの姿を見て、五月雨が駆け寄ってくる。
「お疲れ様です。キャンプに飲み物を用意しましたので、どうぞ」
 処理班に報告を済ませ、武器を預けてからキャンプ車に乗り込むと、電子ポットと紙コップが準備されていた。ポットは揺れる車内で倒れないよう、座席テーブルにプラスチックで固定されている。ほどよく温かいほうじ茶を堪能していると、応急セットを持った五月雨も後から乗り込んできた。
 怪我は無かった赤城と、着地した際の掠り傷だが処置する程でもない長門は断った。時雨も断ろうとしたが、左腕の血の染みを五月雨に指摘される。
「時雨くん、そういうの駄目って言ってるでしょう?」
「……大した怪我じゃないだろう」
「小さな怪我が命取りになるんですもの。帰っても医務班は忙しいから、ここで私にできることならやります」
 時雨は渋々といった様子で、上着と中に着ていたシャツを脱ぐ。肘の上辺りに、なるほど荒く引っ掻けたような傷がある。出血は治まりかけているようだ。黒鰭の振り回したフェンスの切断部分で引っ掻けたのだろうと時雨は言う。
 五月雨も時雨も、「萩原」と名乗っていたことを思い出した。親友の萩尾姓に似ていたため、記憶に引っ掛かっていたのだ。赤城は率直な疑問を口にした。
「そういえば、お二人は親戚なんですか?」
「実の兄妹だ。……杉戸すぎのとから数年前にこちらに来て以来、名坂で世話になっている」
「杉戸……っていうと、随分と寒いところですよね……?遠路はるばる名坂に?」
「はい。寒さにはちょっとだけ強いんですよ。赤城先輩が長門先輩に師事するように、私も時雨くんに師事しています」
 対因子用の特殊消毒液を用いて傷を消毒し、滅菌ガーゼの上にテーピングを施しながら五月雨は笑顔を見せる。
 赤城たちの会話を聞いているのかいないのか、長門は手元のスマートフォンに視線を落としたままだった。

 支部に到着後、報告書を出してくると本館に向かった時雨たちと別れて、長門と赤城は整備部へ向かった。
 右手に海を望む中庭を歩いていると、唐突に長門が口を開いた。
「杉戸って言ってたじゃん。あそこさ、何年か前に捨て石にされたんだよ」
「えっ……?」
「北の方はTEARSうちみたいな組織の大きな拠点がなかった。だから地域の自警団でその場しのぎしてたんだけど、中央との連携がうまくいってなくて。そのうち市内で感染爆発が起きて、大混乱になって市は封鎖された」
「……」
「名坂は……というか武蔵が、その生き残った人を受け入れたんだよ。うちなら非顕性感染者キャリアが居ても、対処できるから」
 それはつまり、発症してしまったら手に掛けるのは自分達だということ。そのリスクを負った上で、武蔵は帰る場所を失った人達を抱えることを決めたのだ。勿論名坂市内からの反対は凄まじかった。が、杉戸市の人々は名坂市の住民よりも発症者による非常事態に慣れており、防災訓練等にも積極的に参加してくれているため、結果的に名坂の危機意識の向上に繋がった。時雨も自警団に所属していたため、そこでの経験による戦闘能力の高さを買われて、今は長門と共にS部隊に名を連ねている。

「明石のおっちゃーーん!!来たよーー!!」
 相変わらず機械音の凄い場所だ。ただでさえ声の大きい長門は、整備部の入口でさらに声を張り上げて誰かの名を呼ぶ。
「あーーかーーしーー!!」
「じゃかァしいわ!!聞こえとるわアホンダラぁ!!」
 奥のシャッターが乱暴に開きながら、長門並に大きな声が返ってくる。首を左右に回しながら歩いてくる男性は、これまた筋骨隆々だ。上半分を腰に脱いだ作業服姿に、大胸筋が白いタンクトップを押し上げる。前髪をゴーグルで押し上げたその顔を含めた全身は、煤だか油だかで黒く汚れている。
「何やながもん。彼女自慢か?ええ身分やなぁ」
「そうそう。あ、この人が整備部のボス、明石あかしのおっちゃん」
「おっちゃん……」
「やかましいわアホ。どう見てもイケメン俳優やんか。明石や、よろしゅうな。あんたが東雲ちゃんやろ、聞いとるで。武器の調子はどない?」
 明石は軍手を外して赤城と握手をしようとしたが、「油まみれの手で触んな」と長門にはたかれてしまう。赤城が再度手を差し出したが、長門の言うことももっともかと思ったらしい明石はひらひらと手を振ってやんわりと辞した。
「好調です。今日もちゃんと、コアを仕留めました」
「いやァ、JKに褒められてしもたわ。おっちゃん嬉しいわァ」
 がっはっはと豪気に笑いながら、明石はポケットから鍵を取り出して大型のロッカーを開ける。その中から取り出されたひとつの武器ケースを、傍らの古びた製図机にどかりと置いた。
「雑魚は殴ってもホトケんなんねんけどな、敵さんによう効く薬があんねや。それを刃に施したもんがこれや」
ケースの中にはクロスボウ用の矢がびっしりと詰まっている。
「東雲ちゃんは心配あらへんやろけどな、どこぞのアホウはこのテの弾丸をドッカンドッカン無駄遣いすんねん。ほんま困った話やわ」
 そう言いながら隣のアホウの金髪に拳骨を落とす。赤城が黒鰭に矢を放ったが効きが悪かったのは、なるほど一般の刃だったからだろう。 TEARS がゾンビ退治に特化した特殊部隊である意味にも頷ける。
「最近敵さんのボスがやり手に変わってな。ちーっと、よろしくないねん。勿論雑魚相手には今までの普通の矢でも平気やねんけどな……」
「これから、すげー強い奴と交戦する可能性がでかいってわけ」
 二人の雰囲気から察するに、軽口ではなさそうだという確信は、赤城の背筋をつっと冷ました。

 *



「機関?ああ、EA機関ですか。……そういえばまだお話していませんでしたね」
 赤城が医務室を訪ねると、部屋の主はあろうことかビーカーでコーヒーを嗜んでいた。
「あ、これですか?大丈夫ですよ。乾熱滅菌してますので、少なくとも食堂のコップよりはよほど衛生的です」
「カン……?」
「菌は熱で皆殺ししてますよ、ということです」
 医療用語はよくわからないが、白衣の大和から皆殺しという単語が飛び出すのは、ジャージ姿の長門が言うのとは訳が違う。

「余談はさておき。……まずは定義のお話からしましょうか。本来細胞は、寿命を迎えたり役目を終えると自分で死んでいきます。皮膚なんかもそうですよね。古い細胞は剥がれて、新しい細胞ができます。諸説ありますが、人体には三十七兆もの細胞があり、一日におよそ一兆個が死んでいく。もともとそのようにプログラムされているのです。これがアポトーシス。……生物の授業で習いましたよね?」
 大和の確認に、こくりと頷く。授業で聞くのと目の前で白衣の現役医師に聞くのとでは、説得力は段違いだ。
「コードファクターという因子を持つ細胞は、そのプログラムを書き換えてしまいます。本来死ぬはずの細胞が死なずに、増殖を続けてしまう。がん細胞に似ている部分もありますね」

 コードファクターを持つ細胞が体内に侵入し、そこで身体に寄生する。必ずしもそこで症状が出るわけでもなく、この状態にある者をレベル0、【感染者キャリア】と呼称する。
 細胞の増殖には膨大なエネルギーを必要とする。そのエネルギーを摂取するため、近くの肉を食い漁る……副作用を発症し、いわゆるゾンビ状態にあるものを、【発症者アンセラ】と呼称する。この発症者に関しては、症状や寄生の進行度合いにより、現状ではレベル一から五の簡易スケールが割り振られる。

 人を食っていない状態はレベル一。
 人を食えばレベル二。
 人を複数食えばレベル三。
 大型ないし戦闘能力が高く、複数人での対処が必要と判断されればレベル四。
 交戦が危険で、周囲を巻き込んででも大型兵器での処理が必要なものがレベル五。
 あくまでも目安でしかない。目立つ敵個体には識別用に番号や名前が割り振られることも多いという。

「今日の【ベスゴ】、【ブラックフィン】は、元々は米国……北米事務局管轄区域内で発見・報告されていた個体です」
「米国……!?」
「現在解析を進めていますが、……恐らくは何者かの故意によって、海を渡って来たんでしょうね。港でも、不審船が発見されています」
 時雨さんがそれを仕留めたというのも、なかなか数奇なものですねと大和は笑ったが、その意味は赤城にはよくわからなかった。
「初日に赤城さんを襲ったのは、大型のものがレベル二。ほかはレベル一ですね。長門くんなら素手で対処可能なレベルです」
「いくらレベル一と言われても、あれを素手で蹴り飛ばしたくはないです」
「僕だって、義手が十五万馬力出せますと言われても嫌ですよ」
 ビーカーに口をつけながら、大和はその薄い唇を尖らせた。

「こういったコードファクターは、最初は再生医療などに用いられる希望の星だったわけです。しかし副作用が強すぎて、制御に失敗した。今赤城さんたちが戦ってくれている発症者は、いわば人体実験の産物です」
 大和はビーカーに視線を落として、淡々と続ける。
「この人体実験の発症者から人類を守るために結成された国際的組織が、『人類進化保全機関EAエア』。……実態は、人類を守ると言いつつ、『副作用を発症しないコードファクター適合者』を探して適合実験を繰り返している諸悪の根元です」
「……!」
 声のトーンが翳る。実験に失敗したらポイして、その後始末を押し付けられているのだ。
「EA機関も、国際的で非常に大きな組織ですからね。名前や人道支援は有名ですが、その本性は外道の極み」
「そんなことが、許されるんですか……」
「……たらればの、どうしようもない話だとは分かってはいるんですけれど。……コードファクターがEA機関の手を離れてきちんと開発できていたら、救える人が居たんですよ」
 大和の声に、悔しさが滲んでいた。赤城がこれまで聞いてきた彼の声のうち、もっとも彼の感情が押し出されていたように感じる。大和が TEARS で活動を続けるのも、彼なりにEA機関に対して許せない思いが大きいのだ。

 壁に掛けられた時計が、可愛らしい音楽を奏で始めた。大和がはっと顔を上げ、時刻を確認する。
「ああ、もうこんな時間?遅くなってすみません、送りますね」
 彼は閉じたブラインドの隙間から外を望むと、白衣を椅子の背もたれに掛けて、診察用と思しきベッドに横たわっていたコートを手に取った。スチール製の引き出しから車のキーを取り出す。
「僕もこのまま直帰しますし、武蔵さんに声を掛けてきますね」
「ぁ……私も行きます!」
 何だか怖い男はいえ、雇用主に挨拶はしておきたい。そんな赤城の意思を汲み取ったのか、大和は嬉しそうに微笑んだ。

「……何だ。やらんぞ」
 執務室の武蔵は、大きなハンバーガーに今まさにかぶりつこうとしているところだった。ハンバーガーを買ってきた本人であろう長門も、来客用とおぼしき三人掛けのソファに寝転がり、ハンバーガーを齧っている。
「あ、いえ、結構です……。僕このまま直帰しますので、ついでに赤城さんを送って行」
「駄目だ」「駄目っしょ」
 武蔵と長門は、声を揃えてきっぱりと否定した。
「駄目だろお前、どう考えても。十三は年下の女子を夜の八時にどこへ連れてこうってんだ馬鹿野郎」
「大和さぁ、お前やってることマジでド変態だよ?」
「ボロクソ言いますね……あと十二歳差です。十三じゃないです。そこだけは」
「どっちにせよアウトだよ。細けえ年齢に拘るようになった時点でおっさんだよ」
「ロリコンなのは敵だけで腹一杯だ」
 言っているうちに長門はハンバーガーを食べ終え、包み紙を丸めて執務机の傍らのゴミ箱には目線もくれずにシュートを吸い込ませる。
「長門。お前も付いていってやれ」
「マジ?いいけど」
「お前まで不祥事沙汰になったら叩き斬って素ッ首を正門に晒してやるからな」
「おっかねえや……」
 ソファから立ち上がり、長門は脱いでいた靴を履き直す。
「じゃあ行ってくるね。たけぞう、何か要るものある?」
「特に無い」
「りょ」
 長門に続いて、大和と赤城は執務室を後にした。

 外はいつの間にか雨が降っている。
 駐車場で主の帰りを待っていた車は、白色の大型ミニバンだった。雨粒とシルバーメッキのエアロバンパーが、きらきらと街灯を反射する。
「……意外でした」
「そうですか?仕事柄、色々と道具を運ぶことも少なくないので」
 大和がリモコンキーでロックを解除するとともに長門がスライドドアを開けて後部座席を陣取ったので、「お邪魔します」と赤城は助手席に乗り込みシートベルトを着けた。本革製のシートが、疲れた身体をなめらかに包む。
 車用の無香消臭剤とティッシュ、小型のダストボックスが置かれている。見た目よりも実用性重視なあたり、大和らしいとも言える。
 運転席で大和がエンジンを始動させると、見た目と違わぬ重低音が響いた。

 長門や武蔵に比べると大和は華奢に見えるが、それでも隣でハンドルを握る彼の腕はれっきとした男性のそれだ。執務室ではどうのこうのと言ってはいたが、長門は後部座席であどけない寝顔で寝息を立てている。
「……瀬良くんと渋谷さんって、付き合いは古いんですか?」
「僕が来たときには既に名坂に居ましたからね。確かに長門くんが武蔵さんに寄せる信頼は、他人に対するそれとは比べ物になりません。……あり得ない話ではありますが、仮に武蔵さんに死ねと言われたら、きっと長門くんは己に引き金を引けます。それぐらいの絶対的な信頼が、あります」
「……、……」
 それは文字通り、長門は自分の命を武蔵に預けている。そこまでさせる何かが、あの二人の間にはあるのだろう。
「大和さんは、名坂の人ではないんですか?」
「僕もですが、武蔵さんも長門くんも日向さんも時雨さんも、皆ここの人ではありませんよ。名坂支部はもともと、よそから寄せ集めの急造部隊なんです」
「えっ……」
「……名坂支部は、数年前に大規模な襲撃を受けました。民間に被害を出さないために、すべての門や建物を厳重に閉じ、自分たちを含めた封じ込め作戦を実施しました」
 そして壊滅的な被害を出したのだという。当時の司令官も含めた殆どのスタッフが、感染あるいは餌となり、刺し違えた。かつて前線拠点で名を上げることを夢見ていた誰もが、その凄惨な現場に口を閉ざし、名坂後任に手を挙げるものは居なかった。
「名坂支部はまるで英雄のように持て囃されはしましたが……一方で、軍人の墓場とも言われています。 中央から後継として派遣されたのが、渋谷大佐。今の名坂支部を立て直した張本人です。今のスタッフにも、当時の生き残りの方が何人かいらっしゃいますけれど……あまり思い出したくはない話ではあるでしょうね」
「そんな……」
 赤城はまだ整備部よりも南のエリアに踏みいったことはないが、それでも名坂支部はかなり巨大だ。名坂で新たに運用する航空隊整備の準備も進んでいるらしい。その支部が壊滅するなど、赤城は一切知らなかった。情報規制により、公にされなかったのかもしれない。
「西新町……でしたよね?結構遠いところから通われてるんですね。……この辺でしょうか?」
「そうです。あ、そこのコンビニを、右です」
「どうせならコンビニも寄りましょうか?もう遅いですし、夕食と明日の朝ごはんでも。僕も小腹が空いていますから」
 長門くんが起きないうちに、と悪戯っぽく微笑む大和の提案に乗ったはいいものの、結局夕食のポトフスープと朝食用のサンドイッチ、シュガートーストを奢ってもらった。赤城は遠慮したのだが、「ここのコンビニって、カードで払うとポイント付くんですよ。僕もお得なのでおあいこです」と大人の手口で丸め込まれてしまった。

 アパート前に到着すると、街はすっかり静かだ。虫の声が遠くで聞こえる。
 赤城が後部座席に目をやると、先程はかろうじて座ったままの姿勢で眠っていた長門はいつの間にか座席に横になってぐっすりだ。
「瀬良くん、おやすみ」
「……ん……ほやゆぃ…………」
 返事もまるで寝言である。 授業中といい、寝る子は育つとは瀬良長門のことだろうか。
「長門くんはこのまま、僕の家で泊まって貰います。大丈夫ですよ、別に珍しいことではありません。僕の家に着替えも置いてあるぐらいですし」
 朝の目覚まし係は不要のようだ。
 部屋に戻った赤城が玄関の鍵とチェーンロックを掛けた音を確認してから、大和は自分の車へと戻った。


 運転席に乗り込み、エンジンを掛ける前に先程コンビニで購入したカウンターコーヒーに口付けながら、スマートフォンでいくつかのアプリを開いた。天気予報によると、まもなく雨は本降りになるようだ。
 車内に大和の独り言が低く響く。

「……四人目を積み込んだ覚えは無いんだがな」

「そうつれないこと言わないでおくれよ。寂しいじゃないか、次期当主様」
 三列目のシートから、茶髪の男が顔を出した。


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