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十章 孤独の魔女レグルス

315.魔女の弟子と勝利の大団円

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「って本当にもう旅立っちゃうんだ、もう少しゆっくりしても大丈夫だよ?」

「そうですよ、前回と違って今回は急ぐ理由もないでしょうに」

手馴れた手つきで荷物を纏めて旅支度を整え、エリスが立つのはいつぞやと同じ皇都の門、目の前には未だ戦いの傷残る平原が広がっている

そんな景色を前に、鞄を背負うエリスとレグルス師匠は、見送る人たちの声に後ろ髪引かれるように振り向く

心配そうに、そしてやや寂しそうにこちらを見つめるデティとスピカ様、前旅に出た時もこの二人に見送られたんだったな


──シリウスとの戦いを終え、その勝利を祝う宴ももう昨日の話、騒ぎが落ち着いた早朝にエリスと師匠は二人で再び旅に出ることにしたのだ、目的はない いつ帰るかも分からない、ただただ当てもなく流離うためエリス達は再び歩き出す選択をしたのだ

「すみませんデティ、けどやっぱりエリスにはこういうのが性に合ってるんです」

ただやることもないから漠然と旅に出るんじゃない、この戦いが終わったらみんな元の国に戻るようにエリスもまた元いたところに戻るだけ、それがエリスにとっては『旅』なのだ、人生の半分以上を流浪で過ごしたエリスにとって旅をしていた方が落ち着くし居心地がいいんだ

「如何に清らかな水も止まり続ければ汚水となるように、私とエリスもこうして旅に出ていた方が生きやすいのさ」

「何格好つけてんだよレグルス、テメェは別に住処とかに頓着がねぇだけだろ」

「む…」

ややキザなセリフを吐いた師匠の肩をドスンと叩くのはアルクトゥルス様…

今回エリス達を見送ってくれるのはデティとスピカ様だけじゃない、エリスと師匠を除いた七人の魔女様と七人の魔女の弟子…つまりみんなだ

「まぁ、俺としてもエリスは放浪してた方がらしいと思うよ、君は風のように何にも縛られず生きた方が良い」

「ありがとうございます、ラグナ…それにみんなも」
 
「なんてことはない、君を見送るのは慣れているさ」

こうしてここに集った魔女の弟子達、ネレイドさんとメグさん以外はみんな一度はこういう別れを経験しているからか何となく落ち着いているように見える、でも

「うう、エリス様とお別れですか…何だかとても寂しいですね」

「せっかく会えたのに、友達になれたのに…」

そのメグさんとネレイドさんはみんなの代わりにとても悲しんでくれる、特にメグさんとは帝国からずっと一緒でしたからね、何だかこうして別れるというのがとても新鮮です

「すみません、でもいつもみたいに行ったっきりではなく帝国やオライオンに立ち寄った時は必ず顔を見せるので」

「まぁ私はエリス様がセントエルモの楔を持っている限りいつでも会いに行けますがね」

「そういえばそうでしたね」

あれからずっと肌身離さず持っている黄金の杭、これがある限りエリスはいつでもメグさんに会える、と言ってもメグさんの方から会いに来てくれなければなんともならないが

「また何か、危機が訪れた時…再びエリス様を呼び戻しに参りますので、どうか」

「ええ、何かあったらエリスを呼んでください、必ず助けに行きますから」


「我も会いに行くぞ我が伴侶レグルスよ、というか寝るときは一緒に寝よう」

「お前は皇帝としての仕事をしろ」

「むぅ、…連れない奴だ、だがそういうところも好きだぞレグルス、ラブだ」
 
登り始めた太陽が地平線の向こうで輝き出す、そろそろ旅に出ても良い頃合いだ、正直名残惜しいが…いつまでもこうしているわけにはいかない

「そろそろ行くんだな、エリス」

「はい、行ってきます」

「なら、その前に…」

するとラグナはゆっくりと拳を前に出し…

「ならその前に俺は誓うよ、次みんなと再会するまでに…俺はもっともっと強くなって、もっと頼れる王様になって、俺達で守った世界を守り続けられるくらい強くなってるってな!」

誓うのだ、エリス達の友情にラグナはそんな誓いを残す、その様を見せられて…黙っていられるわけないよね

「ならば私は己の組織力をもっと高めることを約束しよう、エリス…君が次私のところに戻ってくる頃には、この世界の中心にはデルセクトが立っている事だろう」

「あ、じゃあ俺は取り敢えず卒業を目的として頑張りまーす、普通に今のペースだと留年コースなんでー、それでいつぞや誓った約束を果たして見せるさ…俺の思う理想の理事長になるって言う約束をな」

「では僕は…えっと、もう大方夢は叶ってしまっていますので、取り敢えず役者として巧くなるのは当然として…強くなります!、みんなと肩を並べられるくらい!」

「では私はもう少し立派な人間になっておくとしますかね、メイドも立派ですけどもっと立派な奴になります」

「私が願うことは変わらず…みんなを守る事、…だけどそのみんなが増えたから…もっと頑張らないと…」

「じゃあじゃあ私は世界を統括する大組織の運営!、エリスちゃんが守った世界!エリスちゃん達と守った世界!それを全部纏めて継続させられる仕組みを私が作るよ!楽しみにしててね!」

想い想いの約束を口にし、そして皆 誓う…その友情に誓いを乗せる、それはまたいつかこうして八人で揃うことを前提とした願いであり祈り

そうだとも、エリス達はまたこうして会えるんだ…だから

「ではエリスも、次会う時は最強の魔女の弟子になってますね!」

「ほう…」

「へえ…」

全員の目が煌めく、ええそうですよ?これは挑戦状です、エリスは強くなります…だからみんなも、強くなっていてください、みんなはエリスの友でありライバルなのですから


「青いな」

「青いですね」

「ああ、真っ青だ…これが青春ってやつかね」

「少なくとも昔のわたくし達よりは健全な仲ですわね」

「昔の私達の風紀は終わってましたからね特にレグルスさぁんの」

「いいね、最高だよボク達の教え子達は」

「次の世を生きる萌芽達、良いものよな」
 
「皆の道行きを私も神に祈りましょう、頑張ってね みんな」

そんなエリス達の誓いを見て、何だか急に自分たちが老人な気がして遠い目をするレグルス達、これが世代交代という奴なのかな…なんて立派に育ちつつある弟子達を前に思うのだ

「では、そろそろ行ってきます」

「ああ、えっと…」

「はい?」

そろそろ旅に出ようと踵を返した瞬間、ラグナが手を前に出し…何か言いたげにエリスを押し留める、何か…あるのだろうか

「どうしました?ラグナ」

「いや、そのぉ…えっとぉ…」

「……?」

珍しい、彼がここまで何かを言い淀むなんて、よほど言いづらい事なのかな…、それも最後の最後まで言い出せないなんて

「ラグナ?」

「あー…いや、なんでも…」

「ラグナさん!、別れ際の一言は大切にしたほうがいいですよ!」

と、言い澱み誤魔化そうとするラグナの背中を押すのはナリアさんだ、エリス姫を演じているだけありその言葉にはラグナを動かすだけの重みがある

いや、背中を押してるのはナリアさんだけじゃない、他の人達も早く言えとばかりに視線で急かす、そんな視線に晒されてはラグナも口を開かざるを得ず…

「あー…うん、エリス?」

「なんですか?」

「…偶にはアルクカースにも顔だしてくれよ?、あーほら!リオスとクレーにもエリスのこと改めて紹介したいし他にも今回会えなかった人とも話してもらいたいし何より…」
 
「何より?…」

「何より…君と話がしたい、今回みたいに何かに急かされるわけでもなく、戦いに身を置くわけでもなく、なんでもない時間を君と過ごしたい、…ダメか?」

その視線はあまりに真摯であった、真剣で真面目でほんのり羞恥の混じった熱のある視線、それと共に放たれる『時間を共にしたい』という誘い、…これが…これが嬉しくないわけあるだろうか、こんなにもカッコいい人からの誘いなんて…断れるわけ

「は…はい、よろしくおねがい…シマス」

「お おう」

上擦ったエリスの声に、ラグナの慌てた声、そして…

「どう思う、メルク」

「及第点だな、もっとガッと行けばいいものを」

「でもいい誘い文句だと思いますよ、キッカケとしては」
 
「何年一緒にいるのさ」

何やら小声で話す仲間達の声、そんな物耳に届かないくらいには今のエリスの内心は歓喜に沸いていたわけですけどね、うん…いつかアルクカースにも立ち寄ろう、絶対!

「はぁ、おい そろそろ行くぞ?、このままではキリがなさそうだ」

「あ!はい!師匠!ってわけです!みんな!お達者で!」

「おう!、またな!エリス!」

「元気でいるんだぞ!」

「風邪引くなよー!」

「エリスさーん!またいつか会いましょー!」

「エリス様、御機嫌よう」
 
「うん、また…ね」

師匠と共に駆けていくエリスの背中を押す仲間達の声、エリスが独りではないと証明する声、それらを抱いてエリスは再び旅に出る、終わりなき旅…終わりなき探求の果てへと

シリウス、エリスはこの世界を旅し尽くします、貴方が出来なかった…貴方がする前から諦めた旅を、エリスは最後の最後まで楽しみ尽くしてやりますよ

「師匠!」

「ああ、行こうか」

そして、エリスは再び師匠の手を握り歩き出す、無限に続く平原の果てを目指して、またいつかのように…二人で




「あの、デティさん?」

「んー?、何?ナリア君」

去っていくエリスの背中を見送りながらナリアはふと、隣に立つデティフローアの横顔を眺める

「よかったんですか?、最後の最後に声をかけなくても」

最後に、みんなで別れの挨拶をする時…デティだけが声をあげなかったことに、やや不思議そうに首をかしげるナリア、しかし

「ううん、いいの…だって、私には私の特上の別れ方があるから」

「別れ方?…」

「うん、というわけで…早速始めよっか、メルクさん ラグナ、世界統括機構を開く宣言式を」

「ああ、準備は出来ているぞ?」

「みんな待たせてるし、早めに終わらせようぜ」

デティフローアには仕事がある、世界の中心にて魔女時代に区切りをつける為の仕事が、故にデティは踵を返す、去っていくエリスに背中を見せて…彼女は彼女の道を行くのだ

………………………………………………………………………………

数百年後の後世にて、学校に通い始めた子供達が歴史学を学ぶに当たって、恐らく一番最初に教えられるであろう歴史的転換点が一つ存在する

多くの歴史学者達が人類史のターニングポイントと呼ぶその日は別名『王権魔授時代の終わり』とも呼ばれているのだ、存在すら不確かで自在したかも分からない…太古の時代を統べた七つの大国の擬人化とも呼ばれる『魔女』という存在から完全に人の世に移行した時代こそがこの時代のこの日…

アジメクに七つの大国の為政者が集うた通称『アストラ宣誓式』、歴史の答案の一番最初で問われる名前の一つだ

アストラ宣誓式とは後に長きに渡る治世を確立する史上初めてにして恐らく今後も唯一になるであろう大国間目的共有組織である

名を連ねたのは友愛の国アジメク、争乱の国アルクカース、栄光の同盟デルセクト、探求の国コルスコルピ、閃光の国エトワール、無双の帝国アガスティヤ、夢見の国オライオン、この七つ大国が同時に一つの組織を運営すると言う当時は革新的な組織体系がこの時確立されたのだ

その組織の名を────


「これより、『世界統括機構アド・アストラ』結成の宣誓を行う…、皆 先日の時点で話は行っていると私は信じている」

アジメクの広場に集まったのは決戦に参加した一千万の軍団は全員が白亜の城跡の手前に打ち立てられた巨大な台座 その上に立つデティフローアの言葉を傾聴する

そのデティフローアの背後には更に六人の支配者が立つ

アルクカースのラグナ、デルセクトのメルクリウス、コルスコルピのイオ、エトワールのヘレナ、オライオンの教皇代理人ネレイド、そしてアガスティヤの唯一の大皇帝カノープス

それらが全員、デティフローアの言葉に賛同するように並び立っている、これは歴史的に見てもかなり異様な光景だ

そもそも世界各国に散っている魔女大国の王達が一堂に会することさえ異常なのに、その上で結託するなど異例中の異例、そんな異例が重なった結果…今 人類最初の試みが成し遂げられる

「みんなも聞いている通り、これから先の時代は大いに荒れる…それはここに立つ私以外の魔女大国の盟主達全員が同じ意見である、シリウスが遺した言葉は各地に伝播し着実に大きくなり、またいつか此度のような巨大な津波となって魔女大国を襲うだろう、来ると分かっている危機を前にして呆然と手を拱くだけで良いのだろうか…なんて態々問わなくてはならないような人はこの場にいないと信じたい」

雄弁に語るデティフローアは拡声魔装を用いて一千万の大軍勢を前に語る

シリウスはアジメクを襲う前に魔女大国の絶対性を切り崩した、それ以前にも大いなるアルカナが帝国を相手にソコソコの戦いをしてしまった、恐らく魔女排斥組織はもう帝国を恐れない…非魔女国家の魔女大国への悪感情は募るばかりだろう

きっと今までのように魔女大国達は世界の頂点で胡座と欠伸をかいてばかりはいられないだろう、来たる危機に備えて鎧を着て弓を持ち櫓を建てて迎え撃たねばならない

その為の弓であり、鎧であり、櫓こそが…世界統括機構アド・アストラだ

「敵はきっと徒党を組む、故に我等魔女大国も徒党を組もうと思う、それも七つの大国全てで!、七つの軍は混ざり合い綿密に連絡を取り合い技術を共有し財産を分け合い勝鬨を共にする、一切の例外なく全員が全ての魔女大国及び魔女世界を守る護国の戦士となる!」

具体的に言うなれば、世界統括機構アド・アストラとは全魔女大国の共有軍団だ、それぞれが持つ軍隊を同時に所属させるのではなく 混ぜ合うようにして一つの軍団に編纂し直す

世界各地の兵器開発局は一つに統一され、その財産は一つの倉庫に纏められ、強さも弱さも共有して全員で魔女世界を守る

もし、何処かの魔女大国が危機に晒されればアド・アストラが動き敵を撃滅し困難を破壊する、今まで帝国が担ってきた世界秩序の維持をこれからは全大国で行うのだ

「勿論いきなりの事で困惑もすると思う、けれど今回の戦いを乗り越えたみんななら分かるはずだ、どんな強敵だってみんなが手と手を取り合えば打ち砕けることを!、そしてそうする必要がある程の危機がこの世には存在することを!」

いきなり軍が編纂され新しく出来た組織の所属になる…と兵士たちにいきなり言っても反感が湧くだろう、だが…今この時ばかりは一人として文句を言わない

それが必要なことであることを理解しているからだ、シリウスという悪魔を見て 羅睺十悪星という悪夢を見て、またいつあんな恐ろしい存在が現れないとも限らないから

「世界統括機構アド・アストラはアジメクの作り出した対魔女排斥組織ペルアスペラ・アドアストラを前身とするが故にその本分は魔女排斥組織に対する抑止力であるが、当然それ以外の分野でもこれからは協力していくつもりです」

デティが作り出したペルアスペラ・アドアストラの構想をそのまま世界規模に広げたのがこの世界統括機構アド・アストラである、その為アド・アストラの矛先は常に魔女排斥組織に向かうことになる

これからは、大いなるアルカナのような勝手は許さない、我々の故郷は我々で守るのだと言う強固な意志こそがこの組織の最大の武器だ

因みに世界統括機構に成るに当たって組織の名称がペルアスペラ・アドアストラからアド・アストラに変更になった理由は単純に他の国家から長いと不評であったからであると言うのは機密事項とされている

「この組織はきっと凡ゆる分野で凡ゆる事柄を成すでしょう!、この組織の結成そのものが!この時代における最大の偉業となるでしょう!」

そう高らかに拳を掲げるのはこの世界統括機構の発起人、五百年後の未来にて記される『魔導歴偉人録』に於いて史上最も偉大な魔術導皇にして史上最後の魔術導皇の名を持つ女

別名 転換の魔術導皇デティフローア・クリサンセマム

彼女は後に多くの偉業を為すが、その中で最も未来に影響を与えた大偉業こそが…

魔女の時代を終わらせたことにある

このアド・アストラは即ち魔女の庇護下からの脱却、故にこの組織の設立後魔女達は急速に表舞台への干渉を控えるようになったと言われている

それ程までにアド・アストラは凄まじく、魔女が己の使命の終わりを自覚するほどのものであったからだ

「では、この偉業を共有せし我が同胞達よりお言葉を頂きます、…どーぞ ラグナ」

「おうよ」

そしてデティフローアより拡声魔装を受け取る赤毛の王、彼が前に立つことにより戦士達は沸き立つ

国を問わず、皆が口を開ける、何せ彼こそが英雄だから…この戦いを指揮し世界を守った英雄、否

「ようお前ら、分かってると思うが名乗らせてもらう、…俺がラグナ・アルクカースだ」

彼こそが五百年後の偉人録に『英雄大王』の名を刻んだ男、ラグナ・アルクカースだ

世界の危機を前に指揮をとり、また本人も凄まじい戦闘能力を持ってして戦った英雄の中の英雄、あまりのデタラメぶりに後世では偉大な王の偉業を演出する過剰な伝説であったのではないかとさえ疑われる稀代の傑物が戦士達を前に不敵に笑う

「世界統括機構…なんてややこしい名前に混乱してる奴もいるだろうが、結局んところやる事は変わらねぇ、テメェの守りたいもんを守る そのために生まれた制度がこれってだけだ、故に俺は王として約束するぜ?…ここにいる全員の故郷を全て守れるだけの組織を作り上げるってな」

拳を握り語る彼のカリスマは、戦いに身を置く全ての人間を陶酔させる、彼こそが指揮官であると誰もが理解してしまう、そんな彼さえもアド・アストラ設立に連名として加わるのだ

それが如何程に大きな話なのかを誰もが理解する

「そう言うわけだ、俺からは以上…ってわけで、ほいメルクさん」

「君らしい簡潔な言葉だ、見習うとしよう」

ニッと笑いながらラグナが拡声魔装を渡すのは!青髪の麗人にしてコートをたなびかせる王者の中の王者…、偉人録にて『神合元帥』を枕に名を記せしメルクリウス・ヒュドラルギュルムだ

「皆、メルクリウス・ヒュドラルギュルムである、此度はこのアド・アストラの設立に立ち会い共に名を刻める光栄に感謝を示すと共に、今ここに誓いを露わにしよう」

元は穴蔵の小屋にて借金地獄に喘いでいた力なき少女が今世界の頂点に立とうとしている

彼女はラグナやデティフローア達と違い生まれながらにしての王ではない…だが、努力と経験の数々が彼女をそれだけの存在たらしめている

「私は我が友でもあるデティフローアの言葉に痛く共感している、我々には新たなる段階に進むだけの力がある、そしてそれを結集する為の手順は整っている、ならば歩みを進めよう皆の者、我々の手で…人類にとっての理想を、理想郷を作り上げよう、その為ならば私も努力を惜しまない、君たちの生活全てを向上させよう」

そう語るメルクリウスの偉業はやはり巨大商業組織マーキュリーズ・ギルドの創設にあるだろう

後世様々な著書に於いて近代商業体系の母と呼ばれ、自らも錬金術師の達人として人類の先頭に立つ権利を皇帝カノープスより賜った彼女の活躍は最も人類に貢献したと言えるだろう

ただでさえ強力無比だったマーキュリーズ・ギルドの猛威はアド・アストラに組み込まれた時真価を発揮する、世界的な大組織の戦闘以外の大部分を占めるこの商業組合が、人類を統治する時は近い

「言いたい事は言った、あとは頼むぞイオ」

「君達の後は緊張するが、承った」

そうメルクリウスから拡声魔装を受け取るのは、アド・アストラを統治する六王議席の一角を担ったコルスコルピの代表、偉人録に個別の項目はないものの彼の祖国コルスコルピに於いては『賢王イオ』の名を残した彼が壇上に立つ

彼は魔女の弟子ではない、ラグナやメルクリウス デティフローアに比べればその影響力は低かったと後世では語られることも多い、だが魔女の弟子達は彼を重宝したのもまた事実

ラグナ達と共に学び時として争った彼の冷静さは躍進の時を得てより一層磨きがかかったと言う

「イオ・コペルニクスだ、先の戦いには参加していない上魔女の弟子でもない、単なる一介の王でしかない私がこのような場に立っていいものかやや思案したが、それでもこれが自国の益となるならば、粉骨を厭わず砕身の覚悟を持ってして臨むつもりだ、いや違うな…我等で共に魔女世界を守ろう、その為には君達の力が必要だ」

そうイオが語りながらもチラリと目を向けるのは、群衆の中って何食わぬ顔でボケっと見上げているアマルトの顔…親友の姿だ

本当なら魔女の弟子として彼にこの場に立ってほしいが、それでも彼にはやるべき事と叶えるべき夢がある、彼の夢を守る為なら例え分不相応でもこの場に立ち、君が教えるであろう未来の教え子達の安寧を守ることに従事しよう

そんな透明な微笑みの元、彼は覚悟を見せる…人として そして魔女の弟子ではない王としての覚悟を

「おほん…改めて言うと照れくさいな、で…では、ヘレナ王女どうぞ」  


代わる代わる王達が声を上げる、この決定は我らの総意であることを示すと同時に、自国民に対する宣言である、だから必要なのだ…例え未熟な王だとしても

「はい、イオ様」

ヘレナは痛感している、自らの未熟さを、ここにいる面々とは比べものにもならない凡愚が自分であると

──事実、ヘレナ・ブオナローティという人物は数百年後の未来に名を残さない、彼女の孫に当たる人物が魔導歴偉人録の先駆けになる書物を書き上げ名を残すくらいで、彼女自身は何かを成すわけではない

だが、それでも…

「ここに集いしエトワールの民よ、私が…エトワール王女ヘレナ・ブオナローティです」

エトワールの王女は自分なのだ、父より王位を継いでより数ヶ月…姫から王女になった彼女は他の国の王達に劣等感を感じる毎日だ、ラグナ達のような英雄にはなれないしイオのように輝く生き方もできない

どこまでも平凡な自分が、こんな凄い人たちに囲まれて何ができるんだろう…、もしかしたら何もできないまま私は次へ託すことになるのかもしれない、けど

「…私は、皆さんを讃えたい、先の戦いで獅子奮迅の働きをした英雄…勇猛果敢に戦い仲間を守った猛将、神算鬼謀を奮い勝利へ導いた麒麟児…自らに出来ることをやり尽くした勇気ある戦士、皆讃えられるべきです、…けど 私はそれ以外の方々の働きも誇らしく思う、中には何もできなかった人もいるでしょうし恐怖に足が竦んだ者もいるでしょう、皆が皆…スポットライトが当たるわけじゃない、これは残酷ながらに事実なのです」

それでもヘレナという人間は、吠える

「分かります、…貴方達の悔しさは痛いほどに分かります、ですがどうか悔やまないで、この場に立った 護国の意志を持った 剣を握ってくれた…そして生きて帰還してくれた、私はただそれだけで嬉しいのです、剣を握らず戦地にも立たなかった私よりも貴方達は立派です…だから、そんな貴方達に報いいる為にも、私は貴方達が守ってくれた世界を守ることに全霊を尽くします、私に何が出来るか分かりませんし とんだ期待はずれに終わるかもしれませんけど、見てきてくださいね…我が愛する臣民とその愛おしき戦友達よ」

もう、嘘偽りは述べず我が臣民の為にこの心を砕く、その為ならば何でもすると

ヘレナは自らを柱とし、エトワールという国を支える為に命を尽くす

確かに未来に彼女の名は残らないだろう、だがその代わりエトワールと言う国は五百年後も存続している

きっと、それは誰にも讃えられないながらも何にも勝る働きなのかもしれない

「なんて…、なんだか感情的になって関係ないこと話しちゃいましたね、ごめんなさい」

「ううん、かっこよかったよ…ヘレナ王女」

「貴方は…ネレイド様」

そんなヘレナを笑わず、敬意を示し一礼をするネレイドは彼女の決意を汲み取る

アド・アストラという枠組みの中にエトワールを投じながらも、エトワールという国を守り続ける決意…、例え力がなくとも出来ることを尽くそうとする彼女のあり方は尊いものだとその瞳で語りながら

「ありがとうございます、では次はネレイド様…」

「ううん、私は王様じゃないから…ここでアド・アストラ設立の決意表明を述べることはない」

本当ならここには教皇リゲルか聖王ディアデ・ムエルトス家の人間が立つべきなんだろうが、その性質上権威あるものを立てられないオライオンはこの場限りの代理としてネレイドを立たせた

けど、ネレイドは自分がここで偉そうに国民に語りかける事が出来る立場にない事を理解している、ネレイドは神将だ…どこまで行っても神将だ、王ではない

だから

「はい、カノープス様」

「うむ、…お前のあり方は好ましいぞネレイド」

「どうも…」

ネレイドから拡声魔装を受け取ったカノープスは、王達の決意表明を受け 前に立つ、その威風堂々たる様は他の王さえ霞むほどに眩く、八千年間玉座に座り続けた人間の一種の風格を漂わせる

「さて、聞いたな国民達よ、これより魔女大国は世界統括機構アド・アストラの庇護下に入る、それはつまり魔女の差す傘の下よりお前達は抜け出す事を意味する、八千年間続いた魔女の統治を終わらせる事を意味するのだ、その事の意味を貴様らは本当に理解しているのか!?」

轟く皇帝の怒号に思わず竦む、魔女の傘下から抜け出す…その事の意味を理解してるのか、魔女世界の存続のため魔女の庇護下から抜け出す、その事の意味が本当に分かっているのかと…そう問いかけるのだ

「我等は大いなる厄災により絶滅の危機に瀕した人類を今日この日まで守護し続け、繁殖させ 繁栄させ続けてきた、人類が我々の庇護下になかった瞬間など一度としてない!、それでも…行くか?」
 
カノープスの眼下に広がる景色は、果たして彼女が求めた物であったかは不明である

ただ、それでも彼女が今日まで歩みを止めたことはなかった、人類の先頭に立って叡智の松明を片手に魔術を用いて道を作り続けてきたのは確かなのだ、そして今それが終わろうとしている

「…………、ならば良い 後の事は任せた、我々は支配者から傍観者に移らせてもらう、この世界の行く末と…本当にこの世界にもう我等が必要ないかをな」

魔女がもう必要ないならそれでいい、全能の神も万能の存在も人類は必要としない…なぜなら全能でなくとも万能でなくともに進むことが出来る足が人類にはあるから

その足と意思を、今は信じこの世界を別の者達の元へと預けよう、それがここにいる六人の王達

「頼むぞ、ヘレナ イオ ネレイド メルクリウス ラグナ、そして…デティフローア」

まるでバトンを渡すようにカノープスはデティフローアに拡声魔装を預ける、この世界を…人類を頼むぞと、あまりにも重たい物を預かったデティフローア達はしかと頷き

「そういうわけです!、これからは私達の手でこの魔女世界を守っていくんです!、それをする為の組織が世界統一機構アド・アストラ!みんなの鎧であり!盾であり!剣であり!砦となる組織です!、これが私達の答えなんです!」

ここに広がる全てが私達が出した答えだ、私達が歩いて走って転んで立ち上がって掴み取った答えが全ての魔女大国同士の協力…アド・アストラなのだ

「アド・アストラはきっと世界の希望の星になれる、私達はそれを作り上げる、けどね…ここには居ないけど、この景色を作り上げてくれた人がいるんです」

散り散りだった世界を一つに繋いだ線がある、それはアジメクから伸びて、ネックレスようにクルリと世界を回って一つに纏めた、それを成し遂げた人間がいたからこそ我々は今新たなる希望を語ることが出来る、彼女を無くしてアド・アストラは…我々の偉業は語れない

「その人は、王様じゃありませんし 貴族でもないし軍人でもない、単なる旅人でしかありません、けれど…そんな彼女が居たから 彼女の旅路と戦いがあったから、世界は救われたと言ってもいい」

ラグナもメルクリウスも アマルトもサトゥルナリアもメグもネレイドも…デティフローアでさえも、きっと彼女が居なければこうして友になる事もなく道を同じくすることはなかっただろう、世界が協力し合うこともなかったろう

たった一人の少女の旅路が、世界を救ったんだ

「だから私はここで彼女に感謝を述べたいと思います…、いいよね」
 
デティフローアは、彼女に感謝を述べるならこの場しかありえないと思っていた、アド・アストラは彼女の旅路の成果だ、彼女が作り上げた最大の偉業なのだ

それが結実するこの場しか、彼女に感謝を述べられない…いや、それ以上に伝えたいことがあるんだ!私は!エリスちゃんに!

「すぅーーー!」

大きく大きく息を吸い、体を沿って見つめるのは群衆の向こうに広がる平原…その更に向こうにいる親友の背中、その背中を押すために…デティフローアは叫ぶ、友の名と感謝の言葉を

「エリスちゃーーーーーーん!!!!」

拡声魔装を口元に当てて千里を超えるデティの声が空を割って響き渡る

「ありがとー!!、戦ってくれて!戻ってきてくれて!私と友達になってくれて!出会ってくれてありがとーーー!!、大好きだよーーーー!!!」

目をギュッと閉じて力の限り叫ぶ、この声が彼女に届き 原動力となる事を祈って、デティは彼女の最初の友人として、彼女の旅の新たなる始まりを祝うように声を張り上げる


ありがとうエリスちゃん、大好きだよ







………………………………………………………………

「さて、何処に行く?エリス、今回の旅路にはそれこそ目的すらない、まずはそこから定めて行かねばならんな」

「そーですーねー」

アジメクの平原をブラブラと歩きながらエリスと師匠は目的もなく彷徨うように道無き道を行く、今度の旅は目的もない当てのない旅、とはいえ流石に目的地を定めなければなるまい

「そうだ、エリス師匠に教えてもらいたい技術があるんですよ」

「なんだ?」

「魔力防御です、シリウスとの戦いでその強力さは痛感しました、というかあれ反則じゃありませんか?」

シリウスがエリス達との戦いで常時展開していた魔力防御、本来物理的影響力を持たないはずの魔力を周囲に展開し防御壁として使う事で物理攻撃も魔術攻撃も九割近く軽減するというデタラメな力の所為でエリス達は非常に苦戦を強いられた

だが、逆に言えばシリウスはあらゆる技術の始祖…、そうだ 奴が使っているのは神の権能ではなく人の技術、ならばエリスにだって使えるはずだ

「ううむ、そうだな…奴の魔力凝固技術ははっきり言って人知を逸した段階にあるからな、お前ではあれほどまでに高めるのは無理だろうな」

「えー、そうなんですかー!?」

「ああ、私の見立てでは限りなくシリウスに近い魔力防壁を張れるようになるのはデティくらいだと見ている」

そう言えばデティの魔力持久力はエリスの魔力操作同様達人の域にありましたからね、そっか…エリスが極めてきた技術とは別ベクトルの所にある技なんだ、じゃあ無理かな…

「だが代わりに魔力操作を応用した防御法を教えるとしよう、それには静かな所に向かう必要があるが…、行き先は何処がいい?」

「エリスも別に何処に行きたいってのはありませんが…、あ!そうだそうだ師匠!、実は先の戦いで羅睺十悪星のタマオノに会ったんですよ!」

「タマオノ…?、いや そうか…先の戦いでは羅睺も蘇ったのだったな、で?どんな恨み言を言われた」

「逆です、友達だからとエリス達に協力してくれて、その上シリウスの弱点まで教えてくれたんです、レグルス師匠を救ってくれって…涙ながらに懇願しながら」

タマオノさんはレグルス師匠の救済を願って、その命を懸けてエリス達に手を貸してくれた、あのタマオノさんの覚悟と玉砕の攻撃がなければエリス達はきっとシリウスに勝てなかった…何処かで心が折れていただろうから

そういう意味では、彼女の存在があったからこそエリス達は勝てた、そしてタマオノさんの友情がレグルス師匠を救ったのだ

「…タマオノが、そうか…そうか」

それを聞いた師匠はやや驚いた顔をしたものの、特に涙を流すわけでもなく エリスから視線を外し、静かに風に対して呟くように『そうかそうか』と口にする

「だから、最初にタマオノさんのお墓に行きませんか?、エリス約束したんですよ師匠と一緒に花を手向けに行くって」

「そうか、ならなら最初にアルクカースに向かうとするか…、仮にも奴に助けられたのだからその礼をしなくてはな」

「はい、じゃあ一番最初の目的地はアルクカースで!」

「うむ、その後はそうだな…、前の旅では立ち寄れなかった秘境へ向かうか?」

「え!?なんですかそれ!」

「私が星惑いの森に移るよりも前に、昔住処として使っていた場所だ、風情があって景色も良くて、温泉も湧いているし人里からも離れていて人気もない、静かに修行するならうってつけの場所だ」

「むしろなんでそんないいところから星惑いの森に移り住んだんですか」

「虫がよく出るんだ、イライラして手を払った結果家が吹き飛ぶというハプニングが続いてな」

「あは…ははは」

並んで歩く、二人で歩幅を合わせずして自然と歩調が合う、昔はどちらかが合わせねば合わなかった歩みが今はピタリと合う

見上げるような大きさだった師匠の頭もいつしか近づき、揃いの黒いコートを揺らしてカバン片手にエリスは旅に出る、目的はないが目標はある

いつか来る新たなる戦いに備えること、どうせシリウスは諦めてないんだ、なら…まだ戦いは終わらない、ウルキさんとの勝負も付いていないし

何よりエリスはまだ師匠に教わってないことが山ほどある、師匠を助けるって目的は達成したけど弟子として師匠に近づく使命は未だ達成出来ていないんだ

やりたいことは山ほどある、やらなきゃいけないことは沢山ある、その為にも今は強くなって行かなくちゃいけない

だから…………

「…………」

「どうした、エリス」

「いえ、ちょっと待ってくださいね」

ポスリと芝生の上に鞄を置いて、エリスは一人で踵を返し…

「分かってますよ、デティ!」

親指を立てる、聞こえてますよ…貴方のメッセージ!、なんたって貴方はエリスの親友ですからね!

だから…だから

「また再会できる日を楽しみにしています!、だからそれまで暫しの間お別れです!」

けどきっともっと強く立派になって帰ってくるので、少しの間待っていてください

エリスは必ず戻りますから、ね?

「…友への返答は済んだか?」

「はい、それじゃあ行きましょうか、師匠!」

「ああ、行こうか…エリス」

師匠の手を取り、エリスは進む

師弟で歩み続ける限り、友が背中を押してくれる限り、きっと何処までも進んでいける

なんたってエリスはもう、独りじゃないんですから


そうですね!師匠!



……………………第一部『魔女の弟子修行編』 完
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