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十章 孤独の魔女レグルス
302.魔女の弟子と羅睺十悪星の猛威
しおりを挟む一千万を超える魔女大連合とシリウスの力により無限に沸き続ける魔造兵の大進行、この両軍の激突が始まってより既に早くも三十分程の時が経ち初めていた
当初は魔造兵のおどろおどろしいフォルムと攻撃を受けてもビクともしないその特性からやや面をくらい負傷する者も多かった物の、『こいつらはこういうものだから』と割り切ることが出来てからは負傷兵の数も格段に落ちて戦線の安定化は成ったと言える
アルクカースや帝国主導の大連合、そこにデルセクトの新兵器やコルスコルピの知識 エトワールの魔術陣にオライオンの軍事力が合わさり無敵の防衛力を発揮し、当初は十分持つかどうかと疑問視された皇都防衛戦は強固な構えを見せていた
そんな強固な守りを見せる魔女大連合の防衛戦線…、どこを見ても人が張り巡らされているように見えるそんな戦線を俯瞰で見てみるとどうだろうか
…不思議な事に一部分だけ苦戦しているように見える点があるではないか、そこは配置された軍団と軍団の隙間、魔造兵の攻めを押し返すため二つの軍団が前に出たせいで偶然空いてしまった隙間があるんだ
多人数を動かしているからか 生まれてしまった必然とも言える小さな隙間、どれだけ強固に守っていても壁がなければ守る物も守れない…、人の居ないその隙間にも魔造兵は殺到しており 恐らく最も皇都に近づいているようにも見える
「ふむ…」
「んぅ?、どうしたの?タマオノちゃん」
ふと、魔造兵の波の中歩む一団が声を上げる、この一大決戦の中で唯一人間でありながら連合に属さない者達、現世に舞い戻りし古の強者達 羅睺十悪星だ
そのメンバーの人である拳天アミーがチラリと振り向きながら見るのは、目を閉じながら歩くドレス姿の女性…初代魔獣王タマオノだ
別にアミーは目を閉じて歩いたら危ないよと言っているわけではない、魔獣王タマオノは人の形をしているだけで人ではない、魔獣を統べる王にして群である魔獣を個として扱う事ができる存在なのだ…つまり
「いえ、子供達の感覚を借りて…戦場全体を見ていました」
タマオノは、今現在存在する全ての魔獣の権能と感覚を借りる事ができる、つまり今ここにいる全ての魔造兵がタマオノにとって目であり鼻であり 手であり足でもあるのだ、そんな彼女は魔造兵内部に取り付けられている魔力感知器官に意識を接続し 戦場全体を見渡していたのだ
「ふぅん、で?なんか分かった?」
「ええ、一箇所だけ守りの薄い点が見つかりました、軍と軍の隙間…人の意識の粗が生んだ必然とも呼べる隙間が」
「へぇ~」
八千年前と同じ動きだ、タマオノは世界中に魔獣を放ち その全ての目を使い全世界の情勢を察知し、その全てを他の羅睺十悪星に情報として提供する…タマオノが居る限り羅睺十悪星は動かずにして世界全てを見渡すことが出来たのだ
故に今回もタマオノの活躍により目の前に存在する巨大な防衛戦線の穴を見つけることが出来た羅睺達は喜ぶわけでもなく当たり前のようにその情報を受け取り…
「だ~とさ、どう動く?ナヴァグラハ」
その情報を処理する羅睺十悪星の頭脳にして頭目たる識天ナヴァグラハに判断を問う、ナヴァグラハは知識の権化のような男だ、何もかもを見通し何もかもを見抜く、彼の前には凡ゆる策謀は通じず羅睺十悪星の進撃を止める者は抵抗も出来ず叩き潰されるのだ
タマオノが拾い ナヴァグラハが活かす、この連携は羅睺十悪星が揃っているなら現代でも通用する戦術だ、故に羅睺十悪星達はナヴァグラハの発言に耳を傾けて
「うん、そうだね…好きにすればいいんじゃないかな?」
「は?」
帰ってきたのは殊の外無責任な言葉だった、いつもなら何をどうするかを明確にするナヴァグラハが肩を竦めながら適当な事をほざいている、もしここにウルキが居たらまただから信用ならないんだお前は無責任だなんだと騒いだのだろうが…
生憎ここに居るメンバーの中にそこまで食ってかかるほど元気のある奴はいない、故に全員が呆気を取られて口をぽかんと開ける
「どう言う意味だナヴァグラハ、お前にしては具体性を欠く言葉だ…らしくもない」
聖人ホトオリは珍しく眉間に眉を寄せて首を傾げる、それだけナヴァグラハに対する信頼は厚い、この男ならいつも答えを明確にしてくれると全員が思っているからだ、だがそんな信頼に応えるわけでもなくナヴァグラハはヘラヘラとも取れる笑顔で
「いや、別にどうでもいいのかな…と思ってね」
「どうでもいい?戦いにどうでもいいものも何もないはずだけど」
剣士スバルもまたやや不機嫌そうに口を開く、戦場を居場所として捉える彼としては面白くない言葉だったろう、そう察したナヴァグラハは慌てて訂正するように首を振り
「違うよスバル、この戦いがどうでもいいとは思っていない、ただ…私はこの戦いに於ける我々の立ち位置はさしたるほど重要なものであると捉えていないんだ」
「…つまり?」
「今はもう昔…八千年前の戦いに於ける我々の立場はシリウスの願いを叶える為命をかける同志だった、だが今は違うだろう?ウルキも言っていたように我々の立ち位置は使い捨ての一時的な戦力でしかない、故に我々の行動はどれもこの戦いの趨勢に影響はしないと考えている」
相変わらず分かりにくい奴だ、何を言っているかさっぱり分からない…が今回は少し分かる、言いたいことが、つまり
「つまり、オレ達はこの戦場で何をしても この戦いの勝ち負けに関わりはないってことか?」
「そう その通りだよイナミ、正解だ」
斧を抱えるフードの青年 壊天イナミの頭をヨシヨシと撫でるナヴァグラハの手を黙って受け入れるイナミが言うのは、つまり ここで羅睺十悪星がどれだけ必死に勝ちを求めても怠惰に戦いを拒んでも、戦いの流れは特に何も変わらないと言う事だ
「我々は昔ほど絶対的な力を持っているわけではない、そんな弱体化した我々がどれだけ足掻いても、結局戦いの行方はシリウスに委ねられる、なら何をしても結局同じだ」
「随分悲観的だな…、というか悲しい」
「ああイナミ、そんなに悲しい顔をしないでくれ、こういう時は思考を逆転させるんだよ?、何をしても変わらないなら何をしてもいいんだ、だからみんなにはこれから好きに動いて貰いたい、どこで何をしてもいいよ?何かを目指す必要はない…ただ思うがままに暴れればいい、結局生前はそこまで好き勝手出来なかったからね?ここくらい自由にしていいってことさ」
イナミの頭を撫で繰りながら指を立てるナヴァグラハの語る理屈はいつものように魅惑的に聞こえる
確かに羅睺達に生前自由はなかった、或いは自由がないからこそ羅睺十悪星になったと言ってもいい、ならばこそここで自由に力を振るうのもいいんじゃないかな?そう言われればその通りにしたくなるから彼らは羅睺十悪星なのだ
「なるほど、自由に力を振るうと言う物に経験はないが今の世の中に素晴らしく偉大な僕様の威光を示すのも悪くはあるまい、ならば行こう!皇帝の凱旋である!」
「ガーシャガシャガシャ!、つまり殺せば良いということであるな!ならば正面突撃あるのみである!我輩の得意分野故な!ガシャガシャガシャガシャ!」
「エリスは何処だ…何処にいる…出てこいエリスぅぅぅううううう!!!」
「あーあ、ナヴァグラハがあんなこと言うからバカ組が行っちゃったじゃん」
「別にいいよ、彼女達にはあれが似合っている」
突撃をかます皇帝トミテ 大鎧ミツカケ そしてエリス姫を求める狂人ハツイは魔造兵を押し退けて皇都に向かっていく、彼女達はああして何も考えず戦う方が強い…、特にトミテには命令とか願い立てとかは出来ないからああ言う風に自由にさせる方が良いのだ
「君達も好きにしていいんだよ」
「じゃあ、好きにさせてもらう」
ナヴァグラハの言葉に従う壊天イナミ 聖天ホトオリ 剣天スバルの三人もまたそれぞれ纏まらず四方に散るように何処ぞへ去っていく、本能の赴くまま 運命に流されるように、…そうだ 全て最初から決まっている、ならそのように動かすだけだ
そしてその場に残ったのは…
「で?、アミー…タマオノ、君たちはどうするんだい?」
「んー?、私は…ねータマオノ?」
「はい、何でしょうか」
「アルク姉が作った国の戦士達が沢山いるのってどっちかな」
「アルクカースの戦士達ですね、彼等は…南西の方角に」
「よーし、じゃあそっち行こうかな…、楽しみだなぁ そいつら殺した時のアルク姉の顔…」
一瞬、アミーは何かを考える素振りを見せるも 直ぐに首を振ってタマオノより情報を受け取り何処かへと消えていく、アミーはあれで義姉に似て勘がよく働く もしかしたら私の真意にも気がついたのかもしれないが、彼女は義姉と違って気を利かせたりはしない より楽しい方へと流れることを選ぶ…故に何も聞かずに消えたのだろう
よかったよアミー、君に嘘をつきたくはなかったからね
「…タマオノ、君はどうする」
「私は…ここで待機して魔造兵に指示を…」
「…………」
チラリとタマオノの視線を読む、様子がおかしいな…まさか…いやそうか、だとしたら…
「そっか、ならさっき言ってた軍団と軍団の間に生まれた穴?そちらに戦力を集中させるといい、相手の防御を崩せるだろうからね」
「ッ……!?、あ 貴方は…」
「まぁ私がそう指示しなくとも君はそうしただろうが、私から指示した方が君も動きやすいだろう?、好きにしなさい…」
「いいのですか?」
「私は…好きにしろと言っているんだ、どうせ何も変わらないからね」
「わかり…ました」
態々穴がある…なんて報告をしてくる辺りから察していたが、なるほどタマオノ…君はどうやらこの面々の中で最も生前の記憶を強く受け継いでいるようだ、魔獣に仕込まれている記憶媒体の問題か?、或いは魔獣皇子達から記憶をフィードバックされているか…ふうむ興味深い
「では私も好きに動かせてもらうよ、それじゃあ頑張って」
「…………」
タマオノの肩に手を置いてそのまま引き返す、皇都に背を向け元来た道を引き返す、このまま皇都に突っ込んでも良さそうだが 私は意地悪なのでね、ここで戦ったりはしないよ
それに今はシリウスも私達に気を配る余裕もなさそうだし、小うるさいウルキも臨界魔力覚醒に閉じこもっている、今私を縛る戒めは何処にもない、折角仮初めとは言え命を授かったのだから…仕込みに動かさせてもらう
「……ナヴァグラハ…貴方は何を…いや、今はいい それよりも前に、早く…早く魔女の弟子を見つけ出さなくては…!、そして直ぐにでもこの口に放り込んで…!」
そして取り残されたタマオノだけが、焦りを見せる、牙を剥き 真っ赤に染まった瞳で…白い息を興奮気味に吐きながら探す、全ての魔獣の感覚を総動員させて、魔女の弟子達を
それと共に、やがて魔造兵達は一つの波を作り出す、タマオノの意思に従い皇都の内部に入り込むために、魔女大連合の最中に生まれた小さな穴に
ラグナが作り上げた罠の只中へと
…………………………………………
「報告!、魔造兵達が徐々にこちらに集結しつつあるとの事です!」
「はぁ…はぁ、やっとか!」
報告に来た伝令兵の言葉が木霊するのは魔女大連合が敷いた防衛線の中で、最も守りが薄く 意図的に作り上げられた小さな『穴』、ラグナが敵をおびき出す為に作り上げた罠である腐肉の壺の底の底、最も苛烈な戦いを強いられる少数精鋭の戦場であった
「もうこんなにも敵が来てるのに、ここから更にくるわけでしょ?、ちょっとやばくなーい?」
ラグナはここの守りに三人の将と数百名足らずの手勢を預けていた、敵を誘い込む為にはここの守りは目で見て分かるほどに薄くなくてはならない、故に他とは違い重厚な援護支援が皆無のこの戦場を任されたのはラグナの信じる トップクラスの使い手のみであった
その中の一人、帝国三十二師団団長のフィリップは汗を拭うことも無く続けざまに星穿弓カウスメディアの弦を鳴らし続ける、彼の芯の強さを知るラグナと彼の実力の高さを知るエリスの二人からの推挙を受けこの場を任されはしたものの… 、内心断ればよかったと思うくらいにはこの場での戦いはキツかった
「文句を言っても仕方ないだろ!、任された仕事はやる!軍人としての最低限の義務だ!」
コートを翻し、踊るように小型拳銃を乱射するのはフィリップ同様この場を任された将の一人、デルセクトに於ける精鋭部隊 混成隊アマルガム最強の名をメルクリウスより拝命せし猟犬のシオは錬金術で銃弾を量産しながら迫り来る魔造兵の群れを食い止めていた
メルクリウスより彼の任務遂行能力の高さを聞き及んでいたラグナの期待通り、シオはその小さな拳銃二丁だけで既に数百数千の魔造兵を葬り去っていたのだ
そして…、フィリップの弓とシオの拳銃、二つの支援を受けながら この苛烈なる鉄火場の最前線で戦うのは…
「うぉぉおおおおおおおお!!!、ラグナ様ぁぁぁぁああああ!!、このガイランド!貴方の期待に応える為ならば命など惜しくはありませぬぅぅううううう!!!」
槍を振り回し、美しい金髪を血で汚しながら、誰より前で誰よりも多くの魔造兵を相手にしながら誰よりも多くの屍の山を築いている男が一人
彼の名はガイランド、アルクカース軍 王牙戦士団の第一隊長を任される男、即ちラグナの腹心たる彼もまたこの場の守りを任されていた、彼の忠誠心の高さとその強さはラグナが誰よりも知っている、お前ならばやり遂げてくれるとその手を取って頼まれたガイランドは燃え上がり 今もなお燃焼を続けているのだ
「やば…あいつ何?、自殺志願者?」
「奴はガイランド、王牙戦士団の第一隊長だ…言ってみればラグナ・アルクカース秘蔵の虎の子だ、その実力はあのベオセルクに次ぐ程だと聞き及んでいる」
ドン引きするフィリップに対し、綿密に情報交換を行っているデルセクト出身のシオは大して驚きもしない、ガイランドとはシオも何度か会った事もあるし食事の席を共にしたこともある
同じく国のトップに忠誠を誓う身として、ガイランドのあり方はシオにとっても好ましいものがある、がその性格はシオとは正反対の熱血漢…やや馬は合ってないがこの場においては頼りになる事この上ない
だが
「うがあぁぁああああ!!!、はぁ…はぁ!ぜぇ…ぜぇ!」
槍を振り回す手が止まるガイランド、流石のガイランドもぶっ続けで魔造兵の群れを食い止め続けるのはキツいらしく体力が底をつきかけている、というか既にガイランドの体は満身創痍もいいところだ
何度も爪で体を引き裂かれ夥しい量の血を汗で洗い流している状態、スタミナが切れる前に事切れそうな勢いの彼は そこまで傷つきながら一度として足を後ろに下げたことはない、後ろには治癒魔術師が控えているのに下がらないのだ
その理由は誰もが理解している、今ガイランドが引き下がったら 押し寄せる魔造兵の波を食い止められるだけの防壁がこの場には存在していないからだ、シオとフィリップの援護でなんとかガイランドが食い止めている状態…ここでガイランドが下がれば魔造兵に大きく前進させてしまう、その前進を押し戻すだけの力がない状態でそれするのはあまりに危険
それを理解しているからこそ、ガイランドは引き下がらない
「ぐぎゃぉおおおおおお!!」
「ぬぐぅ!、ここは通させん…通させんぞぉっ!」
迫り来る魔造兵、それを相手に止まる所を知らぬガイランドは倒れそうになる足を踏み締め槍を振るう、付与された武器の射程を大幅に強化する『付与魔術四式・神羅之絶』を纏った槍から放たれる斬撃は目の前の魔造兵の爪を弾き返すと同時に衝撃波だけで魔造兵の頭を潰し さらにその背後の魔造兵を数匹纏めて真っ二つに切り裂くだけの威力を見せる
「うぉぉぉおおおおお!!、この世に惜しむ事無き者だけが我が前に立て!、我が名槍の一撃にて幽世の彼方までお送りしてしんぜよう!」
頭の上で何度も槍を回転させ、竜巻の如き斬撃の雨を作り出すと共に次々と魔造兵を葬るも一向に数が減る様子がない、…ああして寄せ付けていない間はいい、だが…
「仕方ない、おい!治癒魔術兵!ポーションはあるか!」
「え?あ はい!」
今のままではガイランドが力尽きる、奴を死なせてはこの戦線は瓦解する、であるならば多少危険でも今のフォーメーションを崩すしか無いと判断したシオは治癒魔術兵からありったけのポーションを受け取り袋に詰めて最前線に目を向け
「ちょ!おいおいシオさん!あんた何処行くつもり!?、遠距離射撃で手一杯なのわかってるよね!」
そう文句を言うのは師団長フィリップだ、既にガイランドの援護でシオとフィリップは手一杯だ、どちらかが抜けたらその分敵の進撃が険しくなる…そんな事はシオだって分かっている、だが
「このままではガイランドが死ぬ、私はこれからガイランドの元に向かってポーションを届けてくる、だから私の分の援護射撃もお前がやれ」
「はぁっ!?、敵どんだけいると思ってんの!?、僕だけで手が足りるわけないじゃん!」
「だからと言ってみすみす見殺しには出来ん!、あいつが死んだらラグナ大王が悲しむ!ラグナ大王が悲しめばメルクリウス様も悲しむ!、あの方の涙を塞きとめるのが我が役目!、お前も軍人としての務めに殉じて手が張り裂ける勢いで弓を撃て!」
「あ!ちょ!…ったく!もー!」
このままガイランドを戦わせ続けるわけにはいかない、後ろに引いて治癒魔術を受けられないならこちらから回復手段を届けるしかない、故にここはフィリップに任せてシオはポーションの詰められた袋を腰に二丁拳銃を構えて最前線へと走る
「くっそ、…あんなこと言われたら僕嫌な奴みたいじゃん、…死なせたくない?死なないほうがいい?見殺しにはしない?、ンなこと分かってんだよ!バカにすんな!」
やれと言われればやる それが軍人の務め、そんな事言われずとも分かっているとばかりにシオはアロー魔術を連射した上で更に物理的に鉄矢を放つと言うか離れ業をやってのけ 走るシオに変わって二人分の仕事に挑む
「おい!、ガイランド!まだ生きているか!」
「むぅ、シオ殿…ここは私にお任せを…、最前線は漢の舞台…何人たりとも譲るわけには…」
「功を急いでいる場合か!、ポーションくらい受け取れ!」
「あ、そうでしたか…かたじけない…」
一人で戦うガイランドに近づけば近づくほどにその体に刻まれた傷の深さに呆れ果てる、服を自分で引き裂いて包帯代わりにし腕や胴体に結びつける事で傷を圧迫しているのか、包帯を取ったらバラバラになるんじゃないか?こいつ…
「ぐぎゃぉおおおおおお!!!」
「チッ、邪魔を…」
刹那、ガイランドに駆け寄ろうとしたその瞬間に目の前に立ち塞がるように頭を持ち上げるのは魔造兵、ガイランド一人でカバーしきれなくなったのがこちらに漏れ出てきているのだろう
このまま無視も出来まい、ここで仕留めるか そう両手に構える二丁拳銃の安全装置を外し魔力を滾らせ起動させる、シオに与えられた特別な錬金兵装を…
──混成隊アマルガムはメルクリウスの審美眼により各分野のエリート達がその立場ではなく実力のみを評価され起用される精鋭部隊である、アマルガムに所属する人間は全員何かしらの天才だ
経理の天才や軍務の天才、大商会の御曹司や執政の腕を買われた王族の三男坊などほぼ全ての分野に特化した人間だけが集められていると言える、そんな中 シオが担当するのは荒事…つまり、数少ない純然たる戦闘要員なのだ
とはいえアマルガムのメンバーはその大半がメルクリウスへの忠義から肉の体を捨て鉄人駆動によるサイボーグと化して居る為みんな戦えないわけではない、それでも彼が戦闘要員として置かれているのはその上で彼が最も強いからだ
アマルガムのメンバーで唯一、肉の体を保ったままで 最強と呼ばれているからだ
「『錬金機構・ヘルメスユニット』起動…!」
彼は鉄人駆動による肉体改造を受けていない、それは彼が改造を拒んだからではない、未だサイボーグ技術を持ってしても彼の脳が放つ反応速度に鉄の体では追いつけないからだ
故に彼には特例とも言える錬金機構がメルクリウスの一存により与えられている、それがその両手に持つ黄金の拳銃に搭載された第三世代型錬金機構ヘルメスユニット
別名『多段錬金弾』である
「『Alchemic・bomb」!」
彼が放つ弾丸は錬金機構により変化する、弾丸全体が爆薬と化して着弾と共に炸裂し大砲の一撃と同程度の威力を叩き出す…と、ここまでは通常の錬金機構による攻撃と同じだ
だが
「ぐぎょぉっ!?」
シオの弾丸を受けその爆裂により体を吹き飛ばされる魔造兵の肉体の残骸が周囲に飛び散ると同時に残骸もまた爆薬へと変化し更に爆裂し当初の爆発からは考えられないほど巨大な火柱を上げて周囲を破壊する
これがシオの持つヘルメスユニットの力、錬金により弾丸のみならず弾丸が着弾した物体もまた別の物質に変換する能力を弾丸に付与する
これこそがシオの持つヘルメスユニットに付随する能力、…その十二ある異能の一つである
「退け!肉塊どもッ!!」
一瞬の目配せ一つで相手の位置を全て把握したシオが放つのは高速の金閃、それを怒涛の勢いで連射し群がる魔造兵の頭を打ち抜き融解させる、これもまたヘルメスユニットに搭載された『物質分解機構』と呼ばれる錬金機構にて鉛玉を分解し熱エネルギーへと変換、それを光線として放つ機能がシオの卓越した反応速度と超越した銃の腕により死の雨と化す
「私の道行きは誰にも邪魔させん!」
今度は銃弾を地面に打ち込み大地を鳴動させる、打ち込まれた弾丸が地底で変形し鉛の刃となって地面を切り裂き魔造兵達に襲いかかる、これもまたヘルメスユニットの機能の一つ…
合計十二の機能を詰め込まれたデルセクト兵器開発局屈指の傑作、たった一人で凡ゆる戦場で凡ゆる敵を破壊する事を目的に作られた鉄人駆動とは別ベクトルの試み、それこそがヘルメスユニットであり 今現在その使用を唯一許されている男こそが、シオなのだ
「ぬっ…シオ殿、中々やりますね…!貴方の活躍を見て此方も滾ってきましたぞぉぉおおお!!!」
そして何故かそれに触発され今再び血を吹き出しながら槍を振り回すガイランドの猛攻により崩れかけた戦線を立て直して見せる、最早限界を超えているであろうに…忠誠心と闘争心だけで戦い尽くすガイランド
しかし
「ぐっ!?ぐぎゅぉっ!?」
「ぬっ!?な…なんだぁっ!?」
槍を振るうガイランドの体が迫る魔造兵の体に思わず押し退けられ後退する、初めてガイランドが押されたのだ、…それほどまでに消耗していたのかとシオは一瞬青褪めるが、様子が違う
これは…
「増援か!」
魔造兵がこちらに一気に集中し殺到し始めている、先程の伝令の言葉通り敵がこの穴の存在に気がつき戦力を一局化させ防衛戦線を突き崩そうと戦力を集中させてきたのだ
それにより魔造兵達は望む望みない関係なく後ろから殺到する別の魔造兵に体を押され結果として先程までとは比較にならない突破力を発揮しているのだ
「ぐっ!、クソ!これは…!」
敵の集中を受けガイランドも焦って槍を振るい迫る魔造兵をきりはらうもら、まるで玉ねぎの皮の様に剥いても剥いてもまるで意味がない、倒れた魔造兵を押し退けまた新しい魔造兵が後ろから現れるだけ…これではもう手負いのガイランド一人では止められない
「おい!ガイランド!使え!」
「む!?これは!、有難い!」
咄嗟にポーションの詰められた袋をガイランドに投げ渡せば、ガイランドは袋を受け止める様な真似などせず槍の一振りで叩き斬り、溢れた濃緑の液体を頭から被り…
「うぅぅぅぅうおっしゃぁああああ!全回復ッッ!!」
頭からポーションを被り回復してみせたガイランドは再び足を前に進めたった一人で数万…いや、恐らくその総勢を数えれば数十万にも及ぶであろう魔造兵の波を食い止めるため槍一本で戦いに向かう…だが
だが…
(押し止められない…!)
シオは内心で悟る、敵の勢いは最早強制の域にある、最前線の魔造兵はもう後ろから押されて無理矢理前へ進められている状態だ、それをガイランドたった一人では押しとどめられない…それはここに守りを任されている人間全員で押しても太刀打ちは出来ないだろう
あれはもう群ではない、一つの強大な意志の下に動かされる一つの個だ…まるで何者かが魔造兵の意識を乗っ取り動かしているかの様な統率ぶりはさっきまでの猛攻とはレベルが違う勢いを見せている、超巨大な腕の様に動くアレを我々の小さな手でどうやって止める
「ぐぅぅぅうおおおおおおおおお!!!」
「シオォッ!!ボーッとすんなぁ!」
「っ!」
はたとフィリップの咆哮に眼を覚ます、何を考えていた?今私は何を考えていた、まさか諦めようとしていたんじゃないだろうな…!
守り切れないとか 押し止められないとか、そんな分かりきった結論は今はいらない、ここはなんとしてでも死守しなければならないのだから
「チッ、情けない…!」
拳銃を構え直し 考える、敵がここに集中始めているということは他は手薄になっているはず、ならばもう腐肉の壺は発動しているだろう、他の守りについている軍団も直ぐに展開されこの魔獣の群れを閉じ込める様に動くはず…つまりこちらの増援も直ぐにくる、その時まで奴らを皇都の外に留めていればいいだけ、押し負けても 止められなくても…ただただ時間を稼ぐだけでいい
ならば
「フィリップ!、ここにいる全部隊を動かし前へ!、全員で魔造兵の群れと押し合う!」
「バカ!勝てるわけないだろ!そんなことして!」
「それでもいい!、治癒魔術による治癒と数による援護でひたすらに粘るんだ!、奴らの進軍速度をほんの少しでも緩められればそれで!」
後方で援護を行う部隊を前に出し 皇都と魔造兵の間の緩衝材とする、奴らの群れに攻撃を繰り返しこちらも緩やかに後退すれば、それだけ奴等の進軍スピードは落ちる…
例え皇都の壁と魔造兵の波に挟まれ押し潰される結果になろうとも、援軍到着まで持ち堪えられればそれでいいのだ
最早策謀とも呼べない安直な対処法でしかないが、今はこれしかない
「チッ、御託並べてるけど結局総力戦で死にに行けって言ってる様なもんじゃないか!、けど…ごめんねみんな!僕その意見に乗るよ!、死んでもここを通さないって皇帝陛下とエリスに誓っちゃったからさ!」
それが無茶なのはフィリップだって百も承知、だが無茶でもやらなくてはならない状況なのだ、…元々ここが死地である事はみんな理解しているんだ、その上で拒否権を与えられながらもここにきてるって事は全員死ぬ覚悟が決まってるって事なんだ
だったら…
「よーし!最後の一踏ん張りだ!、全軍突撃ー!、援軍が来るまで持ちこたえろーっ!」
「ぉぉおおおおおおお!!!」
最早後方援護などに意味はない、全員が剣を持ち 槍を持ち、七ヶ国の兵士入り乱れる混成部隊は皆一人として恐れる事なく魔造兵の波にぶつかり食い止める様に戦いを挑む
ここでどれだけ持ち堪えられるかが、世界の命運を分けるのだ
「総力戦だ、出し惜しみをするなよ!」
「分かってるよ!、だから弓兵も前に出てんだろ!」
一瞬の間に最前線へと突っ込んできたフィリップは軽口を叩きながらも飛びかかり、足が地を蹴り もう一度大地に足をつけるまでの間に数十もの弓を放ち次々と迫り来る魔造兵を仕留めていく
「ぐぎゅぉおおおおおお!!!」
しかしそれでも止まるところを知らぬ魔造兵は爪を振るい虐殺の津波と化して防衛部隊に襲い掛かる、その突破力と破壊力の高さはこの場にいる誰もが経験した何よりも凄まじいものである事は言うまでもない
「抑えろッ!先に行かせるなッ!」
そんな魔造兵の爪を弾き返しその胸に剣や槍を突き立て少しでも数を減らそうと、その歩みを後ろに下げようと兵士達は懸命に戦う、爪と剣が何度もぶつかり合う…もうそこには策も何もない、ただただ純然たる意地の張り合いが繰り広げられる
「ぐごぉぉおおおおおお!!!」
「ぅおおおおおおおおおおお!!!」
人と獣の押し合い、数で言えば魔造兵が勝る 単騎の実力では魔造兵が勝る 勢いでは魔造兵が勝る、全てにおいて敵方が勝る中 それでも踏みとどまる戦士達の血の滲むような戦いは続く
「はぁっ!どりゃぁぁっ!」
その最前線で相変わらず戦い続けるのはガイランドだ、傷は治っても体力までは回復していないその体を懸命に奮い立たせ、血みどろの体で包帯で無理矢理繋ぎ止めた槍を振り回し食いしばった歯が砕けるほどの勢いで魔造兵の群れを相手取る
総力戦だ、消耗戦だ、死力を尽くす決戦だ、全員の瞳に炎が照る 全員の体が一つの壁となり世界を守護する壁と化す
「ぐぎゅお!」
「ぐぅっ!?」
しかしそれでも限度がある、そもそもこの戦いはそれそのものが不利である、魔造兵を食い止める兵士たちはその爪に引き裂かれ一人 また一人と倒れ…
「『ヒーリングオラトリオ』!、傷は私達が治す!だから頼む!立ってくれ!」
「言われずとも…!」
それでも立ち上がる、背後から飛んでくる治癒魔術に体を癒され再び立ち上がる、止めどなく続く痛みと苦しみの中にありながら誰もが相手を恐れない、そんな兵士達だけがこの場に集められているんだから
「うがぁぁぁああああ!、ぜえ…ぜえ…!まだまだぁ!」
「無茶をするな!ガイランド!」
「例え無茶でもやらねばならぬのです!、王は苦渋の決断として我らをこの場に送ったのです!、ならばこそ!その気概に答えるのが臣下の務め故!」
王の期待に応えられずに生きるより、王の期待に応えて死のう…そう語るガイランドの姿に圧倒されたのはシオだけでない、死にかけ虫の息であるガイランドの猛威は確かに魔造兵の波を押しとどめている
(これが…真の忠臣か)
「うぉぉぉおおおおおおお!!!」
血の雨を浴び、自らもまた傷つき、もうそれが相手の血か自分の血かも判別の付かない程に全身を赤く染めながらも立ち続けるガイランドの背中に、シオはこの男の評価を改める
なるほど、確かに王に信頼されるわけだ…
「おいガイランド」
「はぁ…はぁ、何ですか!」
「お前一人に最前線は任せられん、故に分担するぞ…右はやる 左はやれ、いいな」
「……シオ殿」
最早この男の歩みを止めはすまい、ならば少なくともこの男に並ぶだけの活躍を見せねば…私はメルクリウス様に合わせる顔がない、そうシオはガイランドの隣に立ち、共に傷つき戦う道を選ぶ
「さぁやるぞガイランド、例え我ら死すれども…その屍の上に明日の蕾が開くと信じて」
「ええ、我らが流す血の一滴さえも…王の為 王の目指す未来の為、捧げる覚悟はできております!」
この戦いは決死のものだ、死は前提のものだろう、だがそれも理解の上 覚悟の上、ならば恐るものはない、二人の男は共に槍と銃を構え…今目の前に迫る魔造兵の海に飛び込む覚悟を決め
そして今──────
「ガシャーーーーーーンンッッ!!!」
「なっ!?」
刹那、巨大な銅剣の一振りにより目の前の魔造兵が根こそぎ薙ぎ払われガイランドとシオの足がたたらを踏む、今まさに戦いを挑もうとした対象が吹き飛んだのだからそりゃあ驚きもする
だが助かった、ようやく…ようやく援軍が到着して…
いや、違う…この剣は、正面から伸びている…つまり、これは…
「ガシャガシャガシャ!、魔獣の波に流されて来てみれば!、いるわいるわ敵がいるわ!、ようやっと戦えるか!ガシャガシャガシャ!」
「なんだ…こいつは……」
目の前に突如として現れたのは、周囲の魔造兵達を雑草の様に刈り取る巨大な鎧の魔神であった
計八つの腕を生やし 鬼のような様相の兜をした、巨大な鎧…その全ての手に野太い銅剣を握りゲタゲタと笑う気色の悪い存在が現れ思わず息を飲む、味方ではない…こんなの連合軍にいなかった
とするなら、これは…
「まさか貴様…羅睺十悪星か」
「んん?、如何にも!我輩は羅睺十悪星が一天!究極不死身の最強大魔神ミツカケである!、お前達を殺しに来たぞ!ガシャガシャガシャ!」
報告にあった蘇りし羅睺十悪星の一人、不死身と謳われる魔神 ミツカケ、敵が用意した主力…つまり
ここに来て、敵の増援ということだ…最悪なことに
「んぉっ!?、なんだもう敵城は目の前ではないか!なんという僥倖!、おいそこを退け!我輩はその奥にある物に用がある!」
「行かせるわけがないだろう…!、『嘶きの金閃』!」
シオ達を無視して皇都の壁へと歩き始めるミツカケを止める為、その足 肩 腕を貫くシオの黄金の閃光、それはミツカケの体を容易く貫き背後の魔造兵達を焼き尽くす…
敵に援軍が来たとしても、それがどれだけ使ったとしても、ここから先に行かせてはいけないのは変わらない、故に一切戸惑うこともなくシオはミツカケであっても攻撃を仕掛ける、すると
「んお?」
ミツカケは見る、シオの光弾丸により穴の空いた肩と足を…そして
「んおおおおおお!?!?、わ 我輩の無敵の体が貫かれてるう!?あんな攻撃物ともしない伝説の鎧であるはずなのに!?そんなぁっ!?」
「…存外脆いな」
体に穴が空き嘘だ嘘だと暴れ狂うミツカケを見て、ふと思い出す…そう言えば蘇った羅睺十悪星は大幅に弱体化していると魔女様達が言っていた、恐らく復活は完全なものではないのだろう…、確かに本来の肉体ならシオの攻撃くらい防ぐだろう、事実ミツカケもそう思っていただろう
だが、実際はそうじゃない…弱まった肉体にまだこいつらは慣れていない、なら…行けるか!
「ぬぁぁぁああ!!、よく見たら鎧がくすんでいるぅ!?まさか八千年の時で朽ちたとでも言うのかぁ!?、い 急いで新しいのを調達しなくては!?だがこの伝説の鎧に匹敵するものなどそう易々と見つからぬし…ぐぁぁぁあああ!!!」
「これは、存外行けるやもしれんぞ!ガイランド!、このまま攻めるぞ!」
「いや待てシオ殿…、おかしいぞ」
慌てふためくミツカケに追撃を仕掛けようとするシオを手で制し何かがおかしいと口にするガイランドが見つめるのはミツカケの体だ、何がおかしいと言うのか?肩を撃ち抜かれて慌てるのは当然のことで…ん?いや待て?、そう言えば
「おかしい、血が出ていない…」
ガイランドは見る、撃ち抜かれたその部位から血が出ていない事に、…いやと言うか、元気すぎないか?、肩や腕を貫かれてる慌てるのは分かるが…こいつ今まで一度として痛がっていないぞ
「ぐぁぁあぁあ!!くそぉぉぉお!!お気に入りの鎧であったと言うのに!、あーあー!こんなに大きな穴を開けてからに…!」
「なんだアイツ…」
「分からん、だが…来るぞ!」
どう言う原理か、どう言う理屈か、傷をつけたのに血を出さず 痛みも感じず、鎧の心配ばかりしているミツカケに言い知れない恐怖を感じる、まさかこいつ…本当に不死身なのでは
「ええい許さぬ!、まずは貴様から殺してくれん!」
「くっ!、『Alchemic・bomb』!」
痛みを感じずシオ達に敵意を示すミツカケは八つの腕と八本の剣をシオ達に向ける、その瞬間牽制するように爆薬と化した弾丸を即座にばら撒き牽制するも…
「遅いわ!」
「なっ!?」
あの巨体からは想像もできない程機敏な速度で走り抜けるミツカケは飛び交う弾丸全てを正面から回避しシオの胴体に鋭い蹴りを放つ、鋼鉄で出来たその足から繰り出される一撃は容易くシオの骨を砕き内臓を破裂させる
「ぐぶぅっ!?」
「シオ殿!くぅっ!貴様ぁっ!」
「小賢しい!」
槍を片手に飛びかかろうとしたガイランドよりも早く反応したミツカケはブルリと体を震わせ その腕を薙ぎ払う、片側に四つ取り付けられた腕が翼のように振るわれ放たれる四連斬はガイランドではなくその足元の地面を削り取るような軌道で飛ぶ
直撃はしていない、だと言うのにその行動一つで放たれた衝撃波だけでガイランド含め周囲の魔造兵が纏めて諸共吹き飛ぶのだ
「ぐぁぁぁあああああ!?!?」
「まずは貴様から殺して…」
「『サウザンドアローレイン』!」
吹き飛ばされ全身から血を放ち倒れるガイランドにトドメを刺そうと動くミツカケの体に降り注ぐ魔力矢の雨は、その全てがミツカケに命中し剣山のように全身をくまなく突き刺して回る
「ぐぁぁ!また我輩の美しき体に穴が!」
「チッ!くそ!、こいつも不死身ぃ!?」
しかしまたも鎧の心配をするばかりで痛がりもしないミツカケに舌を打つフィリップ、シオとガイランドというこちら側の主力がものの数秒で倒された事実に顔を蒼褪めさせながらもこの場での最善手…つまり、最も恐ろしい敵への攻撃を行うも効果が見られない
こいつもまたヴィーラントのような不死身かとも思いもしたが、少なくとも奴は痛がっていたし血も出ていた、対するこいつは痛みもなければ血も出ない…アレよりも最悪なやつが相手かよと泣きそうになりながらも弓を構える
「貴様かぁ~!、我が鎧を傷つけた不届き者は!」
「そんなに大切な鎧なら部屋にでもしまっとけよ!」
「鎧を部屋に?何を訳の分からんことを言っておるか!死ねぇぇぇぇ!!!」
八つの腕を振り回しまるで大地を耕すように何度も地面に打ち付け砕きながら迫るミツカケに向け容赦なく矢を加えるも、ダメだ…止まらない、まるでどれだけ傷つけられても効果がないように進むミツカケは一瞬でフィリップに迫り…
「死ねぇぇぇ!!!ゴミカスがぁっ!!」
「くっ!」
「やめろっ!『Alchemic・bomb』!!」
「ッッ!?!?」
刹那、剣を振り上げたミツカケの体に爆薬が放たれその体が揺れる、見れば先ほど吹き飛ばされたシオが治癒魔術師から治癒を受けながら銃を構えているではないか…、治癒されているとは言え未だ激痛に苛まれているであろうに、その弾丸は一切ブレる事なくミツカケの体を爆炎に包み
「お…おおお!?!?」
バランスを崩すミツカケが見るのは、シオの爆撃を受け落ちる自らの腕…、右側の内二本の腕が中頃からへし折れ地面に落ちるのだ、それほどまでに鎧が朽ちて脆くなっているという事だろう
だが…だが、やはりミツカケは痛みを受ける様子もない、それどころか…
「なんだそりゃ…」
問題は、落ちたミツカケの腕の中に 何もなかった事…だろうか、落ちた籠手の中にも 腕があった部位にも何もない、それどころか傷つけられて開いた穴の中には…
何もなかった、目の前で動いている鎧は 中身のない伽藍の存在だったのだ
「どういう…事だよ、中身は…」
「んぐぅ…許せぬ、我輩のお気に入りの鎧をこうも傷つけおってぇ!」
空っぽの鎧は一人で動き出し、落ちた腕を拾い上げ 元あった場所に無理矢理食い込ませると、また再び欠損したはずの腕が動き出したのだ、最早理屈が分からない これはどういう存在なんだ…鎧のお化けと言われた方がまだしっくり来るぞ
「許さぬ許さぬ…!!!」
ガシャンガシャンと音を立て屹立する八腕の魔神は八つの刃を立てその兜から紅の輝きを溢れさせ…
「貴様ら全員惨たらしく殺してくれる…、『骸神勅令』!」
轟くミツカケの咆哮、治癒魔術を半端に終えて立ち上がるシオと弓を引き絞るフィリップに挟まれてなお轟々と口に当たる部分から耳を劈く様な甲高い金属音を発し それが大地に残響すると同時に、それは突如として巻き起こる
「…ん?おお!?なんだ!?」
「うわっ!?なんだこれ!」
刹那、周囲の騎士や戦士達の鎧や籠手 剣や装備が独りでに動き出し、所有者の手から無理矢理離れると共にその全てがミツカケの元に集い…、蠅のように群がると共にそれらが組み合わさり中身の居ない無人の鎧騎士が数十体も地面に降り立つのだ
中に人はいない、今のミツカケと同じく中に人はいない、だというのに鎧はその足で大地に立ち強く剣を持ち…兜の奥から眼光の如き輝きが現れ
「ガシャガシャ!新生我輩新たに誕生!」
「は?」
「うぅむ!低品質な鎧であるが致し方あるまいよ!文句は言うまい!」
声がする、動き出したこちらの鎧達からミツカケの声が、数十体もの無人の鎧達がミツカケと同じ様に喋り ミツカケと同じ様に動き、ミツカケの様に振る舞うのだ…
まさか、…増えた?増えたのか?
「我輩軍団完成!、これで貴様らを殺す!覚悟するがいい!!」
「おいおい…、そりゃちょっと反則じゃなあい…?」
恐らくはアレがミツカケの力、相手を強制的に武装解除させ その武装で新たな自分を作り出すことが出来るのだろう、つまりミツカケを相手にいくら武装しても いくら数を揃えても、意味がないって事じゃないか…
こんなもん相手に戦争仕掛けるなんて出来るわけがない
「知るか!闘争に卑怯も何もあるわけがないのだ!ガシャガシャ!、さぁ行け!我輩!」
「命令をするな我輩!お前が一番いい装備だろう!」
「何を!?、我輩の鎧はお高いのだぞ!?」
「喧しい!我輩はシリウス以外の命令を受けん!、例え我輩自身であってもな!」
「キィー!喧しいのはお前だぞ我輩!今さっき生まれた若輩の癖をして!先輩に従わんかい!」
「………………」
なんか…自分同士で喧嘩してるぞ、自分の配下が増えたわけじゃなくて本当に自分が増えてるのか…、ますますどう言う存在なんだアレは
「分かった!では命令ではなく一斉攻撃ではどうだ」
「ううむそれならば良いか、どの道我輩も敵は殺すつもりだし」
「よしよし、ならばその方向で…」
「っ!やべ…」
なんか話が纏まりつつあるぞ、結局は自分同士だから話し合いも早い!、慌ててフィリップは弓を用意し…、その弓よりも早くミツカケ達は動き出し
「突撃ぃぃぃいいいい!!」
「くっ!、武装を奪われたものは後ろに!銃や弓は取られないみたいだ!それで援護を!僕は…」
迫る敵を前に貴重なワンアクションを使い部下への指示を行うも、その一瞬が仇となる
ミツカケに向けて弓を放つも、数十体もいる小型のミツカケは恐ろしい速さでフィリップの弓を全て回避し剣を突き立てる
こいつら全員オリジナルのミツカケと同じレベルかよ!?そんなのアリ!?、自分と同程度のコピーを無限に生み出せるとか…そんなのにどうやって勝てば…
「まず一人ぃぃぃ!!」
「ぐぅっ!?」
煌めく閃光の如き幾多の刃がフィリップの体を貫く、超人の如き身体能力を発揮する鎧達の突撃は師団長たるフィリップの速度を遥かに上回り その矢の雨さえも容易く防ぎ避けて、刃を届かせたのだ
回避不可の刺突を受け、体に空いた複数の穴から血を吹き出し フィリップの体は地に落ち血に沈む
「ガーシャガシャガシャ!、弱まったとは言えこの程度造作もないわ!」
他の兵士たちも懸命に銃撃や射撃を行いミツカケに攻撃を仕掛けるも、最早飛び道具には当たらないとばかりに軽く腕を振るって風圧だけで全てを退けるミツカケは笑う
──これこそが羅睺十悪星が一天、究極不死身の最強大魔神ミツカケの力、八千年前猛威を振るった力の一端だ
何度倒しても、何度体を引き裂いても、またすぐに別の鎧となって復活する様はまさしく不死身、おまけにどんな鎧でもミツカケが使えば魔女級の強さを発揮し際限なく増えていくのだから手のつけようがない…、魔女達の前に何度も現れ何度も苦しめたのがミツカケなのだ
ミツカケと深い因縁を持つフォーマルハウトも、ミツカケの正体をしてこういったと言う
『あれは、魔力と言う概念が生んでしまった怪物…人の飽くなき欲望が作ってしまった存在、恐らくこの世で唯一と呼べる程に異質な力を持った人間がミツカケなのです、だからこそわたくしはあの子を救わなければならない』…と
最後の最後、世界の存亡を賭けた戦いの最中でミツカケと決着をつけたフォーマルハウト以外誰もミツカケを倒した事がないのだ、ミツカケを救うことが出来たのは有史以来フォーマルハウト以外…誰も
「ガシャガシャガシャガシャ!!」
「くっ、フィリップ!…生きているのか、アイツは…!治癒魔術師班!急いで治療を!」
「しかしシオ様は…」
「私はいい、早くしろ!」
シオは血を吐きながら立ち上がる、立ち上がらねばならないからだ、既に戦線は瓦解した ミツカケの存在によりここの防衛は破綻した、ミツカケたった一人に壊滅させられたのだ
防御を行う兵士武器を奪われ、ミツカケの力の対象外だった銃などの飛び道具以外剣も鎧もない状態、これでは魔造兵と戦えない
それどころか下手したらミツカケ一人に皆殺しにされる可能性がある、フィリップが倒れガイランドが戻らない今この現状で戦えるのはシオただ一人だ…、故に 戦わねばならない
だが、勝てるのか?あいつに…
「ガシャガシャ、さて…次はお前だ…」
ミツカケ達が一斉にシオの方を向く、今度はシオを殺すとばかりに…こちらもそのつもりだから構わないが…どうする、何をどうすれば止まるんだあれは
やはり最初に現れたあの巨大な鎧を倒すべきか?いやだがあれも他の鎧と同じように中身がなかった…と言うことはあの大鎧もミツカケの力で動いているだけで他と同じなんじゃないのか?、だとしたらこの場にいるミツカケ全てを倒しても意味なんかないんじゃ…
くそっ!魔女様達は八千年前にアレをどうやって倒したんだ!せめてそれくらい教えておいて欲しかったぞ!
「お前の術には見覚えがある、お前…錬金術の使い手だな?」
「は?…、だとしたらどうする」
「ぬぐぁぁあああ!!錬金術!忌々しい!、それはフォーマルハウトの術だ!奴は我輩の宿敵だ!、宿敵と同じ術を使うお前が再び我が鎧を傷つけた!…許せぬよなぁ!」
こいつ…フォーマルハウト様を知っているのか!?まさか八千年前こいつを倒したのはフォーマルハウト様…
「死ねぇぇぇえ!!フォーマルハウトの力を使う者よぉぉぉお!!」
「ぐっ!『轟きの砕刃』!」
突っ込んでくる鎧達に向け咄嗟に放つのは銃弾 ただし相手は鎧ではなく地面だ、打ち込まれた弾丸は種子のように地面の中で変化し隆起する岩刃として迫ってくるミツカケ達に襲いかかる
流石のミツカケもこれには対処出来なかったのか二、三体程岩刃に貫かれその鎧は粉々に砕け散り動かなくなるが…それでも潰せたのは何十分の一程度、他は全て岩刃を乗り越え走ってくる、反応速度もオリジナルと同じ…そしてその速度も…!
「二人目!」
「やらせるか!私はメルクリウス様の配下だぞ!」
噛みつくような勢いで剣を突き立てるミツカケに向け放つ銃弾は目の前で炸裂しミツカケの鎧を吹き飛ばす、二丁拳銃をくるりと回し目前に迫るミツカケの群れに狙いを定め
「錬金機構並列使用!『嘶き轟く砕閃』!!」
高速で放たれる光の弾丸はミツカケに命中すると同時に拡散、まるで鏡に当たり乱反射する光のように放たれるのは黄金の熱閃、触れれば融解し拡散する蜘蛛の巣の如き一斉掃射、射線どころか数段先の反射角さえも計算して射たれるシオの射撃能力の高さを物語る絶技を前に次々とその体を撃ち抜かれるミツカケ
やはり、とほくそ笑むシオの読みは正しかった
(こいつ、身体能力はエゲツないが防御面は大したことないぞ)
その身体能力の高さは確かに古の絶対強者の片鱗を窺わせるものだ、だが翻って防御面はどうだ?魔女と渡り合った者であると言うのにもかかわらず矢や銃弾は防御し回避を行う、剰え当たれば穴だって開く、どうやらこいつの防御力は鎧依存のものらしい
悪いが鉄の鎧くらいなら我が錬金機構で打ち砕く事は出来る、そして無駄に数が増えたからさっきみたいに縦横無尽には動けない!、これで数を減らす!
「消えろ!ここはお前達の時代ではない!」
「ガシャーン!?我輩が邪魔であるー!?」
シオの読み通りシオ一人に特に連携を取ることもなく群がったミツカケ達は互いに互いの体が邪魔をして回避もままならず次々と熱閃により体を撃ち抜かれ融解していく、これならば…
そう、シオの気が一瞬緩んでしまう、次々と倒れる格上を見て 己の力が通用する所を感じてしまったが故の安堵…そこから発生する油断
だが忘れてはならないのは、ミツカケはいくら弱くなって本来の力を失っても間抜けな振る舞いを見せても、その実 八千年前は幾度となく魔女との戦いを繰り広げた歴戦…シリウスと出会う前は数百の戦場を渡り歩き虐殺の限りを尽くした存在であることを、つまり…シオ以上に経験豊富な大ベテランであることを シオは失念していた
「ガシャーン!?このままではー!?」
「よし…!、粗方減らした!次は!」
目の前の鎧を粗方片付け終わり次の攻撃に移ろうとした瞬間だった、目の前で破砕した鎧の手足が四方に飛び交い…そのうちの一つ、剣を持った右手が無造作にシオに向かって飛んだかと思えば…
突如、剣を持ったその籠手が空中で静止し 腕だけになりながらその剣を振るったのだ
「なっ…!?」
驚愕の声を上げる、腕だけになっても動くと言う事実に それを今までひた隠しにしてシオの油断を誘っていたことに、それより何より …
振るわれた剣がシオの左腕を肩から切断したことに
「ぐぅっ!?」
「銃が一つ減ったなぁ!、錬金術師!!」
悲鳴を咬み殺すシオに続けざまに小型のミツカケが襲いくる、左腕を失い二丁あった銃の片方を失い致命傷を負いながらも咄嗟に後ろに飛ぶ、自分の左腕が地面に転がり水音を立てるのを無視して今はただ目の前に迫るミツカケだけに集中する
一瞬で極度の集中状態に入ったシオは痛みも忘れ考察する、どうするべきかを
(腕を失った、もう先程までの攻撃は行えない、かといってこいつを振り払える運動能力も今はもうない、防御手段も回避手段も無い…最早これまでか、ならば無駄に足掻くよりもいっそ自爆の一つでもしてやるか)
最早任務の失敗は免れない、ならばせめて一太刀…命をかけてこいつらに報いいるしか無い、ヘルメスユニットに搭載された複数の錬金機構を暴発させれば 少なくともこの場にいるミツカケ全て吹き飛ばすくらいの事は出来る、そこからフィリップ回復までの時間持たせることが出来れば…
「死ぬがよい!)
(っ…思考している暇はない!)
メルクリウス様、貴方に拾ってもらったこの命!せめて貴方の道行きの露払いに使わせてください!、そう心の中で祈るように唱えたシオは片腕だけでヘルメスユニットを起動させ…目の前のミツカケを巻き込むように、寧ろの白刃に身を晒し
最期にもう一度、心より敬愛を捧げる彼の方の顔を思い浮かべ、死出の旅へと赴かん…
「フッッ!!」
「ガシャーン!?」
刹那、私の目の前から鎧が消えた
代わりに、別の獣が現れた…
「え?…」
何が起こったか分からない、けれど…私は咄嗟の出来事に気を取られ、暴発しかけた錬金機構の炉心を即座に鎮め…目の前の獣を注視する、何が起こったのか…
それは目の前に現れた獣が一瞬で私の目の前にいる鎧たちをなぎ倒し、私に斬りかかるミツカケをもその足で蹴り砕いたからだ、…助けられたのか?この獣に
いや、違う…こいつは
「ガイランド…生きていたのか」
「ふぅ…ふぅ…」
「ガイランド?」
ガイランドだ、アルクカースの戦士ガイランドが助けに来てくれたんだ、けれど様子がおかしい、こちらの呼びかけに応えず それどころか滾る血潮が血管を浮かび上がらせ、その瞳からは理性の光が消えている
まさか、これがアルクカース人特有の能力 争心解放という奴か?、脳内物質を意図的に多量分泌することにより身体の枷を外し、理性と引き換えに圧倒的身体能力を得るという…、情報には聞き及んでいたが実物を見るのは初めてだ
まさか、争心解放を行いここまですっ飛んできたのか?、私を助けるために…いや、ミツカケを倒す為に
「ふぅー…ぅうううう!!」
「待てガイランド!私も…ぉ…?」
ミツカケに向け一人で突撃を繰り出すガイランドの背中に伸ばした手が地面を掴む、前に出したはずの足がずるりと滑り、気がつけば私は倒れ伏していた…あれ?視界が回る、ああそうか…忘れてたけど私、腕を切られて…血が…
だ ダメだ、ここで倒れるわけにはいかない、ガイランドを一人で戦わせるわけにはいかない、ここでフィリップに続いて私まで倒れたら…この戦線が…
ダメだ…ダメだダメだダメだダメだダメだ
ダメ…なのに、瞼が吸い付く…意識が落ちる、ダメ…だ……死ぬな
死ぬな、ガイランド
「ぅぐぁぁぁぁああああああ!!!」
「ガシャガシャガシャガシャ!勇猛な事よ!、であるが…蛮勇は身を滅ぼすのみぞ!!」
鎧から奪った槍を片手に飛びかかるガイランドと、それを迎え撃つ幾多の羅睺
向けられる白刃、轟く雄叫び、踏み荒らす大地と魔獣の雄叫び、最大の窮地を目の前に…私の意識は
闇へと落ちた
………………………………………………………
「シオ…シオ!、起きなさい!シオ!」
それから、どれほどの時が経ったのか…、深い闇に落ちていた私の意識は…聞きなれた声により無理矢理覚醒させられる
「っ!?…」
開かれる瞼、同時に走る全身の激痛と倦怠感に眉を顰めながら自身の脈を確かめる、…生きている
間違いなく死んだと思われたあの状況の中、生き残っている事を確認しやや混乱しながらも覚醒し始める意識で、周囲を確認する
見えるのは先程と同じ景色…戦場だ、だが先程と違う点があるとするなら
魔造兵がいない、代わりに多くの人間が慌ただしく走り回っている、皇都の方は…無事だ、防衛に成功したのか?、いや これは…まさか
「増援が…間に合ったのか」
「目覚めたようですね、シオ」
「っ!?グロリアーナ総司令!?」
ふと、かけられた声に驚き身をよじると そこには別の場所を守っていたはずのグロリアーナ総司令の姿がある、ということはやはり間に合ったのだ
腐肉の壺を完遂し、魔造兵の包囲に成功したのだ…周囲には先程以上の多大な軍勢がひしめき、様々な兵器が立ち並び 包囲され押し戻された魔造兵の軍団を殲滅する魔女大連合の姿がある
「間に合った…んですね…」
「ええ、ギリギリでしたがね…貴方たちが粘ってくれたおかげでこちらに駆けつけるまでの時間が稼げました、お陰でこちらに迫っていた魔造兵の撃退には成功し 今戦場の趨勢はこちら側に傾きつつあります」
「そう…ですか」
「貴方達勇士の奮闘のお陰です」
何が奮闘なものか、気絶して死にかけていた私に褒め称えられる要因などない…、そう顔を手で覆おうとした瞬間、違和感に気がつく…片腕がないのだ
「腕が…」
「ええ、貴方の腕は切断されてしまっていたようです、記憶はありますか?」
「……はい」
戦いの最中肩から切断された腕は無く、代わりに肩には何重にも包帯が巻かれ治癒魔術をかけられた跡がある、恐らくあの後誰かが私の治癒をしてくれたおかげで…死なずに済んだのだろう
…っ!そうだ!
「グロリアーナ総司令!ガイランドは!フィリップは!」
「フィリップは生きていますよ、貴方と同じく今集中治療を受けています」
そうか、フィリップは生きているか……ん?、なら
「なら、ガイランドは…」
「ガイランドは、やられました」
そう、やや悔しそうな面持ちを浮かべるグロリアーナ総司令の姿に全てを察する、そりゃあそうだ、私が気絶した直後すぐに増援が到着したわけがない…私が倒れフィリップが倒れ戦線が瓦解した後も誰かがここを守らなくては今この状況は成立しない、とくれば…誰がそれをやったかは明白
文字通り命を懸けて戦い、命尽きるまで耐え抜き、その命と引き換えに勝利を呼んだ男がいなくては…成り立たない
「ガイランドは…そうですか」
「ええ、我々が到着した頃には既に全身を切り裂かれ惨たらしい姿で鎧の怪物を相手に立ち塞がっている状態で発見されました」
…そうか、最後まで立ち続けたか…私と違って…、それに引き換え私はなんと情けないのか、死を覚悟し主人に尽くすつもりで戦って…結果的に何も成せないとは
あの男は、最後の最後まで主人の為に戦った…そして主人の命令を完遂した、私には出来なかった事だ、結果的に生き残り奴に助けてもらいましたで…一体私はこれからどうやってメルクリウス様に支えれば良いのだ
出来るなら今すぐ自刃したいほどの恥辱ではあるが、ここでどれだけ私が苦しんで死んでも決してガイランドとは並べまい、拾った命を狂気のままに捨てた愚者として終わっていいのか?
いい訳がない、…なら…私に出来ることは
(私に出来ることは、奴のように…いや、ガイランド殿のように生きること、ただそれだけか)
メルクリウス様に続き私を救ってくれた二人目の恩人 ガイランドに報いいる方法はそれしかない、…彼のように懸命に 直向きに 主人に尽くし続けるしか、…それしかない
腕がなくなったからなんだというのだ、私にはまだ命がある…だからこの命に代えても、私はメルクリウス様のため…いや、ガイランドが守ろうとしたこの世界のために尽くし続けよう、そう静かに決意を固め胸に右手を当てる
ただ、その心音だけに耳を傾けて……
「ここがアジメクでなければ助からないところでしたよ」
「…誰がですか?」
「ガイランドがですよ、あれほどの傷 他では治療出来ませんでした」
「…………ん?へ?、治療?ガイランドは生きているんですか?」
「ええ、手酷くやられましたが死んではいませんよ、今はもう戦線を離れ治療を受けています、意識が戻るのは戦いが終わった後でしょうが」
……生きてたんかい!、心配した!いや心配させられた!、紛らわしい言い方をしてくれるなよ!、ガイランドが死んだかと思ったじゃないか!、…くそっ!さっきまでの誓いはなんだったんだ!
…いや、そこは変わらないか、結局奴が頑張ってこの場を守ってくれたことに変わりはない、私が不甲斐ないことにもな、ただ…奴が生きていてよかった、それだけだろう
「分かりました、では…私も早く復帰を」
「いや貴方も重傷だからこれからガイランドの元で一緒に治療を受けるんですよ、後は我々の仕事です」
そう、静かにグロリアーナ総司令が睨むのは戦線の先…、押し戻された最前線だ
既に、魔造兵達は両側から迫る軍勢に挟まれ纏めて身動きが取れない状態だ、そこに帝国とでデルセクトの巨大兵器による一斉掃射が行われている、まさしく壺に閉じ込められた蛆の如く 殲滅されているその魔造兵達の群れを、睨みつけるグロリアーナ総司令には未だ油断の色がない
「魔造兵はこれで大方封じました、…ですが 同時にあそこには羅睺十悪星を名乗る存在も集まりつつある、貴方が相手取った鎧の怪物もまた…あそこにいます」
「ミツカケが…」
「奴らの存在はあまりに危険です、捨て置けばこの戦況さえひっくり返されかねない、故に…これからは私達最強戦力の仕事です、我等で奴ら羅睺を打ち倒し戦況を万全の物にする」
「グロリアーナ総司令…」
「それに、…必要ですからね」
「必要?…何がです?」
そう問いかけると、グロリアーナ総司令は徐に視線を移す、私に…いや私の切断された左腕に視線を向け、…その眉に力が入る
「私の可愛い部下の腕を斬ってくれた下郎に、お礼参りがですよ」
「総司令…、ですが奴は…」
無くなった左腕が疼く、羅睺十悪星ミツカケ…奴は洒落にならない強さだ、何が強いって奴はあの場でかけらも闘志を見せていなかった…まるで本気じゃなかったんだ、私が魔造兵の群れを蹴散らすようにミツカケは私達を蹴散らした
さしものグロリアーナ総司令とはいえ…あれの相手をするというのなら、私は笑顔で送り出すことはできない
「問題ありません、それに羅睺との戦闘は始まっています」
「え?…もう?」
「言ったでしょう次々と集結してきていると、…魔造兵の波に流されて奴らもこの包囲の中にいる、ならばどの道我らで相手をしなければ包囲を抜けられてしまうのですよ」
ほら と指差す先に上がるのは土柱、ぶつかり合い立ち上る魔力柱…信じられないくらい強烈な魔力と魔力がぶつかっている、まさかあそこで既に始まっているのか…
この戦場最大の戦いが……!
……………………………………………………
事は十数分前に遡る、魔造兵達の動きの変化を見逃さず、敵が穴の存在に気がつきそちらに向かっていることを察知したルードヴィヒは迷いなく全軍に大号令を仕掛けた、それと共に事前に決められたように各軍は進軍を開始し、穴に集結する魔造兵を閉じ込めるように攻め立て、追い込み 皇都を囲い込んでいた魔造兵を寧ろ逆に囲い込む事に成功した
大型魔装と第三世代型錬金機構による大火力掃射で敵の勢いを砕き、一気呵成に突撃し 敵を追い立てる様はまさに見事の一言に尽きる仕事ぶりであったとルードヴィヒはのちに語るほどだった
そのおかげもあってか、穴の防衛を担当していた戦力が壊滅する前に援軍を送ることに成功した、だがその被害規模は司令部が本来想定していたそれよりも遥かに酷いものであった事は言うまでもない
フィリップは全身を切り裂かれ重傷、シオも片腕を切断され若い治癒魔術師が必死に延命を施していなければ絶命していたであろう、何より酷いのはガイランドだ…
たった一人で戦い尽くし、全身無事な箇所が一つとしてない程の傷を負いながらも槍を持って戦っていた、意識も無く ただただ使命感だけで立ち続けて
全てはその場に現れた鎧の怪物 羅睺十悪星が一天ミツカケの仕業だ、凄まじい猛威を振るいながらガイランドを甚振ったかと思えば、援軍が到着するなり退却し行方を眩ます狡猾さを見せるミツカケにより 防衛戦線は瓦解寸前の危機にあった
そこをなんとかしたのがアジメクの騎士団長クレアだ、彼女はルードヴィヒの命令を無視して独断で先にガイランド達の救援に向かった、腕利きの治癒術師を複数人連れたった一人で魔造兵の群れを切り裂いて補給路を確保し、傷ついた兵士達の保護とギリギリまで押し込まれていた戦線をその剣一本で押し返し皇都と何百人もの兵士の命を救ったのだ
クレアが独断で先行したお陰でいち早く防衛戦線の再構築を行えたお陰で壺の底を塞ぐことに成功した、これによりラグナの発案した腐肉の壺は成った
取り囲まれた魔造兵はその巨体により身動きが取れないまま魔女大連合に押し潰される形となった、攻守交代のタイミングは今だ
「うむ、目の前には身動きの取れない敵の海…撃ちたい放題のマトだらけ、なんと絶好の戦場か」
魔女大連合による完全包囲により 魔造兵達は身動きが取れない、上手く統率が取れていないのか後ろからさらに殺到する魔造兵の波に押され包囲の中に詰まっていく敵の姿を、その男はパイプを吹かしながら双眼鏡にて観察する
「ガトリング中将!大型錬金機構の発射準備が整いました!」
「よし、ならば決めるか」
男の名はデルセクト国家連合軍中将…ガトリング・アレキサンドライト、銃の天才にして悪魔の領主と謳われたソニア・アレキサンドライトの叔父にしてクリソベリア国軍の総帥も兼任する彼は、逞しい顎髭をひと撫でし背後に構えられた大型錬金機構の軍勢を見る
アルクカース兵とオライオン兵を始めとする白兵部隊が包囲を完成させている間に遠距離用の兵器の数々を運搬する事に成功した、前日 大慌てでつけた車輪のおかげで錬金機構の移動時間を大幅に短縮出来たおかげだろう
既にこのアジメクに持ち込んだ全てのデルセクト産兵器はこの包囲網に向けられている、ここで戦いを終わらせるつもりで全てここに投入したのだ
「我が姪の凶行を止めてくださった同盟首長に対する恩義、返すは今か!総員!照準合わせーっ!」
ガトリング中将の号令によりデルセクト兵が一斉に動き出す、大砲に弾を詰め 錬金機構を発動させ、魔術により作り出した急造櫓の上から銃を構える狙撃部隊もまた構えを取り…そして
「ってぇーっっ!!」
振り下ろされる指揮官の腕、放たれる号令は銃砲に変わり 夜空に幾条もの光の線が弧を描く、それは味方の頭を飛び越え押し競饅頭を繰り広げる魔造兵の頭に落ち、地面をえぐりとるような大爆発を巻き起こす
一撃一撃が錬金術により凄まじい威力へと強化された砲弾、その雨だ…これこそデルセクト兵器開発局が描いた絵のままだ、帝国の魔装兵器とは違い物質そのものを変化させる錬金術と質量兵器のシナジーは抜群
「ぐわははははは!、壮観!次だ次だ!攻めしか知らぬ間抜けどもに戦争とは如何なるものかを教えてやれぇーい!、錬金機構搭載型ガトリング砲!用意!」
一方右翼を担当するデルセクトとは反対に、左翼から魔造兵を叩き挟むのは帝国兵の師団達だ、彼らもまた虎の子の戦略級魔装を解放し魔造兵が横に散らぬよう圧倒的武力を見せつけている
「デルセクトははしゃいでいるようだな、頼もしい限りだ」
軍帽のツバを握り集中砲火を受ける魔造兵を睨み付けるのは左翼部隊の総指揮官ラインハルトだ、と言っても最早彼が出る幕はないだろう…何せ
「ラインハルト師団長、戦略級魔装『時空断兵装」、装填完了しました」
「ん、そうか」
背後から投げかけられる報告に振り向くラインハルトが見るのは、魔造兵に向けられた幾多の砲門、蜘蛛のような足が生えた巨大な自走砲…これこそ帝国の虎の子の戦略級魔装にして、帝国史上最悪の発明品とも言われる兵器『時空断兵装』だ
あまりの凶悪性にシリウスとの戦いに持ち出すことも出来なかったこれを、今度は躊躇せず持ち出す…メグ曰く魔術導皇からの了承は得ているらしい
まさかこれの使用許可が出るとは…魔術導皇の覚悟は相当なものか、あの小さな体に秘められた覚悟に我等軍人も誠意を持って答えなくては
「よし!、デルセクトに負けるな!撃ち込め!、決して味方には当てるなよ!」
「了解!、時空断裂機構起動!、界限力充填!魔力臨界!、放て!」
───帝国の兵器である魔装には幾つかのタブーがある、この兵装はそのタヴーを度外視して極秘裏に建造されていた兵器…まさしく虎の子とも呼べる最悪の決戦魔装である
それこそが時空断裂、つまり魔女カノープスと同じ空間を操る能力を付与された兵器の数々である、この並べられた砲門自体は通常のものであるが…問題はその砲弾にある
号令とともに放たれたその砲弾一つ一つが魔力機構を搭載した魔装なのだ、それは砲門から飛び出た瞬間能力を発動する
能力の詳細は『空間による減退無効化』、つまり有り体に言うなれば空気抵抗の無視である、銃弾とは飛べば飛ぶほど空気抵抗にて減速し射線はブレてしまう、故に有効射程というものが存在するのだが…
この武器は違う、砲門から着弾地点までの間にある空間…つまり距離を無視する力を持つが故に空気抵抗による減退がない、一度放たれれば坂道を転がるトロッコのように加速を続ける、音速以上の速度で放たれた鉄の塊は対象にぶつかるまで加速を続ける…、空気抵抗もなく摩擦も無く 無限の加速を続けるのだ
それが敵性存在に激突する頃には信じられないほどの威力を発揮してしまう、まさしく究極の砲撃…爆裂せずとも何もかもを吹き飛ばす破壊となる、ラインハルトでさえこの兵器の稼働実験記録を聞き及んだだけで身震いする威力
…もし外せばこの砲弾は永遠に止まる事なく世界を何周も回り誰にも手がつけられない飛翔体になってしまう可能性さえある最悪の兵器、高速で移動するシリウスのような相手には決して使えない一手
それが今魔造兵の群れに激突し、口にするのも恐ろしい被害が叩き出される…、出来るなら使いたく無いと口走ってしまいそうになる威力にラインハルトはゴクリと唾を飲む
「…これが、兵器か……」
撃ち出され加速し魔造兵を吹き飛ばし土柱を上げるその光景にラインハルトが見るのはもしもの未来、魔女様達は…というかカノープス様は世界中に技術抑制の令を出している、あまり技術が発展しすぎないように手綱を握っているのだ
それを理解しない者は多い、技術が発展すればもっと豊かになると信じている者は多いし、確かに発展した技術は人々を豊かにするだろうが…、それはつまり同時に兵器もまた発展するのだ
カノープス様が技術抑制を行なっていなければ、今頃時空断兵装のような兵器を撃ち合う時代が到来していたかと思うと…身震いする、下手をしたらこれ以上の兵器を乱立する国同士が向け合う時代があったのかと思うと恐ろしくて軍人なんてやってられない
願わくば、こんな戦いは…これから先の歴史に起こらないことを願うばかりだ
だが今は、そこに目を瞑る…今ここで我々が露払いをしなければならないのだ、雑魚は我々が受け持たねばならないのだ
魔造兵の波の中で戦う友人の為にも
「雑魚は我々がやる、だから…そちらは頼むぞ、フリードリヒ」
…………………………………………………………………………
デルセクトと帝国軍の集中砲火により確実に数を減らす魔造兵達、そんな地獄の鉄火場から少しは離れた地点、場所にして魔造兵進軍の外周部、包囲を固める魔女連合達の壁に当たる部分…
そこが、この戦いの主戦場である
あっという間に魔造兵達を壺の中に押し込んだ魔女連合の包囲を打ち破らんと活発に蠢く影、それは魔造兵さえも蹴散らし 連合に襲いかかる衝撃の数は合計七つ、そんな暴力の化身のような奴らが
「抑え込め!、相手はたった七人だ!数でかかれば止められる筈だ!」
奮い立たせる兵士達の声が響く、最早魔造兵は眼中にない、それよりも恐ろしい相手を見つけてしまったから
「くそ!治癒が間に合わない!何人やられた!」
何十人 何百人 何千何万で飛びかかってもまるで相手にならない、数で押しても其奴らはまるでそよ風でも受け止めるかのように弾き返す
「反則だろ…、なんであんな奴らが敵側にいるんだよ!、くそぉぉお!!」
叩きのめされ、動けない程の重傷を負った兵士が悔しそうに叫ぶ、この人数でかかっているのにまるで止められない、数百万の魔造兵の進軍を止めた大連合でもその歩みを止められない
「あれが…、羅睺十悪星なのか…!」
歩む七つの影、飛び交う敵意と攻撃の雨の中をまるで散歩をするように歩く古の絶大強者達、かつて魔女と戦った者達が連合の包囲を突き破り皇都を目指す
…話では弱体化しているという話ではあった、だが…それでもなお 人類の手に余る程の力を持つ復活した羅睺達は揃い踏み、大連合を相手にたったの七人で圧倒するのだ
「終わってんナァ…」
その中の一人、比較的小柄な青年がフードの下で口角を下げてガッカリしたように呟く、その手に握られた巨大な斧を肩に乗せ軽々と歩く彼の目の前には…
「これ以上みんなを傷つけさせてたまるかァッ!!!!」
「この…ゴミクソ野郎がッ!!」
襲い来るのは二人の騎士、このアジメクを守護せし最強の騎士である護国六花のメンバー
鉄柱の如き重厚な鉄槍を振り回す花々騎士のジェイコブと、黄金の細剣を構え刺突を繰り出す流麗なる猛火ルーカスの二人だ、アジメクでも屈指の使い手二人が足元に倒れる幾多の兵士達を守るように同時に襲い掛かる
そんな二人を前にして、果たして無事で立ってられる使い手がこの世に何人いるだろうか…、時代が時代ならどちらもアジメク最強の名を冠していたであろう二人の騎士の猛攻を受け何食わぬ顔をしてられる人間がいるのだろうか
事実いる、今ここに…斧を背負うこの男こそがそれだ
羅睺十悪星が一天、怪夜振るう壊天イナミ…斧を振るいし魔人がギラリとを見せ笑うと
「邪魔なんだよ雑魚共!、手前らじゃあ相手になんねぇ!」
「ッッ!?!?」
ルーカスもジェイコブも反応出来ない速度で叩き降ろされる巨大な鉄板の如き斧、それは易々と大地を砕き二人の進撃を止めると…
「吹っ飛べ…、踏み荒らす蹄の一打、世界に下す反逆の嘶き、人の子を殺し 人の世を壊し、万世を裂く刃となる!『牛鬼打神』!」
放たれるのは魔女と魔女の弟子だけの特権であったはずの古式魔術、シリウスの配下となり 魔術流祖であるシリウスより授けられたイナミの為のイナミだけの魔術…
その詠唱と共にイナミの持つただでさえ巨大な斧に更に一回り巨大な空気の刃がまとわりつく、不可視の斬撃とも取れるそれは大地を砕かれたたらを踏んだジェイコブとルーカスを纏めて捉え
「ぐがぁっ!?」
「がはぁっ!?」
刹那、轟いたのはドラムの音だ
まるで打楽器を鳴らしたかのような凄絶なる轟音、世界の裏側まで届いたのではないかと思えるほどの轟音がイナミの片腕から発せられた
鳴らしたのは彼の斧だ、空気の刃を纏う斧が一度ルーカスとジェイコブの二人に向けて振るわれたかと思えば、斧は虚空の壁を叩き 音を鳴らした、いや…鳴ってしまったのだ
斧が叩いたのは空気の壁、響く衝撃波は世界を歪ませイナミの直線上に存在する全てを薙ぎ払う、まるで軍勢と言う名の海を割るように真っ直ぐ飛ぶ衝撃は彼の眼前を守る全てを蹴散らし やがて皇都の壁に激突し静まる
後に残るのは、衝撃波を前に鎧も武器もなにもかも砕かれ地面に倒れ伏す兵士達だけだ
「オレは!全てを殺す!壊す!、オレはテメェらみたいなのが一番嫌いなんだよぉぉおぉぉおおおおお!!!!」
彼が使う魔術自体は大したことのない射程延長魔術でしかない、だが問題はその怪力…、生まれながらにして雄牛に勝る力を持って生まれた怪児たるイナミのパワーは魔女達さえ真っ向からねじ伏せる程のものなのだ
これがもし、イナミ本来の力であったなら…全てが終わっていただろう、斧の一振りで軍勢も皇都の壁も白亜の城も何もかもを粉砕して、全てが終わっていた
魔女レグルスでさえ搦め手を使わねば倒せなかった男、それがイナミ…羅睺十悪星なのだ
「全員殺す!全員殺す!、オレを!否定する全てを!全てを!!」
「そんな、ジェイコブ様とルーカス様が一撃で…信じられない…、なんなんだあの怪物!」
「いいから治癒だ!二人を死なせるわけにはいかない!、早く治癒を!」
彼の足元には無数の兵士達が意識を失い倒れている、その中には当然 護国六花たるルーカスとジェイコブの姿もある、あの一撃を目の前で受け止めてなお息があるのは彼らが強靭な肉体を持つが故だろうが…相手が悪い
倒れ伏し、ただの一撃で戦闘不能に追いやられたルーカスとジェイコブ、確かに二人は羅睺を相手にするには力不足かもしれない、だが一般の兵卒より何百倍も強い彼らにはまだ寝てもらうわけにはいかない、そう アジメクの部隊長が治癒魔術師達に指示を出し、倒れる二人駆け寄らせる
が…しかし
「テメェら、なにやってんだよ…オイ!」
「ヒッ!」
「治癒か?…スピカの教え子か?お前ら魔女の弟子か?、だったら殺さねぇとな…殺さねぇぇぇとなぁぁぁああああ!!!」
「ひぃっ!??」
瞳を紅に染めて鉄の塊のような斧を掲げる、治癒は許さない イナミは治癒魔術の恐ろしさを知っているから、こいつらを放置したらいくら破壊しても戻されると知っているから、故にそれすらも破壊しようと再び斧を振り下ろそうと その怪力を発揮しようとした
その瞬間
「『神閃のミストルティン』ッッ!!!」
「なっ!!??」
流星の如き光の瞬きにイナミの全身の毛が逆立ち、振り上げた斧を咄嗟に持ち替え煌めいた斬撃を防ぐ…がしかしその衝撃に足が滑り思わず尻餅をついてしまう
尻餅をつき、視界が下がった羅睺十悪星…それを見下すのは黒金の剣を片手にイナミが知覚できない速度で飛んできた一人の騎士…
「あんた、ウチの部下相手になにしてんのよ、返答次第じゃその頭…トマトみたいにぶち割るわよ」
否、騎士団長クレア・ウィスクムだ
ルーカスとジェイコブを部下に持ち、このアジメクを守護せし最強の女…新たなるカストリア四天王の一角が魔力覚醒による一撃でイナミの体を弾き飛ばしたのだ
自分を見上げる女の顔に、牙を剥き怒りを露わにするイナミは…ただ黙って立ち上がり
「この野郎…、やってくれたなぁ!」
「ええやってやったわ、なんならこの後も続けざまにぶちのめすつもりだから今のうちに深呼吸して覚悟決めなさいよ、そのくらいの時間はやるわ?私は優しいから」
「このォ…!!」
もはやイナミの目には皇都も魔女の軍勢も無い、ただ目の前に現れた騎士に怒りと殺意だけをぶつける、叩き弾かれ相手に見下ろされるなんて最悪の経験だ、レグルスに嵌められて落とし穴に落とされた時以来だ
「斧を持って、斬撃を飛ばす魔人…あんたひょっとしてレグルス様と戦った斧を持った魔人?」
「ああ?、…まぁ…そう呼ばれた時期も、ってなんでオレがテメェの質問に答えないといけねぇんだよ!」
「ふぅ~ん、そうなんだ…あれマジの事書いてあったんだ」
孤独の魔女レグルスのファンとしてクレアは当然ながらその文献や書籍を読み漁っている、その中の一冊 『孤独之魔女伝記』にあった記述の一つ、斧を持った魔人との戦いに関する項を思い出し
少し、ゾクゾクする…私は今本当に魔女レグルス様と戦った存在と相対しているんだと
「許さねぇ許さねぇ!、オレはオレを見下す奴を許さねぇ!テメェをぶっ殺さなきゃ気が済まねぇ!」
「フッ、面白くなってきたわね…!、こいつの相手は私がするわ!みんなは負傷した人達を回収して離脱!、周りの被害なんて気にしてる暇ないから!」
「は はい!」
クレアの指示に動き出す周囲の部下達は負傷した者達を回収し慌てて離脱しながら戦線の再構築に動く、その隙に…この戦力犇く戦場の中 ぽっかり空いた穴の中央で相対する二人は、その手に持つ武器を強く…強く握りしめ
「死ね…死ね!みんな死ねばいいんだ!お前も!お前が守ろうとしている奴も!」
「ハッ!ロクでもないったらありゃしないわね!、アンタなんか死んで正解よ!、だからとっとと墓穴に戻りやがれッッ!!」
振りかぶる、クレアの剣 イナミの斧、それが筋肉の軋む音と共に大きく振りかぶられ…
「『牛鬼打神』ッッ!!」
「『神閃のミストルティン』ッッ!!」
激突し、空気を弾く大轟音を鳴らし戦場全域を叩き揺らす
…………………………………………………………
「イナミも荒れてるねぇ…」
そんなイナミをやれやれとばかりに肩を竦めて見守るのは彼の仲間にして同志、同じ羅睺十悪星のメンバー 、凍夜写す拳天アミー・オルノトクラサイ…魔女アルクトゥルスの義理の妹たる彼女は深蒼の髪を揺らして妖艶に垂れた目をチラリと目の前に移す
自らもまた敵対する存在へと、意識を移すのだ
「で?、誰がアルクカースの戦士だっけ?…一番強いのは誰よ」
「ンな…バカな…」
「ぐっ…」
大地に倒れる女二人を蹴り飛ばし、聞く…誰が一番強いんだい?と、そう聞かれ悔しそうに唸るのは
討滅戦士団が団員ルイザ・フォーミダブルとアルクカース王女 ホリン・アルクカース、アルクカース最強格の二人の女戦士がいとも容易く大地に転がされているのだ、二人ともアルクカースでも上位の使い手…カストリア大陸内部で見れば太刀打ち出来る相手を探す方が大変なほどだ
だというのに相対するアミーは傷一つないどころか、ルイザとホリンを相手取る時…いやそもそもそもこの戦いが始まったその瞬間より一度として手をポッケから抜いていない
武術家たるアミーは一度として拳を握っていないにも関わらず誰一人として彼女に触れることさえ出来ていない、その事実が今圧倒的な実力の差として可視化されているんだ
「雑魚だなぁ、まさか君たちじゃないよね?アルク姉の国の人間ってさぁ、だとしたらガッカリだなぁ もっと頑張ってもらいたいよ、今時の若い子たちにはさ」
「討滅戦士団なめんじゃねぇよ…!」
「そーそー、一国の王女捕まえて雑魚はねぇでしょうよ!」
「お、立つか」
それでも立ち上がれるのは二人が屈指の実力者であるのと同時に、アルクカース人だからだ
アルクカース人は戦いに誇りを懸ける、骨が折れようと肉が裂けようと相手に命尽きるまで食らいつくからアルクカース人は強いのだ、それはたとえ相手が格上でもボコボコにやられていようと変わらない、故に立ち上がり構えを取るルイザとホリンの二人にアミーは鉄面のような顔を少し綻ばせる
「わあ、立つんだ…いやぁ嬉しいなぁ、君たちみたいに気骨ある人はこの時代じゃ始めて出会ったかも…いや八千年前にもなかなか居なかったよ、みーんな私の力を見せつけたらナメクジ突いたみたいに縮こまっちゃってさあ、そうやって向かってきてくれる人たちがいると嬉しいよ」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ!」
「っていうか武術家なら拳抜けやぁっ!」
あははーと笑うアミーとは対照的に牙を剥き争心解放を行い跳躍し肉薄するルイザとホリン、その手に握れた鉄槌と鉄槍には既に上級の付与魔術が纏わりついており、一切抜かりなき本気の攻勢に出ている…
だというのにアミーの顔に焦りはない、そればかりか此の期に及んでもなお余所事を考えているような顔つきで…
「嬉しいなぁ、うん嬉しいよ…確かに嬉しい、あはは…」
笑う…笑っている、もし相対しているのがアルクトゥルスだったなら 彼女なら防御の姿勢を見せただろう、『アミーに感情の揺らぎが見えたら、それは攻撃の合図』だとアルクトゥルスのは知っているから
「この…ッ !」
刹那、クスクスと笑っているアミーに向けルイザが漆黒の鉄槌を振り下ろす、重厚な武器ながらその速度は弾丸より速く空間が軋む音さえ聞こえる程の振り下ろし、されど…アミーが軽くつま先を立てた瞬間
「ッなぁッ !?」
空を切るルイザの打撃、今目の前にいたはずのルイザが次の瞬間には数秒前に戻ったかのように数歩分離れていたからだ、つま先を立て滑るような軌道で行う摺り足…それを目にも留まらぬ速度で繰り出し 鉄槌の当たらないギリギリの距離へと移動したのだ
見切られている、ルイザの動きも射程もなにもかも…、国内最強の戦士団に所属するルイザが、初めて受ける子供扱い
悔しさに滲むルイザの顔、こんな屈辱初めてだと苦々しく鉄槌を見送るアミーを見れば、当のアミーは
「ぷっ…ふふふ、凄い顔ぉ」
そう 煽るように笑っていた、その笑いが表に出るように口の端から吐息が漏れる
その瞬間の事だった
「え?な…!風!?」
アミーを中心に風が吹く、最初はそよ風のようなそれは徐々に激しさを増し、大地を削る突風となり、ルイザの全身を打ち付ける
討滅戦士団として相応しい実力を持つルイザ、大砲の一撃を受けたって微動だにしないはずの彼女の体が、発生した突風を前に一瞬足を滑らせると
「ぐぅっ!?」
あまりの威力に吹き飛ばされたのだ、まるでエリスの颶神風刻大槍の如き…いやそれさえも上回る突風に大きく仰け反り身に纏う鎧が弾けるルイザは地面に二本の線を引いて苦悶の顔を表す
まただ…と
「ぐっ…また、詠唱もなくあんな強力な魔術を…なんなんだこれ」
さっきからルイザとホリンを苦しめるアミーの力、それは詠唱もなく魔術の如き大規模事象を操る所にある、笑っただけで風が吹く 涙を流せば濁流が発生し怒れば大地が隆起する、まるでアミーの感情を起因として世界が動いているかのような不可思議な事態に苦戦を強いられているんだ…
「この!、あんまり私の幼馴染をいじめるじゃないっての!奥義 『戦神夢狂』!」
「お…」
そんな風を掻い潜り向かってくるのはホリンだ、古今東西の凡ゆる武術を修めるホリンが持つ最大の奥義 東部の大武術 無頼泰山流が三大奥義の一つ、投げと関節技と打撃をほぼ同時に行う大技
いくつもの技が同時に放たれる残像を残す無数の腕、その大技を前にしたアミーは一瞬目を見開き
「うわぁ!見たことない技だ!、なるほど面白い技だね!」
「うっそっ!全然当たらねぇ!?」
当たらない、何度手を伸ばしてもアミーがそこに居ない、放たれるホリンの手と己の体の距離を常に一定に保ったまま必要最低限の動きを見せるアミーに思わず感じてしまう差
実力以前に武術家としてあまりにレベルが違いすぎる、ホリンがこれから何十年もかけて漸く辿り着ける領域にアミーはいる、こんなにか…こんなに違うもんなのか、これでも腕前には少しくらい自信があったのに その自信が木っ端微塵になるのを感じるよ
「見たことない技を見るのは…楽しいねぇ」
ポッケに手を突っ込んだまま、見せる笑みは悦楽の笑み、狂気的なまでの『楽しい』が言葉となって感情を表す、ただそれだけだ…拳を抜いたわけでもないし詠唱したわけでもない、これは攻撃行動ではないことくらいホリンにも分かる
だというのに…、悦楽に笑うアミーの体が輝きを迸らせ、轟音と共にホリンの体を貫く
「グッ!?ガッ…!」
走る痛みは電流、肉を焼き焦がす雷、刹那アミーの体から放たれた電撃がホリンの体を貫きき背後の大地まで疾走する
再び、なんの前触れもなく電撃が発生した、かつてエリスがホリンに放った電撃の凡そ数十倍の威力にもなる電流が 魔術もなしに発動するわけがないのに…
「ぅげぇ!、いってぇ…!」
「ホリン!大丈夫!?」
「大丈夫じゃねぇけど…、くっそ…もう少しやり合えるもんかと思ってたけど、なんなんだあの力…検討もつかないよ」
電流を受け膝をつくホリンを庇うように駆け寄るルイザとそれでも戦いことをやめないホリンは、共に考える…アミーの使う謎の力、明らかに魔術なのに詠唱がない、エリスも詠唱もなく魔術を使うがそれでもそれなりのモーションがある
なのに、アミーにはそれがない…ポッケに手を突っ込んで悠然と立つだけで風だろうが雷だろうが引き起こす、羅睺十悪星の一角だからってこれは流石におかしいだろ
「んん、そんな変な力は使ってないんだけどなぁ…、理屈としては君達の使う魔術と同じだよ」
「私達の?…ってことは、付与魔術?」
「うん、そだよ」
付与魔術…、剣や槍に概念を付与し強化する魔術 それと同系統だという割に、アミーは何か武器を使っている素振りもない、ラグナのように肉体に付与しているかといえばそうでもない、だとしたら何に…
そうホリンとルイザは考えるだろう、だが恐らくだがその答えに行き着くのは不可能であると考えられる、何せアミーの使う付与魔術は付与魔術でありながら既に失伝している系統の魔術なのだから
アミーが使う魔術の名は『心象付与魔術・九品蓮台之晦』、アルクトゥルスの『肉体付与魔術』と対を成す古の魔術の一つだ
心象付与が力を与えるのは文字通り心や感情…内面部分だ
つまり、アミーの怒りや悲しみと言った感情は激烈に強化されそのまま事象として表に表出する、怒りは岩の刃となり悲しみは地を覆う津波となり喜びは突風へと 楽しさは電流へと、その感情ごとに変わる事象の数々はアミーの心が揺れるだけで発生するのだ、そこに詠唱は必要ない
突拍子もなく変わる彼女の感情によって攻撃法は目まぐるしく変化する、そこに着いて行く事が出来たのは有史以来アルクトゥルスのみである
「よくわかんねーや」
「そっか、まぁ分からなくても別にいいかな…君達はここで終わりだしさ」
「言ってくれんじゃんか…、死ぬまで止まる気は無いんだけど?」
「なら丁度いいかな、…殺すつもりだし」
心象付与魔術は感情の揺らぎが大きければ大きいほど威力が高くなる代物だ、無理に笑ったり無理に泣いても大した威力出ない、心の底から湧き出た感情でない限り真っ当な威力は発揮されない
そして同時に、アミーという人間は非常に感情の揺らぎが少ない人間である、そこはアミー自身も把握してるしアルクトゥルスからも『感情豊かに振舞っているだけで、その実人間味が非常に薄い』と評されるように、彼女は口で笑って心で笑わず 顔で怒って心で怒らぬ血の気のない鉄人である
故にこそ、常にこの心象付与魔術を展開していても問題なく生活出来る利点があるのだが…困った事に肝心な時に湧いてくる感情も少ないんだからどうしようもない
さっきの風も雷も、本来ならホリンとルイザを二、三度殺して余りあるくらいの威力は出る筈なのに、二人が立てているのはアミーの感情の揺らぎが弱く 出力される事象が弱いという理由のお陰でもある、アミーはこの戦いで…いや今まで殆どの戦いで感情を揺れ動かしたことはない
…だが、そんなアミーにも、自在に操れる大きな大きな感情が一つある
「いいね、昂ぶってきた、取り敢えずここにいる全員殺せば…アルク姉もこっち来てくれるだろうし、だから悪いけど死んでくれよ」
「誰が殺されてなんか…ん?」
ルイザとホリンはその違和感に気がつく、アミーを中心に何かが渦巻き始めている事に、またさっきみたいに感情に起因した何かが来るのか…そう予測し構えた時には既に遅かった
既にアミーの心の中には一つ感情が生まれていた、その感情の名は殺意、アミーが他人に得る嘘偽りなき唯一の感情こそが殺意である
有り余る殺意、身に滾る殺意、殺しても殺したらぬ殺意、人でありながら人に仇しかなさない人類文明に於ける異端にして癌細胞の如き有害性、それこそがアミー・オルノトクラサイの胸を満たす感情だ
その感情は心象付与によって事象となる、そして感情の強さによって心象付与が強くなるのなら…今この瞬間発生する事象は……
「じゃあ遠慮なく…、『殺らせてもらう』よ」
「なッッッ!!??」
その拳をポケットから抜いた瞬間溢れる殺意が形を持ち爆発する
其れは白銀の閃光、今まで見せたどの現象よりも強く 広く 果てしなく広がる閃光を前に湧き上がるホリンとルイザの驚愕…よりも早く伸びる閃光に飲まれ銀の爆発の中に消える二つの影
これがアミーの殺意、相手を殺すと意識し発生する感情、殺意が形を変え生み出すのは……
「…ガッカリだよ、二人とも」
「…………」
「…………」
銀の閃光が収まったその先の景色で呟くアミーの言葉にルイザとホリンはなにも返さない、いや、なにも返すことが出来なかった
アミーの眼前に広がるのは、白に染まった銀世界…土も草も鉄も岩もなにもかもが絶対零度により凍結した氷の世界、その奥に立ち尽くす二対の氷の柱に向けアミーは歩みを進める
「せめて、私に拳骨握らせるくらいのことはしてもらわないと、勝ち目はないかもよ」
「…………」
話しかけるのは氷の柱、否…究極の冷気を前にして成すすべも無く肉体の芯まで凍結し 氷の柱と化したホリンとルイザだ、氷の塊と化し 冷気を放つ二人の呆気を取られた表情が、この冷気が広がる速度の速さを物語る
いや、二人だけではない 魔女大連合の兵士達や背後の魔造兵に至るまで、彼女を中心として巨大な銀の円が広がるように伸びる冷気が全てを凍らせているのだ
これこそがアミーが操る武器、殺意により発生する冷気だ…
これこそが今なおポルデューク大陸を冷やし続ける冷気の正体だ
これこそがアミーの持つ異名、『冷拳一徹』の由来
万物を凍らせ 万象を停止させる最強の殺意、アミーという女と戦うにはまずこの冷気を乗り越えねば、話にもならないのだ
「はぁ~、なんか萎えて来ちゃったよ…やっぱり君達も他の奴らと同じで私の相手にならないんだねぇ、ま…雑魚じゃ私の相手は務まらないってことで納得してくれよ…、じゃ 先行かせてもらうから、アルク姉が参加しないなんてつまらない戦い…とっとと終わらせないと」
じゃあねと停止した氷の柱の肩を叩き、萎えきって失った殺意とやる気のままに歩き出す、どうせ同じなんだろう…八千年前の戦いと、私の相手を出来るのは羅睺も魔女も世界全て見渡しても一人しかいない
アルク姉、こっち見てよ…
私に武術の夢を見せたのは貴方なんだから、最後まで責任持って面倒みてよ…アルク姉
「おい」
「ん?、…んぇ?」
ふと、声をかけられた、誰も動かないはずの銀世界で響いた声にちょっと本気でびっくりして体からちょっと爆発を漏らしながら振り向くと
「テメェッッ!!」
「ぐっ!?えぇっ!?」
斜め下からカチ上げられるように殴られた、この私が殴り飛ばされた、不意打ちなんか軽く打ち返せる私が反応出来ないくらい早い…いや変則的な拳、何よりこの熱い拳は…叫びは…!
「くっ、アルク姉!?」
やっぱりアルク姉が来てくれたんだ!、私を止めに来てくれたんだ!、嬉しいなぁ!嬉しくて風が吹き荒れそうだよ!
やろうやろう!昔みたいに殴り合おうよアルク姉!、そう愛しさを抱きながら振り向き仰け反る体を無理やり立て直し、殴って来た相手を見れば
「あれ、誰」
「テメェ、人ん家の姉貴になにしてくれてんだよ…この野郎」
目の前にいたのは知らない男だった、血のように赤い髪に凶悪な顔貌の中に僅かに見え隠れする知性の輝き、…まるで若い頃のアルク姉にそっくりな男だ、まさかアルク姉の子供?いや不老の法は受胎能力を奪うはず…
「ねぇ、あんた名前は?」
「ああ?、……ベオセルク…テメェの探してるアルクカース人だよこの野郎」
ふつふつと湧き上がる殺意の冷気を物ともせず歩み寄り、デコとデコがぶつかり合うような至近距離でガンつけてくるベオセルクに…思わず昂ぶってしまう
いいのがいるじゃないか、今の世にも…
これは楽しめそうだよ
「いいね、ベオセルク…気に入ったよ君の事」
「俺はテメェが気に入らねぇ、ぶっ殺す」
「出来ることだけ言ったほうがいいよ…、手本見せてあげるからさ」
刹那、二人の握る拳がギリギリと音を立て、嚆矢の代わりに白銀の世界に響き渡り
そして─────
……………………………………………………
「ぐっ、強い…!」
「まさか、私達で歯が立たないなんて…」
「ネレイド様に任せていただいているのに…」
膝をつき、悔しそうに唇を噛みしめるのはオライオンを守りし四神将、ベンテシュキメ ローデ トリトンの三人だ、彼らもまたこの魔女大連合の戦線に加わり敵の主力を叩く作戦に参加していたのだが…
まるで歯が立たない、まるで攻撃が効かない、神将が三人でかかっても微動だにさせることが出来ないのだ
それほどまでに強い、敵は…羅睺十悪星は…
「ガーシャガシャガシャ!、我輩の名剣を前に手も足も出ぬか!まぁ当然よ!ガシャガシャ!」
「不思議な武器を使う奴ばっかり、剣士はいない感じ?」
「……………」
立ち並ぶ巨漢と剣士と大鎧、この場に集うのは三人の羅睺…
先程ガイランドやシオを半殺しにしまんまと混乱の中離脱せしめた大鎧のミツカケ
プロキオンを押しのけ史上最強の剣士と呼ばれし殺戮の修羅にして剣鬼スバル
そして、四神将とも縁深き史上最初にして唯一の真なる聖人ホトオリ
この三人を同時に相手取る四神将は自分達の力不足以上にちょっとこれは無理ではないかという諦めを感じつつある、これはネレイド様がいないと無理だと
しかし、分かっている…ネレイド様に頼るわけにはいかないと、ここは任せられた我らの任務なのだと
「くそっ、やるぞ!立てよトリトン!ローデ!無様に負けてもいいのか!」
「命令をしないでくださいベンテシュキメさん!、負けていいわけがないでしょ!」
「無論だ、守る戦いで守神将が引いていいわけがないからな」
もう既に立ち上がるのもキツイくらいボコボコにされているものの、それでも立ち上がる三人は汗と血を拭いながら再び武器を構える、この三人をここから先に通すわけにはいかない
「へえ、勇ましいぬ……、だけどおかしいな、ここは最前線のはずだが何故俺達三人しかいない、ハツイとトミテはどうした、知っているかミツカケ」
ふと、最も侵攻が激しいこの場にいの一番に駆け抜けていったハツイとトミテがいない事に剣鬼スバルは気がつき周囲を見渡しつつ、一緒に駆け抜けていったミツカケに問いかける…しかし
「知らん!戦場で一々奴らのことなんか気にかけていない!、知りたければタマオノに聞け!ガシャガシャ!」
「お前に聞いた俺がバカだった、ホトオリ お前は知っているか?」
「……皇帝と狂人は軍勢を無視して突撃し、既に皇都に入り込もうと最後方の軍勢と戦っている、侵入も時間の問題だろう」
そんな雑談めいた話を聞かされ若干苛立つベンテシュキメは同時に思う、マジかと…
既にここより背後に羅睺が侵攻していると?、そりゃかなりまずい…けどだからといって自分たちに出来ることはない、後ろには将軍やらなんやらが控えているしそっちが対処するだろう
自分たちが今すべきなのはこいつらまで後ろに行かせないこと、例え全身バラバラに切り刻まれてもその歩みを一秒でも遅らせること
「そうか…、先を越されたな、まぁいい 直ぐに向かえばいいだけのこと」
「行かせねぇって言ってんだろうが!『オレウムグラーティア』!!」
自分達ではなく皇都ばかり見るスバルに対しての怒りが限界に達したベンテシュキメはその怒りのまま、両手を打ち鳴らし大地を疾駆するように滑る、足元に油を作り出し全身に炎を纏い、黄金の雪兎と化したベンテシュキメの向かう先はスバル、狙うはその首
「炎獄断頭の…!」
「…………」
しかし、ベンテシュキメの滑走さえも見切るスバルは、彼女が炎剣にて斬撃を放つよりも前に構える
史上最強とさえ呼ばれた剣士の構え、それは派手ではなく 飾りもなく、ただただなんでもない動作の中に 確かに挟み込まれるように、そして流れるように据えられる
ふと、ベンテシュキメが気が付いた時には既にスバルはその無骨な剣を両手で構え 迎撃の姿勢を取ってきたのだ
「やべっ…!」
「退け!ベンテシュキメ!!」
「遅い、逆巻昇り龍雲…」
まるで生まれるのは小さな竜巻、捻るような軌道で動くスバルの体、ぐるりと体は一回転する頃に 既にその刃はトップスピードに至っており、まるで天に昇る龍雲が如き軌道で迫るベンテシュキメの首を狙い返す
狙ったつもりが狙い返される、このままでは殺されると叫ぶトリトンの言葉に答えないのはベンテシュキメの足元の油、滑走は急停止が出来ない…あっという間にベンテシュキメの体はスバルに迫り、その剣はベンテシュキメの炎を切り裂き振り抜かれ…
「むっ…」
刹那、スバルの目の色が変わる…、剣を振り抜いたのに感触がない、斬ったのは炎だけ…ならばベンテシュキメは何処に
「何回も同じようにやられるかよ!死ねや!後方獄門落とし!!」
「後ろか…!」
跳ねていたのだ、スバルの剣が自分の首を狙いに来ると理解していたから、故にこそベンテシュキメは賭けに出た、捨て身にして決死の賭けにて咄嗟に飛び上がり、炎を囮に脱ぎ捨てその背後を取ったのだ
地面が足につくよりも早く双剣にてスバルの首を切り落とそうと振り…
「悪くない、自分の肉体が如何に遅くなっているか良く理解できた」
「は!?」
空中でベンテシュキメの剣が弾かれる、こちらを見ることもなくノールックで剣を後ろ手に回し的確にベンテシュキメの処刑剣をはたき落したのだ、もはやどういう技術だよ どういう技だよ…
なんて、驚く暇もなくスバルは体を入れ替え 剣を振りかぶる、攻撃手段を弾かれ無防備になったベンテシュキメに向けて 剣を振りかぶる…
その姿は、眼光と刃を煌めかせるスバルの姿は、最早人には見えなかった
「ッ…悪い、御大将…!」
覚悟する、防げない…防ぐことが出来ない斬撃が来る、おそらく体は両断されるだろう…
役目を果たせないまま散ることになる己の不甲斐なさを呪い、彼女は……
「史上最強の剣士はここかーーー!!!」
「退きなさい!これは私の獲物です!」
「む…!」
刹那、ベンテシュキメの体が蹴り飛ばされる、邪魔とばかりに彼女を蹴ったスバルはすぐさま体を入れ替え、トリトンとローデよりも背後から飛んできた無影の剣閃に向けて振りかぶった剣を振り下ろす
「ぐぇっ!?、くそっ!何が!?」
「テメェか~!スバルってのはぁ~!!」
「貴方がスバルですか…」
「誰だお前は…剣士か?」
何が起こったか、腹を蹴られ咳き込むベンテシュキメが見るのは、いつのまにか何処からか現れた剣士…否、コスルコルピの最強戦力 タリアテッレ…今この世界で世界最強と呼ばれる剣士と同じく剣豪として知られるマリアニールがベンテシュキメ達の劣勢を目にして救援に入ったのだ
「てめ…タリアテッレ!?マリアニール!、お前…後方の守りについてたんじゃ…」
「あっちはあっちで始まったからね、私の仕事もなさそうだし…!あんたらも死にそうだし!助けに来てやったんだよ!」
「救援です、大人しく受けなさい…!」
スバルと鍔迫り合いを繰り広げる現最強と旧最強の剣士と剣士、情けない話だ つまりタリアテッレ達から見てベンテシュキメ達は助けに入らねば死ぬ奴らだと思われているということではないか
くそっ、何から何まで情けない…いや、今はいい!とにかくこの救援を起点にこの状況を巻き返さないと
「まだ、羅睺は二人いるんだ…!こっちはあたい達が…」
「ああいや!、救援にはもう一人来てるよ!、あと…そいつ今ブチブチのブチでブッチ切れてるからそこから離れた方がいいよ」
「は?ブチ切れてる?」
もう一人、救援が来ている
そんな言葉と共に渡された言葉にベンテシュキメが首を傾げた瞬間のことだった
「ガーシャガシャガシャ!、なんだスバル!お前はそいつとやるのか!ならばお零れは我輩が…」
「っ!この鎧…!」
すぐさまベンテシュキメに狙いを定めたミツカケがベンテシュキメの頭上で八つの剣を頭の上で構えた瞬間の事だ
剣を構えたミツカケの更に頭上で、黄金の輝きが強く煌めく、それは天を裂く金剣の如く…大地を突き刺す金槍の如く、世界を照らす陽光の如く…大地に、ミツカケに降り注ぐ
「ガシャーーーーン!?!?」
落ちたのは雷電、天より飛来する落雷がミツカケの頭を捉え大地に叩きつけ…いや違う、落雷じゃない…!
天から落ちてきたのは、雷を纏い 雷速で飛んできた、人だ
「貴様か、シオの腕を切り落とした下郎は…!」
「グググ!何者ッ!」
「下郎に名乗る名はない…!」
バチバチと迸る電撃を身に纏い、黄金の鎧を輝かせ、ミツカケの頭を掴み大地に叩きつけたその人影はゆっくりと大鎧の上に立ち上がり、ミツカケを見下ろす
その者の名はグロリアーナ・オブシディアン、ミツカケが半殺しにした人間の一人 シオを幼い頃から育てていた教育係にして、デルセクト最強…否 今はもうカストリア大陸最強と呼ばれる総司令 黒曜のグロリアーナが未だ嘗て誰も見たことがないほどの激昂を晒す
「貴様に地獄を見せにきた、シオの腕の借り…返させてもらう」
「ぬぅがぁぁぁあああああ!!!、我輩の上から退け馬鹿者がぁぁぁああ!!!」
「っと…」
雷の速度で飛来したグロリアーナの叩きつけを受けながらもまるでダメージを負わぬミツカケは八本の腕をクネクネと動かし暴れ狂い、グロリアーナを背中から叩き降ろそうと暴れる
それを受け、ヒラリと布のように軽やかに距離を取るグロリアーナは傷ついたベンテシュキメの前に立ち…
「救援に来た、あの鎧は私がやる」
「っ…悪いな…、役に立てなくてよ」
「何を言っている、お前達にはまだ仕事があるだろ、剣士と鎧は私とタリアとマリアがやる、故にあの聖人はお前達がやれ…アレにはお前も因縁があるだろう」
そうグロリアーナが指し示すのは、半裸の巨漢…オライオンに於ける肉体の象徴 聖人ホトオリだ、まだ諦めるのは早い お前達はお前達の仕事をしろと…そう言ってくれるのだ
正直ありがたかったよ、ここでお前達は危ないから退いてろなんて言われたら立ち直れなかったところだ
「…ありがとよ、グロリアーナ」
「構わん、さぁやってこい」
「言われなくてもやるさ!、トリトン!ローデ!あたい達はホトオリをやるぞ!」
「はい、次は無茶して突っ込まないでくださいよ!」
「ヒヤヒヤしたぞ…!」
「……私の相手はお前達か、…まぁいい 誰であろうとも、救いを与えるだけだ」
三人の神将が総掛かりでホトオリを囲む、タリアテッレとグロリアーナの援軍で形成はかなり楽になった、とはいえその実力差が埋まったわけでもない
苦しい戦いであることに変わりはないけどさ、御大将!あたい達だってあんたの守りたいものを守りたいんだ!、だから
ここはあたい達に任せてくんな!
「行くぜ…!、あんたなんか聖人でもなんでもねぇ!」
「…そうか、それもそうかもな」
傷ついた体を引きずり、ベンテシュキメ達は揃って戦いを挑む…全ては魔女の弟子達、そして恩人たるネレイドの道を拓く為
魔女大連合と羅睺十悪星の戦いは、更なる段階に移りつつあるのだった
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