孤独の魔女と独りの少女

徒然ナルモ

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八章 無双の魔女カノープス・前編

231.孤独の魔女と死戦のアルカナ

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大いなるアルカナ連合によるマルミドワズ襲撃事件より一ヶ月、戦いの舞台はマルミドワズから帝国南端のY地区 旧テイルフリング領のパピルサグ古城へと移っていた

帝国側はアルカナの苛烈な襲撃に人員を減らしながらも未だに総勢100万の大軍勢、三方に軍を展開しアルカナとパピルサグ古城を睨みつける

対するアルカナは既に帝国が来ることがわかっていたので、杉の木を切り倒し 城の周辺に平地と防衛拠点を建設、木で組んだ柵やお堀などを用意し 二十万の軍勢で迎え撃つ姿勢だ

この戦い、帝国側の圧倒的有利と言える、人員の質と量兵器の質と量、全てにおいて上回っている

だが、そんな戦いを行方のわからないものにしているのは間違いなく アルカナ側の主要な戦力

宇宙のタヴ 審判のシン 無垢の魔女ニビルの三名だ、特にニビルに至っては詳細な情報さえ事欠く始末、未知とは恐怖だ 帝国兵がニビルを恐怖するには十分な被害をニビルは既に出している

この三名が いつ何処で現れ、そしてどのように動くかがこの戦いの趨勢を握る

それを帝国兵全員が胸に刻み 全員が武装を構え、進軍開始の時刻を待つ、既にアルカナは迎え撃つ支度が出来ている、何の…迷いの時間にも感じられる待機時間を数分挟んだ後、帝国兵達に進軍開始の合図が行き渡る

まず最初に怒号を上げながら突撃したのは 中央進軍隊、三方で最も甚大な被害を被った軍ではあるものの、未だに四十万近い大軍勢たる中央は謂わばこの戦いの主力

大規模に展開し 敵を威圧するが如く中央軍は進軍を開始する、当然アルカナ側もそれを阻止しようと事前に用意した防御拠点を用いて進軍の妨害をする、がしかし

「ああ、くそ! やはり出てくるよな…!」

魔女排斥組織の一人、ヴィーラントと共に歩む事を選んだ構成員の一人が荒れに荒れる戦場を見てボヤく、彼は状況の深刻さを理解しているつもりだった

帝国とやり合うというのは恐ろしい事だってのはよくよく分かってた、相手が手負いだからと言っても関係ない、未だ帝国の牙は鋭く 爪は強靭なのだから

それは今こうして戦場を前にしてよく分かる、今突撃してきている大軍勢は中央にアルカナ側の視線を誘導する為の謂わば囮、そんなことわかってる こいつらに気を取られたら側面から挟まれる

それは既にヴィーラントさんから聞いていた、だから中央の相手はほどほどに…と思っていたが、そうもいかなくなってきた

中央は囮だ、だが だからと言ってた弱いわけでは決してないのだ

「超重量級魔装 巨鎧『アヴァラガ』だ!、真っ当に相手をするなよ!」

何処かでリーダーっぽい奴が叫ぶ、帝国とアルカナの戦いの最前線に聳える壁を見て叫ぶ、いや違う あれは壁ではない

巨大な大鎧だ、帝国師団長 ループレヒト・ハルピュイアが率いる重量魔装団が扱う特殊な鎧型魔装、体長は20メートル程もあり 全身を鋼鉄で覆う巨鎧の中に入り込む事で鎧を操作するという魔装

あれを使えばどんな人間も一瞬にして無敵になる、剣も矢も弾き返し 手を軽く振るうだけで敵は吹き飛び撫でるだけで城塞が崩れる、そんな力を与える鎧を着込んだ軍団が 

横に一列、壁のように並んで戦線を押し込んでいるんだ、まるで動く城塞だ あんなものが攻め入ってきたらそもそも防ぐとか抵抗するとかそういう話ですらなくなる、現に最前線の魔女排斥組織達はジリジリと数を減らしながら退却している…、このままじゃ挟まれる前に押し潰される

「行け行け我らが鋼鉄魔装軍団!今時生身で戦おうなんてバカやらかしてる人達に現実思い知らせろ!」

そんな軍勢の最前線で指揮をとるのは第十一師団 団長 ユゼフィーネ・フレスベルグ、瓶の底みたいなメガネと手先が隠れるだるだるのコートを振り回す小さな女の子だ…が、あれでも帝国特殊機甲隊の指揮官を任されている逸材

別名 超絶魔装軍神のユゼフィーネだ、それが様々な大型魔装を伴いながら現れる

まるで蜘蛛のような多足の体に幾重にも武器が取り付けられ、巨大な砲門を搭載した 大型自立戦闘魔装『バトルスパイダー』

前面に大きく反り返る壁が取り付けられた巨大な車が走る、大地を抉り 敵の攻撃を反射しながら無理矢理敵軍を後退させるそれは、強き雄牛の勇ましさからこう呼ばれる、戦線破壊大型魔装『フォートレスブルドーザー』と

四つ足で走り 頭部に取り付けられた牙型魔力刃で敵を切り裂き、取り付けられた爪で戦線を切り裂く、滑らかな流線型は麗しく 流れる水のようにスルリと戦線を進む、まるで巨大な豹の如きそのデザインは帝国グッドデザイン賞三年連続受賞の経歴あり、名を高速機動大型魔装『ナイトウォーカー』

常に強力な魔力壁を展開し しかもそれをあちこちに配置して回る巨大な鵞鳥がいる、あれもまた帝国の大型魔装、戦場を縦横無尽に駆け巡り 帝国にとって有利な状況を作り出す戦場の救世主 、魔力壁精製大型魔装『ビッグアンセル』

そのどれもがユゼフィーネの開発した大型魔装の数々だ、あれ一体で戦場は帝国にとって有利な形に作り変えられる、たった一人でいくつもの戦場を勝利に導いてきた戦える技術者 それがユゼフィーネだ

「さぁ!、ショータイムだよ!今日は大盤振る舞いが許されてるんだ、とくと私の発明品を見ていってくれたまえ!」

本人も巨大な砲門を搭載した重戦車の上に立ちボカボカ砲弾を連射してくる、あんなのと生身で戦って勝てるわけがない、手元に持った長剣もあいつらにとってはペーパーナイフと変わらないだろう

これが帝国本来の戦力、そもそもアルカナ側が帝国相手にマシな戦いが出来ていたのは戦闘におけるイニシアチブを握れるよう立ち回って来たからだ、巧みに自分たちの強みである秘匿性を利用し後ろから刺すのをひたすら繰り返してきたからだ

でなきゃそもそもアルカナ一つにやられるような国が この世界の秩序を守れるはずがない、帝国は単体でマレウス・マレフィカルムとやりあえるだけの戦力を有しているのだから

「皆さん、下がりなさい…あれは歩兵では相手にもならないでしょう」

すると 大型魔装の群れを前に毅然と立つのは魔女排斥組織 清廉なるアヴァンチュリエのボス ペトロネラ・ジルコニアだ、お前達では無理だと歩兵を下がらせる

そも、大型魔装の到来を全く予期していなかったわけではない、帝国にとって大型魔装は使って然るべき当然の武装、出し惜しみせず出せるだけの数を揃えている、だからこの場に大型魔装が大挙して訪れる事を事前にペトロネラは理解していた

そして、大型魔装を使われればこちらに勝ち目がないことを、故に用意した いや用意してきた、帝国と一戦構える時のために彼女が開発した発明品、それを今ここで使うのだ

「さぁ!、構えなさい改造魔獣!目の前のデカブツを食い殺しなさい!」

ペトロネラが手を前へ突き出すと共にあちこちから湧いて出てくるのは魔獣だ、…が 様子がおかしい

現れた魔獣はどれもあちこちを鉄板でコーティングしていたり 腕を改造され武器になっていたりと、どうにも自然な出で立ちではない、その上顔に至っては機械的なヘルメットが被らされており…生気すらも感じない

「むっ!、なにそれ!」

「アハハハハ!、これこそ帝国と戦争する為に私が十年かけて作った尖兵達!改造魔獣!、彼らなら大型魔装とだって張り合えます!」

そう、これは彼女が開発した技術により ゴーレムと合成された魔獣達なのだ、その脳にゴーレムクラフトによって生まれたゴーレムコアを埋め込み 体の至る所にコアを打ち込むことにより魔獣を意のままに制御することに成功したのだ

改造魔獣は痛みを感じない、命を惜しいとも思わない、ましてや元はBランクやAランクであった魔獣ばかり、それが捨て身で戦えば 大型魔装だって目じゃないのだ

「さぁ、行きなさい!私の傑作達!帝国兵を引き裂き血を啜ってやりましょう!」

Aランククラスの魔獣を10体程合成し縫い止め作られた超大型の改造魔獣の頭の上に乗り高らかに叫ぶ、大型魔装という有利な条件を潰してやればこの戦いは泥沼になる、泥沼になれば拠点が近い我らが有利!とペトロネラはニタリと笑う

事実、先程まで前進を繰り返していた帝国大型魔装群もその足を止め、改造魔獣を相手に交戦するようになった、帝国の進軍が止まったのだ

「今の間に足の間を通り抜けて歩兵を潰し大型魔装を包囲する準備を!、いくら強力でも周囲からの援護がなければ大型魔装は動く棺桶でしかない!」

「おぉー!!」

大型魔装が改造魔獣を相手に戦っている間に 大型魔装を援護する歩兵隊を叩く、もし歩兵を撃破することが出来れば大型魔装は強力な軍の推進力から ただのトロい木偶の坊に変わる、後ろに歩兵がついて その歩みを進軍として成立させているからこそ 奴らは強力なのだ

故に、今は歩兵を叩く ペトロネラが大型魔装を食い止めている間に、これを起点として帝国に主導権を握らせずに勝ちに行く

そう、誰もが胸のうちに炎を燃え上がらせた瞬間

「あははははは!、さぁさぁ!ぶっ潰してやるわ!帝国……うっ!!」

ペトロネラが目をギョッと開く、彼女が乗っている超大型の改造魔獣が突如としてグラリとバランスを崩し倒れ始めたからだ、いやおかしい こいつは私が作った魔獣の中でも最高傑作のはず、なにが起きたかもわからないうちに死ぬなんてこと あり得ない

改造魔獣の強さを求めるあまり、大きくし過ぎた体が災いし、倒れる魔獣と共に空に放り出されるペトロネラは見た、自身が乗っていた大型の魔獣の脳天に、魔力矢が突き刺さっていたことに

「まさか……」

まさか その言葉に答えるように、龍は咆える

『ドラゴォォォォオオンン!!』

矢が飛んできたのは右撃隊が控える森林の奥だ、煌めいた光は遥か彼方さえ見据え穿つ星煌の射手によって放たれた、あんな遠くから奴は魔術を届かせ かつその数射で確実に急所を射抜くなんて卓越した腕を持つ人間など 少なくとも一人しかいない

ルッツとでは比べる対象にさえならない程の弓の使い手、師団長フィリップだ…

「うげぶぇっ!?」

自らが作り出した改造魔獣から振り落とされ、地面に頭から着地し昏倒する彼女に気がつく人間はいない、魔女排斥組織も 帝国兵も改造魔獣も大型魔装も、皆が皆目の前の戦闘に目を奪われていたからだ

ペトロネラが気絶しても 改造魔獣は動き続ける、最後に言われた命令…殺戮をなす為に

「ぐぉぉぉぉおおおおおん!」

「魔獣達に続け!、こいつらの好きにさせるな!」


『ぐっ、魔獣型の兵器とは厄介な…』

「帝国軍が押し負けんなよ!、こんな雑魚どもに!」

響きあう怒号とぶつかり合う武器と武器、あっという間にパピルサグ城正面の広場はカケラも余すことなく その全てが戦場へと変わり、魔女排斥組織と帝国軍の一進一退の攻め合いは続く

……………………………………………………………………………………

「よっっっし!、なんかリーダーっぽい大物に当たったよ!」

そんな決戦からやや離れた森の奥、槍のように突き立てられた黒い杉を傘に隠れ潜む彼はガッツポーズをとる

フィリップだ、第三十二師団の団長にして弓の名手たる彼が星穿弓カウスメディアを構えている

「何を撃ったんだ、フィリップ殿」

「えぇ!?ゲーアハルトさん見えないの!?」

「見えん…」

そんな彼の隣でフィリップが弓を放った先を見るのはゲーアハルト、しかし いくら目を凝らしても何も見えてこない、森の深い闇ばかりが視界を遮る、この中に矢を射るなど、こんなの敵に当たるかどうか以前に 当たったかも分からない

「あはは、まぁ 僕にしか出来ない芸当でしょうと、中央進軍隊の援護射撃をしていたんだよ?ゲーアハルトさん」

「ここからか…、まさかとは思ったが、ここから中央まで数里は離れていように…当てたのか」

「まぁね、僕達も少しは貢献しないとさ」

そう言いながら手の中でくるりくるりと弓を回して遊ぶフィリップは語る、今 フィリップ達は右撃隊をゲーアハルトと共に率いているのだ、本当なら右撃隊を率いるはずだったフリードリヒさんが軍団全体の総指揮官になっちゃったからね、総指揮官は中央に移動してしまったよ

なので、ここは残った僕とゲーアハルトさんの残り物コンビで動かすことになったのだ

「しかし、僕達どうすればいいんだろ、敵はもう左右からの挟撃が来るって知ってるんだよね、ならもうここで待機する必要無くない?」

「それはそうだが、フリードリヒ団長がここで待てと言っていただろ?、それもとびきりの弓を持って…と、何か策があるに違いないさ」 

フリードリヒはここを離れる前言っていた『取り敢えず急拵えだが勝つための策は用意した、お前ら 合図があるまで待機な?飛び道具…ああ弓をたくさん用意しておいてくれ?いいな?』だってさ

いい策が思いついたなら僕達と共有してくれてもいいのにと思う、だってその策の内容何にも話さず行っちゃったんだよ!?、これでどうやって動けってのさ

「全く…」

「まぁまぁ、フィリップ団長…私はフリードリヒ団長を信じていますよ?」

「あの怠け者団長を?」

「ええ、あの人は私にとっての特記組の先輩に当たる人ですのでよく知っています、あの人の本気を…、フリードリヒ先輩は 今日 勝つつもりです」

ゲーアハルトは柄にも無く目を輝かせて笑う、この遠征で一番フリードリヒにこき使われたというのに、それでもまだこうやって信じられるのはそれだけフリードリヒが慕われている…ってことだろうなぁ

(…………まぁ、僕にとってはどっちでもいいけど)

正直どっちでもいい、フリードリヒさんが有能か無能か、策があるのか無いのか、この戦いに勝てるならなんでもいい…

そう思いながらフィリップは遠視の魔眼で眺めるのはパピルサグ城…、僕のご先祖様がかつて住んでいたお城がある、今は憎き敵の拠点となった城だ

(パピルサグ城か…)

正直、あのお城が今も残ってるとは思ってなかった、いや取り壊しはしなかったは聞いたけど、てっきり風化して瓦礫の山になってると思ってたら、意外にしっかり形が残ってるからびっくりした、まるで誰かがずっと管理してたみたいだ

(ひょっとすると それがヴィーラント・ファーブニルなのかな)

だとするととんだ忠臣だ、今は亡き王朝への忠義を捧げて亡国の城を一人で守っていたのだとしたらな、…けど

分からない、フィリップは今 ヴィーラントという男が気味が悪くて堪らないんだ、だって ファーブニル家は数百年前に滅びてる その末裔が今も残ってるとは思えない

そもそもファーブニル家は民の暴動を扇動し王朝を滅ぼそうとした側、それが何故今になって王朝の復活を謳ってるんだ

ヴィーラントは何者なんだ、…分からないが どうにもフィリップは見たことのないヴィーラントに因縁を感じて仕方ない、出来るならこの手で捕らえてやりたい、けど…

(ヴィーラントはエリスさんの獲物だもんなぁ…、リーシャさんの仇…だものなぁ)

ヴィーラントはリーシャさんを殺した、リーシャさんとはそこそこに付き合いもあったし いい人だったから悲しいとは思う、が 何よりそれ以上に許せない事がある

エリスにあんな顔させたんだ、ヴィーラントは…、惚れた女の涙一つ 拭えないで何が師団長だ…

「……ッ」

「戦場で事が動けば我らの出番が来る筈だ、それまでの間に武器の準備をしておく、その間フィリップ団長は戦場の動きを観察して……フィリップ団長?」

ふと、ゲーアハルトが振り向くと そこにはさっきまで居たはずのフィリップが

「い いない、まさか…単独行動!?ここに来て!?フィリップ!戻って来い!」

忽然と姿を消したフィリップ、その事実を前にゲーアハルトは青褪める、この大事な場面での単独行動、最悪だとゲーアハルトはその名を叫ぶが…、残念ながら答える者はいないのであった






「ごめんよゲーアハルト、でも僕 やっぱりヴィーラントって奴に会いに行かないといけないんだ」

耳の端に触れるゲーアハルトの叫びを振り切り、高速で飛ぶ矢の上に立ち 虚空を滑るように森の木々を避け進むフィリップ、ゲーアハルトは特記組出身の男、僕よりもずっと指揮を執るのが上手い、きっと僕があの場にいても大して役に立たない

だから、フリードリヒにも ゲーアハルトにも エリスにも悪いけど、僕はヴィーラントに会いに行き、そして打ち倒すつもりだ場合によっては殺す

それは パピルサグの名と血を継ぐ者としての責務、そしてエリスに惚れた男として 彼女の悲しみを取り払う義務がある、自分勝手なのは分かってる、いくらゲーアハルトだけで十分って言っても持ち場離れて無断行動、それにエリスの憎き相手を掠めとるような真似をするんだ

僕はエリスに軽蔑され、師団長の座も降ろされる、最悪軍からも追い出される可能性さえある、けど エリスがまたここに戻って来て 傷つくよりはマシだ、だってヴィーラントがエリスをも殺さない保証がどこにある

彼女は軍人じゃない、十分傷ついた もうそれでいいじゃないか、後は軍人たる僕の役目だ…!

「っと!ん?」

滑るように矢を操作し 杉の森を出る、このまま城の側面に回り込んで 城の中にいるであろうヴィーラントを探し出す、そのつもりで城の横っ腹へと飛ぶと

「んなっ!?お お前は師団長フィリップ!?」

何の偶然か、城の側面から鎧で武装した魔女排斥組織…即ち敵が軍勢を率いて森に向かって真っ直ぐ進軍しているではないか、恐らくこいつらは右撃隊を襲撃するための部隊だろう

何の驚きもない、相手は僕たちの存在を知ってるんだ、そりゃ放置せず襲撃に来ること自体は想像出来ていた、だから僕もゲーアハルトも迎撃のための準備はしていたが…

丁度いいや、蹴散らして進むか

「ん?、いや待て あいつ一人か?、なら都合がいい!師団長の首を取れば俺達は…ぎゃぶっ!?」

「へぇ、誰の首取るって?」

勇んで前に出た一人の男の額を矢が射抜き、男の体が半周して地面に崩れる…、雑魚もいいとこだな

「バカ!前に出るな!一人でも相手は師団…ぐげぇっ!?」

「ひぃっ!?こいつ…がごぉっ!?」

「ど どうする!どすれば…ぎぃっ!?」

弦を引けば 光が煌めき、魔女に敵対する愚か者の額に穴が空く、バカだね彼らも…、戦ってる相手の強さを見抜けない奴らばかりだ

「悪いけどさ、僕別に 殺すのとか特に嫌がるタイプじゃないからさ、死にたくないなら僕の視界から失せなよ、向こうの山まで逃げれば 僕の視界外だからさ」

ギリギリと矢を番 全身から殺意を溢れさせる、こいつらは帝国の敵だ そもそもが生かす理由がない、そもそも帝国と真っ当に戦おうって気になる事自体が許しがたい罪であり 呆れ返るほどの勘違いになのだ

その報いは訪れる、その時が来ただけだ

「ぼ ボス!、こいつ師団長です!師団長が現れ…ギャァ!?」

「退け!、師団長だとぉ?ハッ!今更恐れるほどでもないわ!」

すると鎧の戦士達を押しのけ 僕の三倍はあろう巨大な大男がドシドシと現れる

「ぬははは!この『鋼鉄軍団』が頭領 鋼鉄鎧のシュトローマン様のウォーハンマーの餌食にしてやるわ!」

「…………」

どうやら この一団を率いてる男らしいシュトローマンは巨岩の如きハンマーを掲げて笑う、こいつらが調子に乗ってる理由が分からん

「何?君僕を倒せるつもり?、部下がこんなにやられてんのに?」

「ハッ!、強がりはよせ…、お前達はヴィーラントさんの策にハマり多くの師団長が戦線離脱したと聞くぞ?、ぬはははは!師団長ってのも案外大した事ないな」

「…そりゃ、そうかもね?」

「俺達は帝国を過剰に恐れすぎただけだ、そしてその恐れはヴィーラントさんによって消え去った、もう誰もお前らを恐れな……ぁーー……」

その口が言葉を最後まで紡ぐことは無かった、剰えそのデカイ体はグラリとバランスを失い背後に倒れる、まぁ ドタマに五本 心臓に三本矢を受けて立って喋る奴がいるなら見てみたいよ

「しゅ…シュトローマン様がやられた…、しかも…一瞬で…」

「たしかに君達はもう帝国を恐れていないようだ、まぁ別にいいよ、また恐れさせるだけだからさ」

帝国は秩序の象徴だ、その秩序を崩そうとするものにとっては恐怖の象徴だ、そうでなくてはいけない、だから ここにいる人間全員に分からせる、誰が最強で 誰が勝者で お前らが何なのかを

「さ、ほらほら 逃げた逃げた、帝国様のお通りだよ?、それとも…まだやる?」

地面に降り立つ、矢を指先でクルクル回して 僕が思える中で一番優しい微笑みを向ける、背後に百の矢を浮かべながら、これを見て これだけやられて、まだ立ち向かえるなら彼らは大したものだが…

「ひぃぃぃ!!!もうやめだ!こんなの勝てるわけねぇ!!!」

「師団長がこんなに強いなんて聞いてねぇよ!、何とかなるんじゃないのかよ!ボスのいうことなんか信じなきゃよかった!!」

一目散に蜘蛛の子散らして逃げていく彼らの評価は当初の通り、大したことはないらしい

僕は逃げていく軍団を尻目に悠々とパピルサグ城へと向かう、背後の矢を嗾けて 逃げていく一団を追わせてね、何人生き残れるかな…

「ふんっ!、あれ?」

かち合った軍団を蹴散らして 満を持してパピルサグ城の城門をこじ開け中に入れば、呆気を取られる、てっきり中には魔女排斥派達がひしめいてると思ったのに

誰もいないんだ…

「…もしかして外にいるのが全戦力?だとしたら…、制圧も時間の問題だな」

てっきり城に篭って籠城でもかますかと思ってたのに、全軍を外に出してるのか?、どういうつもりか知らないが 既に外では帝国軍が押し始めている、魔女排斥軍が瓦解するのも時間の問題だ

なんて思いながら僕は一人 パピルサグ城を歩く…、中も整備されてる…想像の五倍は綺麗だな

「…ここに、ご先祖様達が」

一人 回廊を歩む、この廊下も僕のご先祖様達が歩いていたのかな、なんて 柄にもなく考えてしまう、僕とご先祖様は言っちゃえばもう他人 この城を我が物にとは思わないし、この城が僕の所有物だとは思わない

ここは敵地、敵地でしかない…如何に郷愁を誘おうとね

「しかし、ヴィーラントは何処にいるんだろう、もしかしてあいつも外にいるのかな、だとしたら逸ってここまで来た僕が馬鹿みたいじゃないか」

城の中に人の気配はない、これでも弓兵だからね 視界に入れてなくても人の気配は分かる、そんな僕から言わせれば この城の中に人はいないと断言してもいい

ただ、まぁここまで来たんだし 玉座の間だけでも見ていくかと それっぽい場所を目指して歩けば、案外容易く見つける事が出来た、構造的に玉座の間と思われる部屋の扉だ

ここまで迷う事なく来れたのは、パピルサグの血がそうさせるのか…

「…考えすぎかな」

ご先祖とかパピルサグの血とか、今はどうでもいいじゃないかと首を振って迷いを払い、僕は意を決して玉座の間の扉を押して開く、どれだけ整備されても扉そのものは古いのか あげればキィと不快な音を立てて それは開く

すると、この視界に入ってくるのは 寂れた…かつての栄華を思わせる薄暗い玉座の間、柱も壁も 時間により劣化し汚れつつも何処か輝きを保ち、奥にある玉座を際立てる

玉座だ、パピルサグの王だけが座ることを許された玉座が、戦場を一望出来る大窓を背に鎮座していた…、その上一人の男を乗せながら

「っ……」

一瞬 玉座の上に座るそれを、僕は死体であると思い込んでしまった、まるで生気も気配も感じず ピクリとも動かず目を瞑り玉座に座っていたからだ、けど…その考えが否定されたのは その死体が目を開き フッと笑ったからだ

生きてる…、生きた男だ、多分 あれがヴィーラント…、何故だか分からないけれど、直ぐに確信できた、やはりここにいたのか

すると、玉座に座る男は僕を見て笑いながら

「漸く、我らが王が 凱旋されたようだ、長い長い遠征を終えて…漸く戻られた」

口を開く、その声に味があるならきっと飴のように甘美だと思えるほどに、甘ったるい猫撫で声で、男は ヴィーラントは僕を見る

「お前が、ヴィーラント・ファーブニルかな」

「ええ、そうですよ フィリップ陛下、貴方の忠臣にございます」

ヴィーラントは玉座に座ったまま 僕を見下ろす、忠臣の態度じゃないだろそれは

しかしこいつがヴィーラント?、…確かに身なりはいい、貴族のように豪奢な服と血に濡れた直剣を腰にし、美麗な髪と目を輝かせながら まるで絵画のような美しい微笑みを向けている、こいつが…

「パピルサグ王家とテイルフリング王国…、その最後の家臣 貴方の帰りを永遠に待ち続けた臣下、ヴィーラント・ファーブニルは、貴方の帰りを心よりお喜び申し上げます」

「僕はもうパピルサグ王家の人間じゃない、帝国の軍人 フィリップだ、お前の都合に付き合うつもりはない」

「ふふふ、いいえ…如何に貴方が否定しようとも、この城とこの玉座は貴方の為にある、共にテイルフリング王国を再興しましょう、フィリップ陛下」

徐に立ち上がるヴィーラントを受け、咄嗟に弓を構える…、しかしこいつ 想像より若いな、テイルフリングの亡霊と聞いたから もっとお爺ちゃんかと思ったら、若い…フリードリヒさん達と変わらないくらいの若さだ

だからこそ、確信する…こいつは、ファーブニルの人間じゃない

「嘘や詭弁はやめろ、ファーブニル家は数百年前に滅亡してる、その家が続いているとも聞いていない、末裔がいるわけないんだ」

「ですが私はここにいます、私がいる以上ファーブニルもテイルフリングも終わらない、終わることはないんですよ陛下、…何を迷っているのですか、さぁ この玉座に座って…」

刹那、ヴィーラントの頬を掠め 矢が玉座に突き刺さる、だから 分からんないかなぁ

「だから、僕はパピルサグ王家の人間じゃない!、ヴィーラント!お前もファーブニルの人間じゃない!、もうテイルフリング王国は何処にもないんだ!、復活もクソもない!」

「私を…疑うのですか?陛下」

「最初から疑ってるの、分からない?」

「…くくく、あはは…まぁ そうでしょうね、貴方は私を信じていない、最初から…ずっと、そう ずっと私を信じていない、…はぁ~ 悲しい、身が悶えるほどに、陛下からの不信程悲しいものはない」

すると彼はゆっくりと ゆったりと両手を広げる、無防備とも思えるほどに隙を晒して

「なら、私が本物のファーブニル家の人間であると証明するには 我が身を以ってしかありえませんね、さぁ陛下 どうぞその矢で私を撃ってくたさい、貴方への忠義を身を以て証明しますとも」

「は?…お前、正気?」

「ええ、陛下の御心に従い 処遇を受けましょう」

どうぞ、と安らかな笑みで体を晒すヴィーラントは抵抗する素振りすら見せない、どうやら 本当にただの狂人の類らしい、こんなのに纏められる魔女排斥派やアルカナがかわいそうな程だ…なら

「なら、死ね お前は帝国の敵だ」

その狂気に付き合うつもりはない、帝国の敵とエリスの怨敵はここで殺すと矢を放てば、その矢は吸い込まれるようにヴィーラントの胸に向かい

「っっ…ぐぉ…」

胸を 心臓を貫く、その矢は貫通し 心臓を射抜き、血が滝のように溢れ ヴィーラント自身の口からもまた大量の吐血が零れ出す、こいつはここで殺す…それがきっとエリスと帝国のためになるから

「ぐっ…ぉぉお、さ 流石は陛下!何のためらないも無いとは、それに一撃で我が心臓を…まさに王の一射、このヴィーラント…感服致しました…」

するとヴィーラントは心臓を射抜かれながらも 苦しそうに枯れた声で僕を称え、手を叩きながらグラリと後ろに倒れ、その命を散らし…

「ですが…」

たかと思えば、しっかりとした足取りで体を支え 倒れることなく 笑いながら立っている、心臓を射抜いたんだぞ、人間が 心臓を撃たれて死なないばかりか倒れないなんてありえない

ありえない ありえない、そんな言葉は更にヴィーラントの行動で増幅する

「ぐっ…ぎぎっ…!」

「お お前…何して」

剰え心臓に突き刺さった矢を掴み 無理矢理引き抜くのだ、するとどうだ、肉は抉られ 胸から彼の脈打つ心臓が現れるでは無いか、矢に串刺しにされたままの心臓は 血管を千切り 完全に分離される…

なに、してんだこいつ

「ですが陛下、私はこの程度では死にません、死にませんよ 私は」

「は…?、な なんで」

死んでいない、心臓を射抜かれ 剰え抉り出しても死んでいない、戦慄し動かなくなる僕を他所にヴィーラントは矢ごと心臓を地面に捨てて

「それを忠義の証に捧げましょう、私には必要ないものなので」

「な…なんで死なないんだよ、お前…お前 何者だよ!」

「言ったでしょう、私はヴィーラント・ファーブニル…正真正銘のファーブニルです」

その言葉と共に胸に空いた穴がまるで巻き戻るように塞がり、ヴィーラントの血も止まる…、異常だ こいつは異常だ…不死身かこいつ

「私はヴィーラント、数百年前から今日この日まで 永遠と思える時間を過ごしてきたテイルフリング最後の貴族、私が末裔?なにをバカな…私はテイルフリングが在りし日より今日まで生きてきた 当時のファーブニルそのものなのですよ?偽物でもなんでもない」

「数百年…そんな、バカな…そんなのあり得るわけが…」

「ですが事実私はこうして生きている、それともまだ疑うのですか?、テイルフリングを帝国に売った あの時の王と同じように、私の言葉を信じられないと言うのですか!?」

こいつ以上にこいつの体が信じられない、いるのか?数百年間生き続け 心臓を抉り出しても死なない怪物なんて。か
と言うかこいつ…、正真正銘 パピルサグ王家が滅びた時 最後まで帝国に吸収されるのを拒んでいたファーブニル…その本人だって?

普通なら信じないけど、これ…マジか

「あの日…あの時、私は本気でテイルフリング王国の事を案じて貴方に忠言を申したと言うのに!、やはりパピルサグは私を信じてはくれないのですね…」

「よ よく言うよ、君だろ?テイルフリング王国の民達を扇動して暴動を起こさせたのは!」

「あれは仕方なかったのです…、ああでもしないと 貴方は私の言葉を耳にしてはくれなかったから、まぁ終ぞ私の言葉に耳を傾けることはなかったですが?…」

もう良いのです そう爽やかに笑うとすっかり傷の癒えた体でフラフラと僕の方に向かって…

「来るな!来るなら撃つ!」

「私はテイルフリングを愛しておりました、その為なら如何なる化け物になっても構わないと、それほどまでに愛しておりました、ですがもう良いのです…良いんですよ、真の意味でのテイルフリング再興は…百年ほど前に諦めましたから」

「ならなんの為にお前はこんな事を…ッ!?」

刹那 ヴィーラントが踏み込んだ、かと思えば既に僕の目の前にヴィーラントの顔があるのだ、速い 凄まじく速い…、この顔をヴィーラントに掴まれ漸く接近に気づいた程だ、この僕が…

「フィリップ…お前が望もうが望むまいが関係ない、お前があの玉座に座ればテイルフリングは形だけでも再興する、今はもうそれだけでいい」

「は…離せ…!」

「幸いお前は当時の王にそっくりだ、顔も頭の中身もな…ならば、ふんっ!!」

投げ飛ばされる、ヴィーラントに片手で、ただそれだけで僕は玉座に一直線に飛んでいき、叩きつけられ無理矢理座らされる

「ぐぁっ…くっ…」

「テイルフリングが蘇り レヴェル・ヘルツも元に戻った、これで漸く終わらせることができる、全てを…」

「お前…何考えて…」

僕の言葉を無視してヴィーラントはいつのまにか投げ飛ばされ玉座の上でぐったりする僕の目の前に立ち、懐から取り出したナイフで僕の左手を突き刺し

「ぐっっ!?ぁあああああああ!!!!」

「そこから動くなフィリップ…、お前はそこにいろ 全てが終わるその時までな」

手が手摺にナイフで縫い付けられる、真鍮で出来ているはずの真鍮の上に、僕の腕ごとナイフで貫き縫い止めたのだ、あまりの激痛に悲鳴をあげ 僕は動けず ヴィーラントの拳を受けて意識を刈り取られる、奴の言う通りになってしまった

「ぐ…う…」

「これでいい、これで漸く完成した…後は、終わらせるだけだ」

気絶し玉座の上に座るパピルサグを見て怪しく笑うヴィーラントは、己の願いが結実する瞬間を見て 漸く打ち震える、全てが元に戻る これで…

「ニビルゥゥゥウゥアアアアアアア!!!!」

絶叫する、その名を叫んでヴィーラントは怪物の如く咆哮する、すると 城の床を突き破り、地面から人でありながら四つ足で歩く真性の怪物が現れる…、彼が用意した終末の駒 ニビルだ

「にーーににににに、かぬほけめま」

「ニビル…、外にいる帝国兵を皆殺しにして魔女をおびき出せ!、終わらせろ!全てを!帝国を!」

「ぅーーーぅぅうーー!」

命令を受け ニビルは飛び立つ、ヴィーラントの言う通り 外にいる帝国兵を皆殺しにし、彼の願いを叶える為に…、意思なき怪物が 遂に戦場へと解き放たれる

「さぁ、来い 魔女…終わりにしよう、長い因縁もこれで終わりだ…、くくく あはははははははは!!!!」

狂気の笑いが城に木霊する、祈りの結実を前にヴィーラントは仮面を捨て去り 、その正体を露わにしながら腰の剣を抜いて窓の外を見る、もう直ぐだ もうすぐ終わる、漸く終わる…何もかもが!

……………………………………………………………………

帝国とアルカナが戦闘を始めてより十数時間と時が経った、既に戦場月明かりに照らされ 世界が寝静まる時間になっても戦いは一向に鎮静することはない

寧ろ戦いは激化する一方だ、帝国中央軍とヴィーラントの用意した新生レヴェル・ヘルツは戦いを続けていた、がしかし

「ぐぎゃぁぁああああ!!!」

「討ち滅ぼせ!、帝国の敵を生かして返すな!」

戦況は完全に帝国側に傾いている、そもそも城という有利な条件を捨てて戦うレヴェル・ヘルツと団結して攻める帝国軍では地力に差があったのだ、中央で戦う両勢力の戦線は徐々に徐々に城側へと押し込まれつつあった

そこに 圧倒的な一手が追加される

「な なんだあれは!!」

レヴェル・ヘルツ側の構成員の一人が、戦場の只中で叫ぶ、帝国側の陣営 壁のように反り立つ大型魔装の奥に、巨大な城塞が現れたのだ

「城!?向こうに城が…なんでこんな一瞬で!」

「違う!ありゃ城じゃない!あれは…」

刹那、轟音と共に構成員達のいる戦場に向けて砲撃が…艦砲がぶっ放され 何もかもが吹き飛ばされる

そうだ、帝国側の陣地、そこに出現したのは城ではない…、もっと凶悪なそれだ

『ぜぇぇえぇぇいん!ぶっっ殺す!!』

木霊するトルデリーゼの声と 連射される艦砲、そう 出現したのは城ではない、戦艦 イータ・カリーナだ、第五師団の団長 トルデリーゼが地面にドカンと戦艦を出して、固定砲台として出現させたのだ

陸である以上戦艦は動けない、だが その強力無比な艦砲は動く、帝国兵の人員を総動員して魔女排斥軍に向けて艦砲を次々と打ち込むのだ

「くっ!!ダメだ!中央にいるな!艦砲に巻き込まれる!」

艦砲の射撃を嫌い 魔女排斥軍が中央から左右にバラけた瞬間、両脇に跨る森から ヌルリと帝国兵が現れる、全員が射撃形態のカンピオーネを構え…

「来たな!、逃すな!撃て!」

「んなっ!?左右の軍が生きてる!?シュトローマンはどうし…ぐぁっ!?」

左右で構えていた射撃隊が両脇にそれ始めた魔女排斥軍を狙い撃ちし、一斉掃射で蹴散らし始めたのだ、射撃を嫌い 後退してもそこは艦砲の爆心地、城に戻っても 射撃対象が城に変わるだけ、魔女排斥軍は完全に袋叩きにされる形になっているのだ

全て フリードリヒの指示だ、『こうすれば1日で制圧出来る』なんて言いながら彼は魔女排斥軍殲滅の作戦 その号令を出したのだ

「ぐぁぁぁああああ!!!!」

「くそっ、…こんなの 勝てるわけない…」

最早戦場には師団長はいない、いるのは中央で通せんぼする大型魔装と左右を固める射撃部隊だけ、圧倒的戦力を持つが故に出来る圧殺戦術、拠点を構えたなら拠点ごと握り潰す そんな荒唐無稽な計画を前に 魔女排斥軍は押し潰されて行く

もう帝国の勝ちは揺るがない、そう誰もが思った、その時だ

「ぎぃぃぃぃいいいいいい!!!!」

不協和音の如き叫びをあげて、爆心地たる中央に 流星が降り注ぐ、否…流星ではない、人だ

人ではあるが、人ではない、それは…

「ごぎゃぎゃぎゃーーーー!!!」

「おお!ニビルだ!ヴィーラント様が漸く切り札を出してくれた!」

ニビル、魔女の力を持つ絶対強者が爆心地に降り立った、その事実に魔女排斥軍が活気付くと共に ニビルは周囲の歓声を無視して、グリグリと地面を踏みしめ…

「ぎぃぃぃいいいい!!!」

突っ込んだ、星の煌めきの如き速度で真正面 大型魔装の壁へと、魔術でもなんでもないただの突進、ただの突進に鋼鉄の大鎧達は紙切れのように吹き飛ばされ帝国の包囲に穴が開く

「ぎぃぃぃぃぎゃぎゃぎゃぁあああああ!!!」

「っ!あいつだ!ニビルが出たぞ!」

「嘘だろあいつ!、大型魔装を頭突きで吹っ飛ばしたぞ!」


「見ろ!中央に穴が空いた!、あそこに突っ込め!このまま潰されるより 突っ込んだ方が安全だ!」

「ニビルに続けー!!」

帝国優勢かと思われた戦況は、ニビルの出現一つでぐるりとひっくり返る、万全の包囲はニビルによって打ち崩され、よりにもよって帝国本陣に続く道を作り出してしまった、その勢いに乗じて魔女排斥軍もその穴に雪崩れ込む

当然、帝国側もそれを阻止しようとするが

「止めろ!ニビルを放置したら戦況が覆る!」

「やらせてたまるか!、なんとしてでも 止めないと!」

ニビルに殺到する大型魔装達、しかし

「ぎぃぃぃぃいぃ!!!」

ニビルが腕を振るう、それによって発生する衝撃波 たったそれだけで帝国の大型魔装達は粉々に吹き飛ばされ 瓦礫と化す、もはや誰にも止められぬ一騎当千の魔女は 大型魔装に群がられながらも物ともせず暴れ尽くす、その間に魔女排斥軍は一斉に攻め入り あっという間に戦況は元の泥沼となる

いや、ニビルがいる分 魔女排斥軍の方が有利だ

「ぐがごぉぉぉぉおおおお!!!」

雄叫びをあげる、勝鬨のような雄叫びを、ニビルはただ命令に従い 帝国軍を殲滅する、このまま行けばそれは実現するだろう、何せ帝国の如何なる戦力を以ってしてもそれを止める事は出来ないのだから

しかし

「さぁぁあぁせるかぁぁぁぁいいいい!!」

「ぅご?」

突如として飛んでくる人影、帝国の本陣から真っ直ぐ飛んで来た影は飛び蹴りの姿勢を取り ニビルの右頬を射抜く

「テメェにめちゃくちゃされたらたまらんのだよ!」

「フリードリヒ団長!」

この軍の総指揮官 フリードリヒ・バハムートだ、彼がこの騒ぎを聞きつけ本陣から突っ込んで来て ニビルに蹴りを喰らわせたのだ、しかし

「うごご…」

「あれぇっ!?全然効いてねぇっ!?」

正に微動だにしない、頬に蹴りを受けても まるで蚊でも止まったか?とニビルはゆっくりとフリードリヒに目を移す、フリードリヒだって全力で打ったし ぶっちゃけて言えば殺す気でも打った、だが 傷がつかないどころか仰け反りもしないかよ

「ピィィィィイュィィ!!」

「危ね!」

次の瞬間 大振りにニビルの腕が振るわれる、パンチとかそういう上等な名前のつかないただのぶん回し、素人以下の動きでありながらニビルがやれば天災となる、咄嗟にニビルの正面から飛び退き背後に回ったフリードリヒは辟易する

やだよぉほんと、腕振っただけで大型魔装の群れがまるで紙吹雪みたいに飛んでいくよ、どんな威力だ…、怪力なんて言葉じゃ表せねぇぞ

「ったく、仕方ねぇ!ほら!相手してやるから来いよ!」  

「ぬぬぬぬぬ」

されどここでフリードリヒが逃げ出しても状況は好転しない、なら指揮官として最善を選ぶ…、それはここでフリードリヒがニビルを命がけで抑え込むという方法、ラインハルトが選択し成し遂げ軍を守った方法だ

まぁ、ラインハルトの戦闘が事前の情報となって俺のところにあるから、ラインハルトよりはマシな戦いにはなるだろう

「ピィィィィイ!!!」

「っっしゃあこい!」

四つ足で手を投げ打ちながら飛びかかってくるニビルを前に フリードリヒは回避行その一挙手一投足に全霊を込める

ラインハルトとの戦闘で分かった事がある、それはニビルの特異極まる性質だ

まずこいつだが、 魔力を持っていないのだ、魔力とは即ち魂だ、魂を持たない生命体は居ない 故に魔力を持たない生命体は居ない、魔力を持つかどうか それが有機物と無機物の境になるくらいには一般的

だが、ニビルは魔力を持たない、今もこうして動いて回ってんのが信じられないが、確かにニビルの体から魔力を感じることはない、故に魔術は使わないが…、そんなもんあってもなくても変わらない

「すぅーーー!!」 

「ぐっ、来るか…」

ニビルの乱暴な連撃を転げ回りながら回避していると、ニビルは痺れを切らしたのか 大きく息を吸う、ただそれだけで周囲の地面が引き寄せられ浮かび上がり ニビル自身の胸も風船のようにボコンと膨らむ

確かにニビルは魔術は使わない、魔力がないから使えない…だが

「ケアァッッ!!!」

吹いた、その取り込んだ空気を熱に変換して、紅の熱線として目の前の俺に向けて吹き出したのだ、聞いた話じゃこの熱線 山一つ吹き飛ばす威力があるってなもんで、直撃は勿論 防御しても受けられない、故に回避しかない

「『インフィニティ ポーカスフォーカス』!」

空間ごと自らの体を捻じ曲げる力を用いてグニャリと体を湾曲させ光を回避する、こういう時この魔術で良かったと心底思うぜ…!

「うぅぅう…アァッ!!」

「ちょ!待ててって!タンマタンマ!一旦待って!タイム!分かる!?」

わかんないみたいだ、普通自分の攻撃を回避されたらびっくりするとかしない?、だがこいつは俺が生きていると見るや否や爪を突き立て襲いかかってくる、凄まじい速度 凄まじい鋭さでだ

「くっ!うっ!ちょぉっ!」

インフィニティポーカスフォーカスを用いても 避けるので精一杯だ、しかもこいつ 徐々に俺の魔術の性質を理解しているのか、動きを先読みして腕を振るい始める

右 左 右、子供が駄々こねるみたいな戦闘法、ある意味人類が生まれて初めて取得する格闘スタイル、そこに合理はない 故に脅威もない、筈なんだが…腕を振るっただけで その衝撃波がボカボカ周りのものを吹き飛ばしていくんだ、とてもじゃないが 受け止めようなんて気にはならない

だが…避けることは出来る、避けることができるなら…!

「んな素人パンチ当たるかよ!」
  
大振りな右、それを前に身を丸め 潜り抜けるように懐に潜り ニビルの無防備な肋目掛けて必殺のボディーブローを放つ、どうよ!、避けられんならカウンターし放題じゃんかよ!

「ぅめ?」

あ、ダメだこれ効いてないわ、『さっきからペタペタ触って何してるの?』とばかりにギョロリと目がこちらを向く、って…

「やべっ!」

「キェッ!」

お返しとばかりに鋭い貫手が飛んでくる、凄いなぁ 人間が手を振るっただけなのに銃弾がぶっ放されたみたいな音が出てら、咄嗟に身をよじって避けてなけりゃ今ので死んでたぜ

「もみめ…」

すると、何かを思いついたのか 一瞬ニビルの動きが止まる、これは隙か?それとも離れた方がいいやつか?、後者っぽいな…退くか! と、一歩俺が後ろに退いた瞬間

「カァッ!」

今度はその手が大地に触れる、俺ではなく地面に向けて垂直に拳を叩きおろしたのだ、当然そうなれば大地はめちゃくちゃに割れて、俺はバランスを崩す、大地に立ち生きる生物ならば誰しもが無防備になる その瞬間を狙いニビルは

「ギィィィいい!!!!」

「ぐほぁっ!?」

蹴りが飛んでくる、というか『蹴り』って言ったら普通の人はどんなキックを思い浮かべるかな、足を前面に出すフロントキック?体を投げ打つドロップキック?それとも俺がさっきやった飛び蹴り?、色々ある 蹴り一つとってもたくさん種類があり、その一つ一つに正確な名前が付いている

だがしかし、大地に拳を突き立てたニビルが放った蹴りは 少なくとも俺の格闘知識にはない不規則な物だった、下手したら蹴りがかどうかもあやしい

何せ地面を殴ったその手で地面を掴み そのまま自分の体をその手で持ち上げ腕だけで体を振り回して蹴りを放って来たのだ、こんなめちゃくちゃな…曲芸みたいな技なのにこれまた威力がハンパねぇ

俺が反応出来ないばかりか蹴られたことさえわからなかったよ、一瞬自分がなんで飛んでるのか理解出来なかった程だ

「ぐぇ…ぐっ、ぅぐぅぅ」

短い悲鳴ののち地面に突き刺さるように吹き飛ばされる、あークソ痛い まるで内臓直に蹴られたみたいだ…、地面をゴロゴロと悶えながらも立ち上がり 確認する、結構吹っ飛ばされたが 戦線離脱はしてねぇ…、体は…

「おお、俺の愛する下半身、まだ一緒に居てくれて嬉しいぜ、おさらばしちゃったかと思ったよ」

腹に一撃食らってそのまま真っ二つになる感覚さえ味わったが、どうやら俺の足は未練がましくもまだ俺の体にくっついてくれている、まぁ その分内臓と肋骨はボロボロだけども

「くっそ…死ぬか、これ…いっそ死ぬくらいなら…、いや」

俺はまだ死なない、俺にはまだやることがある…、少しでも時間を稼ぐ、ニビルが俺に付きっきりになるならそれでいい、その間に他の奴らがアルカナを潰してくれる!、これは個人戦じゃないんだ

「ちちちちちちちちちちち」

すると 吹き飛ばした俺がまだ生存していると分かると、ニビルは逆立ちしたまま腕を足のように動かしてこちらに歩み寄り…、なんか動き辛いのに気がつき普通に足で歩き始める

なんだあいつ…

「お前みたいに不気味な奴にウチの軍がやられてるなんて我慢出来ないぜ、おら!どうした!俺はまだ生きてるぞ!」 

「にしし…ぅぉああぁっ!」

まるで俺の真似をするように吼える、バカにすんじゃねえと俺はポケットに隠し持ったそれを握り ニビルに叩きつけるように拳を振るう、こいつの動きは見切った、こいつは強いが動きは大袈裟!なら 一発くらいなら当てられる、その一発を積み重ねて 少しでも時間を稼ぐ!

「……ぅーー?」

ニビルは俺の行動に対して鈍感だ、俺が何をしても防御も回避もしない、効かないってのを理解してるからか あるいは今の今まで自分にダメージを与える存在に出会ったことがないからか、敵の攻撃行動に対して非常に鈍感

そこを突くため フックを決めるように全体重を乗せ、ニビルの右頬に拳を…

「え…!?」

しかし、俺の目論見は一気に潰える、なんの対応もしないと踏んでいたニビルが、初めて回避を行なったのだ、しかもいつもみたいな 人間離れした動きではなく、体を丸めるように身を屈めている

これは、明確に武術的な行動…ニビルに知性の輝きが、っていうかこの動き …さっきの俺の…!

「ぎゃおっ!!!」

「ぐぶぉっ!?」

飛んできた、俺の攻撃を回避し この懐に潜り込み、カウンターのボディーブローを俺に、それは正しく俺がさっきニビルに対してしたのと同じ動き、真似だ…

当てつけで真似をしたのか?、違う…違うんだ、ニビルは学んでいるんだ、今この場で 人体の動かし方とそれを使った戦い方を

「げはぁっ!!」

「おら、どした…オレはいきてるぞ?ふしししし」

「テメェ…」

血を吐き 崩れ伏す俺を見下ろし、ニビルは先程の俺の真似をして笑う

やはりそうだ、こいつが意味の分からない言語を喋るのも 常人離れしたセオリー外れの動きをするのも、知らないからだ 凡そ人が持ち合わせる知識を…持っていなかったからだ

そしてこいつは今 それを得ている、俺達人間をモデルケースに 完全を目指し学習しているんだ

(『無垢』の魔女…ってか)

「ふしししし…」

しかしヤベェな、あんまり戦いが長引くとこいつ どんどん強くなるぞ

チラリとニビルが後ろを見る、そこには激しく争い合う魔女排斥軍と帝国軍がいる、こいつにとっては恰好の学習材料だ、あの戦いを吸収して こいつはドンドン好きがなくなる、早く決着をつけないと…

「この!」

「このー?」

痛みを堪えて立ち上がると共に大地を踏みしめ 腰を捻り 拳を突き出す、鋭い風切音を鳴らし振るわれる剛腕をニビルはヒョイヒョイと避けていく、ダメだ 当たらねぇ!

これ 詰んだか…!

「こ こ こ こ…このぉぉおおおお?!」

すると今度はニビルが動く、大地を踏み割る勢いで踏み込み 腰がねじ切れる寸前まで捻り 音の壁を突き破る拳が飛んでくる、全部俺の真似だ しかもタイミングも完璧、俺が回避も防御も出来ない瞬間を狙って額を撃ち抜く

「がはっ…」

空中を一周して地面に打ち付けられる、ダメだこれ…勝てないわ、強いというかデタラメ過ぎる、相手の動きを見て学習して 圧倒的身体能力で再現して相手を上回る、どうしようもねぇ…

悪い、リーシャ…仇 討てそうにねぇや…

「いぃぃい~~~?」

「ぐ…そ…」

大地に倒れ伏す俺を相変わらず見下ろすニビルは笑う、 その笑顔だけは最初から知っていたかのように、足掻く俺を見て 凶暴に笑う、それと共に振り上げられる拳…、あれを貰ったら死ぬな

…ああ、今死んだら あの世でリーシャに叱られる…、トルデとジルビアに…またあんな悲しい顔をさせちまう…死ぬわけには いかねぇのに……

しかし、俺の体は無情にも動かず 振り上げられたニビルの拳は、力を込めて 振り下ろされ…

「『アオスブルフ・バンカァァァァアアアッッッ』!!!!」

「ぐぎぃぃっっ!!??」

たかと思われた瞬間、轟く方向と共にニビルの顔が苦痛に歪み 激痛のあまり飛び退いたのだ、あのニビルがだ…

見ればニビルの背後にはゲーアハルトが立っており、あいつの持つパイルバンカーが煙を上げている…

「ゲーアハルト…!」

「ご無事ですか…、フリードリヒ団長」

「生きてるから無事かな…、ってかお前 どうしたんだよ、持ち場は」

「部下に任せました、敵が中央に流れた以上我らに仕事はありませんから」

そう冷静にメガネを上げるゲーアハルトを見て、違和感を感じる…、こいつ こんな事するやつだったか?、いつものゲーアハルトなら そのまま部下を引き連れて本陣の援軍に向かってる筈

なのに、単独で俺を助けに?…なんで…

「取り敢えず助かった、…お前はこのまま本陣の援軍に行け、こいつは俺が…」

「いいえ…、私は奴と戦います…、援軍にはフリードリヒ団長が向かってください」

「は?、何言って…」

「アイツでしょう、…フリードリヒ団長 アイツなんでしょう」

握られた拳に血管が浮き出るほどに強く握られる、身に滾る怒りで打ち震え 自らに初めて痛みを与えたゲーアハルトを睨むニビルを睨み返す

怒ってるんだ、ゲーアハルトが…激怒しているんだ

「アイツなのでしょう!、我が友ハインリヒとバルバラに重傷を負わせたという奴は!!!」

「っ…」

確かにそうだ、ニビルが与えた負傷者リスト、その中でもかなり重篤な者の中に バルバラとハインリヒの名があった、そういえば三人はいつも一緒にいた…、別に学校が同じとか 歳が近いとか 付き合いが長いとかではない

だがそれでも一緒にいた ということは、そういう事なんだろう

「奴は私が ここに縫い止めますっ!師団長の名にかけて!必ず!」

「でも…」

「いいからいってください!、この戦争の総指揮官が こんな所で油を売ってないで!、軍のみんなが貴方の号令を待ってるんです!!!」

「ゲーアハルト…」

そうだ、ニビルがここに釘付けにされるってことは、この軍の指揮をとる俺もまたここに釘付けにされるということ、…何考えてたんだ俺は これは個人戦じゃない、戦争だ

戦争の勝利に総指揮官は不可欠、軍が押されてるなら 俺が押し返さないでどうする!

「分かった、だが死ぬなよ ゲーアハルト」

「無論です、…死ぬのは アイツの方ですからっっ!!!!」

「ぎぎぎぎぎぃぃぃぃいいいい!!!」

怒り狂うゲーアハルトと狂い出すニビルは互いに雄叫びをあげぶつかり合う、俺とゲーアハルトなら俺の方が強い ずっと強い、だから ゲーアハルトじゃ勝てない、絶対に

だがきっとゲーアハルトはやり遂げる、それを信じて俺はズタボロの体を引きずって 本陣へと駆け出す

「よくも、よくも私の友達をっっ!!!」

「ぎぃぃあああああ!!!」

背にゲーアハルトとニビルの激しい戦闘音を聞きながらひたすら 走る、向かうは本陣だ…、取り敢えずトルデリーゼと合流して、あの艦砲を主に戦況を巻き返す…!

そう、頭の中で作戦を練りながら走っていると、ふと トルデリーゼの戦艦が目に入り、そして

「─────な…」

爆発した、トルデリーゼの大戦艦が 突如として大爆発を起こし、夜空に爆炎と黒煙がモウモウと上がり始めて……

「と トルデェッ!!!!」

俺の背中に、再び冷や汗が流れる、リーシャを失った時と同じ 嫌な冷や汗が

………………………………………………………………

場所は変わり、帝国軍中央が本陣を敷いた戦場の最奥、トルデリーゼが戦艦 イータ・カリーナを配置したそこに移る

この戦場で最も帝国兵がひしめき 最も師団長達がいるこの場所は今、この戦場で最も 惨憺たる被害を叩き出していた

「く…そが…」

燃え上がる愛艦を背に 血だらけで倒れ伏すトルデリーゼは己の体を呪う、全く動かない体を呪う、また 同じ相手に敗北した己の無力を…乗ろう

「ここを潰せば、我等の革命を成就する」

タヴだ、突如として星光と共に本陣のど真ん中に現れたタヴは この本陣にいる師団帝国兵を瞬く間に殲滅し始めたのだ

既に第十一 第十二 第十三 二十四師団長が敗北した、そして今ここに第五師団の師団長であるトルデリーゼが倒れている、帝国師団長ともあろうかもんが こんなズタズタにやられて情けねぇが

それ以上にタヴが強すぎる、魔女排斥派の大幹部とトルデリーゼは何度も戦ってきたが、タヴは別格だ…

「なんつー強さだよ…、これがアルカナ最強の男かよ…!」

爆炎と黒煙が周りの木々に燃え移り、瞬く間に周囲は火の海と化すのだ、たった一人 燃え盛る大地と輝く夜空の間に立つ男は 黄金の髪と褐色の肌と その黒色のコートをはためかせ、体の周りに星の光を纏わせながら周囲を見回す

既にタヴの周りに立つ者は少ない、この場にいた師団長の大部分はタヴ一人によって全滅させられたのだ

ここまでの実力を持つ者が世界に何人いようか、少なくとも師団長達は三人しか知らない…、世界最強と言われる帝国将軍たちしか 知らない

(あの野郎、まさかマジで将軍クラスの実力なのかよ…!)

トルデリーゼは歯噛みし 先程の戦いを想起する、と言っても一瞬だ、一瞬でトルデの戦艦はタヴによって破壊され 総掛かりで仕留めようとする一人一人丁寧に倒していったのだ

…最悪だよ、やはり将軍は同行するべきだったんだ…、いや それ以前にニビルによって被害を受け過ぎた…

「これが師団長の実力か、うむ やはり正面を切って戦うべきでなかったな、お前達に勝てるのはアリエ達しかいまいよ」

「っ……」

対するこちら側の戦力は少ない、既に両足で立っている師団長は三人

ループレヒトとマルスとジルビアの三人だけだ、爺ィ二人とこの間師団長になったばかりの友人三人だけ、悪いが頼りないぜ…

「帝国師団長がこうもやられるとは、貴様!その力…最早アルカナの範疇に止まるレベルではないな!」

そんな中 丸い顔 丸い目のマルスが剣を構えながら吼えたてる、確かにタヴはアルカナの幹部っていうのには強過ぎる、下手すりゃ八大同盟…そのボス級だ、こんなのがゴロゴロいるんならマレフィカルムは闇に潜んでいない

タヴだけが、段違いに強いんだ

「確かにマレフィカルム内部でも私より強い者など数人しか見たことがないな」

少なくとも数人はいるのかよ、これ以上が…それはトルデやマルスを絶望させるに足るものだった

どうやら知らぬ間にマレフィカルムはかなり力をつけているようだ…、これはもう 帝国だけでは手に負えないかもしれない、そんな浅い不安の中 タヴはフッと笑う

「まぁ、そんな事はどうでも良い、いかなる力を持とうとも、革命を志さぬ者を強者とは呼ばない…、奴らはただ破壊と殺戮をのみ好む、あれは強いとは言わない」

「お前と何が違う!」

「違うさ、私は革命の為にいる、力があろうがなかろうが革命の為に戦う、そこが奴らとの違いだ」

「だから…」

グルリとマルスが丸い体を駒のように回転させ…

「今の世界を破壊しようとするお前と何が違うと言っている!!」

飛びかかる、歳をとり 全盛期の力の半分を失って尚 剣聖と呼ばれるマルスの斬撃は、神速の域に達していると言ってもいい、その太い体からは想像も出来ぬ跳躍は一直線にタヴに向かって飛び 断空の一閃を放つ

しかし

「革命だよ」

当たらない、トルデリーゼでさえ見るのがやっとな速度の斬撃をタヴの手刀により弾かれる、何もかもを切り裂くはずのマルスの剣が、タヴの素手によって弾かれたのだ

いや違う、素手じゃない…タヴの手は何かを纏っている

「『星斬のサザンクロス』…」

手の周りに凝固され 生み出された魔力刃の切れ味が、マルスの謫仙二式の切れ味を上回っているのだ、帝国でも最高傑作のうちの一つに数えられる魔装が作る刃…それを上回る物を人間が素手で生み出すなど あり得ない事

だが、あり得てしまうのが タヴの強さの所以だろう

「これが…第三段階の力…」

あれこそがタヴが絶対的である所以、人間としての第三段階に至った者だけが使えるという 『極・魔力覚醒』、周囲の魔力を己の一部として扱うが故に絶対の防御と究極の攻撃を両立させる、限定的ではあるが魔女に届き得る力

帝国では三将軍しか使えないと言われる極・魔力覚醒をタヴは操るんだ

「くっ、てぇぇぇぇぇぇいいい!!」

「鋭い太刀筋、この状況を打開しようとするそれもまた革命、だが…」

マルスは振るう、剣を両手で握り 音すら切り裂く太刀筋でタヴを攻め立てる、だが タヴは軽々とその斬撃を腕の魔力刃にて弾く、その両足は先程から微動だにせず 棒立ちのまま、剣聖の斬撃を凌いでいるのだ

実力差は一目瞭然、歴戦の剣士であるマルスがまるで子供同然の扱いを受け、そして

「『星衝のメテオリーテース』!」

飛んでくる、マルスが剣を弾かれ 大きく態勢を崩すと共にタヴの光を纏う掌底がその丸い腹に、当然 回避も防御も出来ずマルスはその掌底を受け…

「ごぼぁっ!?」

まるで棒に弾かれたボールのように垂直に飛び、燃え盛る木にぶつかりその姿が炎の中に消える

強過ぎる、師団長がどれだけ攻めても傷一つつけられないのだ…、というのも タヴが使う極・魔力覚醒 『アポテレスマティカ』はその魔力を光に変換し 純粋な破壊の力として行使する

これが桁外れに強力なのだ、小難しい効果は付随せず ただただ攻撃力の強化にのみ使われる魔力、空間を支配する奴はその空間の魔力を流動させ 一箇所に放つのだから 一生懸命体の中から魔力を絞り出す我々とでは出力に差が出るのは当たり前だ

「残り二人、革命までもう少しだ」

星の光を操るタヴ、奴の圧倒的強さに 師団長さえ霞む、ダメだ…今この戦場にタヴに勝てる奴はいない

「さて、…そろそろかかって来たらどうだ、ループレヒト…私を殺したいのだろう」

「ぐっ…!」

すると、タヴの静かな言葉にループレヒトが揺れる、今まで戦いに参加せず ただただ呆然とタヴの戦いを見つめていたループレヒトが 遂に、タヴの言葉に動いたのだ

「まさか、お前がここまで強くなっているとはな…、ステラ…」

「その名は捨てた、私の名はタヴ…宇宙のタヴだと言ったはずだ、それともお前にはまだ私が檻の中で震えるか弱き子供に見えるか?」

「…………」

トルデリーゼには何の話をしているかは分からなかった、あるいは頭のいいフリードリヒなら察することも出来たのかもしれないが、だがこれだけは分かる

やはり ループレヒトはあたし達に何か隠している!、タヴ達と因縁があるんだ!

「惜しい…あまりに惜しい!、なぜそれだけの力を得ておきながら私から逃げたのだ!、私の元に留まっておけば 今頃魔女に比類する力を持てていただろうに!」

「革命だ…」

「は?」

「我々は、そんな貴様の思い上がりに革命を起こしたのだ、命とは 決して誰かが好きに出来る物ではないのだ、我々はそれを証明するため アルカナを作り ここに来た、お前に報いを与えるために」

タヴが一歩前へ出る ループレヒトが一歩引く、タヴの胸に燃える怒りの炎はこの森を焼く大炎火よりも尚熱く 猛々しく燃え盛る、お前だけは許さぬと タヴの眼光が語ればループレヒトの肩が竦む

「ループレヒト…お前も私を始末するため、ここに軍を連れて来たんだろう…ならば殺してみろ、私はまた その思い上がりに革命を起こすまでだ!」

「ヒッ…」

タヴが前へ出れば ループレヒトが引き下がる、それを繰り返す内にループレヒトの背に炎が揺れる、逃げ場がなくなった 

ループレヒトは確かに思い上がっていた、タヴがここまで強くなっているなど誤算だったのだ、自分が軍を率いて進めば タヴもシンも踏み潰せると、思い上がっていたのだ

その思い上がりに、革命が起きた…

「さぁ、革命の時だ ループレヒト!」

「くぅっ!?」

そう 今こそ革命の時とタヴが腕を振り上げると、彼の周囲を漂う星光が一層強く強く輝き始める、今 ループレヒトに復讐の炎が向かう……


一つ、訂正すべきことがある、タヴの復讐の炎はこの場の如何なる炎より強く燃え盛ると言われたが、違う…、タヴのそれと同じだけの熱で輝く炎が もう一つあった

「待て…」

「む…」

そう言いながらループレヒトの前に立つのは、ジルビアだ

親友の 幼馴染の リーシャの、恩師の 愛すべき団長の マグダレーナの、復讐の炎に燃える ジルビアが、タヴと同じだけの炎を胸に立ちふさがる

「お前は…」

「私は第十師団が団長…ジルビア」

「あの時の、また私の前に立ち塞がるか、先日 私に手も足も出なかったお前が」

そうだ、ジルビアは先日 左撃隊を襲撃したタヴと戦っているが、その時も傷一つ与えられず倒れ伏していた、今のトルデリーゼのように

それから余り時間も経ってない、今やっても変わらない…そんな事、この場にいる誰よりもジルビアは理解している、だが 立ち塞がるのだ、リーシャが後を託したから…アルカナを倒すという大仕事をジルビア達に!

「お前を倒せと亡き友が言った、軍を勝利に導けと団長が言った、だから 私はお前を前に逃げず、戦わなければならないのだ」

「フッ そうか、だがいい、無駄とは言わん それもまた革命だ…、だが 革命とは常に苦難が付き纏う、お前に それが成せるか!」

「成してみせる!、親友の名に誓って必ず!!!」

両者の魔力が吹き出て 隆起する、ただそれだけで大気が揺れ地面が割れる、決死のジルビアと圧倒的なタヴ、ループレヒトはジルビアを置いて逃げたが為に ジルビアはただ一人 タヴに挑むことになってしまった…

「リーシャ!私に力を!『ブレイキングロック』!」

「やってみろ!『星煌のセプテントリオ』ッ!!」

物体を操るジルビアの魔術により 炎を纏う瓦礫が飛び、周囲に漂わせる星光を光線として乱射するタヴの戦いが始まる、至近距離で行われる魔力の乱打戦 絡みつくように炎と光が飛び交いながらジルビアとタヴは睨み合う

そんな様を見て、トルデリーゼは割れんばかりに歯をくいしばる

(畜生!畜生畜生!、友達が命かけて戦ってるってのに!動けよ!あたしの体!)

血を吹き 一歩も動けない体でその戦いを見つめる、ジルビアとタヴの実力差は火を見るより明らか、事実 先程の乱打戦を制したのはタヴだ

「ぐぅっ!?」

タヴの光線はジルビアの攻撃を全て撃ち落とその上でジルビアの肩を射抜く、ジルビアの肩が焼け焦げ 血を吹くも…

「まだまだぁっ!」

止まらない、魔術で砂埃を巻き上げ 炎を巻き込み、炎の竜巻を作り出してタヴへと放つのだ、しかし

「浅はかなり、『星転のアンティキティラ』」

消えた、タヴの姿が 光となって消え…、虚空に無数の光芒を描きながら 

気がついた時には既に、ジルビアの真隣で拳を構え…

「ごふぅっ!?」

殴り飛ばされた、光速に近い速度で放たれる拳に 頬を殴る抜かれ ジルビアの体が横に吹き飛ぶ

「ふんっ!」

しかし吹き飛ばされた先に既にタヴがいる、飛んでくるジルビアを更に殴り抜き それに追いつき更に殴り飛ばす、一撃一撃が師団長を昏倒させるだけの拳 それが光の速度で連続して放たれるのだ

「ぐっ!?がっ!?ぅぐぅっ!?」

防戦にもならない、一方的だ ジルビアは抵抗すら出来ずタヴに嬲られる、タヴの絶大な力に只管圧倒されるんだ、なのに

なのに…あたしの体は動いてくれない

(頼む…頼むよぉ!、今だけでいいから!今だけでいいから動いてよぉ!、あたしの友達がまた…殺されちゃう…!)

その体は涙しか流せず、ただ嬲られる友を見つめるばかり…、もはや トルデリーゼにもジルビアにも、出来る事は 抵抗の芽は、どこにも無かった

…………………………………………………………

「くそっ!、展開が…早え、ッオラァッ!」

戦場を走り 敵をなぎ倒しながら進むフリードリヒは汗と血に塗れながら本陣を目指す

既に敵軍は本陣に迫っている、ニビルが開けた穴を通って敵軍が雪崩れ込んだ所為で帝国軍は総崩れだ、魔女排斥軍も最後のチャンスだと気炎に乗って士気は抜群…

おまけに本陣の方で何かあったようで、後ろに下がった師団長達が動けていないから被害は大きくなるばかりだ…

「まずい…これは」

フリードリヒはかなり本陣に近づいているが、ここにも敵がいるってことは 帝国軍は相当切り込まれてるってことだ、おまけにこっちにはもう切り札がない、盤面をひっくり返せる駒がない

どうする、ここから俺が本陣に到着するまでまだ時間がかかる、さらにその上で本陣を襲ってる襲撃を解決して 軍を再編する時間があるか?、今ニビルを抑えているゲーアハルトだっていつまでも持たない

またニビルが動いたら 今度こそこちらは終わる、それを理解してるから帝国軍の士気も低い…、最悪の状況だ

自分が下手に動いたから…、いや そもそも俺がいても何が出来たか…

「進めぇー!帝国を押し潰せー!」

「くっ!抑えきれない…!」

決死の覚悟で突撃してくる魔女排斥軍を帝国が抑えきれなくなっている、敗北までもう時間がない、どうする どうする どうすればいい…どうすれば…

「……くそ」

フリードリヒは戦場の只中で、星光を浴びながら立ち止まり 後ろを振り向く

もう敵軍がすぐ後ろまで来てる…、これを押し返すには 何か、凄まじい勢いを持った流れが必要だ、だが俺にはそれがない 敵を押し返せない…、終わりか?

終わりなのか、俺は…リーシャの仇も 最後の頼みも聞けずに終わるのか、友達も守れずに…

「はは…、ああ 此の期に及んで『くそったれ』なんて、言葉しか出てこねぇ…もっと 国語を勉強しときゃよかったぜ」

乾いた笑みしか出てこない、…せめて せめて俺に出来ることは、ここにいる敵だけでも倒して 軍の統率を取るべきか、だけどそれは本陣にいるトルデやジルビアを見捨てることになる…

どうするべきなんだ、俺は…俺は…!

「畜生、リーシャになんて言えばいいんだか…!」

覚悟を決める、諦めてたまるか…、本陣の敵もここの敵も全員倒す!たとえ無茶でも俺は リーシャ達の兄貴分なんだ!、俺が諦めてどうするよ!

「おい!、あれ フリードリヒじゃないか!」

「帝国の主戦力だって聞くぜ、あいつを倒せばこっちのもんだ!」

俺の姿を見つけた魔女排斥軍が 大挙してこちらに来る、やってみろよ…俺は

「俺はここじゃあ終わらねぇ!お前ら全員倒して!俺たちは友達と家に帰るんだよ!」

向かってくる軍勢を前に雄叫びをあげ 最後の力を振り絞る、きっと最後にリーシャがしたように、俺も 俺の人生に全霊をかける!

そう誓い 、俺はズタボロの体を奮い立たせ 軍勢を前に拳を構え…今、一世一代の大勝負を……



その時だった、天から 一陣の颪が吹いたのは…

「え?…」

その風は瞬く間に 俺に向かって来る敵軍を吹き飛ばし、独りの少女を 戦場の真ん中に、俺の目の前に送り届ける

「っ!なんだ!この期に及んで帝国の援軍だと!?」

それは俺に背を向け、腕を組みながら 魔女排斥軍と その奥のパピルサグ城を貫くように睨みつける、その後ろ姿は…

「…………」

何も言わない、何も言わず 漆黒の外套をたなびかせ、手足につけた甲冑を鈍色に輝かせ、背中に背負った大剣が 彼女の闘志を何よりも表し、少しだけ長くなった髪を風に揺らして、ただ 仁王立ちをする

たったそれだけで、あれだけあった魔女排斥軍の勢いが止まる、まるで 大河の激流に飲まれたが如く、立ち止まる

「おいおい…」

その後ろ姿には、見覚えがあった、やはり来てくれたかと内心狂喜乱舞し 声をかけようと手を伸ばすと

「お待ちを、フリードリヒ様」

「んぇ?、ってメグ!?」

止められた、いつの間にか気配もなく隣に立っていたメイド、メグによって俺の声を止められる

来てくれたんだよ、エリスが…、でも 様子がいつもと違う、何が違うって そりゃ一目瞭然だ、だって

「フリードリヒ様、少しの間でいいので エリス様にこの場をお任せしてはくださいませんか?」

「べ 別に構わないけどよ、エリスのあの姿はなんだ…?」

違和感の正体はエリスの姿だ、いつものおしゃれなコートの上に見たこともない漆黒の外套を纏い 両手足には見たこともない甲冑を付け、剰え大剣で武装までしている、いつもとは違う 物々しい姿だ

あんな姿のエリスさんを見たことがない…、するとメグはフッと笑い

「ご安心を、あれはエリス様がこの旅で取るどの姿よりも強い 最強の姿、名付けて…」

エリスさんは ただ静かに背中の大剣を手に取り、魔力を漲らせ…叫ぶ

「ッッヴィィィィイイイラントォォォォオオオオ!!!!!」

地獄の亡者さえ恐れ竦むような怒号で戦場を震わせる、それと共にメグはその姿を指して こういうのだ

「あれこそ、対決戦 最強武装『フルアーマー・エリス』…様でございます」

と…、なんか知らんが 上手く行く気がしてきたぞ、勝てる気がしてきたぞ、この戦いに…!
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