孤独の魔女と独りの少女

徒然ナルモ

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八章 無双の魔女カノープス・前編

213.対決 帝国軍二百五十万

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「いっちにーさんしー!」

広く 何もない平原の上で足を伸ばしストレッチする、軽く体を動かし、この体にこの後の激しい戦いを、暗に教える…このあと酷使するかな?と

「あの、エリス様」

「なんですか?メグさん?」

「いえ、…すみません 私としたことが、少々見立てが甘かったです」

「甘かった?、今の現状のことですか?」

ストレッチを続けながら問う、この現状がメグさんの思った通りの展開ではなかったと

エリスは帝国軍から信任を得て アルカナとの戦いに遺恨禍根無く参加させてもらえるよう、今 手を尽くしている最中だ、言ってみればエリスは昨日今日ここに来たばかり なのに手と手を取り合って戦えるわけありませんからね

そこで、その方法としてメグさんにどうしたら良いか知恵を借り、彼女の案で エリスと師団長を戦わせ そこで帝国から信頼を得ようって作戦で、この駐屯地までやってきたわけだ

がしかし、そこで話をした結果 エリスは師団長ではなく帝国軍全てと戦うことになった、いや なったというかした、エリスが

…どうやら、帝国軍と手を取り合うよう頼んできた事の始まりであるルードヴィヒさんは、エリスか或いはメグさんがここを訪れることを予見し かつ 帝国軍全員と戦わせるよう上手く誘導してきたのだ

多分、エリスの見立てにはなるが、エリスがメグさんに頼むことも メグさんがここを訪れれるようエリスを誘導することも、全部折り込みであの日 エリスに対アルカナ戦への戦いを持ちかけたんだ

全てはこの状況を作る為、随分な策士だ、もしかしたら今もエリスは手のひらの上にあり 未だに彼に何かさせられているのかもしれない、それがメグさんには失態に映ったようだ

「いえ、ルードヴィヒ様に上手く利用される形になりまして」

「利用されてんですかね、エリスは単純に あの人に試されているような気がしますが」

「ただ試すだけなら帝国軍全てを動員しません、あの人は様々なことを複合的に考え 最終的に軍にとっての有益な状況を作り出すことしか頭にありません、誰かの味方ではなく 軍の味方なんです、あの人は」

「でも、まるっきりエリスが損ばっかりってわけでもないでしょう?」

「そうですか?、帝国軍と戦わせられること自体が、損な気がしますが」

「えへへ、そうですかねぇ…別に命を取ろうってんじゃないんです、ボコボコにされても 向こうに認めさせさえすれば、エリスの一人勝ちですよ」

「…傷は損得には入らないと?」

「入りませんねぇ、普通に生きてたって傷は負うわけですし、道端で転んで膝に擦り傷作るのより、傷を負って良い結果を招き寄せられるならそっちの方がいいでしょう?」

「……そうですか」

納得してないな、ルードヴィヒさんに上手く使われる形になったのがよほど気に入らないか、まぁ 彼がこの状況を作り出せたのはメグさんの思考を読んでいたからだ、誰だって考えを読まれて いい風に使われりゃいい気はしない

そもそもだ、利用ったっても、利用されているのか なんで利用されたのか、利用した果てに何をしようとしているのか、それさえ判然としないんだ、なのに腹を立てることもあるまいよ

「…まぁ、あの人には敵わないのは分かっていましたが、それでも利用されると 嫌な気分になりますね」

「あはは、メグさんも敵わない人がいるんですね、メグさん なんでも卒なくこなしてるイメージがあったから驚きです」

「当然です、そのように振舞っていますので、でも ルードヴィヒ様には敵いません、彼は私の従者としての師ですので」

「え?、そうなんですか?」

そりゃ初耳だ、言うなれば魔術の師がカノープス様で カノープス様に仕える為 メイドとしての技術を教え込んだのがルードヴィヒさんってことか?、また随分豪華な人たちに教鞭を握られたもんだ

「というか、メグさんってなんでメイドやってるんですか?」

ふとした疑問を告げる、エリスは最初 この人は『メイドとして優秀だから、カノープス様に目をつけられて弟子になった』と思っていた、しかし この口ぶり的に『カノープス様の弟子になった、そのあとメイドになった』そんな風にも聞こえる

なぜメイドになったんだ、弟子になるまではわかるが メイドになる理由はないだろう

「なんでメイド…ですか、私は元々立場が弱い人間でしたので、そんな人間が陛下の側にいるにはメイドになる必要があったのです」

「凄いですね、教えを賜る為にメイドになったってことですか?」

「違います、側にいる為にメイドになったのです、そして 陛下の格を落としたくないからです…、私は陛下を愛していますから」

「そうですか、エリスもですよ 師匠を愛しています」

「………………」

しかし、この人がメイドになる前 弟子になる前、それらの経歴は不透明だ、別に知る必要はないが それでも気になるな…

「おい、ストレッチ中に雑談をするな、エリス メグ、これから戦闘だろう?」

「あ、師匠 すみません」

「申し訳ございません、このメグ 不覚は働きをもってのみ、お返しします」

なんてエリス達に声をかける師匠もまた、エリスと同じく体を少しだけ動かしている

エリスはこれから帝国軍と戦うことになったのは言うまでもないが、特例としてエリスだけでなく レグルス師匠とメグさんにも援護することが許された、エリスという少女相手に帝国軍がマジで戦う…、それ自体が帝国軍の恥となるし 帝国軍全体の士気も低くなる

なので兵士たちに伝える表向きの要件としては『魔女レグルスとの戦闘訓練、オマケにメグさんとエリスが付いてくる』ということになっているのだ

まぁ本当はエリスがメインで戦うのだが、師匠も一緒に戦ってくれるとなればなんとでもなる気がする

…それに、今まで不透明だったメグさんの強さをこの目で見るいい機会だ、帝国軍の強さも感じられるし 戦えば認められもする、どう転んだって エリスにはいいことしかない

「さて、そろそろ刻限ですか」

帝国軍が定めてきた時刻が近づく、彼らとの約束はこうだ

エリス達は駐屯地の遥か向こうの山にて待機、約束の刻限になった瞬間 戦闘開始、帝国は駐屯地にてエリス達を迎え撃つ、という流れだ

一応殺害は無し、けど向こうにはちゃんと治癒術師が常駐してるし お互い傷を残してお通夜みたいなムードで終わることはない、と願いたい

まぁつまり何が言いたいかというと

「全力全開全身全霊でかましてもいいんですよね、メグさん」

「帝国軍は柔ではありません、出し惜しみをするなら 逆に喰われるでしょう」

その方がいい、本気でめちゃくちゃやれる機会ってのは中々ない、最近は色んなこと気にして戦ってたし、昔みたいに 全力で火雷招をぶちかますこともなかった

今のエリスが本気で暴れたならどうなるか、それを知るには良い機会だ

「では、そろそろ行きますか…」

「エリス様 時界門は」

「必要ありません、このまま飛んでいきます」

「なら、私が魔力覚醒まで持って行ってやろうか?」

「師匠、それも必要ありません、必要となれば エリス自身が己の力で行きます」

時界門も師匠の助力による覚醒もいらない、あったら有難いが なくても大乗なら今は使いたくない、自分の力だけで 出来る限りやりたい…

「では…行きます、付いてきてくださいね メグさん 師匠」
 
「かしこまりました」

「ああ、私は控えめに戦う、お前の成長を見させてもらおう」

「ありがとうございます…、すぅー」

大きく息を吸い 吐く、魔力を高め 集中して、見据えるは目の前の巨大な山、その向こうにある 駐屯地 …帝国軍!


「颶風よ この声を聞き届け給う、その加護 纏て具足となり、大空へ羽撃く風を 力を 大翼を、そしてこの身に神速を」

ゆっくりと練り上げるような風が、この身を撫でるように吹き荒ぶ、それを一身に受け 大地を強く踏み締める、行くぞ…行くぞ、行くぞ!

「  『旋風圏跳』ッッッ!!!」

刹那、エリスの体を加速させる颶風が 大地を吹き飛ばし芝を抉り土を舞い上げ木々をなぎ倒し山を削りながらあっという間に山の頂上まで飛び上がる

全身全霊の旋風圏跳、最近じゃあ強くなり過ぎて全力を出す機会がなかったが…、瞬く間に山を飛び越えるなんて、もうこんなに速くなっていたのか、エリスは…

この旅で鍛えられた力は、既に アジメクを出た時のエリスの想像を凌駕している!

「あれですか」

山を飛び越え つむじが雲に当たろうかというほどの高さまで飛び上がりながら、下を見る 遠視で眺めるそこには先程の駐屯地に多数の帝国軍が武器を構えているのが見える

臨戦態勢だ、が こちらに気付く様子もない…先手は貰った、そして 戦いにおいて先手とは

絶対だ

「ッッーーーー!!!」

加速する、進路を上から下へと変える、当然のことではあるが 物体とは上へ昇る時よりも下に落下する時の方が早くなる、自明の理だ

故にエリスの体もまた 先程以上の勢いを得る、天から降り注ぐ矢の如く 目指すは帝国軍の駐屯地、その勢いのまま 突っ込む


…さて、体同様加速した思考で一つ考える、エリスがこれより行うのは対軍戦です 対個人戦とは勝手がまるで違います

ここで重要になってくるのが 大軍のどこを攻めるか、これが非常に重要です、ここをミスすれば何も出来ずに負ける可能性もありますからね

だから、対軍を行う時は どこからどのように攻めるか、これが重視されます…、相手が重点的に守ってるのはどこか、どこを攻められたくないと思っているか どこを攻められると思ってないか、この読み合いです

当然ではあるものの、一番守りが固いのは山に面する部分…つまり最前線です、そこに多数の兵士が犇めいているのが見える

対して守りが薄いのは側面だ、が そこもきちんと即座にカバー出来るように前線の側面に騎馬隊を用意して、直ぐに援護に向かえるように陣形を組んである

流石であり セオリー通りでもある、だからこそ、ここで攻めるべきは前線でも側面でもない



『っ…上空に敵影確認!、突っ込んでくるぞ!』

一人の帝国兵が上から飛んでくるエリスに気がつく、凄まじい轟音と共に風を纏ってるんだ そりゃ気がつくか

『あれは魔女じゃない…弟子の方か!、というより』

『あいつまさか…ここに突っ込んでくるのか!?』

『バカな!、ここは駐屯地の…軍の中央だぞ!、四方に敵を抱えるつもりか!』

ご丁寧にどうも!、その通り エリスが突っ込むのは軍のど真ん中…!ここが一番 エリスに適した戦場だ!!

「ぅぅぅうぉおおおおおおおらああああああ!!!」

突っ込む、円形に広がる帝国軍のど真ん中に、それはまるで落雷が如き速度…、誰が何をする間も無く 閃光のように飛ぶエリスの飛来は止まらず、この身は地面へと突き刺さり…大地が砕け飛ぶ

「エリスはエリス!孤独の魔女が弟子!エリスです!、さぁやりましょう!帝国軍!、全員纏めて足元にひれ伏させます!」

絶大な助走を得たエリスの全霊の蹴りは大地を砕き 揺らし隆起させ、駐屯地のど真ん中に大穴を開け帝国軍を諸共吹き飛ばし 、そして作り出す、自然のコロシアムを

「来たぞ!敵だ!」

「くっ、今の一撃で何人飛んだ!、被害の確認を急げ!」

「油断するな!、陣形を組み的確に囲め!」

今の一撃で爆心地にいた千数人は枯れ葉のように吹き飛び地面に転がるが、直ぐに無事な兵士達は隊長格と思わしき者たちにより陣形を組み直し 武器を構える、さぁ来い!

「機構魔装隊!前へ!、欲をかくなよ?相手はあれでも魔女の弟子!、隊長や師団長が来るまで持ちこたえろ!」

「了解!」

すると帝国兵達は槍を…いやなんだあれ、杖か? なんかこう…長物って言うのかな、杖にも槍にも見える不思議な白い棒を取り出し構えるのだ、長さ的には長槍だが 形状は杖…いや、よく見ると先端に穴のような物が開いて…

「魔装隊!槍術形態!突撃!」

帝国兵達がの不思議な棒…感じ的に魔力機構かな?、それをこちらに向けると光の刃が生まれ槍となる、ってやっぱり槍かあれ

っとと!

「はぁっ!」

「おっと!、不思議な槍ですね!」

油断している間に瞬く間に距離を詰められ放たれる斬撃を咄嗟に回避する、光刃は大地をバターのように切り裂き刃こぼれする事なく直ぐ様次の一撃を放つ

恐らくあれは現代光魔術『オーラエッジ』、熱を放つ光を生み出し刃として扱う魔術 それと同じ物だ、それを魔力機構で再現して斬撃を放っているんだ

鉄の刃と違い折れない 曲がらない 刃も欠けないし血で切れ味も落ちない、刃物としては理想だな

「ですが、…大いなる四大の一端よ、我が手の先に風の険しさを与えよ『風刻槍』!」

「ぬぅっ!?」

一人一人の練度は高いが それでもエリスほどじゃない、振り回される槍の連撃を回避し 風の爆槍を放てば防ぐ事も出来ず帝国兵達は吹き飛び…

「障壁形態!構え!」

「なっ!?」

すると今度は帝国兵達の手に持つ光の刃が形を変えて 傘のように前方に広がり、それがエリスの一撃を受け止めるのだ

そりゃ一つ障壁くらいなら破れる、しかし 帝国兵達は一瞬で寄り集まり 所謂ファランクスの構えで揃って風を受け止めるんだ、あの槍 、盾にもなるのか!

「砲撃形態!放て!」

「っ!?せ 『旋風圏跳』!」

エリスの風を防いだかと思えば今度は魔力の壁が弾丸に変形しエリスに向けて雨霰のように降り注ぐ、旋風圏跳を使っていなければ回避出来なかった程の弾幕だ

と言うかあの武器凄いな、槍にも盾にも砲塔にもなるのか 万能の武器だな…、構えて突撃すれば突撃部隊に 揃って防御すれば防御隊、砲撃すれば瞬く間に弓兵代わりにもなる

全ての部隊があれ一つで様々な役割を担うことができるんだ、あんなデタラメな武器持った連中と戦争なんかできないな

「拘束形態!捕縛!」

「うそっ!?」

砲撃の次は魔力の縄だ、蜘蛛の巣のようにあちこちに張り巡らされ飛び交うエリスを拘束しようとしてくる、一体いくつ形態があるんだあれ!…だが

「なめないでくださいよ!この程度!水界写す閑雅たる水面鏡に、我が意によって降り注ぐ驟雨の如く眼前を打ち立て流麗なる怒濤の力を指し示す『水旋狂濤白浪』!」

捕縛されるよりも前に、敵兵に突っ込み大量の水を生み出す、一般兵卒ごときに負けられないんだよ!と意気込み発動させる水魔術は瞬く間に波濤となり 構える兵士達へと襲いかかる

「くっ!障壁形態!」

「だからナメるなって!言ってるでしょ!焔を纏い 迸れ俊雷 、我が号に応え飛来し眼前の敵を穿て赫炎 爆ぜよ灼炎、万火八雷 神炎顕現 抜山雷鳴、その威とその意が在る儘に、全てを灰燼とし 焼け付く魔の真髄を示せ 『火雷招』!!」

刹那、世界が暗く染まる、否 空に輝く太陽もなお強く輝く光が地上に現れたが故に 相対的に暗くなったように感じただけだ、赤く煌めく灼熱の閃光が溢れる波濤を切り裂き水を押しとどめようと盾を展開する帝国兵団へと突っ込む

大水は蒸発し 大地は融解し 大気は燃える、紅蓮に染まる世界はその魔術が持つ圧倒的に火力の証左、そんな一撃を帝国兵団達は盾で受け止めてしまう

これがもし 初撃が火雷招だったなら、帝国兵達は一目散に逃げ回り回避に走ったろう、多少は被害は出たがそれでも継戦可能な範囲で被害は止まった

しかし、……今、寄り塊り火雷招に晒される五十人程度の帝国兵達の中でエリスの意図に気がつく余裕があったものはいるだろうか

彼らが必死になって押し留めた …盾を展開し防御したと思っていた水の魔術は、押し流されないように一塊になって凌ごうとする帝国兵団の動きを予見し、エリスが放った罠であることに

帝国兵の持つ槍にも杖にも盾にも縄にも…何にでもなる通称『十徳魔装カンピオーネ』に死角は無いと兵卒は勘違いしていたのだ、如何なる状況にも対応出来ると

しかし、師団長以上の人間 又はエリスは見破っていた、その魔装が一度に対応出来る状況は一つだけであると、故に回避出来ないよう防御を誘発させる為魔術を放ち 押し流されない水を選び、その場で寄りかたまって防御するよう誘導しての…これだ

エリスを囲む兵団達は物の見事に足を掴まれ捕らえられる雉のように、エリスにしてやられたのだ

「ぐぉぁぁっっっ!?!?」

如何に帝国製の障壁といえど、何十人で防御姿勢を取っていようと、受け止められる魔術の威力には限度がある、エリスの火雷招はその限度というものを大幅に上回っている

作り出した障壁は気持ちいいくらい派手に爆発四散し、キャパティシオーバーに至った魔装も爆裂、そしてその衝撃によりエリスに即座に対応しようとした兵団達は瞬きの間に四方へと吹き飛んでしまう

「さぁ、まだまだやれますよ」

「い 一撃で兵団が吹き飛んだぞ…、障壁ごとやりやがったのか」

「めちゃくちゃな威力だ…、本当に同じ人間があれ…」

「確かに恐ろしいが、だが師団長が直に来る!それまで持ちこたえろ!」

五十人規模の兵団が吹き飛ばされ、一撃で戦闘不能に持っていかれたことを見た兵士達は、その場に駆けつけながらも戦慄する、あの威力の魔術は見たことがない あの魔術は大規模な魔術大隊が周到に用意し、城に向けて撃つような威力だ

それをポンポンとまるでポケットから紙くずでも出すような気楽さで撃ってくる、確かに恐ろしい存在だと兵士達は慄くのだが

彼らは一つ勘違いしている、エリスの真の恐ろしさはそこでは無いことに

「ふむ……」

槍を展開しながら あるいは後方で砲撃を放ちながら攻め立てる兵団見て、エリスはその動きを逐一記憶する

軍とは群に非ず、軍である

つまり、この場にいる個々人が己の判断で自由気ままに動く群ではなく、訓練し定められた全員で行う軍なのだ、故にエリスは記憶する、帝国軍の動きを見て学び それを元に彼らが普段読み耽っている『戦術マニュアル』を見透かす

その動きの盲点を探る

「……『旋風圏跳』!」

「なぁっ!?空を飛んだ!?」

その動きを見切り、槍兵がエリスに斬りかかる直前に、エリスは風を纏い飛び上がり 槍兵の一団を飛び越え、後方で援護射撃を行う砲撃隊を目指し跳ぶ

「しまった!、後方から狙うつもりだ!、砲撃形態に切り替えろ!」

それを見た帝国兵はすぐさま槍から砲撃形態にカンピオーネを変形させる、もし敵が前線部隊を押しのけ後方援護を行う射撃部隊を狙う、こういう状況に陥った際の動きは予め決めてある

敵が向かった後方援護隊は障壁形態を展開し、敵の攻撃を抑えつつ、無視された槍兵隊が即座に射撃部隊へ転身し 後ろから蜂の巣にする、盤石の布陣だ

相手は一か八か、或いは周到に用意した作戦で射撃部隊を狙っても無意味であると知らしめる動き、何にでもなるカンピオーネを帝国兵が持つからこそ出来る対応策

しかし、それは相手が帝国兵の動きを見切っていない場合に限る

「っ…甘い!」

「なっ!?」

後方に飛んだエリスを見て、前線の槍兵隊がカンピオーネを砲撃形態に、後方の射撃部隊が足止めの障壁形態へと打ち合わせ通り転身した瞬間

エリスがくるりと身を翻し、前線の槍兵隊…いや 今は射撃隊に変わったそれに向けて戻って来たのだ

「こ こちらに戻ってきた!?、しまった!これが狙いか!」

帝国兵の一人が気がつく、今のはブラフだ

エリスは帝国兵がその状況に合わせてカンピオーネを変形させ 帝国兵があらゆる状況に即座に対応しようとする動きを見切って、ブラフをかけたのだ

エリスが後方に飛べば、前線隊は槍から砲撃形態へと武器を変形させ 砲撃隊は防御姿勢を取る、そんなこと こいつらの動きを見ていればすぐに分かる

だから、後衛に飛ぶフリをして変形を誘い 帝国兵達が槍から砲へ武器を変形させた瞬間を狙い攻撃を仕掛けるのだ

こうすることにより前線隊は近接戦が行えない砲での対応を余儀なくされ、後方の砲撃隊は障壁を展開しているせいで援護も出来ない、完全に前線と後方が分断され武器を奪われた状態になる

「まさか…これを即座に見抜いて…」

「はぁっ!ひび割れ叩き 空を裂き 下される裁き、この手の先に齎される剛天の一撃よ、その一切を許さず与え衝き砕き終わらせよ全てを…『震天 阿良波々岐』」!!」

慌てて砲撃形態から槍兵形態へと戻ろうとする前線隊に エリスが突っ込み、それと共に一撃 魔術が飛ぶ、形態から形態への変形はおよそ一秒で済む がしかし槍から砲へ 砲から槍への目紛しい変形には 兵士自身がついていけない

だって今先まで援護射撃を行うつもりで構えていたのに、直ぐにエリスが戻ってきたのだから

これが普通の兵士で すぐさま転身し戻ってきても帝国兵は対応できた、いくら混乱していてもその程度では動揺はしなかった

問題はエリス自身の速度だ、本人の速度もそうだが 全てが速い 、分析も判断も決断も行動も何もかもが速い、帝国兵が『相手は一人』とか『奴は帝国の魔装を見て驚いていた、こちらの手の内は知らない』なんていう油断を遥かに追い越しエリスは既に対帝国軍戦略を組み立てたのだ

これがエリスの真の恐ろしさ、相手のされたく無いこと 出来ないことを即座に見抜き撃滅する、それはアルクカースで片鱗を見せデルセクトで形成され 今までの旅で構築されたエリスの戦法

手の内を知らないのはエリスもそうだが、逆に言えばエリスの手の内も帝国は知らないのだ、そこを見抜けなかった帝国兵の敗北は 必至である

「ぐぁぁぁっっ!?」

「ぜ 前線部隊がやられました!」

「くっ、…あの少女がこれほどまでやるか」

後方で控えていた援護部隊が、障壁形態から砲撃形態へ戻る頃には既に前線部隊はエリスによって全滅させられていた、一撃一撃が高威力かつ広範囲である為、防御策がなければ一撃で部隊が全滅させられる

これは危ういかもしれない、部隊長の脳裏に過ぎる、ここは駐屯地のど真ん中、援軍は次々来るが…、それはどれも兵卒ばかり、今ここにある戦力だけでは対応できない

「師団長はまだか!」

「それが、ど真ん中を襲撃されたせいで指揮系統と部隊間の移動が錯綜していて…」

「チッ、そういうことか…」

当然の事ではあるが、軍を編成した際 師団長の多くが最前線へと配置されている、がしかし 実際に敵が現れたのはど真ん中、敵が少数と侮った事と魔女を注視し過ぎた事が裏目に出た

軍の中央にいきなり敵が現れるというあり得ない状況に、兵士達は混乱している、師団長が部隊を率いてここに来るまでに些かの時間を要する、それを見越してここに突っ込んできたか

「…なるほどな、孤独の魔女の弟子…いや、流浪の暁風エリス…か」

ここに来て、些か遅いかもしれないが、帝国兵の部隊長達はエリスという少女の実力を再評価していた

彼女は今まで多くの敵を倒してきたのは知っている、魔女と凄まじい訓練をしていたのも知っている

だが、レーシュを倒したというのも 悪魔のアインを倒したというのも、継承戦で勝ち抜いたのもデルセクトの巨悪を暴いたのも、全ては魔女の弟子だから 魔女が側に居たから出来たことだと、どこか甘く見ていたが

その程度なら帝国の人間にもできる、魔女の援護があったなら自分でも同じことができると侮っていた

間違いない、この子は本物だ 魔女の援護がなくとも一介の強者として君臨出来る実力と経験を持ち合わせているんだ

「…よし」

部隊長は評価を改めた、もう油断はない そして覚悟も決まった、目の前で黒煙を背に立つあの絶対者を前に、未だ未熟な兵士達 そして部隊長が出来ることは少ない、が 存在する

「お前達、私と共に死んでくれるか」

「隊長…、はい!」

いくら軍が錯綜して混乱しているとは言え、我々は帝国軍、普通の軍が対応するに必要な時間の三分の一程度で軍の指揮系統は回復するし、いくら前線に師団長が集中しているとは言え、師団長の中には後方に控える人間もいる

到着は間も無くだ、それまで奴が動けないようここに押し留める必要がある、ならば

「散れ!、各人四方に散って疎らに攻めろ!、後から来た人間にも同じことをさせろ!分かったな!」

「了解!」

適切に綿密に組まれた陣形を解き、数百と殺到する帝国兵はバラバラに分かれ個人でエリスに挑み掛かる

帝国の兵卒は強いが、それでもエリスには及ばない 単独で攻めても勝てない、そんなことは分かっている、この場にいる戦力ではエリスに手傷を負わせるのは難しい、そう判断した部隊長は闇雲にも思える攻撃を指示する

すると

「む、そう来ますか…」

エリスの顔が曇る、思っていたよりも対応が早いと…

エリスは既に帝国をどのよう突いたらどんな反応が返ってくるか、彼らが普段やっている訓練と動きの内容を把握しつつあった、しかし 帝国軍はあろうことかそれを捨てたのだ、読まれていることを読んで 今までの訓練を捨てた

こうすることにより、エリスによる翻弄を避け 一網打尽にされるのを防いだのだ、これを一部隊長程度が判断し行えるとは、なかなか出来る事ではない

「しかし!、同じ事ですよ!、振るうは神の一薙ぎ、阻む物須らく打ち倒し滅ぼし、大地にその号を轟かせん、『薙倶太刀陣風・扇舞』」

「っっ、がはぁっ!?」

手を大袈裟に薙ぎ払い、目の前に作り出す強風は迫る帝国軍を吹き飛ばし次々と戦闘不能に追い込んでいく、如何に防御しようともそれを抜いて叩き潰す事ができるくらいには エリスの魔術は強力だ、しかし

「もらった!!」

「チッ、あげませんよ!」

魔術を放つ隙をついて、背後から斬りかかる帝国兵の刺突を避け、カウンターに蹴りを見舞う、がしかし さらにその攻撃の隙をつき また別の人間が横薙ぎの槍を振るう

「ええい!、轟く雷 はたたく稲妻、荒れて乱れ 怒りて狂う天の叫びを代弁せしその光を以って、全てを焼き尽し 無碍光と共に寂静を齎せ 『雷霆鳴弦 方円陣』」

「ッッッ!?!?」

次々と別方向から個別に攻撃を仕掛けてくる帝国兵に対し、エリスが放つのは全方位に向けた雷の連射、穿つ電撃は真っ直ぐに周囲の帝国兵を感電させ さらに奥にいる兵も焼いていく、ただの一撃で数十人…ともすれば百人に至ろうかと言うほどの人数が倒れていくのだ

しかし

「未だ!撃て撃て!」

「チッ、『エアロック』!」

電撃の隙間を抜い さらに奥から砲撃が飛ぶ、それを真空の壁で防ぎ…

今、エリスの頬を伝う汗は冷や汗だ、思ったよりも早く帝国兵がエリスの動きに順応したが故に エリスが想定していた戦場を作れなかった

別々に行動されると不利なのはエリスの方なんだ、まだ寄りかたまって一つの団体として動いてくれた方が動きやすかった、しかし その動きを捨て闇雲に攻められると、数で劣るエリスが手一杯になるのは目に見えていた

部隊長の計算はそこにある、個別に攻撃してもエリスは倒れない そこは分かっている、だが個別に攻めて一網打尽を避けて、息もつかせぬ 思考も許さぬ断続的な攻めで他の行動を制限する

この攻撃の本懐は時間稼ぎ、このまま師団長が到着すれば 数の上に質も揃う、そうすればエリスを圧殺することは容易いのだ

再び帝国兵に主導権が渡る、このままならば勝ちは見えている…がしかし、この手に致命的な弱点があるなら、それは帝国兵の捨て身以外にもう一つある

それは、時間稼ぎをしてエリスを圧殺してやろう…なんて思考が目に見えていることだ

そして、分かっていてそれを放置するほど、エリスは甘い存在ではない

「すぅ…、此れ為るは大地の意志、峻厳なる世界を踏み固める我らが礎よ今、剛毅剛健を轟かせ屹立し眼前の全てを破砕せよ『岩鬼鳴動界轟壊』」

帝国兵の砲撃を回避すると共に、詠唱を唄い地面を拳で打ち付ける、発動させるのは『岩鬼鳴動界轟壊』、土属性古式魔術の中で上位に位置する影響力を持つ魔術だ

これは、地面や岩などを自在に操り形を変えると言う魔術、これそのものは威力を持たない上、市街地ではとてもじゃないが使えない魔術

しかし、それを気にすることのないこの場において そして、囲まれて数で押されるエリスにとっては起死回生の強力な一手になる

「こ これは…地面がせり上がって…!?」

まさしく鳴動、地面が鈍い音を立てて砕け 隆起し、あちこちに岩の壁が乱立するのだ、それは大規模かつ強大で、迫り上がる地面に帝国兵たちは吹き飛ばされながらも察する

エリスが何をしているのかを

「やられた…、こんなこともできるとは」

一人の帝国兵が囁く、四方を岩の壁で囲まれた、恐らくエリスは周囲一帯の地面を操り 岩壁を作った、いや 作ったのは岩の壁ではない 巨巌の迷宮だ、複雑に道が枝分かれする迷宮を作り上げ 数で攻める帝国兵をまたも分断する

こうなっては数では攻められない、合流しようにも道が複雑化しているから移動もままならない、手に持つカンピオーネで壁を破壊しようにもビクともしない、登るのも高さがあって不可能

ただの一手で再び帝国兵の優位は崩された、相手の手札があまりにも多い…

『燃える咆哮は天へ轟き濁世を焼き焦がす、屹立する火坑よ その一端を!激烈なる熱威を!今 解き放て『獅子吼熱波招来』!!』

「っ!?これは…」

何処からか声がする、エリスの声だ その声に反応し周辺の分断され右往竿する兵士たちは狼狽武器を構える、しかし 、そんな行為無駄であると、そんな抵抗無為であると、断言するが如くそれは訪れる

「これは…熱波か!?」

現代炎熱魔術の中には『ヒートファランクス』なる魔術が存在する、強力な熱波を相手にぶつける温度変化型の魔術だ、これは炎や氷が飛んでくるのとは訳が違い、防御がとても難しいこととしても知られる

そしてもう一つ、現代魔術は古式魔術を誰にでも使えるように劣化させたものであることはあまりにも有名、なればこそ 『ヒートファランクス』の原型になった古式魔術が存在することは言うまでもない

「ぐっ!?ぐぅぉぉぉぉぁぁぁっっっ!?」

吹き飛ぶ、急激な温度変化により生まれた衝撃によって体を燃やされながら迷宮に閉じ込められた兵士達の体が吹き飛び意識が刈り取られる

エリスが放ったのは熱波を放つ まさしくヒートファランクスの原型となった魔術、それはただの温度でありながら、あまりの急激な温度変化に大気が振動するほどの威力を持つ、そんなものが迷宮の向こう側から飛んできたんだ


迷宮に閉じ込められた兵士達は聞く、何処か見えない場所で仲間がやられている声を、しかし仲間もエリスも何処にいるか分からない、外に出ようにも何処が出口か そもそも出口があるのかも分からず静止してしまう

すると

『血は凍り 息は凍てつき、全てを砕く怜悧なる力よ、臛臛婆 虎虎婆と苦痛を齎し、蒼き蓮華を作り出り砕け!『鉢特摩天牢雪獄』!!』

「ひっ!?」

今度は吹雪だ、迷宮内にエトワールのブリザードが如き猛吹雪が吹き荒れる、迷宮内には隠れられる場所もない、だというのに向こう側から一方的に古式魔術が飛んでくる、どうしていいかも分からず兵士達は一人 また一人と倒れていく

まさしく一度入ったら出られない、死の迷宮…いや殺してないけどさ


そんな迷宮の中心部に位置する場所にて、エリスは一人叫ぶ

「水界写す閑雅たる水面鏡に、我が意によって降り注ぐ驟雨の如く眼前を打ち立て流麗なる怒濤の力を指し示す『水旋狂濤白浪』!!」

今度は水を放つ、無数に枝を別れする迷宮の道を的確になぞるように、中にいる兵士達を殲滅するために、古式魔術を放つ

「大いなる四大の一端よ、我が手の先に風の険しさを与えよ!荒れ狂う怒号 叫び上げる風切 、その暴威を 代弁する事を ここに誓わん『颶神風刻大槍』」

次は風、エリスは別に闇雲に魔術を撃っているわけではない、されど壁の向こう側が見えているわけではない、だが それでもエリスの魔術は的確に迷宮をなぞり 敵を殲滅していく

なぜ見えてもいないのにそんな事が出来るのか?、単純な話だ、この迷宮を作ったのはエリスで エリスはその迷宮の構造と迷宮形成時点で敵が何処にいたのかを全て記憶しているからだ

突如現れた迷宮に驚き立ち止まっている隙に、手が出せないところから一方的に殴る、エリスの卓越した魔力操作で魔術を操り 異常な記憶力で敵をマーキングしているからこそ出来る荒技

迷宮の中に居て、かつ その場から離れなければぶちのめせる、いや もう迷宮の中に安全地帯は無い、ここは既にエリスの世界なのだ





「ぐ…ぐぬぅ…」

そんな迷宮の外から幸運にも範囲外に居た兵士は歯噛みする、中から仲間の悲鳴が聞こえる…、何をされているか容易に想像できる

そしてご丁寧に目の前には迷宮の出入り口がある…、まるで助けたければ中に入ってこいと言わんばかりだ

だが

「ど どうしよう、助けに行くべきか?」

「馬鹿野郎、味方の位置も敵の位置も分からないのにあんなところに入ってもやられるだけだぞ!」

「だけど!、今だに誰も出てきていない、このままにすれば相手の思うツボじゃ無いのか!?」

言い合う、戦いとは 自分のやりたいことをやり 相手のやりたい事をさせないのが必勝の近道であることは、この場に集まった二百五十万人の帝国兵…いや帝国軍七百万人全員が理解している

だから、敵が用意したこの迷宮を放置するのは好ましく無い、あれはエリスが自分の為に用意したフィールド、これでは手が出せないし、何より味方の悲鳴が聞こえているのに動かないのは帝国兵士の名折れだ

だが…、この場にいる兵士達では目の前の迷宮の攻略法は思いつかない、あれを物理的に破壊し突破するなら、大型機構兵装が必要だが…、これは飽くまで軍事訓練 

持ち込んでいるのは小型魔装…しかもカンピオーネだけだ、大型魔装どころか中型魔装もこの場には無い

かといってこの身ひとつで迷宮に突撃するのは愚策だ、ただの自滅だ…だがどうすればいいか、このままじゃエリスがもし迷宮の範囲を広げこの駐屯地全域をあれで飲み込めば帝国軍は数の有利さえ失う

早急に対処しなくてはいけない、だが…

「わはぁー、遅れてごめーん ってすごー、凄いことになってるねこれ」

「これは…!、フィリップ師団長!」来てくれたんですね!」

「うん!、ごめんね 遅れて」

少年のような顔立ちをした黒髪の団長に 屈強な兵士達が頭を下げる、来てくれたんだ 師団長が…、第三十二師団の団長 フィリップ・パピルサグが

彼の異名『星煌の射手』が示す通り、彼は射手…つまり後方支援を得意とする男、故に第三十二師団もまたその殆どが射撃手で構成された部隊となる

故に、この布陣で最も後方に待機させられていた為 駐屯地中央にもいち早く到着出来たのだ

「で?、この迷宮はエリスの魔術?」

「はい、数で押そうとしたところ…このような迷宮を一撃で作り出して…」

「ううーーん、やってくれましたね これじゃあ僕の弓も真価を発揮できませんよ、やりますねエリス、いえ ドラゴン・エリス!、…僕がいかないといけませんよね、僕ドラゴンなので…じゃあ!、行ってきます!」

すると彼は背中に背負った特異魔装…『星穿弓カウスメディア』を持ち、迷宮へと一人突っ込んでいく、これで 少しは状況が好転するだろうかと 帝国兵達も一息つき…

「あ!いや!待ってくださいフィリップ師団長!我々はどうしたら!?」

しかし、フィリップは特に誰かに命令することもなく一人で奔放に迷宮へと…エリスへと挑んでいく

本当に自由な人なんだから…と置いていかれた第三十二師団の団員達も その場にいた帝国の兵士達も揃って頭を掻く

……………………………………………………

「ふぅー…」

迷宮の中心地にて エリスは一人で一息つく、古式魔術を連発して多分迷宮内の兵士達は粗方倒し終わった…、一方的に殴る…些か卑怯な気もしなくも無いが、でもこれは戦いだ

こうでもしないと数で押されてたしね、仕方ない仕方ない

「しかし、この岩の迷宮…数相手には効率的ですが、ちょっと面倒ですね」

なんて呟きながら岩の壁を叩く、なるべく頑丈に作り 火雷招の一撃にも耐えられるよう作ったこの壁、帝国兵達にはこれを崩せるだけの火力を出すのは苦労するはず…

つまりそれはエリスも同じ、後片付けに苦労するんだ、岩鬼鳴動界轟壊を使えば或いは崩せるかもしれないが…、この魔術は形成は出来ても復元は出来ない、崩れた地面は元に戻せないし、何より崩すには作る以上の魔力を消費する

中にいるやつ倒したらエリスにとっても邪魔になるこの迷宮戦法、今後は控えようかな…

「さて、外に出ますか」

迷宮の構造は理解しているし 天井はないから飛び上がれば脱出は可能だ、とっとと外に出てまた戦闘を続行しよう

「あ、いや その前にちょっと休憩…」

はふぅと息を吐いて楽な姿勢を取る、しかし思ったよりも帝国兵の練度が高い

師団長以外の部隊長も思ったより動けるし、何より判断力が凄まじい…エリスに敵わないと見るや否や直ぐに撃破を捨て時間稼ぎに走る、しかもその手も一見荒唐無稽に見えるが実に合理的

強い…、さすが世界最強の軍隊、このペースでどこまで戦えるか…

「ん?…」

ふと、魔力を感じ視線を上へ持ち上げる…よりも前に、全力で後ろに飛ぶ 飛び退く、それは魔力と同時に感じた圧倒的な害意、そして不自然な風切音をこの耳で捉えたから

「何者かっ!!」

「はぁー…、やっと見つけたぁっ」

刹那エリスの立っている位置に次々と矢が飛んでくる、飛び退いた先にも飛んでくるからジタバタと地面を転がり更に避ける、弓…しかもただの鉄の矢じゃ無い

光を放つ魔力弓…、確かこれは

「やっほぉエリス、こんにちは」

「あなたは…」

それは、空を飛んでいた 帝国軍人の中でも上位の人間にしか着用を許されない白いコート、それを肩から掛けてはためかせる少年が、光を放つ矢の上に座りながら 大型の弓をこちらに構えている

…あの顔には覚えが、そしてその戦法には覚えがある、彼は

「ようやく師団長のお出ましですか、第三十二師団の団長…フィリップ・パピルサグ、でしたか?」

「そうそう、僕のこと知ってくれてるの嬉しいなぁ、そう!僕こそフィリップドラゴーン!がおー!」

「……………………」

師団長 フィリップ・パピルサグ…、帝国が有する三十二の師団長 そのうちの一人、それが空中で静止する矢の上に立ち弓を構える

別名『星煌の射手』と謳われるだけあり、非力で小柄ながらその実力はそこらの帝国兵を優に上回る、それが目の前に現れたのだ

しかし、弓使いか…珍しいな

「こんな迷宮作るなんて驚きだよ、君ほんと凄いんだね」

「このくらい朝飯前ですよ、時間をくれれば次はお城を作りましょうか」

「いいねそれ、じゃあ僕が勝ったら僕の像立ててよ、物凄く…でっかくて…立派な像を」

そう言いながら彼は矢を持たず ソッと大型の弓…、いや 星穿弓カウスメディアだったか?、それを構える

見れば彼は弓兵には必須の矢筒を持たない、ましてや鏃の一本も持っていないのだ、何故?当然だ、必要ないからだ

「いいですよ、勝てたら…ですがね」

「じゃ、軽くぶちのめそうかな…、『カウスメディア』!!」

刹那彼の弓から光を放つ魔力矢が凄まじい速度で射出される、それを咄嗟の直感で避ければ 魔力で出来た矢は地面を穿ち砕き、メリメリと大地の奥底まで潜って消えて行く

おっそろしい剛弓だ、受ければ体に穴が開く…程度で済めばいいけれど!

「まだまだ行くよ!、どこまで避けれるか見せてくれるんだよね!」

「違います!、貴方をどうやって倒すか!それを見せてやるんですよ!、

フィリップの手から次々と光矢が生み出され、それを連続して射出する、あんなに連射しているというのに威力は全く衰えず、走り回り飛び回るエリスの足元で、矢が轟音を立てながら地面に穴を開けて行く

弓は近接戦には向かない、それは弓という武器が遠距離用に出来ているからでは無い

『矢を矢筒から取り出す』『矢を弓で構える』『そしてそのまま弦を弾く』『放つ』この4アクションが必須であり そのどれもが的確な集中と時間が必要だからだ

ある意味魔術以上に難しい、故に弓という武器を対人戦で持ち出す人間は世界中を探しても殆どいない エリスも一人くらいしか知らないし、弓は今のご時世 精々狩りに用いられるくらいだろう

しかし、彼は違う 彼の使う弓…あれは帝国の特殊兵装、師団長級の人間にだけ与えられる特別な武器のうちの一つ

名を『星穿弓カウスメディア』

メグさんから預かった情報から抜粋するなら…、カウスメディアとは 所謂『アロー系魔術』を好きなだけ連射出来る兵装らしい

アロー系魔術、魔術入門編で一番最初に習う魔術であり、魔術師ではない一般市民の中にも使用者がいるくらい広く知られている魔術

誰にでも使える超初級魔術、これが世界で一番使われる簡易な魔術として広まった理由は、『取得難易度の低さ』と『消費魔力の低さ』以外に二つある

それは『高い貫通性能』と『操作性の自在さ』この二つだ、これさえ覚えれば誰でも弓矢で武装したが如き力を手に入られる、何せ撃つだけ撃てば ある程度軌道は操れる…、この世で弓が対人戦の武器として使用されなくなった最大の要因だ

それを彼は使っているんだ

「勇ましいね、楽しみだな!」

すると今度は五本の光の弓を同時に放つ、すると弓は空中で軌道を変えエリスの周りを飛び交い、飢えた猛禽のように何度も何度もエリスに向けて突撃してくる、避けても直ぐに方向転換して再びこちらに突貫してくるのだ

しかもタチの悪いことにエリスを攻め立てる矢達は次々追加される、フィリップがエリスに向けて射撃を続けているのだ

オマケに本人はその自由自在の矢の上に立ち、矢の如き速さ空中を縦横無尽に飛び回り撃ち続けのだ、手出しできない

「せせこましい戦いかたですね!」

「ドラゴンっぽいって言ってほしいな!、まだまだ追加行くよ!」

まるでソニアの使っていたガトリング砲の如き速度でエリスに向けて矢が放たれる、縦横無尽な方向からの高速射撃と エリスの周りを飛び回る矢、圧倒的面制圧能力…

超初級のアロー系、それも達人が兵装を用いて連射して 自在に操ればこれ程までに強力になるのだ

「これが、僕の必勝策!『アローワールド』!」

最早蚊柱の如き数でエリスに群がる矢達に、エリスは回避しか出来ない、アロー系魔術は普通の矢と違い魔力がある限り減速しない、そしてその魔力はあの兵装 『カウスメディア』が肩代わりしているからフィリップ本人の消耗はゼロ

…これでも フィリップは全霊を出しきれていないのだろう、魔術になっても弓が遠距離用であることは変わらない、彼の本来の戦いかたは同じように矢に乗って超遠距離から高速移動しながら敵陣営を無数の矢で襲撃するスタイルなのだろう

もしこれをやられていたら勝ち目がなかった、迷宮を作ってきたことが功を奏した

さて…と

(どう攻略するか…)

刹那、極限集中へと入れば 宙を飛び交う光矢達の動きが緩慢になり、最早静止したとも見える程 深く深く集中する

アロー系魔術主体で攻めるスタイル、超初級でありながらこの数を同時に操り かつ地面を貫通する威力、これは恐らく彼の実力の高さとあの弓によるところが大きいだろう

威力上昇 操作精度向上 魔力消費肩代わり あと射出速度上昇とかかな、それらが全てあの弓によってもたらされ、彼の魔術はその手軽さに反し圧倒的強さに変わっている

強い、かなり強い エリスが今まで戦ってきた敵の上位に入る強さだ、これでこの国最強じゃないってんだから恐ろしい軍だよ、帝国軍は

(しかし…!)

バチバチとエリスの脳が電撃を放つ、逆転の閃き 来ましたよ!、エリスに観察の隙を与えたのがマズかったですね!フィリップさん!

「フッ!、『旋風圏跳』!!」

「お!はやっ!、やるねぇ!僕も負けないぞー!」

蜘蛛の巣のように張り巡らされる矢の雨は、止まることなく周辺を砕き 乱れ飛ぶ、そんな矢の雨を風を纏いながら回避し 迫る、フィリップに!

さぁ、こっからだ!

………………………………………………………………………………


エリスとフィリップ、その戦いを他所に眺める駐屯地の最奥、所謂司令本部でもあるコテージの前に立つは六の影、それが駐屯地中心の騒ぎを眺めている

「戦況はどうだ、随分としてやられているようだが」

部下に一つ苛立ちながら声を飛ばすのは三将軍が一人、万事穿槍の将アーデルトラウトだ、彼女は三将軍切っての過激派、どんな職務にも忠実である為今回の軍事訓練にもかなり熱を入れているようだが…

どうやら今はそれが苛立ちとして現れているようだ

孤独の魔女エリス、あれは…アーデルトラウトにとってあまり面白い存在では無い、理由はまぁ…色々あるが

「苛立っているな、アーデルトラウト、君らしく無い」

「ゴッドローブ…、いや 別に…」

「いつも怜悧な君が声に怒りを込めている、珍しいと思ったのは 私が君をよく知らないからか?」

なんてアーデルトラウトの隣で彼女の怒りを察するのは万断剛剣の将、帝国三将軍が一人 ゴッドローブだ

冷静沈着で穏健慎重な彼は今回の軍事訓練を冷静に見極める、いや 見極めているのはこの場を作ったルードヴィヒの考えか

ゴッドローブとルードヴィヒは随分と長い付き合いだが、今の彼は些か読めない、何を考えているのか…、らしく無い という点ではルードヴィヒの方がらしく無い

「ルードヴィヒはどう思う、エリスは君の言葉に従い力を示しているようだが、及第点か?」

「……まだだな、まだ私の望む物は見れていない」

ルードヴィヒはその隻眼を輝かせながらエリスの戦いを遠視の魔眼で見つめる、見ればかなり奮闘しているようだが、ルードヴィヒはまだ納得していないようだ

というか、やはり ルードヴィヒは何か目的があって今回のエリス対帝国軍の構図を作り出したのか とゴッドローブは目を細めるが、そこまでだ、彼は絶対に尻尾を見せない、見せる時が来たとしたら それはもうその考えが達成された時だけ


「おーおー、派手だねぇ、あれが古式魔術ってぇの?、っていうか若いのに強いなぁ、あれ俺より強くねぇ?、なぁ トルデ」

「ふざけんじゃねぇよ、お前より強いってことはあたしより強いってことになんだろうが、バカにすんなら殺すぞボケ」

「ははは、こっちのが怖えな」

三将軍達の読み合いを他所に 同じく後方を守るのは三十二の師団長の中でも最強の三人

帝国製のグラサンをテラテラと輝かせながらフリードリヒは笑う、エリスもおっかないが 同じく隣に立つトルデリーゼも恐ろしい、気を抜いたら噛み付いてきそうだ

「というかフリードリヒ!、何ボケっとしてんだよ!、お前戦いに行かないのかよ!、別に挑戦受けてもいいって言ってただろ!お前!」

「言ってねぇ、俺はエリスが挑戦することに対して 怒る必要も乗る必要もないって言ったんだ、茶番だろ?こんなのさ」

「臆病者!、帝国がナメられてもいいのかよ!」

「いいよ別に、ナメられるくらいが丁度いいって」

「いいわけねぇ!、…ったく もうフィリップは戦ってるってのに、あいつの方が余程漢気があるぜ」

「あいつは別にそんなんじゃなくて単に楽しそうだからじゃね?」

グラサンをクイと上げながら煙草を吹かす、エリスとの戦いにフリードリヒは参加するつもりはない、そんな事しても無駄なことは分かってるし 何より師団長は三十人以上いる、一人くらいサボったって構やしない

「俺よりもほら、ループレヒトさん あの人の方が適任だろ、あの人はベテランだし 俺が今から行くよりもあの人の方が早く現場に着くだろうしさ、あの人に任せよう それがいいそうしよう」

「あの子は動きゃしないよ、期待するだけ損さね」

「ん?あれ、お婆ちゃん 自分の息子に随分な言いようだ…ね…げぇ」

「ふんっ」

フリードリヒとトルデリーゼの啀み合いとも思える会話に腰を叩きながら割り込むのは、彼ら彼女ら師団長の代表であり、未だ現役にして最強の師団長 マグダレーナ、彼女の皺だらけの顔が 今はより一層面白くなさそうに歪んでいるのを見てフリードリヒはため息を吐く

こいつも機嫌悪いのかよ…と

「ループレヒトはこういう時静観に走る悪癖がある、どうせ あんたらと同じで状況の整理とか言って動いてないだろうよ」

「そうかね、まぁ ループレヒトさん育てたあんたが言うなら、そうなのかもな」

「くぅ~!、どいつもこいつも!情けない!、あたしが行ってぶちのめしてくる!」

「あ、おい!トルデ!」

誰も彼も動かない、師団長の中でも実力者と言われる全員が静観に走るこの状況にトルデリーゼは遂にブチ切れドスドスと砂埃をあげてエリスの元へ向かおうとする

そんな彼女に声をかけ静止するフリードリヒの行動は、トルデリーゼを冷静にするには至らず、更に燃料を投下させ彼女の怒りを倍増させる

「止めるなフリードリヒ!、このままじゃ帝国軍どころか師団長全員が臆病者だと思われる!、あたしはな!ナメられるのが大嫌いなんだよ!」

「で?、エリスのところに行って戦うって?」

「そうだよ!、臆病者のアンタに代わってね!」

「へぇ、それで魔術使って特異魔装も拝ませて、手の内全部エリスに見せてお前一人で得意満面…ってか?」

「ッッ!?」

ギラリとフリードリヒのサングラスが陽光を反射する、お前は分からないのか?実力者と呼ばれる全員が静観に走る理由が、これは茶番だとフリードリヒは言った それは嘘偽りでも比喩でも揶揄でも無い

事実だ、これは茶番でしか無い

「あのな、これは実戦じゃ無い 訓練だ、エリスの実力を見て俺達が評価する そう言う流れの筈だろ?、そこをお前 本気になって意固地になって、手の中にあるもん全部晒してどうするよ、気楽に行こう これは本番じゃ無いんだから」

「………」

「な?、落ち着けって お前は師団長の切り札、藍染を切り裂く巨刃のトルデリーゼだろ?、お前は安物じゃ無いんだから、ここぞって時まで力は残しておけよ」

フリードリヒの理路整然とした物言いに、トルデリーゼとマダグレーナは目を剥いていた、こいつこんな真面目なこと言えたんだ…と、そう思えるほどに普段の彼はおサボり大魔王なのだから

けど、けれど そんな正論を今更言われたとて トルデリーゼは納得出来ず、プイッとそっぽを向くと

「いやだ、行く」

「おま…、今俺の話聞いてた?」

「聞いてない、行く」

「おい、おーい!トルデー!、…ダメだ 行っちまった」

止める間もなく、トルデリーゼはいじけてエリスの方へと行ってしまった、まぁいいか トルデ相手にエリスがどこまでやれるか、それを見極めればいい物差しになる

「はぁ、言うことの聞かない妹分で困るねぇほんと」

「で?、アンタは行かないのかい?」

「やめてくれよお婆ちゃん、俺なんか行っても役立たないよ」

不真面目な奴…、そんな視線が横から飛んできても素知らぬ顔でフリードリヒは煙草を吹かす、行ってたまるか エリスは実際強い、熟練の帝国兵を手玉にとるあの手練手管は実際評価に値するんだ

もし、この軍事訓練の全権をフリードリヒが持っていたら、今ここでやめにしてエリスのアルカナ戦同行を許可していたところだ、まぁ 肝心のルードヴィヒが納得してない以上 どうしようもないが

「はぁ、…お婆ちゃんは行かないの?」

「年寄りに無茶させるんじゃ無いよ、老い先短い老婆こき使って若いのがサボろうってかい?、浅ましいねぇほんと」

口の悪いババアだ、…短くなった煙草を捨てて 新しいものに火をつけると、ふと フリードリヒはマグダレーナに目を向けて

「なぁお婆ちゃん」

「なんだい」

「世間話でもいいかな」

「こんな時にかい?、…別に構いやしないよ」

「そっか、…なぁ アンタ リーシャに会ったんだって?」

「………」

リーシャの名前を出した途端 マグダレーナの顔が渋くなる、突かれたくないところを突かれたって顔だ、それだけリーシャの存在が彼女の中で大きいのだろう

だが、それはフリードリヒにとっても同じだ、十年以上も他国に行ってた仲間が帰ってきたんだから、話くらいは聞きたい

「聞いたぜ、リーシャが帰ってきて、それで アンタが突っぱねたって、どうだった?元気そうか?」
 
「アンタみたいになってたよ、煙草吹かして やる気なさそうにフラフラと、全く情けない」

「へぇ、そりゃいい 俺くらい気楽じゃないと、やってけないぜ」

「いいもんかい、すっかり牙は抜け落ちて…昔の気概も失って、もうアタシの知ってるリーシャは死んだも同然だよ」

「牙…ねぇ」

リーシャと ジルビアとトルデリーゼと俺、特記組の中でも同期で、昔は最強世代なんて呼ばれてたアイツが そこまで腑抜けていたとは、やはり 例の怪我での離脱が響いてるらしい

あの事件は最悪だった、リーシャは重傷 ジルビアは責任を感じて飯も食わない、トルデリーゼなんかどうしたらいいか分からず右往左往してた

あの時からかな、全員が全員別の道を進み始めたのは…、ジルビアは第十師団に残り 俺とトルデは別の師団でトップ張って、そしてリーシャは監視員としてこの国を出た…、あのあと小説家になったとは聞いてたけどさ

「牙なんか無い方がいい、アイツはちょっと生き急いでたしさ、もうゆっくりしてもいいんじゃないかな」

「だったら軍人なんてやめるべきじゃないのかい、ここには死ぬ覚悟があるやつか要らないよ」

「死ぬ覚悟が出来てる奴なんかいない、…俺だって死にたくないから強くなってんだしさ、でも…リーシャがまだ帝国軍に未練があるなら…、俺は…」

「随分リーシャの肩を持つねぇ」

「ったりめぇだろ、リーシャもジルビアもトルデリーゼも、俺にとっては可愛い妹分なんだ、そして アンタにとってリーシャは娘代わりだった…違うか?」

リーシャの才能に一番期待していたのはマグダレーナだ、口には出してないどう考えても自分の後継者はループレヒトではなくリーシャにしようとしていたのがムンムン伝わってきたし、リーシャももそれに答えようとしていた

まぁ、叶わなかったけどな

「……あれはもう私の知ってるリーシャじゃないよ」

「そうかい…」

「で?、アンタはリーシャに会ったのかい?」

「あ、やべ 忘れてた、これ終わったら会いに行くかぁ、そん時はトルデを連れて…ジルビアは、無理そうだな」

まぁそれもこれも、この訓練が無事終われば、だけど…

ああ、嫌だねぇ 着々と大きな戦いが近づいているこの匂い、大っ嫌いだ…争いなんか無けりゃいいのにさ

…………………………………………………………

「はぁぁぁぁぁっっっ!!!」

「くっ、やるね…本当に!」

激しく曲を奏でるバイオリンの如く、フィリップの弦が揺れる、その都度全てを穿つ矢が放たれ エリスへと飛ぶ、既に宙を飛び交う矢の数は百に迫るほどだ

これを全て避けるエリスも、これを全て操るフィリップも、どちらも常人離れした実力の高さと言える

既にエリスとフィリップが激突を開始し十分の時が過ぎようとしているが、両者未だに手傷を負わず 状況の進展はない

エリスはフィリップの矢を避け、フィリップは無数の矢の雨でエリスを遠ざける、常に矢をエリスに向けて飛び交わせることその接近を防いでいるのだ

だが、この状況で冷や汗をかいているのは フィリップの方だ

(これを全部避けるか…、近接戦は得意じゃないけど 師団長以外には負けたことないんだけどなあ)

視界を埋め尽くす閃光の如き矢の雨を、エリスは的確に風を操り回避している、その顔は逃げ回っている というより何かを狙っているようにも見えてフィリップは肝を冷やす

これが魔女の弟子、これがエリス、なるほど みんなが警戒する理由がよくわかる、既に百を超える量の弓を撃った、カウスメディアが同時に操れる矢の数は百本が限度

この限度数まで撃ったのは初めてだ、だって百本の矢の雨が蜂の大群のように襲いかかって、無事でいられる人間がいるだろうか、そういう話だ

だけどね、僕だって師団長なんだ 武器に頼ってる雑魚じゃない、カウスメディアはオマケでしか無いんだよ

「さて、そろそろ疲れてきたろ?、僕もドラゴン超必殺技…出しちゃおうかな!」

「へぇ、まだあるんですね!奥の手が!」

あるともさ そう内心笑いながらフィリップは手を広げ、魔力を集中させる、この手に 深く強く熱く濃く魔力を集める、渾身の一射、ここからはカウスメディア関係なしの フィリップの純粋な一撃となる

「行くよ!『ドラゴニックブレイズアロー』!!」

弓を限界まで引きながら 詠唱と共に作り出すのは、赤き炎の如き極太の槍の如き一本の矢、これこそ師団長フィリップが用いる魔術…カウスメディアと言う武器の威力補正 貫通補正を最大まで引き出した奥義

世界に偏在するアロー系魔術、『フレイムアロー』『アイスアロー』『グリッターアロー』色々あるが、その全てが初級の簡易的な魔術ってわけじゃない

アロー系魔術の中にはキチンと、最上級の威力を持つ 大魔術が存在する、それがこれだ

最大射程は国を飛び越え、威力は山を砕き、速度は音速を超える、あまりの速さゆえ連射は出来ず自在の操作も出来ないが、そんなことする必要性がない程にこの一撃は強力無比

そして、魔術による援護など無くとも、この手より射られるそれは 百発百中の名を冠するのだ

「ッッ……」

対するエリスはどうだ、風を纏い宙を飛び その場で一回転し群がる矢を回避している、いや フィリップが回避させているのだ

ここにある矢は全てフィリップの持つカウスメディアによってまるで糸につながれた人形のように矢は自在に動く、それはつまり矢で相手の次の行動をある程度誘導することは可能なのだ

そして、フィリップは行動に移した、周囲を飛び交う無数の矢で一秒にも満たない時間エリスをその場に繋ぎ止め、必殺の矢を叩き込むための算段が整った

回避は不可 防御も不可、だから必殺技なんだよ…、それとも見せてくれるかい?第三の選択肢を!

ギリギリと弦が悲鳴をあげたのはほんの一瞬、エリスが矢を回避し終えるか否かと言うタイミングにて、その一矢は放たれる

「っーー!!」

フィリップは…、と言うか射手と呼ばれる人間は全員 渾身の一射を放つ瞬間、常人では考えられない集中力を手にすることがある、エリスの極限集中以上の深い集中…領域とも表現されるそれに入ったフィリップの目には、この無数の矢の雨一つ一つが緩慢に感じられた

これは矢が命中するまで続く、今放たれた紅の極矢は身を翻すエリスに向かって進み進み、進んでいく、対するエリスはどうだ?今ようやく回避を終え 次の行動に移ろうとしている

だが、この一矢はそんなもの許しはしない、今からでは防御も回避も間に合わない…

(…もらった…、ん?)

ふと、フィリップは気がつく 、以前にもこの戦法を取った事は数度ある、そしてそのどれもで彼は勝利を収めた、この完璧な布陣は破られた事がないから彼にとって必殺たり得る

だが、今回はいつもと違う事に一つ気がつく、それは…

(あいつ、矢を見ている?矢が見えている?、いや違う…来ることが事前に…)

それは直感か、或いは何かしらの法則性に基づく予測か、エリの目は既に迫る矢を見つめていたのだ

これは、もしエリスがこの一撃が来るのを事前にわかって行動していたなら、先手は僕では無くエリスの手の中にある事になる、だが

(だが、彼女は魔術師 どんなに急いで詠唱しても魔術は間に合わない、魔術無しでは魔術師は何も出来ない…!)

この矢の速度は音速を超える、この速度て威力は彼女の誤算であったと思いたいフィリップはほくそ笑む、直感が流す冷や汗に気がつかぬまま

故にこそ選んでしまった、静観を もしかしたら何か出来たかもしれないのに、フィリップはエリスの静観を選んだ、それはつまり エリスに行動を許したのだ

「ッッーーーーーー!!!」

それは 口を動かさぬ行動であった、口を動かさない 詠唱しない、していない

だと言うのに、何故か?エリスの手の中に紅蓮の輝きが集っていき…

(なっ!?詠唱無しで魔術!?そんなバカな!、まさか 貯蔵詠唱!?)

どう考えてもエリスは詠唱無しで魔術を発動させている、この現象に覚えがあるとしたら 皇帝カノープスと従者メグが使用する貯蔵詠唱しか無い、しかしアレは皇帝陛下の秘奥…

彼女の師レグルスは使用出来ないはず その弟子はもちろん…、いやまさか 聞いていたのか、魔女レグルスは褥でカノープス様の秘奥のタネを…!

「はぁッッ!!!」

刹那、フィリップの混乱を他所にエリスは一撃を放つ、フィリップの知らぬその魔術の名は『煌王火雷掌』、炎雷を纏った拳で フィリップの必殺の一撃である『ドラゴニックブレイズアロー』を叩き落としてみせたのだ

その衝撃は凄まじく、ぶつかり合った反動で地面は砕け 壁は崩れ、一拍遅れて砂塵が舞う

(うっそぉ!、マジで!今のも防いでくるの!?)

今、エリスによって矢が撃ち落とされ 相殺された、その事実にいち早く気がついたフィリップは愕然として動けなく…ならない

(とりあえず距離とってまた同じ状況に持ち込もう、今の手札はエリスにバレたからもう不意打ちは出来なけど、逆にチラつかせておけば牽制にもなる)

即座に考えをシフトし空中を飛ぶ矢の上に座りながらエリスの周りを飛ぶ、矢の上に乗れば 矢と同程度の速度で空を飛べる、これで撹乱し続けて 疲弊したところをもう一度狙おうと

このくらいの判断と対応が出来なければ師団長なんぞ務まらない、彼は帝国第三十二師団の団長 星煌の射手フィリップ・パピルサグなのだから

しかし、フィリップは失念していた

彼が星煌の射手なら…

「やはり、そう来ますか」

フィリップの行動を見て目を煌めかせる彼女は、魔女の弟子なのだから

「っ!?」

フィリップは気がつく、ようやく気がつく よく覚えないが、多分さっきまでもずっとそうだったろうに 今ようやく気がついたんだ

(こいつ、僕の動きを目で追ってる?)

今、フィリップは矢の上に乗り 凄まじい速度で虚空を駆け抜け矢の雨の間を縫って不規則な軌道で飛び回っている、常人では目で追うなんて不可能だ、これは動体視力がいいとか勘がいいとか、そう言う段階の話じゃない 

目で追えない速度で目で追えないように飛んでるんだから、ああやってエリスが僕の動きを読んでこちらを見つめるなんて不可能なんだ、それこそ未来でも見ない限り

(くそっ!?どうなってるんだ!?、なんなんだこいつ!?)

「この戦法…、アローワールドでしたか?、ならば言いましょう アローワールド!破れたりと!」

「ぐっ!?」

エリスが宣言する、勝利宣言だ 

その目がスッと細くなり、矢を回避しながら生まれた一瞬の隙間に足を置き大地を一つ叩くように踏み込むと共に

突っ込んできた、真っ直ぐ 真っ直ぐこちらに、突撃するつもりか!だが僕と君の間には矢の弾幕と言う名のカーテンが存在する、この敷居を跨ぐ事は出来ない!絶対に!

「ごはぁっ!?」

しかし、その答えは無情な膝蹴りであった、どういうわけかエリスは間に存在する矢の雨をするりと抜けてフィリップに突っ込み膝蹴りで吹き飛ばしたのだ

迫る矢を避けるのと 飛び交う矢の中に飛び込み無事でいるのとでは意味が違う、だというのにエリス矢の軌道を見切ったというのか?、そんなことできるわけない、数にして百…それらの動き全てを見切るなんて

「ぐっ…くっっそぉぉっっ!!!」

咆哮す、フィリップは猛るように咆哮し、再び矢を放ちその上に乗る、そして右へ左へ時に上へ下へ、折れるような軌道で鋭角に曲がり 突っ込み、決して見切れない軌道でエリスの周りを飛び交う

しかし

「分かっていないのですね、貴方のその戦い方には 致命的な欠点があることに」

「何…ぐはぁっ!?」

疑問を口に出すよりも前にエリスは矢よりも速く、そしてフィリップの軌道を先回りし蹴りを放ち吹き飛ばすのだ、ダメだ マグレじゃない、信じ難いが本当に見切ってる、この女 あの短時間で僕の全てを

「矢の雨 矢の世界、弾幕のカーテン…凄まじい猛攻です、これの本来の使い方は超遠方からの一方的射撃にあるのでしょう」

矢の雨の中を悠然と歩くエリスは語る、確かにその通りだ フィリップが最も得意とするのは超遠距離からの遠視での狙撃、遠視の魔眼の腕なら帝国一…世界でも魔女を除けば黒曜のグロリアーナに次ぐ程だ

だからこそ、本来はこうお互いの顔が見える距離では戦わない…けどそれとこれのなんの関係が…

「安全地帯、貴方は常に矢の雨の中で安全地帯を確保する…当然ですよね、相手蜂の巣にする為に自分も蜂の巣になっちゃお笑いですから」

「……そういうことか」

彼女が僕の動きを見切っていた理由が漸く分かった、彼女が見ていたのは僕じゃない、僕が矢の雨を移動する時 その進行方向に矢を近づかせないようにしていた

エリスの側から見れば、僕が移動する先には矢が不自然に近寄らないように見える、それを見ていたんだ…、矢が立ち入らない空間に僕が進む、これじゃあ予め僕がどこに移動するか教えているようなもの

けどまぁ、それを見切るのだって簡単じゃないはずだ、普通は矢を避けるのに手一杯になる…

「それを、僕に語ってどうするんだい?」

「分かりませんか?、もう勝ち確定なので」

「は?…」

刹那、迷宮の上…天井のない青空が一瞬暗くなったように感じた、いや感じたのは魔力と危機感、何か来る 上から、そう感じて矢を引いて再び矢に乗り移動しようとした瞬間

「道具に頼りすぎです!『鳴神天穿』!」

「ぐっ!」

クルリとその場で回転し飛び交う矢を回避しながら指先から放つ雷閃が僕の手の弓を…星穿弓ガウスメディアを弾き飛ばす、しまった 判断を間違えた、こうじゃなかった

ここは弓を撃って離脱するのではなく、この足で全力で駆けて距離を取るべきだった!、弓を撃つモーションを見せれば対応されるのは当たり前!

「弓が無いからって、僕は戦えなくなるわけじゃ……」


そこで途切れる、フィリップの声が途切れ この迷宮のど真ん中にまばゆい閃光が突如として叩きつけられ、彼の姿と声が光と音により掻き消えたのだ

何が起こったか?、分からないが 少なくともフィリップがもしこの状況を客観的に見れたなら、こう言うだろう

『あ、雷落ちた』ってね

「か…は……っ」

光と音が消える頃に、フィリップの姿は現れる、まるで使い古した木炭のように黒焦げに汚れた姿で、力なく地面へ倒れ 力尽きた照明と言わんばかりに空中を飛び交う光の矢達も虚空へ消え去る

「…『土雷招』、詠唱無しで魔術を使うところは見せたはずです」

タネは簡単だ、フィリップを打ち倒した魔術は土雷招、天へと放った雷の種が一定時間経った後、その場へと降り注ぐという時間差攻撃魔術

それをフィリップを最初に蹴り飛ばした時に跳躍詠唱にて発動させ天へと飛ばし、二度蹴り飛ばした時に落下地点へと誘導した、それだけのなのだ

フィリップはまんまとエリスに嵌められ土雷招の真下に転がされ、そして頭からそれを浴びた それだけなのだ、渾身の雷招を頭から無防備に浴びればさしもの師団長も気絶は免れない

(ま マジかぁ)


身体中に走る電撃の痺れと、何が何だかわからないくらいのダメージに、フィリップは痛みよりも先に感動を覚える

これほどまでにやる奴が帝国の外にいるのは知らなかった、それがいきなり到来して圧倒的暴力を振るう、凄い話だよ 昨日の僕に言っても信じないだろうなあ

(これは負けた、もう動けない 僕が手傷一つ負わせられずに負けるなんて…)

倒れる五体と動かない肉体、負けだ 完全なる負けだ、僕はもう信じられないくらいボロボロなのに向こうは綺麗な肌を見せて佇んでいる、激しい戦闘の中にあったというのに、血ではなく汗だけを流し サラリと髪を払うその姿に、フィリップは再び感動を覚える

(いきなり現れ、何もかもを蹂躙する圧倒的力…、あ…はは まるで…)

ドラゴンのようだ、彼の憧れる 真なる力の持ち主、かつて童話に聞いた、そして帝国の国章にもなっているドラゴンの姿そのものであると、フィリップはエリスの姿に龍を見る

(あはは…あはははは、…いいなぁ…エリスかぁ…ドラゴンかぁ)

いい 凄くいい、エリスか エリスか と、彼女という名の龍に見せられた狩人は、体を大の字にして意識を失う

取り上げず、これが終わったら…、彼女に……、そう 思考して

………………………………………………………………

プスプスと黒煙をあげるフィリップを見て エリスは一つ息を吐く

「…ここで良かった」

フィリップと激突した戦場がこの迷宮内で良かった、これがもし縦横無尽に動ける平原だっだなら、エリスは更に苦戦した…、後に戦う余力など残す余裕などなく 彼一人倒すのに全てを使い果たさねばならない程に苦戦しただろう

これが師団長、自分が圧倒的に不利なフィールドでもかくも強いか…、この分じゃ他の師団長更に強い事だろう  

そして

「思いの外時間を使ってしまった、…そろそろ他の師団長が来てもおかしくない、最悪三将軍まで来るかもしれない」

一応師匠とメグさんも一緒に戦ってくれているはずなんだが、エリスが先行したせいで逸れてしまったのが現状

はっきり言おう、誤算である

メグさんなら直ぐにエリスのところにワープしてくると思ってたが、やはりあのワープには何か条件があるんだ、そしてエリスのところに来る為の条件はまだ満たされていない

こんなことなら遠慮せず聞けば良かった…

「仕方ない、ここは一旦上空へ逃げてヒットアンドアウェイで時間を稼いで……」

なんて、独り言を呟きながら次の行動へと移ろうとした瞬間の事だ

轟音をあげ迷宮の壁が…、エリスでも破壊に一苦労する筈の迷宮の壁が吹き飛び大穴が開いたのは

「っ!?な…なんですとっ!?」

「ここにいやがったな…、小娘ぇっ!!」

ガラガラと崩れ、砂埃をあげながら瓦礫となる壁を踏み越えて 現れるのは獣の如き女、フィリップさんと同じ白いコートを纏う師団長が一人

針山のような髪を腰まで垂らし グルルと喉を鳴らすその女は、フィリップと違い 明確な敵意と兵器の如き殺意を身に纏わせて現れる

…その者の名はトルデリーゼ、三十二の師団長の中で マダグレーナとフリードリヒに次ぐ三番手の実力者、所謂所の大物が現れたのだ

「むはぁ…、ああ? まさかこのボロ雑巾…フィリップか?、チッ 遠距離専門のくせして調子に乗って至近距離で戦うから…、ったく 師団長の看板に泥塗りやがって」

「それが勇敢に戦った仲間への言葉ですか?」

「ぶちのめした張本人が言うんじゃねぇよ!」

ごもっともですね!その通り!、なんてキツい言い方をするトルデリーゼさんだが、なんのかんの言いつつフィリップさんの体にポーションをぶっかけつつその体を抱き上げ…

「おいお前ら、こいつ救護班に渡してやってくれ、死んでねぇけど このままじゃ忍びないし」

とトルデリーゼさんが開けた穴を通って追従してきた部下達にフィリップさんを渡しその治療を願い出る、なんだ…

「優しいですね」

「仲間として当然だ!、…あ お前ら手ぇだすなよ、苦手なフィールドとは言え師団長クラスがここまでボコられたんだ、生半可な相手じゃねぇことは分かる」

そう言いながらフィリップさんを引き渡すとともに 部下達を下がらせる、まるで自分一人で十分だと言わんばかりに、深く腰を落とし 構えを取り始める

「今度は貴方が相手ですか?、お仲間も一緒で構いませんよ」

「ハッ、ナメた口聞くんじゃねぇよ…、あたしはナメられるのが一番嫌いなんだ…、フィリップの分まで ボッッッッコボコにしてやる!!!」

師団長フィリップを倒したと思ったら今度は同じ師団長のトルデリーゼさんが相手か、息をつく間もないな、まぁ そんな事織り込み済みで挑んだんだ

「いいですね、エリスも後5、6人師団長ぶっ倒すつもりでいたのでそっちから来ていただけるなら、これ以上ないくらい有難いですね、なんなら貴方の友達呼んできてくれます?そこで列になって並んで待っててくれると更に有難いんですが」

「そんな安い挑発に乗るかよ、でも 腹立った…ぶっ殺すぜ」

「あらま乗りませんか、まぁ まだまだいけるのは本当なので、行きますよ」

駐屯地中央に生まれた巨大岩壁迷宮のど真ん中にて、エリスは更なる師団長とぶつかり合う、これはまだまだ終わりそうにないな







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