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七章 閃光の魔女プロキオン

190.孤独の魔女と波乱の幕開け

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エトワール王国にて 五年に一度のビッグイベント、この大国を代表する八人の女優 エイト・ソーサラーズを決める通称『エイト・ソーサラーズ候補選』

その第一審査、街人や国民の投票にて 人々がこれだと思う女優に投票し 獲得票数の多さに応じてランキング付けを行う、その上位15名が次の最終候補選へと進むことが出来る所謂選挙方式だ

選挙権は参加者と参加者の所属する劇団以外の国民全員に等しく与えられ、この時期はエトワール国内全土から次なるエイト・ソーサラーズの誕生を見る為に集まる

お祭りであり 次のエトワール代表を決める総選挙…

ただ、普通の選挙と違う点があるとするなら 人々が投票した票…これは選挙期間中であれば自由に別の人間へと移すことが出来るのだ、だから 最初にどれだけ優勢でも気を抜けば人々は呆気なく別の候補へ票を移してしまう為 最後の最後まで気が抜けない

だから候補者達はこの三ヶ月間 一切手を緩める事なく万全を演じ続けなくてはならない、自分の票を守り 相手の票を奪う為に

そして、そんなエイト・ソーサラーズ候補選に今年 異例中の異例とも言える人物が名乗りを上げた

クリストキント旅劇団所属 サトゥルナリア・ルシエンテス その性別 男性、男だ…この国一番の女優を決める候補選に男が参戦したのだ、それはこの候補選 そしてエイト・ソーサラーズ始まって以来の大事件

…男が魔女様を演じるなど不遜である

…エイト・ソーサラーズは女性の憧れの頂点、それを男が掠め取るな

…どうせ話題欲しさの浅ましい行動に違いない

…男の癖に、醜い男の癖に…

サトゥルナリアが候補選に参加すると発表されると共にそんな声は瞬く間に広がった、そりゃあまぁ受け入れられるとは思ってない、否定的な意見が多いのは当たり前のことだ

男と女の垣根をぶち壊し 女優の頂点に男が立とうってんだ、まぁ 面白くない人も多いだろう、けど…

「よし!、クリストキント劇場…開演だね」

朝、クリストキント劇団 及びクリストキント劇場は一週間の準備期間を経て漸く始動の時を迎えた、崩れかけの壁や床 天井は全て劇団員達の尽力により完璧に整えられ ちょっとやそっとじゃ壊れる気配はない

飾り付けはまぁ…ちょっと地味だが、静かな木目のこの景色はエリスは趣があっていいと思う

「団長!団長!、外に既にすごい行列が!」

「お!、昨日散々宣伝しまくった甲斐があるってもんだな」

窓からチラリと外の様子を伺った団員が嬉しそうに飛び跳ねる、昨日 団員の半分を使って王都中でクリストキントの公演があると宣伝しまくったんだ、そりゃあ大勢のお客が入る事が予想できた

まぁ半分は純粋に今流行りのクリストキントを見に来る客と、もう半分は…ナリアさんがエイト・ソーサラーズに挑戦する件を受け、どんな奴が名乗りを上げたか見に来た人が半分ってところだろうな

「エリスちゃん!ナリア!ヴェンデル!、準備はいいか?」

そんな事もはやどうでもいいとばかりにクンラートさんは喜び勇みながらエリス達の元へと駆けてくる…、準備はいいかだと?

「勿論ですよ」

「はい!、僕もいけます!」

「ふんっ、今日こそ負けねー」

既に衣装に着替えたエリス達は気合を入れて頷く…


今日、エリス達はクリストキント劇団の初公演を迎えようとしていた、先程も言ったが既に宣伝は済ませ劇団としての活動は抜かりなく進んでいる、客入りは上々 クリストキントの記念すべき走り出しの日としてはとても良いものになったと言えるだろう

…こうして劇場を持ったとはいえ、ここは謂わば飽くまで借家、売り上げが芳しくなければ再び旅劇団に逆戻りなんて綱渡りの状態には変わりないわけだから、こうしてお客さんがたくさん来てくれるのはどの道ありがたい

「では、舞台裏に移動して準備しましょうか」

「うん、劇に出ない団員のみんながチケットの売り子とかやってくれるみたいだしね」

「これからは劇をやって報酬をもらうのではなく、お客さんから直にお駄賃を頂いてやるわけですしね、勝手は違いますが 頑張りましょう、ね?ヴェンデルさん」

「一々話しかけんなよ…」

だって話しかけないと無視するでしょ?って無視しないでくださいよ、全く…

なんて話をしながらも向かうのは舞台裏、出来る限り絢爛にそして快適に着飾った劇場と違い舞台裏はなんとも質素だ、姿見やら台本を読むためのスペース あとは小道具が乱雑に収納されている、まぁ こっちにまでかけるお金がなかっただけだが いいじゃないか これも趣だ

「さて、ナリアさん…」

「ん?、なぁに?」

舞台裏に着き、エリスはエリスの役 ハルトムート役の衣装と小道具の整理をしながら、開演までの時間までにナリアさんに声をかける

聞いておきたい、始まる前に

「これがクリストキントの初公演であり、ナリアさんのエイト・ソーサラーズへの道の始まり、夢の始まりです…、その道の目の前に立った気分はどうですか?」

「そうだね…」

これは、クリストキント劇団の初公演でありナリアさんの夢の出発地点、ここからは進むだけ 前に進むだけ、前に進むのは辛く苦しい事ばかり…その覚悟があるのか、分かりきったことを聞いておきたいんだ

「…ここまで来た、とみんなは言うけど…ごめんね、僕はそうは思わないんだ」

「ほう?」

「ここまで来た…じゃなくて、漸くここに立てた だよ、夢に向けて走り始める準備はもう十年前に終わってる、言っておくけど僕 もう止まらないよ」

「その意気です」

フッ やっぱ聞くまでもなかったな、さぁて ナリアさんの覚悟も聞けたし、幕を開けようか

クリストキントの ナリアさんの エリスの…快進撃の幕を!

『皆さん、大変長らくお待たせしました!、これより 我等がクリストキント劇団の初めての公演 初めての活劇!、ノクチュルヌの響光をご覧に入れましょう!』

始まるか…、んじゃあ 今日も一発かましてかやりましょう、ここで盛大に盛り上げて 最高のスタートダッシュを切って、エイト・ソーサラーズの第一審査 超えてやろうじゃないか!

既に着慣れた騎士装束と共にエリスは一人、舞台上へと ノクチュルヌの響光の世界へと、歩み出せば

「っーーーーー!!!」

開く幕、始まる劇、舞台上から見えるのは 今まで経験したどの劇よりも どの舞台よりもなお輝いて見える 圧巻の観客席

エリスの姿を見て ただそれだけで歓声をあげる人々の海

「キャーーー!」 

「待ってましたー!」

「ずっと見たかったのよ!この劇!!」


……いい眺めだ、こんないい眺めの中 己の全てを多くの人が見届けてくれると思うと、胸が高鳴る

そこでふと頭によぎるのは…母の影、ハーメアもきっと この世界に魅入られたからこそ、この景色に夢を見たからこそ、役者をやっていたのかもな

…母が生きていたら、少し そういう話を劇に関する話を聞いてみたい、なんて一瞬よぎった考えを振り払い、エリスは腰の模造剣に手を当て 高らかに掲げ

「我こそは!騎士ハルトムート!」

名乗る、これは クリストキントとナリアさんの為の劇であり、エリスの為の劇でもあるのだと、何処かで理解しながら 観客の声に応える


…………………………………………………………………………………

クリストキント劇団の1日の公演は大体四回、朝に一回 昼に一回 夕に一回 そして夜に一回、劇団としての活動に慣れていない為とりあえずこの形で公演して 多いようなら数を減らし 足りないならば増やす、という形で今はお試しでこの形で公演していくらしい

そして今、四度目の公演 夜の部を終え、クリストキントの初公演の一日はしめやかに終了することとなった

「すげー収益だ!、この調子で行けば直ぐに一流になるぜ!」

「やっぱりブームは強いわね!、これなりいけるんじゃない!?、この劇団を成功させるのも ナリアちゃんをエイト・ソーサラーズにさせるのも!」

一日の演劇を終え、劇団員達がチケット代の売り上げを見て嬉々と叫び声を上げる、今日の公演は満員御礼 売り上げもかなりのものだった、事実 今舞台裏のテーブルの上に置かれた麻袋は大きく膨らんでおり、見ただけで儲かってるのが伝わってくる

しかし

「おいおい、嬉しいのは分かるが 初日はこんなもんだ、もう少ししたら売り上げも落ち着いてくる、その時の売り上げが この劇団の正しい実力ってことになるんだ、調子には乗るなよ?」

みんなを諌めつつもやや嬉しそうにお酒を扇ぐクンラートさんは疲れたそうに椅子に座る、親友のユミルと共に劇団を立ち上げた経験がある男は言うことが違うな

それでも、喜ばしいことに変わりはない、初日がダメなら今後もダメだ、これは これからも期待が持てるってことなんだから

「ふぅー、ナリアもヴェンデルもお疲れさん」

「はい、クンラート団長もお疲れ様です」

「くそっ、今日も勝てなかった…何がダメなんだ」

劇団の成功を祝って大好物のグレープエードを飲むナリアさんや今日の反省を一人で行うヴェンデルさんも、やや疲れながらも二人ともどこか嬉しそうだ

「ナリア、手応えの方はどうだった?」

「上々です、劇場に来てくれた皆さんを満足させられたと思います」

「そうじゃねぇよ、候補選の方さ 行けると思うか?」

「ええ、まだ投票は始まったばかりですから、僕にはなんとも」

まだ投票は始まったばかり、一応街の広場に今現在の投票数が毎日張り出されるみたいだが、それもまだ確認してないしね、つまり今日の結果が出るのは明日の朝、ならまた明日あたり見に行った方がいいだろう

「それもそうだな、…なぁエリスちゃん 君はどう思う?今回の演劇さ?」

「え?エリスですか?」

どう思うか と聞かれて困る、成功は成功だと思うが…

「そうですね、盛況ぶりに反してウチの座席数が少ないように思えます、列に並んだのに劇場には入れなかった人も多いのでは?、出来ればそう言う人たちもキャッチできるように 何かしらの策を練った方がいいのでは?」

「流石だな、俺も同じこと考えてた…、また 劇団運営について意見をもらってもいいかな」

「素人のエリスで良ければ」

「もうエリスちゃんは素人じゃねぇよ」

そう言ってくれるとありがたいね、さて今日の公演も終わって エリスもクタクタだ、今日一日かけて刃煌の剣を黙読していた師匠の様子でも見て 今日はもう寝よう、明日も公演があるんだ

みんなとお祝いムードを共有したい気持ちはあるが、師匠の顔も見ておきたいと思い 舞台裏で喜ぶ劇団員達に背を向け踵を返そうとした瞬間

「あー、団長?なんかお客さんが来てます」

「何?、もう今日の公演は終わったんだが…、看板だってしまっただろう?」

ふと、劇直の入り口の方から劇団員が走ってくる、お客?もう結構な夜更けだと思うんだが…、何者かとクンラートさんや 舞台裏に集まる劇団員達が訝しげに顔を顰めると

「なんでも、エリスさんの知り合いだから会わせろとか」

「え?エリスですか?」

誰だろう、まず思い浮かぶこの街のエリスの知り合いといえばヘレナさんやマリアニールさんだが、彼女達なら劇団員だってお客 なんて言わずもっと血相変えて飛んでくるだろうし

となるともっと別の…

「あ!」

もしかして…あの人が態々訪ねてくれたのかな、だとするとありがたい反面申し訳ない、ここ最近忙しくて暇を作れなかったから、せめて挨拶だけでも行けばよかった と思っていると劇場の入り口が勝手に開かれた音がして…

「ちょっ!、勝手に入られたら困りますよお客さん、それにここ舞台裏で…」

「あら失礼、友人に会ったら直ぐに退散しますわ」

そう言いながら一人 劇団員の制止を無視して舞台裏に踏み込んでくるのは、赤い髪 赤い目 赤いドレスに身を包んだ婦人…いや 紅炎婦人

「セレドナさん!」

「え?、エリスさんの知り合い?」

知り合いも知り合い、ありがたいことに友人ということにさせていただいているセレドナさんだ!、ミハイル大劇団にて出会い 王都の別荘で過ごしていると話を聞いていたが、まさか向こうから会いにまで来てくれるとは、デルセクトの五大王族の一人ともあろうお方が

「ええ、御機嫌ようエリス、最近の活躍は聞き及んでいますわよ?、まさか劇団員としても大成するとは流石ですわね、まぁ 貴方の役者ぶりは知っていましたが」

役者ぶりとは デルセクトでの執事の格好のことを言ってるのか?、いや…まぁ…うん、今思えばあれ 随分メチャクチャなことやってたとエリス自身思ってるんですから、あんまり人前で言わないで?

「おお、エリスちゃんのお知り合いだったか、なら挨拶しないとな 俺はこの劇団の団長クンラート・ボスだ、エリスちゃんには本当に世話になってる」

「あら礼儀を弁えていますわね、チンピラみたいな顔のくせに、ならば妾も名乗りましょう、妾はデルセクト国家同盟群の柱である五大王族…その一人、紅炎婦人セレドナ・カルブンクルスですわ?、どうぞよしなに」

「え?…五大王族?」

握手をしようと出したクンラートさんの手が固まり 即座に引っ込められる、五大王族…その名を聞くなり冷や汗をダラダラと滝のように流しつつ エリスの方を向き

「え エリスちゃん?、この人…いやこの方って…」

「はい、紅玉国アンスラークスの女王様です、礼儀に厳しく気難しい方ですが とっても優しい方ですよ」

「ええまぁ否定はしません、妾もエリスには世話になった…いえ、我が国とこの命を救っていただいた大恩があります、そこはあなた方と同じですわ」

「え…えぇ、エリスさん ヘレナさんとも知り合いだったし、王族に知り合い多すぎじゃない?」

そこは否定しませんよナリアさん、エリスの友人の半分以上が王族ですし、魔女である師匠と世界中を旅していると言う関係上、どうしても偉い人と関わりを持つ機会が多いのだ、まぁ セレドナさんの場合は師匠とは関係ないところで知り合ったわけですが

「こ これは大変なご無礼を、お おい!今すぐ歓待の準備を…」

「別にいいですわ、ここには友人を迎えに来ただけですから、それよりエリス?この後空いてます?出来れば夕食を共にしたいのですが?」

「え、いいんですか?」

「ええ構いません、デルセクトにいる頃はゆっくり話も出来ませんでしたから、あの時の礼を 改めてと、なんならエリスのご友人も一緒でいいですわよ」

「エリスの友人…というと」

真っ先に浮かぶのはナリアさんだ、と ナリアさんの方を見ると彼は キョトンとして

「え?僕?」

うん 僕だ、ナリアさんとはよく行動も共にしてるし、ぶっちゃけ一番仲いいし…と無言で頷くと彼はブンブン顔を横に振り

「無理無理無理!そんな偉い人と一緒って!緊張で心臓破裂しちゃう!」

「大丈夫ですよ、セレドナさん優しい方ですから」

「ほら、決まったなら早くなさい?、もう夕食の支度は済んでますわ」

「だそうです、行きましょうナリアさん」

「えぇ~!?、だ 団長~!」

「失礼のないようにな?ナリア」

「そんなぁ~…」

ほらほら、別に怖いところではないですから…ね?、ご飯ご馳走してくれるっていうならそのお誘いに乗ろうじゃありませんか

エリスも久々にセレドナさんと話がしたかったし、それもいやらしい話にはなるが今後セレドナさんの助けを借りる場面があるかもしれない、そういうところも含めて セレドナさんと夕餉を共にするのはよいとおもいます

赤い扇子で口元を隠し踵を返し劇場を出て行くセレドナさんについていく為、往生際が悪く抵抗するナリアさんの手を引っ張る、いい経験ですよ ナリアさん

「あ、エリスちゃん」

「え?、リーシャさん?」

ふと、劇場を出て行こうとしたところで 劇場出入り口より現れたリーシャさんとばったり鉢合わせする、スンスン…ヤニ臭い 外でタバコ吸ってたな、まぁ劇場内は全面禁煙なので 吸うなら外で吸ってもらうより他ないのだが

しかし、今日は大切な初公演だったというのに姿を見なかったが…何処に居たんだろう

「外でタバコ吸ってたんですか?」

「まぁね、それよりどっか行くの?」

「ええまぁ、友人に夕食に誘われて、ちょっとナリアさんと一緒に行ってきます」

「うぅー!、僕には荷が重いですー!」

「あっそう、遅くならないようにね」

「…リーシャさんも行きます?、いいネタが見つかるかもしれませんよ」

「間に合ってるから遠慮するよ」

それだけ伝えると彼女はヤニの匂いを漂わせながら劇場内へと消えていく、これから執筆かな…だとしたら邪魔しちゃ悪いな

「エリス?、早くなさい?、エトワールの夜は寒い上 妾を夜道で一人にしてはいけませんわよ?、またどこかの悪漢が襲って来るやも」

「ヘットのこと言ってるんですか?、なら安心してください、今度こそ エリスがセレドナさんのこと守るので」

なんて、懐かしい話をしながらエリスは夜道を歩くセレドナさんに着いていく、ああ しかしそれにしても懐かしいな…

…そう言えば、ヘットの奴 どこに消えたんだろう、エリスはアイツの死体を確認していないし 捕まったなんて話も聞かない、もしかしたらまだ何処かにいるかもしれないな

まぁいい、もしまたヘットがエリスの前に現れるなら丁度いいってもんだ、今度こそ決着つけてやるだけだ、あれからエリスもメチャクチャ強くなりましたからね


…………………………………………………………

「うう…」

チラリとその可愛いお目目が右を見る、豪華絢爛な紅の調度品を見て対照的に顔を青く染め目を逸らす

「ううー…」

目を逸らし左に目を向ければ、エトワールでも有名な画家が手掛けた美しい絵画が目に入る、あれ一枚で家が帰るそれを知ってるからこそ 彼はワタワタと唇を震わせ

「僕場違いじゃないかな、エリスさん」

そして何度目かの問いかけ、場違いか場違いじゃないかで言ったらエリスも場違いですよ

「そう畏まらなくても良いですわ、貴方はゲスト ならば畏れ敬うのではなく、楽しむのがホストに対する最大の礼儀ですわよ」

「そうは…いいましても…」

エリス達は今 セレドナさんの保有する別荘へとお邪魔して もうものすごーく長い長テーブルに着いて セレドナさんと共にお夕飯を待っている最中だ

しかし、と周りを見れば相変わらず赤い、壁紙も調度品も赤を基調としているのに厭らしさがない、寧ろ綺麗にまとまってるとさえ思える、相変わらずセレドナさんのセンスはいいようだ

ちなみに、さっき聞いた話によると ここはセレドナさんがいつかエトワールに遊びに行こうと前々から土地を買い建てるだけ建てておいた別荘で、来るのは今回が初めてらしい

流石デルセクトセレブ、金の使い方と余裕が違うな

「しかし、エリス?そろそろその隣の子を紹介してくれても良いのでは?」

「ああ、すみません 遅れましたね、この人はサトゥルナリア・ルシエンテスと言って、我がクリストキントが誇る大役者です」

「ほう、エリスがそこまで褒めるとは、相当な役者なのですわね」

「ちょっと!?エリスさん!?」

「事実じゃないですか」

それにね、謙遜して自分を小さく見るのもいいが、それでも見栄ってのは大切だ、特に友人が褒め称えてるときそれを大人しく受け入れるくらいの度胸甲斐を得ておくべきだとエリス思いますよ

「うう、セレドナ様 初めまして、ご紹介に預かりましたサトゥルナリア・ルシエンテスです、クリストキント旅劇団で女優やらせてもらってます」

「名前は聞いていますわ、最近頭角を現したクリストキントの二大看板と、エリスと肩を並べるほどとね」

「いやぁそんな、…でも演技には自信あります、セレドナ様もいつかうちの劇団に遊びに来てください、最高の体験をご覧に入れます」

「ほう…言いますわね、自分の分野では一歩も引かぬ勝気を秘めているとは、嫌いではありませんわ…考えておきましょう」

というとセレドナさんは両手をパンパンと二度叩くと

「それより、紅茶はまだかしら?いつまでも客人を待たせてはいけません事よ?」

どうやら従者に指示を飛ばしているようだ、まぁ確かにテーブルの上には何もなく、いつまで経ってもお茶の一つも出てこないとはセレドナさんらしくないなとは思ってたが、実際に遅れているようだ

しかし、セレドナさんの従者っていうと…誰だ?、思えば紅玉会でデルセクトの執事メイド達を見ることは出来たが、主催者であるセレドナさんは 従者をパーティに出さないという名目上彼女の従者を目にすることはなかったな

「紅茶の用意をしてくれるのはセレドナさんの従者ですか?、エリス セレドナさんの従者さんとは会ったことなかったですよね」

「いいえ、従者は連れて来ていますが 紅茶を命じたのは妾の護衛ですわ、気に食わないから お茶汲みとして使ってやってるんですの」

護衛を従者として使ってるのかよ、相変わらずメチャクチャだなこの人…、なんで呆れていると セレドナさんは含み顔で笑うと

「そして、会ったことないというのも間違いですわ、貴方も奴の顔はよく存じているでしょう」

「え?、会ったこと…あるんですか?」

誰だ、誰のことだと顎に手を当て考える、よく考えろ ヒントは出ている、従者ではなく護衛…ということは恐らくデルセクト連合軍本部から充てがわれた実力者だろう、何せ五大王族に何かあっては同盟そのものの痛手となる

五大王族を任せるに足る実力者で、かつ セレドナさんが気に食わないという人物…、それに心当たりは

ある、一人 該当する人物がいる、まさか セレドナさんだけでなく あの人も来ているのか、エトワールに…

「もしかして…」

とエリスがその名を呼ぼうとした瞬間、扉が開けられる 紅茶の良い匂いを燻らせながら…、執事服を身に纏った絶世の美男子 傾国の麗人、そして エリスと共にデルセクトの事件解決に挑んだ エリスの仲間…

「あーはいはい、女王様は人使いが荒くていけないわ…」

その男の名は …

「ニコラスさん!」

「ん?…貴方、もしかして…」

ニコラスさんだ、ニコラス・パパラチア…元メルクさんの上官にしてエリス達の恩人、ちょっとふしだらな所が玉に瑕のあの人が エリスの目の前で執事の格好をして現れたのだ、あまりの嬉しさに椅子から跳ね上がるが…ニコラスさんはエリスの顔を見て首を傾げて

って、またか…エリスが誰かわかってない感じだな、セレドナさんめ ニコラスさんを驚かすためにエリスと出会ったことも連れてくることも伝えてないかったな?

「ニコラスさん!、エリスですよ!覚えてますか?」

「あらっ!、うっそ!エリスちゃん?、やだぁ~!久しぶりじゃない!元気だった?、ってもしかしてセレドナさんのお客様ってエリスちゃんだったの~?、早く言ってよも~!」

ニコラスさんは慌てて紅茶の乗った盆を机に置きエリスに駆け寄ってくれる、それに合わせエリスもまた駆け寄り 二人で手を取り合ってピョンピョン喜びの舞を踊る、ニコラスさんまでいるなんて!

「わぁ…すごく綺麗な人…、この人もエリスさんのお知り合い?」

「ええ、ナリアさん この人はニコラスさん、エリスの友人にして恩人ですよ」

「恩人ってそんなぁ、アタシは何もしてないわよぉ…あら、貴方」

やだやめてよぉと相変わらずの女性口調で謙遜するニコラスさんは、エリスの後ろのナリアさんを見て顔色を変える

その顔は極めて凛々しく、猛禽の如き目を…って!やばっ!、ナリアさんは…

「君、もしかして男の子?」

「え?、分かるんですか?」

男だ!、ナリアさんは見た目からは分かりにくいがこれでも男!、そしてニコラスさんは男と見れば誰でもしなだれ掛かる魔性の男!、マズい 今ナリアさんを骨抜きにされるのはこまる非常に

ニコラスさんから守るようにナリアさんを抱き寄せ首を振る

「はわわっ!?エリスさん!?」

「やめてくださいよ、ニコラスさん」

「分かってるわよ、別にね アタシいきなり押し倒したりするような強引な男じゃないわ、飽くまで合意の上じゃないと」

「そう言って相手をその気にさせるプロでしょ貴方!」

「エリスさぁーん!、苦しいよー!」

おっと、強く抱きしめ過ぎたか…でも、ニコラスさんは優しいけれど やはり男性関係ではちょっと怖い人だ、何せ彼の手によって一国の王と王子が骨抜きにされ…って

「あれ?、お二人がなんで一緒にいるんですか、もしかして仲直りしたんですか?」

 いや理屈は分かるんだ、セレドナさんが襲われてもそれを跳ね除ける事が出来る人間となるとデルセクトには限られる、最近ではメルクさん主導の下開発された特殊錬金兵装により軍部が改革されデルセクト自体がメチャクチャ強くなってると聞くが、それでもニコラスさんは軍部トップクラスの実力を持つ

しかし、諸々の事情を混み込みにしても不可思議な組み合わせだ

「メルクリウス首長が要らぬ気を回したのですわ、水に流せとは言わないが そろそろ避けるのではなく互いの落とし所を見つけて欲しいと」

またぶっ込んだなメルクさん…、でも 見た感じセレドナさんは昔ほどニコラスさんを嫌っているようには見えない、気に食わないからとは言うが それでもこうして別荘にあげてるだけマシだ

昔は国にさえ入れなかったと聞くし

「まぁそういう訳よ、アタシもとても反省している…けど、一人で反省しても意味はない 、当人に示してこそ謝罪贖罪は成り立つのですよ ってメルクちゃんにね、あの子 同盟首長になって本当に立派に育って、アタシ嬉しいわ」

「そうですね、エリスも同意見です」

なんて言いながら渡されたカップを手に取り 匂いを楽し…って!、濃ッ!?あっっか!、真っ赤っかじゃないですかこの紅茶!、いくらなんでも赤過ぎでは…

「良い色ですわ…、さぁエリスも サトゥルナリア殿も」

セレドナさんの趣味か、この人赤好きだもんな、心が少年ですね

「ありがとうございます、セレドナ様…ずずっー、わっ!美味しい!」

「ん?、おお 本当です!、美味しいですね!、メチャクチャ赤いのに!」

「ただただ赤くするだけが妾ではありません、赤く そして美味しい…その為に茶葉から厳選しているのですわ」

流石だ、やはりこの人のセンスは流石だ…、ここまで美味しいお紅茶は飲んだことがない、コーヒー派のエリスも脱帽ですよ、帽子被ってませんが

「さて、夕食が出来るまでの間…話を聞きましょう、エリス 貴方今困ってることがあるんじゃないんですの?」

「今ですか?」

困ってること?、何を言ってるんですか、困ってることだらけですよルナアールの事 エイト・ソーサラーズの事 クリストキントのこれから マルフレッドの事、困り事だらけで一周回ってお気楽になりそうなくらい困り果ててる

まぁ、どれも頭を絞れば解決できなくはないですが、それでも 困ってることに変わりはありません

「あの話すと長くなるのですが、色々聞いてもらっていいですか?」

「構いませんわ、ニコラス お茶受けのお菓子を」

「はいはい、アタシも気になるし お夕飯の邪魔にならないようなの持ってくるわね」

そうしてニコラスさんが軽めのお菓子を持って帰って来たのを見計らって、エリスはこのエトワールでの旅路を話し始める

怪盗ルナアールの対決の事 クリストキントの現状、そして今に至るまでの事と今頭を悩ませているマルフレッドの事、順を追って説明し 一つ一つ分けてお話しする、それをセレドナさんは涼しい顔で、ニコラスさんは『まぁ』とか『あら』とか相槌を打ちながら聞いてくれる

…そして

「それで、今に至るわけです」

一応、悩んだけどルナアールの正体については伏せておいた、エリスの知り合いだがだとしてもヘレナさんから箝口令を言い渡された以上エリスが独断で破るわけにはいかない

もし、必要なら ヘレナさんに許可を取って後日改めてお話をするつもりだ

「ふむ、相変わらず 行く先々で何かしらにか見舞われる人ですわね」

「そうねぇ、怪盗とか何とか色々気になるけれど…一番気になるのは」

「ええ、そうですわねぇ」

とセレドナさんとニコラスさんは顔を見合わせると…

「また男装してるの?」

「また男装してるんですの?」

「い いやっ!、劇の中だけでですよ!?、そんなしょっちゅう男の格好してる訳じゃないですからね!?」

でも二人からしてみればまた だろうな、デルセクトでは執事の格好を エトワールでは騎士の格好をと、エリス男装ばっかだな…

「そういえばエリスさん昔執事の格好をしてたんでしたね、見てみたかったなぁ エリスさんの執事姿、似合うだろうなあ」

「ナリアさんまで…、もう 今思うとすごく恥ずかしいんですから、やめてください」

いい経験ではあったけれどね?

「まぁ、なんだかんだ上手くやってるようで何よりですわ」

「上手くやってます?」

「やってます、少なくともデルセクトの時よりはマシでしょう?」

まぁ、あの時よりは…、あの時は本当にもうダメかと思いましたからね…、それに比べりゃエトワールの旅はまぁまぁなもんだ

「しかし、そう…怪盗騒ぎにエイト・ソーサラーズ、そして目をつけて来た悪徳劇団ね、大変そうですが妾が手を貸せる分野ではなさそうですわね」

「そうですね、急を要して助けて頂かねばならないことはあまりないです」

一応資金援助をしてもらうという手もあるが、ぶっちゃけお金には困ってないし、出来ればクリストキント関連でセレドナさんにお金を借りたくなというのもある

これはエリスのエゴだが、クリストキントとセレドナさんを繋ぐ線はエリスしかなく エリスもずっとクリストキントにいるわけじゃない、とするとセレドナさんとクリストキントはほぼ無関係と言ってもいい

無関係の劇団に出資する というのは如何なものか、セレドナさんはセレブだとはいえお金だって無限にあるわけじゃない、ましてやここはデルセクトではなく手持ちには限度がある

エリスの勝手でセレドナさんに負担を強いるわけにはいかない、どうにかなる内は自分でどうにかすべきだ

「もし何かあれば妾に言いなさい?、貴方は妾の命の恩人でありデルセクトその救国者、貴方を援助するというのなら デルセクト国家同盟群の総力を挙げ援助しますので」

「そこまでしてもらわなくても大丈夫ですよ、エリス 自分のことは自分でなんとか出来るくらいには成長しましたので」

「立派になったわねぇエリスちゃん、アタシ嬉しいわぁ、まるで娘の成長を見てるようよ」

そんな娘の成長だなんて、でもこうして懐かしい顔を見てると己の成長を鑑みる事が出来てとても良い

デルセクトにいる頃は未熟だった、今のエリスならもっと上手くやれたしもっと早く師匠を助けに行けたし、もっと大胆に動けた、そういう意味では忸怩たる思いだが 同時に思う

いいじゃないか未熟で、回り道をした結果エリスは多くの友人を得た、こうしてセレドナさんとも仲良くなれた、たくさん回り道をしたから沢山の友人が出来た、もし一人で何もかも解決出来たら こうも温かな気持ちを得ることはなかった

そういう意味じゃ、未熟なのも悪い事じゃないんだ

「エリスさんって、デルセクト国家同盟群に何したの?、相変わらず物凄い人だなぁ」

「エリスちゃんは凄いわよ、たった一人で大国のあり方を何度も変えて来た、そうやって国々を巡ってるんだもの、いずれ 世界だって変えちゃうわよ」

「それは言い過ぎですよ」

「でも、ニコラスさんの言うこと 僕何となく分かりますよ、だってエリスさんのお陰でクリストキントだって変わったんです、きっと この国だって変えちゃいますよ」

エリスは何者なんだよ…、そんな大層な存在ならどれだけ良かったか…、そんな照れを隠すようにカップを仰ぐ

すると

「それで、エリスちゃん 一つ聞きたいんだけど」

「ん?なんですか?ニコラスさん」

ふと、ニコラスさんがやや困ったような笑みを浮かべながら何かを聞いてくる、この人がこう言う顔をする時 何か真意を隠している場合が多い、そして その真意をエリスは終ぞ知る事はない、ニコラスさんは謎多き人物だが もう慣れた

「何か…、最近 視線を感じたりしない?」

「視線?…」

最近か、無いな…

「無いですね」

「そう、ならいいわ 忘れてちょうだい」

「エリスは忘れられません、どう言う意味か どう言う意図か教えて頂けるとありがたいのですが」

「……、そうね…」

するとニコラスさんは数秒考えるに顎に手を当てる、何を考えている?真実を言うか否かか?、それともエリスをどうやって煙に巻くかをかな?…

「この国は今、隣国である アガスティヤ帝国の援助で成り立っているのは知ってる?」

そう、聞いてくる…

それは知っている、ヘレナさんが言っていた、魔女様が姿を消して以来 エトワールが大国としての権勢を保てたのは隣国 アガスティヤの援助によるところが大きいと

そんな状態がもう五十年以上続いている、今はもうエトワール王室もアガスティヤ帝国には頭が上がらない程に上下関係が出来ていると言う話も聞いている

「はい、知ってます」

「このエトワール国内にも帝国軍支部が存在しているわ、もし何かあった際 エトワールを守るためにね、…もしかすると既に帝国は貴方の動向を捉えている可能性があるの」

「視線…、つまりエリスが帝国に監視されている可能性があると?」

「かもしれないって話だけれどね、もし 視線を感じて怪しい人を見かけても接触しちゃダメよ?、下手をして帝国に危険因子認定食らったらおしまいだから」

帝国の軍事力は世界一だ、何せ最強の魔女が手ずから統べる最強の国ですからね、あのアルクカースでさえ頭から抑えてつけてしまうような怪物国家だ

そんなところに敵認定されたら、終わりだ…ましてや今は師匠も動けない、こんな状態で帝国の相手は出来ない、考えるだに恐ろしいですよ

「分かりました、肝に命じます」

「うん、それで もし…帝国が接触して来て、敵対行動を取るようなら 全力で逃げなさい、エトワールの果てにある港には外文明と交流してる地区もある、それで世界の果てまで逃げて…お願いよ?」

ニコラスさんの顔はあまりに真剣だった、本気でエリスの身を案じている顔だ、ディオスクロア文明圏は完全に帝国の縄張りだ、もし敵対したら文明圏にいる限り襲ってくる

だから外文明まで逃げろと言うのだ、…そう言う事態には出来ればなりたく無いが、ここはニコラスさんの助言を受けておこう

「分かりました、でも 出来ればエリスはこの文明圏で旅を続けたいです、そうならない事を祈ります」

「そうね、そこはアタシも同意するわ」

だね、敵対はしないに限る 平和が一番、愛と平和が世界を救うんだ

なんて、話も程々に運ばれて来た料理が話を遮り エリス達は揃って極上の料理に舌鼓を打つ、セレドナさんが現地で雇ったシェフらしいが いやぁ美味しかったですよ、久々に心の底から美味しいって思える料理を食べた気がします

いやぁー、美味しいですよ、うん 美味しかったんですよ?、だってねぇ?セレドナさんが雇うようなプロの料理人ですからね、もうケチのつけようなんか無いんですよ

ただね?、一つ思うのは…思い浮かべるのはコルスコルピの友人 アマルトさんの顔

今にして思うとあの人、料理めちゃくちゃ上手かったんだな…プロの料理人よりも腕があるって、あの人やっぱり料理人になった方がいいんじゃ無いか?

なんて、別大陸の友人たちに想いを馳せる、みんな今頃 何やってんのかなー?

………………………………………………………………

結局、その日の夜はナリアさんと一緒にセレドナさんの家に泊まる事となった、もう夜も遅いし 雪も降って来たしといろいろ理由をつけてくれたのでそれならと一室を借りて眠りについた

ただみんなが心配するといけないので朝早くにセレドナさんの別荘を発ちみんなのところに戻るとセレドナさんにお礼を言って屋敷を出た

『またいつでも来なさい、貴方は我が友人 昨日もとても楽しかったですから、ただ昼間は少し忙しいので 来るなら夜になさい』

そう言って送り出してくれた、いやぁ 知った顔と出会えると楽しいですね…、しかし 昼間は忙しいんだな、聞いたところによると何やらこの国に商談に来ているようで そっちの方が忙しいらしい

「なんだか悪いなぁ、エリスさんの友人ってだけで僕まであんなにいい思いして」

「いいんですよ、それを言ったらエリスも友人ってだけなんですから、ここはセレドナさんの好意に甘えておきましょう」

「そうかなぁ、でもエリスさん凄いんだねぇ…」 

昨日からそればかりだ、凄いのはセレドナさんであってエリスでは無いのだが…

「ああ、そうだ 折角だったら見ていきます?、エイト・ソーサラーズの投票状況」

「あ、そっか もう朝だから出てるのか」

エイト・ソーサラーズの投票状況はリアルタイムで確認出来る、夜のうちに集計して 朝方に街の広場に貼り出すようだ、集計大変だろうなぁとか裏方に想いを馳せるのは野暮ですかね

「大丈夫かな、僕…上位十五人のうちに入れるかなぁ」

「まぁ、それもこれも投票如何によってでしょう、今の状況を知らなければ趨勢も掴めませんからね、見にいきましょう」

「うぅー、怖いなぁ…」

まぁ怖いのは分かりますよ、ナリアさんの腕はピカイチだが批判も多い、でもこれを乗り越えないとエリス姫への道は夢のまた夢だ

丁度広場を通りかかったのでエリスたちは一旦投票結果の貼り出されている掲示板へと足を進める、どうやら投票結果の貼り出しが終わったばかりのようで 既に人だかりが形成されているのがここから見て取れる

「ほら、ナリアさん 逸れないように手を繋いで?」

「う うん」

ナリアさんと手を繋ぎ掲示板周りの野次馬の間を潜り抜けてその目の前まで進んでいく、エリスにかかれば人混みなんか無いも同然、スイスイですよ

「よいしょっと、さてさて 集計結果は如何に…」

エイト・ソーサラーズ候補選の参加者は数千人いる、その名前が一度に張り出されているのだ、その膨大な名前の群をランキング上位から見ていく

流石に上位となると有名どころばかりだ、当然 エイト・ソーサラーズ再選を望む現役ソーサラーズも参加しており、上位十五名のうち八人は現エイト・ソーサラーズ

当然この国一と言われる歴代最長のソーサラーズ就任記録を持つエフェリーネさんの名前もあるが…

一位ではない、二位…あのエフェリーネさんが二位なのだ、では そんな大役者を抑えて今現在一位に立っているのは誰か?…

「凄いですね、コルネリアさん 一位ですよ」

「だね、やっぱりイオフィエル大劇団の勢いの強さと今まであちこちで劇をやって来た成果かな」

一位 コルネリア・フェルメール…、あのエフェリーネさんにダブルスコアをつけて堂々の一位に君臨している、凄まじい人気だ…全体の数割の票数を一人で独占している、でも確かにエフェリーネさんはルクレティアの街から移動しないのに対し コルネリアさんはマルフレッドに連れられ国中を移動して回ってる

だからこの順位も妥当か…

このままじゃ、コルネリアさんがエイト・ソーサラーズになり そのままエリス姫を演じるってのもあり得そうだな

「ええと、それでナリアさんは…」

「流石に十五位には入ってないね…、えっ僕の名前僕の名前」

上から順に探していくが、無い…分かっちゃいたが これは厳しい道のりだな、百位以内にも名前がない

…そして段々冷や汗が伝う、千位以内に名前がない 二千位を超えても名前がない…三千 四千…名前がない、次第に周囲の人混みが消え去り そこそこの時間かけているのに 無い

名前がない、ナリアさんの名前が

「な…無いね、僕の名前」

「え ええ、…ヘレナさん ちゃんと参加させてくれているんですよね…」

思わずこの掲示板のどこを探しても見つからないんじゃ無いか、何かの間違いなんじゃないかと疑ってしまうくらい見つからない、そうして暫く探し続け…ようやく

「あ!あり…まし……た」

ようやく見つけた、ナリアさんの名前を…、そして 一気に血の気が引く

「嘘…僕…」

名前があったのは掲示板の端も端…、つまり 最下位…しかも

「これ、どういうことですか!」

「っ……!」

エリスが叫び ナリアさんが手で顔を覆う

最下位 サトゥルナリア・ルシエンテス 《獲得票数 零》

零…つまり、ナリアさんに 一票も入っていなかったのだ

エリスとナリアさんのエイト・ソーサラーズ候補選は 開幕からいきなり、波乱の予感を催すのであった
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