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六章 探求の魔女アンタレス
156.孤独の魔女と無色透明の声
しおりを挟むイオからアマルトの話を聞いて エリス達は遂にアマルトとの決着をつける舞台を手に入れた
場所は来年の春 課題の中でアマルトと決着をつけるようだ、どんな内容になるかは分からないがイオ曰く決着をつけるに足る内容のようだし、もうアマルトとやり合うつもりでエリス達は話を進めている
もうアマルトが盾にできるノーブルズはない、これでもしノーブルズが健在ならエリス達はアマルトが課題に出る事も知れなかったし 何よりガニメデやカリスト エウロパ達の妨害もあっただろう、だが ここまでの戦いでそれらは全て解決した
後気にするのはアマルトだけ、アマルトだけなんだ…!
しかし、それが一番の難題だ 、エリスはアマルトの歪んでしまった心を正すために決着をつけたい、結論だけを言えば勝ち負けはどちらでもいいのだろうが 出来れば勝ちたい
何せエリスは以前戦った時 アマルトに手も足も出ずに負けている、前のようにまた負けてしまえばアマルトを救えない、せっかくここまで来たのに 負けたら全部おじゃん …パァになる可能性がある、努力と道程が
でも大丈夫、今回はラグナ達もいる みんなで一緒に戦えば 楽勝だよね
と、思っていたのだが
「何言ってんだエリス、やるなら一対一 んでもって戦うのはお前だ」
「え…」
ラグナにピシャリと喝を入れられ目を丸くする
今エリス達は屋敷の庭にてみんなでぐるりと立ちながら会議をしている、木々を枯れ細り 空風が吹くような冬時、今はもう冬季休暇だ 当然ながら激烈に寒い、だが そんな寒空の中でみんなで外に出て何をしているかといえば
…うーん、会議?か?、取り敢えず冬季休暇を利用して今度の課題について アマルトとの戦いについて会議しているのだ
「え?、みんなで戦わないんですか?、みんなで一緒に戦えばきっと勝てますよ」
「勝てるってなぁ、そりゃ勝つだけが目的ならそれでいいが、エリス お前四人で囲んでアマルト袋叩きにして、そのあとアマルトに何を説くんだ?」
「う…」
ラグナに言われて思わず想像してしまう、四人でアマルトを囲んでボコボコして その後何を言ってもアマルトには響かないだろう、勝負には勝てる だが大局的に見ればそれは大負けだ
彼に向き合うには単独で彼に挑まないといけないのか…
「まぁ、この一件の始点はエリスとアマルトからだ、ならば その終点もエリスとアマルトであるべきだろうな」
「うう、メルクさんまで…」
「大丈夫!エリスちゃんなら勝てるよ!、あんな捻くれやろうギタギタのボコボコのけちょんけちょんのバラバラにしてやって!」
「バラバラにはしませんよデティ…死んじゃうじゃないですか、うう」
確かに 大元を正せばエリスがアマルトに負けたからだ、負けたから呪いをかけられた…だから 今度こそアマルトに打ち勝って、それで話をすることが出来れば…でも
「自信がないか?エリス」
ラグナが察したようにエリスの顔を覗き込む、自信がない と言うより…
「いえ、いつだってエリスは勝つつもりで戦います、…けど それでもアマルトは強いです、呪術もさることながら あの剣術の腕…勝てるかどうか分からないんです、もし負けてしまったら それを考えるとどうにも」
アマルトは強い エリスが今までの敵にアドバンテージを持って戦えたのは相手が現代魔術でこちらが古式魔術だからだ、だが今回は違う
アマルトはエリスと同じ古式魔術の使い手だ、アドバンテージはない…いやそれだけじゃない、アマルトが以前エリスを倒した技
アマルトはあの剣でエリスにかすり傷一つつけるだけでエリスを戦闘不能に追い込める、正直反則みたいな術だ …、もしかしたら他にも条件があるのかもしれないが それでもエリスはそれを察知出来なかった
…あれからエリスはあまり強くなってない、アマルトだって今回は本気で来る…負けた時のことを考えると、自信がないと言うより…怖い、みんなの期待を裏切ってしまうのが
「負けてしまった後のことは負けた後考えればいいさ、今は勝つことだけ考えてりゃいいさ」
「ラグナはそうかもしれませんけど…、いえ 弱音を言っている暇はありませんね、やるからには勝ちますよエリスは」
「ああ、信じる…だからさ」
そう言いながらラグナは一旦エリスから距離を取る、どうやら本題に入るようだ、エリスは何も弱音を言うためだけに外に出たわけじゃないしラグナ達もそれを聞くために寒空の下にいるわけじゃない
本題は簡単…
「じゃあ、対アマルト戦を想定して 、するか 模擬戦」
模擬戦だ、四人でそれぞれ交互に戦って 己を高め合う、次の課題が何になるかは分からないが、少なくとも戦うことはわかってる、なら分かってることにだけ備えておく方がいいだろうと 実は冬季休暇に入ってからずっと続けているんだ
冬季休暇の間は授業もないからね、一日を丸々模擬戦と特訓に費やせる、この修行三昧の日々 懐かしくてついエリスの弟子スイッチも入ってしまう
「はい、お願いします ラグナ メルクさん デティ」
「ああ、宜しく頼む」
「やるぞー!おー!」
幸いこの屋敷の庭は広い、エリス達が全力で動き回ってもご近所様に迷惑はかからないしね
エリスはメルクさんと ラグナはデティと、前衛と後衛に別れるように組んで戦闘を行う、たまにエリスの後ろにいるのがメルクさんからデティに変わることはあるが、基本的にはエリスの相手はラグナで固定だ
何故か?、それはエリスが今一番積みたいのは 白兵戦の練度だからだ
「よーし、組んだな?それじゃあ行くぞ!」
「ラグナー!援護するからじゃんじゃん突っ込んじゃってー!」
「メルクさん行きますよ」
「ああ、君背後は私が守る 君は前だけを向いていろ」
そして、戦いの火蓋が切って落とされる メルクさんとデティが互いに援護射撃を中 エリスとラグナは激突する
ラグナは強い 特に白兵戦に至ってはやはりエリス達の中では最強だ、高い攻撃力 圧倒的な速度もさることながら、何よりも特記すべきはその動きの無駄のなさだろう
「っ…!」
肉薄し拳を振るうラグナ、エリスは今まで徒手空拳で戦う相手と何度か戦ってきたが そのどれもが力任せのものだった 、だが対するラグナはどうだ
まるで利き手が交互に切り替わっているかのように二つの手を余すことなく使う、どう見ても重芯であろう足で蹴り上げてくる、魔女から授かった圧倒的近接戦能力は容赦なくエリスを攻め立てるのだ
対するエリスも蹴撃で迎え撃つ、最近思ったことなのだが エリスは拳よりも蹴りを多用する傾向にある というか蹴りの方が威力がある、というのも旋風圏跳の高速戦では 手よりも長くしなる足の方が相性がいいからですがね
しかし、この間模擬戦をしている時 ラグナにこんなことを言われてしまった
『エリス、お前は少し 肉弾戦に向いてないな』
と…、なんでそんなこと言うの?と怒ると彼は
『軽すぎるんだお前の体は…、体重ってのは肉弾戦では技量の次に大切な要因だ、けど エリスは多分体質的にそんなに重くならないんだと思う』
彼の言うことには一理あった、確かにエリスの蹴りが弾かれてしまう場面は何度かあった、全体重を乗せてもそんなに重くならない、エリスは師匠のように抜群の高身長を持つわけではない
純粋な力勝負では 多分勝てない相手の方が多い、そこでラグナと考案したのが
「『旋風圏跳』!」
「おっ!もう使うか…!」
旋風圏跳で風を纏う、されど纏うのは全身ではない 両足に局所的に風を纏う、これによりエリスの足は風に乗り高速で動くことが出来る、名付けて『韋駄天の型』
そりゃ全身に纏った方が早く動けるが、韋駄天の型はエリスの蹴りの速度を格段に向上させる
「はぁっ!」
「っっと!」
風を纏う回し蹴りがラグナの鼻先を掠める、足先だけを加速させることにより遠心力で更に加速させる、速くなればそれだけ威力も増す 重さがないなら速さでそれをカバーするだけだ
それに、足に風を纏ったおかげで直撃させれば風が炸裂し 蹴り以上の威力も見込める戦法だ
「速いな、俺が避けきれない蹴りなんてのは 師範くらいからしか貰ったことがねぇ」
「ラグナの発案のおかげです、この戦法…まだまだ発展のさせ甲斐がありそうですよ」
「いや俺の言ったなんとなくの発想を形にしたのはエリスだろ、全身に纏う術を絞って局所的…なんて、普通出来ることじゃねぇよ」
「師匠がいいもので!」
エリスの神速の蹴りとラグナの剛拳が飛び交う、互角だ…いやラグナは付与魔術を使ってないから完全に互角かは怪しいが、それでもだ
アマルトの剣術を突破するには この白兵戦が必須…!
「しかしエリスもラグナも凄まじいな」
「ほんとほんと!、私じゃどうやってもあんな動き出来そうにないよ」
銃と魔術を撃ち合うメルクさんとデティが口にする、まぁ二人はな…メルクさんは魔術的に自己強化が難しい為肉弾戦は無理だ デティはそもそも体質的に無理、なので二人は後衛なのだ
それでもメルクさんの手数の多さは魅力だし、デティの真価は攻撃じゃないからね、一概に二人が劣ってる訳ではない、場面場面によって必要とされる技術が違うだけだ
エリスはエリスに出来る事をする、メルクさん達はメルクさん達の出来る事をする、みんなの得意分野が違うからこそエリス達は一緒に戦えるんだ
「はぁっ!」
「っっしぃっ!」
エリスとラグナの蹴りと拳が激突し衝撃を生む、互いに一歩も引かない…うん この戦い方ならラグナにも引けを取らないぞ、後は対アマルトの切り札をいくつか用意しておいて…ええと、課題は来年の春 今は冬…時間はあるようであまりないな
急がないと
「今日も励んでいるな、エリス ラグナ」
「ん?」
ふと、呼びかけられる声に皆構えを解く、客人が来たようだ…なら 今日の稽古は一旦中止かな?
「イオ お前はまた…一人で来たのか?」
メルクさんがやや呆れながら口を開く、それもそのはず 訪ねてきたのはこの国の王子イオ・コペルニクス その人なのだから、この国の未来を背負って立つ彼が護衛の一人も連れずトコトコ屋敷までくれば そりゃ驚くと言うか…
まぁ彼がこの屋敷を訪ねるのは一度目じゃないんですがね?
「私の身を心配してくれるのか?、なら無用だ これでも君達ほどじゃないにせよ私も強いからな、襲われても私一人で切り抜けられる」
「へぇ、強いのか…」
「こらラグナ、ちょっと楽しそうな顔しちゃダメです!」
なんかちょっと戦ってみてぇな と言う顔をするラグナの頭に軽くチョップを入れて止める、と言うかイオさんやっぱり強いんだ、結局戦うことはなかったけど…やっぱり魔女大国の王たるもの強くなければいけないのかな とラグナ達を見ていて思う
「それより今日はどんな用だ?」
「いや 実はね、ノーブルズ解体に関して話が進んできたからそろそろ君達も交えて生徒会の設立について話をしておきたい、付き合ってもらえるだろうか」
「そういや冬ごろにそんな話するから予定空けとけって言ってたな、分かった ちゃんと予定は空いてるし付き合えるぜ?」
「有難い、では学園の方で待ってるからね、出来る限り早くきてくれると嬉しい」
「すぐ行くよ」
どうやら生徒会設立についてエリス達の話を聞きたいようだ、収穫祭のパーティの時に言っていた奴だ、イオは宣言通り秋の間にノーブルズ内の貴族達や教師達と話をつけノーブルズを解体する方向へ持って行ったらしい
凄まじい敏腕辣腕ぶりだ、普通そんな大仕事 こんな短期間で終わらせられるか?、それもこれもノーブルズ内での彼の大きさと学園での影響力の強さだろうな、というか学園への影響力ならアマルトもどっこいだが アマルトからは横槍は入らなかったのかな
まぁいい、その辺も含めて学園で話を聞けばいいか、エリス達も汗で濡れた修行用の軽装から 取り敢えず制服に着替える、授業を受けるわけじゃないが 一応学園に行くわけだしね、私服じゃアレだもん
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あれから…幾時間経ったろうか…
「えー、生徒会の顕現と管轄についてですが…」
そして学園に着くなり ノーブルズ用の大部屋に通される、いつぞやエリス達がアマルトの過去を聞く時訪れたノーブルズの会議部屋兼イオの部屋に
と言っても前回と違い、絢爛なソファや豪華なテーブルなどは取り払われており、代わりに質素な椅子がズラーッと並べられ 地味な長テーブルがドンと中央に置かれており、その様相たるやまさしく会議室、これこそこの部屋の本来の使い方であると言った感じだ
エリス達が部屋に到着する頃には既に多くの生徒達が椅子に座って待機している…、顔を確認したが なんというか、纏まりのない人達ばかりだった
ノーブルズのメンバーがいるかと思ったらその隣には普通の生徒もいるし、中には反ノーブルズ派だった人間もいれば親ノーブルズ派の人間もいる、取り留めも纏まりもない人間 それが総勢30名程度会議室に集められている
聞けば、どうやら彼らはイオが直々に声をかけて集めた人間らしい、新たな学園の形を作る為生徒の中から呼び寄せた所謂所の有識者、ノーブルズ派と反ノーブルズ派をそれぞれ平等に呼ぶことにより、どちらにも有利にならないよう意見を求めるようだ
何せ前例のないことだ、ノーブルズがなくなり 生徒会が出来上がるなど、だからともかく知恵がいる 考える頭がいる、だからこそこうして大掛かりに会議を開くのだ
そんな中エリス達も四人揃って座る、どうやらこの会議 今日が初めてではないようで、既に生徒会というシステムの大部分が出来上がっていた
「生徒会一強にならぬよう、いくつかの分野に役割を分担し 他にも複数組織を作り…」
部屋の奥でどこからかもってきた黒板に字を書きながらイオが喋ってるが、分からない 全然分からない、組織を作って運用していく為には とか、この組織が出来た後どういう問題が想定されるか とか、それに応じてどのような決まりを作っておくべきかとか
その辺の知識はエリスにはない、代わりにラグナ達にはある…特にメルクさんは同盟首長の顔をしながら都度都度質問を飛ばしている
国を運営する彼らにはその手の知識があるようだが…、これエリスいなくてもいいんじゃないかな
なので今は一人ボケっと考える事にした、素人がなんとなくの思いつきで発言して場を混乱させるのは怖いしね
…考えるのは生徒会の事だ、どうなるんだろう 流石に設立一年目は安定しないだろうから生徒会政権が安定するのは二年目三年目以降になるだろうけど、その時エリスはもう学園にはいない
何せ後一年で卒業しちゃうからね…、いやしかし卒業かぁ 最初三年間過ごせと言われた時には長いと思ったが、過ごしてみたら存外短かったな
卒業式は泣くと言われてるけど エリスも泣いちゃうのかな
というか卒業したらあの屋敷どうなるんだろう
後次の目的地は海の向こう側だけど馬車はどうやってもってくのかな、また師匠が抱えて海の上を飛ぶのかな、どうすんだろ
次の目的地はポルデューク大陸のエトワールかぁ、どんなところなのかなぁ
「……………………ハッ……」
いかんいかんボーっとし過ぎた…、でもエリスに意見はない 冊子の内容も暗記したし、…んー やることがないと 少しソワソワしてしまいますね
思えばもう5時間近くはここに座ってるんだ、そろそろ小休憩というか…なんというか…
「失礼、ちょっとお花摘んできますね」
「花?なんで…ゲフッ!なんで肘で突くんだよメルクさん!」
「ラグナ!デリカシーがないぞ!」
「そこ、静かにしてもらえるかな…」
「す すみません、失礼しまぁす」
会議の中注目を集めてしまい思わずそそくさと会議場を後にする…、変な言い訳を作って抜け出してしまった 、まぁ本気で抜け出すつもりはないんですがね?終わったらちゃんと戻るつもりですし…
「はぁ、しかし 考えてみれば魔女の弟子ってみんな偉い人ばっかりですねぇ、エリスだけ仲間外れですよ」
軽くボヤキながらエリスは歩き始める今分かってる魔女の弟子はエリスを除けば 魔術導皇 大王 同盟首長 そして世界一の大学園の理事長(予定)、みんな凄まじい権力を持つ人たちばかりだ
あと分かってるのはオライオンのネレイドさんか、聞いた話によると国防を司る位置にいるという、即ち魔女大国の軍部の頂点である将軍様だ、これもまた偉い…
エリスだけだ根無し草は、まぁ権力が欲しいわけではありませんが、ああいう会議の場だとどうしても仲間外れになってしまいますね
寂しくはありませんが
「……しかし、静かですね…まぁ 今は学園は休みですから、静かなのは当たり前ですけど」
ふと、廊下を見ていて思う 人が一人もいない、こんなのは入学試験の時以来だ、あの時はいきなりこんな場所に放り込まれて混乱してましたが…今ではもう慣れたもんですね
「入学したての頃が懐かしいですね…ん?」
廊下を歩いているうちに、目に入る…中庭だ、中庭に人がいる…この冬季休暇にも態々学園に来る殊勝な人間がいたものかと思っていたら、その背中には見覚えがあった
中肉中背で特徴の無い背格好と芝のように明るい緑髪…あれは
「アレクセイさんですか?」
「ん?、ああ エリス君か…」
アレクセイさんだ、入学したての頃は親しくしていたが ある一件以来疎遠になっていた彼が、中庭で何をするでもなく佇んでいた
「こんなところで会うなんて奇遇ですね、何してたんですか?」
「特に何も、ただ…もうすぐ三年生だと思うとね、僕は三年で卒業する…だから 次が最後の一年、そう思うと 妙にこの場所が愛おしく感じてさ」
彼は、ただ何をするでもなく中庭に建てられた一本の大樹を眺めている、愛おしいか…たしかに エリスがある一定の場所に留まった時間で言えばこの学園は最長だ、そういう意味では エリスもこの学園には思い入れがある
そういう意味ではアレクセイさんも同じなのかな
「僕にとってこの場所は第二の故郷なのかな、学園なんて…と最初は思ってたけどさ、来てみればまぁ 存外楽しい場所だったね、そこは本当にそう思うよ」
「随分センチなことを言うんですね」
「まぁね、…僕の故郷は もう無いからさ、どうしてもね…」
故郷が無い?…そう言えばエリスはアレクセイさんのことを何も知らないな、別に知ったからどう ってことはないのかもしれないけれど、彼もエリスの友人の一人だ、だからかな 傷を抱えているなら共有して欲しいとさえ思ってしまう
「故郷が?」
「うん、…昔ね 色々あってさ、アレクセイの両親も知り合いも 村の友達もみんな死んじゃったんだ…、悲しいよね 悲しいよ」
…なんか変に他人行儀な悲しみ方だな、というか なんか今日のアレクセイさん…変だな、ちょっと変だ
「まぁ、もういいんだけどさ そんな事」
「いいんですか?」
「いいの、アレクセイは乗り越えたからね」
「そうですか…」
奇妙な物の言い方に若干引く、アレクセイさんこんな変な人だったか?、変な人だったな…ここまでかは分からないけどさ
するとアレクセイさんはそんな暗い話は終わりだと言わんばかりにこちらを向いて、目の前の大樹を指差すと
「ねぇ、あの大樹何か知ってる?」
「え?あの木ですか?、さぁ…普通の木じゃないんですか?」
「どうやら違うみたいなんだ、何せあの木 八千年前からここにあるからね、普通の木じゃ絶対にありえない」
「え!?八千年も前から!?」
凄まじい木じゃないか!神木と言ってもいいほどだ、けどここならあり得るか、このディオスクロア大学園なら 一万年の歴史を持つここならば…
そっか、あの木って師匠達とほとんど同じ歳なのか、拝んどこ…
「でも、なんで枯れないんですか?木ってそんなに長く持ちませんよね」
「ああ、この世には千年近く存在する木はあれど ここまで活力に満ち満ちたまま存在し続ける木は無い、けど ならなんでこの木はそんなに長く生きてると思う?」
「んー、魔女の加護…とか?」
「半分正解かな、いや 噂話にはなるんだけど…噂じゃ この木の下には、ある二つの物が埋め込まれている」
指を二つ立てるアレクセイさん、噂か 彼らしいな…真偽のほどは分からないが
「まず一つは 大いなる厄災からこの学園を守り抜いた魔女の盟友 、剛鉄の英雄アルデバラン・アルモゼールの愛用した武器が埋まっているとも言われている」
アルデバラン?仰々しい名前だな …、しかし魔女の盟友とは そんな存在聞いたこともない、真実かどうかこれまた怪しいな
というのもこの世界には魔女の盟友とか朋友を名乗る存在が山といる、特に歴史上の偉人にはよく使われる言葉だよ 『魔女とは親しい仲であった』とかね、後年の人間がその偉人の素晴らしさを演出する為付け足した物であることが多い
これもその一つの可能性がある、第一 この学園を守り抜いた程の大人物ならもっと有名でもおかしくないしね
「ふーん、武器ってなんなんですか?」
「ハンマーって説が有力だよ」
また随分剛毅な…、剣とかではなくハンマーか 、多分名前の感じからしてアルデバランさんは、それはもう山のように巨大な大男だったのだろう
「で?もう一つはなんなんですか?二つ埋まってるんですよね」
「うん、もう一つはね?…腕 と言われている」
「腕…ですか?」
気持ち悪い、途端にあの木が気持ち悪くなってきた なんでそんなもん埋めてあるんだ、というか誰の腕だよ、なんて思っていると…アレクセイさんはこちらを見ながら言うのだ
「ああ腕さ、…噂の域は出ないが 大いなる厄災にて 魔女達を苦しめた史上最強の存在 、魔女達がその身を八つに引き裂いてでも殺した そんな恐ろしい存在 その右腕がこの国の この場所に埋めてあるそうだ」
「大いなる…厄災」
鳥肌がぶわりとエリスの身を覆うその特徴を持つ存在をエリスは一人知っている、魔女達がその身を八つに引き裂き その部位を封印したと言われる史上最強の存在
埋まっているのか!?この下に…シリウスの肉体が…!?
「……っ!」
魔女達は引き裂いたシリウスの体をそれぞれの国 それぞれの領域に封印し その復活を阻止していると言う、アジメクにもアルクカースにもデルセクトにもあると言われるが、エリスはそれを知ることはなかった… 師匠達もそれはトップシークレットとして扱っていたから
しかし、ここにあると言うのだ 八つに引き裂いた体のうちの一つ、シリウスの腕が
「なんで…アレクセイさんはそれを知ってるんですか?」
「この学園に古くから伝わる怪談さ、中庭の大木の下に埋められた謎の腕…、夜な夜な大木からその腕の持ち主の声が超えるそうだよぉ~?」
「それって『ぬぅわーーはっはっはっ、ワシ最強ーぅ』とかですか?」
「いやそんなバカっぽい声聞こえてくるわけないじゃん…せっかくの怪談の雰囲気が台無しだよ、普通に呻き声とかじゃないかな?」
いやシリウスはこう言うこと言うんですって、おちゃらけた態度で恐ろしいことする奴なんですって…なんて言ってもダメか、所詮噂話だもんな
そっか、怪談か 多分声とかは後付けかな…いやでもシリウスならあり得るぞ、腕だけで喋るとか余裕でやりそうだ
「この国は伝承とかそう言うのが好きだからね、そう言うそう言う古い怪談話も探せばたくさん見つかるのさ、そして そう言う嘘紛い事じみた話の中には いつも一粒の真相が隠されている、…案外 本当にそう言う恐ろしい存在の腕が隠されているのかもね」
「い いやどうでしょうか、埋まってたとしてももう朽ちて土になってるんじゃないですか?」
「まぁそれもそうか」
なんとなく誤魔化してしまった、師匠達はシリウスの存在を隠したがっている ならエリスがベラベラ喋るわけにはいかないだろう、むしろ率先して隠匿にかかる 噂好きの彼に知られたらなんかひろまりそうだしね
「でもまぁ考えてみればそんなおっかない存在なら 学園なんかの地下に埋まってるのはおかしいしね、やっぱり嘘なのかなぁ」
「残念そうですね、アレクセイさん」
「うん、だって気になるじゃないか…恐ろしいってどのくらい恐ろしいのかさ、怖いもの見たさってのは何にも抗いがたい欲求、人ってそう言うもんでしょ?」
「まぁ、ですけど 好奇心猫を殺すと言う言葉もありますから、程々にしてください」
「分かってるよ、そういうのは 痛いほどね」
そういうと再びアレクセイさんはまた呆然と樹木を眺め始める、変な人は変な人だったけど こんな変な人だったか?…
中庭で アレクセイさんと言うと、一つ 思い出してしまう物がある…というか、ずっと 気になっていたことがあるんだ、だから 聞きたいことがある
けど同時に聞きたくない という気持ちもある、…これを聞けば 取り返しがつかなくなる気がして…
いやダメだ、有耶無耶にしてはいけない、エリスは友達を疑いたくない
「ねぇ、アレクセイさん 一つ聞きたいことがあるんですけど」
「ん?何?」
だから聞く、…願わくば これがエリスの勘違いであって欲しいから
「バーバラさんの件です」
「……ああ、バーバラ君の、怪我治ったみたいだね 良かったよ、本当に」
アレクセイがこちらを見る、そのメガネが陽光を反射しているせいで目元は窺い知れない、今彼はエリスをどんな目で見ているんだ
「アレクセイさん…その、バーバラさんを襲った犯人 誰か知ってますか?」
「ん?、ピエール…じゃないんだったか、確か 最近そんな噂が流れてたよ、ピエールにはアリバイがあるって」
「はい、ピエールはバーバラさんを襲っていません、それは間違いありません…」
「だね、でも勘違いされてもおかしくないことを彼はしてきたじゃないか、君も僕も 彼には酷い目にあわされた、そうだろ?」
そうだ、だが因果の話は今してない 結果の話をしてるんだ、結果としてバーバラさんを襲ったのはピエールじゃなかった そしてその仲直りはもう終わってる、後は誰がバーバラさんを襲ったかだ…
「そうですね、酷い目に遭わされました」
「だろ、だから勘違いされてもおかしくよ、誰も襲われた現場を見てなかったわけだし」
「本当にそうですか?」
「…どういう意味だい?」
そのまま意味だ、その現場にいた人間が 居るんじゃないか?
「アレクセイさん言ってましたよね、ピエールに会いに行くバーバラさんを止めようとしたって あの日襲われたバーバラさんに最後に会っていたの、貴方なんじゃないですか?」
「僕そんなこと言ったかな?」
「言いましたよ、エリスの記憶力を侮らないでください」
今にして思えば変な点がいくつかある、まるで アレクセイさんはエリスを誘導するように動いていた、あの日ピエールの所へ行こうとするバーバラさんを見たと教えてくれたのはアレクセイさんだ
そこはいい、だが エリスがバーバラさんの所に到着した後に騒ぎを聞きつけた先生達が現れた、…アレクセイさんは先生を呼ばずにエリスのところへ先に来たのだ、バーバラさんを助けずに
ピエールがバーバラさんを襲い怪我をさせたと言う噂を最初に言い出したのも彼だ、全ての真実が明らかになった今思うと、アレクセイさんの行動には疑問が残る
あの時点では何の証拠もないのに、何故アレクセイさんはあの壮絶な怪我を見てピエールのせいだと断言出来たんだ、あの時ピエールがサロンにいるのは彼も知っていたはずなのに
それに何故重傷のバーバラさんを置いて 先生も連れて来ずエリスを呼び寄せたんだ、他にもきになることは山とあるが…彼は不可解な点が多過ぎる
「もう結構前だから 僕はあんまり覚えてないよ」
「そうですか…」
「もしかして、僕を疑ってる?僕がバーバラ君に怪我をさせたって」
「いえ…そんなことは…」
「だよね、だって僕弱いもん ご覧の通り貧弱でさ、あんな強いバーバラ君をどうこうできないよ、それに 友達に怪我をさせるわけないだろ?」
「まあ、そうですね ただエリスは何か知ってないか聞きたかっただけなんです、貴方が何かをしたとは 一欠片も思ってないです」
「何も知らないよ、何もね」
そっか…、じゃあいいです それならそれで、…けど ごめんなさいアレクセイさん、エリス 貴方を疑う心を捨てきれません
だって、今のアレクセイさんの顔…まるで揺らいでいないですから、疑われて驚くようなそぶりも 誤魔化すようなそぶりも、何もない
エリスに疑われることをずっと前から知っていたような、エリスの知るアレクセイさんはそんなに落ち着いた人物ではないですよ
「じゃあね、僕はもう帰るよ」
「はい、すみませんでした アレクセイさん、疑うようなことを言って」
「いやいいさ、…見つかるといいね バーバラ君を襲った恐ろしい犯人がさ」
それだけ言うとアレクセイさんはエリスの肩に軽く手を置いてそのまますれ違うように去っていく
……アレクセイさん、貴方は何なんですか?、何者なんですか そう自問するように問うていると、ふと 違和感に気がつく
「何でしょうか…スッキリしませんね」
何か引っかかる、彼との先程の問答に違和感を感じてエリスは記憶を遡り考える…何かおかしいぞ、…というか 絶対におかしいことを彼は一つ言っていた
彼が知るはずのない事を…、もしかして…彼って……
…………………………………………………………………………………………
「あれ?」
学園内でやや迷ってトイレに向かい 会議つに戻ってくると共に驚きの声を上げる
誰もいない…、長テーブルも椅子も集められた人もいない、部屋間違えたか?とも思う部屋の奥には確かにイオの姿があり…
「ん?、ああエリス 戻ったか?」
「あの、みんなは?」
「すまんな、君が出ている間に会議が終わってしまった、ラグナ達は君を探しに行ったよ」
「ゲッ、入れ違えですか…」
しまったなぁ、というかこんなことならもっと我慢すれば…いや アレクセイさんとの会話でも結構時間食いましたし、うう 申し訳ないことをしてしまいました
「しかし、その…随分時間がかかったな?、何をしていたんだ」
「おトイレです…後、すみません 実はさっきそこでアレクセイさんに会って、話し込んでしました」
「アレクセイだと?」
「ヒッ、す すみません」
ギッと鋭くなるイオの目に思わず声を上げて驚いてしまう、折角有識者として呼ばれていたのにエリスの態度はなんと不誠実だったか、力になれないならなれないなりにするべきことを模索するべきだった、エリスだけ仲間外れに…なんていじけている場合ではなかった…
「すみません、エリス 折角呼んで頂いたのに 力になれませんでした」
「いやそれはいいんだ、ただ…アレクセイが居たのか?今この学園に、どこで?何をしていた?」
「え?はい、中庭でボーッとしてましたよ」
「中庭で…、ううん 分からんな」
イオさんは何やら考えるように顎に指を当て首を傾げている、何か…あったのだろうか、イオさんがアレクセイさんを気にする理由に思い当たる節がない
「あの、アレクセイさんが何か?」
「ん?、……別に何もない」
あるだろう その間は…、ここにきて隠し事か、或いは協力関係を結んだからこそ隠したいことなのか、ここでイオさんを問い詰めてもいいが イオさんはそんな簡単に口を割る人ではない
この手の王族という人たちは、一度喋らないと決めるとトコトン口が硬くなる
ここで詰め寄るよりエリスは早々にラグナ達を探しに行くべきだろう
「そうですか、では 今日はすみませんでした、失礼します」
「ん、分かった…また明日も会議がある、出席願えるか?」
「はい、今度こそ力になってみせますよ」
「そうか、心強い」
では と一つ頭を下げて踵を返し会議室を後にする、さて ラグナ達を探しますか……
そうしてこうして歩きまわる事十数分、成果はなし ラグナ達は見つからない、この学園の大きさは尋常ではなく、広大な敷地を持ちながら天を衝くほどの大きさを持つ校舎、歩き回って見つけられるか といえばそうではない
気づくのが遅すぎた、歩き回って見つけられるわけがないんだ、そこで気がつく…もしかしたらなかに中庭に行けばラグナ達が見つかるかも と
あそこはいつもエリス達が集合場所にしているスポットだ、という事にようやく気がつき慌てて駆け出し再び中庭に戻る
「うう、中庭でラグナ達が待っていたら…相当待たせてしまっていますね…」
申し訳なさを感じながらも中庭へと辿り着く、エリスの察しの通り中庭には人影が見える、やはり誰かが待っている…がしかし
「ん?」
おかしい、人数が合わない…中庭にある人影は二つ、ラグナ達は三人だ…人影が一つ足りない、どういう事だろう
一度気になると確かめずにはいられない、中庭の入り口で隠れるように人影を伺う…すると
(片方は…ラグナですか、でももう片方 あれは確か)
中庭にいるのはラグナと、…もう一人は名前も知らない人だ、ただ見たことはある 黒い髪と野暮ったいメガネ、確か図書委員さんだ 学園の図書を管理するため作られた組織の一員、課題でアレクセイさん達と組んでいた女の子だ
それがラグナと向かい合って何か話している
『ーーーーー、ーーーーーーー』
『ーー、ーーーーーーーー」
(何話してるんだろう、二人に接点なんてあったか?)
いやあったな、確かラグナが図書委員の子を助けたとかいう話を随分前に聞きました、聞いたところによるとそれからも都度都度荷物持ちとして助けているとの話を聞きましたが
その縁?にしても何故今 というかなんの話を…、そうエリスが疑問に思うと共に 図書委員は何かをラグナへと手渡す、なんだ 何を手渡した…ここからじゃ見えない 遠すぎて
だから
(遠視の魔眼…!)
魔力を瞳に集めその目に望遠を宿す、これなら見える…ええと?手渡したのは…、プレゼント?としか言いようがないくらい綺麗にラッピングされた小さな箱を手渡して…というか、あのラッピング どう見てもハートマークがたくさん描かれている気が…
もしかして、いやもしかしなくとも…あれは
(告白ッ!?)
告白…告白だ、己の内なる気持ちを言の葉に乗せ他人へと告げる行為、されどここでは別の意味合いで取るべきか、愛だ 愛の告白だ…プロポーズだ、ラグナがプロポーズを受けている、しかも剰えラグナはそれを受け取っている
『あ あの、ラグナさん!これ…私の気持ちです!』
『き 気持ち?』
『はい、受け取って…くれますか?』
『まぁ、貰えるなら貰うけどさ』
『あぁ…嬉しいっ!』
…モヤモヤする、でも同時に納得する 、ここは学園 同じ年代の子が集まる場、なればそういうこともあろう エリスも求婚されたことあるし、なんだったら学園外でも求婚された
『で ではそういう事なんで…!』
『え?、もう行くのか?』
『はい、それ…私の気持ちですから…、答え 待ってますね』
『待ってるって…あ おい!』
そういうこともある…そういうことも、エリスが悶々としている間に図書委員さんは渡すもの渡してとっとと帰っていく、…答えは聞かないのか
ラグナは…どう答えるつもりなのかな
「……はぁ」
気持ちを自覚したからこそ辛いな…、いや 今は気にするな、それよりラグナがあそこにいるのはエリスを待ってるからだろ?なら、直ぐにでも顔を出すべきだ
両頬を叩いて気合を入れ直し、中庭へと飛び込む
「ん?、おおエリス やっぱここに来てくれたか」
「すみません、待たせました?」
「まぁちょっとな、メルクさん達には先に帰ってもらったよ」
「そうですか…」
何気なく話すラグナ 何気なく話しかけるエリス、でもどうしてもエリスの視線はラグナの手の中の贈り物に向かってしまう、うう どう見ても愛の贈呈品…これが私の気持ちですって感じだ
「…ん?、エリスどうした?」
「いえ、それ…なんですか?」
つい、すっとぼけて聞いてしまう、本当は全部見ていたのに、嫌な聞き方だ
「ああこれか、さっき図書委員の子に渡されたんだ、私の気持ちを受け取ってって」
「そ そうですか」
やっぱり…というかラグナはどう思ってるんだろう、嬉しそうかと言われればそうではない、寧ろその顔つきは非常に深刻だ
「嬉しいですか?」
「ん?まぁ 物をもらったわけだし嬉しいよ?」
「そうですかそうですか…」
でもいいもんね、見てみろラグナの首元を エリスのあげた赤いマフラーがしてある…、いや 彼からしてみればあのマフラーもこの贈り物も同列なのかな、だとすると…だとすると
「そのプレゼント、中身はなんなんですか?」
「そう言えば聞いてないな、ちょっと開けてみるか」
言うが早いかラグナはとっとと包装紙を開けて中身を確認する、思わずエリスも身を乗り出して見てしまう、と その中身は…
「なんだこれ?玉?」
「チョコレートですよ、ほらデティがよく食べてる」
「ああ、あれか」
中に入っているのは綺麗な真ん丸の黒い球体、チョコレートだった
食べ物か…ラグナは食べるのが好きだ、なるほど考えたな エリスも今度送ろう、もっと凄い奴を
なんでエリスが内心気合を入れている間にラグナは徐に球体型のチョコレートを鷲掴みにして、パクリと口に入れて…
「ここで食べるんですか!?」
「んぐっ!?い いや食べ物だし食べないと…もぐもぐ…、ッ!?ぐっ なんだこれ!」
するとラグナは突如顔を歪めて口に含んだチョコレートをペッと地面に吐き捨てる、な な 何をして…
「何してるんですか!折角の贈り物なのに…!」
「…このチョコレート、少量だか血が混ざってた…」
「血?作ってる時に混ざったとか?」
「そんな極少量じゃない、明らかに意図的に混ぜてある量だ…気色悪い、変なもん口に入れちまった」
血?血を混ぜてあったのか、というかよく分かったな…ラグナ食べ物なら味とか気にしないと思ってましたよ、エリスが何作っても美味い美味いと食べてくれるから…
しかし、血とは…なんでそんなもんチョコレートに混ぜたんだ、意図が読めなさすぎて怖いよ
「大丈夫ですか?」
「まぁな、飲み込む前に吐き出したから…いや、しかし 渡されたもんを不用意に口に入れるのはやっぱ良くないな」
「そりゃそうですけど…、贈り物ですしね」
「そうだけどさ、…また今度会ったら本意を聞いてみるよ」
「気をつけてくださいよラグナ」
「ああ、…さて メルクさん達も待ってるしさ、帰ろうぜ?今日エリスが食事当番だったよな、楽しみにしてるよ」
「任せてください、ラグナ」
最後に変な経験をしてしまったが、ともあれ学園での用事は終わった、生徒会が設立するのはまだ少し先になるようだが、ノーブルズ解体も生徒会設立も時間の問題
あとやるべきことは来年の課題に備えて、アマルトとの決戦に備えて力をつけるだけだ
…長かったエリス達の学園での戦い、否 この国での戦いの終わりは もう目の前に迫っていた
ディオスクロア大学園 最後の一年が、始まる…!
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