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六章 探求の魔女アンタレス

151.孤独の魔女と歩み始める最後の舞台

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ん……

……んん……

しぱしぱと震える瞼を震わせ目を開ける、まだ意識が混濁としているが…エリスは…気絶していたのか?

そうだ、あのシェフに毒を飲まされて …でも生きてる?、てっきり死んだものと思ってシリウスの顔見るつもりで居たんだけど

まぁ生きてるならいいや…、今は何が起こったか それを把握しない事には始まらない、何せあのシェフの料理を食べた瞬間これだ 確実に何かされたと見るべきか

(…ここは、相変わらずパーティ会場のままですか、移動もさせられていないとは…一体なんだったんでしょうか)

目を開け床を見れば 先ほどと同じ絨毯が見える、感じ的に気絶する前にいた場所と変わりはないようだ…、ともかく今はシェフを問い詰めて、というか何が狙いだったんだ?毒殺しようとして失敗したとか?

と立ち上がろうと二の足を突いて立ち上がろうとした瞬間

(…ん?お?え?…あわわわわ)

立ち上がるとまるで転がるように後ろへと倒れ尻餅をついてしまう、うまく立ち上がれない と言うかなんか…なんだ?体がおかしい 立てないどころか手足も上手く動かせない

どうなっているんだとジタバタ手足を動かしているうちに気がつく…、自分の手の異変に 体の異常に

(…え?、ええ?なにこれ…どうなってるんですか エリスの体は)

その手を見ると それは見慣れたエリスの手ではない、形が違う と言うか腕も異様に短い 、ってよく見たら体も変だ!エリスの体にはないはずの白色の毛皮がびっしりと…な なな なななな!?

「何が起こってるんだ、って顔だな」

(はっ!?)

頭の上から声がかけられ思わず上を見ると…

そこには、空を覆うような巨大な人間の顔があった、巨人?否 この顔はエリスに毒を飲ませたあのシェフ…、なんでこんなに巨大に 

いや違う!周りを見れ何もかもが巨大になっている、もしかして エリスが小さくなって…

「混乱してるみたいだから 教えてやるよ、ほれ これ見てみ」

そう言ってシェフは懐から手鏡を取り出しエリスに向ける、鏡だ そこにはエリスが写ってる

はずなのに、鏡の中でこちらを見るのは…どう考えても


白い毛の小さなネズミがいて……

「チュー!?(ネズミ!?って声も変!?』」

両手で顔を触る…間違いない、エリス…エリス…

「チューーー!?!?(ネズミになってるーー!!!)??

エリスの体が小さな白ネズミに変わっている…言葉を喋ろうにもチューチューとしか口に出来ない、どうなってるんだ エリスは…エリスは!

「チュー!チュー!(貴方の仕業ですか!)」

「自然現象で人がネズミになるかよ、おっと逃げるなよ?他の人間に見つかったら 普通にネズミとして始末されちまうぜ?」

「チュー!!(きゃー!離してくださーい!)」

逃げ出そうと走り出すもいとも容易くエリスの尻尾をシェフは掴み 持ち上げる、ダメだ 逃げ出せない、短い手足をパタパタ振るも無意味だ、ネズミ…なんて弱い生き物…

「チューチュー!(と言うかあなた何者ですか!何が目的ですか!)」

「あれ?、気がつかない感じ?…ああ、この顔じゃあわかんねぇよなぁ」

というとシェフは頭の上の帽子を掴み外す…その長い白帽子が顔の前を通り過ぎるとどうだ、あの丸みを帯びて優しげな顔をしたおひげの紳士の顔が まるで別の人間の顔に変わっているではないか

しかも、今度は 見覚えのある顔…これは

「チュッ!?(アマルト!?)」

「よう、流石に顔も声も別の人間になってたら 気がつかねえかな」

アマルトだ、アマルト・アリスタルコス それがニタリと笑いながらエリスの尻尾を掴んでいるではないか、いや…いやいや!変装がうまいどころの騒ぎじゃないぞ、体格から声 臭いから何まで全部別人に変わっていたぞ

「チュチュー!(一体どうやって…変装にしても無理が)」

「変装じゃないさ、ほれ お前らがガニメデの呪術だって言ってるやつあるだろ?あれを使って、別の人間に成り代わったのさ、獣に変わる術…人間だって獣の一種だ、できない道理はないだろ?」

そりゃそうだが…、いや この男はガニメデに呪術を教えた張本人、出来ることの幅はガニメデを遥かに上回っている、ガニメデの術は成り代る対象の体の一部、それこそ毛の一本でもあれば変化出来る

どうせ、どっかで見知らぬオヤジの髪の毛でも引っこ抜いて変装したんだろう、エリスに近づくため…

「チュウ…(ってことはエリスのこの状態も…)」

「その通り、この術は対象の肉体の一部を得れば自他問わず変化させれられる、お前がさっき食ったネズミの肉 あれをお前が口にした時点で術の成立条件は満たしていたのさ」

ネズミの肉を料理として食べた時点で エリスはネズミの一部を得た事になる、アマルトは自然にエリスを動物に変化させるために態々料理をしてエリスに食べさせたんだ

それをエリスは油断して口にして…それでこの有様が、ガニメデもジャスティスフォースを獣人に変えていたし、あれは他人にも使えるんだ

「チュウ?(というかあの料理アマルトが作ったんですか?)」

「まぁな、ネズミを料理してくれって言っても ここの料理人じゃあ出来ないからな、王宮の料理人はお上品な料理しか作れねぇし」

「チュウチュウ!(悔しいですがとても美味しかったです)」

「そりゃどうも、ちょいと業腹だが 料理の腕にゃちょいと自信があんだわ」

そう言えばタリアテッレさんが料理を教えたんだったか、世界一の料理人から直々に指導を受けていたなら あの腕も納得か、コルスコルピでなければ 国一番の料理人になれるだろうな…

「チュウ……チュー!!(まぁそれはそれとして…元に戻してくださいー!!)」

「おっと、暴れんな?お前状況分かってる?今お前の生殺与奪権は俺が握ってんだぜ?」

ジタバタ暴れるエリスの尻尾をアマルトは握ったまま料理の乗ったテーブルの上まで持って行き

「俺はこのままお前をスープの具に出来るんだぜ?サラダに添えたり…なんだったらお前がさっき食った香草焼きにも出来るんだ」

「チュー!!(や やめてくださいー!!)」

「お前がこの状態で死んだって ラグナ達は気付きゃしねぇぜ、まぁ俺も人殺しはしたくねぇ 大人しくしてくれると助かる」

うう、この状態じゃ 抵抗も出来ない上に助けも期待出来ない…、最悪の状態だ

大人しくするより他ないか…

「ちゅー…(というかなんでエリスをネズミに…)」

「お前と話がしたかったんだよ、二人きりでな、この状態なら 邪魔が入らないからな、ほれ 今のお前の言葉を理解できるのは術を使った俺だけだし」

「チューッ!(周りから見たらネズミに話しかけてる変人ですよ!)」

「かもな、まぁ今更周りの目なんかどうでもいいだろ」

なんじゃそら、でも確かにこの人の海の中でアマルトはエリスと二人きりで話す状況を得た事になる、そんなことをしてまでエリスに言いたいことってなんだ…

「じゃあ 単刀直入に言う、もうやめにしよう ノーブルズとお前らの対立姿勢ってやつ、もうお前らに手は出さない 俺の負けでいい」

「チュー?(やめにする…って どういうことですか)」

「そのままの意味だ、悪かったな お前に辛い目を見せて、だからもうこれで勘弁してくれ、頼む」

悪かった とアマルトは軽く頭を下げる、もうこの対立はやめにするというのだ…別に、争うことを止めるのは構わない エリス達も望むところだ、だが それをアマルトの口から出てくるのは なんだか不気味だ

「チュー…(何を考えているんですか、貴方…ガニメデやカリストたちをけしかけておいて、今更やめにしますってどういう風の吹き回しですか)」

「このまま意地張っても仕方ないと理解しただけだ、お前ら何やっても折れない 何をどうしたって乗り越えてくる、こんな奴ら相手するだけ損だからな…」

アマルトはエリスたちが気に食わないと言った…、だからあの手この手でエリス達を潰そうとしてきた、その気に食わない目が濁るのを見たかったから…、だがそれを諦めると?

「チュー(随分お利口ですね)」

「元々さ、俺ぁ元々お利口で通ってたからな」

「チュウチュウ(エリス達が気に入らないんじゃないんですか?)」

「気にいらねぇよ、努力して…それが報われて 祝われて、成就することが確定している甘ちゃん達、それが仲良しこよしで目の前で踊ってんだ…喧嘩吹っかけてるようなもんだろこれ」

「チュウ(祝われる為に努力しているわけではありません、報われることが確定している努力も成就が約束された道もありません)」

「そう言えるのは…お前らが恵まれてる証拠さ」

随分な言いようだな、誰だって自分の立ち位置がどれほどのものかは分かりはしない、エリス達が恵まれていると言うのなら エリスにはわからないが実際そうなのだろう、だが…それはアマルトにも言えることなんじゃないのか

「チュウ(それでもエリス達を敵視するのはやめないんでしょう、学園を潰すことを諦めるわけじゃないんでしょう)」

「まぁな、あの学園は俺の代で無くす それを止めるなら、結局んところ お前は敵だ」

「チュウ…チュウ(じゃあ…、エリスは貴方との対立をやめません)」

「それは学園を守るためか?、模範的な生徒だことで」

「チュウ…チュー!!(違います、貴方を守るためです!)」

「はぁ?、意味不明な綺麗事抜かすなよ 、守るとか貴方のためとか そう言う言葉はな、結局自己満足なんだよ、第一 なんで俺を守るんだよ ええ?俺がお前らと同じ魔女の弟子だからか?、将来一緒に戦えるかもー?とか?、あんまり笑わせんなよ、手が滑って地面に叩きつけそうだよ!」

そのままアマルトはエリスの体を掴み大きく振り上げこのまま地面に叩きつけ殺すぞと言わんばかりに、こ このまま叩きつけられたら死ぬ…死ぬけれど

ダメだ、ダメだ引けない ここでエリスは己の意思を引っ込めることはできない!、だって…だって!

「チュウ!チュウチュウ!(貴方が!エリス達に己の姿を見たように!エリスも貴方の目に己を見たからです!)」

「…何?」

アマルトは エリスの目が エリス達の目が、気に入らないと言う 

それはアマルトとエリス達の目が同じ目をしているから、未だ上を向くことを諦めていない目をしているからだ、己を嫌うアマルトだからこそ その自己嫌悪をエリス達にぶつけてきているんだ、自分が嫌いだから エリス達も嫌いなんだ

だがな!アマルトがエリスの目に自分自身を見たのなら、エリスもまたアマルトの目にエリス自身を見るのだ!

「チュウ…チューチュー(アマルト、貴方の目はまだ諦めきれない炎を宿している、エリスも同じだから分かりますなんてお為ごかし言う気はありません、それでも 貴方には夢があるんじゃないんですか?)」

「…………」

「チュウ…チュウ(全霊を尽くし 全力を尽くし、身を燃やし 心を焦がしてもなお飽き足りない何かが貴方にはある、それを諦める為に 同じ目をしたエリス達を潰したいんですよね、貴方が殺したいのはエリスじゃありません エリスを通して自分の夢を壊したいんです)」

「わかったような口聞くな、握り潰すぞ」

「チュウ!チューチュー!(いやです!黙りません!、貴方がエリスを通して夢を殺したいなら!エリスも貴方を通して夢を守り抜きます!貴方の夢を守って エリスは前へ進みたいんです!、貴方とだって共に…)」

「俺と前へ?…アホか、なんで俺と」

「チュウ!(貴方がまだ諦めていないから!)」

「俺はもう…諦めたんだよ、俺には上手くできないからな」

そういうとアマルトはエリスを叩きつけるのを諦めたのかゆっくりと腕を下ろし、エリスを顔の前まで持ってくると…

「だが そうだな、それを理解してくれてたのは そういう風に俺を尊重してくれたのは、イオに続いてお前で二人目だよ、ありがとさん」

「チュウ…(アマルト…!)」

フッと優しい笑みを浮かべ微笑むアマルト、エリスの言葉が通じたか

…そう、安堵した瞬間

「だから死ね、これ以上俺を理解しようとするな、死ね」

その手に力込め始めた、エリスの体を握り潰そうと…

「ヂュッ…ぅぅぅ…(アマルト!、貴方…!)」

「別に救いなんかいらない、理解なんてしてもらわなくていい、俺を守る?なら俺の手で己を殺す…お前を通じてな」

殺される 握り潰され殺される、この小さな手では振りほどけない この口では詠唱も口に出来ない、抵抗出来ない 殺される

…それはダメだ、エリスはもう アマルトを捨て置けない、エリスは彼の中に己を見てしまった、彼はエリスだ 挫折しそれでも誰からも手を差し伸べられなかったエリスだ

エリスは師匠に手を差し伸べてもらったから今こうして生きていられる、だがアマルトにはそれがなかった…、だから エリスは彼に手を差し伸べるのだ 起き上がって欲しいんだ、それがアホくさい綺麗事でも 陳腐な美辞麗句でも、それでエリスは…!

諦めるわけにはいかない!、彼に もう一度上を見てもらう為に!

「内臓ぶちまけて死にさらせ…!誰もお前が死んだことになんざ気づきやしない、誰もお前を助けない、所詮そんなもんなんだよ 世の中…!」

握る 握る 握る、己の中に留めた己への憎悪を吹き出すように、己の中に生き汚く灯る淡い光を今度こそ握り潰すように、エリスの体を握り締める…

誰も助けに来ない 誰も自分がいなくなっても困らない、それはエリスへの言葉か 或いは…

「チュ…ぅう…」

彼の手により力が灯る、これで終わりにする為に、これで諦める為に、これで全部 …

「待って」

「……ん?」

ふと、アマルトの手から力が消える、何者かがアマルトの手を取り 止めたのだ、エリスを…手の中のネズミを助ける為に…

一体…誰が……

「んだよ、邪魔すんなよ魔術導皇」

「……あんた何してんの」

デティだ、デティがアマルトの手を取り ムッとした顔で彼を睨みつけている…

「何って、この祝いの場に似つかわしくない下等生物一匹退治してやろうとしてんだよ、ネズミくらいいいだろ」

「チュ…チュー…(で…デティ…)」

「…………」

デティは手の中のネズミを見て、むぅ と更に口を閉じる、ダメか 分からないよな…今のエリスはどう見てもネズミ、それを助けるはずが

「それエリスちゃんでしょ、私の友達傷つけるなら許さないよ」

「は?、何言ってんだお前」

「お生憎様…惚けても無駄だよ、私 魔力の探知は人一倍上手いの、そのネズミからエリスちゃんの魔力がする、あんたなら人を獣に変えるくらい出来るもんね」

「……勘のいいやつ、いや、この場合は間のいい奴か」

分かるのですか デティ、人一倍優れた魔力感知能力 それを用いれば例えネズミに変えられ小さく弱ろうとも、決して見逃さないというのだ

「返して、私の友達」

「いやだね、こいつは今からスープの具にするんだ」

なんとぉー!?、手から力は抜けたものの エリスを離す気は無いと言わんばかりにデティでは決して手の届かない場所へと高く掲げる

「返して!さもないと…」

「さもないと?どうするってんだ?」

「ボッコボコにする!」

「へぇ、そりゃおもろしい…やってみろよチビ」

アマルトが片手で髪をかきあげ、その腰に差した短剣に手を当てる、やれるもんならやってみろ、そう言わんばかりデティを睨みつけるのだ…、それに答えるようにデティも目を鋭く尖らせる

始まる、アマルトとデティの激突が…

「すぅー…」

そう、予感した瞬間 デティはこう言うのだ

「グロリアーナさん!この人です!」

と…、すると人混みから黄金の鎧を着込んだ女騎士 グロリアーナさんが現れ…って

「どうされました?魔術導皇様」

「お前が俺に挑むんじゃねぇのかよ!、お前 卑怯だぞそいつ呼ぶの!」

「へへーん!、卑怯で結構~!さぁグロリアーナさん!やっちゃいなさい!」

さしものアマルトも今現在カストリア大陸最強の一角と言われるグロリアーナさんを前にしては戦う気も失せるらしい、でもねデティ…

「…?、やっちゃう?何をですか?」

話くらい通してから来てくださいよ!、グロリアーナさん状況が飲み込めず首傾げてるじゃ無いですか!!

「分かった!わかったわかった!、返すよ…ほれ」

「チューッ!?(いきなり投げないでー!!)」

「わたた!、危ない危ない…エリスちゃん大丈夫?」

アマルトはいきなりエリスの体をヒョイと投げ飛ばす、このぼてっとした体ではいつものように受け身も取れぬ、クルクルと回転しながらデティの手によりキャッチされ事無きを得るが…、うう デティの体が大きい

「お前なら戻せんだろ、好きにしろ」

「好きにしますよーだ!」

「んじゃ 話も終わったから俺ぁ退散するぜ、あばよ、…ああ 後」

そう言うとアマルトは近くに引いてあるテーブルクロスを上の物ぶっ倒しながら引き抜きデティに叩きつけるとそのまま逃げるように立ち去っていく

「ちょい!逃げんな!と言うかこの布何!」
 
「必要だと思ってな、じゃあなクソチビ 牛乳飲めよ」

「飲んどるわい!」

「ちゅー…(な 何だったんでしょうか…)」

デティはアマルトに噛みつきそうな勢いで吠えつつも、手の中のエリスには優しくを被せてくれる、あうう…毛並みを撫でられるのがこんなに気持ちいなんてぇ、人間に戻れなくなるぅ……

「あの、魔術導皇様?これは一体…と言うかそのネズミは?」

「ああ、ごめんなさいグロリアーナさん…つい呼んじゃって、エリスちゃんもごめんね?すぐ戻してあげるね?」

「ちゅー…(ありがとうございます、デティ)」

そう言うなりデティはエリスの中に魔力を通す、デティ曰く呪いの解除とは 体に突き刺さった棘を抜くようなものだと言っていた、恐らく体に不調を起こす原因たる魔力を デティは魔力操作で取り払っているんだ

卓越した魔力感知能力がなければそもそも原因たる呪いを突き止めることさえ難しい、そういう意味では こんな芸当、彼女にしかできないんだろうな

「ちゅー……」

デティがエリスの体に突き刺さっていた呪いを抜いてくれたおかげで この体は徐々に膨れ上がり、本来の 人の姿へと戻っていく、変わる時はあんなに痛かったのに戻る時はむしろ清々しい…

デティの手から解放され 呪いからも解放されて、エリスは今 本来の人間の姿に…

「ってぇっ!?これ!?裸っ!?」

「ぎゃ~っ!エリスちゃん!服着て服!」

「む、失礼 魔術導皇様!」

人に戻ったと思いきや全裸 当然だ、ネズミは服を着ないし エリスの服はさっきネズミに変えられた時脱げてしまった、そういえばガニメデさんも言っていた 全身を変化させた状態で元に戻るとスッポンポンになってしまうと

その言葉通りこの状態で元に戻ればこうなる、このままではエリスは祝いのパーティの場で全裸を晒した歴史的痴女になってしまう

と思いきやすぐ様グロリアーナさんがアマルトが寄越してたクロスをエリスに被せこと無きを得る、いや得てないか だいぶ怪しい格好だな

「た 助かりました、グロリアーナさん」

「いえ、まだ助かっていません 、こちらへ…人目のないところで服を着ましょう」

「よかったぁラグナいなくて、ラグナいたら鼻血ブー太郎だったよ」

グロリアーナさんはエリスの体を布で隠しなおかつその上で自分の体で守りながら連れ出してくれる、…優しい上に紳士だ…惚れちゃいそうになる、けどこの人も所構わず脱ぐんだよな……

まぁいい、今はともかく服を着ないと…

アマルトは…、もういないか 彼とは話せたような話せてないような結果になってしまったが、それでも きっと彼はエリスを殺さなかったと思う、殺しきれなかったと思う、まだ彼自分自身を殺しきれていないから…

なら、まだ止まるわけにはいかないな…、そう決意していると エリスとグロリアーナさんの目の前に数人の騎士が現れ行く手を塞ぐ

まさかエリスを痴女として捕まえる気か?、だとしたらまずい 今度こそ本物の罪で牢屋にぶち込まれて…

「何用ですか?今は取り込み中です」

「申し訳ありません、ただ イオ様からエリス様にご用があるとのことだったのですが…とりあえず服を着ていただいてもよろしいですか」

「あ…はい」

なんだ、イオの呼び出しか…もしかしたら彼らもずっとエリスを探してくれていたのかもしれない、けれどエリスはさっきまでネズミだった…と

しまった、少し遅れてしまったかもしれない、急いで服を着てイオの所に行かないと、とりあえずイオに遅れたことを謝って…グロリアーナさんとデティに助けてくれたお礼を言って……


………………………………………………………………

「蒸気船を使っての国家間の民間運行か面白い話だ、確かに 今の世では些か国家間の移動には難儀するからな」

「ええ、各国に繋がる線路を引くよ余程安価で手早く済むかと」

「なるほどな、そこに目をつけたわけか プロスペール」

メルクリウスは一人頷く、ラグナと別れて以降 この目の前の下衆そうな男からの話を聞いて 色々と構想を練っていたのだ

デルセクトは蒸気機関技術を持つ、今現在魔力を使わない技術の中では世界最高と技術といってもいい、だが その技術は他国に共有されず デルセクトの私欲のためだけに使われている

別にこの技術を世界にばらまいて慈善事業を、などと 甘いことを考えているわけではない、だが世界に目を向けた時 この最新の技術をデルセクトの中だけで完結させてしまうのは少し勿体ないと考えさせられる

世界が今より少し便利に 豊かになる、その一助をデルセクトが担えば少なくともデルセクト中だけで蒸気技術を温めるよりも余程莫大な利益が出る

なので、まずは手始めに蒸気機関車の為の線路をカストリア大陸全土に張り巡らせようとも考えたが、これは如何にせよ時間がかかるし 何より話をつけなければいけない国が多すぎるので どうしたものかと思慮していたが

そうか、船か…船なら線路もいらんし、文句をつけてくる国も精々海に面している国だけで済む、これならばより一層様々な国の者が自由に国を行き来できるな

流石に大陸間移動は難しいだろうがな、距離ではなく大陸の間に跨る巨絶海テトラヴィブロスは異常なまでに荒れる海としても知られている、横断は出来ない 避けていくしかない

故に大陸の端と端 アジメクとコルスコルピからしか大陸行きの船は出ていないのだ


「その蒸気船に お前を一枚噛ませろというのか?」

「いえいえ一枚噛ませろなど申しません、任せて頂きたい」

「…ほう、面白いことを言う お前にか?」

「はい、当然利益は首長殿にもお渡ししますので」

にも…つまり何割かは要求してくるか、まぁそこはいい 金が欲しいわけではないからな、だが蒸気船事業はビッグプロジェクトだ、下手な奴に任せてコケたらとんでもない事になる

プロスペールは理知的だがやや金にがめついところがある、少々任せるには不安だな…

「ただ、私も商会での仕事がありますので責任者としては別の人間をご紹介しようかと思いまして」

「…ほう」

こいつ、私の考え読んでいたな…己の信頼のなさも利用するとは、相変わらず油断ならん男だ

「誰だ?」

「私の息子です、今日はここには連れてきていませんが 来年学園に入学させる予定ですので、そこで挨拶させて頂くので メルクリウス首長の目で我が息子を見定めてやってください」

「そうか…分かった」

「私が言うのもなんですが、きっとメルクリウス様のお目に叶う者かと、それに見た目もメルクリウス様好みだと思いますよ」

とだけ言うとプロスペールはほほほと笑いながら話を終え帰っていく…が、なんだ 私の好みって、奴め私の何を知っている

まぁいい、とりあえず商談は終わりだ 蒸気船事業については奴の息子と出会ってからまた考えよう

「さてと…、ラグナの用事が終わるまで時間があるだろうし…、お手洗いにでも行くか」

まだ本格的にパーティが始まったわけじゃない、一旦離席して衣装も整えようかと会場を離れトイレに向かう、…と出てきたはいいものの トイレどっちだ

「しまった、これなら執事を連れてきた方が良かったか」

デルセクトだといつも誰かが広大な宮殿を案内してくれていたから 感覚が麻痺していた、いやだな 私も気がつかない間に他人を使う貴族的価値観に毒されているようだ、少しは自分のことは自分でするとしよう

とは言ったものの、歩き慣れない城の中 人気のない暗い廊下に出てしまった、…むぅ戻るか?でも帰り道も分からない

「まさか…迷子になった?、この私が?デティじゃあるまいに」

いやあの子はあの子でしっかりしているし 迷子にはならないか、だがトイレに行って迷子になったことがバレれば少なくともデティは笑うだろうな、ラグナも笑う エリスは…笑わないだろうが呆れるだろうな

まずい、取り敢えず戻るだけ戻らないと


そう…思った瞬間、目の端に 人影が映る、もしかしたらこの城の従者か?とも思ったが

(あれは違うな…)

まるで人目を避けるような場所を逃げるようにコソコソ動き回る姿勢、従者があんな歩き方をするはずがない、盗人か?何にせよ正体を改める必要があるな

軍人時代の癖か、怪しい者を過ごせず 自らも音を消し闇に紛れるように走る影を追いかける、メルクリウスの読み通り 人影は人気の無い方へ人気の無い方へと逃げるように向かっていき

たどり着きたのはもはや城の何処かさえ分からない城の奥地だ、人影も怪しいがこの城もあやしいな、なんだここは 壁は古くカビて絨毯も敷かれず湿った石畳が裾を濡らす

まるで地下牢…いや今は人影だ、そう壁に隠れ 曲がり角の向こうで止まったであろう人影の姿を覗き見る

「悪い、待たせた…」

「見つかってないだろうな」

「大丈夫…城の連中はパーティに夢中だ」

どうやら人影は一人では無いようだ、数にして5…いや6人か、それが息を潜めて話している、口振りからするにやはり城の人間ではなく 且つあまり見られたく無い人間のようだな

「じゃあ 場所はここでいいのか?」

「ああ、早く仕事を済ませて退散しよう、しくじったら俺達 アイン様に殺されちまう」

…アイン?、アイン…といえば、アルカナか!大いなるアルカナ No.15 悪魔のアイン、それは我々と敵対する存在の名であり、それを口にする奴らは

(奴ら…アルカナのメンバーか!)

闇に慣れた目はようやく人影の姿を捉える、黒服達だ デルセクトにいた奴らと同じ、やはりこいつら この国にいたか!

「おい、早くペー様から預かったアレよこせ」

「おう、これだ…極式爆裂岩石ダイダラ、おっかねぇよな これ一個でこの城一つ崩すに足る爆弾になるんだから」

「それだけあの人の力が強いってこった、まさに化け物だよ…」

そう言うと黒服は抱えるような大きさの黒い鉄球を地面にゴトンと転がし…って、この城を崩す?まさかあれ 爆弾か!

「そこまでだ!全員手を上げろ!」

「なっ!?」

考えるよりも早く壁から飛び出て銃を構え吠える、このまま泳がせてアジトでもあぶり出そうと思ったが 捨て置けない、今ここでこいつらを放置すれば凄まじい死者が出る、すぐにでもあの爆弾をなんとかしなくては

「お前 メルクリウス!?栄光の魔女の弟子か!?」

「くそっ、バレていたか…」

「悪いな、その爆弾 こちらに寄越してもらうぞ」

「ぐっ…」

奴等は隠密行動をメインとしていたためか 武器は今腰にぶら下げたまま、対するこちらは既に銃を構えている、流石にこの状況で抵抗する人間はいまい

このまま爆弾を錬金術で無害な石塊に変えて、こいつらも全員捕らえる…ようやく掴んだアルカナの尻尾、離さずこのまま親玉まで捕らえさせてもらう

「さぁ、こちらに…」

「あの…何してるんですか?」

「む…」

ふと、背後から声が聞こえ思わずそちらを向きながら銃を突きつけると…

「え!?ひっ!?銃!?」

「っ…お前は…!」

女子だった、黒服じゃ無い、制服を着た黒髪眼鏡の女子生徒…いやこの子、確か アドラステア達と一緒にいた女子で…あの学園の図書委員をやっている、ってしまった!無関係の人間か!

「い 今だ!」

「きゃっ!?」

私のその隙を突き 黒服の一人が駆け出し私の脇を抜け強引に図書委員の女の子の腕を掴み 腰のナイフを突きつける

「動くんじゃねぇ!この女がどうなってもいいのか!」

「人質か…」

私が図書委員に気を取られた瞬間に その図書委員を人質に取られてしまった、くっ 流石に無関係の生徒を巻きこめん、というかあの子は一体こんなところで何をしていたんだ…

「おい!、武器を捨てろ!」

「…っ、民間人を巻き込むな」

「いいから捨てろ!この女がどうなってもいいのか!」

「チッ」

仕方ない、人質がいる以上 ここは言うことを聞いた方がいいか、手に取った銃を地面に捨てさらにそれを奴らに渡すように黒服の元まで蹴飛ばし無抵抗を示す、その様を見て黒服達は安堵の息を吐き 次々と私の脇を抜けていく

「そのまま動くなよ、俺達が逃げるまでそこから動くな…さもなきゃ こいつを殺すからな」

「ひぃぃ…」

「分かった、銃も捨てただろう…その子は無事解放してくれ」

「へへ…よしよし」

私の無抵抗を確認したのか 、私の蹴った銃を拾い黒服達は次々と私に背を向け図書委員を掴んだまま私から遠ざかっていく、…私が 抵抗出来ない 、銃がなければ 武器がなければ抵抗出来ないとおもっている

そりゃそうだよな、私から銃を奪ったんだ 今から古式詠唱をしてもその前に図書委員の首筋にナイフを突きつける方が早い


だがな、私からしてみれば…そりゃ甘いというものだ

「…っ!」

刹那 奴らが逃げようと退路を確認し視点を逸らした瞬間、手を前へ差し出し 魔力を高める、ただ それだけで私の腕のには奴らに渡したはずの銃が現れ、すぐさまそれを握り引き金を引く

「…なっ!?お前なんで銃を…がはっ!?」

図書委員を掴む腕を 否肩を居抜き女子生徒を解放する、私から銃を取り上げれば無害とでも思ったか?残念、我が体の中に眠る二つの錬金機構が与えたこの力は 我が力の権化たる銃をいくらでも作り出せる

例え私から銃を取り上げようとも 私は更に銃を作り出せる 十だろうが百だろうが、その気になればこの空間全てを銃で埋め尽くせるのだ

「貴様!」

「甘い!」

慌てて腰の剣やナイフを抜く黒服達の手を銃で居抜きながら走り解放された女子生徒を抱き寄せる、まずはこの子だけでも守らなくては…!

人質がいなくなったら後はもう消化試合だ、奴等は飛び道具を持たない 5人で纏めて掛かろうにも逃げようにも、距離を取ってしまった以上、この場の決定権は私が持つ

銃口が数度火を噴くうちに、目の前の黒服達は足や手を撃ち抜かれ地面に倒れふす、殺しはしない こいつらには聞かなければならないことが山であるからな

「大丈夫かい?」

「あ…は…はい、ありがとうございます」

戦いとも言えぬ戦いは終わった、どうやら女子生徒も怪我はしてないみたいだしな…、だが

「何故こんな所にいた、ここは王城だぞ」

「す、すみません でもラグナ大王を探していて…彼と一緒にエウプロシュネが見たくて…」

そうもじもじしながら語る彼女を見て、悟る

……ラブコメの気配!ここに来てラグナに想いを寄せる女子の到来!、エリスとラグナだけの直線の関係性に今新たな線が書き足された!?、そういえばちょっと前にラグナが図書委員の子を助けてあげたとか言っていたな、その時か!

カァー!ラグナも捨て置けない男だなぁー!…って そうじゃ無いな

「ここは危険だ、すぐに逃げるんだ」

「はい、ありがとうございます メルクリウス様」

私の腕の中から図書委員はひょいと抜け出し暗い廊下の向こうへと消えていく、うん とりあえず逃がせたな、後は例の爆弾を無効化すれば終わりだ…

そう思い、再び振り返り 爆弾に目を向ける…が、おかしい 爆弾がない、いや 爆弾はあったんだ だが、形が違った

「…なんだこれは、どういうことだ?」

黒い鉄球型だった爆弾が変形し手足を作り 体を作り 頭を作る、その形はまさに人型…というよりこれ

「ゴーレムだったのか!?、いやゴーレム型の爆弾か」

ゴーレム…使用者の意のままに動く自律型魔術、恐らくあの爆弾の中にゴーレムのコアを埋め込んでおいたのか、手前の足で走って 手前の手で爆弾を守る まさに自立型爆弾ということだ

ここに来て面倒な、だが壊すことに変わりはない そう私が銃を構えた瞬間、ゴーレムはギクシャクした動きで手足を動かし…

跳ねた

「っ!?って、そっち!?」

ただし私に向けてではない、私を飛び越え 我が背後で呻き倒れる黒服達に向け飛び、そして

「ぎゃぶっ!?」

踏み殺した、圧倒的脚力と質量で黒服の頭の上に着地し まるで果実でも踏み割るかのように、その頭を潰し鮮血が舞う

「口封じか!や やめないか!」

「や やめてください、ペーさ…ぐぇっ!?」

と私が動いた時には既に遅く、足元の虫でも踏み潰す子供のように何度も足を振り上げ その場にいる黒服全員の頭を叩き割り、物も言えぬ死体に変えてしまう

私よりもまず口封じに走るとは、このやり方…覚えがある、アインだ やはりアインが関わっている…!

「………………」

「一通り殺して満足したか?…、仲間じゃないのか」

私が問い詰めるもゴーレムは答えない、仲間であっても口封じのために容赦なく殺す、まだヘットの方がマシだ、奴はあれでも仲間を捨て駒にすることは…あったな、じゃあ同レベルか

つまり、こいつらはあの外道と同じということだ!

「……!!」

最後はお前の首を取って終わりそう言わんばかりにゴーレムは機敏な動きでこちらに向けて駆け出し 鉄で出来たその腕を横に薙ぎ払う

「っ!?」

咄嗟にしゃがみその一撃を避ければ 何とその腕が当たった石の壁が容易に崩れたのだ、凄まじい怪力だ  、しかもこの速さ このゴーレムを作った奴は相当な実力を持っていると見ていい

「おっと!」

すぐさま振り下ろされるその鉄拳を後ろにすっ飛び避けつつ引き金を数度引くが、ダメだ やはり効かん、我が銃弾は火花を散らし弾かれてしまう 見かけ通りの硬さか…だが

「開化転身…!」

踏み込み 拳を放つゴーレム、岩をも砕く一撃だ もらえば一体何本の骨が砕けるかわかったもんじゃないそれを、メルクリウスは受け止める、片手で…否

「フォーム・ニグレド」

ゴーレムの手が メルクリウスに激突する前に黒い塵となって消えていたのだ、何もかもを消滅させるニグレドの力を前面に出す、ただそれだけで物質であるゴーレムは容易く崩壊する

塵となった腕を捨てもう片方の手で私を殴りつけるが、それもまた私に命中するよりも前に塵となり空を舞う、なんとか私を殺してやろうとジタバタする間に崩壊は進み、やがてゴーレムはまるで燃え尽きた薪木のようにひび割れ、焼き尽くされた黒灰のように崩れ去り 消える

「…ゴーレムか、そういえば例の遺跡でも現れたな…何か関係があるのやら」

塵の山と化したゴーレムを見下ろし息を吐く、結果的にではあるが黒服は始末され その爆弾でもあるゴーレムは破壊することができた、だが黒服は口封じされ 私はせっかく掴んだ尻尾を逃してしまった

惜しいことをした…、いや 今はこの件を城の人間に伝えるのが先か、この頭のない死体を放置すればいらぬ疑惑をかけられるし、何よりパーティ会場でテロが行われかけたのだ、この件 城の人間に伝えなければ

そう思い立つや否や駆け出す、そういえば帰り道わからなかった…ええい!走ってればそのうち人のいるところへ着くだろう!今はダッシュだ猛ダッシュ!

その前にトイレを見つけられることを祈ろう!

……………………………………………………

「ラグナ…イオ」

エリスが服を着て騎士の方に案内されたのは コペルニクス 城の頂上 地平線を壁にし空を天井にした展望テラス、夜風吹き抜けるそのテラスの中央で ラグナとイオはテーブルを挟んで月を灯りにチェスを打っていた

「遅かったな、エリス」

「色々ありまして、すみません 遅れましたラグナ」

「君の分の椅子もある そこに座ってくれ」

「はい」

イオに促されるままエリスはラグナの隣に座る、…二人ともチェスをして時間を潰していたのかな、エリスはチェスを打ったことはないから戦況はよくわからないが…、ラグナの側の駒の方が多いってことはラグナが勝ってるのかな

「これラグナが勝ってるんですか?」

「まぁな」

やっぱり…

「流石戦乱の国の王だ、まるで敵わないよ」

「世辞を言うなって、それじゃあ俺が圧勝していたみたいだろ」

「実際そうでは?」

「互角だ、腕前ではな…だが時風はこちらにあった、だから俺が押しているだけだ」

「なるほど、勉強になる」

よくを分からないが そう言うものなのか、でもチェスで決着をつけるのかな…、いや違うな 空気感が違う、これは単なるお遊びだろう

「では、エリスも来たことですし ここらで私は投了しましょう」

「まだ勝負はついてないぞ?、まだ勝ちの目も残ってる」

「これ以上やっても 兵を闇雲に死なせるだけですので、敗北の苦渋を啜っても 生きてる人間が多ければそれでいいのです」

「そうか、お前らしい」

…なんかえらく二人とも仲良くなってない?それとも元々?、若くして国を背負う身同士何か通じ合うものでもあるのかな…、エリスにはよくわからない

ラグナは組んだ腕を解き イオもまた握っていた駒を机に置く

「あの、それで決着というのは…」

「これからだ」

「ああ、君達二人が揃ってから話をしたかったからね」

そうだったのか、だったらネズミに変えられている場合じゃなかったな…悪いことをしてしまった、こんな寒いところで待たせて

「さて、まず君達二人だけを呼んだのは、ラグナ陛下 君が四人のリーダーでエリス 君はその副官だからだ」

「そうだな」

え?エリスそういうポジションなの?、どっちかっていうとメルクさんの方が副リーダーっぽいが、いやまぁいいけど

「そこで、君達二人に 決着をつける決断をしてもらいたい」

「決断?」

「ああ、これは私一人ではどうしようもないことだからね、私と君の合意がいる」

なんとなく イオの顔を見ていて分かったことだが、決着とは 殴り合いで甲乙をつける というような話ではない、むしろこれは 話し合いだ、ただ 話すだけ…それで 決着をつけるのだ

「合意ねぇ、内容は聞かない限りなんとも言えねぇが」

「ああ、…ま先に宣言させてもらう、私は 明日ノーブルズを解体するつもりだ」

「えぇっ!?」

「…………」

驚きの声をあげたのはエリスだけだった、ラグナは先に聞いていたか 或いは予想していたのか、ふむ と腕を組む…考える姿勢をとる

「なぜか聞いてもいいか?」

「ノーブルズは…いや 私達は間違えた、学園の秩序を守るため 絶対者として君臨することこそ、安定した治世の鍵であると信じていた…だが結果としてそれは反発と反抗を生んだ、生徒も人だ 頭を押さえつければ跳ね上がる」

ノーブルズの姿勢は 強硬だった、罷り間違っても正しいとは言えないものもあった、その権勢のせいで多くの人間が傷ついていた

だが秩序を保つという点ではどうか、間違っているとは 一概に言えない、少なくともノーブルズが力を持っていた昔と今を比較すれば一目瞭然だ、今学園は荒れている ノーブルズがなくなったから 授業中に机の上で足を組むような奴も現れた

ノーブルズの全盛期の時代には絶対になかったことだ、そういう意味では 彼らは健全な学園を守っていたとも言える

…なんとも言えない

「生徒は…国民は、いつだって正しい方に着く 我らは群衆から支持を失い 今や反乱軍まがいのものも現れている、このまま我らが上に君臨し続ける意味はない それは本来のノーブルズの意義に反する」

「それで他の奴らが納得するか?、ノーブルズだって長く続いた歴史だろ?」

「ああ、受け入れさせるのは難しいだろう、それでも なんとかしてみるよ」

なんとかって…いや、そこまでエリス達を関わらせたくないんだろう、彼が決断した事柄である以上 イオは自分だけで完結させたいんだ、そこに踏み入るのは野暮なのかもしれない

「ノーブルズが無くなれば 余計荒れるんじゃないか?、なんのかんの言っても上は必要だぜ」

「分かっている、だから 生徒を率いる別組織を作る予定だ、それは貧富の差を問わず 能力だけで 求心力だけでメンバーを決めていく、そんなメンバーだけで構成された生徒のための組織…名をつけるなら生徒会か」

「生徒会ぃ?、そのまんまだな」

「重要なのは名前じゃない、…重要なのな生徒…国民だ、彼らのためになるかどうか それが重要なのだ」

つまり世襲制王政から 民主的投票法により学園の代表を決める形に変えていくつもりなんだ、貴族でも 王でも 生徒から支持されないなら入れない、それがイオの理想なんだろう…

生徒のため、ただそのためだけを思う

「で、その生徒会設立と俺たち、なんの関係があるんだ?」

「ああ、話とはそこだ…ラグナ大王 どうか、これにてノーブルズとの争いの矛を収め和解してはくれまいか、これにて 決着にしてはくれまいか」

そう言ってイオは深く頭を下げる…和解 対立の取りやめ…それって

「貴方もですか?」

「ん?、私も?」

「さっきアマルトからも言われました、和解してれ もう俺に関わらないでくれと」

「アマルトがそんなことを…そうか 彼は私の心を読んでいたか、ノーブルズはもう彼にとっても邪魔か…そうかそうか」

どうやらイオとアマルトが同じタイミングで同じ話をしたのは 単なる偶然のようだ、いや アマルトはイオの理想を察してそれに乗っかったのか、分からないけど 少なくともイオを手伝うって感じじゃないよな、そんなことっ言ってなかったし

あれ単純にもう関わって欲しくなかっただけだろう

「アマルトは君達から逃げたいみたいだ」

「そうですね、そんなことも言ってました」

「だが対立が終わってもノーブルズが存続してきたら意味がない、ノーブルズがある限りアマルトはいつでも逃げ道を用意できる」

そう言えば彼はノーブルズ解体までは口にしてなかったな、イオがノーブルズを無くすとまでは読めなかったか

対立が終わってもノーブルズがあればアマルトはその権限を使っていくらでも好きにできる、それじゃ結局何の意味もない、ただエリス達は学園を荒らしただけだ…

「そういう意味でも君達には悪い話ではない、だからどうか これで手打ちにして学園再建に力を貸して欲しい」

「それがイオの決着…ですか」

なんてことはない、決着とはイオとの決着ではない この一年の戦いの決着…否 対立終止符を打つためにイオはここに呼んだのだ、なんで今になって とか どういう風の吹き回しで、とか 聞きたいことは山とあるが

いや口を開いて聞くべきはそれじゃない

「アマルトを裏切るのか?友達だろう?」

「……裏切るつもりはない、と言っても形だけ見ればこれはアマルトを後ろから刺すのと同じ、裏切ったと言われても仕方あるまい とは思っている」

イオはやや 悲しげに目を瞑る、律儀で優しい彼の事だ この決断は今日昨日思いついたものではないのだろう、途方も無い時間一人で悩み苦悩し…それでも出した子だけなのだろろう

「だが私は、アマルトの友をやめるつもりはない、君達には面白くない話だろうが…」

「いいさ、むしろここでお為ごかしの嘘を吐かれていた方がお前を信用できなかった、…エリス どう思う」

「…ノーブルズの解体ですか、難問ですね」

難問も難問 大難問だ、全く分からない…こういう時はメリットとデメリットを並べてみると分かりやすいかもしれない

まずノーブルズがなくなるメリットは、言うまでもなく対立の終焉 貴族たちに与えられる学園内特権は陰り、もう横暴は震えなくなり 反ノーブルズ派のこれ以上の隆盛も抑えられる

そしてデメリットは、やはり抑える物がなくなった生徒がどうなるか分からない、と言うか何も先が見通せなくなる、ノーブルズに代わる組織は編成するようだが、最悪ノーブルズがあった時よりも悪くなる可能性は決して否めない

けど

(それがいい方に転ぶか悪い方に転ぶか、それは今後エリス達次第でもありますね…)

今の学園には変革が必要だ、そしてリスクを伴わない変革などない、平和とはいつだって変革というリスクを飛び越えて得られたものだ、なら…エリス達も背負うべきなのだろう、学園で対立なんかした尻拭いの一つ、しなくてどうする

「エリスは良いと思います、ノーブルズ解体 そしてそれに代わる組織の編成、その一件にエリス達も協力すること…、エリスはイオの意見に賛成です」

「うん、そうか 分かった…俺も賛成だよ、イオ そのノーブルズ解体とその後の後始末、引き受けるよ」

「有難い、ということは」

「ああ、ノーブルズと俺たちの対立も これで終結…って事でいいよな」

するとラグナは立ち上がり イオに握手を求める、それは和平の握手 それを受けイオもまた立ち上がり手を取る、ノーブルズのリーダーとエリス達のリーダー達が手を取った

長く それでいて短い学園の対立はこれで終わるだろう、だがまだやることは残っている イオにもラグナにもエリスにも、まだ戦いは終わらない…けど、今はとりあえずこの和平を喜ぼうじゃないか

「感謝するよ」

「おう、…じゃあ」

「分かっている、エリス」

「へ?」

するとイオはラグナとの握手を終えるなりこちらを向き直り、見つめる…な 何ですか

「なんですか?」

「いや、すまなかった…私はノーブルズと弟を守ることに必死になりすぎた、だから謝罪させてくれ ノーブルズを代表して、…悪かった」

「ちょちょ!頭をあげてください!そんな…謝罪なんて」

「だが、君は少なくともラグナ達が来るまで 我々のせいで凄惨な目にあっていたのは確かだ、そこに目を向け ケリをつけなければこの和平はあり得ない」

確かに…ラグナが来るまでエリスにとって学園は地獄だった、それを作り出したノーブルズはエリスにとって悪魔だった、だが 今は違う

もう気にしてないかと言えば嘘になる、しかし 許せないかと言えばそれも嘘だ

「後日 必ずピエールを向かわせる、だから…」

「イオさん、大丈夫です…エリスは もう乗り越えましたから、だから エリスも仲直りの握手 いいですか?」

「…ああ」

差し出す手 受け取られる手、エリスは あの地獄をラグナ達の手で乗り越えることができた、だからもういい

それにエリスも悪い点が多々あった、立ち回りも良くなかった バーバラさんを傷つけた犯人がピエールだと決めつけ襲撃した、だから どっちもどっちなんだ…それでいいんだ、だからエリスはイオと手を取る

これで終わりだ、そう思えば あの地獄の思いが昔に切り替わる…、いや まだ昔のことにするには早すぎるな、ピエールと話をしなければ

彼は結局 バーバラさんの襲撃事件に関わりはなかった、その後エリスにしたことは凄惨ではあるものの エリスの見切り発車も悪かった、そういう点もちゃんと謝らないとな

「さてと、これで決着…でいいんだよな」

「ああ、時間を取らせてすまなかった、そろそろパーティ会場の方でダンスも始まるはずだ、今から行けば間に合うだろう」

「いや別に、俺からすりゃこっちの方がメインだったからな…まぁ出れるなら出るか、エリス 行こうか」

「はい、そろそろ冷えてきましたからね、風邪引いちゃいます」

話し合いは終わり、エリスとラグナ そしてイオはその対立に落とし所をつけた、激しい戦いを予想していたから、ちょっと肩透かしだが 今まで散々戦ったんだ もういいだろう

「ああ、そうだ…イオさん 最後に一つ聞いてもいいですか?」

「ん?何かな?」

「なんでノーブルズを解体しようと思ったのですか?、そりゃさっき言った学園のためって話も分かりますが、貴方なもっと他にも手は思いついたのでは?」

「ふむ、そうだね」

イオは考える いや悩む、イオは聡明な男だ にしてはノーブルズ解体はやや思い切りがいいというか、学園に秩序をもたらすだけなら態々長く続いた伝統であるノーブルズを解体するとは思えない、ましてや 伝統を重んじるコルスコルピの王なら尚更

「…こちらは、自分勝手な話になるが …いいか?」

「構いません、せっかく仲直りしたんです イオさんのこともっと聞きたいですよ」

「そうだね、学園の為 もうノーブルズはない方がいい、というのは反ノーブルズ派に対する意味合いだけではないんだ」

「というと、他にも何か?」

「アマルトのためだ、…この一年 私は最も近くでアマルトを見続けてきた、…君達を潰そうと躍起になりながらも何処か気怠げな彼を見ていて思ったんだ、アマルトはノーブルズがある限り 自分と向き合えないと」

そりゃ、思ってた以上に思い切りがよすぎるぞ、友達のために伝統を捨てるのか…いや イオにとってアマルトはそれだけ大切なのか?

「アマルトは理事長になるべきだ、絶対に理事長になるべきなんだ…だが 今のままではアマルトはきっと理事長にはなれない、なってくれない だから、その為なら…」

「イオさんもタリアテッレさんと同じことを言うんですね」

タリアテッレさんはアマルトを理事長にするつもりだ、それは長く続いた伝統を アリスタルコス家の役目をアマルトに守らせる為に、イオも きっとそれと同じなのだろう

そう思っていた、エリスの言葉を受けて 目を鋭くするイオを見るまで

「違う、タリアテッレ殿達の言う理想は関係ない、…アマルトがなりたいのはアリスタルコス家の理想である理事長じゃない、彼が夢見る 指導者たる みんなの理想である理事長なんだ」

…ん?ちょっと待て、夢見る?アマルトが夢見ているのは、理事長なのか?…あんなに学園のことを嫌ってるのに?

「なんだ?アマルトは結局理事長になりたいのか?」

「彼は元々理事長を心目指す男だった…、それを 踏みにじったのがアリスタルコス家の理想だ、アリスタルコス家の理想の理事長と アマルトの理想の理事長は違う」

……アマルトの瞳の中に燻る炎、その正体が なんとなくわかった

彼は学園を捨て 理事長の役目を捨てようとしながら、それでも学園を捨てきれず夢を捨てきれていない、反証的な事態ではあるものの 結局アマルトは理事長になりたいのだ

うーん、彼の夢は分かった だが、彼自身を理解できたかといえば程遠い…

「イオさん、…教えてもらえませんか?、アマルトに何があったか」

なら、やはり 知るべきなのかもしれない、アマルトの過去を…でなければエリスはきっと、アマルトに相対できない

アマルトについて教えてくれとイオさんに頼み込む…すると

「別に構わないが、今から話すと遅くなる…また今度でいいかな」

断られた、まぁそうか…もう夜も更けてきたもんな、もっと落ち着ける時に聞こう、何 焦らなくてももうイオさんとは和解した、いつだって話は聞けるさ

「分かりました、ではまた後日」

「ああ、…ではまた、次会うときまでに私も学園の改革についての話をまとめておく、今からだと少し時間がかかるから、解体そのものは冬季休暇あたりに本格的に話が動くと思う、もしかしたら相談するかもしれん、予定を空けておいてくれ」

また長期で外出すると思ってるのか、…余程一ヶ月放置されたのがトラウマかもしれないな…うん、冬季休暇の予定は空けておこう

いいですよね ラグナ?と首を傾げながら袖を軽く引っ張ると彼も頷いてくれる


これで、エリス達のノーブルズ達との戦いは終わった、後はアマルトだけだ 彼と話をつければ全部終わる

…エリス達の学園での戦いも、ようやく大詰めだ
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