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六章 探求の魔女アンタレス
132.孤独の魔女と友達の友達
しおりを挟むエリス達はノーブルズの一角 カリストとの戦いを終え、再び平穏な日々を取り戻すことが出来た
女子生徒は皆元に戻り それぞれの生活に戻る、カリストによって生み出された混沌も 時間という波には敵わない、どれだけかき乱されても 一ヶ月も経てば本来の形に戻るのだ
一ヶ月、本当に平和な日々だった いやまぁ何もなかったかといえば嘘になる
カリストに率いられていた木っ端の雑魚ノーブルズが時々刺客を差し向けてきた
ある時は剣術科の生徒に囲まれる時もあった
ある時は食事に毒を盛られることもあった
ある時は教師にいちゃもんをつけられて成績を落とされそうになった
その都度 みんなで協力してなんとかした
剣術科に囲まれた時はエリスとラグナが協力して全員ぶっ飛ばした、ラグナは強かった ほぼ全員をワンパンでぶっ飛ばしていた…
食事に毒を盛られた時はメルクさんが気付き錬金術で毒を無毒化した、曰く毒を見抜くのは権力闘争の必須スキルらしい
教師にいちゃもんをつけられた時はデティが理詰めで言い返し逆に教師を言いくるめた、魔術理論云々で彼女に勝てる人間はいない
クライスさん達の反ノーブルズ組織 アコンプリスも気がつかない間にドンドン大きくなって行く、なんでもカリストに操られていた女子や迫害された男子の中から結構な数が参加を志願してきたようだ
ついでに言うとミリアさん…例の成金お嬢様も加わった、なんでも
『私がスポンサーになってあげますわ!、ノーブルズに恥をかかされて放っておけますか!、私を怒らせた事後悔させてあげますわー!おーほっほっほっ!』
だそうだ、まぁ ノーブルズに逆らう組織があると知って調子よく参加してきたようで、多分アコンプリスが無ければ泣き寝入りしていただろう
ただミリアさんは商家の娘ということもあり、結構有能だ 何が有能って人事の割り振りが上手い、その手練手管の巧みさはメルクさんも太鼓判を押すほどだ、
人の得意不得意を見抜き、信用できるかどうかも見抜く 、能力が低い人間には相応の仕事を 能力がある人間には相応の仕事を、簡単な事なようでそれを一人で行うのは難しい
あの成金娘感に騙されていたが、彼女だって有力な存在なのだ、そんな能力もありクライスさんと並んでアコンプリスを運営する中心的存在に瞬く間に成り上がった
まぁ、アコンプリスもメンバーが増えたこともあり これからは情報集めと共にノーブルズに虐められている人間 迫害されている人間の保護も行えるようになった、お陰でノーブルズに目もつけられたが
ノーブルズもかなり弱体化した、ガニメデ カリスト、その二枚看板を抜かれたせいでノーブルズの中でも権力争いが起きているようだ、二人の後釜になるのは自分だと
イオもその混乱を収めるのでいっぱいいっぱいと見え、今までのようにエリス達に仕掛けてくる様子もない、アコンプリスも今日明日滅ぼされることはないだろう 何より彼らの扱いはエリス達の下部組織って扱いだしね
なので、一ヶ月 平和に過ごせた…
ああそうだ、あと大きく変わったことがあるとするなら、エリス達の学園内の評価だ
「メルク様!おはようございます!」
「ああ、おはよう」
「今日も美しい!、流石はメルク様です!」
「フッ、見え透いた世辞だな だが…悪くない」
「きゃーっ!」
メルクさんが少し歩けば女子生徒にキャーキャー言われる、カリストの魅了でそっちの趣味に目覚めた子達はみんなメルクさんに靡いた
元々クールで見目麗しい出で立ちのメルクさんが憂げに軽く微笑む、エリスだってキュンとしてしまうんだ、そっちの趣味の子にはたまらないだろうな
メルクリウス親衛隊が生まれるのも時間の問題ですね?、と言ったら青い顔をして
『親衛隊という言葉はしばらく聞きたくない』
と言われた、まぁ…分かるよ エリスもあれは苦い記憶として残ってますから
「ラグナの兄貴!今日も剣術見てくれないか!」
「ん?構わないよ、上達したか?」
「兄貴のおかげでグングン伸びてるよ!、流石は兄貴だ!」
「そりゃよかった、俺も昔剣術をやってたからな 役に立てたら嬉しい」
ラグナは男子に人気だ、特にガラの悪そうな…いやちょっとヤンチャそうなのにだ、騎士の家柄の人間ではなく身分の低い村の出の子達だ
やはり剣術科内にも身分差による差別はあるらしく、そんな立場の弱い人間達に指導をしたところ大反響、今ではラグナの周りには剣を抱えた人間がわんさかやって来る
男は誰しも強さに憧れる、そしてラグナはその強さを持ち カリスマ性も持ち合わせる、故にこそみんな彼を兄貴と慕い指導を乞うようになった
「デティ様?今日はケーキを作ってきました」
「マジでー!食べたーい!」
「こっちはクッキーを焼いてきましたよぉ?、はい アーン」
「あーーーん…むひゃー!うまひー!」
「きゃー!、かわいいぃー!」
デティも人気だ、あのちっこい体と子供っぽい反応、みんなこぞってお菓子を作ってきて彼女に与えている、最近じゃ学園に行くだけでお菓子の山が彼女を待っている
もう完全にマスコット状態、最初は可愛い可愛いと撫でられるのを嫌っていたが、お菓子に餌付けされた彼女はもう抵抗しない、みんなにお菓子をご馳走されて幸せそうに頭を撫でられている
なのでお家ではお菓子は我慢だ、デティからは泣かれたが…食べ過ぎです、太って虫歯になったらスピカ先生に怒られますよ?というと渋々従ってくれた
そしてエリスは……、どうだろう さして変わってない、あんまり話しかけられていない
誰かに慕われているとか 何かを頼まれるとか、そういうことはしない、まだピエールのネガキャンが効いていて嫌われているんだろうな
と思っていたのだが、ラグナ達やクライス達から話を聞くとどうやら嫌われているわけではなさそうだ
『影の参謀』『鉄の女』『怜悧の魔術師』
さてこれなんでしょう、正解はエリスの二つ名だ 好意的…ではあんまりなさそうだが、エリスはどうやら嫌われているのではなく畏れられている 良い意味で
なんでも『ラグナ大王が最も信を置く参謀である』とか『一行の影担当』とか『経歴の全てが謎に包まれた女』とか、色々憶測と噂が飛び交っている
エリスはあまり 社交的な方ではなく、人のいるところではあまり笑わないことからクールでミステリアスな雰囲気を持つ女と学園中に知られているようだ
思えばガニメデからも似たようなこと言われた気がする、クールでミステリアスで黒の似合う女と
喜んでいいのかはわからない、だが嫌われている感じはしないので別のよしとする、偶に憧れの視線のようなものも感じるし、別にね
…そんな感じに、エリス達の学園での立場はかなり向上した ノーブルズ達の人気や敬いが低下した分こちらに向いた形だ
横暴を働くノーブルズ達に対する対抗馬として頭角を現したエリス達は生徒達からの人気も高く、あんな恐ろしいノーブルズ達につくくらいならこちらにつくと言った具合だ
当然ノーブルズや身分の高い生徒、親ノーブルズ派の教師からは白い目で見られるものの、数の力は強力だ
ノーブルズ対エリス達とアコンプリス…この二つの勢力が拮抗する日は近いだろう、そうなれば学園は二分される
……それが、正しいことなのかは 分からないが
…………………………………………………………
「さてと、今日も何事もなけりゃいいが…」
エリス達は今日も学園に登校する、何がどう変わろうとも学園で授業を受けることに変わりはない、エリス達四人はいつものように四人並んで校門を通り過ぎる
すると
「せーの…メルク様ーーっ!」
団扇をパタパタと振り メルクリウス様命と書かれた法被を着込んだ女子生徒の一団が出迎える、ここ最近は見慣れた光景 カリストに植え付けられた子猫根性は根深いようだ、あれももう立派にメルク親衛隊 …それを見てメルクさんは
「や…やめてくれ、流石にそれは」
流石に親衛隊は嫌なようだ
いや、出迎えがあるのはメルクさんだけじゃない
「おおー!ラグナの兄貴!おはよー!」
「おう、おはよ」
「デティちゃーん!今日はシフォン作ってきたよー!」
「やったー!後で食べに行くねー!」
ラグナもデティも大人気だ、その立場云々を抜きにしてもみんなのカリスマ性というのは変わらない、三人のシンパは学園内にも増えてきている ノーブルズも無視できず そして簡単に手出しもできないほどに
「…おい、エリスさんだ」
「ああ、影の参謀の…」
「色々言われてるけど、私は好きかな…あのクールな感じ」
ふと、エリスの噂話も聞こえてくる、昔は色々言われていたけど…人気が出た途端手のひら返し、悪くはいうまい 人とは旗と同じ、風の流れる方へとはためく物 エリスも印象で人を決めつけたことがある
結果として被害を被ったが 今あそこで噂話をしている人たちがエリスに何をしたかエリスはわからない、ならば悪い顔はすべきではなかろう
とりあえずそういうミステリアスなイメージを守るため無表情で無視する、これでいいのかな なんかもっとミステリアス感出したほうがいいかな、こう 怪しいローブ被ったりとか、仮面被るとか
いやそれはもうミステリアスというより不審者だな…
「エリス」
「ん?」
すると、呼び止められた ラグナにじゃない 女性の声だ、でもデティでもメルクさんでもない、なら別の生徒か?しかしエリスをこんな風に呼ぶ生徒はいない、エリスは嫌われてはいないが避けられてはいる
なら誰か?、考えるまでもない エリスは覚えている、この声を…振り返りながら思い出す、その声の主と彼女との思い出を、今も脳裏に焼き付く地獄の中で見つけた唯一の友人
「バーバラさん!」
「よっ…、久しぶり」
バーバラさんだった、彼女がやや制服を着崩しながら なんだか挨拶しづらそうに手を上げていた
バーバラさん、バーバラさんだ ピエールの手によって重傷を負い、今日この日まで入院していたエリスの友人、この学園で出来た初めての友人…それが エリスの前で制服を着ている、つまり彼女は…
「バーバラさん!、傷はもう良いのですか?というか今日から学園に?」
「うん、おかげさんでもうバッチリよ、筋力は結構落ちたけどね」
もう万全 と彼女は笑う…だが、あの怪我 手足はあちこちから血が吹き出て骨はバラバラに砕け皮膚を破る重傷…ローラ先生も言っていた、もう昔のように動けないと、つまり 彼女の目指した魔術と武術を両立させる武闘家にはもうなれないということで…
「…バーバラさん、その…」
「大丈夫だよ、筋力は落ちたけど 昔みたいにまだ動けるから、怪我して入院してる時 なんか高級ポーションを誰かが差し入れてくれたみたいでさ、おかげで後遺症も殆どなし!…まぁ 医師の判断で結構な間入院してたけどさ」
「え?ポーション?」
ポーションが?、確かに高価なポーションは時として治癒魔術師を上回る、後遺症さえ残さず傷を治すこともできるかもしれない、されど中々手に入らないから高価なのだ、場所にもよるが治癒魔術師の少ない地では効果の良いポーションは家と同じくらいの値段で取引されることもある
ここはそこまでではないにせよ あの傷に効果のあるポーションとなると相当な値段なのではないか?、しかも結構な量 となれば値段は然るべきもの
…誰だ、そんな大枚叩いて彼女を治療してくれた人間…しかも名前を伏せているときた、一体何者…?
うーーん まぁいいか!、うん!考えたってわかんないもん!、というより今は喜ぼう!わーい!やったー!バーバラさん完治!復活!、これでエリスも胸を撫でおろせる
…良かったぁ
「アタシの事心配してくれてたんだね」
「え?…はい、とても」
「だよね、聞いたよ…あの後ピエールに文句つけに行ったって、ありがとう そしてごめんね私のせいで」
「バーバラさんのせいじゃありませんよ」
バーバラさんはエリスの為に怪我をした、ならエリスも怪我くらいする覚悟はあった、なんて言っても彼女は責任を感じるだろうが、それでもエリスは彼女に感謝している 感謝している相手には出来る限り笑っていてほしい、エリスのためになんか間違っても涙なんか流して欲しくない
…今日からバーバラさんも復学か、危惧していた怪我の後遺症もないみたいだし、何回も言うけれど 本当に良かった、いろんな意味で
「ん?、どうした?エリス…その人は?」
するとエリスと話しているバーバラさんが気になったのか ラグナ達三人が寄ってくる、そうか 三人共会うのは初めてか
「エリスちゃんの知り合い?」
「むう、もう学園に在籍して結構経つが、見覚えのない生徒だな」
「エリス、知り合いなら紹介頼めるか?」
「ああはい、紹介しますね…みんな この人が以前言ったエリスの友人のバーバラ・マジェスティックさん 、ちょっと強引ですけど 友情に熱い優しい子です」
「や 優しいって!?あ アタシが!?…まぁいいや、紹介に預かったバーバラよ!、…アンタ達エリスと一緒にいるってことはエリスの友人?、アタシ以外に友人の居なかったエリスに友達ができたのね 嬉しい限りだわ!」
そう言うとバーバラさんは抱拳礼でラグナ達に挨拶する、その様を見てなんとなくみんなも色々察したのほうと息を吐き、ラグナは抱拳礼を見てなんか嬉しそうにしてる 自分の国の挨拶だからか
そう言えばバーバラさん、アルクカース出身でしたね
「エリスちゃんの友達!、そっか 貴方が私たちの居ない間エリスちゃんを守ってくれてたんだね!ありがと!」
「なんだこのチビ、これも学生?、飛び級?偉いねぇ」
「どぅあわれぇがチビじゃあい!見下ろすな!ひれ伏せ!地べたに!寧ろ埋まれ!地中に!」
「いやチビだし…」
「むきーー!!」
「まぁまぁデティ、では紹介しますね こちらデティ…デティフローア・クリサンセマム こう見えてアジメクでは魔術導皇をしている魔術界のトップです、優しい子ですけどチビは禁句ですよ?」
「こう見えてはよけー!」
「……は?魔術導皇?」
するとバーバラさんは目を丸くしてポカンと口を開ける、エリスの言ったことが信じられないと言う顔だ、気持ちは分かるが このくらいで驚いていたら気がもたないよ
「そしてこちらがメルクさん…メルクリウス・ヒュドラルギュルム、こちらはデルセクト同盟にて同盟を仕切る同盟首長をされている方です、世界一のお金持ちなので金銭感覚が狂ってます」
「狂ってる…のは事実だが!もっと紹介すべきところがあるのでは!?」
「同盟首長?デルセクトの一番…偉い…人?」
そう、偉い王様達よりなお偉い同盟首長、本来ならエリスなんかが口をきいていい人間ではないが、そう言う敬った態度をするとラグナ同様物凄く悲しい顔をされるのでそう言う態度は控えているのだ
「ちょちょ!ちょっと待ってエリス!、アンタなんて人達と友達になって…」
「そして、この人がラグナ…ラグナ・アルクカース 、バーバラさんは知ってるかもですがアルクカースの大王です」
「ご紹介に預かりましたラグナです、見た感じバーバラさんも俺と同じアルクカースの…」
「ラグナ大王ぉぉぉぉぉっっ!?!?!?」
刹那、バーバラさんの姿が消える 否、地面に平伏したのだ もうペターンと張り付くように頭を地面に擦り付け悲鳴をあげて土下座するのだ、…アルクカースの村娘のバーバラさんからしてみればアルクカースの王であるラグナはまさに天上人、それは魔術導皇や同盟首長よりもなお大きな存在で…
「し しし 知らなかったとは言えご無礼をぉぉーーっ!」
「い イヤイヤ、そんな敬わないでくれ、俺もバーバラさんにはエリスを守ってもらった恩が…」
「や やめてください!、バーバラさんなんて 呼び捨てでいいです!、あの伝説の継承戦を勝ち抜いた若き王にして魔女アルクトゥルス様のお弟子様!、あ アタシなんかが口を聞いていい存在じゃ…」
「バーバラさんにも王を敬う気持ちがあったんですね」
「っ…エリス!」
すると今度はまた一瞬で立ち上がりバーバラさんが詰め寄ってくる、その顔には冷や汗がダラダラ 鬼気迫る顔だ、ちょっと怖い
「アンタ分かってんの!?魔術導皇 同盟首長 そしてラグナ大王!?、友達にしていい相手じゃないのよ!分かってる!?、あ アンタも直ぐに頭を下げないと…」
「いや、エリスは俺たちにとって特別なんだ 敬ったりとかそう言う態度は俺たちの方から止めさせてる、エリスは俺たちにとって何にも掛け替えのない友人だからな」
「ゆ…友人?…」
そこでエリスは説明する、ラグナ達とは何もこの学園で出会ったわけではないこと、今までの旅を通して友達になった人物であり エリスに取っても掛け替えのない親友であることを、それを聞いてバーバラさんの顔がみるみる青くなり
「あ アンタ…凄い人だったのね」
「エリスはそんなに凄くないですよ、ラグナ達が凄いだけです」
「エリスちゃんはすごいよー!、私のことを命がけで助けてくれたんだから!」
「私もそうだ、エリスがいなければ私は同盟首長になれないどころか もしかしたらデルセクト自体なくなっていたかもしれん」
「アルクカースも同じだ、エリスが居なかったら俺は王にはなれなかった、みんなにとって特別な存在なのさ」
「凄い人じゃないの!」
そ そんな責める口調で言われても…エリスはただ、必死に戦っただけで…みんなとはそう言う打算抜きで付き合い、行動を共にしただけだ
「……え エリスさん」
「エリスでいいですよ、これからもよろしくお願いしますバーバラさん、ライバルとして」
「ほう、バーバラさんはエリスのライバルなのか」
「いいねぇ、ライバルか いい響きじゃんかよ」
「うう…」
バーバラさんは完全に気圧されている、別にエリスが凄いんじゃない エリスはただの旅人 、だが引き連れている人間が人間ならば一緒に見られるか…
だがそれでエリスが偉くなったわけでもないので、偉ぶることはしたくない…だって友達の権威を間借りしてるみたいで嫌だから 、彼らの権威を敬わないならそれも利用しない、それがケジメだ 線引きだ
「…なぁバーバラさんよ」
「な なんですか?ラグナ大王」
「いきなりで悪いが 君が襲われた瞬間のこと、聞いてもいいか?」
ラグナの目が鋭くなる、と共に気圧されていたバーバラさんの顔つきも変わる、襲われた時のこと…つまりバーバラさんが重傷を負った時のことだ、あれは嫌な事件だった
しかし、思ってみれば不思議なことがある…それは傷だ
「バーバラさんはさ、手足をズタズタに引き裂かれて倒れてたんだよな、…はっきり言って凄惨すぎる、俺その傷を見たわけじゃないからなんとも言えないが 普通の生徒がそこまでするとは思えない、何があったんだ」
傷つきすぎなんだ、まるで手脚がねじ切られる勢いで傷ついていた、あの時は激昂していたから気づかなかったが、ピエール達がそんな残酷なことするか?、あいつら小物だ やったとしてもボコボコにする程度だ、あんな怪物に襲われたような怪我をピエール達でやったとは考え難い
バーバラさんには辛いことを思い出させるが、聞いておきたい 何があったのか、そして答えによってはエリスは今からピエールを縛り上げて火炙りにする
「……実はさ」
するとバーバラさんはその重い口を開き…
「分かんないんだ、後ろから襲いかかられてさ、気がついたら病院のベッドの上で 何があったのか、てんでさっぱりなのよね これが」
たははは~ とバーバラさんは笑う、つまり…誰に襲われたか分からない?
いやそうじゃない…そうじゃないぞ、つまりバーバラさんは ピエール達と邂逅したわけじゃない ってことだ
バーバラさんがピエールに襲撃をかけたならまだ分かるが、ピエールと会ってもいないのにピエールがそんなことするわけがない、だってピエールは絶対に向こう側からは暴力的な行いに出ることはなかったのだから
…なら、一体誰が 何のために…
「……そうか、分かった」
「ごめん、いやすみません…心配してくれてんのは分かるんだけど、アタシには何があったかさっぱりなんだ」
エリス達には重い空気が漂う、…もし もし犯人がピエールじゃないなら、バーバラさんをあんな目に合わせた何者かが、この学園に潜んでいることになる
鬼のような所業をしておきながら、平気な顔で 何食わぬ顔で学園に居座り続ける何かが、そう思った瞬間 唐突に恐怖が湧いてくる、…もしかしたら エリス達の敵はノーブルズだけじゃないんじゃないか?
「…まぁこの件は俺達でも考えておくよ、それよりバーバラ 復学おめでとう、そしてエリスを今まで守ってくれてありがとう、この礼はいつか必ずするよ」
「ひぇぇ…ラグナ大王、そんな…大丈夫ですよ、だって 友達を守るのは当然でしょ?」
ねっ!とはにかむバーバラさん、嬉しいことを言ってくれる というか凄く嬉しい、彼女のこの顔にエリスもどれだけ救われか
…バーバラさんが学園に復帰したなら、今度はきちんと守り抜かないと、またあんな惨劇起こしてなるものか
「ん?、お前…」
すると今度は後ろ、学園の側から声が聞こえる あっちこっちから声かけられてクルクル回るようだが今度はそちらに目を向ける、何せその声は無視できない声だったから…
「ピエール…!」
「ゲェッ!エリス!とバーバラ!」
ピエールだ、彼の後ろには取り巻きとみられる人間が2~3人 、お得意の人の壁を形成するにはまるで足りない、取り巻きの数が目に見えて減っている エリス達の台頭とノーブルズの弱体化にの煽りを彼も受けているようだ
「…バーバラ、お前…もう退院したのかい?、目障りだからとっとと消えてくれても良かったんだけどね!、なんなら今からでも退学になるかい?、また僕に虐められるのが関の山だよ!」
「ピエール!貴方!」
「ヒェッ!ぼ 暴力反対」
エリスがひと睨みすればビクビクしながら少ない取り巻きの背後に隠れる、取り巻きの勢力と共に態度も縮小したか、或いはエリス達がガニメデとカリストを倒したことから自分も同じように叩きのめされると思ったか…
そんな身を乗り出して睨みつけるエリスを止めるのは
「やめてよエリス、いいよ これはアタシの問題なんだからさ」
バーバラさんだった、いつもはエリスが止めるのに 今度は逆に止められてしまった、するとバーバラさんはエリスを後ろに下げピエールの方へ向かうと
「ピエール!」
「な なんだよう!」
「また宜しく頼むよ、かかってくるならいつでもかかってきな!アタシは絶対折れないからね」
「………………」
ピエールはバーバラさんの言葉を受け、何やら複雑そうな顔をしつつ取り巻きの後ろに隠れてしまい、黙ってしまい そのまま何も言わずにクルリと踵を返し逃げるよう立ち去る
なんだ?なんか一言くらい憎まれ口でも叩きそうなもんだと思ったんだが…
「へぇ~、ほぉ~、ふふぅ~ん?」
「何を笑ってるんですか?デティ?」
「にへへ、内緒」
「?」
何やら笑ってるデティ、されど内容は教えてくれなかった なんだなんだ?エリスには何も分からないぞ、なんかメルクさんも顎に手を当てて満足げに笑ってるし
…まぁ分かったことは一つある
バーバラさんの重傷事件、それにピエールが関わっていないことだ 、もしピエールが実行犯だったとするならば、バーバラさんを見てもう少し慌ててもいいのに
…すると、エリスは早合点でピエールに襲撃をかけてしまったことになる、…なら謝らねばなるまい、でもその後エリスも彼に手酷く虐められたし…トントン?いや、彼に謝罪を求めるならエリスも謝ろう
「さてと、んじゃエリス 授業行こっか」
鞄を肩から背負い ニッと笑うバーバラさん、ともあれ バーバラさんが戻ってきてくれて良かった、これでアレクセイさんもいれば前のエリス達三人も元通りなんだが…
アレクセイさんはあれからエリスに全然関わってこない、授業でチラリと姿は見るものの エドワルド先輩とずっと一緒にいるようで、…寂しくはない 寂しくは、そういうこともあるだろう エリスがラグナ達という友人を得たように、アレクセイさんも新たな友人を得るものだ
なんだけどなぁ……まぁいいか
……………………………………………………
その後エリス達は魔術薬学の授業を受け休憩時間を迎える、長い間療養を取っていたバーバラさんに取っては難しい授業だったかもしれないが そこはデティフローアさんだ
分からないところを的確に見抜き 薬学のレクシオン先生そっちのけでバーバラさんに授業をしていた、レクシオン先生もデティの講義を前に注意するのではなく むしろ逆にメモを取る始末
まぁともあれデティが居るなら授業についてこれないってことはないだろう
そしてそれから休憩時間になり、エリス達は中庭に集合 もう食堂の修繕は終わっておりそこで食事も取れるのだが、エリス達が食堂でご飯を食べると毎度面倒臭い事に巻き込まれるのでやめておく
「アコンプリス?」
いつもの四人に加えバーバラさんという新しいメンバーを加えた食事会、話題はバーバラさんのいなかった時間のことだ
ラグナ達と共にノーブルズと戦い その中心メンバーの半分を削り切ったという事、そして アコンプリス…
「はい、クライスさん達が主導でエリス達の後方援護をしてくれる組織の名前になります」
「クライス達が?アイツらエリスに協力してくれてんの?、大丈夫?」
バーバラさんに取ってクライスさん達はただ嫌味な相手でしかないだろう、まぁ嫌味であることに変わりはないんだろうが、それでも彼等は真摯にエリス達の味方をしてくれている
「大丈夫ですよ、皆さんいい味方です…ね?ラグナ」
「ああ、俺たちの手の届かない所でノーブルズの権威に怯える生徒を助けてくれている、その本心はノーブルズ達への敵意や怨恨からだろうが、それでも俺たちの味方であることに変わりはない」
「ラグナ大王が言うなら信用できるんだろうけどさ…、へぇ アイツらも味方に引き込んだんだ」
「味方に引き込まれたのではない!共闘姿勢を取ったのだ!」
「ひゃひっっ!?」
突如、背後から上がった声に飛び上がるバーバラさん、まぁ位置関係的にエリスには見えてたので驚くことはないが…クライスさんだ、いや彼だけではない
彼の率いる組織 アコンプリス、そして最近クライスさんの側近として頭角を現しているミリアさんが何やらポーズを決めて立っている
「クライス!?ミリア!?」
「久しいな野蛮娘!、後遺症もないようで何より!」
「私達も心配はしてましたのよ!赤子の産毛ほどですが!」
「あ…ああ、あんたら変わったな、こんな愉快な奴らだったか?」
関わり関係を持てば人間も愉快に見えるものだ、元々キャラの濃い人達でしたからね それにノーブルズからの抑圧も無くなって最近はこの人達もイキイキしている
…ただ、このアコンプリスの活動の幅は最近大幅に広がっている、それが 何か…引っかかるんだ、違和感というより喉の奥に何か引っかかったような、何かを
そう思いラグナを見るもメルクさんを見るも、みんな特に何かを感じている様子はない、思い過ごしか?
「それよりクライス、どうした?人数引き連れて現れるなんて珍しいな」
ラグナが地べたに胡座をかき、弁当をかきこみながら問う、確かに アコンプリスは飽くまで影の組織、エリス達と接触する際は内密に接触していたはずなのだが
「いや何、カリスト打倒の礼をするのが遅れたのでな、ラグナ 君たちのおかげで助かった生徒が何十 何百といる、ノーブルズ被害者の会でもある我等が代表して礼を言いに来た」
「いいよ別に、お前に頼まれてやったわけじゃないからな」
「そう言ってくれるな、ここにいるミリアも カリストの所為で危うく実家の金に手を出す所だったんだ」
「私としたことが不覚でした、瞬く間に操られ親衛隊の隊費を出す所だったんですわ」
「…………」
メルクさんも何やら痛々しげな顔をしている、親衛隊をやらされていた時の記憶は思い出したくないという様子だ、…まぁエリスもですが
カリストの魔術は強力だった、エリスでさえ彼女為ならなんでもしそうになったのだから、デティとラグナには感謝が尽きない
「私は仇を仇のまま放置しません!、必ずや復讐してみせますわよ!」
「程々にしろよ、実害自体は無いし カリストも反省したんだから」
「そうは言いますが!……まぁいいでしょう、他ならぬ貴方の言うことならば従います」
「うん、そうしてくれ」
「…そして、一つ いいかね?」
…真面目な雰囲気だ、話がひと段落したから本題に入ると言わんばかりの、その顔を見てラグナもキリリと顔を整えて…あう、カッコいい
「なんだ?」
「もうすぐ学園に入って一年が経つ、来年になれば当然 新しく入学生が入ってくる、我らの後輩が出来るのだ」
そうか、もうそんな時期か、なんか瞬く間に時間が過ぎたからそんな感覚はなかったが もう一年か…
そして来年になれば新しい人間が学園に現れる、エリス達に後輩が出来るのだ、まぁ エリスの心配することは『入学生代表バシレウス・ネビュラマキュラです』って言ってバシレウスが入学してこないことを祈るばかりだが
「それがどうかしたか?」
「当然ながら新たにノーブルズが追加されることも意味する、…噂によると来年 新たにかなり有力な人間が入学してくるとも聞いている」
「…中心メンバー級のか?」
「ああ、国軍総司令ニュートン家 財務大臣ケプラー家 法務大臣ガリレイ家 これらはこの国でも古くから王族コペルニクス家を支えた『王国四支族』と呼ばれる家系なのだ」
ほーん、古くからこの国を支える偉い家系だったのか あの人達、通りで他のノーブルズとは一線を画す存在だと思った、多分デルセクトに於ける五大王族みたいなもんだろう、あっちは任命制だけどさ
…うん?
「『四』支族じゃ 一つ足りませんよ?」
「ああそうだ、そしてその最後の一つが来年入学してくる…名をアドラステア・フィロラオス、魔術大臣を代々継承するフィロラオス家の跡取りだ」
ここに来ておかわりか、中心メンバーを二人削り 奴らの勢力を半分にしたと思ったら追加で一人…少し目眩がしてしまう、ガニメデもカリストも一筋縄の相手ではなかった、そんな戦いが一つ追加か…
「へぇ、魔術大臣の家の…で?そいつ厄介なのか?」
「厄介も厄介、恐らく今いる中心メンバーを入れても 奴に敵うのはアマルトくらいなもの、幼い頃より凄まじい魔術の才を持ち合わせていてな…年齢はエリス君とデティフローア様と丁度同じだった筈だ」
「へえー、私とエリスちゃんと同じかぁ、仲良くしたいけどなぁ」
とデティは呑気にのたまうが、エリスは戦慄する 戦慄するよそりゃ、だってエリス達と同じ歳という事は同じ年に生まれたという事…当たり前だけどさ
つまりそれはエリスとデティと同じ 魔蝕の加護を受けた子供の可能性がある…という事だ
師匠曰く魔蝕の年に生まれた子供全てが才能を持つわけでは無いというが、クライスさんの話に出てくるそのアドラステアは 幼い頃から魔術の才を持つというでは無いか
…ほぼ、確定と見ていい
魔蝕の才能は凄まじいものだ、エリスの識を操る才能 デティの心を読むレベルの魔力感知の才能、そしてバシレウスの全ての才能を持ちあわせる存在 エリスの知る魔蝕の子だけでもこれだ
相当な強敵だろうな
「まぁ、どんな奴が現れても油断はしないさ、立ち塞がるならな」
「無論だ、今度は私も不覚は取らん…」
「魔術大臣ならまた私の出番かもね!そっち方面なら私無敵ですので!ですのでッ!!」
ババン!と立ち上がるデティ、まぁ確かに魔術方面を指揮する立場にある大臣なら 普通にデティに逆らえない筈だ、もし権力で攻めてくるならデティに任せればいい
だが、力任せで来た場合…うん、油断しないでおこう
「へぇー、エリス達ほんとにクライス達と一緒にノーブルズと戦ってるんだな」
そんなエリス達の様を見て弁当を食べ終わったバーバラさんがポツリと呟く、しまった 彼女を仲間外れにするつもりはなかったが、些か蚊帳の外だったか…
「やっぱ学園の平和を守るため?」
「それもありますが、エリス達的にはアマルトと決着をつけたいので 彼の逃げ道を塞ぐ意味合いも込めて戦ってるんです」
結局 エリス達がこの学園でノーブルズを抑え天下をとっても意味がない、アマルト…魔女の弟子でもある彼と決着をつけなければ エリス達が今後魔女の弟子達で集結することがあった時 遺恨を残すことになる、出来るなら それは学園の外に持ち出したく無いからね…
「そっか…」
というとバーバラさんは徐に立ち上がり
「なぁ、ラグナ大王 無礼を承知で頼むが…アタシと決闘しちゃくれないか?」
無骨な籠手を嵌めながらバーバラさんは言う、いやいきなり何を!と言葉を挟もうとしたが
…バーバラさんの目は 顔は 真面目そのもの、真剣にラグナに決闘を挑んでいるんだ、その気迫を受けラグナも目を鋭く尖らせ
「…構わないが、理由を聞いてもいいか?」
「あんたらこれからもノーブルズとやりあうんだろ?、戦いはこれからも激化するだろうな…アタシじゃ想像もできないくらい」
「だろうな、向こうもなりふり構わなくなるだろう」
「だよな、…あんた達はアタシに『今までエリスを守ってくれてありがとう』とアタシに言ったけどさ、いつアタシがエリスを守るのを投げ出してあんた達に任せたよ…アタシはまだエリスを守るつもりだ、だから エリスを守るに足る力を持つかどうか 見させてくれ」
まだ バーバラさんはエリスを守るつもりだと言う、だからラグナ達がエリスを守るに足るか これからも守り続けられるか それを見たいと言うのだ
エリスとしては、こう…言いづらいがバーバラさんがラグナに勝てるとは思えない、多分バーバラさんも同じことを考えていると思う、だが それでも身を以って確認したいんだ
もし、ラグナ達にその力がないと判断したなら…彼女は
「もし!あんた達にエリスを守る力がないと判断した時は!アタシがエリスを守る!あんた達には手を出させない!いいね!」
「エリスを賭けて決闘…ってことか、分かった 受けよう」
「ラグナ!?何言って…」
「エリス、悪いがこれがアルクカースの流儀なんだ、拳じゃないと確認できないことがあるんだ、だよな バーバラ」
そう言いながら立ち上がるラグナ、止めようがない メルクさんもデティも止めない、バーバラさんも受けて立つつもりだ…
友達と友達が戦う しかもエリスのために、言い知れない気持ちに止めていいのか止めなくてもいいのか判断できない
「正式な形の決闘ならば学園も許可している、事後承諾にはなるが私の方から申請は出しておこう」
「ありがとうよ、クライス」
「……ラグナ大王!アタシが勝っても文句言うなよ!」
「言わねぇし、言わせねぇ…誰にも文句なんかな」
そう言うとクライスさん達は離れ バーバラさんとラグナがエリス達から距離を取り、広い中庭のど真ん中に並び立つ
「と 止めなくていいんでしょうか」
「いいんだ、ああ言う形でしかバーバラも納得や理解できない部分があるんだろう、だから相手がラグナなのさ」
そうは言うが…、ああもうだめだ 二人とも戦う
静かに、風が芝を撫で 音を奏でる、その上に構える二人の戦士
バーバラさんはいつもの籠手を手に嵌めて 拳を握る拳闘の構え
ラグナは素手、だがあの拳が岩も鉄もぶち砕くのをエリスは知っている、それが 力も込めず 脱力した状態で前へて構えられる
…合図はない、審判などいない 故に開始の合図は
「『付与魔術・破砕属性付与!』」
「ッ…!」
バーバラさんにより行われた、踏み込み それが戦端を開く
凄まじい力での踏み込みは地面をグニャリと歪めバーバラさんのその体に神速を与える
「ぅおぉぉぉらぁぁぁあっっっ!!!」
咆哮 全身全霊と言わんばかりのバーバラさんの突撃、祖国の王だから手加減は一切無し 長い鍛錬 長い旅により得られたバーバラさんの力はそこらの戦士などよりも上だ
瞬く間にラグナに肉薄し、拳は振るわれる 破砕属性の付与されたそれが容赦なくラグナに降りかかるが
「…………」
「ゔぅぅぅぉぉあぁぁぁあぁぁ!!!!!」
当たらない、目と鼻の先でバーバラさんが全力で拳を何度も振るっていると言うのに当たらない ラグナには
弾丸の如き直線の正拳をヒラリと布のように避け 、大地より迸る電撃の如き蹴り上げも上体を逸らすだけで 彼の髪にさえ触れない、バーバラさんの連撃はまるで戦鬼のようだ 息もつかせぬ連撃 それでいて闇雲ではない合理に満ちた連撃、全ての動きが最適解の攻撃
「チィィッッ!!!」
だがそれでもラグナには及ばない、ガニメデの時と同じエリスの時と同じ、分かるよバーバラさん エリスも同じだったから、目の前にいるのにまるで遥か彼方にいるように触れられないんだ
そして何より怖いのが…
「その目…その目をやめろぉっ!!」
「…………」
力任せに腕を薙ぎ払うも受け止められる、しかも片手で軽く、付与魔術の乗った拳を 素手で受け止めるのだ
ラグナの目だ、戦ってる時のラグナの目は怖い まるでこちらの目を覗き込むように見る目はこちらの動きを見抜き…そして
「フッ…」
ラグナの腕が一瞬ブレる
「ごぶがぁっ!?」
たったそれだけでバーバラさんは馬車に轢かれたように弾き飛ばされ血を吹きのたうち回る、
殴られた 殴られたんだ、誰もがバーバラさんが倒れ伏した後理解する バーバラさんでさえ地に伏したあと己が殴られたことを自覚する、速すぎる …あまりにも ラグナの拳は
「ってラグナ!病み上がりのバーバラさんに何するんですか!」
「怪我ならデティがいるから後遺症は残らない、それに…あんな目をして向かってくるやつを相手に寸止めなんか出来るわけないだろう、そんな侮辱するような真似 俺には出来ない」
それとこれとは話が違う、侮辱とかそう言うのではなく バーバラさんは今日病院から出てきたばかりの半病人だぞ、それをあんな勢いで殴りつけるなんて…、ほら バーバラさんだってもう動けな…
「まだまだぁっ!、この程度でアタシは倒れねぇンだよ!」
立ち上がった、口から血をぼたぼた流しながら 立ち上がるなりやや滑りながらラグナに向かっていく、まだ向かうのか…まだ、そんなにもバーバラさんはエリスの事を
「ぅおりぁっ!」
向かう 肉薄する 振るう 拳を、されどその拳が届く前にバーバラさんの顔が爆音と共に歪み凹む、折れた歯と鮮血が舞いながら再び吹き飛ばされるバーバラさん
「…バーバラ、お前の友達を想う気持ちは理解出来た…、俺のエリスを想う気持ちは理解出来たか?」
地面に転がり 倒れ伏すバーバラさんに向けラグナの言葉が降りかかる、語り合っているんだ 拳で、エリスにはまるで理解出来ないが、アルクカースでは肉体言語が何よりのコミュニケーションとなる
「まだ…だろ、ぺっ…アタシの気持ちも お前の気持ちも!まだ伝わってねぇ!」
しかし向かう、ここで理解したと答えれば終わっただろう だが、それでもまだ納得しきれないとバーバラさんは向かっていく
「エリスはな!アタシの友達なんだよ!、味方のいないこの学園で唯一アタシに味方してくれたたった一人の…!」
振るわれる拳は言葉以上に語る 友情を
「そんな友達泣かせてんだよアタシは!手前の信念に巻き込んで!そのくせ守れなくて!、片意地張るのは簡単だよ!、だけど…それで友達守れねぇんじゃ何の意味もないんだよ!」
叫ぶ、声は裏返り 悲鳴にも似た声と共に叩きつけられる拳を前に、ラグナは次第に避けるのをやめ拳で受け止め始める
「アタシは…アタシはもうあんな思いはしたくない!、一人で涙を流すエリスを見たくない!そんな思いを友達にさせたくないんだよッ!」
バーバラさんの弾丸の拳が受け止められる衝撃で地面が揺れる
「でも…でもアタシはまだまだ弱いんだよ!力がないんだよ!降りかかる全てから友達みんなを守る力が!」
息は上がる 肩は撥ねあがる、全力で動き スタミナも体力も尽きただろうに、放たれる二撃目は先ほどの一撃よりも強力だ
「これから強くなるにしても時間が足りない!アタシじゃアマルトには敵わない!、…お前なら …お前なら!」
続く一撃 魂の拳、それをラグナは黙って受け止める、その目は もはや見る物はないとばかりに閉じられて
「お前なら!守れんのか!エリスを!友を!、泣かせずに!最後まで!」
血の滲む叫び 魂を乗せたバーバラさんの拳が放たれる、それはラグナの手をすり抜けて…
…………撃ち抜いた、ラグナの頭を
「…………」
ラグナの頭は揺れ、微動だにしないものの バーバラさんの拳が打ち込まれた額からは血が流れる、赤い血 …それが一筋ラグナの顔を伝い、一滴大地へと溢れる
ただ、答えない ラグナは答えない、押し黙ったままその目を開き、バーバラさんを見据える、まるで その目が答えだと言わんばかりに
ただ、沈黙だけが 空間に重くのしかかる…
時間にして数秒、だが体感では何十分もその瞬間が続いたようにも見えた……
そして
「…へっ」
その目を受け、先に動いたのはバーバラさんの方だ、脱力し ラグナの顔に当てられた手がズルリと下に落ちる、軽く笑う 構えは取らない もう戦いは終わったから
「…最高の答えだよ、流石アタシ達の王様だ」
ラグナは受け止めた、その上で耐え 示した、己のあり方を 何があろうとも小揺るぎもせず立ち続けた、その姿こそが 彼の答えなのだ
項垂れるバーバラさんと対比するように頭を高く上げるラグナは静かに腕を組み
「…当然だ」
「ああ、かもな…あんたならきっとアタシみたいにしくじらない、任せたよ これからエリスを…私の友達をさ」
そう言うとバーバラさんはゆっくりと…後ろへ倒れ…
…る、寸前で エリスが受け止める、走り 駆け抜け 彼女の元まで走りその体を抱き止める
「バーバラさん!大丈夫ですか!」
「エリス…、ごめんね アタシ弱くてさ、アタシがダメだったからエリスを守り切れなかった、泣かせたばかりか あんたをもっと辛い目に…」
「何言ってるんですか!、エリスはバーバラさんが居たから一人じゃなかったんですよ!、友達を大切に思ってるのは貴方だけじゃありません!、…バーバラさんのせいなんかじゃありませんよ」
力無くエリスの腕の中で微笑むバーバラさんに、出来る限り 微笑みかける、バーバラさんが居なければ、エリスは果たして学園で上手くやってこれただろうか
どのみち一人になっていただけだ、彼女が居なければどの道エリスはどっかでノーブルズに目をつけられて、一人で静かに踏み潰されていた、彼女が居たから エリスは一人にはならなかったんだ
「…アタシ、偉くないし 強くもないよ」
「別にエリスはラグナ達を立場や強さで選んだわけじゃありません、ただ…バーバラさんと同じように巡り合わせ、気がついたら友達になってきただけです、そこは誰も変わりませんよ」
デティとは偶然出会った ラグナとは偶然出会った メルクさんとは偶然出会った、みんながもしもっと別の立場であったとしても エリス達は友になっていた、そして同じように出会ったバーバラさんもまた エリスの大切な友だ
「…そっか、あんた…やっぱいい奴だね」
「はいはーい!、感動のお話はそこまで!私治療するからエリスちゃん その子頂戴!」
「あ はい、デティ よろしくお願いします」
「うへぇー、ラグナ思いっきり殴ったね…でもこれなら治せるよう!」
テコテコ歩いてきたデティにバーバラさんを引き渡す、バーバラさんの傷は酷いが デティならば跡形もなく治せると言う、…これはデティが凄いのか、或いはデティの治癒能力を見越し 治せるギリギリで戦ったラグナが凄いのか
(……ラグナ)
腕を組み、一人何か思うラグナに目を向ける…相変わらず彼は強い、強いだけでなく 力のままに蹂躙せず事を収めるだけの技量も持つ、やはり 彼はエリス達の中から頭一つ飛び抜けた存在だ
…ラグナにとって、エリスは守るべき存在なのか それとも、守るだけの存在なのか
(ラグナに守ってもらうのは嬉しいですが、エリスは ただ守ってもらうだけなんて嫌ですよ、ラグナ)
エリスとラグナは良き友達だ、だからこそ対等でありたい、もし何かあった時 エリスはラグナの後ろで震えているだけ なんてのは絶対嫌だ
何かあったら エリスはラグナの隣に立っていたい、彼がエリスのことなんか気にせず戦えるくらいエリスも強くなりたい、友が傷つく様を見て泣くのはバーバラさんだけじゃない エリスも同じなんだ
…でも、今のままじゃ無理だ、それはカリストの一件で理解した、認める ラグナはエリスより強い
今のまま修行しては彼には一生追いつけない、彼の成長スピードはエリスを大幅に上回っている
必要だ、新たな力が…今のエリスをラグナと同じ段階へ引き上げる、新たな力が
その新たな力に覚えはあり…そして、その為なら多少のリスクくらい背負ってみせる
エリスは、必ず強くなる
「エリス」
「へ?、…バーバラさん?」
ふと視線を戻すと治癒魔術をかけられるバーバラさんがやや怠そうに寝ながらこちらに目を向ける、流石はデディの腕と言うべきか あんなにボコボコだった顔は戻り、砕けた歯まで治っている
「あんたの友達殴って悪かったね」
「いえ、それを言うならラグナは腹を切らなきゃいけないくらいバーバラさんのこと殴りましたから」
「別に…、いやそうか 気にしてないか、…でも悪いね アタシ自身の中でケリをつけるのに、ラグナ大王の力借りちゃった」
ケリを?…彼女の中で何を、疑問には思いはすれど口には出さない、口に出せるなら彼女はあそこで殴り合わない、口に出せないからより雄弁な論法を用いて語り合ったのだから
「…………………」
バーバラさんは寝ながら天を仰ぐ、静かに 安らかに 、その顔は先程よりもずっと気楽そうで…このまま目を瞑ったら息を引き取るんじゃないかってくらい、安らかな顔をしている
「ケリは…ついたんですか?」
「ま お陰さんで、…エリス アタシはこれからの戦いでアンタを守れない、それはラグナの仕事だからさ、だからアタシはクライス達と一緒に裏に回って手伝うことにするよ」
「バーバラさんが裏に?」
別に 裏も表もない、手伝うならどこでだって手伝ってくれてもいい、それがエリスの見えないところでも 隣でも同じことだ
がそれはエリスの理屈だ、彼女にとっては違うんだろう …エリスの側でエリスを守るのはラグナの仕事、それが出来ない彼女は裏方へ…弱い人間は立ちたい場所にも立てない、残酷で冷酷だがこれがアルクカースの掟だ
彼女はその祖国の掟と誇りに則り 裏へ行くと言うのだ
「アタシに何か出来るか分からないけどさ、アンタ達がノーブルズとやるってんなら、事の発端たるアタシがいつまでも知らぬふりは通らないでしょ?、だから アタシもアタシの責任を取るつもりだから」
「…バーバラさんが平和に暮らしたいと望めば、それを責める人間はいません」
「アタシがアタシを責める、アタシが始めて アタシが巻き込んだのに 当のアタシが何呑気に暮らしてんだ…ってさ、だから」
と言うと治癒も中頃にバーバラさんは立ち上がる、もしかしたらバーバラさんはそれを常に病床で考えていたのかもしれない、ずっと横になりなら責任を感じていたのかもしれない
そしていざ私を助けに来たらラグナがいて…今に至ると、今バーバラさんの気持ちの全てを汲み取ることはできないが、決して表情ほど穏やかではあるまい
「さてと、休憩時間をとって悪かったね…これからもよろしく頼む エリス」
「はい、よろしくお願いします」
「んじゃ…そう言う事だから」
軽く微笑むと まるで別れを告げるように軽く髪を揺らし立ち去っていく、いや 別れなのだろう…エリスとバーバラさんの、二人で過ごした学園生活はもう終わった エリスはラグナとバーバラさんはクライス達とこれから行動を共にする
道は別れた、故にこれは別れなのだ 二人の
「バーバラさん!」
「ん?」
ふと振り返る、バーバラさんが…何も不思議なことはない、生きていればそう言うこともある、だが エリスは知っている、アレクセイさんが他の人間と付き合うようになって 少し寂しかったことを
彼女もきっと、そんな気持ちを押し殺して 足枷にならないようにと決断してくれたのだ、だから…
「バーバラさん、また…二人で何処かに遊びに行きましょう、何にも気にしないで 二人で」
「…そうだね」
そう…軽く微笑むとバーバラさんは背を向けたまま手を振り、去っていく 何があろうと友達であることに変わりはなく、友達にまた貴賎はない、彼女も大切な友達なんだ…
「今生の別れみたいに別れてるけどクラス同じだからこの後も会うよね」
「いや…まぁ、そうですけども そうなんですけども」
せっかくエリスが感傷に浸っているのに、風情のない子だなデティ そんな悪い子はほっぺをくりくりしてやる
ともあれ、今日 この日よりバーバラさんは復帰し、エリス達と共に戦ってくれることを決めてくれた、バーバラさんが仲間になってくれるなら心強い、皆で寄り集まればどんな脅威も恐るるに足らないだろう
…なのに、エリスの中の違和感はより一層強くなり 形を伴い始めるのであった
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