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六章 探求の魔女アンタレス

119.孤独の魔女と見識、神の如く

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「よし、洗い物終わり…っと」

朝、陽光が窓を差し 広がる青空を見ていると嫌でも目が醒める、そんな気持ちのいい朝の中 エリスはみんなの朝食の洗い物を終え エプロンに手をかける、これで朝の仕事はひと段落だ

ふぅ と一息をつきながらダイニングに戻ると、そこにはみんながいる

「ん、お疲れエリス 今日も朝飯美味かったよ」

「全くだ、君の朝食を食べていると デルセクトでの日々を思い出すよ、今となっては良い思い出さ」

「エリスちゃんの料理で朝もおメメぱっちりだよ!」

「ふふふ、皆さん褒めすぎですよ」

ラグナは床で腕立てをしながら メルクさんは本を読みながら デティは書類を片付けながら、いつもならもう制服に着替えている頃なのに今はみんな私服姿だ、そう 何せ今日は休み…今エリス達は夏の長期休暇に入り、その長い休みを満喫しているのだ

「でもさぁ、学園が無いなら無いで暇なもんだねぇ」

「なんだデティ?もう休みに飽きたのか?まだ休暇に入って二日目だぞ?」

「飽きたってわけじゃないけどさぁ、…こんな風に家にいる日がこれから一ヶ月以上続くと思うと逆に不安、私休み明けに学園いけるかな」

「なんじゃそら」

みんな まだ長期休暇二日目だと言うのに、なんだかもう暇を持て余しているようだ、みんな普段は国の主として多忙な日を過ごすのに慣れてしまった身、デティも一応仕事はあるもののもう落ち着いているのか、朝のうちに軽く仕事を済ませたら後はもう暇って感じだ

「何かすることねぇかなー」

「ラグナはいつも筋トレしてるじゃないですか」

「こんなもんじゃ…よっと、こんなもんじゃ物足りないんだよ、身体動かしてギリギリ現状維持出来てるけど、気を抜いたら落ちそうでさ、折角の長期休暇なんだし思いっきり身体動かしたいな」

「ラグナが体を動かせば街に被害が出そうだな…」

ラグナの身体能力は異常だ、なんとなく分かってたがガニメデとの戦いで理解した、ラグナが本気出せば一撃でこの屋敷なんか倒壊させられるだろう、まぁエリスもですが

しかしラグナの言うことも分かる、師匠がいないと如何にもこうにも…修行が上手くいかないというか、師匠の指導が今はとても恋しい

「やはり我等魔女の弟子には師の教えが不可欠ということか」

「そうだねぇ、あーあ スピカ先生今頃何してるかなぁ…、お仕事終わり!」

「そうですね、…じゃ エリスはそろそろ行きますね」

そう言ってエリスはダイニングで寛ぐみんなを置いて外出の支度を進める、この長期休暇を利用して識確魔術の文献を探さないと、あれからずっと図書館を漁っているが 一向に見つからない

やはり、アマルトの言った隠し部屋にあるのか?でもアマルトの言葉を鵜呑みにして探すのもなぁ

もしかしたらそんなものなくて エリスの邪魔をするために言ったのかもしれないし、他にも何か狙いがあるかもしれないし

「ん?、エリス今日も図書館に行くのか?」

「はい、ちょっと探し物を…」

「以前から気になっていたが、エリス 君は一体何を探しているのだ、休みの日は朝から晩まで図書館に入り浸って」

む、そういえばみんなには言ってなかったな…、別に隠してるわけじゃないんだが 言う機会がなかなか無いというか、どう説明したらいいかイマイチ分からないというか

「我々に隠すようなことか?」

「いえ、違いますよメルクさん ただなんとなく、どう説明したらいいのか分からなくて、古の魔術文献を探してるんですよ」

「なになにー?魔術文献?、やだなぁエリスちゃん ここに専門家がいるじゃないですか~も~、私に分かることならなんでも教えるよ?」

そういえばデティに聞けば良かったな、いやデティも知っているのか?もう失われた魔術文献だしなぁ

識確魔術…及び第六属性『識』、第五属性『空』と並び今の世の中から廃された元素のうちの一つだ、火や水 風土と違い認識出来るものではなく、『元素は全て魔術で操ることができる』という理論に伴い 使い手のいないこの二属性は完全に世の中から廃れてしまったらしい

だが、この属性は存在する…師匠はその『空』の使い手だし、エリスにも識の才能があるようだしね、でなければシリウスはエリスの体を狙わない

…師匠が言うにはこの識という力はとても危険なものだという、同時に使いこなせれば多大な力にもなると、故にエリスは学ばなければならない 識の事を、ただこの識はもう何千年も使い手がおらず 師匠も詳しいことがわからないと言う

だからエリスは調べているのだ、大図書館で…そんな属性をデティが知っているのかな、いや彼女のことを侮る訳ではないが、彼女はあくまで現代の魔術導皇だし 古代は範囲外なのではないだろうか

「ねぇねぇ教えて教えて?」

「分かりました、…ではデティ聞きますが 万世六大元素構成説と言うのを知っていますか?」

「え…フツーに知らない、それにそれ間違いじゃない?万物四大元素構成説じゃないの?」

「それは今世の中で唱えられている元素理論だな、錬金術師の私にも聞き慣れた言葉だ…が、六大元素?聞いたこともないぞ」

メルクさんもデティも知らないか…、やはり図書館で探すしかないか

「なぁエリス、その六大元素ってのを調べてるのか?」

「はい、どうやらエリスはその六大元素の『識』と言うの属性の才能があるらしく」

「えぇー!すごいすごい!、人間はみんなそれぞれ得意な属性を持つと言われているけど、四大元素以外の才能持つ人初めて見た!」

「で?、その識ってのはどんな属性なんだ?それはちょっと俺も聞いたことないな、それに想像もつかないし」

「分かりません、分かりませんので探してるんです、これは八千年前に発見された元素らしいので、あの大図書館くらいしかヒントがないんですよ」

「なるほどねぇ」

ラグナはちんぷんかんぷんと言った様子だ!凄いかどうかは分からないが 珍しいのはエリスには分かる、だが珍しいからすごいと言う訳じゃない…寧ろ苦労する、人から外れているからこそ そのヒントを探すのがこんなにも大変なのだから

「そう言う訳なのでエリスはその識に関する文献を探しに行きますね」

「分かった、また何かわかったら俺達にも教えてくれよな」

「私も何か分かることないか探してみるね!」

「ありがとうございます、では…」

外に出ようとして、思わずコート掛けに目が行ってしまう…いつもコートを着て外出していたから、習慣でだ

だがエリスのコートはもうない、一応取ってはあるが…ズタズタにされてしまったからな…、悲しいが あれを着ていくことはできない、諦めてこのまま外出しよう 外は暖かいしね

軽く、ため息をつき 玄関へと向かう、さて 今日も調べものだ!



……………………………………………………………………

そして、もはや慣れた足取りでヴィスペルティリオ大図書館へと足を伸ばす、長期休暇だから そんなの全然関係ないのか、今日もあんまり人がいない、こんなにも本が沢山あるのに 立ち入る人は少ないんだな

「…あれ?」

ふと、入り口に入って違和感に気がつく…図書館司書のメアリーさんがいないんだ、どこにいるんだ?席を外しているのか?、でもいつ来ても基本そこのカウンターにいるのに

おかしいな、普段なら教師の副業があるからここにいないのも頷けるが今は長期休暇で学園は稼働していない、なら本業に専念できるだろうに なんでいないんだ?

まぁ彼女も何か用事があるのかもな、別に居てもいなくても変わらないし そのまま入るとしよう

そうして本棚の隙間を縫って一番古い本棚へと向かう、…どうしよう 今日アマルトいたら

そんな不安にいつもかられていたが、ここ最近は彼も図書館には立ち寄らない、完全にエリスに探させる気なのか

まぁガニメデを倒し完全に敵対してしまった状態で顔など合わせたくないのだが、…うん 今日はいないね

下を見て 上を見る、アマルトはいない!よし!

「うん、今日も本探しに専念出来そうですね…えぇと エリスはどこまで読みましたか、ああそこまでですね」

もう本棚のめぼしい本は大体読み尽くしてきた、これで見つからなかったら 今度はエリスはどうすればいいんだ?、本格的にこの図書館の噂の隠し部屋とやら探さねばならないのか?だとしたら面倒だなぁ

そう思いながら、本棚からいくつか本を取る…魔術関連の本を一冊 二冊、それを持って近くの椅子に座り、ただ読む…

識に関する情報がないか、探して 目を走らせる…


ペラペラとページをめくる音だけが響く、無い…無い この本にもなかった、なら次の本は…

無い、書いてあるのは古い魔術理論ばかりでエリスの役に立ちそうなものは殆どない、当然識魔術に関する物も、まぁいい 時間はたっぷりあるんだ

しばらくの時間をかけて二冊の本を読み終え 本棚に戻し…また次の本を、そんな作業を長い時間かけてただひたすら繰り返す、繰り返す 繰り返す

…そして、どれだけの時間が経ったことだろう 今日手に取った十五冊目の本を本棚から降ろした時、ふと…それに気がつく

「ん?、本棚の奥に 何か紙の束が…」

本棚の奥!本に押しつぶされるように古い紙の束が挟まっているんだ、なんだこれ?本ではなさそうだが 同時に紙質も相当古いものに見える、八千年前 ここに本が並べられた時に一緒に挟まったものか?いやいつ挟まったかなんて正確な年月は分からないのだが

「んんんーー!、よっと!取れた」

本棚の奥に手を伸ばし紙束を引っ張り出す、無視してもいいけど なんかやたら気になるので取り出してしまったが、これどうしたらいいんだ?捨てたらいいのか?返したらいいのか?、ここの本じゃなさそうだし…

そう、思い 紙束に書かれた文字を見て…エリスは

「こ これ…嘘」

紙束の上には まるでタイトルのようにこう書かれていた

『第六属性  識 について』と

「そんな、嘘…これが…いや、いやいやいや」

エリスは慌てて本を置いて急いで椅子に座る、これ エリスの探していた識について書かれた紙!?これが…これにヒントが!、他のどこにも載ってなかったのにこんなのに、いやなんでもいい!これに何かヒントがあるならばそれで!

椅子に座り 、軽く息を整えて内容を読んでいく

古い紙 いつ頃から存在するかわからない黄ばんだ紙、これが今尚紙としての体裁を保ち文字を留めていられるのも この図書館に満ちるアンタレス様の魔術のおかげだろうか

恐らく冒頭と思われる部分に目を向けると、走り書くように文字が刻まれている…

『君が、この紙を手にしていると言うことは第六元素識の使い手か、或いはその知識について求める者であることを望む』

間違いない、識について書かれている これでエリスも何か分かるのか?、ようやく見つけた一筋の光明に縋るように エリスは更に読み込んでいく

『恐らくだが、君がこれを読んでいる時 君の時代では私の唱えた第六元素説は廃れ もう殆ど文献が残っていないことだろう、悲しくもあるが 知識の淘汰は文明の向上において必須のもの、だが 君がこれを手にしていると言うことは、私の願いは 知識の継承は行われたものと思う』

確かに、この作者の言う通り第六元素説は淘汰されている、と言うか私の唱えた?これ第六元素を見つけた人の文献なのか?、だとすると資料としては一級のものだ

『その通り、私は第六元素構成説を唱えた者、君の察する通り 資料としては一級のものだろう』

…ん?、なんだ?この本今エリスの思考を読んだかのような内容が書かれていたぞ、いやまさか いやいや、そんな心を読むような事が書かれているわけがない、だって書かれている事が正しいならこれは八千年も昔の…

『ちなみに私は心が読めるわけではない』

…読んでるよね!エリスの心読んでるよね!え!?エリスに反応して文字が変わるとかそんな仕掛け!?、いやでもそんな奇妙な現象が起きているようには思えない どう見てもエリスの思考を先読みして書かれて…いや!これ書かれたの八千年前なんですよね!?

『君の心に反応して文字が変わっているわけではない、私はこれを読む人間の思うであろうことを、事前に考え 先回りするように書いているだけ、未来予知も思考の読み込みも そんな器用なことは私には出来ない、ただ 分かるだけなのだよ』

分かるだけって…悠久とも言えるほどの未来に住むエリスの思考を読む?先回り?何を言ってるんだこの人は

恐ろしい作者だ、もう何千年も前の人間なのに 今のエリスの思考を先読みして書いているなんて、なんか 紙を読んでいるのはエリスなのに、逆にエリスがこの紙に読まれている気になってちょっと不気味になる

『まぁ君も不気味がっているだろうから、ここらで無駄に文字を書くのはやめて、本題に入る』

…こわいよぉ、どこまで読まれてるんだエリスは…

『と言っても、この思考の先読みも 言ってしまえば君の知りたがっている識の力の一部、識とは知識であり意識であり 常識である、謂わば人の作り出す 人によって生み出される全てが内面的なもの それが識なのだ』

分からない…つまりどう言うことだ

『つまり識とは生み出す力、消し去る空とは対極に位置する力さ、ただ識の力は創造すること以外にも 被創造物にも及ぶ、つまり人が作ったもの 作り方の知識や作ろうと思った意識や作られた常識に及ぶ迄が識とされる、意識がなければ人は動かず 知識がなければ何も出来ないからね、そしてそれによって生まれた行動や人工物も知識の一部とも言えるということさ』

つまり、人がこう…思うと言うことを属性として仮定したものになるのか?、人は考え生きている 思って生きてる、人は呼吸し生きているだけでは生きているとは言えない、見て感じ口を開いて心を伝える生き物だ

だから、識はその心そのものということになる、そしてその心によって生まれた建物 あるいは武器 あるいは言語も、大きく統括するなら知識意識常識…即ち識の一と仮定できるわけか

『そうだよ、だから識の才能を持つというのは 人の考えが分かるし人の意識していることがわかるし 常識も理解できる、人は誰しも識を持ち無意識に識を使っているのさ、何せそれがないと人は動けないからね、魂が燃料とするなら識は行動理念というわけさ』

どんな人も識を持っていてそれを使って生きている、人は知識によって言葉と建造物を作り世界を構築した、今の世界があるのは人の知識と意識があるから であるならば、識も立派に元素の一つと言えるかもしれない

『いい理解力だね、それも識さ 知識を得る知識を解釈し広げる、誰しもが識を使い 識によって生きている、だが 君や私はその識の才能を持つ なんて書いても理解できないよね?、何せみんな識を使えるのにその才能があるというのはどういうことかと』

ついに思考するよりも前に思考を先読みされた、これも識なのか…識 分かるということなのか、エリスにもこれができるようになるのか?

『勿論、識を極めればなんでも分かるようになりなんでも識ることができる、未知の事柄も人の視点が及ばない領域も 未来さえも、識の才能とはその理解という点が他よりも秀でているのさ、私が思うに君は 人並み外れた記憶能力を持たないかい?』

ギョッとする、そうだ エリスは絶対の記憶能力を持っている、というか師匠にも言われた これが識によるものだと、そして今ならわかる エリスは記憶しているのではない 記録しているのだ、世界を

手に入れた識を逃がさず内側に溜め込み続ける、だから嫌な記憶と良い記憶の分断もできる…まるで本棚を仕分けるように

そして最近記憶能力が発達してきているのも、識の力が強まっているからだ

『君の目は差し詰め世界を記録する筆であり紙と言える、もし世界が完全に消えて無くなっても 君が記憶している限り、目に見た範囲だけなら再生させることさえできるだろう、そしてそれは同時に この世に遍く識を消し去ることも出来る』

師匠の言っていた識の危険性、この人間世界は識によって構成される、その識を誰かが崩せば 世界は容易く崩れ去り、人間は裸で何もない荒野に投げ出されることになると

それは世界に破滅に等しい、魔女が必死に残した文明が消える…恐ろしい話だ

『そう、恐ろしい話だ 知識を愛する私から見ても地獄さ、だが君には識を操る才能がある、魔術と共に使えば自在に識を操り 作り出し 消し去ることが出来る、魔術も識の一部だ 識を魔術として使えば誰も敵わない、あのシリウスでさえ完全なる識には手を焼くだろう』

シリウスの名前が…って八千年前なら出てくるか 、これを書かれた当時はシリウスもバリバリ現役だろうし、しかし識を使えば…か 

確かに、人間は知識を武器にする、剣もそれを振る術も 元を正せば識だ、体を鍛えるそれも識だ 手繰る魔術も当然知識なくして使えない …全ての識を操れば、どんな人間も生まれたままの状態で戦わなければならない

…そんな力をエリスが

『才能と力には責任と義務が付いてくる、君には識を理解し 正確に操り 人類の知識を正常に記録し、それを伸ばす責務がある、故に私に分かる範囲でいいならある程度ここに書くことにする、だがあいにく君が探しているであろい識確魔術についてはここで書くことは控える』

何故?もう聞いてみる 心の中で、多分答えてくれるから

『それはもし、君が識を悪用する事があれば 私も悲しいから、そして正確に言うなれば識確魔術はまだ完成していないから、分かってもないことをここで書くのは些か恥ずかしい、だが、大丈夫 君が識の才能を持つものなら、いずれきっと…その使い方が分かる日が来るから、識の才能を持つとはそういうことだ』

…そうか、まぁ ここで書かれていても困るな、使い方に困る…もし エリスが何かの間違いで人類文明を消し去ってしまったら、エリスは悔いても悔い切れない 

思えば思うほどに恐ろしい力だ、この作者の言う通り 識のことを正確に理解する必要がある

『だが、どうしても識について詳しい事が知りたいなら、私の書いた識確別書を読むといい、きっとその図書館にあるだろう…が、私が思うにきっと魔女たちによって隠されてしまっているだろうね、あれば内容も含めて危険すぎる代物だ、恐らく図書館の一室を隠し部屋に変えてそこに保管されているはずだから、探し出して読んでくれ』

そんなことまでわかるのか、この人の識の能力はエリスなんかよりもずっと強いものなのだろうな、いつかエリスもこんな風に人が話すことや考えている事が事前に分かるようになっちゃうのかな、識…万能であるが故に恐ろしい力

『恐らく、隠されているのは その図書館にある時刻み部屋だ、が きっと隠されている、詳しい場所は…いや、ここで書くのはよそう、寧ろ丁度いい 識の力を意識して使えばきっと何処にあるか識ることが出来るはずだよ、頑張りたまえ』

隠し部屋のことだな、しかし隠されている…そしてそれはエリスが識を使えば何処にあるか識ることが出来ると、つまりこれは作者からの エリスよりも前の識の使い手からのテストということ、識の詳しい内容を識るためのテスト…

そうか、ならば受けねばなるまい エリスにはそれを識る義務があるようだしね

そう思い紙束をペラペラめくると 識について詳しい考察が書いてあった、うん これを読めばある程度のことはわかるが、今以上のことは書かれていないな

「ん?」

…ふと、最後に書かれた文字に目が止まる、それは走り書きのように書かれた名前、この紙の筆者の名前だろう、そこには こう書かれていた

『君と同じ識を愛する者 ナヴァグラハ・アカモート』と

ナヴァグラハ…それがこの紙の筆者の名、エリスよりも前の そしてエリスよりも遥かに強大な識の力を持った人間の名前、変わった名前だ

「もう、こんな時間ですか…帰りましょうか」

これを見つけるまでにかなりの時間を要してしまったからな、窓の外を見れば もう夕焼けもかなり深まっている、帰らないと…そう思い本を棚に戻し、紙の束も…

これ、返したほうがいいのかな?、これも本という扱いになるのか?、分からないがとりあえず持って帰ろう、ダメならアンタレス様の魔力で元の場所に戻るだろうし どの道また今度返すし、うん 借りよう

そしてエリスは紙束を持ったまま図書館を出る、相変わらずカウンターには誰もいなかった

…………………………………………………………

「ナヴァグラハ・アカモート…こんなにすごい識の使い手なのに、そう言えば全く聞かない名前ですね、師匠は確かこの識を見つけたのはとある哲学者だと言っていましたが、この人がそうなのでしょうか」

紙束を抱えたまま屋敷の前まで来る、持って帰ってもこれが元の場所に戻る気配はない、やはりこれは図書館の蔵書という判定ではないらしい、恐らくナヴァグラハさんが本に紛れ込ませた者ゆえ 魔女様もこの紙の存在を識らないのだろう

これをしっかり読んで、識について理解しないと…そう思い、屋敷の扉を開ける

「ただいま戻りましたー、直ぐに晩御飯の支度しますね」

すると、屋敷の中から変な匂いがする…変わった匂いだ、変わった匂いだが 悪い匂いではない、寧ろいい匂いというか、香ばしい匂いだ ヨダレが口の中に溜まるタイプの

「ん、帰ったか エリス」

「みなさん揃って何してるですか?」

ダイニングに入ると、みんながテーブルを囲んで何か食べていた お肉か?、対するテーブルには何か木みたいなものが置かれている

「いや、ラグナが外出した時生ハムの原木を買って帰ってきてな、みんなで食べてるんだ」

「美味しいよ!エリスちゃん!エリスちゃんも食べる?」

「晩御飯前ですよ皆さん、まぁ 頂きますが」

「あいよ、今切るから待ってな」

エリスが席に着くと ラグナは軽く手を挙げ、スパンっと手を振るい手刀で硬い生ハムの原木を綺麗に切る、初めて見ましたよそんな切り方

「はい、エリス」

「ありがとうございます、…んむ…美味しいですねこれ」

「おう、これがあれば生ハム食い放題!」

「いいですね、今日の晩御飯にも使いますか」

「やったー!エリスちゃんだいすきー!」

「それで、何か進展はあったのか?」

そう、ラグナは生ハムをパクパク食べながらエリスに聞いている、外出前に言っていた 識に関するものは見つかったのか…と

「ええ、やっと見つかりましたよ これです、これに識に関することが書かれているんです」

「ええ!ほんと!見せて見せて!」

「はい、いいですよ」

デティは識が気になるのかワタワタと手をあげている、別に隠すほどのものでもないので渡す、デティはそれを受け取るとペラペト紙束をめくり…次第に顔をしかめ始め

「なにこれ、延々と独り言が書いているだけじゃん キモい日記みたい、ポエム集?」

「そんなわけないでしょう、それはエリス達の考えることを先読みして書いているので…って、デティはそれに書いてある通りのことを考えないのですか?」

「先読み?そんなの出来るとは思えないけどなぁ」

どうやらテディはエリスが感じたような衝撃を受けないようだ、続いてメルクさんもラグナも読むが、みんな首を傾げていて とても分かり辛いと言っていて、…どうやらあの紙は識の才能を持つもの以外には、ただ独り言が書いてあるだけの読み辛い文でしかないようだ

「変な紙だな、エリスはこれが理解できたのか?」

「はい、とても分かりやすかったです」

「とすると、エリスがその識の才能を持つというのは本当のようだな、この作者も識の才能を持つものに向けて書いているようだしな」

「ううーん、読み辛くて分からない…それにこの作者の名前 ナヴァグラハだって、凄い嫌な名前ぇ…」

「デティ?作者さんをそんなに悪く言っちゃいけませんよ」

デティから紙束を取り返す、全く 嫌な名前はないだろう嫌な名前は、変わった名前だとは思うけれども、しかし 識を持つものにしか読み理解出来ない文章、エリスの勘違いでなければ このナヴァグラハという人…どこまで識っているんだ

何者なんだろう

「ごめんごめん、で?識って結局何なの?」

「識はですね、ちょっと長くなりますがいいですか?」

「いいよー」

デティに求められたから、説明する…識とはなんだと

識とは詰まる所、知識 意識 常識 …この世にある識と名のつく全てを統括した言葉、すなわち心であり 感情である、誰しもが持ち 誰しもが無意識に使い 人を人足らしめる最も深い物、それが識だ

識を操るということは、知識よって派生した物 意識によって生まれた行動をも操り理解することができるという事、知識により生み出せるものならなんでも生み出せる 知識により生み出されたものならなんでも消し去ることができる

極論を言うなら、人類文明を作り 消すことが出来る力…、それが識 いや識確魔術だ

その話をラグナ達にすれば、分からないと首をかしげる疑問の顔から、徐々に物を理解し顔が青くなる

「なにそれ、じゃあエリスちゃんは国でもなんでも、全部消せるって事?」

「極論を言えば…それも可能ですね、建物でも それを作る建築法でも、根元から消し去れるようです」

「それは恐ろしいな…、そんな力がこの世に存在するとは」

「エリスもびっくりですよ、ただエリスもそれを力として意識的には使えませんが」

「だがいつか使えるようになるかもしれないんだろう」

ラグナは一層怖い顔をしながら腕を組む、静かに目を閉じ 考える姿勢をとり、エリスに言うのだ

「俺は、怖いよ」

怖いと、そう言われ エリスは身が砕けるようなショックを受ける、いや そりゃ怖いよな…だって何もかも消せるかもしれない力がエリスの中に眠っているんだ、人類が何千年もかけて積み上げて作った物を 一瞬で消し去れるかもしれない存在なのだから

剰え、人の考えを先読みし 何を見ても忘れないしどんなことも識ることが出来る…、こんなの人間じゃない、化け物だ…

「そう…ですよね」

「勘違いするな、俺達がエリス自身を怖がるわけないだろう エリスはどんな力を持っていてもエリスはエリスだ、俺たちの親友だ…俺が怖いのは、そんな親友が将来 どんな目で見られるか分からないのが怖いんだ」

「え…?」

「もしこの件が露見すれば、皆エリスを恐れるだろう 人の世界を崩せる怪物として恐れ虐げる、それこそ学園であった虐めのような いやそれ以上の事が、将来起こる可能性がある」

「………………」

「人類文明を無に帰す…そんな事エリスは絶対にしない、俺たちは分かるが 民衆はそうもいかない、もしかしたらエリスの命を奪いにくる者もいるかもしれない」

「そうだな、人とは強大な物を恐れるものだ それが人類文明を消しされるような存在であれば必然か…」

そうか、それもそうだ もしエリスが識を持っていると知られれば、シリウスだけでなく この世の人間の大多数から狙われるだろう、何かの間違いで世界を壊されては堪らないと…、人類のことを思うなら こんな恐ろしい力を持つエリスは、直ちに命を絶つべきなのかもしれない

でも…ラグナ達は怖がらない、寧ろエリスの身を案じてくれる、エリスはただ それが無性に嬉しくて

「もし、その力が覚醒して 世界に知られ恐れられるるようなことがあれば、俺が守る 君の身を、世界中を敵に回しても君だけは守り抜く…絶対、だから安心してくれ エリス」

ラグナは立ち上がる、エリスを守ってくれると、識がこの先覚醒していけばエリスはより一層人間離れし もしかしたら何もかもを識る化け物になるかもしれない!世界さえ壊すかもしれない そんなエリスを…ラグナは

それが、なんだかとても嬉しくて 心強くて…胸があったかくなって

「ラグナ、ありがとうございます…ラグナ」

「だから泣かないでくれ、俺は君の笑顔が好きだ…君は笑顔だけを俺に見せていてくれ」

「はい…はい、分かりました ラグナ」

精一杯微笑む、涙が伝う頬を釣り上げ 精一杯笑う、彼の好きな顔を…エリスは必死に作る、いや これは心からの笑みか、ラグナの気持ちに エリスは心から喜んでいるんだ

ありがとう…ラグナ、エリスは とても嬉しいです、とても…

この喜びを自覚する都度、ラグナの力強い立ち姿を見ていると…胸の暖かさが徐々に柔らかな鼓動に変わる、エリスの心臓は今 ラグナの姿を見て喜ぶように跳ねている

彼だけは…味方でいてくれるんだ…

「ラブコメだ…」

「へ?」

「え!?」

「ってかラグナ~、ほっぺにハムついてるよ?」

「ま マジ!?カッコつけたのに!?」

急いで頬を拭うラグナ、もう 締まらないな…でも嬉しかったですよラグナ、とっても

「と言うか!ラグナばかりカッコつけてずるい!、何がエリスは俺が守る!、私も守るよ!エリスちゃんが窮地に陥るなら何度でも!何してでも!」

「フッ、そうだな…言うまでもないと思って黙っていたが、我等は皆 君の友そして、君は我等の友、守るのは当然 共に歩むのは必然さ」

「ありがとうございます皆さん…、でもエリスこの力をきっと使いこなしてみせます、誰にも迷惑はかけませんから」

一瞬、もしエリスがこの力を制御しきれず 取り返しのつかないことをしそうになったら、みんなの手でエリスを…そう言いたかったが、これ以上みんなには重荷は背負わせられないな

大丈夫、結局制御すればいいんだ 理解すればいいんだ、識の何たるかを理解するには やはり識の属性を極めていくしかないのだろう

「さて、じゃあしみっぽいのは終わりにして 晩御飯にしますか、ラグナ 生ハム片付けてくださいね」

「おう、俺の自室に置いておくよ」

そう言ってエリスは立ち上がり ラグナもまた生ハムの原木を肩で担いで二階の自室に持っていく、さて 今日の料理は何に…

そう、思い立った瞬間 玄関の方で音がする、コンコンと木を叩く音…ああノックだ、お客さんか?

「お客さんですね、はーい 今出まーす」

「…客人?我等にか?…妙だな」

そんなメルクさんの呟きも耳に入らぬうちにエリスはトテトテ音を立てて玄関に向かい、相変わらず静かにノックの鳴る扉を開ける

「はい、どちら様で…す…か……」

扉を開けたエリスの視線はツツーッとゆっくり上へ行く 、目の前にあったのは大きな体、エリスよりも大きく一般的な人間のそれよりもさらに大きな体…そして、玄関の天辺 人間の頭があるであろう部分には…

おっぱいがあった、おっきなおっぱいが…

「おう、こんな夜遅くに悪いな」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!おっぱいが喋ったぁぁぁぁっっっ!?!?」

腰を抜かす おっぱいが揺れてこっちに話しかけてきた、お化けだ おっぱいのお化けが出た!頭から血の気が引き悲鳴をあげる

「どうした!エリス!」

「何があった!」

「何が喋ったって~!?」

エリスの悲鳴を聞きつけてメルクさんやデティがダイニングから ラグナが二階から飛び降りてきて、玄関のそれを見る、見てください お化けです 巨大なおっぱいのお化けですよ 死ぬ…殺される…

「アホか!!、人を胸だけで判断するじゃねぇ!オレ様だよオレ様!」

「ひぃ…おっぱいがオレ様って…オレ様?、と言うかその声」

オレ様 こんな傲慢に満ちた一人称はエリスは今まで一度しか聞いたことがない、そして この声…かつて聞いたことがある、そう アルクカースで…ってこの人もしかして

というと玄関の縁に手をかけズイと体を中に押し入れる客人、その胸の上には人間と同じように普通に頭があり、その顔は…

「あ アルクトゥルス様!?」

「師範!?」

血のように濃い紅の髪、猛禽類のように鋭い金眼 アルクトゥルス様だ、アルクカースを創り統べる魔女の一人にしてラグナの師匠、争乱の魔女アルクトゥルス様だ それがエリス達の屋敷に入ってくる

ああ、この人あんまりにもデカイから おっぱいだけしか視界に入らなかったのか…失礼なことを言ってしまった

「へぇ、聞いた通り お前ら全員同じ家に住んでんだなあ、仲が良い限りだぜ」

「師範!何してるんですかここで!、貴方今アルクカースにいるはずじゃ!」

「軽く抜けてきたんだよ 弟子の顔見にな、オレ様にかかりゃ アルクカースからコルスコルピまで移動すんのに数分もいらねぇからな」

魔女の驚異的な能力、特にアルクトゥルス様の人知を超越した身体能力でここで飛んで…否 跳んで来たと言うのだ、不可能じゃないだろうな…魔女にかかれば世界を一周するのに一時間もいらないみたいだし

「弟子の顔を見に来たって…そんな唐突に」

「オレ様がここにいちゃ悪いのか?ああ?、それにな…来たのはオレ様だけじゃないぜ?」

そういうとアルクトゥルス様はその大きな体を横に逸らすと後ろにいた別の存在達も露わになる

「お邪魔します、久しぶりですね エリスちゃん」

「スピカ先生!」

「失礼しますわ、もう少し大きな屋敷に住んでいると思ってしましたが 思いの外見窄らしいところですわね、我が弟子メルクリウス」

「マスター!」

友愛の魔女スピカ様と栄光の魔女フォーマルハウト様だ、カスリトア大陸を統べる四つの魔女大国の支配者のうち三人が、八人いる魔女のうち三人がこの一箇所に集っているのだ、…いや 三人だけじゃない、スピカ様とフォーマルハウト様の後ろにもう一人いる

…あの姿は…、あの人は!

「…上手くやれているようで良かったよ、エリス」

「レグルス師匠!!!」

思わず駆け出し 外に出て 抱きつく、レグルス師匠だ!レグルス師匠も一緒に来てくれた!ずっと…ずっと会いたかったレグルス師匠だ!、抱きついて顔を擦り付け 思わず涙が溢れる、嬉しい…嬉しいです

「師匠…師匠、ずっと会いたかったです」

「ああ、私もだ…だが、ここで立ち話もなんだ 今から屋敷に上がっても良いか?」

「はい、どうぞ!」

「オレ様達も良いよなぁ?ラグナ」

「…はい、聞きたいことも沢山あるので」

そしてエリス達は四人の魔女様達を屋敷にあげる、エリス達が普段座ってる椅子に師匠達に座ってもらい、エリス達はその側に立つ 

いきなりの事で驚いたが、それでもちゃんとおもてなしをせねばと紅茶やコーヒーを用意して皆さんにお出しする

「おや、エリスちゃん 紅茶を淹れるの上手いですね」

「ありがとうございます、スピカ様」

「オレ様酒がいいんだけど」

「ワガママ言わないでくださいよ師範、というか いくつか質問してもいいですか?」

「ああ、構わねぇよ」

「では…」

というとラグナがおほんと咳払いし四人の魔女様達の前に立つ、エリス達もまたラグナの隣に立つ

「この際国を出てきたことはいいです 皆さんなら行ってすぐ帰るくらいわけないでしょうからね…でも確か、この学園付近の領域には 学園関係者以外立ち入れないんですよね、来ても良かったんですか?」

「いーんだよ、アンタレスにゃ許可を取っているし、何より 長期休暇中にもそれは適用されないんだと、今長期休暇中だろ?」

「ここに居るみんな、長期休暇くらい弟子の顔を見たいのですわ、わたくし達にも弟子を愛する心はありますのでね」

なるほど、確かに長期休暇の最中は生徒も実家に帰る者も多い、ならその逆もありか…エリス達が長期休暇に入ったのを見計らってみんな態々来てくれたのか、ありがたい話ですね 弟子思いの師を持ててエリス達はなんと幸せなのでしょう

…むふふ

「なんだエリス、さっきから笑って…」

「いいえ、師匠と一緒にいれて嬉しいなぁって」

「お…おお、お前は本当に可愛いな…」

師匠の顔が赤くなる、師匠もエリスと一緒にいれて嬉しいのかな、だとするとエリスは幸せだ…

「カァーッ!可愛らしいなぁ!レグルス!、おいラグナ!お前もあれくらい愛嬌のあること言ってみろおい!お前もオレ様の弟子だろうが!」

「え…う 嬉しいなぁ~師範と一緒にいれて~」

「なんじゃッー!テメェ!その覇気のねぇ返事は!殺すぞ!」

「これがあるから嬉しく無いんだよくそォーッ!!」

なんてアルクトゥルス様にアルゼンチンバッグブリーカーをかけられるラグナは叫ぶ、あちらもあちらで楽しそうだ…

「メルクリウス?、貴方は多額の富を持たせたでしょう、友と住むならもっと良い住まいを買えば良いものを…ほら、窓の外に見えるあの城、やや小さいですがここらでならあれが一番でしょう」

「マスター、あれはコペルニクス城…王城です」

「まぁ、あれが…コペルニクス城の国王は節制が好きなのですね?」

メルクさんやフォーマルハウト様の関係も良好そうだ、エリスと別れた時は弟子入りしてすぐだったから何処かぎこちなかったが、今はなんとなくお互いの距離が分かっているように見える

「デティ、学園に通いながらも魔術導皇の仕事をちゃんとこなしているようですね」

「はい、先生の言いつけ通り 仕事は漏れなく全て片付けています」

「そうですか…それは良かった、ところでキチンと好き嫌いせず野菜も食べてますか?」

「も…勿論、野菜が好きになりすぎて畑ごと食べてます…」

「ほう、ではお菓子も食べ過ぎてませんか?、一日量を決めて食べてますか?」

「は…はい」

「…………………」

「スピカ先生?スピカ先生!、無言でどこに行くんですか!そこには何もありません!何も無いので無言でそこの戸棚を開けるのはやめて!やめてやめてアーッ!」

無言でデティのお菓子がぎっしり入った戸棚を開けるスピカ様とそれに縋り言い訳をしているデティ、アジメクにいた頃はとある事情からすれ違っていた二人も 今ではすっかり仲が良いようだ

みんな、みんなも 師匠達と相応の時間を過ごしているんだなぁ…、こうやってみんなが師匠と過ごしているところを見ると、みんなの成長を見る以上にみんなの時間を体感出来きて、少し楽しいな

「ところでエリス、例の件…調べはついたか?」

レグルス師匠の言う例の件とは、識の件だ それならちょうど今日調べがついたところだ、先ほどラグナ達と回し読みしていた紙の資料を手に取る

「はい、ちょうど今日資料が見つかったところです」

「ほう、本当にあるとはな…見せてみろ」

差し出された師匠の手に紙の資料を手渡せば 、すぐさま師匠はその紙に目を通して…

「ああ?、なんだよレグルス 何読んでんだ?例の件?」

「ここに来る時言ったろう、識魔術の件だ」

「ああ…識か、あんま良い思い出はないが …ってかその資料まだこの世にあったんだな、おいオレ様にも見せろよ」

「わたくしにも見せなさい、もしかしたら何か力になれるかもしれませんわ」

「では私も…」

「えぇーい!くっつくな!」

すると続々と師匠の周りに魔女様達が寄ってきて、みんなで群がるようにその紙に目を通し始める、口振り的に他の魔女様達も識についてはある程度知っているようだ…、もしかしたらエリスの知らない部分を知っている人もいるかもしれないし、新しいヒントもくれるかもしれない

ああ、あと この識の資料を書いた人物 ナヴァグラハ・アカモートと言う人も知ってるかな、多分師匠達と同時代の人物みたいだし…

なんて思っていると、資料を読む師匠達の 魔女達の顔色がどんどん変わっていく、何色って難色にだ

「おいレグルス…この文字…この文の書き方…」

「あ、すみません その紙多分読み辛いかと…」

「そうじゃない…」

師匠達は目を鋭くしながら紙を読む、その紙はエリスのような識を持つものでないとただの読み辛い文でしかないと思ったのだが、師匠達にも分かるのか?

師匠達はこの文に いや この文字の書き方に覚えがあるという、

「この資料を書いた人物、誰か分かるか?エリス」

「え?、それなら一番最後に名前が書かれていましたよ、ナヴァグラハ・アカモートと」

「ナヴァグラハだと!?」

全員の目が驚愕に彩られる、直後瞳に宿るのは激怒 、ナヴァグラハ その言葉聞いただけで魔女達がありえないくらい敵意に満ちた顔をして紙を見つめ始めた、やはりナヴァグラハを知っている

いやこの反応はもはや知っている程度の反応ではなく

「畜生!あの野郎!、こんなもん残してやがったのか!」

「識…と聞いた時からその名は浮かんでましたが、まさかこのように干渉を図るとは、やはり油断ならぬ男ですわ」

「あ あの師範!、なんですかそのナヴァグラハって、知ってるんですか?その人物が何者か…」

「何者か知ってるかだと!?、んなもん決まってんだろ!こいつはな…こいつは!」

「落ち着けアルクトゥルス!、…エリス達はナヴァグラハを知らん、だがこうして関わってしまった以上教えねばなるまい」

そういうと師匠は紙を破り捨て火にくべ燃やしてしまう、な なんてことを…せっかく見つけた資料なのに…、いや …いまは師匠の話だ、師匠は 魔女達は再び椅子に座る、重苦しい顔をしながら

「いいか?エリス…ナヴァグラハ・アカモートと言うのは 我々と同じ八千年前の時代を生きた哲学者だ、魔術と言わず この世のほぼ全ての術理を解明した偉大なる人物…前言ったな、識を発見したのはとある哲学者だと、それはこの男のことだ」

それはエリスの予想通りだが、この世のほぼ全ての術理を解明?それはなぜ火が燃えるのか 何故水は存在するのか、物は落ちるのか 鳥は飛ぶのか…今では当たり前とされている術理を全てこのナヴァグラハという人物が解明したと言うことか?

凄まじい偉人じゃないか、まさしく常識を作った人物…しかしなぜそんな大人物の名前が今この世界に伝わってないんだ

すると、師匠はそこから更に 言葉を続ける、衝撃の言葉を

「そして、この男は暴走したシリウスと結託して 羅睺十悪星を創設した男、シリウスと同列の存在と言われた 羅睺十悪星の頭目、星夜戴く識天ナヴァグラハ・アカモート…それがこの男だ」

羅睺十悪星を創った男…ウルキさん達を束ねてシリウスと共に師匠達と戦った男、それが ナヴァグラハ…?、つまりこれは 師匠達の怨敵の書いた資料だったと言うこと?

「羅睺十悪星は皆 一人一人が魔女と同格の力を持った最悪の敵だった、それを揃え シリウスの手駒にしたのがこのナヴァグラハなんだ、この男の力は はっきり言って魔女を上回っていると言ってもいい」

「腹経つぜ、アイツ…オレ様はアイツ以上の外道に出会ったことがない、だが同時に野郎の強さも本物だった、オレ様とレグルスの二人がかりで掛かって漸く勝負になる程なんだからな」

そんな強いのか、あの殆ど神様みたいなシリウスが同列と扱い 魔女の中でも武闘派である師匠とアルクトゥルス様が同時にかかって漸くトントンと言えるほど、つまり魔女の力の二倍強の力を持っているということ

デタラメすぎる、そんな強いのか…いやだからか、羅睺十悪星のメンバーだから歴史上に名前が残ってなかったのか

なんか、急に大きな話が出てきて圧倒される、少し纏めようか

エリスの持つ第六属性『識』、この存在を八千年前見つけまた当人もその使い手であった哲学者 それがナヴァグラハ・アカモートなる人物だ、彼が発見し彼が使ったと言うことは彼こそが史上初めての識属性の使い手と見ていい

彼の識…識る力は常軌を逸しており、遠い未来に起こる出来事さえ予知の如く識ることが出来る、エリスと同じ識の才能を持つと言ってもまさに次元が違うと言える

そんな凄まじい力を持った彼は、識の使い手 哲学者であり、同時に師匠達の敵でもあった…、師匠達が八千年前戦ったシリウス その直接の配下とも言える強力な十人の存在、通称『羅睺十悪星』…、あのウルキさんもまたその一員であると言われるその羅睺十悪星を創った発起人であり そのリーダー

史上最強の存在であるシリウスが同列に扱った第一の部下、それがナヴァグラハ…差し詰めシリウスが最強の力を持つなら 彼は最高の知を持つ者と言ってもいい

…そんな人物の資料をエリスは読んでいた、ナヴァグラハもきっとエリスが読むことを見越してあの文を…

「…この資料、間違いなくエリスに当てられた内容だった、奴は エリスの誕生を予期していたとでも言うのか」

「ナヴァグラハならそのくらいのことしても不思議ではありませんわね、何せ彼は万物を知っている …そこに過去も未来もありませんわ」

「あの野郎、死してなおもこの世界にこびりついてやがるのか…」

「ナヴァグラハは死んだんですね」

「そりゃあな、オレ様とレグルスの二人できっちりトドメを刺したからな、シリウス一人の暴走が世界全土を巻き込む戦争に発展したのはナヴァグラハの所為だ アイツが暴走したシリウスを囃し立てて暴れさせたんだ、史上屈指の外道だよアイツは」

師匠達はナヴァグラハをかなり嫌っている、当然だ あの大いなる厄災…シリウスがその元凶とするならナヴァグラハはその引き金を引いた人物だ、嫌って当然 忌避して然るもの

だがエリスは、どうにもナヴァグラハがただ悪意だけで騒ぎを大きくしたようには見えない、庇うわけではない…ただ 知識を愛する彼が知識の宝庫たる世界を壊してでも、識りたかった何かがあるんだ

遠い未来さえ見透かし この世の原理術理合理を暴き立てた彼でさえ、識りえなかった 何かが…、これが気になってしまうのは エリスもナヴァグラハと同類だからか

「…レグルス、どうする このままエリスに識について調べさせるのは危険じゃないか?、この件にナヴァグラハが関わってる以上 どこまでアイツの思惑通りかわからねぇからな」

「ナヴァグラハは自分が死ぬことさえ識っていたようでしたし、何を企んでいたかも私たちは知らないままです、もしかするとエリスちゃんを使って何かをさせようとしているのかも」

「そうだな…、私も識が危険だと思ったのはナヴァグラハが識を操っていたからだ、奴と同じにならないためにもと…エリスに調べさせたが、それさえも奴の思惑通りだとするなら ここで手を引くのが賢明か」

調べるのをやめろと師匠達は話し合いで決めていく、分かる とても分かる、ナヴァグラハが超一級の危険人物で 未来を見通しそれを操るように動くことも出来る、なら その目論見を潰すようにこちらも行動するのが最善

それは分かる、分かるんだが…

「師匠…すみません、エリスは識について調べることをやめたくありません」

「何?、エリス 今の話を聞いていたか?、ナヴァグラハは危険な男だ、それがお前を使って何かをしようとしている、それはシリウスに確実に繋がることだ、思えばこれをお前に調べさせたのはウルキじゃないか 罠だったんだよやはり」

そうだな、きっとウルキさんの言った面白いものとは同じ羅睺十悪星のメンバーであるナヴァグラハの手記の事だったんだろう、だけど

「それでもです、エリスはこのまま中途半端に識を理解したままであることの方が危険な気がするんです、エリスが完全に識を会得して ナヴァグラハと同格の力を得れば…ナヴァグラハの企みにも対抗出来るんじゃないでしょうか!」

ナヴァグラハも完璧ではない、彼にも分からないことは存在する…それは切ってエリスの成長の幅だ、エリスが彼の予測を超える勢いで強くなれば ナヴァグラハと同じ視点を得れば、彼がどれだけ予知をしてもエリスもそれを理解すればその予知を回避できる 

そちらの方が、きっと確実だ

しかし、師匠達の顔は晴れず…特にアルクトゥルス様はどかりとテーブルの上に足を乗せ

「何年かかんだ、それ」

「そ…それは…」

「お前が識を極められる保証もなければ それが奴の読み通りでない保証はないだろう、ナヴァグラハは何と言ってももう死人なんだ、奴の意思も無視しちまえば何の害もねぇ なのに!そこにむざむざ突っ込んで危険を冒す理由はねぇってんだよ」

それは…もっともだが

すると、それに対抗するようにエリスの前に出るのは、ラグナだ

「師範」

「なんだ、テメェも師に逆らうか」

「はい、俺はエリスの意見 もっともだと思います」

「オレ様達が間違ってると?」

「だからこうして口出ししているんです」

その瞬間アルクトゥルス様の足をかけているテーブルが粉々に砕け アルクトゥルス様が席を立つ、目だ 恐ろしい目だ 怒りに満ちた目でラグナを睨んでいる、怖くておしっこちびっちゃいそうだ

「おやめなさいアルクトゥルス!」

「別に殴りゃしねぇよフォーマルハウト、…おいラグナ 、お前ナヴァグラハは危険だと言ってるのがわかんねぇか?」

「師範達がナヴァグラハを恐れるのは彼と戦っているからです、そして 彼も自分が恐れられていることを識っている、故にエリスを止めることも容易に予知できると思いますが」

「そ…そりゃ…そうだが」

「このままエリスを止めれば、…どうなるかは分かりませんが恐らくナヴァグラハの、今は亡き亡霊の影に踊らされることになる、恐れを利用されて傀儡にされるくらいなら 罠に飛び込んでそれを打ち砕く力を見せつける方が、俺は余程…師範らしいと思います」 

「…………それを出すのは卑怯だろうお前…、弟子の武器持ち出されちゃ 師匠は言い返せねぇよ」

「ええ、言い返せないと踏んで 俺も弟子の強みを出しました」

「…チッ、オレ様はもう何もいわねぇ…、後はレグルスとエリスに任せるよ」

そう言ってアルクトゥルス様は座り、そっぽを向いてしまう、凄いぞラグナ アルクトゥルスさまを論してしまった、アルクトゥルス様はあれで頭が回る 論理という点では魔女の中でも随一だ、それをラグナは…

するとレグルス師匠がこちらを見る、決定権は師匠とエリスにあると

「師匠…」

「エリス、君は…識を極めたいのか?」

問う、お前はどうしたいと…師匠に逆らうようでとても辛いが、この感情に流されて引いてしまっては、いけない気がする

識を極める そうすれば、エリスはもっと色んなことができる、何より この力を暴走させたくない、師匠達に ラグナ達に迷惑をかけたくない、そうするには半端にこの力を放置するのは危険すぎるんだ

「…はい、師匠 エリスはナヴァグラハのようにはなりません、もしナヴァグラハが何かを企み 何かを成そうとしているなら、エリスはそれを阻止したいです」

「そうか、……分かった なら止めない、寧ろ私達に出来る事はなんでも協力しよう」

「いいほか?レグルス、識の力の危険性はお前も…」

「いいんだアルク、ラグナの言う通り我々はシリウス同様ナヴァグラハを過剰に恐れ過ぎたのかもしれない、…それに 弟子がここまで決意に満ちた顔をしているんだ、それを応援するのが師匠ってもんだろ?」

「師匠…!」

「ただし半端は許さん、何年かかっても どれだけ困難でも、その力 必ず物にしろ、それはきっと ナヴァグラハのように世界を壊す力ではなく、友を守る 君の武器になるからな」

そういうと師匠はエリスの頭を撫でて 軽く微笑む、エリスを信じると、そう笑ってくれる…ただそれだけでエリスの中の不安は吹き飛ぶ、エリスならやれる そう自分を信じられる

「ならレグルス、お前がきっちり育てろよ…エリスはもうただの魔女の弟子ってだけじゃないんだ、識を操る以上 今後の世界を左右する存在になりかねないんだからな」

「わたくし達も出来る限り協力しますわ、エリスちゃんを必ず良い道へ導くのです」

「それに、いくらナヴァグラハと同じ力を使うからと言って 彼と同じになるとは限りませんものね」

「分かってるよ、エリスは私の弟子だ 考えようによっては識という力は有用な力だ、上手く使えば より一層エリスは高みに登れる、これからはそれも含めて修行していくか、ふははは 弟子の成長が楽しみだ!」

「はい!エリス頑張ります!師匠!」

師匠達も認めてくれた、なら 後は師匠達の期待に応えるだけだ、ぶっちゃけどうやったら識を極められるのかさっぱりだが、それも含めて 再び勉強の日々だ、頑張ろう

「やったなエリス、師範達からの許しも降りたし、今後もその識ってやつの修行、頑張れよ」

「はい、ラグナもありがとうございます…お陰で助かりました」

「別に礼なんていいよ」

「それじゃあ我々はお邪魔しますわね、顔を見に来ただけですし 元気そうにしているならそれでいいですわ」

そう言うとフォーマルハウト様は席を立ち帰りの支度を始める、話が終わったからか そもそもあまり長居するつもりもなかったのか、まぁ無理もない 同盟首長であるメルクさんがここにいる以上 、いくらすぐに帰れるからと魔女のフォーマルハウト様もあまり長く国を開けられないからな

「マスター…もう帰ってしまわれるのですか?」

「そう寂しそうな顔をするものではありませんわ、長期休暇中はまた何度か会いに来るつもりですわ」

「じゃあ私も帰りますねデティ、これは没収です」

「先生ぇぇぇ!、それを返してぇぇぇ!私のお菓子ぃぃぃ!仕事中に食べるのぉぉぉ!」

スピカ様もまた帰り支度を始める、両手にいっぱい デティのお菓子を抱えながら、…デティが先生がいないからとこっそり溜め込んだ珠玉のお菓子が今持ち去られようとしている、まぁ最近はデティもお菓子を食べ過ぎていたような気がするし ちょうどいいような…可哀想なような

「ってことは師範も帰るんですか?」
 
「嬉しそうだなラグナ」

「いえ、ちっとも嬉しくはありませんよ…、俺にはやはり師範の修行が必要です、出来れば少し指導していただけたらな…と思ってたので」

「嬉しいこと言ってくれるねぇ、…まぁ その件で少し オレ様とレグルスから話がある、というよりスピカとフォーマルハウトはオマケだ、今日はその話をしに来た」

話?、そう疑問に思いながら師匠の方を見ると なんか…なんとも言えない顔をしている、嬉しそうな申し訳なさそうな、びみょーな苦笑い…何?なんの話?

「お前らさ、長期休暇中 なんか予定あるか?」

「予定ですか?、いえ俺は特には」

「私にもないな、…長期休暇の間は読書くらいしかすることがない」

「というか!はっきり言って暇してます!仕事以外にすることないので!」

「エリスもです、識の資料が見つかってしまったので、今はもう焦って図書館に行く必要はないですね」

そりゃ 図書館で隠し部屋を見つけてナヴァグラハの本を見つける必要はあるが、こればかりは急いでどうこうなる話はないので、今エリスに立て込んでいる予定はないと言える

ここにいる四人 みんな揃って予定がない、と聞くとアルクトゥルス様はにししと嬉しそうに笑うと

「そうか、暇か…ならよ、お前ら 海行きたくねぇか?」

「海…ですか?」

皆 揃って首をかしげる、海?海に行きたいか?行きたいかと言われれば行きたい、以前エリスが見た海をみんなと一緒に見るのはエリスの夢のひとつだ、だが何故今そんな話を

「実はよ、フォーマルハウトがコルスコルピのリゾート地に でかい別荘持ってるみたいでさ、そこにお前ら全員連れてってやろうかと思ってない、オレ様達の言いつけ守ってしっかり勉強してるお前らへ、軽くご褒美だ 長期休暇の間 リゾートでゆっくりするのもありなんじゃねぇか?」

「り リゾート!?リゾートにですか!」

「勿論わたくしの所有する別荘ですので快適さは保証しますわ、それにあそこの海…サンゴが綺麗で 、青空よりもなお青い海…優雅な砂浜、ちょうど気候も暖かくなってきましたし 休むにはうってつけですわよ」

つまり…それは、ここにいるみんなと リゾート地に旅行に行く、ということか?それはなんて…なんて

「行きたいです!エリスみんなとリゾートに!行きたいです!」

「私も行きたーい!行きたい行きたい行きたーい!」

「お 俺も行きたいですけど、どうやっていくんですか?ここからじゃ距離が…」

「オレ様とレグルスの二人が付き添いで行くんだ、あっという間にお前ら送り届けられる」

「師範も付き添い!?国は!執政はどうなるんです!」

「リゾートとアルクカース行ったり来たりして誤魔化すよ、それにベオセルク達も上手くやってくれるしな、なんとかなんだろ」

「なるのか…?」

「師匠も一緒に行くんですか!?やったー!最高です!師匠!」

「ああ、今まで寂しい思いをさせた分 長期休暇の間は一緒にいよう」

「やったー!!」

いきなりの話で面食らったが、噛み砕いて理解してみればなんてことはない レグルス師匠とアルクトゥルス様がエリス達を連れて遊びに行ってくれるというのだ、こんなに心が踊ったのは初めてだと飛び跳ねて喜ぶ、デティもまたぴょんこと飛び跳ね ラグナとメルクさんは苦笑いしつつも瞳の奥は楽しそうだ

「よっしゃ!、じゃあ明日の朝出かけっから今のうちに荷物纏めろい!、オレ様がお前らを向こうまで送ってやっから!」

「それじゃ、アルクトゥルス 頼みましたわよ、わたくしの弟子を」

「デティの事を預けますが、もし何かあれば分かってますね」

「わーってるわーってる、オレ様がそんな乱暴者に見えるか?」

「むしろそれ以外の何に見えるか教えて欲しいですわ」

「んだとゴラァッ!!」

「こういうところ!こういうところですわ!、あんまり喧しいと石に変えますわよ!!」

「効くか!んなもん!」

なんて宴もたけなわ、唐突に始まったエリス達のリゾート旅行、魔女様達によって持ちかけられたこの長期休暇の特大の楽しみを前にエリスはワクワクしながら自室へ向かう

…そうだ、みんなと一緒に旅行に行ける その魅惑的な響きを前に、つい 思考が傍にずれていた、重大なそれを見落としていたんだ…

…何故、ラグナの修行の話からリゾートの話に繋がったのか…何故師匠があの時 やや申し訳なさそうな顔をしていたのか、その事をエリスは 後で痛感することになるのだった
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