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四章 栄光の魔女フォーマルハウト
81.孤独の魔女と師を想う奮戦
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『いいか?エリス、魔力覚醒とは第二段階の逆流覚醒に至った者が使うことのできる絶技だ、使えば絶対的な力を得られ、自然の摂理から完全に逸脱した存在へと変貌する』
かつて、師匠が語った言葉だ、魔術師 というよりも魔力を扱う人間には大まかに四つの段階がある
第一段階・魔力操作
第二段階・逆流覚醒
第三段階・霧散掌握
第四段階・天象同化
エリスは、と言うかこの世の大部分の人間は第一段階に位置し この壁を破れずにその生涯を終える事が多いという、故にこそ第二段階に至る事が出来る人間なんてそうそういない
事実エリスは今の今までこの第二段階に至った人間と出会ったことがない
『何?第二段階に至った人間を見た事がない?、一応デニーロも第二段階に至っているしアジメクの…っと アイツとエリスは会ってなかったな、まぁいい ともあれお前は幸運なことに今まで第二段階に至った者と敵対した事がない』
師匠は 第二段階に至った者と敵対した事がないエリスを幸運と言った
『いいか?、今後もしも第二段階に至った人間と出会っても 敵対だけは絶対にするな、第一段階にいる人間では決して第二段階の存在に勝つことは出来ない、実力の差とかではない…絶対に勝てないのだ…、どういう理屈って そういう理屈さ、第一段階では第二段階には勝てない、それはもう理屈としか説明出来ない』
犬は空を飛ばない 魚は陸を歩かない 鳥は水の中を住処にしない、水は上には登らない 火は下には広がらない、第一段階では第二段階には勝てない…そういうものなのだと師匠は語った
『だからもし、第二段階に至った人間と相対したら 敵対したら、戦わずに逃げろ 今のお前では絶対に勝つ事ができない』
その時、エリスはなんとなくでしかこの言葉を理解できなかった…
だが、今は違う 理解できた、…何故勝てないって つまりはそういうこと なのだ
「切り裂きなさい!『ヨワリ・エエカトル』」
「のわぁぁぁぁっっっ!!!」
叫び声をあげ、全霊で飛び回り それを避ける、それとは何か?見えない 分からない、不可視の何かがさっきからエリスに向けて連続で放たれるのだ、それから ただ逃れるように飛び回る
「チッ、すばしっこいですね」
そう言いながらエリスを睨みつけるのは 攻撃の主人…デルセクト国家連合軍の総司令にしてこのデルセクト同盟最強の人間 『黒曜』グロリアーナ・オブシディアンだ
黄金の鎧は黒く染まり、その手は漆黒の…黒曜石に変わりギラギラと鋭く煌めいている
そうだ、今エリスはグロリアーナさんと戦っている、魔力覚醒…即ち第二段階の力を解放したグロリアーナさんとだ
なぜこんなことになってしまったか、…いや 恐らくこの戦いはなるべくしてなった と言うべきか、今エリス達はレグルス師匠を助ける為最後と関門としてグロリアーナさんの説得にかかっているのだ
『魔女フォーマルハウトは正気を失っている』、その事実を受け入れられないグロリアーナさんは 魔女フォーマルハウト様の蛮行を見過ごしている、盲信から来る絶対の忠義が彼女の目と意識を狂わせている
それではダメだ、このデルセクトを栄光の大国へ変えるには魔女フォーマルハウト様だけでなく軍の総司令であるグロリアーナさんの意識も同時に変えねば意味がない
しかし、まぁ見ての通り説得は難航している、戦闘にまで発展してしまった…グロリアーナさんは魔女を否定する存在として エリス達を殺しにかかってきているのだ
「エリス!、…くっ!やめろ!」
「メルクリウス…私に銃を向けますか」
悲鳴をあげ逃げ回るエリスを庇うようにメルクリウスもグロリアーナさんに向け引き金を引く、姉同然に慕うグロリアーナに向け銃を放つメルクリウスさんの心境たるや筆舌に尽くしがたいだろう
だが、残念かな 放たれた銃弾は全てメルクリウスさんによって防がれる、いやそもそも効いてすらいない、身体中に生える黒曜石の切っ先が銃弾を切り裂き弾き返しているのだ
「無駄です、魔力覚醒を解放した私相手に通用する攻撃はありません、いくらニグレドとアルベドが優れていようとも、関係ありません」
グロリアーナさんの魔力覚醒…ティトラカワン・オブシウスは己の体を黒曜石に変えそれを武器とするという形態変化だ、黒曜石はかつて刃物として使われていたこともあるほど鋭利な功績として知られるが 同時に硬度はそこまで高い代物ではない
だがどうだ、あのグロリアーナさんの体を包む黒曜石は、まるで空間に開いた穴のような黒は 凡ゆる攻撃を弾き返し 切っ先一つ一つから放たれる斬撃は一度に無数のそして不可視の斬撃を放ち全てを切り裂く
魔術を放とうが銃弾を放とうが グロリアーナさんの体には傷一つつけられない、どんな事象をも切り裂いて無効化してしまうのだ、魔術が効かないというシチュエーションはこのデルセクトで幾度か経験したが これはその最たるものだ、何せ弱点という弱点が見当たらない
そんな存在とエリス達がある程度渡り合えているのは 偏にグロリアーナさんが未だ本気ではないからだろう、何せ今グロリアーナさんはこの翡翠の塔への被害を気にしながら戦っている
もし本気になれば 全身から幾千の斬撃を同時に放ちながら高速で飛び回るだろう ともすればこの巨大な翡翠の塔さえ輪切りにしてしまうだろう、だがここは魔女の居宅でもある翡翠の塔 グロリアーナさんにとってこれ以上なく戦い辛いステージ…なのにこんなに強いなんて…
「話を聞いてください!グロリアーナさん!」
「聞きたくありません、魔女フォーマルハウト様を否定する者の言葉など…」
「否定ではありません!事実なんです!魔女は今 己の魔力に冒され 正常な状態にないんです!、このまま放っておけば 魔女様自身が苦しむ結果になるんですよ!」
「ッ…聞きたくないと、言っている!」
声をかけるエリスに向け 手刀が振るわれる、たったそれだけで柱は斬れ 壁を裂き…外の景色が見えてくる、咄嗟に屈んでいなければ エリスもあれりと同じ末路を辿っていただろう
聞きたくないか…、フォーマルハウト様の側に一番居たのはグロリアーナさんだ、心の何処かでは分かってるんだ 、でも…否定したくない 魔女を、その一心が狂わせる 正常な判断を
でも分かってもらわなくてはならない、聞き分けのない子供みたいなこと 言ってる場合じゃないんだ!
「レグルス師匠ならグロリアーナ様を治せます!、レグルス師匠さえ元に戻れば!」
「そうやってメルクリウスも騙したか!不埒者が!、魔女レグルスは既にフォーマルハウト様の所有物となった!、何人たりともそれを覆すことはあってはならない!」
「ならグロリアーナさんはフォーマルハウト様が狂ってくのを黙って見ているつもりですか!」
「口を慎め無礼者が!」
瞬間 グロリアーナさんの姿が光と共に消える、この光は見たことがある!、グロリアーナさんが翡翠の塔から各地に飛ぶ際出る光だ、今なら分かる これは錬金術の一種だ
己の体を錬成し 雷に変え高速で移動しているんだ、メルカバは速かったが あれでも音速一歩手前、比較にならない 何せグロリアーナさんは正真正銘 雷速なのだから…
「握り裂け!『トロケ・ナワケ』」
声が聞こえる、後ろから 既にグロリアーナさんは攻撃の態勢に入っている、ギラギラとした黒曜の刃のついた手が大きく開かれている…ダメだ、あんな手で握られよう物なら エリスの体は八つ裂きに…!
「貴方は!そうやって!」
「むっ!?メルクリウス!?」
しかし、その漆黒の刃を防ぐように間に割り込む純白の刃によってそれは防がれる
メルクリウスさんだ、咄嗟にこちらに向かって飛びアルベドに白い結晶を纏わせ作った剣でその一撃を防いだのだ
究極の錬金機構アルベドで形作られた刃はグロリアーナさんの黒曜石さえ防ぐ、いや切られた側から再生して受け付けないのだ、ギリギリと火花を散らしながらグロリアーナさんとメルクリウスさんはぶつかり合う
「貴方は…そうやって、罪のない人間さえ殺すつもりですか!」
「無論!それが魔女様が望むなら!」
「魔女が人死を望むわけがないでしょう!、もし望むなら そんなもの魔女じゃない…栄光の魔女を名乗る資格さえない!」
「貴様ッ!、自分が何を言っているか分かってるのか!」
「貴方こそ!、何をしてるか分かってるんですか!」
グロリアーナさんが黒曜の爪を振るう、どんなものさえ切り裂く黒の爪は 人の体なんて簡単に切り裂くだろう、対するメルクリウスさんは両手に持った二丁の拳銃に白い結晶を纏わせ剣に変え 打ち合い防いでいく
舞い散る火花と白い粒子、ぶつかり合う二人の主張 怒号…一歩も引かず撃剣は音を鳴り響かせる
「栄光の魔女フォーマルハウト!誰よりも気高く!誰よりも誠実な人物!正義を愛し不正を憎み!欲を律し益に生きる!そんなフォーマルハウト様にグロリアーナ総司令は憧れたのではないのですか!」
「知ったような口を聞くな!、魔女を否定する貴様らはマレフィカルムと同じだ!」
「魔女の意志を殺そうとする貴方に言われたくはない!、このままでは本当にフォーマルハウト様は己を失う!デルセクトは正道を外れる!、そんな末路を望むのなら…貴方は魔女殺しよりもタチが悪い!」
「正義と善で!全てがまかり通ると思うな!、綺麗事で!国が回せると思うな!」
「綺麗事で結構!汚いのより百倍マシだ!」
両者一歩も引かぬ爪と剣の打ち合い 意思のぶつかり合いは、徐々にグロリアーナさんが押し始める、いかにこの場では本気が出せぬとは言え グロリアーナさんはこの国で最も強い存在なのだ、地力が違いすぎる
「くっ…頑固者が!」
「貴方こそ!、私は魔女フォーマルハウト様に全てを捧げたつもりだ、叛逆を成そうとするお前達とは違う!」
「叛逆ではない…これが私の忠義の在り方だ!、貴方こそ逃げるんじゃない!目を覚ませ!」
きっと、どっちが間違ってるとか どっちが正義とか、そんなことはないんだろう…
グロリアーナさんの言い分もわかる、エリスもレグルス師匠が狂っていると言われても 受け入れられないだろうから、暴れてでも認めたがらないだろう、だがそれは共にメルクリウスさんも同じなんだ
認めたくないんだ、憧れた姉貴分であるグロリアーナさんが 魔女の狂気を知りながら目を逸らしている事実を、だから言う 逃げるなと だから言う目を覚ませと
「何を言っても無駄なようですね!喰い裂け!『ネコク・ヤオトル』!」
「ッ…!」
手刀でメルクリウスさんの双剣を弾けば、そのまま両手を合わせ…丸で牙のように並べて構える、文字通り 喰い裂くつもりだろう、…メルクリウスさんはデルセクトの為に エリスの為に戦ってくれている
エリスだって 見ているだけではダメだ!
「『旋風圏跳』ッッ!!!」
「エリス!ダメだ!」
飛ぶ 風を纏いグロリアーナさんに向けて飛び込む、そのまま体当たりを仕掛ければエリスはグロリアーナさんの体の刃に切り裂かれバラバラにされるだろう、だが…そう籠手を前へ突き出す
魔力によって硬度を変えるこの籠手ならばあの刃にだって負けないはずだ!そう信じ籠手からグロリアーナさんに風を纏いながら突っ込む
「エリス…!、…お前さえ お前さえ生きていなければ、こんなことにはならなかった!」
「エリスと師匠はただ旅をしていただけなんです!、貴方に憎まれる筋合いはありません!」
弾き飛ばす、グロリアーナさんの体に叩き込まれた籠手は刃を通すことなく弾き返しその態勢を大きく崩させる、元を正せばそっちから仕掛けてきたんじゃないか、そこで怒られるのは流石に筋が違うぞ
いや、もはや論理的ではないのだ 彼女の中でもうエリス達への憎悪 激怒の説明がつけられないんだ、それを口にしてしまえば きっとグロリアーナさんは崩れるから
「グロリアーナさん!、エリス達は魔女の敵じゃないんです!エリス達はデルセクトの敵でもないんです!、魔女は狂気に飲まれいずれ自らの大国すらも崩そうとします!そうなる前に…」
「何を分かったような口を…!」
「ならなんでマレフィカルムとの戦いの時フォーマルハウト様はなにもしなかったんですか!」
アルクトゥルス様がそうだった 彼女もまた最後には自らの国の行く末など鑑みてなかった、フォーマルハウト様もこの国がヘットによって崩されそうになっているのに何もしなかった、同じことだそれは それをいつまでも許して何になるんだ
「それは…それは、あの程度の存在 魔女様が手を下すまでもなかったから…」
「一度でも口にしましたか?フォーマルハウト様がマレフィカルムの事を、デルセクトの行く末を案ずる言葉を!、眼中にさえなかったのでは?…マレフィカルムがではありません 事の結末がです!」
「っー!うるさい…!」
エリス達の言葉が届き始めた もしや いや 本当に? そんな感情が顔から滲み出る、見ないようにしていたものを直視さられ確実に動揺が走る
「…私は、魔女様に従う事こそが…守る事こそが…正義であると!」
「うぐっ!?」
そんな動揺を誤魔化す為に振るわれる爪がエリスの肩を切り裂く、いかに動揺し平常ではなくとも グロリアーナさんはグロリアーナさん、この国で最も強い猛者 神速の爪は防ぎようも避けようもない、まるで手で払われるかのように弾き飛ばされ 血塗れになりながら地面を転がる
「エリス!、グロリアーナ…貴方は、……」
メルクリウスさんは顔を青くしながら駆け寄ってくる、ああ、凄い顔だ やっぱり説得は無理なのかなと言う弱気な顔 グロリアーナの惨めな姿を見た慚愧の顔 エリスを巻き込むんじゃなかったと言う後悔の顔 自分の行いは浅慮であったと…負の感情を煮詰めた顔だ
…別に、エリスはこの状況が悪いものとは思ってない グロリアーナさんを焚きつけてこうやってぶつかり合うことは必要な事だと思う、グロリアーナさんはエリスがデルセクトで戦うに当たって いつか乗り越えねばならない関門として見ていたわけだし
でも、ちょっと意外だったのはグロリアーナさんもあそこまで狼狽えると言う事だ、やっぱり メルクリウスさんの言う事を感じているんだろうな…しかし意固地にも程がある、何かもう一歩 踏み込んだことが言えればいいんだが、エリスにはもう何にも浮かばない
「フォーマルハウト様は絶対…デルセクト連合軍に名を置く者なら 誰もが肝に刻んでいて当然のこと」
幽鬼のようにふらりと現れるグロリアーナ、迷っている エリス達を傷つける事を、躊躇ってはいるが…その手は 刃は確かにエリス達の方を向いている、いいのかグロリアーナさん ここでエリス達を殺してもなんの解決にもならないぞ…
「グロリアーナ総司令…貴方は昔語ったじゃないですか、栄光の魔女フォーマルハウト様に仕えることが…光栄だと」
「その通り、私は…」
「『栄光』の魔女にです…!今の私たちに…魔女様に栄光はありますか」
「……………………」
黙る 答えられない、エリスの血で汚れたその手に 魔女に栄光があるとはとても思えない、顔を歪め…逡巡し…そして
「それでも、私には…私は、魔女様の…下僕なんです!」
「……そうですか、そこまで頑なとは思いませんでした、貴方を説得など…私がバカだった」
エリスを抱えたままメルクリウスさんが銃を構える、ただの銃じゃない 破壊の錬金術の極致 漆黒のニグレドをだ、それを放てばグロリアーナさんと言えど死ぬだろう…いいのかメルクリウスさん ここでグロリアーナさんを殺しても後悔するだけだぞ
しかし二人は止まらない、もはや話し合いは不可能 そう二人が判断してしまった以上、この説得は失敗におわ……
「待ちやがれグロリアーナこのやろう!」
扉が蹴破れられる、エリス達の戦闘でガタガタになった扉はそのまま破壊され土埃を立てながら倒れ、外の人物を無防備に招き入れる、怒号…怒りを伴った怒号の主は ズカズカと乱暴に足音を立てると
「ザカライア…!?」
「ひでぇ顔してるなお前、いつもフォーマルハウト様云々言ってるテメェが、惨めなもんだ」
ザカライアさんだ、彼は突如として部屋に入ってくるなり乱暴な足取りでグロリアーナの前にまで歩いてくる、…呼んだ覚えはない いやいつ行くかは伝えていたが、はっきり言って危険だから彼をこの場に呼んでいなかったのだが…
「…今 魔女様への叛逆者を殺すところです、彼女達の味方をするなら貴方も殺しますよ」
「殺すなら殺せ!、好きにしろ!」
そう言いながらザカライアさんはグロリアーナさんの前に立ち 首を差し出す、覚悟を決めた視線を受け グロリアーナさんがたじろぐ、あのザカライアさんの決意が グロリアーナさんを一歩引かせたのだ
「ただその前に答えろ…!テメェはなんだ!」
「わ 私?、私は魔女様の下僕…」
「違う!、お前は魔女の下僕じゃねぇ!、連合軍総司令官にしてこの同盟の守護者!グロリアーナだろ!テメェは!、この同盟を守るのがお前の仕事じゃねぇのか!魔女様に仕える?魔女様を守る?アホくせぇ!魔女はテメェに守ってもらわなきゃなんねーくらい弱いのかよ!」
「っ…しかし!」
「しかしもカカシもねぇ!、グロリアーナ…お前今自分が何やってるか分かってんのか?今お前が刃を向けてんのは誰だ!、メルクはお前の妹分だったんじゃねぇのか!そのメルクがその身を犠牲にする覚悟で話し合いに来てんのに!テメェがその声聞かねぇでどうすんだよ!」
「わ…たしは…」
ザカライアさんが立ち上がり詰め寄る、もう一度考えろと もう一度今の状況を理解しろと、そう言われてグロリアーナさんは周りを見る エリス達を見る その手の血を見る…
「メルクリウスは覚悟を示した、カエルムを潰し ソニアを叩き マレフィカルムをぶっ飛ばした、それは全部この同盟の為なんだよ!血を流し戦ったのは同盟の為!、傷だらけになりながらデルセクトの為に戦ったコイツらより 黙り込んでなんもしなかった魔女を取るのか?お前は」
「ッ…貴方も魔女を否定するんですか!」
「あのな、魔女の否定 肯定の話じゃねぇだろ、確かにデルセクトは魔女がいないと成り立たねぇ、だがな そこに住む人間を守らなきゃデルセクトは存在する意味がないんだよ 守らなきゃならないんだよ!力を持つ奴が!、その力を持つ人間であるお前が!デルセクトを守る為に選べってんだよ!狂気に堕ちた魔女と!民を守った護国の軍人を!お前が!」
グロリアーナさんに向けて指を一本差し 選べと言うのだ、役目を取るか使命を取るか…、するとザカライアさんに続くように 次々と足音が部屋の中に入り込む
「マレフィカルムの一件を魔女に代わり解決へ導いたメルクリウスの言葉を、無碍にするのは頂けないな」
「王は国を守るが役目、偉ぶることができるのは国を守るからこそ、民の信を失った王は失脚し 国は瓦解するが宿命、そうならぬよう身を犠牲にし臣下が進言していると言うのに 貴方はそれを一蹴すると言うのかしら」
「レナード…セレドナ」
ザカライアさんに続くように入ってくるのは蒼輝王子レナードさんと紅炎婦人セレドナさんだ、二人がザカライアさんに続くようにグロリアーナさんの前に立つ…なんで二人が、いや二人だけじゃない
「グロリアーナよ、魔女様の下僕を自称するなら なによりも魔女の動向を正すのが役目ではないのか、主人の狂気を認められないなら 凶行を止められぬと言うのなら、下僕を名乗る価値などないわ!」
「アーナちゃん、…憧れるのも 尊敬するのも 愛するのも分かるわ、けれどね 時として心を鬼にしてでも魔女様に楯突くこともまた愛なのよ?」
「ジョザイア…ニコラスさん、貴方達まで」
金剛王ジョザイアとニコラスさんもまた皆に続き エリス達のそばに立ってくれる、そこで理解する…そうだ ザカライアさんが声をかけてくれたんだ、集めてくれたんだ みんなを…エリス達の説得の手伝いをする為に…!
五大王族…と言っても今は四人だが、それらが揃い踏みしグロリアーナさんの前に立つ…
「魔女様の最近の様子は特に際立っておかしい、遠目に見ている僕だってそのくらい理解できるんだ、君がそれを察知できないわけないだろう?」
「今ここで 忠心気高き軍人たるメルクリウスを失えば、それこそデルセクトに未来はありませんわ」
「余とて、魔女に忠誠を誓う身…されど受けた恩を鑑みず 一笑するなど、魔女様に戴いた金剛王の名に恥ずるような真似などせんわ」
「メルクちゃんは心の底から同盟を助けようとしているの、本当は魔女様にもアーナちゃんにも歯向いたくないのに それでも向かってきているのを分かってあげて」
「ここにいる全員…メルクリウスとエリスに助けられてんだ、ここにいる全員…メルクリウスの言う正義に感謝してんだよ、コイツらがいなけりゃ もしかしたら今頃デルセクトはなかったかもしれない、その行いを鑑みてもう一度考えろ…メルクリウスがただただ魔女に叛逆しているだけなのか、エリスがメルクリウスを騙しているだけなのかを」
「ッ…………」
ザカライアさんの真っ直ぐな瞳、レナードさん セレドナさん ジョザイアさん ニコラスさんの言葉、それを受け止め…徐々にグロリアーナさんの敵意と怒りが治っていく、それと同時に苦虫を噛み潰したように 顔を歪め…
「魔女様が…狂っていると、皆はそう言うのですか」
「マレフィカルムの悪意の篭ったそれとメルクリウスの忠言を同じにしちゃいけねぇよ、コイツはこんなに真面目なんだぜ?そいつはお前だって分かってんだろ?、いや…本当はここにいる誰よりも 分かってるはずだ、今 どうするべきなのかを」
「ザカライア…貴方に説教される日が来ようとは、……そうか…そうなのですね」
そう言うとグロリアーナさんは力なくフラフラと歩き 自分が弾き飛ばした椅子を立たせてその上に座る、ぐったりと 項垂れながら
「…ええ、分かってましたよ…本当は魔女様に何か異変が起こっているのではと、孤独の魔女が現れてからそれは著しくなったことも、全部 理解していた…だが認めたくなかった、あのフォーマルハウト様が過つなど…ましてや正気を失うなど、あっていいわけがない そのような事を考える事さえ不敬であると 己を封じ続けていた」
「やっぱ分かってたんだな…、おいメルクリウス 銃しまえ、後はお前が話せ」
「ザカライア様…ありがとうございます」
「へっ、テメェばっか命かけさせんのもカッコ悪いからな、やれることがあんならやってやるよ」
そう言うとザカライアさんはメルクさんの手を取り引き起こす、後はお前がやれと 結局どこまで言ってもグロリアーナさんに真実を伝えられるのはメルクリウスさんの言葉しかない
今度は 貴方も落ち着いて 喧嘩しないように話してくださいね、無言の言葉と共にメルクさんの手を握る
「…グロリアーナ総司令」
「メルクリウス…、なんですか」
「魔女様は…今 窮地にあります」
「己の魔力に蝕まれ 暴走していると言うのですね、…信じたくはありませんが、エリス 貴方の真摯な行いに免じ…信じましょう」
「はい、それは 悔しいですが我々では救えません」
「でしょうね、…我々ではなんとも出来ない」
今度は二人とも落ち着いて話をする、グロリアーナさんももうエリスを敵としてみない、デルセクトの為に戦ってくれた人間として エリスに敬意を払ってくれる
「救う為には魔女レグルスの力が必要です」
「ですが彼女はもうフォーマルハウト様のコレクションです、それを取り上げることなど私には出来ません」
「はい、だから私が魔女レグルスを救い フォーマルハウト様を助け…デルセクトを元どおりにします」
「……………、だから 私に話を通す…と言うわけですね、私を騙し出し抜いて 隠密にことを済ませることも出来たでしょうに、態々私に話をしにくるなど 正直ですね、貴方は」
正直それはできたか怪しいが、でもグロリアーナさんを経由せず行動する方法はあったし、エリスもそれを考案していた、けれどメルクさんは態々彼女に話をしに来た 結果戦うことになれど銃を向けることになれど刃を向けられることになれど、関係ない
彼女は グロリアーナさんにどこまでも真摯でありたいんだ
「困っている人間 苦しんでいる人間がいるなら 手を差し伸べ助けるもの、貴方はそれを昔私に示してくれました、相手を選ばず 立場を慮らず」
「そうですね、…パンを抱え逃げようとする貴方に私は手を差し伸べました…懐かしいですね」
「はい、だから私も助けます 困っているなら苦しんでいるなら誰でも助けます、それが魔女であれど関係ありません、私は 魔女を助けます」
「……………………」
グロリアーナさんはその言葉を受けてより一層 深く沈み込む、そして考える 静かに…
そして
「…分かりました、貴方の覚悟と今までの戦い それを信じ、魔女様の目を覚まさせる事に協力しましょう」
「グロリアーナ総司令!」
顔を上げたその時、グロリアーナさんの目にはもう迷いはなかった 魔女よりもエリス達を メルクリウスさんを信じてくれると言うのだ
「魔女レグルスを助ければ フォーマルハウト様も救われるのですね?エリス」
「はい!、師匠なら 暴走を抑えられます、アルクカースのアルクトゥルス様の暴走も確かに解いていましたし」
「…なるほど、分かりました…では着いて来なさい、案内しましょう黄金宮殿へ、魔女フォーマルハウト様を助けに行きましょう」
そう言うと案内してくれると言うのだ、彼女はエリス達に背を向け歩み出す 師匠を助ける為に、グロリアーナさんが手を貸してくれる、メルクリウスさんの説得を聞き入れて…!
「エリス…」
「え?」
すると歩みだしたグロリアーナさんがふと振り向きながらエリスの方を見るのだ、なんだろう まだ何かあったかな
「すみませんでした…騙したこと 師匠を奪ったこと、このデルセクトの為に戦ってくれたと言うのに 傷つけてしまったこと、詫びさせてください」
そう言いながらグロリアーナさんはエリスに向けて頭を下げる、思えば彼女には散々な目にあわされている、彼女のせいでエリスは師匠を奪われ 一年近く身を隠す日々を送ることになった…だけど、だけど
「…大丈夫ですよ、いやまぁ最初は理不尽に怒りもしましたお陰でこの国のこと、皆さんのことをよく理解できましたから、エリスは今 グロリアーナさんに対して怒ったりもしてません」
怒ってない、今思えば彼女にも彼女なりの事情というか…苦悩あってのことなのだと理解できたしね、こうして最終的に分かり合えたのなら もう思うことはない
理解…それがなければエリスとグロリアーナさんは敵対したままだったろう、いやグロリアーナさんだけじゃない ザカライアさんやセレドナさん達のことさえ理解できなかった、こうして話をして関わって 彼女達の人となりを理解できたからこそ エリスにはもう怒りはないんだ
「ザカライアさん達も ありがとうございました」
「僕はザカライアが行くと言ったからついていったまでさ、礼などいらないよ」
「エリス、貴方には妾も命を助けられました その恩、この程度で返せるというのなら安いものですよ」
「受けた恩は忘れん、それがデルセクトを束ねる大王族たる我らの矜持、この金剛王ジョザイア 勇を示した者は至上の敬意を払う、当然のことよ」
「エリスちゃん達が頑張ったからこそ、こうして味方をしてくれる人がたくさん出来たのよ、頑張ったわね エリスちゃん」
「…やってこいよエリス、ここまでやったんだ 師匠助けてフォーマルハウト様の目ぇ覚まさせて またあの家で美味い飯でも作ってくれや、待ってるぜ」
そういうとザカライアさん達はエリスを見送ってくれる、…エリスがデルセクトを巡って手に入れた縁…お陰で助かった、助けられた 助けたから助けられた、…助けるというのは助けられるというのは やはり良いものですね師匠
…師匠の教えに生かされている、やっぱりエリスには師匠が必要だ…師匠、今助けに行きますよ
「エリス、行こう」
そう言いながらメルクさんはエリスの手を握ってくれる、彼女と遂にここまで来れた その事実を握るように彼女の手をエリスも握り返す、行こう…行きましょう…
「行きましょう、メルクさん」
師匠の元へ いや、デルセクトの栄光に向かって…
……………………………………………………
グロリアーナさんの案内で普段は閉じられている上層への道が開かれた、誰も立ち入れない空間 翡翠の塔の上層部分、そこから先はまるで別世界だ
薄暗く 静かで、ただただ集められた芸術品がずらりと寂しく並べられ 埃を被っている、それはまるでデルセクトの栄光の名を体現するようで些かの物悲しさを感じる
そんな階層を経由しながらエリス達は階段を登る、ふと小窓から外を見れば雲が見えた 雲と同じ高さに今エリス達はいるんだ、…下から見ても頂上が見えなかった、一体どれだけ高いんだこの塔は…
静寂の暗闇の中 三人の足音が響く
「魔女レグルスの石像は 魔女フォーマルハウト様の住まう黄金宮殿に存在します、…そこに赴けば 必ずフォーマルハウト様と邂逅することになるでしょう」
「…どうなるでしょうか」
「魔女フォーマルハウト様は魔女レグルスの石像に異様なまでの執着を見せています、何かしようとすれば確実にこちらに攻撃を仕掛けて来ます」
魔女がエリス達を…か、思い返すのはアルクトゥルス様の猛威…あれがエリス達に向けられたら エリス達は瞬く間に殺されるだろう、いくら元に戻す手段があるとはいえ やはり不安だ、それを発動させる前に殺されては元の木阿弥だから
「私が…魔女フォーマルハウトの気を引きます その間になんとかしなさい、エリス メルクリウス」
「え!?グロリアーナさんも手伝ってくれんですか?」
てっきり案内するだけ案内してそれで終わりだと思ってた、…この人は魔女フォーマルハウト様に逆らえない、いくら助ける為とはいえ 楯突くなどできないと思ってきただけに少しびっくりだ
「魔女フォーマルハウト様を助けるための行動を ハタから指をくわえて見てるだけ、というのは魔女の下僕を自称する者として失格ですからね、傷つくなら私も傷つきます」
「ありがとうございます、グロリアーナさん…」
「礼をいうのはまだ早いですよ、もし戦闘になってしまえば私といえど長く持たせられません、その間にしっかり仕事をしなさい、分かりましたね?メルクリウス」
「はい、グロリアーナ総司令」
そう言いながらメルクさんは両手の銃を見る、不安なんだろう…この銃なら理論上は石化も解除できる、だが理論の話だ いくら綿密に理屈を並べても現実は時としてそれを軽く凌駕する、、失敗する可能性もある 台無しになる可能性もある、ここまでやって…
「大丈夫ですよ、メルクさん エリスがいます」
いるからなんだという話だが、エリスとメルクさんは今まで多くの苦難を共に乗り越えてきた 二人なら、なんとなく全て上手くいく気がする そのなんとなくの安堵が、彼女の一助になるならエリスはいくらでも彼女の側にいる
「ありがとう、エリス……うん、君がいるならきっと上手くいく」
「仲がいいですね、…メルクリウスにも友が出来ましたか、嬉しいものです」
そんなエリスとメルクさんを見てグロリアーナさんは穏やかに微笑む、嬉しい 確かな感情なのだろうな、かつて一人で苦しみ戦っていたメルクさんの側には今 エリスがいる、メルクさんはもう一人じゃない
「さ、着きましたよ」
するて階段は終わりを告げ 出口へとたどり着く、階段を超えた先…塔の頂上には 輝かしい庭園と黄金の巨大宮殿がエリス達を待ち構えていた、一面に広がる花畑と幻想的な建造物 雲の上に存在するそれは宛ら極楽や天国の類のようだ
庭園?こんな高いところにこんな穏やかな草花がなんで…いや、これも魔女フォーマルハウト様の力なんだろう、自然の原理を超越し 摂理さえも無視する絶大な力、それがこの景色を作っているのだ
エリス達は花畑の真ん中の道を静かにいく、あまりに静か 天上の世界にはエリス達しかおらず、誰もが口を閉じている
高鳴る心臓がうるさい 雲の上の世界はこんなに寒いのに汗が止まらない、べっとりとした嫌な汗が あの宮殿に一歩近づく毎に吹き出てくる、緊張か 悪寒か 切望か …理由は分からない、でも…そう思い固唾を呑む
そうしている間に宮殿に着き グロリアーナさんはその重そうな扉に手をかけいとも容易く開け放つ
「これが黄金宮殿の内部…世界で一番 富の集まる場所」
又の名を 栄光の頂点、中にはさっきまで見た芸術品よりも更に豪華な物がずらりと並べられている、古い絵画 宝石で作られた彫像 黄金で象られたレリーフ…輝くペンダント 宝石の山、これだけ価値のありそうなものが 誰の目も向けられることなく寂しく佇んでいる
ただ、集めることだけが目的のようだ 自分の手元にあることだけが目的のようだ、鈍く輝く黄金の床を歩き 進む、この芸術品の中に師匠の石像が…
「ここです、これが魔女レグルスの石像…いえ 本人ですか」
…それはあっけなく見つかった、師匠の石像だ 師匠は呆然と立ち尽くすような無表情で石となってそこに佇んでいた、服も髪も目も何もかも灰色に染まり静止する エリスの記憶の中にある姿のまま…、別れた時のまま…
「師匠…」
思わず声が出て、その石肌に触れる 硬い 冷たい 生命の鼓動を感じない、それがたまらなく悲しくて涙が頬を伝う、すみません師匠…遅くなりました
ふと触れた指を見ると埃が付いている、…執着している割には 大切にはしてくれていないんですね…
「エリス…」
「メルクさん、早く元に戻してあげてください…ここじゃあ 師匠が可哀想です」
「分かった、じゃあ戻すぞ…」
「待ちなさい、エリス メルクリウス」
師匠を石化から戻そうとニグレドとアルベドを取り出したメルクさんを手を出して止めるグロリアーナさん、今更何を 手伝ってくれるのではなかったのか
そう抗議しようとグロリアーナさんを見れば、彼女宮殿の奥の闇をジッと見つめていた…奥の…闇…まさか
「グロリアーナ、珍しいですわね…貴方がこのような時間に訪れるなど」
背筋が震える、芯から震える 恐怖にではない…ただ、本能が言うのだ 『恐れ敬え』と、エリスの意思に反して体は震え思わず一歩引いてしまう
声の主、それがヒタヒタと素足で音を鳴らしながら こちらへとゆっくり 歩いてくる…
「おまけに、客人を連れているとは」
宙に舞うように揺らめく髪は 明星よりもなお輝く金の髪、極光の如き光を放ち極彩の魔力を纏う絶対存在、彼女の放つ気迫 威圧は国をそこから揺るがし、あらゆる王を傅かせる
名を栄光の魔女フォーマルハウト…デルセクトを治める八人の魔女のうちの一人、師匠を石に変えた張本人が今 宮殿の奥から現れたのだ
そもそも隠れているつもりはなかった、魔女の目にかかればどのように隠れても意味がないから でも、いざ目の前にすると思ってしまう…見つかったと
「何をしようとしているんですの?、ここは人の立ち入りを禁じていますのに」
「…フォーマルハウト様 お許しください、…これも貴方の為なのです」
「わたくしの為……はて、わたくしの目にはどうしても貴方達がわたくしのコレクションを穢そうとしているようにしか見えませんが」
「師匠は!…貴方のコレクションではありません、友人です…友人だった筈です、それを今 助けようとしているだけです」
声を張り上げ フォーマルハウト様に口で答える、思わず声が出てしまう 問いかける…友人だった筈だと、少なくとも師匠はフォーマルハウト様を友だと言っていた、なのになんで
「…貴方は?」
「エリスはエリスです!孤独の魔女の弟子!エリスです!」
「エリス…レグルスの弟子?、…なら答えましょう 友だから石に変えるのです、わたくしの栄光を輝かせる為に、かつての栄光を取り戻す為に」
「かつての栄光…大いなる厄災を打倒した時のようにですか!」
「違います…奴を倒す時 我らは既に栄光を失っていました、わたくしが求めるは…八人で共に笑っていた時 あの過去を取り戻す為に、わたくしはまた 八人をここに集めるのです」
「それが石に変えることだと言うのですか!」
「だって、そうしないとまたみんな…わたくしの側から離れてしまう、…みんな…だから わたくしは…わたくしは、友を…友情を」
「そんなもの、友情でもなんでもない!」
今度はエリスじゃない、メルクさんだ 友情を口にするフォーマルハウト様に向けて 牙を剥き、激怒するように否定する
「…なんですの?貴方、わたくしの友情を否定すると?」
「友情じゃない!ただの自己満足だ それは、…フォーマルハウト様 目を覚ましてください、友を裏切り 石に変え側に無理やり置く…そこに友情があるわけないじゃないですか、友情とは認めること 離れていこうと見送ること、尊重することを言うんです」
友情…それは 認め信じ 例え離れていようと想い続ける事を言う、フォーマルハウト様がやっていることはただの凶行だ、友情を裏切る行為でしかない それを彼女は突きつける、包み隠さず遠慮せず…
しかし、フォーマルハウト様はその言葉に答えようもせず…静かに
「…やはり レグルスを石化から解放するおつもりなのですね、…わたくしからレグルスを奪おうと言うのですね」
エリス達に敵意を向ける、魔女が エリス達に…レグルス師匠を奪おうとするエリス達を排除しようと魔力を漂わせる
「…っ!、メルクリウス!早くレグルスを元に戻しなさい!」
「させませんよ」
「私がフォーマルハウト様を抑える!、その間に何としても戻すんだ!」
エリス達に襲いかかろうとするフォーマルハウト様に向けグロリアーナさんは腕を黒曜石に変え飛び掛かる、早く戻せと言うのだ…いや レグルス師匠だけなんだ、今この場を抑えられるのは!
「分かりました、…ニグレド アルベド…出番だ」
メルクリウスさんは二丁の銃を石化したレグルス師匠に向け 魔力を高める、二つの錬金機構の力を最大限活かす為に
「グロリアーナ…貴方もわたくしから奪いさろうと言うのですね!、許しません 許しません許しません!許せない許せない許せない!」
「やはり…貴方は狂気に冒されて…私が今助けます!フォーマルハウト様!」
「邪魔です!グロリアーナ!」
襲い来るグロリアーナに向けて フォーマルハウト様は両手を広げて迎え撃つ、来る…魔女の錬金術が!
「…『錬成・蛇壊之坩堝』」
「っ!?これは…!」
刹那グロリアーナさんの足下から 土で出来た蛇が現れる、…いや訂正しよう 蛇じゃない 大蛇…いや最早龍だ、硬い鱗は卸金のように鋭く尖り壁や床 周囲の芸術品を破壊しながら何体も何体も現れる
「くっ!、これが魔女の力か…」
龍の鱗は硬く 切りかかったグロリアーナの黒曜の刃が逆に弾かれ欠けてしまう、なんて硬度だ あの万断の黒爪をいとも容易く弾いてしまうなんて
「不敬者は死になさい」
しかもその龍はフォーマルハウト様の意思に呼応し次々形を変える 鱗が槍や剣に変形し射出され 爆裂し、そこから更に龍が現れる グロリアーナさんも上手く立ち回っているが、打つ手がない
「フォーマルハウト様!貴方は今正常な状態にないのです!落ち着いてください!」
「…正常でない?…わたくしが…この鳴り響く頭痛のことを言っているのですか?…、さっきから殺せ殺せと叫ぶ我が胸の内を言っているのですか!、ぐっ…ぅぐぁぁっ!」
グロリアーナさんの言葉にフォーマルハウト様を苦しみ始める、…頭痛 やはりアルクトゥルス様と同じだ!やっぱり暴走して…
そう 気を抜いた瞬間、フォーマルハウト様が目を輝かせ そう比喩でも何でもなく赤く輝かせ、その目をグロリアーナさんに向けて
「なっ!?しまっ……」
瞬間 グロリアーナさんの黒曜の体が、ただの石塊へと変じる、石にされてしまった 石像にされてしまった!レグルス師匠と同じ石化、師匠もああやって石に変えたのか…!
石に変えられ力を失ったグロリアーナさんの石像はは、その場で制止し…抵抗出来ず 土塊の龍によって…
…砕かれた、粉々に
「ぐ グロリアーナさんッ!?」
死んだ 死んだのか!?いや死んだ!グロリアーナさんがいとも容易く 石に変えられ砕かれれば命はない、エリスの足元にグロリアーナさんの石像のカケラが転がり血の気が引く
目を見ただけで石にされる この状況では瞬時に砕かれる、いやそれ以上に今人が死んで…
呆然とするエリスを他所に足元の石のかけらは一人でに輝くと、きらり煌めいて…
「ッ…と 危ない」
「グロリアーナさん!生きてたんですね!」
光り そして光が一箇所に集まるとそこには生身のグロリアーナさんが立っていた、生きていた バラバラにもならず傷ひとつない、恐らく石にされる寸前 自分を雷光に変えていたんだろう、そのおかげでバラバラにされても問題なく元に戻ることができた
いや自前で石化を解除出来たのは本人もまた卓越した錬金術の使い手故か、それでもグロリアーナの頬を伝う冷や汗は冷えた肝からくるものではないだろう、今の石化解除でかなり力を消耗したのだ…
「参りましたね…」
ふと 吐露される劣勢、しかし未だメルクさんは魔力を貯めている最中だ 時間にしてまだ1分も経っていない、いや1分も魔女を相手にして五体満足でいられるのはグロリアーナさんくらいな者だろう
しかし、それでも…劣勢は劣勢、このままいけばメルクさんの準備が整う前にグロリアーナさんは殺される、少しでも 気を逸らさせないと
胸の前で拳を握る、師匠…エリスに力を…
「颶風よ この声を聞き届け給う、その加護 纏て具足となり、大空へ羽撃く風を 力を 大翼を、そしてこの身に神速を 『旋風圏跳』!」
「ん?、旋風圏跳…それはレグルスの…」
風を纏い グロリアーナさんの脇を潜り抜けて 飛び出す、石塊の龍が乱舞する地獄、そこへ飛び出すのだ、フォーマルハウトさんの気を一秒でも 二秒でもこちらに向けるんだ、時間を稼ぐ!
「ほう、わたくしの前に立つと?…健気ですこと」
フォーマルハウト様はエリスに反応に龍をこちらに嗾ける、幾重の龍の牙がこちらに向けられうねりを伴ってこちらに向かってくる、一体一体に魂があるかのようだ…そんな巨大な龍の鼻の上を踏んづけ 鱗で足を切らないようにしながら …龍の上を走る
「くっ!、フォーマルハウト様!エリスは…師匠とまた旅がしたいんです!だから!…だから!、師匠を返してもらいます!」
「無理です、レグルスはここでわたくしと未来永劫過ごすのですから」
龍の体から槍が出る剣が出る、どれも高速だ 目にも止まらないくらい速い、そんな刃の乱舞の中を走る 逃げ回るように走りながら エリスは…
「此れ為るは大地の意志、峻厳なる世界を踏み固める我らが礎よ今、剛毅剛健を轟かせ屹立し眼前の全てを破砕せよ『岩鬼鳴動界轟壊』!」
「それもレグルスの魔術…」
岩を操る魔術 岩鬼鳴動界轟壊、土塊の龍の体はこの世の物とは思えないほどに硬い…課題には硬いが それでも岩は岩だ、これを用いればその体はあえなく形を崩し粉々に粉砕され、エリスの周りにある龍達が諸共崩れ 岩の塊として大地へ落ちる
「焔を纏い 迸れ俊雷 、我が号に応え飛来し眼前の敵を穿て赫炎 爆ぜよ灼炎、万火八雷 神炎顕現 抜山雷鳴、その威とその意が在る儘に、全てを灰燼とし 焼け付く魔の真髄を示せ 『火雷招』」
続け様に放つのは火雷招、効かないのは分かってる、けれど 少しでも時間を稼ぐために魔術を放つ この一秒一秒がレグルス師匠のためになると信じて、エリスは 魔女に向けて始めて魔術を用いる
「火雷招…それも…ッッ、れ レグルス…」
何故かエリスの魔術を前に苦悶の表情を見せるフォーマルハウト様だが、迫る炎雷を前にすると動きが変わる…ゆらりと不思議な挙動で手を前にかざすと 無防備にも指先でちょんと炎を纏う雷に触れるのだ
たったそれだけでエリスの雷は無力な白煙へと変わり空に散る、錬金術 物を別の物へと作り変える力、その極致とも言えるその技量は 相手の魔術さえも意のままに変えてしまうのだ
絶技…どうやったらその領域まで行きつけるのか想像もつかないほどの絶技を前にエリスは無力化された、まぁ効かないのは分かってたけどさ 顔色くらいは変えたかったな……
火雷招を変えられ出来た白煙の中着地する、その刹那 …走る悪寒 高鳴る鼓動 警鐘を鳴らす嫌な予感、まるでエリスの心臓を狡猾な蛇が巻き取り舌なめずりをしているような…そんな恐怖が 芯を貫く
そしてその正体はすぐにわかった、いや直ぐすぎて何の対応もできなかった…
煙の奥で フォーマルハウト様がさっきまで立っていた場所で、赤い…赤い二つの輝きがエリスを見ていたんだから
「ちょこまか動くな…『錬成・紅光石化之魔眼』」
あ…やばいと思った時既に遅く、エリスは煙と隙間から覗くフォーマルハウト様の赤い目を見てしまっていた、さっきグロリアーナさんを石に変えた物と全く同じもの それが今度はエリスに エリスの目に向けられる
見てしまった以上もう逃れようがない、でもエリスには自力で解除する力はない
終わった 砕かれる、石になれば砕かれる 砕かれれば命はない
死んだ 迂闊だった、深入りしすぎた 油断していたつもりはないが…いやそもそも魔女相手に挑もうと思うことさえが、油断だったのか…
「ぁ…か……っ……」
必死に逃れようとするが体はピクリとも動かない、まるで体の内側に鉄で筋を入れられたかのようにエリスは微動だに出来ず その赤い光を受け入れ続ける
ああ、体の奥の方がもう冷たくなっている…石になっている事が感覚で分かる、…あ…も…もう……し…しょう
その瞬間、エリスの体は 魂は 全ては石に変わり その思考は闇へと閉ざされ、石の体がゴトリと音を立てその場に佇む
止まった意識の中 石へと変じたエリスの体、最早何かを感じる心もない、もう何も出来ない
エリスの時は今、完全に静止した……
「………………」
石へと変わったエリスの彫像の前にヒタヒタとフォーマルハウトが歩いてくる、無感情に無表情に 石となったエリスを前に、それを見下ろす
「…レグルスの…意志を継ぐ者…、くっ!うっ…保管…しなくては、その日まで…『開く鍵』として……」
その声は確かにフォーマルハウトの口から発せられたが、果たしてそれはフォーマルハウト自身の言葉だったのだろうか、それを考察できる者は誰もいない
譫言を呟きながらエリスの石像に手を伸ばすフォーマルハウト
「や やめてください!フォーマルハウト様!その子はデルセクトを救ってくれた…」
「ふんっ…」
止めようとするグロリアーナに向けて手を振るえば 即座に虚空から檻が現れグロリアーナの行動を封ずる、グロリアーナの斬撃でも傷一つつかない不壊の檻に囚われ、今 エリスを守る者はいなくなった
「エリス…意志を継ぐ者…保管を…、資格を持ちし子…世界を…割る子…エリス、レグルスと共に…その時まで保管を……」
白い手がエリスに伸ばされ…今、確かに掴まれた………
ただし、フォーマルハウトの手が石化したエリスを掴んだのではない
「誰と一緒に…だって?」
フォーマルハウトが 掴まれたのだ
「れ…レグルス!?」
「やってくれたな、フォーマルハウト…私のみならずエリスまでも!」
揺れる黒髪は黒曜よりも尚黒い射干玉、燃ゆる瞳は烈火の如く 掴むその手は怒りに打ち震え、空を揺らす言の葉は確かに…確かに石と化したレグルスの物で
いや、石『だった』レグルスの物だ
「貴方 な 何故!、完全に石化していたはず!?わたくしの錬金術で芯まで…」
「知らん!戯言なら後で聞く!」
するとレグルスは掴んだその手を握ったまま、フォーマルハウトの体をぐるりぐるりと振り回し 宮殿の外まで投げ飛ばし、放つ衝撃波は周囲の壁やグロリアーナを封じる檻が崩れる程で
「…さて、どういう状況だこれは」
石化から完全復活したレグルスは久々に動く体を噛みしめるように首を鳴らす、そうだ…さっき復活したばかりなのだ、突如意識が光を取り戻し 視界が晴れたと思うや否や自分を石に変えた張本人が今度は弟子にまで手をかけようとしているではない
考える間も無く体は動き、フォーマルハウトを投げ飛ばし時は今に至る、周りを見れば見覚えのない宮殿、近くにいるのは…見覚えのある顔だ
「…グロリアーナと、青髪の軍人 確か名前はメルクリウス…だったか」
どちらもフォーマルハウトの、手先として自分を襲った者達だ…すわ敵かと目を細めるも、直ぐに思い至る 自分が石から元に戻れたのはコイツらのおかげでは と、事実彼女達からは敵意を感じず軽い安堵が伝わってくる
フォーマルハウトの手先が何故…、石になっている間に何があったか どういう風の吹きまわしかは分からないが、今が敵でないならなんでもよいとレグルスは鼻で笑う
「レグルス…魔女レグルス様ですね、エリスの師匠の」
「ああ、そうだが?君はメルクリウス…だろう?、状況がまるで分からん 何故フォーマルハウトに与していたお前達が 私の身を案ずる」
青髪の軍人メルクリウスは 白と黒の銃を両手に持ったままレグルスの元まで駆けてくる、以前あった時よりも背丈が伸び 表情は幾分柔らかいものになっている、…私からすればあの夜の出来事はつい先程の事、ついさっきまで私に敵意を向けていた人間が 今は柔らかな表情で駆け寄ってくる 不思議な感覚だ
「いえ、…今はフォーマルハウト様を止めるため戦う身です、貴方の弟子エリスと共に…」
「エリスとだと?」
「はい、彼女は私にとって無二の友です、…彼女と共にレグルス様を助け フォーマルハウト様を助ける為に、この半年以上もの間 ずっと戦い続けてきたのです」
「半年!?そんなに長い間石になっていたのか私は…、エリスが…そうか」
私が石化している間にエリスはずっとわたしを助けるために戦ってくれていたという、味方のいない国で味方を作り 私を助ける為に時間をかけて友と一緒にここまで助けに来てくれたのか
…立派になったなエリス、石になったその頭を軽く撫でる…、しかし全く無茶をする 魔女に挑み掛かるなど 絶対にしてはいけない行いだ
「おい、私を石化から助けたようにエリスも元に戻せるか?」
「はい、今助けます…容量は掴みました 直ぐにでも」
状況は分からん だが、今それを聞くよりも前に 石になった弟子を元に戻してやりたい、きっとこの子は半年間私のいない間 寂しい思いをしていたに違いないから、一刻も早く 顔を見せてあげたい
メルクリウスは魔力を高め 白と黒の不思議な銃を二つ 構え、そして…エリスに向けて引き金を引いた
すると
「………ッ…プハッ!あ…あれ?、エリス石になったんじゃ」
エリスの石の体は砕け 内側から生身のエリスが現れる、いきなり石化から解放され 枠もわからず己の体をペタペタ触り周囲を見回す すると、目が合う…エリスと 私の目が
「…あれ?、師匠?…あれ?また夢…?」
「エリス、久しぶり…なのか?」
私の顔を見て目を白黒させるエリス、首を傾げたりほっぺをつねってみたり 色々した後、それが現実であると理解して目を潤ませる
「師匠、ほんとうに師匠なんですよね」
「ああ、そうだ すまない、私の不覚で 寂しい想いと苦労をかけた」
「ししょう…ししょう…、あ…あぁ…師匠ぉぉぉお!!!」
エリスが泣きながら飛びつき 私の体にひっつきながら涙をグリグリ押し付けてくる、懐かしいなこの感じ 初めて会った時の事を思い出す、エリスは私に会えた感動で周りの目など気にすることもなく おいおい泣きながら抱きついてきて…あ 鼻水ついた
「あ…あのエリスが、こうも泣きじゃくるとは…余程、レグルス様に会いたかったのか…」
「会いたかったです!会いたかったです師匠!ずっと!ずっとずっと!、貴方に会いたくてエリス!すごく頑張って…いっぱい戦って…!」
「ああ、エリスの活躍を私も聞きたい…だが」
エリスの頭に手を置き、、一旦離す 状況は分からない エリスとの再会も惜しい、だが 今はするべき事がある
「感動の再会はまず、フォーマルハウトと決着をつけてからだ」
弟子を傷つけ 弟子と引き離した張本人、暴走しているであろうフォーマルハウトを止める、まずはそれからだ…
「フォーマルハウト様を救ってくれるのですね」
「ああ、あいつはああなっても私の友だからな、…なんとかしてみる」
「お気をつけを、今のフォーマルハウト様は際立って普通ではありません、恐らく レグルス様と言えど殺しにかかってくる可能性があります」
「だろうさ、だが…それでも止める、アイツを叩きのめして 正気に戻す!」
エリスを離して踵を返す 向かうは宮殿の外、…一度不覚を取ったが 今度こそ、奴の性根 叩き直す!、石化し半年挟んだリベンジマッチ あの夜の戦いの続きを今 やり直す
かつて、師匠が語った言葉だ、魔術師 というよりも魔力を扱う人間には大まかに四つの段階がある
第一段階・魔力操作
第二段階・逆流覚醒
第三段階・霧散掌握
第四段階・天象同化
エリスは、と言うかこの世の大部分の人間は第一段階に位置し この壁を破れずにその生涯を終える事が多いという、故にこそ第二段階に至る事が出来る人間なんてそうそういない
事実エリスは今の今までこの第二段階に至った人間と出会ったことがない
『何?第二段階に至った人間を見た事がない?、一応デニーロも第二段階に至っているしアジメクの…っと アイツとエリスは会ってなかったな、まぁいい ともあれお前は幸運なことに今まで第二段階に至った者と敵対した事がない』
師匠は 第二段階に至った者と敵対した事がないエリスを幸運と言った
『いいか?、今後もしも第二段階に至った人間と出会っても 敵対だけは絶対にするな、第一段階にいる人間では決して第二段階の存在に勝つことは出来ない、実力の差とかではない…絶対に勝てないのだ…、どういう理屈って そういう理屈さ、第一段階では第二段階には勝てない、それはもう理屈としか説明出来ない』
犬は空を飛ばない 魚は陸を歩かない 鳥は水の中を住処にしない、水は上には登らない 火は下には広がらない、第一段階では第二段階には勝てない…そういうものなのだと師匠は語った
『だからもし、第二段階に至った人間と相対したら 敵対したら、戦わずに逃げろ 今のお前では絶対に勝つ事ができない』
その時、エリスはなんとなくでしかこの言葉を理解できなかった…
だが、今は違う 理解できた、…何故勝てないって つまりはそういうこと なのだ
「切り裂きなさい!『ヨワリ・エエカトル』」
「のわぁぁぁぁっっっ!!!」
叫び声をあげ、全霊で飛び回り それを避ける、それとは何か?見えない 分からない、不可視の何かがさっきからエリスに向けて連続で放たれるのだ、それから ただ逃れるように飛び回る
「チッ、すばしっこいですね」
そう言いながらエリスを睨みつけるのは 攻撃の主人…デルセクト国家連合軍の総司令にしてこのデルセクト同盟最強の人間 『黒曜』グロリアーナ・オブシディアンだ
黄金の鎧は黒く染まり、その手は漆黒の…黒曜石に変わりギラギラと鋭く煌めいている
そうだ、今エリスはグロリアーナさんと戦っている、魔力覚醒…即ち第二段階の力を解放したグロリアーナさんとだ
なぜこんなことになってしまったか、…いや 恐らくこの戦いはなるべくしてなった と言うべきか、今エリス達はレグルス師匠を助ける為最後と関門としてグロリアーナさんの説得にかかっているのだ
『魔女フォーマルハウトは正気を失っている』、その事実を受け入れられないグロリアーナさんは 魔女フォーマルハウト様の蛮行を見過ごしている、盲信から来る絶対の忠義が彼女の目と意識を狂わせている
それではダメだ、このデルセクトを栄光の大国へ変えるには魔女フォーマルハウト様だけでなく軍の総司令であるグロリアーナさんの意識も同時に変えねば意味がない
しかし、まぁ見ての通り説得は難航している、戦闘にまで発展してしまった…グロリアーナさんは魔女を否定する存在として エリス達を殺しにかかってきているのだ
「エリス!、…くっ!やめろ!」
「メルクリウス…私に銃を向けますか」
悲鳴をあげ逃げ回るエリスを庇うようにメルクリウスもグロリアーナさんに向け引き金を引く、姉同然に慕うグロリアーナに向け銃を放つメルクリウスさんの心境たるや筆舌に尽くしがたいだろう
だが、残念かな 放たれた銃弾は全てメルクリウスさんによって防がれる、いやそもそも効いてすらいない、身体中に生える黒曜石の切っ先が銃弾を切り裂き弾き返しているのだ
「無駄です、魔力覚醒を解放した私相手に通用する攻撃はありません、いくらニグレドとアルベドが優れていようとも、関係ありません」
グロリアーナさんの魔力覚醒…ティトラカワン・オブシウスは己の体を黒曜石に変えそれを武器とするという形態変化だ、黒曜石はかつて刃物として使われていたこともあるほど鋭利な功績として知られるが 同時に硬度はそこまで高い代物ではない
だがどうだ、あのグロリアーナさんの体を包む黒曜石は、まるで空間に開いた穴のような黒は 凡ゆる攻撃を弾き返し 切っ先一つ一つから放たれる斬撃は一度に無数のそして不可視の斬撃を放ち全てを切り裂く
魔術を放とうが銃弾を放とうが グロリアーナさんの体には傷一つつけられない、どんな事象をも切り裂いて無効化してしまうのだ、魔術が効かないというシチュエーションはこのデルセクトで幾度か経験したが これはその最たるものだ、何せ弱点という弱点が見当たらない
そんな存在とエリス達がある程度渡り合えているのは 偏にグロリアーナさんが未だ本気ではないからだろう、何せ今グロリアーナさんはこの翡翠の塔への被害を気にしながら戦っている
もし本気になれば 全身から幾千の斬撃を同時に放ちながら高速で飛び回るだろう ともすればこの巨大な翡翠の塔さえ輪切りにしてしまうだろう、だがここは魔女の居宅でもある翡翠の塔 グロリアーナさんにとってこれ以上なく戦い辛いステージ…なのにこんなに強いなんて…
「話を聞いてください!グロリアーナさん!」
「聞きたくありません、魔女フォーマルハウト様を否定する者の言葉など…」
「否定ではありません!事実なんです!魔女は今 己の魔力に冒され 正常な状態にないんです!、このまま放っておけば 魔女様自身が苦しむ結果になるんですよ!」
「ッ…聞きたくないと、言っている!」
声をかけるエリスに向け 手刀が振るわれる、たったそれだけで柱は斬れ 壁を裂き…外の景色が見えてくる、咄嗟に屈んでいなければ エリスもあれりと同じ末路を辿っていただろう
聞きたくないか…、フォーマルハウト様の側に一番居たのはグロリアーナさんだ、心の何処かでは分かってるんだ 、でも…否定したくない 魔女を、その一心が狂わせる 正常な判断を
でも分かってもらわなくてはならない、聞き分けのない子供みたいなこと 言ってる場合じゃないんだ!
「レグルス師匠ならグロリアーナ様を治せます!、レグルス師匠さえ元に戻れば!」
「そうやってメルクリウスも騙したか!不埒者が!、魔女レグルスは既にフォーマルハウト様の所有物となった!、何人たりともそれを覆すことはあってはならない!」
「ならグロリアーナさんはフォーマルハウト様が狂ってくのを黙って見ているつもりですか!」
「口を慎め無礼者が!」
瞬間 グロリアーナさんの姿が光と共に消える、この光は見たことがある!、グロリアーナさんが翡翠の塔から各地に飛ぶ際出る光だ、今なら分かる これは錬金術の一種だ
己の体を錬成し 雷に変え高速で移動しているんだ、メルカバは速かったが あれでも音速一歩手前、比較にならない 何せグロリアーナさんは正真正銘 雷速なのだから…
「握り裂け!『トロケ・ナワケ』」
声が聞こえる、後ろから 既にグロリアーナさんは攻撃の態勢に入っている、ギラギラとした黒曜の刃のついた手が大きく開かれている…ダメだ、あんな手で握られよう物なら エリスの体は八つ裂きに…!
「貴方は!そうやって!」
「むっ!?メルクリウス!?」
しかし、その漆黒の刃を防ぐように間に割り込む純白の刃によってそれは防がれる
メルクリウスさんだ、咄嗟にこちらに向かって飛びアルベドに白い結晶を纏わせ作った剣でその一撃を防いだのだ
究極の錬金機構アルベドで形作られた刃はグロリアーナさんの黒曜石さえ防ぐ、いや切られた側から再生して受け付けないのだ、ギリギリと火花を散らしながらグロリアーナさんとメルクリウスさんはぶつかり合う
「貴方は…そうやって、罪のない人間さえ殺すつもりですか!」
「無論!それが魔女様が望むなら!」
「魔女が人死を望むわけがないでしょう!、もし望むなら そんなもの魔女じゃない…栄光の魔女を名乗る資格さえない!」
「貴様ッ!、自分が何を言っているか分かってるのか!」
「貴方こそ!、何をしてるか分かってるんですか!」
グロリアーナさんが黒曜の爪を振るう、どんなものさえ切り裂く黒の爪は 人の体なんて簡単に切り裂くだろう、対するメルクリウスさんは両手に持った二丁の拳銃に白い結晶を纏わせ剣に変え 打ち合い防いでいく
舞い散る火花と白い粒子、ぶつかり合う二人の主張 怒号…一歩も引かず撃剣は音を鳴り響かせる
「栄光の魔女フォーマルハウト!誰よりも気高く!誰よりも誠実な人物!正義を愛し不正を憎み!欲を律し益に生きる!そんなフォーマルハウト様にグロリアーナ総司令は憧れたのではないのですか!」
「知ったような口を聞くな!、魔女を否定する貴様らはマレフィカルムと同じだ!」
「魔女の意志を殺そうとする貴方に言われたくはない!、このままでは本当にフォーマルハウト様は己を失う!デルセクトは正道を外れる!、そんな末路を望むのなら…貴方は魔女殺しよりもタチが悪い!」
「正義と善で!全てがまかり通ると思うな!、綺麗事で!国が回せると思うな!」
「綺麗事で結構!汚いのより百倍マシだ!」
両者一歩も引かぬ爪と剣の打ち合い 意思のぶつかり合いは、徐々にグロリアーナさんが押し始める、いかにこの場では本気が出せぬとは言え グロリアーナさんはこの国で最も強い存在なのだ、地力が違いすぎる
「くっ…頑固者が!」
「貴方こそ!、私は魔女フォーマルハウト様に全てを捧げたつもりだ、叛逆を成そうとするお前達とは違う!」
「叛逆ではない…これが私の忠義の在り方だ!、貴方こそ逃げるんじゃない!目を覚ませ!」
きっと、どっちが間違ってるとか どっちが正義とか、そんなことはないんだろう…
グロリアーナさんの言い分もわかる、エリスもレグルス師匠が狂っていると言われても 受け入れられないだろうから、暴れてでも認めたがらないだろう、だがそれは共にメルクリウスさんも同じなんだ
認めたくないんだ、憧れた姉貴分であるグロリアーナさんが 魔女の狂気を知りながら目を逸らしている事実を、だから言う 逃げるなと だから言う目を覚ませと
「何を言っても無駄なようですね!喰い裂け!『ネコク・ヤオトル』!」
「ッ…!」
手刀でメルクリウスさんの双剣を弾けば、そのまま両手を合わせ…丸で牙のように並べて構える、文字通り 喰い裂くつもりだろう、…メルクリウスさんはデルセクトの為に エリスの為に戦ってくれている
エリスだって 見ているだけではダメだ!
「『旋風圏跳』ッッ!!!」
「エリス!ダメだ!」
飛ぶ 風を纏いグロリアーナさんに向けて飛び込む、そのまま体当たりを仕掛ければエリスはグロリアーナさんの体の刃に切り裂かれバラバラにされるだろう、だが…そう籠手を前へ突き出す
魔力によって硬度を変えるこの籠手ならばあの刃にだって負けないはずだ!そう信じ籠手からグロリアーナさんに風を纏いながら突っ込む
「エリス…!、…お前さえ お前さえ生きていなければ、こんなことにはならなかった!」
「エリスと師匠はただ旅をしていただけなんです!、貴方に憎まれる筋合いはありません!」
弾き飛ばす、グロリアーナさんの体に叩き込まれた籠手は刃を通すことなく弾き返しその態勢を大きく崩させる、元を正せばそっちから仕掛けてきたんじゃないか、そこで怒られるのは流石に筋が違うぞ
いや、もはや論理的ではないのだ 彼女の中でもうエリス達への憎悪 激怒の説明がつけられないんだ、それを口にしてしまえば きっとグロリアーナさんは崩れるから
「グロリアーナさん!、エリス達は魔女の敵じゃないんです!エリス達はデルセクトの敵でもないんです!、魔女は狂気に飲まれいずれ自らの大国すらも崩そうとします!そうなる前に…」
「何を分かったような口を…!」
「ならなんでマレフィカルムとの戦いの時フォーマルハウト様はなにもしなかったんですか!」
アルクトゥルス様がそうだった 彼女もまた最後には自らの国の行く末など鑑みてなかった、フォーマルハウト様もこの国がヘットによって崩されそうになっているのに何もしなかった、同じことだそれは それをいつまでも許して何になるんだ
「それは…それは、あの程度の存在 魔女様が手を下すまでもなかったから…」
「一度でも口にしましたか?フォーマルハウト様がマレフィカルムの事を、デルセクトの行く末を案ずる言葉を!、眼中にさえなかったのでは?…マレフィカルムがではありません 事の結末がです!」
「っー!うるさい…!」
エリス達の言葉が届き始めた もしや いや 本当に? そんな感情が顔から滲み出る、見ないようにしていたものを直視さられ確実に動揺が走る
「…私は、魔女様に従う事こそが…守る事こそが…正義であると!」
「うぐっ!?」
そんな動揺を誤魔化す為に振るわれる爪がエリスの肩を切り裂く、いかに動揺し平常ではなくとも グロリアーナさんはグロリアーナさん、この国で最も強い猛者 神速の爪は防ぎようも避けようもない、まるで手で払われるかのように弾き飛ばされ 血塗れになりながら地面を転がる
「エリス!、グロリアーナ…貴方は、……」
メルクリウスさんは顔を青くしながら駆け寄ってくる、ああ、凄い顔だ やっぱり説得は無理なのかなと言う弱気な顔 グロリアーナの惨めな姿を見た慚愧の顔 エリスを巻き込むんじゃなかったと言う後悔の顔 自分の行いは浅慮であったと…負の感情を煮詰めた顔だ
…別に、エリスはこの状況が悪いものとは思ってない グロリアーナさんを焚きつけてこうやってぶつかり合うことは必要な事だと思う、グロリアーナさんはエリスがデルセクトで戦うに当たって いつか乗り越えねばならない関門として見ていたわけだし
でも、ちょっと意外だったのはグロリアーナさんもあそこまで狼狽えると言う事だ、やっぱり メルクリウスさんの言う事を感じているんだろうな…しかし意固地にも程がある、何かもう一歩 踏み込んだことが言えればいいんだが、エリスにはもう何にも浮かばない
「フォーマルハウト様は絶対…デルセクト連合軍に名を置く者なら 誰もが肝に刻んでいて当然のこと」
幽鬼のようにふらりと現れるグロリアーナ、迷っている エリス達を傷つける事を、躊躇ってはいるが…その手は 刃は確かにエリス達の方を向いている、いいのかグロリアーナさん ここでエリス達を殺してもなんの解決にもならないぞ…
「グロリアーナ総司令…貴方は昔語ったじゃないですか、栄光の魔女フォーマルハウト様に仕えることが…光栄だと」
「その通り、私は…」
「『栄光』の魔女にです…!今の私たちに…魔女様に栄光はありますか」
「……………………」
黙る 答えられない、エリスの血で汚れたその手に 魔女に栄光があるとはとても思えない、顔を歪め…逡巡し…そして
「それでも、私には…私は、魔女様の…下僕なんです!」
「……そうですか、そこまで頑なとは思いませんでした、貴方を説得など…私がバカだった」
エリスを抱えたままメルクリウスさんが銃を構える、ただの銃じゃない 破壊の錬金術の極致 漆黒のニグレドをだ、それを放てばグロリアーナさんと言えど死ぬだろう…いいのかメルクリウスさん ここでグロリアーナさんを殺しても後悔するだけだぞ
しかし二人は止まらない、もはや話し合いは不可能 そう二人が判断してしまった以上、この説得は失敗におわ……
「待ちやがれグロリアーナこのやろう!」
扉が蹴破れられる、エリス達の戦闘でガタガタになった扉はそのまま破壊され土埃を立てながら倒れ、外の人物を無防備に招き入れる、怒号…怒りを伴った怒号の主は ズカズカと乱暴に足音を立てると
「ザカライア…!?」
「ひでぇ顔してるなお前、いつもフォーマルハウト様云々言ってるテメェが、惨めなもんだ」
ザカライアさんだ、彼は突如として部屋に入ってくるなり乱暴な足取りでグロリアーナの前にまで歩いてくる、…呼んだ覚えはない いやいつ行くかは伝えていたが、はっきり言って危険だから彼をこの場に呼んでいなかったのだが…
「…今 魔女様への叛逆者を殺すところです、彼女達の味方をするなら貴方も殺しますよ」
「殺すなら殺せ!、好きにしろ!」
そう言いながらザカライアさんはグロリアーナさんの前に立ち 首を差し出す、覚悟を決めた視線を受け グロリアーナさんがたじろぐ、あのザカライアさんの決意が グロリアーナさんを一歩引かせたのだ
「ただその前に答えろ…!テメェはなんだ!」
「わ 私?、私は魔女様の下僕…」
「違う!、お前は魔女の下僕じゃねぇ!、連合軍総司令官にしてこの同盟の守護者!グロリアーナだろ!テメェは!、この同盟を守るのがお前の仕事じゃねぇのか!魔女様に仕える?魔女様を守る?アホくせぇ!魔女はテメェに守ってもらわなきゃなんねーくらい弱いのかよ!」
「っ…しかし!」
「しかしもカカシもねぇ!、グロリアーナ…お前今自分が何やってるか分かってんのか?今お前が刃を向けてんのは誰だ!、メルクはお前の妹分だったんじゃねぇのか!そのメルクがその身を犠牲にする覚悟で話し合いに来てんのに!テメェがその声聞かねぇでどうすんだよ!」
「わ…たしは…」
ザカライアさんが立ち上がり詰め寄る、もう一度考えろと もう一度今の状況を理解しろと、そう言われてグロリアーナさんは周りを見る エリス達を見る その手の血を見る…
「メルクリウスは覚悟を示した、カエルムを潰し ソニアを叩き マレフィカルムをぶっ飛ばした、それは全部この同盟の為なんだよ!血を流し戦ったのは同盟の為!、傷だらけになりながらデルセクトの為に戦ったコイツらより 黙り込んでなんもしなかった魔女を取るのか?お前は」
「ッ…貴方も魔女を否定するんですか!」
「あのな、魔女の否定 肯定の話じゃねぇだろ、確かにデルセクトは魔女がいないと成り立たねぇ、だがな そこに住む人間を守らなきゃデルセクトは存在する意味がないんだよ 守らなきゃならないんだよ!力を持つ奴が!、その力を持つ人間であるお前が!デルセクトを守る為に選べってんだよ!狂気に堕ちた魔女と!民を守った護国の軍人を!お前が!」
グロリアーナさんに向けて指を一本差し 選べと言うのだ、役目を取るか使命を取るか…、するとザカライアさんに続くように 次々と足音が部屋の中に入り込む
「マレフィカルムの一件を魔女に代わり解決へ導いたメルクリウスの言葉を、無碍にするのは頂けないな」
「王は国を守るが役目、偉ぶることができるのは国を守るからこそ、民の信を失った王は失脚し 国は瓦解するが宿命、そうならぬよう身を犠牲にし臣下が進言していると言うのに 貴方はそれを一蹴すると言うのかしら」
「レナード…セレドナ」
ザカライアさんに続くように入ってくるのは蒼輝王子レナードさんと紅炎婦人セレドナさんだ、二人がザカライアさんに続くようにグロリアーナさんの前に立つ…なんで二人が、いや二人だけじゃない
「グロリアーナよ、魔女様の下僕を自称するなら なによりも魔女の動向を正すのが役目ではないのか、主人の狂気を認められないなら 凶行を止められぬと言うのなら、下僕を名乗る価値などないわ!」
「アーナちゃん、…憧れるのも 尊敬するのも 愛するのも分かるわ、けれどね 時として心を鬼にしてでも魔女様に楯突くこともまた愛なのよ?」
「ジョザイア…ニコラスさん、貴方達まで」
金剛王ジョザイアとニコラスさんもまた皆に続き エリス達のそばに立ってくれる、そこで理解する…そうだ ザカライアさんが声をかけてくれたんだ、集めてくれたんだ みんなを…エリス達の説得の手伝いをする為に…!
五大王族…と言っても今は四人だが、それらが揃い踏みしグロリアーナさんの前に立つ…
「魔女様の最近の様子は特に際立っておかしい、遠目に見ている僕だってそのくらい理解できるんだ、君がそれを察知できないわけないだろう?」
「今ここで 忠心気高き軍人たるメルクリウスを失えば、それこそデルセクトに未来はありませんわ」
「余とて、魔女に忠誠を誓う身…されど受けた恩を鑑みず 一笑するなど、魔女様に戴いた金剛王の名に恥ずるような真似などせんわ」
「メルクちゃんは心の底から同盟を助けようとしているの、本当は魔女様にもアーナちゃんにも歯向いたくないのに それでも向かってきているのを分かってあげて」
「ここにいる全員…メルクリウスとエリスに助けられてんだ、ここにいる全員…メルクリウスの言う正義に感謝してんだよ、コイツらがいなけりゃ もしかしたら今頃デルセクトはなかったかもしれない、その行いを鑑みてもう一度考えろ…メルクリウスがただただ魔女に叛逆しているだけなのか、エリスがメルクリウスを騙しているだけなのかを」
「ッ…………」
ザカライアさんの真っ直ぐな瞳、レナードさん セレドナさん ジョザイアさん ニコラスさんの言葉、それを受け止め…徐々にグロリアーナさんの敵意と怒りが治っていく、それと同時に苦虫を噛み潰したように 顔を歪め…
「魔女様が…狂っていると、皆はそう言うのですか」
「マレフィカルムの悪意の篭ったそれとメルクリウスの忠言を同じにしちゃいけねぇよ、コイツはこんなに真面目なんだぜ?そいつはお前だって分かってんだろ?、いや…本当はここにいる誰よりも 分かってるはずだ、今 どうするべきなのかを」
「ザカライア…貴方に説教される日が来ようとは、……そうか…そうなのですね」
そう言うとグロリアーナさんは力なくフラフラと歩き 自分が弾き飛ばした椅子を立たせてその上に座る、ぐったりと 項垂れながら
「…ええ、分かってましたよ…本当は魔女様に何か異変が起こっているのではと、孤独の魔女が現れてからそれは著しくなったことも、全部 理解していた…だが認めたくなかった、あのフォーマルハウト様が過つなど…ましてや正気を失うなど、あっていいわけがない そのような事を考える事さえ不敬であると 己を封じ続けていた」
「やっぱ分かってたんだな…、おいメルクリウス 銃しまえ、後はお前が話せ」
「ザカライア様…ありがとうございます」
「へっ、テメェばっか命かけさせんのもカッコ悪いからな、やれることがあんならやってやるよ」
そう言うとザカライアさんはメルクさんの手を取り引き起こす、後はお前がやれと 結局どこまで言ってもグロリアーナさんに真実を伝えられるのはメルクリウスさんの言葉しかない
今度は 貴方も落ち着いて 喧嘩しないように話してくださいね、無言の言葉と共にメルクさんの手を握る
「…グロリアーナ総司令」
「メルクリウス…、なんですか」
「魔女様は…今 窮地にあります」
「己の魔力に蝕まれ 暴走していると言うのですね、…信じたくはありませんが、エリス 貴方の真摯な行いに免じ…信じましょう」
「はい、それは 悔しいですが我々では救えません」
「でしょうね、…我々ではなんとも出来ない」
今度は二人とも落ち着いて話をする、グロリアーナさんももうエリスを敵としてみない、デルセクトの為に戦ってくれた人間として エリスに敬意を払ってくれる
「救う為には魔女レグルスの力が必要です」
「ですが彼女はもうフォーマルハウト様のコレクションです、それを取り上げることなど私には出来ません」
「はい、だから私が魔女レグルスを救い フォーマルハウト様を助け…デルセクトを元どおりにします」
「……………、だから 私に話を通す…と言うわけですね、私を騙し出し抜いて 隠密にことを済ませることも出来たでしょうに、態々私に話をしにくるなど 正直ですね、貴方は」
正直それはできたか怪しいが、でもグロリアーナさんを経由せず行動する方法はあったし、エリスもそれを考案していた、けれどメルクさんは態々彼女に話をしに来た 結果戦うことになれど銃を向けることになれど刃を向けられることになれど、関係ない
彼女は グロリアーナさんにどこまでも真摯でありたいんだ
「困っている人間 苦しんでいる人間がいるなら 手を差し伸べ助けるもの、貴方はそれを昔私に示してくれました、相手を選ばず 立場を慮らず」
「そうですね、…パンを抱え逃げようとする貴方に私は手を差し伸べました…懐かしいですね」
「はい、だから私も助けます 困っているなら苦しんでいるなら誰でも助けます、それが魔女であれど関係ありません、私は 魔女を助けます」
「……………………」
グロリアーナさんはその言葉を受けてより一層 深く沈み込む、そして考える 静かに…
そして
「…分かりました、貴方の覚悟と今までの戦い それを信じ、魔女様の目を覚まさせる事に協力しましょう」
「グロリアーナ総司令!」
顔を上げたその時、グロリアーナさんの目にはもう迷いはなかった 魔女よりもエリス達を メルクリウスさんを信じてくれると言うのだ
「魔女レグルスを助ければ フォーマルハウト様も救われるのですね?エリス」
「はい!、師匠なら 暴走を抑えられます、アルクカースのアルクトゥルス様の暴走も確かに解いていましたし」
「…なるほど、分かりました…では着いて来なさい、案内しましょう黄金宮殿へ、魔女フォーマルハウト様を助けに行きましょう」
そう言うと案内してくれると言うのだ、彼女はエリス達に背を向け歩み出す 師匠を助ける為に、グロリアーナさんが手を貸してくれる、メルクリウスさんの説得を聞き入れて…!
「エリス…」
「え?」
すると歩みだしたグロリアーナさんがふと振り向きながらエリスの方を見るのだ、なんだろう まだ何かあったかな
「すみませんでした…騙したこと 師匠を奪ったこと、このデルセクトの為に戦ってくれたと言うのに 傷つけてしまったこと、詫びさせてください」
そう言いながらグロリアーナさんはエリスに向けて頭を下げる、思えば彼女には散々な目にあわされている、彼女のせいでエリスは師匠を奪われ 一年近く身を隠す日々を送ることになった…だけど、だけど
「…大丈夫ですよ、いやまぁ最初は理不尽に怒りもしましたお陰でこの国のこと、皆さんのことをよく理解できましたから、エリスは今 グロリアーナさんに対して怒ったりもしてません」
怒ってない、今思えば彼女にも彼女なりの事情というか…苦悩あってのことなのだと理解できたしね、こうして最終的に分かり合えたのなら もう思うことはない
理解…それがなければエリスとグロリアーナさんは敵対したままだったろう、いやグロリアーナさんだけじゃない ザカライアさんやセレドナさん達のことさえ理解できなかった、こうして話をして関わって 彼女達の人となりを理解できたからこそ エリスにはもう怒りはないんだ
「ザカライアさん達も ありがとうございました」
「僕はザカライアが行くと言ったからついていったまでさ、礼などいらないよ」
「エリス、貴方には妾も命を助けられました その恩、この程度で返せるというのなら安いものですよ」
「受けた恩は忘れん、それがデルセクトを束ねる大王族たる我らの矜持、この金剛王ジョザイア 勇を示した者は至上の敬意を払う、当然のことよ」
「エリスちゃん達が頑張ったからこそ、こうして味方をしてくれる人がたくさん出来たのよ、頑張ったわね エリスちゃん」
「…やってこいよエリス、ここまでやったんだ 師匠助けてフォーマルハウト様の目ぇ覚まさせて またあの家で美味い飯でも作ってくれや、待ってるぜ」
そういうとザカライアさん達はエリスを見送ってくれる、…エリスがデルセクトを巡って手に入れた縁…お陰で助かった、助けられた 助けたから助けられた、…助けるというのは助けられるというのは やはり良いものですね師匠
…師匠の教えに生かされている、やっぱりエリスには師匠が必要だ…師匠、今助けに行きますよ
「エリス、行こう」
そう言いながらメルクさんはエリスの手を握ってくれる、彼女と遂にここまで来れた その事実を握るように彼女の手をエリスも握り返す、行こう…行きましょう…
「行きましょう、メルクさん」
師匠の元へ いや、デルセクトの栄光に向かって…
……………………………………………………
グロリアーナさんの案内で普段は閉じられている上層への道が開かれた、誰も立ち入れない空間 翡翠の塔の上層部分、そこから先はまるで別世界だ
薄暗く 静かで、ただただ集められた芸術品がずらりと寂しく並べられ 埃を被っている、それはまるでデルセクトの栄光の名を体現するようで些かの物悲しさを感じる
そんな階層を経由しながらエリス達は階段を登る、ふと小窓から外を見れば雲が見えた 雲と同じ高さに今エリス達はいるんだ、…下から見ても頂上が見えなかった、一体どれだけ高いんだこの塔は…
静寂の暗闇の中 三人の足音が響く
「魔女レグルスの石像は 魔女フォーマルハウト様の住まう黄金宮殿に存在します、…そこに赴けば 必ずフォーマルハウト様と邂逅することになるでしょう」
「…どうなるでしょうか」
「魔女フォーマルハウト様は魔女レグルスの石像に異様なまでの執着を見せています、何かしようとすれば確実にこちらに攻撃を仕掛けて来ます」
魔女がエリス達を…か、思い返すのはアルクトゥルス様の猛威…あれがエリス達に向けられたら エリス達は瞬く間に殺されるだろう、いくら元に戻す手段があるとはいえ やはり不安だ、それを発動させる前に殺されては元の木阿弥だから
「私が…魔女フォーマルハウトの気を引きます その間になんとかしなさい、エリス メルクリウス」
「え!?グロリアーナさんも手伝ってくれんですか?」
てっきり案内するだけ案内してそれで終わりだと思ってた、…この人は魔女フォーマルハウト様に逆らえない、いくら助ける為とはいえ 楯突くなどできないと思ってきただけに少しびっくりだ
「魔女フォーマルハウト様を助けるための行動を ハタから指をくわえて見てるだけ、というのは魔女の下僕を自称する者として失格ですからね、傷つくなら私も傷つきます」
「ありがとうございます、グロリアーナさん…」
「礼をいうのはまだ早いですよ、もし戦闘になってしまえば私といえど長く持たせられません、その間にしっかり仕事をしなさい、分かりましたね?メルクリウス」
「はい、グロリアーナ総司令」
そう言いながらメルクさんは両手の銃を見る、不安なんだろう…この銃なら理論上は石化も解除できる、だが理論の話だ いくら綿密に理屈を並べても現実は時としてそれを軽く凌駕する、、失敗する可能性もある 台無しになる可能性もある、ここまでやって…
「大丈夫ですよ、メルクさん エリスがいます」
いるからなんだという話だが、エリスとメルクさんは今まで多くの苦難を共に乗り越えてきた 二人なら、なんとなく全て上手くいく気がする そのなんとなくの安堵が、彼女の一助になるならエリスはいくらでも彼女の側にいる
「ありがとう、エリス……うん、君がいるならきっと上手くいく」
「仲がいいですね、…メルクリウスにも友が出来ましたか、嬉しいものです」
そんなエリスとメルクさんを見てグロリアーナさんは穏やかに微笑む、嬉しい 確かな感情なのだろうな、かつて一人で苦しみ戦っていたメルクさんの側には今 エリスがいる、メルクさんはもう一人じゃない
「さ、着きましたよ」
するて階段は終わりを告げ 出口へとたどり着く、階段を超えた先…塔の頂上には 輝かしい庭園と黄金の巨大宮殿がエリス達を待ち構えていた、一面に広がる花畑と幻想的な建造物 雲の上に存在するそれは宛ら極楽や天国の類のようだ
庭園?こんな高いところにこんな穏やかな草花がなんで…いや、これも魔女フォーマルハウト様の力なんだろう、自然の原理を超越し 摂理さえも無視する絶大な力、それがこの景色を作っているのだ
エリス達は花畑の真ん中の道を静かにいく、あまりに静か 天上の世界にはエリス達しかおらず、誰もが口を閉じている
高鳴る心臓がうるさい 雲の上の世界はこんなに寒いのに汗が止まらない、べっとりとした嫌な汗が あの宮殿に一歩近づく毎に吹き出てくる、緊張か 悪寒か 切望か …理由は分からない、でも…そう思い固唾を呑む
そうしている間に宮殿に着き グロリアーナさんはその重そうな扉に手をかけいとも容易く開け放つ
「これが黄金宮殿の内部…世界で一番 富の集まる場所」
又の名を 栄光の頂点、中にはさっきまで見た芸術品よりも更に豪華な物がずらりと並べられている、古い絵画 宝石で作られた彫像 黄金で象られたレリーフ…輝くペンダント 宝石の山、これだけ価値のありそうなものが 誰の目も向けられることなく寂しく佇んでいる
ただ、集めることだけが目的のようだ 自分の手元にあることだけが目的のようだ、鈍く輝く黄金の床を歩き 進む、この芸術品の中に師匠の石像が…
「ここです、これが魔女レグルスの石像…いえ 本人ですか」
…それはあっけなく見つかった、師匠の石像だ 師匠は呆然と立ち尽くすような無表情で石となってそこに佇んでいた、服も髪も目も何もかも灰色に染まり静止する エリスの記憶の中にある姿のまま…、別れた時のまま…
「師匠…」
思わず声が出て、その石肌に触れる 硬い 冷たい 生命の鼓動を感じない、それがたまらなく悲しくて涙が頬を伝う、すみません師匠…遅くなりました
ふと触れた指を見ると埃が付いている、…執着している割には 大切にはしてくれていないんですね…
「エリス…」
「メルクさん、早く元に戻してあげてください…ここじゃあ 師匠が可哀想です」
「分かった、じゃあ戻すぞ…」
「待ちなさい、エリス メルクリウス」
師匠を石化から戻そうとニグレドとアルベドを取り出したメルクさんを手を出して止めるグロリアーナさん、今更何を 手伝ってくれるのではなかったのか
そう抗議しようとグロリアーナさんを見れば、彼女宮殿の奥の闇をジッと見つめていた…奥の…闇…まさか
「グロリアーナ、珍しいですわね…貴方がこのような時間に訪れるなど」
背筋が震える、芯から震える 恐怖にではない…ただ、本能が言うのだ 『恐れ敬え』と、エリスの意思に反して体は震え思わず一歩引いてしまう
声の主、それがヒタヒタと素足で音を鳴らしながら こちらへとゆっくり 歩いてくる…
「おまけに、客人を連れているとは」
宙に舞うように揺らめく髪は 明星よりもなお輝く金の髪、極光の如き光を放ち極彩の魔力を纏う絶対存在、彼女の放つ気迫 威圧は国をそこから揺るがし、あらゆる王を傅かせる
名を栄光の魔女フォーマルハウト…デルセクトを治める八人の魔女のうちの一人、師匠を石に変えた張本人が今 宮殿の奥から現れたのだ
そもそも隠れているつもりはなかった、魔女の目にかかればどのように隠れても意味がないから でも、いざ目の前にすると思ってしまう…見つかったと
「何をしようとしているんですの?、ここは人の立ち入りを禁じていますのに」
「…フォーマルハウト様 お許しください、…これも貴方の為なのです」
「わたくしの為……はて、わたくしの目にはどうしても貴方達がわたくしのコレクションを穢そうとしているようにしか見えませんが」
「師匠は!…貴方のコレクションではありません、友人です…友人だった筈です、それを今 助けようとしているだけです」
声を張り上げ フォーマルハウト様に口で答える、思わず声が出てしまう 問いかける…友人だった筈だと、少なくとも師匠はフォーマルハウト様を友だと言っていた、なのになんで
「…貴方は?」
「エリスはエリスです!孤独の魔女の弟子!エリスです!」
「エリス…レグルスの弟子?、…なら答えましょう 友だから石に変えるのです、わたくしの栄光を輝かせる為に、かつての栄光を取り戻す為に」
「かつての栄光…大いなる厄災を打倒した時のようにですか!」
「違います…奴を倒す時 我らは既に栄光を失っていました、わたくしが求めるは…八人で共に笑っていた時 あの過去を取り戻す為に、わたくしはまた 八人をここに集めるのです」
「それが石に変えることだと言うのですか!」
「だって、そうしないとまたみんな…わたくしの側から離れてしまう、…みんな…だから わたくしは…わたくしは、友を…友情を」
「そんなもの、友情でもなんでもない!」
今度はエリスじゃない、メルクさんだ 友情を口にするフォーマルハウト様に向けて 牙を剥き、激怒するように否定する
「…なんですの?貴方、わたくしの友情を否定すると?」
「友情じゃない!ただの自己満足だ それは、…フォーマルハウト様 目を覚ましてください、友を裏切り 石に変え側に無理やり置く…そこに友情があるわけないじゃないですか、友情とは認めること 離れていこうと見送ること、尊重することを言うんです」
友情…それは 認め信じ 例え離れていようと想い続ける事を言う、フォーマルハウト様がやっていることはただの凶行だ、友情を裏切る行為でしかない それを彼女は突きつける、包み隠さず遠慮せず…
しかし、フォーマルハウト様はその言葉に答えようもせず…静かに
「…やはり レグルスを石化から解放するおつもりなのですね、…わたくしからレグルスを奪おうと言うのですね」
エリス達に敵意を向ける、魔女が エリス達に…レグルス師匠を奪おうとするエリス達を排除しようと魔力を漂わせる
「…っ!、メルクリウス!早くレグルスを元に戻しなさい!」
「させませんよ」
「私がフォーマルハウト様を抑える!、その間に何としても戻すんだ!」
エリス達に襲いかかろうとするフォーマルハウト様に向けグロリアーナさんは腕を黒曜石に変え飛び掛かる、早く戻せと言うのだ…いや レグルス師匠だけなんだ、今この場を抑えられるのは!
「分かりました、…ニグレド アルベド…出番だ」
メルクリウスさんは二丁の銃を石化したレグルス師匠に向け 魔力を高める、二つの錬金機構の力を最大限活かす為に
「グロリアーナ…貴方もわたくしから奪いさろうと言うのですね!、許しません 許しません許しません!許せない許せない許せない!」
「やはり…貴方は狂気に冒されて…私が今助けます!フォーマルハウト様!」
「邪魔です!グロリアーナ!」
襲い来るグロリアーナに向けて フォーマルハウト様は両手を広げて迎え撃つ、来る…魔女の錬金術が!
「…『錬成・蛇壊之坩堝』」
「っ!?これは…!」
刹那グロリアーナさんの足下から 土で出来た蛇が現れる、…いや訂正しよう 蛇じゃない 大蛇…いや最早龍だ、硬い鱗は卸金のように鋭く尖り壁や床 周囲の芸術品を破壊しながら何体も何体も現れる
「くっ!、これが魔女の力か…」
龍の鱗は硬く 切りかかったグロリアーナの黒曜の刃が逆に弾かれ欠けてしまう、なんて硬度だ あの万断の黒爪をいとも容易く弾いてしまうなんて
「不敬者は死になさい」
しかもその龍はフォーマルハウト様の意思に呼応し次々形を変える 鱗が槍や剣に変形し射出され 爆裂し、そこから更に龍が現れる グロリアーナさんも上手く立ち回っているが、打つ手がない
「フォーマルハウト様!貴方は今正常な状態にないのです!落ち着いてください!」
「…正常でない?…わたくしが…この鳴り響く頭痛のことを言っているのですか?…、さっきから殺せ殺せと叫ぶ我が胸の内を言っているのですか!、ぐっ…ぅぐぁぁっ!」
グロリアーナさんの言葉にフォーマルハウト様を苦しみ始める、…頭痛 やはりアルクトゥルス様と同じだ!やっぱり暴走して…
そう 気を抜いた瞬間、フォーマルハウト様が目を輝かせ そう比喩でも何でもなく赤く輝かせ、その目をグロリアーナさんに向けて
「なっ!?しまっ……」
瞬間 グロリアーナさんの黒曜の体が、ただの石塊へと変じる、石にされてしまった 石像にされてしまった!レグルス師匠と同じ石化、師匠もああやって石に変えたのか…!
石に変えられ力を失ったグロリアーナさんの石像はは、その場で制止し…抵抗出来ず 土塊の龍によって…
…砕かれた、粉々に
「ぐ グロリアーナさんッ!?」
死んだ 死んだのか!?いや死んだ!グロリアーナさんがいとも容易く 石に変えられ砕かれれば命はない、エリスの足元にグロリアーナさんの石像のカケラが転がり血の気が引く
目を見ただけで石にされる この状況では瞬時に砕かれる、いやそれ以上に今人が死んで…
呆然とするエリスを他所に足元の石のかけらは一人でに輝くと、きらり煌めいて…
「ッ…と 危ない」
「グロリアーナさん!生きてたんですね!」
光り そして光が一箇所に集まるとそこには生身のグロリアーナさんが立っていた、生きていた バラバラにもならず傷ひとつない、恐らく石にされる寸前 自分を雷光に変えていたんだろう、そのおかげでバラバラにされても問題なく元に戻ることができた
いや自前で石化を解除出来たのは本人もまた卓越した錬金術の使い手故か、それでもグロリアーナの頬を伝う冷や汗は冷えた肝からくるものではないだろう、今の石化解除でかなり力を消耗したのだ…
「参りましたね…」
ふと 吐露される劣勢、しかし未だメルクさんは魔力を貯めている最中だ 時間にしてまだ1分も経っていない、いや1分も魔女を相手にして五体満足でいられるのはグロリアーナさんくらいな者だろう
しかし、それでも…劣勢は劣勢、このままいけばメルクさんの準備が整う前にグロリアーナさんは殺される、少しでも 気を逸らさせないと
胸の前で拳を握る、師匠…エリスに力を…
「颶風よ この声を聞き届け給う、その加護 纏て具足となり、大空へ羽撃く風を 力を 大翼を、そしてこの身に神速を 『旋風圏跳』!」
「ん?、旋風圏跳…それはレグルスの…」
風を纏い グロリアーナさんの脇を潜り抜けて 飛び出す、石塊の龍が乱舞する地獄、そこへ飛び出すのだ、フォーマルハウトさんの気を一秒でも 二秒でもこちらに向けるんだ、時間を稼ぐ!
「ほう、わたくしの前に立つと?…健気ですこと」
フォーマルハウト様はエリスに反応に龍をこちらに嗾ける、幾重の龍の牙がこちらに向けられうねりを伴ってこちらに向かってくる、一体一体に魂があるかのようだ…そんな巨大な龍の鼻の上を踏んづけ 鱗で足を切らないようにしながら …龍の上を走る
「くっ!、フォーマルハウト様!エリスは…師匠とまた旅がしたいんです!だから!…だから!、師匠を返してもらいます!」
「無理です、レグルスはここでわたくしと未来永劫過ごすのですから」
龍の体から槍が出る剣が出る、どれも高速だ 目にも止まらないくらい速い、そんな刃の乱舞の中を走る 逃げ回るように走りながら エリスは…
「此れ為るは大地の意志、峻厳なる世界を踏み固める我らが礎よ今、剛毅剛健を轟かせ屹立し眼前の全てを破砕せよ『岩鬼鳴動界轟壊』!」
「それもレグルスの魔術…」
岩を操る魔術 岩鬼鳴動界轟壊、土塊の龍の体はこの世の物とは思えないほどに硬い…課題には硬いが それでも岩は岩だ、これを用いればその体はあえなく形を崩し粉々に粉砕され、エリスの周りにある龍達が諸共崩れ 岩の塊として大地へ落ちる
「焔を纏い 迸れ俊雷 、我が号に応え飛来し眼前の敵を穿て赫炎 爆ぜよ灼炎、万火八雷 神炎顕現 抜山雷鳴、その威とその意が在る儘に、全てを灰燼とし 焼け付く魔の真髄を示せ 『火雷招』」
続け様に放つのは火雷招、効かないのは分かってる、けれど 少しでも時間を稼ぐために魔術を放つ この一秒一秒がレグルス師匠のためになると信じて、エリスは 魔女に向けて始めて魔術を用いる
「火雷招…それも…ッッ、れ レグルス…」
何故かエリスの魔術を前に苦悶の表情を見せるフォーマルハウト様だが、迫る炎雷を前にすると動きが変わる…ゆらりと不思議な挙動で手を前にかざすと 無防備にも指先でちょんと炎を纏う雷に触れるのだ
たったそれだけでエリスの雷は無力な白煙へと変わり空に散る、錬金術 物を別の物へと作り変える力、その極致とも言えるその技量は 相手の魔術さえも意のままに変えてしまうのだ
絶技…どうやったらその領域まで行きつけるのか想像もつかないほどの絶技を前にエリスは無力化された、まぁ効かないのは分かってたけどさ 顔色くらいは変えたかったな……
火雷招を変えられ出来た白煙の中着地する、その刹那 …走る悪寒 高鳴る鼓動 警鐘を鳴らす嫌な予感、まるでエリスの心臓を狡猾な蛇が巻き取り舌なめずりをしているような…そんな恐怖が 芯を貫く
そしてその正体はすぐにわかった、いや直ぐすぎて何の対応もできなかった…
煙の奥で フォーマルハウト様がさっきまで立っていた場所で、赤い…赤い二つの輝きがエリスを見ていたんだから
「ちょこまか動くな…『錬成・紅光石化之魔眼』」
あ…やばいと思った時既に遅く、エリスは煙と隙間から覗くフォーマルハウト様の赤い目を見てしまっていた、さっきグロリアーナさんを石に変えた物と全く同じもの それが今度はエリスに エリスの目に向けられる
見てしまった以上もう逃れようがない、でもエリスには自力で解除する力はない
終わった 砕かれる、石になれば砕かれる 砕かれれば命はない
死んだ 迂闊だった、深入りしすぎた 油断していたつもりはないが…いやそもそも魔女相手に挑もうと思うことさえが、油断だったのか…
「ぁ…か……っ……」
必死に逃れようとするが体はピクリとも動かない、まるで体の内側に鉄で筋を入れられたかのようにエリスは微動だに出来ず その赤い光を受け入れ続ける
ああ、体の奥の方がもう冷たくなっている…石になっている事が感覚で分かる、…あ…も…もう……し…しょう
その瞬間、エリスの体は 魂は 全ては石に変わり その思考は闇へと閉ざされ、石の体がゴトリと音を立てその場に佇む
止まった意識の中 石へと変じたエリスの体、最早何かを感じる心もない、もう何も出来ない
エリスの時は今、完全に静止した……
「………………」
石へと変わったエリスの彫像の前にヒタヒタとフォーマルハウトが歩いてくる、無感情に無表情に 石となったエリスを前に、それを見下ろす
「…レグルスの…意志を継ぐ者…、くっ!うっ…保管…しなくては、その日まで…『開く鍵』として……」
その声は確かにフォーマルハウトの口から発せられたが、果たしてそれはフォーマルハウト自身の言葉だったのだろうか、それを考察できる者は誰もいない
譫言を呟きながらエリスの石像に手を伸ばすフォーマルハウト
「や やめてください!フォーマルハウト様!その子はデルセクトを救ってくれた…」
「ふんっ…」
止めようとするグロリアーナに向けて手を振るえば 即座に虚空から檻が現れグロリアーナの行動を封ずる、グロリアーナの斬撃でも傷一つつかない不壊の檻に囚われ、今 エリスを守る者はいなくなった
「エリス…意志を継ぐ者…保管を…、資格を持ちし子…世界を…割る子…エリス、レグルスと共に…その時まで保管を……」
白い手がエリスに伸ばされ…今、確かに掴まれた………
ただし、フォーマルハウトの手が石化したエリスを掴んだのではない
「誰と一緒に…だって?」
フォーマルハウトが 掴まれたのだ
「れ…レグルス!?」
「やってくれたな、フォーマルハウト…私のみならずエリスまでも!」
揺れる黒髪は黒曜よりも尚黒い射干玉、燃ゆる瞳は烈火の如く 掴むその手は怒りに打ち震え、空を揺らす言の葉は確かに…確かに石と化したレグルスの物で
いや、石『だった』レグルスの物だ
「貴方 な 何故!、完全に石化していたはず!?わたくしの錬金術で芯まで…」
「知らん!戯言なら後で聞く!」
するとレグルスは掴んだその手を握ったまま、フォーマルハウトの体をぐるりぐるりと振り回し 宮殿の外まで投げ飛ばし、放つ衝撃波は周囲の壁やグロリアーナを封じる檻が崩れる程で
「…さて、どういう状況だこれは」
石化から完全復活したレグルスは久々に動く体を噛みしめるように首を鳴らす、そうだ…さっき復活したばかりなのだ、突如意識が光を取り戻し 視界が晴れたと思うや否や自分を石に変えた張本人が今度は弟子にまで手をかけようとしているではない
考える間も無く体は動き、フォーマルハウトを投げ飛ばし時は今に至る、周りを見れば見覚えのない宮殿、近くにいるのは…見覚えのある顔だ
「…グロリアーナと、青髪の軍人 確か名前はメルクリウス…だったか」
どちらもフォーマルハウトの、手先として自分を襲った者達だ…すわ敵かと目を細めるも、直ぐに思い至る 自分が石から元に戻れたのはコイツらのおかげでは と、事実彼女達からは敵意を感じず軽い安堵が伝わってくる
フォーマルハウトの手先が何故…、石になっている間に何があったか どういう風の吹きまわしかは分からないが、今が敵でないならなんでもよいとレグルスは鼻で笑う
「レグルス…魔女レグルス様ですね、エリスの師匠の」
「ああ、そうだが?君はメルクリウス…だろう?、状況がまるで分からん 何故フォーマルハウトに与していたお前達が 私の身を案ずる」
青髪の軍人メルクリウスは 白と黒の銃を両手に持ったままレグルスの元まで駆けてくる、以前あった時よりも背丈が伸び 表情は幾分柔らかいものになっている、…私からすればあの夜の出来事はつい先程の事、ついさっきまで私に敵意を向けていた人間が 今は柔らかな表情で駆け寄ってくる 不思議な感覚だ
「いえ、…今はフォーマルハウト様を止めるため戦う身です、貴方の弟子エリスと共に…」
「エリスとだと?」
「はい、彼女は私にとって無二の友です、…彼女と共にレグルス様を助け フォーマルハウト様を助ける為に、この半年以上もの間 ずっと戦い続けてきたのです」
「半年!?そんなに長い間石になっていたのか私は…、エリスが…そうか」
私が石化している間にエリスはずっとわたしを助けるために戦ってくれていたという、味方のいない国で味方を作り 私を助ける為に時間をかけて友と一緒にここまで助けに来てくれたのか
…立派になったなエリス、石になったその頭を軽く撫でる…、しかし全く無茶をする 魔女に挑み掛かるなど 絶対にしてはいけない行いだ
「おい、私を石化から助けたようにエリスも元に戻せるか?」
「はい、今助けます…容量は掴みました 直ぐにでも」
状況は分からん だが、今それを聞くよりも前に 石になった弟子を元に戻してやりたい、きっとこの子は半年間私のいない間 寂しい思いをしていたに違いないから、一刻も早く 顔を見せてあげたい
メルクリウスは魔力を高め 白と黒の不思議な銃を二つ 構え、そして…エリスに向けて引き金を引いた
すると
「………ッ…プハッ!あ…あれ?、エリス石になったんじゃ」
エリスの石の体は砕け 内側から生身のエリスが現れる、いきなり石化から解放され 枠もわからず己の体をペタペタ触り周囲を見回す すると、目が合う…エリスと 私の目が
「…あれ?、師匠?…あれ?また夢…?」
「エリス、久しぶり…なのか?」
私の顔を見て目を白黒させるエリス、首を傾げたりほっぺをつねってみたり 色々した後、それが現実であると理解して目を潤ませる
「師匠、ほんとうに師匠なんですよね」
「ああ、そうだ すまない、私の不覚で 寂しい想いと苦労をかけた」
「ししょう…ししょう…、あ…あぁ…師匠ぉぉぉお!!!」
エリスが泣きながら飛びつき 私の体にひっつきながら涙をグリグリ押し付けてくる、懐かしいなこの感じ 初めて会った時の事を思い出す、エリスは私に会えた感動で周りの目など気にすることもなく おいおい泣きながら抱きついてきて…あ 鼻水ついた
「あ…あのエリスが、こうも泣きじゃくるとは…余程、レグルス様に会いたかったのか…」
「会いたかったです!会いたかったです師匠!ずっと!ずっとずっと!、貴方に会いたくてエリス!すごく頑張って…いっぱい戦って…!」
「ああ、エリスの活躍を私も聞きたい…だが」
エリスの頭に手を置き、、一旦離す 状況は分からない エリスとの再会も惜しい、だが 今はするべき事がある
「感動の再会はまず、フォーマルハウトと決着をつけてからだ」
弟子を傷つけ 弟子と引き離した張本人、暴走しているであろうフォーマルハウトを止める、まずはそれからだ…
「フォーマルハウト様を救ってくれるのですね」
「ああ、あいつはああなっても私の友だからな、…なんとかしてみる」
「お気をつけを、今のフォーマルハウト様は際立って普通ではありません、恐らく レグルス様と言えど殺しにかかってくる可能性があります」
「だろうさ、だが…それでも止める、アイツを叩きのめして 正気に戻す!」
エリスを離して踵を返す 向かうは宮殿の外、…一度不覚を取ったが 今度こそ、奴の性根 叩き直す!、石化し半年挟んだリベンジマッチ あの夜の戦いの続きを今 やり直す
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