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四章 栄光の魔女フォーマルハウト
76.孤独の魔女と濃霧に隠れた真相
しおりを挟む五大王族 アレキサンドライト家
元を正せばスマラグドス家の分家であったが、凡そ200年ほど前 本家を上回る勢いで力をつけ 独立、アレキサンドライト家としてクリソベリアという国を持つようになったという
クリソベリアを立ち上げた建国王サンドル・アレキサンドライトは本家スマラグドス家に強い劣等感を持ち スマラグドス王国を上回ることだけを考え 積極的に技術革新を取り入れ資金調達、その資金を使い各国に金を貸し与える金融を始め より一層国力を増大
遂に50年ほど前 当時の五大王族の一角であったマルガリタリ王国を罠に嵌めその領土の凡そ八割を徴収し五大王族の座から引き摺り下ろし、アレキサンドライト家は一気に本家スマラグドスに並ぶ五大王族の一角に上り詰めたのであった
そういう経緯もあり アレキサンドライト家は歴史も五大王族としての暦も浅い 金と悪巧みだけでのし上がった国というイメージが強いらしい、ザカライアさんは別に気にしている様子はなかったけどね あの人にとっては100年前200年前の話なんてどうでもいいのかもしれないが
…ともあれ、クリソベリアという国は初代国王から連綿と続く劣等感で異常なまでの急成長を遂げている、金と技術力を使い 今なおデルセクト内で勢力を伸ばしているらしい
「着きましたよ、メルクさん」
「ああ、ここまですまないな…エリス」
クリソベリア王国 中央都市アレクサンドリート…別名 天蓋の都と呼ばれる街の郊外に存在する名もなき山に立つエリスとメルクさん…
列車事故に乗じて行方をくらませたエリスとメルクさんはあれから二人で街や人目を避けて移動、二週間に及ぶ行軍の末 遂にこのクリソベリア王国の中央都市に辿り着くことが出来たのだ…分かっちゃいたがめちゃくちゃ時間がかかった 、やっぱ徒歩で国から国の移動は無理があったなと思いつつ 後悔はしていない
もし、普通に列車でこの街に入り込んでいたら エリス達は街に入った瞬間手荒い歓迎を受けていただろう、そこから考えると無警戒な敵の懐に潜り込めるのだ 幾分…どころかかなりやりやすいだろうな
そう思いこうやって山の上で街の様子を探ろうとしたのだが…
「しかし、街の様子見えませんね…」
街があると思わしきそこには常に重たい霧がかかっており 中の様子など全く見えないのだ…
「蒸気機関を用いた工場をいくつも有しているからな、常に蒸気が噴き出した結果 街は常に霧に包まれているらしい、まぁ 風の強い日とかは普通に空が見えるのだが…今日は些か霧が強いようだ」
中に入れば多少は違うらしいが、少なくとも外からは全く見えない、出来るならここから怪しいところまですっ飛んで手早くチャチャっと捜査なんてのを考えていたんだが、こりゃ普通に街に入らないと分からなそうだ
「街に入るんですよね…」
「そうだな、…我々のすべき事をまとめておくか、我々のすべきはソニア様がマレフィカルムと繋がっている決定的な証拠を見つける事…つまり消えたアルベドを見つけ出せば済む事だ、アルベドを見つけ出し奪い返す事が出来れば それを元に彼女を問い詰めることができる」
「出来ますかね…」
「何、アルベドさえこちらの手に入れば それを元にグロリアーナ総司令に報告すれば良いさ、グロリアーナ総司令の前ではさしものソニア様も嘘偽りで逃れることはできない…ニグレドさえ奪い返すことができればいいんだ」
とはいえエリス達はアルベドの見た目さえわからない、まぁソニアさん達がこっそり持ち出せるくらいだからそんなに大きくべらぼうなものではないと思うが、しかし確かにアルベドを奪い返しさえすれば マレフィカルムとの繋がりも暴けるはずだ
「では、行きますか」
「ああ、街の中に入れば中の様子も分かるだろう、…身を隠しながらソニア様の城を目指すぞ」
その言葉を合図にエリスはメルクさんを抱きしめ旋風圏跳で飛び上がる、向かうは霧の中 ソニアさんの居る 中央都市アレクサンドリート、カエルム マレフィカルム この国を取り巻く問題に決着をつけるため
……………………………………………………
天蓋の都市 アレクサンドリート…、まるで天に蓋がされたように常に重たい霧が街を覆うこの街を形容するに相応しい呼び名だろう
街の有り様は凄いものだ、圧巻 圧倒 絢爛 豪華…浮かぶ言葉連ねるならそれだ、この国の技術は進んでいる、そんなこと分かりきってても驚いてしまう程に 街の姿は未来的だった
天に伸びる幾多の煙突からは常に煙が噴き出し、街の至る所 壁面地面問わずあちこちから煙が吹き出し 何かを動かす為の歯車がごうんごうんと音を立てている、まるでこの街全体が何かの工場かのようだ
凄まじいな…店という店も必要最低限しかなく 皆が皆工場で働いているのだろう、悪く言えば国民を奴隷のように扱っているとも見れるが、逆に見ればこの国の人間は誰も働き口に困っていないという事だ、潤沢な資源は 国民全員を養えるほどに有り余っているという訳か
まぁ、活気のある街には見えないが…これも豊かさのうちの一つなのかもしれない
蒸気でやや湿気った地面を踏む…天を見れば霧の中に消える建物の影とほんのり光る灯りが眼に映る、自然的ではないが 人の技術が作り上げる一種の美しさ幻想さのようなものさえ感じてくる…もし、世界の技術が進化し続ければ 世界全体がこんな風になってしまうのかな、なんて思考が傍にそれる
「技術力を誇るデルセクト国家同盟群の中でも随一の技術を持つ国…ですか、この目で直に見ると凄まじいですね」
「おい、あまりボウっとするな…あまり長居していい理由もない」
エリス達は身を隠しながら大通りを行く、と言っても今の時間帯は皆働いているのか 街を行く人間はあまりに少ない…これなら道中見つかって大立ち回り、なんてこともなさそうだ
「にしても霧が濃くて前があまり見えませんね…、これじゃあ遠視の魔眼も意味を成しませんね」
「そうだな、だが ソニア様の居城は街の真ん中にある…大通りを道なりに進めば自ずと着くだろう、…はぁ ソニア様と遂に対決か」
霧の向こうにあるであろうソニアさんの居城を睨みつけるメルクさんの声は弱々しい、怯え 恐れている…
「怖いですか?メルクさん」
「怖い…ああ恐ろしいさ、私は昔…あの人の趣味に付き合わされたことがある」
「趣味?ですか?」
いい趣味とは言えないだろうな、なんとなくだが…
「あの人の趣味とはな…拷問だ、いや何も聞かないからただ痛めつける為だけの拷問 とでも言おうか」
「…酷いですね」
「ああ、分かっているだろうがあの人の加虐性は異常だ、他人を甚振り 痛めつけ 悲鳴を聞くことが大好きだ、血を見るのはもっと好きだ…死んでも笑ってる 生きても嗤ってる、実態を持ち人の形をした悪夢だよあの人は…」
そういうと 大通りを歩きながらメルクさんはポツリポツリとソニアさんとの因縁を話し始めた
「私があの人と初めて会ったのは軍人になって数ヶ月後の話だ…自分の債務者の娘が軍人になったと聞いて、あの人はニコニコしながら私の前に現れたよ、『貴方のお父様が 私の父から借金をしていたのです、その返済義務は貴方に移りましたので そのご挨拶に』とね…まだ幼く 私より小さな子供のにこやかな笑顔を見て…これ以上ないくらい恐怖したのを覚えているよ」
そんなに小さい頃から縁があったのか…というか、昔からあんまり変わらないんだな ソニアさんは
「そのまま私はソニア様に連れられて ミールニアにある彼女の別荘に招かれたんだ…そこで見たのは、地獄だったよ…地獄だ 今でも覚えてる、あの別荘の本棚の裏に隠された隠し階段 闇の中を木霊する幾多の呻き声、鼻の奥を刺すような異臭…」
「め メルクさん、落ち着いてください?」
「…彼女はその地下で、私に見せつけてきたんだ 義務を怠った者の末路を、壁に張り付けられた幾人もの人間を 中には死体もあった…彼女はそれを私に見せつけて『金を返さないとこうですよ』と言いながら嗤っていたんだ、それを見て笑っていた…」
想像よりもハードだ、地下施設に何人も監禁して 磔にして殺していたと?、そんなこと許されるのか?いや許されているんだ 彼女は…、軍部さえも丸め込み 債務という大義名分を得た彼女は 今なおその悪辣な趣味を繰り返しているんだろう
「その中の一人…中年の男を…痛めつける様を見せられた、いや痛めつけるなんてものじゃない あれは殺害だ、縄で腕を縛り 足に釘を刺し 火で炙り…水につけ、あ…剰え…か…顔に…顔に…硫酸…ヴッ…ぅぅ」
語り始めた彼女は止まらない、自分で語り自分で思い出し 耐えられなくなり口を手で押さえ蹲ってしまう、それだけの恐怖を与えられたんだ…トラウマと言っていいほどの恐怖を、エリスも今も かつて奴隷時代に与えられた記憶を思い出せば 恐怖で動けなくなってしまうから、よく分かる…
「大丈夫ですか?メルクさん…」
「あ ああ、…結局その男は拷問の末殺されてしまったんだが…何より恐怖したのはその後だ、その男の身分を聞かされた時だ、…そいつはアレキサンドライト家の王 つまりソニア自身の父親だったんだよ…、少し前に小さなソニアによって罠に嵌められ失脚し行方不明になったアレキサンドライト王が 地下に監禁され、…ソニアは 実の父を拷問し殺していたんだ」
あの若さで国の主になっているのには何か事情があると思っていたが、自分で父を殺して 自分で玉座に上り詰めていたのか、しかし異常だ 自らの家族を何のためらいもなく殺すなんて…異常 というよりはもう狂気的だ
「父だけじゃない 自分の妹も母も同じように殺したらしい、…そして 理解したよ、私の父が首を吊った理由が 母が間男を作ってまで逃げた理由が、ソニアから逃げるためだったんだ …あの惨状を知っていたから 二人は逃げたんだ」
拷問を受けるくらいなら死んだほうがマシ…そうして彼女の父は死んだ、いやもしかしたら彼女の母が道中山賊に殺されたというのも実は嘘で…どこかでソニアによって…いや、やめておこう 考えても無駄だろうから
「返済が滞れば…次はお前がこうなる番だと…、それからか 地下に居を移し少しでも金を返済に充てるようになったのは、…出来れば顔も見たくない 出来れば関わりたくない、すまない…私に恐怖心がなければ 真っ先にここを調査していたというのに」
当時 親を亡くし弱っていたメルクさんがその惨状を見てどれだけ恐怖したか どれだけ恐れたか、慮るに絶するものだ…そして 今ソニアを前にして感じる恐怖もまた
「メルクさん、怖がることは悪いことではありません 恐れることも、貴方はそれだけ恐怖かしながらもソニアさんに負けなかった、恐怖に屈せず今ここにいる その強さを恥じる必要はありません」
「エリス…」
「それに エリスも付いてます、二人ならきっと 何とかできますよ」
ね? とその肩に手を置き声をかける、二人なら何とかなる 事実エリス一人では倒せなかったメルカバもメルクさんとなら倒せた、ならメルクさん一人では何ともできなかったソニアも エリスとなら、乗り越えられる筈だ
「…そうだな、君となら何とかできそうな気がするよ、不思議なものだな」
「不思議なことなんかありませんよ、エリス達ならね」
立ち上がるメルクさんの顔に 声に もう迷いはない、今なら 二人なら恐怖だって乗り越えられる、たとえどれだけ恐ろしい存在でも…エリス達なら
そう覚悟を決めたあたりで、ちょうど それは霧を裂き中から現れる…絢爛なこの街の中でより一層絢爛な鋼の城、霧の中でほんのり光を放つ ソニアの居城 アレクサンドリート城、ここにソニアさんがいる ここにニグレドもある…
マレフィカルムとの繋がりを 彼らの悪事を暴く最後の捜査の始まりだ…
とは言ったものの
「さてどうするか、玄関先ノックで中にあげもらうわけには行くまいよ」
「そうですね、ザカライアさんの時 セレドナさんの時には上手く城の中に入れましたが、ここばっかりはそうもいきませんよね」
何しろエリス達は死んだことになってるんだ、この中に入るにはある程度方法を考えねばなるまい、と言っても何をしたものか
「仕方なし、ここは手分けをしよう…エリス 君は旋風圏跳で中の様子を探ってきてくれ、私は城の外周を回り 探ってみる」
「エリスは上から メルクさんは下からってことですね、分かりました」
単独行動は危険だが二人揃って動けばそれだけ発見される確率も上がる、なら 手分けするのはありだろう、それにエリスなら空を飛んで城の窓から中の様子を探れる、上手く潜入すれば 中の様子を探ることもできるだろう
「では行ってきます、メルクさん 気をつけてくださいね」
「お前もな、何があるか分からんからな…気をつけろよ」
そういうとメルクさんは城壁を駆け上がり中へと入っていく…エリスも続かねば
「…『旋風圏跳』」
霧を裂いて空へと飛び上がる、霧で前がよく見えないが 全く見えないわけじゃない、何より城の影は霧の中でもはっきり見える、方向を見失いはしない…とりあえず光が漏れてる窓辺まですっ飛んでみようかな
「よっと…わたた」
なるべく音を立てないように城の壁面にひっつく、蒸気でやや濡れた鋼であるため一瞬手を滑らせ落ち掛けるがカサカサ手足を動かして事なきを得る…危ない危ない、結構な高さまで登ったからな 落ちたら大変だ、飛べるけど…飛べるけど落ちるのは怖い
「………そっと…」
そっと 窓の外から中の様子を伺う、鋼の城 という奇妙なものながら中は他の城と変わらないものだ、綺麗な壁 綺麗なカーペットにシャンデリア…客室かな?ここは
とはいえここには誰もいないみたいだ、別の窓を探ってみないと…
そう思い 別の窓へと飛び移ろうとした瞬間
「いやぁ、王サマに客室に招いてもらえるなんて、夢みたいだぜ俺ぁ」
聞いたことのある声が 部屋の中に響く、このナメくさった煽り散らすような声は…
(戦車のヘット!?)
この国のマレフィカルムを束ねる存在、戦車のヘット…声に反応して目を見開き慌てて、かつそーっと窓の中に目を向ければ、そいつは確かにいた 黒いコート 白いシルクの布を肩かけ トレードマークのテンガロンハットを部屋の中でも外そうとせず、そいつは客室にドカドカと入ってくるのだ
何故ここに、とは思わない…もう思わない、間違いない…ソニアは…
「あまり大きな声は出さないでくださいね、あなたがここにいるのは内緒なんですから」
ソニアはマレフィカルムと繋がっている、ヘットに並んで客室に入ってくるのはこの国の王にして五大王族 双貌令嬢のソニアその人だ、目を伏せ嫋やかに歩きながらヘットと二人で 向かい合うように客室とソファに腰をかける
…脇にはソニアの従者ヒルデブランドもいる、間違いない ソニアとヘット やっぱり二人は裏で繋がってんだ
「悪い悪い、けどもうバレてると思うけどなぁ」
「あなたがメルクリウス達にバラしたんでしょう?」
「さて、アイツらならいずれ 遅かれ早かれ真実に辿り付いていたさ、それに責任とって資格を差し向けたろう?、あの列車事故 お前の耳には届いてんだろ?」
「ええ、突如橋が崩落し、列車一つ谷の底…乗り合わせていた乗客全員行方不明、メルクリウス達も含めてね」
あの列車の襲撃はやはり二人が仕組んだことだったか、エリス達を葬り 真相を闇へ葬る為にあんなメチャクチャなことを…
「まぁ、あの大橋の下は断崖です 列車ごと落ちては助かりませんね、真相もまた崖の闇へと消え……」
「おいソニアのお嬢…フラグって知ってっか?」
「へ?、フラグ?旗ですか?」
「そういうのはな、口にすると現実は進む…良くない方へな、この高さから落ちたら生きてはいまい なんて思っても口にするんじゃねぇよ、事実 ニコラスとザカライアは生きてる…監視してはいるが、まだ完全に真相を知る者が消えたわけじゃねぇ」
「なんですかそれは、自分の仕事の不出来さを誇るんじゃないですよ」
「悪者の会合で余計なこと口走るなって話さ、小説じゃ定石だろ?こんなの、崖の下に落ちたヒーローってのは 得てして生きてるもんさ、不思議とな」
ソニアはエリス達の死を疑ってないようだが…ヘットの方はまだ警戒しているようだ、相変わらず油断ならない男だ、このままじゃ死を偽装しているのがバレるのも時間の問題だな
しかし二人の会合はやたらピリピリしている、ソニアもここから見てわかるほどにイライラしている…おっかないな
「…なんでもいいですが、そちらの処理はあなた達に一任しています…シクったらテメェもあの地下室行きだかんな?」
「ははは、チビるような怖い脅しはやめてくれ パンツの代えは持ってきてないんだ、それより例のブツは?俺が大勢の部下を犠牲にして囮をやったんだ そっちこそちゃんと仕事できてるんだろうな」
「チッ、ヒルデ!」
「是…ここに」
するとソニアが指を鳴らせばヒルデブランドが革のスーツケースをどかりと机の上に乗せる、例のブツ…もしかしてあれが
「第二工程・アルベド…現行の錬金技術で作り出せる限界点、これ以上の代物は この先300年は作り出せないと言われている究極の錬金機構よ」
「その一つ…だろ、二つ揃わなきゃそいつはただのおもちゃだぜ、しかしすげぇな そんな小さなバッグに収まるのかい、魔女に迫る力ってのは」
あのスーツケースの中にアルベドが…、あれを奪うことが出来ればいいが 今あそこに突っ込んでいっても奪取は無理そうだなソニアさん達は分からないが ヘットを出し抜ける気がしない、今は様子を見よう
「ええ、奪取してからこちらでも色々と研究してみましたが…ダメですね、量産とかは出来ません」
「第三工程は」
「第三工程・キトリニタスですか…開発プロジェクトとしてはありますが 現在は断念されている…その理由が良くわかりましたよ、我々では破壊 再生のその先を理解できない、我々では第三工程の再現は不可能でしょう」
「キトリニタスがあればと思ったが、ないなら無いで仕方ねぇ ニグレドとアルベドで我慢するぜ」
第三工程?、そうか ニグレドは第一工程 アルベドは第二工程、工程なんだ あれは完成に至る途中なんだ…、しかしその第三工程は開発できていないと…
「これはヘット 貴方が預かりますか?」
「いや、俺達が持ってるより大王族たるあんたが持ってたほうが安全だろう」
「…これを持ってたら我々も危険なんですが?」
「あんたなら上手くやるだろ」
「チッ」
つまりソニアさんがアルベドを預かると、…これは僥倖だ ヘットにか持っていかれたらまた探し直し、奴のことでは何処に隠すは分からない、ここにあるなら取り返しやすいというものだ、ヘットよりもソニア達の方が危険度としては低い
さて、そうと決まれば隙を見て…そう意気込んだところで
「ひぃぃぃぃいいいいい!!!!」
悲鳴が聞こえた、何処からだ?下からだ 城の門付近から悲鳴が聞こえた、確かあの辺りはメルクさんが調査して…まさかメルクさんが見つかった?いやいやメルクさんはあんな情けない声あげない
「何事ですか…?」
「痴…、どうやら地下室の者が逃げ 外へ向かっているようです」
「チッ、面倒な」
下に目を向ければ…霧で良く見えないが 傷だらけの人間が手に枷をつけたまま城の外へ向かって歩いている、どうやらここでもメルクさんの言っていた悪辣な趣味を繰り広げているようだ、アイツは 多分返済できなかった債務者で地下で痛めつけられていたんだろう
……うぉぉっ!?
「何処?下?…あそこか」
いきなり窓がバタンと開けられソニアが窓から身を乗り出す、あ 危ない危ない 危うく見つかるところだった、慌てて場所を移したおかげで見つからなかったが 少しでも視線を動かれたら…み 見つかる…
「逃げられると思わないでほしいですね」
ソニアの手には銃が逃げられており、その銃口は逃げる人影を狙っており…い いやいやここから当たるわけ…
「まず肩」
そう エリスが思考する間もなく ソニアさんは引き金を引き、爆音がエリスの耳元で鳴り響く
「あぎぃっ!?」
「いっぱーつ」
人影の肩から鮮血が吹き出す、嘘だろ ここから当てるばかりか狙ったところに銃弾を当てたというのか、その驚愕も束の間 次弾が装填され…
「次は右太腿…にはーつ」
「ひぎぃっ!?」
次いでソニアの弾丸は人影の右太腿を穿ち、人影は血の海に倒れる…間違いない 当てている、狙った箇所に 狙った通りに 一発のズレもなく
「次は頭…さんぱーつ」
「ひぃ…ひぃ…」
門に向かって這いずって逃げる人影の頭に ソニアの銃口が向けられる、当てる 当たる 分かる…見なくても、引き金の引かれる音を聞き 咄嗟に人影から目を逸らせば…銃声の後にはもはや何も聞こえない、死んだんだ 頭を撃ち抜かれて
酷い 惨い 惨過ぎる、逃げた人間を捕まえるでもなく 射撃の的のように呆気なく 撃ち抜いて、あっという間に殺してしまった
エリスの顔はきっと青ざめていることだろう、恐ろしいと口で聞いても その様をこの目で見るのとは訳が違う、この人は悪魔だ 本物の…
「遉…お嬢様、百発百中」
「でしょー!、ククク…またやるか! 人間的当て大会…!」
加虐を楽しんでいるというよりもはや快楽殺人鬼じゃないかこの人、人を撃つまでの間に躊躇いのようなものを一切感じなかった
きっと 一度や二度じゃないんだろう 人を殺したのは、こうやって的当てのようにして殺したのは もしかしたら態と枷を外して逃げようとする債務者を撃って殺したりも…
「おっかねーの、んじゃ 俺ぁこれでお暇させて頂くぜ」
「あら、これから楽しいことしますよ?…一緒に楽しみませんか?」
「どうせ地下で監禁してる奴の生き血啜るんだろ、俺はそんな悪趣味じゃねぇよ」
「生き血だけじゃないですよ、死んでる奴のも混じってますが…まぁいいです、後はあなたがニグレドを翡翠の塔から持ち出しゃ私の目的は達成されるんです、上手くやってください さもなきゃ次は…テメェがああなる番だからな!おいこら!聞いてんのか!ぶっ殺すぞ!」
ソニアは被っていた猫の皮を剥がし吠える 銃を向け怒りのままにヘットに怒鳴るが、彼はそれを見てもパタパタと手を払いゆっくりと城を後にする
ヘットの居場所も調べておきたいが 今はアルベドの確保が先だ、部屋の中央にアルベドは置かれたままだ…上手くやれば持ち出せないか?
「……?…今窓の外に…」
「あん?、どうしたヒルデ…窓の外なんか見回して」
「否…、今窓の外に何かいた気がしたので」
「はぁ?、…それよりさっきのグズの死体回収に行くぞ…逃げ出した奴の末路ってのをアイツらに思い知らせてやろうか、クヒヒヒヒヒ」
…………危な……、エリスの髪の端が目に映ったのか ヒルデブランドが窓から身を乗り出して周りを見回してきた、…咄嗟に飛び降り 窓の死角に移ったからバレてないと思うけれど、…ヒルデブランドとソニアの離れていく足音を確認した後よじ登り窓から中の様子を伺う
うん、まだアルベドはあそこにある、二人は外にあの死体の処理に行ったようだ…
「…っ!、シメた…窓の鍵が開いてる、さっき開けた時に鍵をし忘れたな」
窓に手をかければ なんの抵抗もなく開く、部屋は無人 アルベドはテーブルの上…絶好の機会だ!、このままアルベドを持ち逃げしよう そう直感で判断すればすぐ様部屋に転がり込み そそくさとテーブルの上のアルベドに手をかける
「軽い…本当にこの中にアルベドが?、もしかして偽物かな」
持ち上げるとこれがまた軽いのだ まるで空っぽのように……思えば、ソニアが馬鹿正直に本物をヘットの前に出す必要はないんじゃないか?、これで空箱持って帰ったとあっては意味がない…一応確認の意味も込めて スーツケースを床に置き、パチリと音を立て ケースを開ける…すると
「…これ…何でしょうか、これが…アルベド?」
中に入っていたのは 白い宝石だった、拳くらいの大きさのある宝石…機構というからてっきり機械だと思ったが、これが究極の錬金機構なんだ…すごく綺麗だ …
なんてぼやっと見ているとその白い宝石は淡く輝き始め周囲の空気をパキパキと凍らせるように結晶に変えていくのが見える、そういえば第二工程は空気さえも結晶化させると言っていたな、何もしなくても 空気を結晶に変換してしまうのか…こりゃ迂闊に触らないほうがいいな、下手に触ったらエリスまで結晶にされてしまうかもしれない
とりあえず本物であることはわかった、これを持ち帰ってメルクさんに報告しよう そう思いスーツケースを閉じエリスは再び窓に向かい…
「問…何をしている」
「……え?」
声が聞こえた、スーツケースを閉じ窓へと向かおうと振り向いた瞬間 彼女はいた
「っ…ヒルデブランド!?」
「驚…貴様、メルクリウスの執事…!やはり生きていたか、窓を開けて様子を見ていた甲斐があった」
しまった、罠だったか…!というか見つかってしまった!、いやもういい!とにかく窓から外へ!
「肆…、許すか!」
咄嗟に窓に向けて飛んだ瞬間 エリスの服の裾がヒルデブランドに掴まれ、そのままエリスの体はエリスの制御を離れ 虚空をぐるりと振り回され壁に向けて投げ飛ばされ…、石の壁を砕き廊下まで吹き飛ばされる
「ぁがっ…な なんて怪力…」
「呆…、生きていた上に この城にまで忍び込んでくるとは、まぁいい…ここで殺せば同じこと」
壁に開いた大穴をくぐり ヒルデブランドが現れる、いや アルクカース人とはいえこの怪力はおかしいだろう、というかマズイ 戦闘はまずい …とにかく逃げなければ、スーツケースを抱え逃げるように廊下を走る
「茲…!!」
「くっ!」
しかし ヒルデブランドはその巨体に見合わず俊敏であり 駆け出したエリスに一瞬で追いつい 追い越し砲弾のような蹴りを放ってくる、咄嗟に避けた事も幸いし今度は直撃しなかったものの、ヒルデブランドの足は大理石の壁をまるで焼き菓子のように容易く蹴り砕く
そんじょそこらのアルクカースの戦士よりも何倍も速く 重い蹴りだ、少なくとも第一戦士隊なんか目じゃないくらい強い、討滅戦士団級ではないとは言え その一歩手前くらいには強いぞこの人
こんな奴がデルセクトにいたなんて…、真っ当に戦ってもヤバいのに、アルベドを抱えたままじゃ勝ち目がない!
「ヒルデぇぇぇぇえええ!!!!どうしたぁぁ!!さっきからドカドカ喧しいぞっっ!!!」
「失…、お嬢様 侵入者です」
「ああ?、…テメェいつぞやの執事…?」
しまった、今度は廊下の向こう側から銃を両手に構えたソニアまで現れた、ヒルデブランドだけでも手を焼いているのに ソニアまで…なんて思考する間もなくソニアは両手の銃をエリスに向け…
っやばっ!?
「颶風よ この声を聞き届け給う、その加護 纏て具足となり、大空へ羽撃く風を 力を 大翼を、そしてこの身に神速を 『旋風圏跳』」
「ヒャッハーーー!!」
出来得る限りの早口で詠唱を終わらせ 瞬時に上へ飛び上がれば、自身の従者ヒルデブランドがいるにも関わらずエリス達に向けて銃を連射してくるソニア、その狙いはメチャクチャに見えて的確 つい一瞬前までエリスがいた空間を幾多の鉛玉が舐めるように通り過ぎていく
速い、撃つまで 狙いを定めるまで 殺しにかかるまでのスピードが余りにも速い、邂逅して1~2秒でぶっ放してきたぞ
「逃げんじゃねぇぇえよぉぉぉおおお!!!」
「チッ…!」
青筋を浮かべ二丁の銃を乱射するソニア、慌てて横へすっ飛びながら銃弾を避けていくが そのどれもがエリスの頭の高さ 心臓の高さに的確に打たれており壁に開いた穴は一切のズレなく綺麗にニの文字を作っている
廊下に飾れらた絵画や壺 調度品を次々粉砕する容赦ない射撃から逃れ ソニアさんのいない方へいない方へ逃げると…
「隙…!」
「っっがぶぅっ!?」
今度は横からヒルデブランドの拳が飛ぶ、鋼のように硬い拳はエリスの体を宙へ舞い上げ再び壁を粉砕させる、遠距離のソニア 近距離のヒルデブランド…本当に王族と従者かと疑いたくたる程隙のないコンビネーション 個々人の実力の高さ
…逃げるどころかこれ、普通に戦っても負けるぞ エリス…
「はぁ~~?、生きてるんですけど 生きてるんですけどぉ!死んだんじゃねぇのかよ!ヘット!あいつは!」
「無…、もうお帰りになられたようで」
「チッ、まぁいいや…それ持ち出してどこに行こうってのかな?カナカナ?」
倒れるエリスに銃を向けるソニアとその脇に立ち拳を握るヒルデブランド、侮っていたわけじゃない 油断もしたつもりもない、けどそれを上回る勢いでこの二人が強かった
「なんでもいいやぁ、お前はどんな声で鳴くのかなぁ 足を燃やしたらどんな声出すのかなぁ 腕を切り落としたらどんな涙を流すのかなぁ、断末魔はどんなかなぁ!気になるよな!気になるよな!ヒルデ!」
「饗…、お嬢様の楽しみになれば幸いです」
まずい…捕まる 捕まれば…終わる、殺されるより酷い目に合わされる…いやだ、恐ろしい
倒れ伏すエリスを前に興奮してゲタゲタ笑う悪魔を見て 恐怖する、心の何処かで この人も他の王族の人たちみたいに分かり合えると思っていたけど…無理だ、この人にはわかり合う心がない
「さぁ行こうよ、地獄へ…!」
「っ…!」
伸ばされる白い手 悪夢の手から身を捩り逃げる、逃げなくては でも…どこへ…
「『Alchemic・flame』!!」
響く 凛の声、駆ける足音 放たれる聞き慣れた銃声…
「…!お嬢様!!」
「あん?、これは…」
刹那燃え上がる炎を前に咄嗟に飛び退くソニアとヒルデブランド、炎だ 自然の炎ではない錬金術を用いて生み出された爆炎 、燃え盛る炎を切り裂き エリスの体は…
「エリス!無事か!」
「メルクさん!」
炎を抜けて引っこ抜かれるようにその場から放り投げられるエリス、誰によってか?メルクさんだ、寸でのところで駆けつけてくれたんだ
「助かりました!」
「礼は後でいい!そのケースは!」
「アルベドです!、やはりここにありました!」
「よし!、逃げるぞ!」
エリスを炎の中から引き抜いたメルクさんはそのケースを見るなり頷き、踵を返す メルクさんの作った隙のお陰で離脱の隙が出来た、今なら逃げられる
「メルクリウスぅぅぅぅぁぁぁぁあ!!!!、テメェか!テメェかぁ!!私に逆らってどうなるか分かってんのか!!」
「貴方の悪事を暴きます!、この国を腐らせる柱を…我が手で切り落とします!」
炎の向こうからソニアが叫ぶ、猿叫のような叫びを前に メルクさんは竦く事なく鋭い眼光で返す、もはや恐れない もはや止まらない、止められない 彼女の正義を恐怖では
「逃がすかぁぁ!!ヒルデぇぇぇえええ!!」
「諾…!」
「させません!此れ為るは大地の意志、峻厳なる世界を踏み固める我らが礎よ今、剛毅剛健を轟かせ屹立し眼前の全てを破砕せよ『岩鬼鳴動界轟壊』」
魔力を帯びた拳を地面へ叩きつける、エリス達を追いかけようと踏み出したヒルデブランドの前に巨大な岩の壁が現れる、いや一枚だけでは突破される 二枚 三枚、いや出来る限り この城が崩れてもいいくらい分厚く 数を!
もはや向こう側の声が聞こえない程の壁を作り出す、とはいえ安心は出来ない
「行きましょう!メルクさん!」
「ああ!、私が入り込んだ裏口がある そっちから出るぞ!」
踵を返し走り去る、とにかく今は外へ出るんだ これを持ち出しさえすればいいんだから、ただ…恐ろしいのはソニアだ、あれで終わる女とは思えない…
…………………………………………
「こっちだ!、エリス!」
「はい!…こちら側には衛兵がいないみたいですね」
城の中の衛兵を避け 迅速に駆け抜け、たどり着いたのは小さな裏口 何かを搬入するためのものなのか、分からないがともあれ人目はなさそうだ…
裏口を潜り外へ出れば 一層の濃霧がエリス達を出迎える…、視界は悪いが 隠れて逃げるエリス達にはうってつけだ
手早くここを離れてしまおう、そう視線でやり取りすると再び走り出す
「改めて…ありがとうございました」
「いやなに、私も偶然この裏口を見つけな…丁度いいと潜入していたところだったんだ、上手いタイミングで助けに入れて何よりだよ、…それで そのケース…アルベドなのか」
「はい、中を確認しましたが セレドナさんからもらった情報と一致します」
「そうか…ではやはりソニア様がマレフィカルムと」
「ヘットと話しているところも目撃しました、間違いないです」
「………、分かった なら直ぐアレクサンドリートを出よう、霧の外に出ればグロリアーナ総司令の目に届く、そうすれば連絡も取れるはずだ」
なるほど、いや列車も使わずどうやってミールニアまでと思っていたが、グロリアーナさんの目はデルセクト中を見回している、この霧の街から出てエリスがド派手に魔術でもぶっ放せば直ぐに連絡が取れるのか!
…でも言い換えれば この街は霧によって守られている、中で何があってもグロリアーナさんの目は及ばない、つまりここは軍部にも完全に秘匿された領域ということになる、だからヘットはああも堂々と…
「というか…ここどこです?エリス達出口に向かって走ってるんですよね」
「そのつもりだったのだが、…すまん 霧で方向を見失ったらしい」
ふと周りを見れば険しい壁に囲まれた謎の領域に迷い込んでしまう、まぁ霧のせいで右に進んでるのか左に進んでるのか分からないからな…
いや ここはメルカバを真似して突風を起こして風を払うか?、いやこの霧は街単位で覆う巨大な霧だ、それこそこの街吹っ飛ばす勢いで風を起こさないと払えそうにないな
というか…
「何でしょうか、この壁…建物の壁には見えませんけど、というか木製ですよこれ」
ずぅーっと上を見るが 結構な高さだ、それが両脇に聳えている 何だこれ…
「いや、…おい これ壁じゃないぞ…」
「え?、…あ!これ!」
メルクさんに言われて理解する、壁じゃない これは壁じゃないんだ、いや壁のようにはなっているがこれ …壁のように積まれているだけなんだ、数えられないくらいの木箱が
しかも、この大きさ この形…見覚えがある
「メルクさん!これ…カエルムの木箱ですよ!」
「何っ!?これ…これ全部か!?一体 どれだけあるんだ」
旋風圏跳で上に飛び確認する…間違いない、全部だ 全部木箱だ、全部カエルムの入った木箱だ、それが大量に等間隔積まれ 巨大な迷宮のようになってる
そうだ、思えばこの街は全ての条件が整っている、グロリアーナさんの目から逃れる濃霧 大量生産に適した工場 あちこちに飛ばせる汽車 そしてそれを売り捌けるソニアさんの影響力
ソニアさんがカエルムを売りさばいているのは分かっていた、だけど…まさかそのお膝元でこんなに大量のカエルムが作られているなんて
「ここだったのか、カエルムを作る本拠地は…」
「はい、…ここさえ潰せば デルセクト中に広がるカエルムの供給を全て潰すことができるでしょう」
「…いや待て、ならカエルムとは別に保管されてるこの箱は何だ、カエルムの木箱よりも大きくて頑丈に封鎖されてるこの箱、…これもかなりの数があるが」
「これは……分かりません!」
カエルムとは別に積まれた黒い木箱、長方形型したこの箱はカエルムとは違うのか?…しかしだとするとなんだ、カエルムと一緒に隠すように置かれているということは少なくとも良からぬものであることは間違いないんだろうけど…
他に何かあったか?…悪いこと……いや、あった…でも ああそうか…アレもこの人の主導の下行われていんたんだ、ってことはソニアさんこそまさしく…
「その箱は銃や爆弾と言った兵器ですよ」
「ッッ!?!?」
闇の中から いや霧の向こうから声が聞こえる、思わず竦みあがるような 今一番聞きたくない女の声
「ソニア…!」
「その木箱には 連合軍にも配ってない最新式の銃の数々が詰まっているんです、宝箱みたいでしょ?」
霧の中に二つの目が光る、それはゆらりゆらりと右へ左へ揺れながらゆっくりとこちらに近づいてくる、…ソニアだ もう追いついてきたんだ、予想よりも早い というよりまさしくここへ追い込むつもりであったかのような速さだ
「兵器?最新の銃?、何故それがこんなに…それに連合軍にも内密とは、一体どういうつもりだ!」
「さてぇ、どういうつもりでしょう?当ててみてよ」
「……アルクカースとの戦争の為ですね、デルセクトで内密に行われていた戦争の準備ってのは ソニア!貴方がやっていたことなんですね!」
アルクカースとの戦争 アルクトゥルス様が見たという戦争の支度とは、この街で大量に生産される銃火器を見ていったことなんだ!、あの人は透視の魔眼も使える だから霧も目に入らない…
それが見えたから 戦争の準備をしているなんて言ったんだ、ソニアさんこそが 誰にも内密に戦争を始めようとしてた張本人だったんだ
「ヒャハ!ピンポンピンポーン!、正解正解!よくわかったねー!」
「何故!何故内密に戦争なんか!」
「そりゃ私が戦争したいから…?、向こうに一発ぶち込めば 魔女大国同士の戦争なんか容易に起こるし!みんなに内緒にしてても 戦争さえ起こっちゃえば誰も後には引けないし!」
「でも 戦争をする理由なんかないじゃないですか!」
「理由ならある…」
霧の中から現れる両手に銃を持ったソニアさんは、今までのような狂気的な瞳ではなく 怒りに満ちた、鬼の形相をしていた
「…デルセクト国 家 同 盟 群…嫌な響きだと思わない?」
「嫌な?…」
「私達クリソベリアがどれだけ隆盛しても私たちの世界は 私達の栄華はデルセクトの中だけで完結する、国家同盟群は私を縛る檻なんだよ!、だからそれをぶっ壊すために戦争をする、アルクカースと戦争をすればこの同盟も瓦解する…そうすりゃ連合軍も持ってないような武器を大量に蓄えてる私達だけが生き残る!、疲弊したデルセクトの国々ぜーんぶ吸い取って 私達が新たな大国を作り出す!、兵器大国クリソベリアを作り出す!それが目的ィ?」
「そんな…自分達の領土を広めるためだけに…」
「領土?違う違う…、支配する場所が広がればそれだけオモチャが増えるでしょ?…、夢だったんだよね、街一つ国一つを甚振るの、最高の贅沢だと思わない?ねぇ!」
…エリスは この人を悪魔と例えたが、訂正しよう この人は悪魔じゃない
外道だ!、悪鬼外道!ソニアは自分の加虐欲を満たす為だけに魔女大国一つを崩し大勢の人間を殺し 秩序を破壊しようとしている!
許容出来ない、この人はマレフィカルム以上の外道だ!
「…それだけのために、デルセクトを…危機に陥れているのか、貴方は…!」
メルクさんの手が 震える、恐怖ではない 怒りで銃を握る手が白くなるほどに、怒りで打ち震えている、彼女の燃える正義感が今…
「それだけだよ、全部…それだけの!」
「この…外道が!、貴様にはもはや 悪という言葉さえ生温い!、デルセクトに巣食う蛆が!ここで焼き殺す!」
爆発した、銃を構え ソニアに向ける、恐怖を焼き尽くす爆炎がソニアを この国を餌にする蛆へと向かう、もはや逃げるつもりもないらしい ここでこの人に一発入れてやらなければ彼女の気は収まるまい
いや、違うな…エリスの気も 収まらない!
「ヒヒッ!私に逆らったらどうなるか忘れちゃった?なら思いだせないとぉ…あの地下室に連れて行って 死ぬまで切り刻んであげる、まぁ 頼まれても死なせないけどね!」
「貴様の行いをここで止める、貴様に食い物にされた数多くの人間に変わり私が正義の鉄槌を、いや 私個人の怒りの鉄槌を貴様に与える!」
「やってみろよぉ!グズが!…ヒルデぇぇえぇぇっっっ!!!!」
ソニアの咆哮が天高く轟く…、それに答え 空から霧を裂いて何かが飛んでくる、岩じゃない 星じゃない、あれは…
「諾…、お嬢様…!」
岩の地面を叩き砕き 天より現れエリス達の背後、ソニアと共にエリス達を挟むように現れるのは 鉄腕の異名を持つヒルデブランドだ、それがぬっと立ち上がり エリス達を睨みつける…
挟み撃ちされた…、退路を断たれた…!
「エリス…お前はヒルデブランドを頼む、私はソニアを叩く!」
「かしこまりました!」
「私に向かってくるかよ!上等だよ!、ヒルデ!そのクソ従者は殺しても構わない!ぶっ壊せ!」
「是…!!」
カエルムと戦争 二つの糸を引く黒幕…双貌令嬢 いや悪鬼外道のソニアと鉄腕従鬼のヒルデブランドに向かい合うメルクリウスとエリス、デルセクトを アルクカースを守るエリス達の決戦が始まる
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