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三章 争乱の魔女アルクトゥルス
外伝・大争乱!ラグナ危機一髪!
しおりを挟む『よっしゃラグナ、今日から体作りのウォーミングアップは終わりだ、今日からは本格的な修行に入るぜ?、これからはエリスに追いつけ追い越せだ!』
今朝方、ラグナの私室に飛び込んできた争乱の魔女アルクトゥルス…師範の言葉に俺はどう返したな、寝ぼけていて思い出せないが なんか問答無用で連れ出された気がする
エリスがアルクカースを去ってより半年 俺はあれからアルクカースの大王としての責務とアルクトゥルス師範の弟子としての二足の草鞋を履きながらも何だかんだ上手くやっていた
王としての仕事は大変だけれど、それでも執政や領地の運営はみんな手伝ってくれるし 俺も王族として勉強はしてきたから何にも出来ないってことはないしね、唯一地方で度々起こされる反乱の鎮圧に頭を悩ませるけど バードランドが上手くやってくれているからこちらも今は問題ない
アルクトゥルス師範の言う体作りも最近は楽になってきた、腹筋腕立てなどの基本メニュー や器具を用いたトレーニング、重りをつけた状態での戦士との模擬戦、他にも泳いだり飛ばされたりと色々無茶な修行を丸一日でやらされるのは最初はキツかったが…やはり師範の言うように体が出来て来たのかな?
なんて思い始めた頃に、これだ…師範が体作りは終え ここからは本格的に修行に入ると言い、朝も朝から引っ張り出されたんだ
はっきり言って今までの体作りの修行もまぁ地獄だと思ってたが、…これに比べりゃまぁ天国だった
「ぬぉぅぁぁぁああああ!!!!」
「情けねぇ悲鳴をあげるなラグナ!」
今俺はアルクトゥルス師範を背負いながら全力で岩山を駆け上がっている、何をやってるかって?何やってるんだろうな俺
いきなり師匠が俺の背中の上に座り込み、取り敢えずその山の頂上まで行けって 近くの結構な高さの岩山を指差してさ…くそっ!重い!クソ重い!だが足は休めずひたすら岩山を駆け上る 今足を止めればその重みに引っ張られ山を転げ落ちることになる…
しかし足には今にも太股から千切れそうなくらいの負荷がかかっており、如何にもこうにも…
「と言うか師範!俺朝からこんなことやってていいんですか!」
「魔女の修行をこんなこととぁ偉くなったなぁ?ラグナぁ?」
「いやだって俺王としての仕事もありますしぃぃ!!」
「そんなもんジークムルドやベオセルクに任せとけ!」
俺が王権を取った意味とは!、ぐぅ!重たくて足が止まりそうだ アルクトゥルス師範に鍛えられて少なからず力がついたのに、それでも師範を抱えたまま急斜面を駆け上るのはキツ
アルクトゥルス師範は一般的な人間と比べればかなり高身長な部類に入る、オマケに限界まで鍛え上げられた重量のある筋肉は重く…ひたすら重い
いや重すぎる、いくらなんでも重すぎるぞ、まるで鉄の塊を背負っているみたいだ!
「し…師範重りか何かもってますか!?」
「いいや?、なーんにも持って無いぜ?」
「それにしては重すぎる気が…」
「『付与魔術・重量属性付与』」
「ぐぉっ…また重くなった」
「付与魔術を使えば体重なんざ思うがままなんだよ、オレ様が重いわけじゃねぇ」
付与魔術か、いやしかし更にアルクトゥルス師範が倍近く重たくなった…だ ダメだ、前に進めない!こうやって踏ん張って立ってるだけでも足が崩れそうだ…!
「おい!、言っとくがこれは修行でもなんでもねぇただの移動だぞ!速いところ山の頂上にいかねぇと修行の時間が無くなっちまうぞ!」
「で…でも、もう前に…」
「こうやってる間にもエリスは力をつけてるぞ!、あっちには一日の長がある 追いつこうと思ったら普通にやってたら追いつけねぇぞ!」
「ッ…!!」
そうだ、何を弱音を吐いてるんだ 俺はエリスを守る為に強くなるって誓ったんじゃ無いのか、エリスは今もレグルス様の元で修行して きっと俺が知る頃よりもますます強くなっているに違いない
次会った時、エリスに鼻で笑われるくらい差がついてて良いのか?言い訳が…ないッッ!!
「ぐっ!…ぐぉぉぉぁぁぁぁっっっ!!」
「おお、その調子だ やりゃあ出来んじゃねぇか!オラオラ進め進め!」
アルクトゥルス師範に馬車馬のように尻を叩かれながらも俺は進む 、少しでも一歩でもエリスに追いつく為に!、雄叫びをあげながら山を駆け上り駆け上り駆け上る
……そして、十分程 アルクトゥルス師範を抱えたまま岩山を駆け上がり、ようやくその頂上に到着する、…が到着する頃には
「ゼェ…ハァ…ゼェ…ウッ…ゼェ」
「少々遅いが、まぁ初日じゃあこんなもんか」
地面に倒れ伏し、息を整える…疲れた いきなり疲れた…
アルクトゥルス師範は既に俺から降りて なんか準備を始めてるけど、今思ったらなんで山の上に登ったんだ 空気が薄い場所で修行というならわかるが、別にこの山そんなに高くないし…
「オラッ!いつまで寝てんだ!修行始めるぞ!」
「こ…これからですか…」
「当たり前だろ、ここには修行にしに来たんだからよ、ほらほら寝てて良いのかぁ?愛しのエリスちゃんに笑われるぜぇ?」
「くっ…馬鹿にして…」
師範に囃され立ち上がる、まだまだこんなもんじゃダメだ エリスはきっともっとキツい修行を続けて来たに違いないんだから!
「師範…!修行をお願いします!」
「良い根性だ、よっしゃ修行を始めるぜ?…と言っても今までの体作りを疎かにするつもりはねぇ、体も鍛えつつオレ様の魔術の修行も並行しておこなうから必然 今まで以上にキツくなる、覚悟はできてるか?」
もう既に今まで以上に厳しいのに今それ言う?だが愚問だ…当然覚悟は出来ている
「出来ています、どんな修行でも乗り越えてみせます!」
「良い返事だが違う!、師範の言葉には押忍で返せ!」
「押忍!!」
「声が小せぇ!もっと大きく!」
「押忍!!!」
「腹から声出せ!」
「スゥゥ…押ォォォ忍ッッッーーーッッ!!」
「うるせぇぇぇぇっっっ!!」
「ぶげぇぇぇえっっ!!??」
何故か殴り飛ばされた、しかも尋常ないくらいの力で 体は錐揉みながら近場の岩へ激突し それを粉々に砕いていく…死ぬ、修行始まる前に死ぬ…
「声出しゃいいってもんじゃねぇ!」
理不尽だ…
…………………………
「コホン、それじゃあ気を取直して修行を始めていくぜ」
そういえばまだ修行始まってなかったな…もう俺満身創痍だけど、ともあれ修行だ 俺は師範の前に正座して師範の言葉を待つ
「お前も知っての通り オレ様の使うのは付与魔術だ、故にお前にも付与魔術を使ってもらうが…当然今までの使い方じゃなく オレ様流の使い方を極めてもらうぜ?」
「オレ様流って…自分の体に付与魔術をかけるやり方ですか?」
アルクトゥルス師範は本来武器に付与する付与魔術を自分の体に使い、自分自身を強化して戦う、こんなやり方普通じゃない…だって良質な金属じゃないと耐えられずに自壊を始めてしまう付与魔術を自分の体にだぞ?、自殺行為に近い
「まぁ、オレ様流とは言うが 付与魔術ってのは本来自分の体に使うことを前提として作られている、それを後世の軟弱者は武器に使い いつのまにか武器に対する付与が主流になっちまったってだけで、その源流は肉体強化にある」
そうだったのか、確かに言われてみれば態々良質な金属製の武器を用意せねば使えない魔術なんて使いづらいったらないもんな、良質な武器に溢れたアルクカースという国だからこの形態でも成り立っているが 他じゃあそうはいかない、つまり付与魔術とは最初から武器がなくても戦えるようにするためのものだった…そう言われればなんと無くしっくりくる
しかし肉体に付与して無事でいられる者など今の所師範を除いてこの世には殆どいないだろう、いや身体付与自体は俺もできる…だが付与で得られる力に体がついてこれず死に至るだろう…いやだからこその体作りなのか
でも…
「俺に出来るでしょうか…、いや出来るとしても それには長い時間がかかるんじゃ」
「まぁそうだな、オレ様みたいに全力で使おうと思うと時間がかかるが、何そこは考えてある…結局のところ付与の負荷に耐えられれば良い、だから弱めの付与を体に使いそれに耐える訓練を続ける」
「弱めの?…」
「おうよ、これを毎日繰り返し 最初は十秒程度でいい 慣れて来たら一分 さらに慣れたら十分 一時間と時間を伸ばせば、オレ様並みに体を鍛えなくても付与魔術に耐えられる体を作れる」
なるほど…そうだな 結局付与使用に耐えられれば使うことは出来る、だが当然危険を伴う修行になる だからこそ超絶した達人でもあるアルクトゥルス師範の指導が必要になる…と、案外この人考えて修行するんだな…
「ヤバそうになったらオレ様が止めるから安心しろ…オレ様の見立てじゃ 今のお前なら一番弱い付与魔術を五秒ちょっと耐えられるだけの器は出来ている、オレ様と修行をする前からキチンと体を鍛えていたみたいだしな」
「ありがとうございます、…じゃあ今から付与魔術の修行ですか?」
「そうだな、オレ様がさっき使った重量付与 、あれなら簡単だし負荷も弱い、それを体に使ってみな」
少し怖いが、だが師範が安心しろと言ったのだ なら信じて身を預けるのが弟子の務めだ、その場で座禅を組みながら 落ち着かせるように息を吐く
「ふぅー…いきます」
「おう、いけ!」
「…『付与魔術・重量属性付与』」
体に付与魔術を使う と言うのなら初めてだが付与魔術自体は使い慣れている、体に使えと言われれば それ自体は容易く出来る、故にこの五体に 付与魔術を使う…剣に魔力を通す時同様俺の腕と足に魔力が通い…
「ぐっ…!!」
「いーち」
次の瞬間には凄まじい負荷が体を襲う、内側から爆裂するような 四肢を引きちぎるような、俺と言う存在の全て叩いて砕くような激痛と負荷が全身を覆い駆け巡る、一番弱い 殆ど魔力を使わないような付与魔術を使ったと言うのにそれでもこれか!
「にーい」
内側で暴れ狂うそれを必死に押さえ込みながら、全力で弾けそうになるそれを止める、これを使って動くなんて真似出来るわけがない、一歩でも動いたらその瞬間風船のようにオレの体は破裂するだろう
「さーん」
まだ三秒か!わざと遅く数えてるんじゃ…うぉっ!?危なっ!?体が破裂するかと思った!、意識を他所にやった瞬間これか!、くそっ…集中集中!
「よーん」
集中…集中…、ぐぅぅ…集中にも限度があるぞ!そう言えばエリスは集中力を高めることで魔術のキレを上昇させていたな…、っっ!?ダメだダメだ余所事を考えたら!、あ…ヤバ 抑えきれない…
「ごー…っと、やめっ!」
「ぐっ…ぷはっ、死ぬ!…死ぬかと…!思った!」
「思うだけだ、生きてるぜ?」
付与魔術を解除して倒れこむ、キツい…これを使って戦えるビジョンが浮かばない、これを毎日か…いつか死ぬんじゃないか?俺
「筋は悪くない、付与魔術をキチンと使えているからな 変に暴走することもなく安定しているから制御も出来ている、だが問題なのはやり方だな 変に押さえつけようとするから反発するんだ 付与魔術だってテメェの一部なんだ抗わず従えるくらいの器量で挑め」
抗わずに…と言うかこの人、今のを見ただけで俺のダメなところを見抜いたのか、やはり指導者としても付与魔術の使い手としても卓越してるんだな、いやまぁ魔女を侮ってるわけじゃないけどさ
「取り敢えず今は休め、休憩したらまた同じように付与魔術を体に慣らす、今日はこれを繰り返すぞ」
「は…はい」
休めと言われれば休む、ともあれこれを繰り返して肉体付与をマスターせねば話にならない、一日でも早くこれを…
「…そうだ、序でに魔眼術も覚えてみるか?」
「魔眼術?、確か…エリスが使っていた、遠くを見る奴ですか?」
「まぁそうだが、別に遠くを見るだけが魔眼術じゃねぇよ」
継承戦の際、エリスが用いていた術だ エリス曰く魔術とは少し違うらしいが、それでもその眼は継承戦で猛威を奮っていた、確かにあれ一つ使えれば 色々なことが出来るようになるだろう
「でも俺に使えるんですか?」
「魔眼術は卓越した使い手でなければ使えない、だが逆に言っちまえばある程度の使い手になれば誰でも使えるもんさ」
「ある程度ってどのくらいですか?」
「…んー、エリスはレグルスの指導で魔力制御だけがほぼ達人の域にあるから例外として、ベオセルクを魔術で倒せるくらいの実力があれば行けんじゃねぇ?、あいつは魔術の腕がてんでないから無理だが」
いきなり遠い道のりだな、今のところ俺には出来る気がしないな…エリス並みの魔術の腕かあるいはベオセルク兄様並みの実力…どちらも今の俺にはない
「さっきお前が言った遠くを見る魔眼ってのは遠視の魔眼で、魔眼術の中では一番簡単なものだな」
「簡単と言うと他にも種類があるんですね」
「あるぜ、ちょうどいい機会だ 休憩がてら魔眼術について説明してやろう」
そういうと師範は魔眼術の説明をするため俺の前にどかりと座り込み、魔眼術の話を始める
「魔眼術ってのは魔力を眼に通す事で発動する現象だ、色々な魔力をレンズ代わりにして見ることで色んなもんが見えるのさ…詠唱を用いず表の世界には何の影響も与えないから魔術には部類されない」
詠唱をして世界に影響を与えるかどうかが魔術とそうでないものを分けるラインなのか、知らなかったな、いや 多分知ってる人間の方が少ないだろうけど
ん?、それじゃあ魔獣の使うあれは魔術ではないのでは?だって詠唱してないし…いや今はいいか
「魔眼術の種類は色々あるぜ?…まず」
師範が語るには…基本的な物は
遠くを見る遠視の魔眼
暗闇を明瞭に視る暗視の魔眼
熱を感知する熱視の魔眼
魔力を感知する魔視の魔眼
物を透かして視る透視の魔眼
下に行くほど取得が難しく、中には心を読む読視の魔眼や未来を読む流視の魔眼などもあるらしい、このレベルになると世界でも指折りの実力者にならないと使えないらしいが
「色々あるんですね、それも努力を重ねればいつか取得できるんですか?」
「ああ、出来る…オレ様の見立てじゃあエリスは透視までは確実に取得する、アイツは魔眼の才能もあるからな、下手すりゃその先まで視るかもしれねぇ」
「才能が…」
師範曰くあの歳で容易く遠視の魔眼を取得するのは異常なことらしく、レグルス様の指導もあるがそれ以上にエリスの才能の高さもあるらしい…魔術に関しては本当に天才的だ
「後あるとしたら…眼で魔術を発動させる術理の魔眼ってのもあるが、こればっかりは才能とか努力とかじゃあどうにもならねぇから諦めろ」
「眼で見ただけで発動させられるんですか?凄いですね…師範は使えますか?」
「使えねぇ、さっきも言ったがこれは使おうと思って使えるようになるもんじゃねぇ、独特の感性が必要になるからな」
「独特の…感性…?」
「ああ、お前耳で匂い嗅げるか?鼻で音を聞けるか?…それと同じだ、眼で詠唱を唱える なんて意味不明な事を出来るようにならんとな、オレ様にはどうにもその感覚がつかめなかったから使えねぇ、当然レグルスにもな」
「じゃあ、師範にも…レグルス様にも?では誰が使えるんですか?」
「………」
そう言うと師匠はどこか遠くを見る、あの方角は デルセクトの方?
「フォーマルハウトだ、栄光の魔女フォーマルハウトはオレ様が知る限り 史上最高の魔眼術の使い手で、その眼は 一瞥で全てを見抜き瞬きで魔術を発動させる」
フォーマルハウト…!、エリス達の向かったデルセクト国家同盟群を統べる魔女の名だ、そうか…フォーマルハウト様も当然ながら魔眼の使い手なのだ、そしてその腕前 いや眼前?は凡ゆる魔女を超越する程の物か
「つっても複雑な魔術はやっぱ口で言わなきゃ行けないんだがな」
「なるほど、なんか凄い話ばかり聞いてるとますます俺にも出来るのか 自信がなくなってきますね」
「大丈夫だよ、お前も筋自体は悪くねぇからきっと死ぬ気で頑張りゃ透視まで使えるさ…ただなぁ」
「はい?」
なんかニヤニヤ笑いながら俺に顔を近づけてくる、な なんだなんだ?気色の悪い顔だな…そう思っていると師範は俺の耳元でコソコソと囁き
「透視が使えるようになってもエリスの裸は覗くんじゃねぇぞ?」
「ブッッ!?」
思わず幻視してしまう、あられもない 服一つ纏わぬエリスとそれを見て猿のように鼻を伸ばし気持ちの悪い笑みを浮かべる自分の姿…さ さ 最悪だ!、そんな人間に成り果てエリスに汚らしい視線を向けるくらいなら死んだほうがマシだ!
「するわけがないでしょうが俺が!そんな事を!、エリスにそんな視線を向けるなんて!そんな!」
「熱くなんなって、だからオレ様もやれとは言ってねぇだろうが…それにな、オレ様もやったことあるから分かるんだよ、ありゃやんないほうがいい?」
「は?…師範やったことあるんですか?、誰の裸見たんですか?怒られたんですか?」
「なんでそんな詳しく聞いてくんだよ…やっぱ興味あるんじゃねぇか」
とはいえ気になるといえば気になる、俺だって…そういう下世話な話が嫌いなわけじゃないしさ、まぁだからってエリスにそういうことを考えるわけじゃないけれど
「…レグルスにだよ、透視の魔眼を覚えた時調子に乗ってよ、レグルスの乳輪の色でも見てやろうかと思って透視の魔眼使ったんだよ」
「最低ですね」
「ああ、…後からなんかすげぇ罪悪感が湧いてきてよ…こう 無警戒にオレ様を見るレグルスの視線と 絹のような白い肌のギャップがこう…はぁ、今思い出してもなんか悪いことしたなぁってな、しばらくレグルスの顔見れなかったぜ」
師範は目に見えて落ち込んでいる、やはり人を騙したり隠し事をしたりするようなのは良くないのだろう、レグルス様もまさか仲間として信頼している師範にそんな目を向けられたなど知る故もなかっただろう…そして師範もそのことに気がついたから、落ち込んでいるのだ
「まぁ、いいもん見れたけどな」
「懲りてないじゃないですか!」
「乳の形はレグルスが一番整ってる」
「全然懲りてないじゃないですか!」
「一番汚ねぇのは夢見…」
「聞きたくありません!ってか結局他の魔女の裸も見たんじゃないですか!」
「いいじゃねぇか!きっとみんな言ってないだけでみんなも見たって!きっと!、特にレグルスは一番スケベだったからな!毎日見てたぜ!きっと!」
「レグルス様に言いつけますよ!、もう!この話はここで終わりでいいので!早く修行の続き始めましょう!」
「お、気合い入ったか…いいぜ、ほら始めな」
そうして俺と師範は日が暮れるまで付与魔術の訓練を続けることとなった、が結局俺は今日この日は五秒の壁を越えることが出来ず、ただただズタボロになるだけで終わるのだった…
しかも帰りは一歩も動くことができず 師範に運んでもらう始末、情けない…情けないがここで折れるわけにはいかない、頑張らねば…
そしてまた明くる日もまた明くる日も修行は続く…
そしてある日…
「今日は戦術の勉強だ、個を鍛えても群を動かせねば勝てぬ戦いがあることはお前も十分理解しているだろう、だからオレ様が戦術理論を授けてやる」
そう言って今日はいつもの山ではなく、軍議場でペンを持って座らされている、筋トレばかりではなく頭も鍛えろとはアルクトゥルス師範の言葉だ、確かに力ばかり強くてもそれで強くなれたかと言われれば怪しいところがある
「しかし意外です、師範の口から勉強しろなんて、勉強するくらいなら殴り合いの練習しろボケッ!っていうかと思ってました」
「お前の中のオレ様はアホか、そもそも殴り合いってのは頭が悪い奴には出来ねー芸当なんだよ、何も計算式がどうのとか文字をどれだけ知ってるとか そんな頭の良さはこの際いらねぇ、だが頭ってのは使わないと鍛えられねぇからな、勉強内容云々以前に勉強は大切なんだ」
なるほど、巨漢の闇雲に振り回す腕より小賢しい小男のナイフの方が 時として恐ろしいこともある、要は力を得ても使い方がわからないほどバカじゃあどうしようもないってことか
「でもいつもの修行に比べれば幾分楽ですね、俺だってアルクカースの王です 戦術理論くらい勉強してます」
「ほうそうか、随分自信があるみたいじゃないか…オレ様が今日この日の為に紙にいくつか戦況を書いておいた、その戦況にお前ならどんな指示を出すか それを紙に書き込め、とりあえず今日はお前がどれだけ出来るか 確かめさせてもらう」
「筆記ですか、なるほど 任せてください」
「因みに一問間違える毎に一回殺す」
「いや一問も間違えられないじゃないですか!」
「判断を間違えていい戦場なんか一つもねぇ!、いいから解け!」
そう言って師範から渡されるのは紙の束、パラパラとめくって見てみると、紙には一枚につき一つ…戦場の状況が事細かに書かれた物が載っている、こちらの兵力の敵方の戦力、戦場に何があり物資や武器の状態はどうか、どのような状況で始まり今現在はどのような状態か等…本当に細かく書いてある
だからこそ、頭を回転させ考える、…サイラスほどじゃない俺だって指揮くらい取れる、そうだな…例えばこの状況では…
そう思い解き始めること数十分、ペンを走らせ全てに適切な指示を書き込めたと思い紙の束をアルクトゥルス師範に突き出す
「出来ましたよ、師範」
「ほう、想定より幾分早いな 判断が早いのはいいことだ…どれどれ?」
そういうとアルクトゥルス師範はパラパラと数瞬で紙の束全てに目を通すと、しばらく押し黙り…ど どうだ?、いや全て適切に答えたはずだ、攻めるべき時に攻め 守るべき時に守る、その流れから何まで全て書き込んだ…間違いはないはず…
「…どうですか?師範…」
「…五回殺す」
「ひぇぇっ…!」
「明らかに間違えている答えが五つ、それも全て敵に包囲されている又は敵に追撃を受けているなどの窮地に陥っている時の判断が全てダメ!、一番間違えちゃいけねぇところを間違えてどうする!」
ええっ!?そう声をあげながら師範に突き返された紙を見る、全て軍が窮地に陥った時のものだ、だが俺の答えに不備はないはず 、俺の答えは大まかには軍を砦に篭らせ援軍を待つとか…敵を撹乱し隙をつき逃げるとか…そう言った勝ちを捨て軍の被害を最小限にとどめるものばかり
なんだ?これで間違いってことは…
「軍の被害を減らすのが間違いだというのなら…最後の一兵になるまで戦えというのですか!師範!」
「馬鹿野郎!そりゃ一番取っちゃなんねぇ手だ!、戦争ってのはとどのつまり残ってた人数が多い方の勝ちなんだ、大切な兵士の命を無駄に減らすような無能な奴は指揮官を名乗る資格はねぇ!」
「ならなんで!この方法なら軍の被害は最小限に…」
「確かに、お前の言う手なら軍の受ける被害は最小限になる…だが最小限だ、被害は出る」
何を無茶言ってるんだ、囲まれたり敗走している状態で一体どうやって一兵の被害も出さずに事を済ませるというのだ、思いつかない 一体どんな手が
「一体…どんな策を使えば…」
「策も何も、なんでオレ様の出したこの戦場に、ラグナ!テメェ自身を勘定に入れてねぇんだ!」
「俺自身を…あっ!」
そういう事か!、俺は師範の出したこの戦場を架空のものとして捉え 俺とは全く関係のない戦争とばかり感じていた、だからここに書き込まれている兵士の人数の中に…自分を入れてなかった、俺自身が戦場に立っていなかった…
師範の言う通り、この紙に書かれた戦争に 俺が参加していたならば…
「俺が…ここにいたなら、俺が一番先頭 矢面に立ってみんなを守ります」
「そうだ、ついでに言えばテメェ一人で敵軍追い返すぐらい言ってみろ…、お前の目指すみんなの平和を守る強さってのは、とどのつまりそれが出来るかどうかにかかってる、例え相手が何人でどれだけ戦いが苦しくても、後ろに守りたい奴がいるなら死んでも退くな、それがこの戦場で取れる最善手だ」
俺が紙の答えに 『俺がなんとかする!』と書き込むと師範は満足そうに頷く、そうか…そうだった、俺は守りたいんだ 誰も傷つけたくないなら誰よりも傷つく覚悟を負わなくてはならないと、俺は決意したんじゃないのか!
「師範!他の紙も返してください!」
「え?、…いや他の紙の答えは正解だからいいよ」
「ダメです!、全部俺一人でなんとかします!答え書き換えます!」
「ッバカヤローッ!テメェ一人でなんとかなるほど戦場はそんなに甘くねぇーっ!」
「ぶげぇぇぇえっっ!!??」
再び殴られてしまった、俺の体はまたも錐揉み部屋の机やら椅子やらを巻き込みながらぶっ飛んで壁を吹き飛ばす、死ぬ…覚悟決めたそばから死んでしまう…
「おいコラッッ!軍議場で暴れんじゃねぇっ!!」
「お、悪りぃベオセルク…筆記の修行してたらちょっと熱くなっちまった」
「筆記をして何がどうなったら壁吹き飛ばすほどブッ飛ぶんだよ…!」
そう言って部屋に殴り込んでくるのはベオセルク兄様、いや今は国王直属の王牙戦士団の大団長だ、その仕事は俺の護衛に留まらず 戦闘欲求を満たす為に暴れ出した貴族達の鎮圧など 俺の手足となって国を守ってくれている
「ンだよ、壁の一枚や二枚いいじゃねぇか!オレ様の要塞だぞ!オレ様の壁だぞ!」
「そのテメェ様の壁直すための金を払うのとそのための請求書やらなんやら処理しなきゃいけねぇのが誰なのか考えてから物言いやがれ…!」
師範相手にガンを飛ばし鬼のような睨み合いを繰り広げるベオセルク兄様、…兄様は戦闘以外の面ても特にこの国の為に尽力してくれている、俺の執政の補佐や経理や訓練所の運営 要塞の戦士達の管理など、文官が圧倒的に不足しているフリードリス要塞を支えてくれているんだ
兄様はやらせればなんでも出来てしまう人だから、俺もついつい甘えてしまっている…この人が楽をできるように俺も頑張らないといけない
「いてて…」
「ラグナ、生きてるか?」
「なんとか…」
「死なれても困る、後でアスクから治癒を受けとけ それで時間ができたら仕事だ、山と溜まってるからな」
「はい、ありがとうございます」
チラリと師範の方を見ると もう今日の修行は終わりだと言わんばかりにぱっぱっと手を払う、そうか ならあとは仕事の時間か… 軽く伸びをして痛む体を引きずりながら執務室へ向かう、さて 強い国王になる為だ!国王としての仕事も頑張るぞ!
………………………………………………
「それで、北方へ武力鎮圧へ向かっていた戦士バードランドの部隊が任務を終えたようです、首尾よく暴れてきた諸侯を叩きのめすことができたようです」
アルクトゥルス師範の修行を終えたら、いつも通り国王としての政務活動に入る、と言ってもアルクカースの国王の政務活動は凡そが軍備の整理と戦闘欲求を持て余した貴族の反乱や国外との戦争の落とし所の模索など 基本的に戦闘関連になるものが多い
今も俺が政務室で秘書官の報告を聞く…秘書官 名前はレティシア・クリソプレーズ、薄緑の髪色にツンと尖ったメガネが特徴的な女性だ、彼女は俺が政務活動をする上でその仕事を最前線で補佐してもらう為やってたデルセクト人だ
彼女は俺が王になってから雇った人間だ、なぜ外部の人間を近くに置くのか…それはこのアルクカースという国には机に向かい合って数字と格闘することを得意とする者が圧倒的に少ないからだ
レティシアは商人気質なデルセクト人らしく、数字に強く 器量もいい…最初は俺みたいな子供が王と聞いて少しナメた態度を取っていたが、今では俺のことを認めてくれたのか真面目に働いてくれている
「分かったバードランドの帰還はいつ頃になる?」
「数日もしないうちに帰ってくるかと、昇進が楽しみだ…との連絡も入っています」
「ははは、そうか…分かったよ、ありがとうレティシア」
「いえ、仕事ですので」
彼女は確かに外部の人間で新参者 剰え外国人だが、デルセクト人はお金をもらう限り誠実に仕事をする、そう言った面でもレティシアは信用できる、まぁ 戦士としての活躍は期待できないけどな 弱いし
「そしてもう一つ報告が」
「もう一つ?他に何か仕事があったかな?」
「いえ、こちらは仕事とは関係ないのですが…南方の果てで魔物の大量発生があったそうなのです、チャリオットファラリスという魔物の大群が」
チャリオットファラリスか、あれは都度都度大量発生して近隣の村々を困らせる悩みの種だ、普通ならベオセルク兄様を派遣すれば済む話だが兄様は今非常に忙しい…されど生半可な戦力では返り討ちにあうし、面倒だな
「チャリオットファラリスか…面倒だな、それで被害は?」
「ありません、流れの魔術師により全て退治されたそうでして…私としてはその流れの魔術師を雇い入れ戦力強化に使えないか…と思いまして」
「ほう、一人でか」
クイッとメガネをあげながらレティシアは報告する、なるほど有用な戦力を見つけたから 早い内に囲い込めと言いたいのか、この国では保有する戦力の大小が運営に大きく影響を与える…レティシアもこの国の流儀分かってきたようだ
しかし、レティシアの言い分もわかる チャリオットファラリスの群れを一人で倒せてしまう魔術師…それはつまり少なくともベオセルク兄様に匹敵する強さを持つということだ、雇い入れれば戦力になるし放置すれば災禍になる、なら早いうちに味方に…か
「なるほど、それでその魔術師の名前はわかるか?」
「当然調査済みです、流れの魔術師はエリスと名乗ったそうです」
がくりと項垂れる、なんだエリスか…彼女もうここを旅立って半年経ったのだが、まだアルクカース国内にいたのか、いやアルクカースは南方に伸びるように縦に長い地形だ…越えようと思うと一年近くかかるか
「チャリオットファラリスは一体だけでも高ランクの危険度を持ち討伐には冒険者五人を要すると聞きます、それを一人で倒したとあっても凄いのにダース単位で倒したとあらばこれはもう雇うしかないでしょう、私に任せて頂けば必ず仲間に引き込んで見せましょう」
そういえばレティシアはエリスのことを知らなかったな、だから在野で有能な者が居ると思い俺を鑑みてこのようなことを報告してくれたのだろう
「ですので仲間に引き込めた暁には特別ボーナスをですね?…」
両手で揉み手摺り手で俺の顔色を伺いに来る、ああ違った、コイツは金が欲しいだけだ というかデルセクト人はみんなそうだ、先程誠実に仕事をすると言ったがそれはあくまで金の為、デルセクト人は資本第一主義なのだ 何をするにも金 何をいうにも金…まぁだからこそ 金を稼ぐ為にこそ誠実に仕事するのだが
「はぁ、エリスを配下に引き込めるもんならとっくに引き込んでるよ」
「おや?さすが国王 既に魔術師エリスのことをご存知でした、でしたら当然ご存知ですよね?彼女が孤独の魔女の弟子であることを…つまり魔術師エリスを引き込めば孤独の魔女も付いてセットでお得!今ならエリス一人分の給金で孤独の魔女までついてきちゃうんです!」
「俺とエリスは知己の仲なんだ、ついこの間までここにも滞在していたし 何より俺が国王になれたのも彼女の働きが大きい、…今エリスはここを離れデルセクト目指して旅してる最中だ、邪魔するのは許さん」
「はぅあっー!?なんと…くっ!目先の手柄に目が眩んでリサーチを怠るとは私一生の不覚…減給だけはご勘弁を!」
「しないよそんなこと」
ガガーン と口で効果音を発しながらペコペコ謝るレティシア、しかしそうかエリスまだアルクカース国内にいたのか、なら何か支援出来ることはないだろうか…そう思っているとレティシアは顔を上げ 少々難しそうな顔をし始める…珍しいな 仕事場であんな顔するなんて
「どうした?、難しい顔をして」
「え?ああいえ、国王様の知己の方が今デルセクトに向かっていると聞いて少々思うところが、彼処はほんの数日滞在するだけならば楽しいところでしょうが 一年二年長期滞在するとなると…かなり危ないところですので 抜けるなら早めに抜けた方がと思いましてね」
デルセクト出身のレティシアは何か思うところがあるらしい、というかつい一年前までデルセクトに住んでいたらしい、だが行商人としていざこれから儲けの旅へとアルクカースに入国した瞬間魔獣に馬車ごと吹っ飛ばされたらしい、そこを俺に拾われ今に至る…
故に、ここ最近のデルセクトの事情に一番詳しい人間ということになる
「危険?そういう印象は抱かないが?、絢爛な街並みと一級品の品々が並ぶ豪奢な国だと聞いている、オマケに技術力も大陸随一で魔力を用いず動く機構を数多く開発している知恵の国とも有名だな?」
「表ヅラはそうです、ですが玄関が綺麗な家が中まで綺麗とは限りません、確かに一級品の品々が揃いますが物価が高く 儲けようと必死な商人達が結託して民衆を騙して金を搾取してますし、金のない国民達は蹴落とし合い騙し合い奪い合いをしているため貧富の差がとてつもなく大きいのです」
搾取する者は際限なく吸い上げ 搾取される者どこまでも搾取される、それがデルセクトという国だと彼女は語る、そう…物価が高いのだ 故に金がなければ何もできない、だから金を奪い合う…なんだか本末転倒な気がしないでもないが それがデルセクトという国だ
「最新の技術を使った武器や品々は全てデルセクトの裏社会に流れていますしね、裏の人間は金払いがいいので 新しい技術を真っ先に手に入れるのは犯罪者という始末、…だからあの国では国軍以上に悪人が幅を利かせています…そして悪人は弱者 即ち搾取される側に容赦しない」
だから一度でも搾取される側に回ると死ぬまで全てを搾り取られ続けるらしい、恐ろしい話だ、まさかそんな国だったとは エリスは別に彼処に定住するわけじゃないから大丈夫だと思うが、心配だ 欲深い人間は鼻が効く…つけ込まれなければいいが…
「それになんか最近よく分からない黒服もうろついてるって話ですし、私怖くて大慌てで国を飛び出したんですよ、そうしたらここは別の意味で怖い国でした…魔獣普通に歩いているし」
そりゃご愁傷様、しかし黒服か…ラクレス兄様のところにいた正体不明の集団、デニーロの報告によるとあの後ラクレス兄様を襲撃したらしいが、まさかデルセクトにもいるのか?…だとしたら奴らの活動範囲は相当広いことに…
「ラグナ、調子はどうだ?」
「あ、師範! 順調です」
「ひぇ、争乱の魔女アルクトゥルス…」
俺の思考を遮り部屋をあけ放ち入ってくるのはアルクトゥルス師範だ、デルセクトとの戦争がなくなってからというもの毎日暇そうだが、前ほど戦闘欲求を持て余さないのは毎日俺の育成をしているからだろう
暇つぶし半分の育成とはいえそれで落ち着いてくれるならありがたいことだ
「忙しそうっていうよりかは、なんか神妙そうだな…なんかあったか?」
「いえ、実はエリスの向かったデルセクトにも例の黒服がいるとか」
「黒服…ねぇ」
一応アルクトゥルス師範にも、報告はしてあるからラクレス兄様が組んでいたという黒服達のことは知り得ているはずだ、だが肝心のラクレス兄様が口を閉ざしているため未だ黒服の詳しい情報は分からないのだが
「黒い服着たやつなんざどこにでもいんだろ、オレ様だって上着黒いし」
「まぁそうなんですが、例の黒服達の狙いは依然とし知れません、何を企んでいるのかも、もしかしたらアジメクの魔女襲撃事件にも一枚噛んでる可能性もありますし…どうにも無視出来なくて」
「だろうな、連中ただの犯罪者集団ってわけでもなさそうだしな、注意しとくに越したこたぁねぇんじゃねぇか?、…何を企んでるかは 何と無く想像がつくがな」
「え?…知ってるんですか?なんなんですか?師範」
「お前にはまだ早いな、奴らを潰すには後…そうさな 十年近い修行がいるだろうよ」
別に潰す気は無いんだが…いや、多分違うな その狙いを…奴らの真意を知ったら俺は奴らと戦わなくてはいけなくなるのだろう、恐らくは俺と黒服達の理想は相反するもの、だからそれを知るのはもっと強くなってからじゃないとダメってことか
なら今は気にするのはやめよう、俺と奴らの目指すところが真逆なら いずれかち合うことになるだろうから、今は精進に集中しよう
「それで?後ろのメガネはなんでオレ様を見た瞬間隠れてんだよ」
「ははは…彼女 師範のことが怖いみたいで」
「こ 怖いに決まっているではありませんか、噂ではあの栄光の魔女フォーマルハウト様と互角の存在なのですよね?私なんかひと睨みで殺されてしまうますぅ」
「バカヤロウ!、オレ様とフォーマルハウトが互角だぁ!?オレ様の方が強いに決まってんだろ!なんだったら今すぐ証明してやろうか!デルセクトに殴り込んで!」
「やめてください!戦争になってしまいます!」
今すぐデルセクトに跳んでいきそうなアルクトゥルス師範を必死で止める、レグルス様といいアルクトゥルス師範といい すぐに喧嘩を始めようとするし、本当に昔仲よかったのか正直疑問だ
すると、アルクトゥルス師範は ふと…立ち止まり
「まぁ、よーいドンで戦えばオレ様が間違いなく勝つが…もし先手を取られれば…多分オレ様も負けるかもしれんな、奴の使う錬金術は 一撃必殺だからな」
そうポツリと呟くのだ、魔女さえも仕留める一撃必殺を持つ魔女…それが栄光の魔女フォーマルハウト、あの鉄壁とも言える師範の防御を抜いて 一撃で仕留めてしまう魔術って 一体どんな…正直興味があるが、…ここで聞いたら師範はさらにヒートアップして本当にデルセクトに乗り込かねないから、ここはぐっと抑えよう
「あの…師範、仕事があるのでここらで…」
「む?、ああ…オレ様がいたらそのメガネが使いもんにならねぇからな、んじゃ 退散するとするぜ、お前も手早く仕事終わらせてトレーニングに戻れよ。
俺の言葉を受けて、師範は大人しく部屋を出てくれる…聞き分けがいいんだか悪いんだか…まぁいいか、師範の言う通り仕事を終わらせてトレーニングに戻ろう
俺の後ろで蹲って震えるレティシアの尻を叩き、仕事に戻る…と言ってももう殆ど仕事は残っていないようなので、この日の国王としてのこなす政務は直ぐに終わることとなった……
ある程度の仕事を終え 後のことをレティシアに頼んだ後 師範が俺に課した自主トレーニングを夕暮れまで行い、そうして俺の一日は終わっていく…毎日が大体これの繰り返しだ、一日修行につぎ込むか 半日修行につぎ込むかの違い 忙しくはあるが充実している
いや、多分俺だけじゃ無いな…バードランドは自信をつけてアルクカースの戦士らしく毎日を戦場で過ごしている、夢は討滅戦士団入りらしい
ハロルドさんも若手をビシバシしごいて居るらしく、最近別れた妻が連れて行った息子のそのまた息子…つまり今まで会えなかった孫が訓練所に入ってきたらしく、甘やかしながら鍛えているらしい
また今度カロケリ族のみんなに会いにいくつもりだが、彼らもきっと元気だろう…リバダビアさんは相変わらず街で屯しているらしい、何故か山には帰られないが…
普段は街に近づく魔獣を退治をしそれを食べたり素材を売って金にしたりと自由に過ごしている…何を考えているかはいまいちわからないが、もし彼女にその気があるなら 王牙戦士団に誘おうかとも思っている
ベオセルク兄様は俺以上に忙しそうに動き回っているしアスクさんはそれをサポートするように働いている、二人とも今やこの国にはなくてはならない存在になっている
対するホリン姉様は特に仕事もなく暇そうにお酒を飲んでいるが、あの人とてアルクカース人 いつまでも大人しくしてないだろう、そのうち何か始めるはずだ
…そして、ラクレス兄様は…まるで燃え尽きてしまったかのように 呆然と辺境の砦に幽閉されている、この国を乱そうとした罪は大きいが…反乱が溢れかえっているこんな国だ、別にいつまでも閉じ込めておく必要はないと感じている
ラクレス兄様と話が着いたら、俺はあの人を外に出そうと思っている、外に出してどうしようと言う気は無いが、俺はあの人にもう一度立ち上がって欲しいと思っている、あんな場所で生涯を終えるのはあんまりだ
それで…うん、みんななんだかんだ平和に過ごしている、俺がデルセクトとの戦争をやめたせいで爆発する貴族は多いが そいつらもみんな叩き潰せばみんな納得するだろうし、この国が落ち着くのも時間の問題だ
……後はエリス、君だ…俺は君の帰りを待っている 上手くやって 旅を終わらせて、またここに戻ってきてくれ、君が戻って来る頃には この国はもっといい国になっているはず…いやもっといい国にしておくから
なんて、ボンヤリと思いながら俺は手紙を書く…誰にか?エリスに?違うさ、これも国王の仕事のうちの一つ 、いや個人的な想いも含んではいるが…
宛先はアジメク、届けるのはデティフローア・クリサンセマム…エリスが親友と呼び 我が国の隣国に当たるアジメクの支配者
俺と同じく幼くして国を治めることになった彼女に手紙を送るのだ、師範の暴走のせいでアジメクとアルクカースの関係性は悪化してしまったからな、関係改善も俺の仕事のうちの一つ
そして、俺の知らないエリスを知る人物でもあるデティフローアに 少し興味を持ったから、ほんの挨拶のつもりで…そう思い手紙を出す
………その後、長期戦が予想されていたアジメクとアルクカースの関係改善は魔術導皇と大王の手により瞬く間になされ より一層強固な魔女大国同盟が築かれたと言う、このスピード改善の裏には 二人の指導者の共通の話題となる一人の少女の名があったことは あんまり伝わらなかったらしい……
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