孤独の魔女と独りの少女

徒然ナルモ

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二章 友愛の魔女スピカ

32.孤独の魔女と憎悪そして憤怒

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大きく ただひたすら広大なディオスクロア文明圏に存在する巨双大陸の東側 カストリア大陸の最西端に存在する大国

魔術導国アジメク 、医療技術と治癒魔術が世界で最も栄えていると言われる医療治癒の総本山、その中央に存在する皇都は七大魔女国家の中で最も美しい街並みと呼ばれるほどに美しく統制されていると言われている

そんな中央皇都の一角の宿、朝焼けの最中 その厨房に慌ただしく走り回る小さな小さな少女がいる、その手には塩 目の前にはホカホカと湯気を漂わせるウサギ肉だ

「料理人さん!、塩の加減はこのくらいでいいですか?」

「え あ…ああ!、完璧だよ まるで秤にかけたみたいに寸分の違いがない」

少女…エリスの料理の手際は宿屋に常駐するプロの料理人も舌を巻く程の腕前だ、料理人の彼も宿屋に勤める一介の料理人とはいえ、騎士様を相手にする高等な宿に名を置く身…そこらの料理人には負けないつもりでいたが、まさかこんな小さな女の子に圧倒される日が来るとは と冷や汗を拭う

「こちらの焼き加減は十分ですね、あ こっちもちょうど出来たみたいです、あとこれの時間は…もう直ぐですね」

エリスの動きに擬音をつけるなら テキパキか或いはキビキビとでも言おうか、凄まじく早く 途轍もなく効率的な動きだ、何故こうまで動けるか

答えは一つ、エリスは皇都に来てから観察していたのだ 皇都の一流の料理人の動きと味付けの分量、時として質問して技術を伝授してもらい、頭の中で整理して自分のものとていた

物を覚え一つ一つ物にしていく独特の感覚、料理と魔術は似ている とはエリスの言葉だ

「よし、出来ました!」

そうして出来上がったのはエリスが皇都を練り歩き最も自分の料理に合う物を厳選したパン、別名エリスプレミアム

その隣には湯気をあげるトウモロコシのミルクポタージュとアジメク名物サラダの盛り合わせ、そしてたまたま手に入ったウサギ肉を用いた ウサギ肉の香草焼き、朝から結構な量のメニューだが修行に明け暮れる彼女にとっては物足りないくらいだ

最後に仕上げとして コーヒーを一杯入れて、全て盆の上に乗せると…

「料理人さん、厨房お借りしました 失礼します」

「へ!?い いやいやこちらこそ」

エリスの効率的な動きを忘れまいとメモを取る料理人に一礼しつつ、料理をダイニングへ運ぶ きっと自分一人で食べるだけならここまで気合は入らないだろう、全ては敬愛する師匠の為、師匠の朝の安寧の為

「ししょー!朝ごはんできましたー!」

「ああ、エリス おはよう…」

寝ぼけ目を擦るししょーの元へお皿を並べて、最後にコーヒーを置けば ししょーもやっと目が覚めたのか大欠伸を一つすると頬を叩き、背筋を伸ばす

うん、いつも通りの朝だ…素晴らしい、いつも通りのルーティンをいつも通りこなせたことで今日もエリスはいつも通りご機嫌だ、食器を並べ席につく

「今日も素晴らしい出来栄えだ、エリス 日に日に料理の腕を上げているな」

「ししょーの為です、ししょーを思えばいくらでも上達できますから」

料理をしている時 いつもししょーの顔が浮かぶ、ししょーはいつもエリスのご飯を美味しそうに食べてくれる、ししょーの幸せの為ならエリスは頑張れる

「…ん、美味しいよエリス」

「はい!ししょー!」

はわわ ししょーの言葉に身を震わせる、大変だ 嬉しすぎて体が火照る 筋肉が緩む、嬉しい 嬉しい…

ししょーの美味しそうな食べっぷりエリスは今日も幸せだ


……………………………………………………


オルクスの反乱から 既に三週間ほどの時が経とうとしていた、皇都の…特にレギベリの暴れた区域の壊滅っぷりは酷いものだったが、総兵力百万に上ると言われるアジメク導国軍と騎士 そして二人の魔女の力があれば復興など取るに足らぬと言わんばかりに街は瞬く間に直っていった

そうして、私達は二週間もしないうちにこうして普通の生活に戻ることができたのだ

「…ん、美味しいよエリス」

「はい!、ししょー!」

今、私はエリスの作った朝食に舌鼓を打っている、良い料理 良い料理人に囲まれるこの状況において、エリスの記憶力は猛威を振るっているようであちこちでプロのシェフ達から技術を吸収しグングン料理の腕を上達させている

本当に日に日に腕を上げているのだ、もう私より百倍くらい美味い…パン一つ取っても美味いのだ、この子は本当に末恐ろしい…そして美味い 美味い

硬い豆と煮汁で生活してたあの頃に 私はもう戻れないだろう、こんなに美味しい料理を毎日エリスが出してくれるんだ、その美味しさを味わったら もう生活レベルを下げることはできない

「はむ…むぐっ…」

「ししょー、そう言えば 今日のご予定は スピカ様に会いに行かれるのでしたか」

「ん?、ああそうだな」

今日の予定は修行を終えた後 スピカに会いに行く予定だ、内容は廻癒祭が中止になったことによりお流れになった私の存在の公表の方法についてだ

どうもスピカは劇的な演出を加えて私を大々的に発表したいようなのだ、それに一年に一度の大祭り 廻癒祭は絶好の機会であったとも言えたのだが…オルクスの所為でそれも台無し、なので私の発表は復興が終わってからまた盛大にということになった

私としてはそんな大々的ではなく『ああそう言えばレグルス見つかったってよ』くらいの話の枕で充分なのだがな

それに、オルクスの集めた冒険者達には既にレグルスってバレてたし隠す必要は……

あー、そうだ その前にオルクス達がどうなったか 、まとめておくとしよう

まずオルクスの集めた冒険者達だが 全員まとめてお縄になった、全員捕まえたはいいがその数は一万を超える…流石にこの人数は牢屋に入りきらない、なので全員に罰金を課し 町の復興を手伝ったらチャラにする、ということで手を打ち全員に反省を促した

ヴェルトとトリンキュローだけは見つからなかったのは残念だがな…、もう国外へ逃亡したのかもしれない

あと見つからなかったと言えばレオナヒルドもだ…一応メイナード達も必死に探してくれたようだが 曰く霧のように消えてしまい見つけられなかったそうだ、かなり疲れた様子だったし、それ以上追求はしなかったがな…エリスにやられて這々の体だったはずなのに何処へ消えてしまったんだろうな アイツ

レオナヒルド逃亡の報にナタリアもちょっと悲しそうにしてた…、一応表面上は普通を取り繕ってたが  血塗れの嘆願書がビリビリに破かれゴミ箱に突っ込まれているところを見るに…まぁ 筆舌に尽くしがたい感情であったことに変わりはなかろう

そして、肝心のオルクスだ…結論から言うと死んでた、目撃者はいない みんな死んだからな…オルクス含め 館の使用人とオルクスを守っていたであろう私兵 みんな揃って惨殺されていた、犯人は一応不明となっているが 私には心当たりがある…多分 あの鎧の女だ、奴が殺ったに違いない、その鎧の女も行方不明だが…

そして、オルクスを筆頭にしていた反魔女派の貴族達は 旗本を失ったことにより瓦解しスピカに押し潰されたとの事、お陰で今アジメクの勢力図はスピカ一強を超えた スピカ一色状態だ、それがいいのか悪いのかは知らないが友人として素直に喜んでおこう

他にも変わったことを上げれば枚挙に暇がない、スピカが妙に肩肘張らなくなり 若干だがデティを褒めるようになったこと、メロウリースが少し落ち着いた事 クレアがなんだか騎士の仕事に乗り気な事 ナタリアが本格的に騎士の仕事に戻りデイビッドが持ち直した事…

三週間でこれだけ変わった、いや 決定的に変わったのは廻癒祭のあの一日だけでだが…何かを失った者もいるにはいる、だが 失う事は弱さではない 変わる事は弱さではない

皆、今という現実に適応して変化して 強くなるのだ……

「…美味いな、本当に」

エリスの作ったウサギの香草焼きを口に運び ふと呟く

ムルク村から移動してきて もう半年だ、『もう』とも見れるし『まだ』とも見れる、だがその半年でエリスは大きく変わった、この料理の腕だってその一環だ

ムルク村を出てエリスはあの村とそこに住まう者達と別れただろう、だが同時にデティという友を得て メイナードやヴィオラという仲間を得て 料理の腕や知識…別れた以上の物をエリスは手に入れたのだ

…皇都への旅はエリスを大きく成長させた、記憶力のいいエリスにとって 未知の経験とは最高の経験値になり得る…、ああ 長々と言ったが結局のところ私が言いたい事は一つ

スピカに 今日…こちらからも話がある、という事だ



「んへへ、ししょー そんなに褒められるとエリス困っちゃいますよ、嬉しすぎて」

ただまぁ どれだけ変わろうとも、この笑顔だけは一切変わらないのは 私にとって救いだがね

「困るならもう褒めるのはやめておこう」

「ぅあぁっっ!?!?、う 嘘です…エリスは嘘をつきました!褒めてくださいししょー!」

「おや、朝から元気ですね お二人とも」

「おはようございます……」

なんてエリスと会話をしていると 間に入ってくる男女の声 半年以上も一緒にいるのだ、いい加減聴き慣れてくる

「ん?、 あ!メイナードさん ヴィオラさんおはようございます!」

そう言って椅子から飛び降り、元気に礼をするエリスを見ていると…最初のメイナードやヴィオラを警戒していた剣呑な雰囲気が嘘のようだ、時間という緩衝材がエリスの態度を軟化させたようだ やはり長く付き合えば誰とだって仲良くなれるもんだな

「ああ、おはようエリスちゃん 今日も眩しいね」

「そういえお前は、あまり元気がなさそうだな」

「ええ、どうにもダルさが抜けなくて…」

メイナードとヴィオラの異常は三週間ほど前から続いていた…ちょうどレオナヒルド捜索の後くらいからだ、今のこれでもだいぶ良くなった方で 最初の方は青い顔してフラフラだったからな…何が原因かは分からんがな

「でも今日スピカ様に診ていただけることになったので 大丈夫だと思います」

「そうか、ならよかった…もしスピカでも無理そうなら言いなさい、治癒魔術とは別のアプローチを私が試そう」

「ははは、ありがとうございます…」

なんて会話と共に食事を食べ終え その後修行…走り込みと模擬戦と魔術の勉強 魔力制御とやるべき事をちゃんと終わらせたあと メイナードとヴィオラと共に馬車で白亜の城に送ってもらう、もうこの流れも繰り返しすぎて慣れたものだ

だがまぁ、白亜の城に入る時のあの大人数での出迎えは いまだに慣れぬところがあるがな…

………………………………………………………………


白亜の城 その名の通り白く陽光を反射し輝くような大城、あまりの巨大さに千里先からもその威容は確認できると言われ、 まさしくアジメクという大国の象徴とも言える存在である

それを治めるの絶対者の名は 友愛の魔女スピカ、究極とも言える治癒魔術は時空すら超越し、錫杖かの一振りで人間の生殺与奪を握ると言われるまさしく絶対者

そしてもう一人、立場上 友愛の魔女に並ぶと言われている存在がいる

当代のあらゆる魔術に精通し、魔術界における最高権力者 その時代の魔術的指針となる人物、その名を当代魔術導皇…デティフローア・クリサンセマム

エリスの 親友だ

優しく ちょっと甘くて、勇気に溢れて ちょっと考えなしで 、可愛くて ひたすら可愛いエリスの親友、立場だけで言えば元奴隷のエリスとは比べ物にならないくらい偉い人だが、そんな立場気にせず彼女はエリスを対等の存在として扱ってくれる

文句なしに エリスの親友と呼べる人物



…今日、エリスはししょーに連れられ白亜の城に赴いたのだが、なんでも今日ししょーはそりゃあもう重要な話をスピカ様とするらしい、スピカ様側も他に人を立ち入らせないらしいので エリスが入り込む隙間のない話なのだろう

なので、ししょーがいない間 エリスは親友のところへ行って遊ぼうかと思ったのだが…


「ごめんエリスちゃん!今日は本当に遊べないの!本当にごめん!!!」

泣きながら謝られた、急に押しかけたのはこちらの方なんだから そんな謝らなくても

そもそも、魔術導皇に会う というのは普通なら至難極まるのだ、普通の魔術師なら何ヶ月も前何年も前からコネを作り渡りをつけて連絡を取り、ようやくの思いで数分謁見できる高みの存在

それにフラッと会いに行くエリスの方がどうかしてるのだ

「でも今日は一段と忙しそうですね」

魔術導皇の私室にて テーブルの前に座るデティの両隣には分厚い本がいくつか並んでいる、エリスの記憶が正しければ以前来た時 こんな本はなかった、デティも一応魔術導皇の仕事的な事はしているものの…その際もこんな本は使ってなかったと記憶しているが

「うん、あの事件以降先生が貴方も古式魔術をしっかり使えた方がいいからって、古式魔術の修行を始めてくれたんだ…私の実力を認めてくれるんだって、えへへ」

古式魔術、なるほど…となるとこの本は差し詰め 友愛の古式魔術教本といったところか、中には友愛の魔女が使う魔術とその極意が書かれているのだろう、…少し読んでみたい気もするが、エリスは孤独の魔女の弟子であって友愛の魔女の弟子ではない…なら 中身を勝手に見るのは良くない事だろう

「古式魔術って詠唱覚えるの大変だねぇ、エリスちゃん良くもあんなにポンポン色んなの覚えられるよね」

「エリスは覚えるのが得意なので、でも詠唱を覚えただけじゃ古式魔術は使いこなせません エリスだってまだその力を殆ど引き出せていないですし、本当の意味での修行はこれからですよ」

「そっか…、でもこの魔術があれば今度こそエリスちゃんをしっかり守れるから、私頑張るね」

詠唱を覚えて 撃つ それだけである程度形になるのは現代魔術くらいで、古式魔術はそこから更に気が遠くなるくらいの修練がいる 、ししょー曰く エリスは全体的に色々足りてないらしいが、もう少し大人になればそれも全て解決するらしい

デティもきっと直ぐには使いこなせないだろうが、それも時間が解決するだろう

というか

「でもデティはもう古式魔術を使えるじゃないですか」

あの瀕死のナタリアさんを助けた時使った魔術 名は輪廻天星反魂之冥光、詠唱だってちゃんと一字一句違わず思い出せる…だがエリスには使えそうにない 、何故かは分からないが少し唱えても体の中の魔力が動く気配がしないのだ

伊達ではなく、不可能とされる魔術のうちの一つだ …エリスでは使うことすらできなさそうなのに、既にデティにはあれを使う技量があるのだ、なのに今更古式魔術の修行なんてわけないだろう

だというのにデティの顔は、あっという間に青くなり 口元に指を当て

「エリスちゃん…!しぃーっ!、あれ使ったの先生にも内緒なの、バレたら先生にすごい怒られちゃうから、…それにあれは…例外みたいな物だからあんまり参考にならないの」

そっか、そういうものなのか 

いや、なんで例外的な魔術の方を先に使えるのとか 何故スピカ様がそんな魔術を教えたのとか…疑問は湧くが 本気で問い詰められたくなさそうだ、なら これ以上聞くのはよそう

「ごめんねエリスちゃん、この埋め合わせは絶対するから…」

「いえいえ、エリスが急に来たのが悪いのですから 気にせずとも大丈夫ですよ、それでは…」

「ああぁぁぁぁ…エリズぢゃぁぁああん」

デティの泣き声を背中に部屋を後にする

…デティはあの日以来、少し変わった 誰も違和感を持たないけれど やはり変わったと思う、最近はそれでも少し落ち着いたけど 根本的な部分はやはりおかしいままだ

やっぱり『エリスちゃんは私が守る』と良く口にするようになった、その友愛を花を贈るという行動ではなく 言動でしっかり示すようになった、分かりやすく言うなれば『遠慮しなくなった』とも言おうか?ううんなんか違う気もするけど。

ともあれその変化が何を表してるのか分からないが、今のところ悪い影響はなさそうだし もしかしたらエリスの勘違いかもしれないから なんとも言えないのだけれど

そう思案しながら顎先に指を当て白亜の城をほっつき歩く

思えば白亜の城に来るときはいつもししょーかデティと一緒に居たから、この城の中で暇を持て余すのは初めてか、どうしたものか デティに会えないとなると エリスはもうこの城に用がない、かといってししょーのところにも行けないし…むぅ

「およ?、エリスちゃん こんな所を一人で歩いてるなんて珍しいですねぇ」

「あれ?クレアさん?、こんにちわ クレアさんは忙しそうですね」

なんて、考えていると 忙しそうに両手に荷物を持ったクレアさんと廊下でばったりと出会す、忙しそう …そうとしか形容できない程、その手には紙の束やらなんやらがのしかかっており あのクレアさんでさえ重そうに持ち上げている辺り、相当な量なのだろう

「忙しいも忙しい、大忙しいですよ メイナード隊長から面倒ごと押し付けられててさぁ」

「それはそれは…、あの その紙の束なんでしょうか 見たところすごい量ですけど」

「ん?、ああ なんでもオルクス邸とハルジオン邸から見つかった書類やら日記やら手紙やらを改めるんだって、オルクスは色んな悪事に手を染めてたからね…その悪事はオルクスが死んでも消えるわけじゃない、だからこうやって あの館にあるものは全て調査しなきゃいけないの」

「なるほど」

スピカ様襲撃のためのあの戦力、確か人数的には一万に迫る程の軍勢だったらしいが それを手元に置くには相当数の金がいる、その為にオルクスは背後で色々悪どいことをしてたらしい、例えオルクスが死んだとしてもそれは放置できない 

聞いた話では、オルクスはレオナヒルドと背後で繋がり 奴隷市場建設に一枚噛んでいたらしいし、似たような話が他にもあってもおかしくはない

「ちょっとクレア、何 立ち話してるの?…まだまだ仕事は山積みなんだから、サボってたら終わらないよ」

「ごめんごめんリース、でもこうやってガス抜きしないと 私破裂しちゃう」

「してればいいじゃない…、破裂するなら盛大にお願い」

クレアさんの背後から聞きなれぬ声が響く、いや聞いたことはある 確かこの声は廻癒祭の時エリスとししょーの護衛に加わっていた、桃色の髪が特徴的なメロウリースさんだ

どうやらクレアさんと同じ仕事を受け持っているようで、その手に抱えられているのはクレアさん同様 紙の山だ

「あら、貴方は…孤独の魔女レグルス様のお弟子様ですね、御機嫌よう…私は友愛騎士団近衛士隊所属…メロウリース・ナーシセスと申します」

「こちらこそ、エリスはエリスです 孤独の魔女の弟子のエリスです、よろしくお願います」

紙を抱えたまま器用に一礼するメロウリースさんにこちらも礼で返す…ん?あれ?、確か以前名乗ったときは普通の騎士団員と名乗ってたはずだが、近衛士隊に出世したのだろうか

「エリスちゃんとはムルク村からの長い付き合いなの、私の大切な友人よ…エリスちゃん、リースは…メロウリースは私の同期の騎士よ、愛想も態度も悪いけど多分いいやつよ」

愛想と態度に関してはクレアさんにだけは言われたくないだろうなぁ…

「態度と愛想に関してはクレアにだけは言われたくない!」

ほら…、でも なんかクレアさんと仲よさそうだな 以前はなんかクレアさんのこと睨みつけてたりしてたけど、仲良くなったのかな まぁクレアさんとて一人の人間、エリスが知らないところで交友関係だって広げたりするか、同期だって言ってたし

「それにムルク村からの付き合いなら私の方が付き合い長いでしょ」

「そうだっけ?」

「私とは学園時代から!同期ってさっき言ってたじゃない!」

「でも付き合いはなかったし…」

「クレアが覚えてないだけで私はずっとアンタをッ…」

「まぁまぁお二人とも落ち着いてください…、それより その紙の束 ハルジオン邸の物もあるのですか?」

ヒートアップあわや喧嘩まで行きそうなところで声を挟み止める、仲良いのか悪いのか分からないな…いや無愛想なクレアさんが無碍に扱ってないだけで、クレアさんの中でメロウリースさんの評価は高いのだろう

それより気になる、ハルジオン邸…ハルジオン ご主人様のことだ、エリスは あまりご主人様のことを知らない、もっと言えば実は かあさまの名前さえ知らないのだ…あの頃のエリスはずっと耳を塞いで生きていた だから…何も知らない

少し前までは、あんな館のこと忘れて生きていこうと思っていたが、今は違う…今のエリスはきっと強くなれた、だから ご主人様とかあさまに向き合おうと思う

「そうよ、ハルジオン邸の…オルクスが死んでやっと館の中に入れたんだけど…まぁ 殆ど物も残ってなかったし、重要な物もなさそうなんだけどね」

「重要な物がない っていう事実を確認するのも重要なことよ、メイナード隊長が私たち二人に任せてくださった仕事なんだから、しっかりやり遂げないと」

「近衛の仕事じゃないでしょどう見てもこれ、絶対面倒ごと押し付けられただけよこれ」

「あの…良ければ エリスもその手紙とか日記とか 見てもいいですか?」

気になるのだ、ご主人様が 何を考えて生きていたのか、…もしかしたら中にはかあさまの名前とかも書いてあるかもしれないし、出来れば エリスも見てみたい

だが、メロウリースさんの反応は芳しくない…いくら魔女とは言え白亜の城とは関係ない人物に、関わらせていいものかと思っているのだろう、だが何も言わず クレアさんの方へ視線を送っている、お前が決めろ と言わんばかりだ

「いいわよ、見るだけなら構わないわ」

「ありがとうございます!クレアさん!」


「まぁ、クレアがそう言うなら私も構いません」

「おお?私のこと信用してくれるのねぇ?」

「別に、アンタの責任になるから私は関係ないってだけよ」

「あっそう言う」

ともあれ、許可してもらえた …自然と胸が高鳴る、ドキドキしているのか不安に思ってるのか、わからないが エリスは…ようやく自分のことを知れるのだと言うことだけは感じ取れた


クレアさんとメロウリースさんの案内で通されるのは、白亜の城の小さな一室…なんか倉庫みたいに埃っぽい場所だった、既に多くの書類が運び込まれているのか、至る所に紙の束が積み上げられている、すごいな こんなにあったのか…これ全部エリス確認しきれるかな

「こっちの山がオルクスの書類、そっちのがハルジオン関係よ」

そう言ってクレアさんが指差す先にあるのは 目の前の壁とも見紛う紙の巨大山脈…ではなくその脇の紙の束が少し積み上げられただけの小山だった、少ない …と言うことはこの部屋の殆どはオルクス関係か

「オルクスの奴も まさか自分が死ぬとは思ってなかったのか 結構残ってるのよね」

「まぁ、本当に重要なものはもう処分されちゃってるでしょうけれど、でも 確認する価値はあるわ」

とだけ言うとクレアさんとメロウリースさんは近場の椅子に座り、一枚一枚書類を改めていく、なるほど 忙しいとは言っていたが これを一枚一枚二人で見ていくとなると とんでもない重労働になりそうだ…

エリスも邪魔にならないよう部屋の隅で、ハルジオン関係の書類をいくつか持ち 中身を見ていく

「ごくり…」

手は汗でベトベト 口の中は乾き、緊張する…この汚い紙の束が、エリスにあの恐怖の日々を思い起こさせる…殴られる 蹴られ 思うように食事も与えられず、日々弱る体と痛む節々は 今尚鮮明に思い出せる、恐怖で身が動かなる感覚は 未だにエリスを苛む

…だが乗り越える、エリスは自分の過去に 目を背けたままでは 前へ進めないのだから


意を決して古い順から物を見ていく

父 オルクスへ宛てた手紙や日記 それに書かれていたのは意外な程あっさりした内容、それでいて 吐き気を催すような 外道の所業であった

どうやら…というか分かりきってきたことだがハルジオンは趣味として奴隷を買い集めていたらしい、日記にはいつどこどこでどういう奴隷を買った 奴隷に何をさせた 奴隷が気がついたら死んでいた…とかそんな内容だ、読む手に力がこもる程 人の命に余りに無関心すぎる

この外道め…もう死んでいることはわかっているが、それでも怒りが止まらない おまけにろくに働きもせず、奴隷を買うための金を父のオルクスに催促したり いらない奴隷を送ったりと、私欲にまみれた生活を送っていたらしい…

(読むんじゃなかった…)

想像以上に酷い物だ、元々奴隷だったエリスの心を抉るような内容ばかりに、怒りや悲しみと言った負の感情ばかり湧いてくる

読めば読むほどハルジオンの悪行は増していくばかり、苛烈な扱いに耐えられず死ぬ奴隷の数も日に日に増えていく、あっさりと『死んだ』と書かれるその一文に 奴隷の無念が染み付いているようで、あまりに…あまりに 辛かった


ただそんな中、いきなり ある時期を境にオルクスの文が 明るくその数が増していく

奴隷市場で美しい奴隷を買ったらしい、綺麗な金髪と物覚えのいい最高の奴隷…名前を聞くと彼女は『ハーメア・ディスパテル』と名乗ったと言う

かあさまだ すぐに分かった、エリスと同じ金髪…そうだ このハーメアという女性がきっとエリスの母親なんだと、直感的に悟った

オルクスはハーメアを大切にした、その感情はおそらく恋愛感情に近いものだったという、他の奴隷よりもある程度優遇した…まぁそれでも奴隷扱いであることに変わりないが、それでもハーメアの気を惹こうと彼女が望むものは 出来る限り与えたと書いてある

…だけど、この時点でエリスはハーメアのお腹の中に居なさそうだった 、ならエリスの父親は誰なんだろう と疑問に思ったあたりで事件は起きる

これは、そうだな 詳細は省こう…日記には饒舌に生々しく書かれていたが、これについて詳しく思考するのは 無理だった

軽く 簡単に言うとだ、…ハルジオンはハーメアに恋をしていた だがいつまで経ってもハーメアは心を開かない、そこで 我慢できなくなったハルジオンはハーメアの手足を縛り 寝室へ連れて行き………………

そこで日記から目を離す…、力が抜け 同時にかあさまの『父親はいないものと思え』と言う言葉を思い出す、それは何も父親がいないとか もう会えないとかそう言う意味ではなかったのだ、本当に いないと思って欲しかったのだ

「っ…うぅ…うっ」

涙が溢れ 腹の奥から何か酸っぱい物が込み上げてくる、認めたくない事実に手が震え 目が霞む、いやだ 読み進めたくない…決定的な事実を前に真実を知る決意が揺らぐ、嗚呼…嗚呼


ハルジオンは満足そうだった、ハーメアを物にして 剰え大きく膨らんだ腹を見て 毎日のようにご機嫌だった、そうだ ハルジオンは ハーメアと子を成したのだ…

それがきっと、きっと エリスだ

「ぐっ…エリスの父親が…アイツ…?」

誰にも聞こえない声で小さく呟く、怒り 悔しさ もうエリスの頭の中はぐちゃぐちゃだ、まさか あれだけ嫌っていた これだけ嫌った相手の血が今 エリスの中に半分 流れていると思うと、途端に自らの体が気持ち悪く感じてくる

…子供を作る過程は エリスも知っている、知識として …だから途中でまさかと思ったが、そうか エリスはハルジオンの子だったのだ、タスククスピディータの血を引く 最後の子だったのだ、気まぐれと遊び心で作られた …子とすら呼べぬ欲望の副産物 それがエリスだ


沈む気持ちのまま読み進める、ハルジオンは相変わらず自分のことばかりでかあさまの辛さなど微塵も感じていないし、エリスが生まれた時も、子が生まれた と…まるで届け物が届いたくらいの軽い文章で書かれていたし、名前もつけてもらえなかった

そうだ、ハルジオンは自分の子だからと 別にエリスを特別扱いしなかった、叩いたし蹴ったし ろくな扱いを受けなかった、今更あんな奴のこと 父として見られるか、エリスは変わらない 奴への感情も何もかも変わりないのだ

それから5年間、ハルジオンはお気楽に過ごした エリスを殴ったことを書かれてないのは ハルジオンにとって日誌に書くほどのものでもなかったのだろう、ハーメアにも飽きたのか 昔ほど愛情を注がなくなっていた

そこでまた事件が起きる、かあさまが死んだ事件……いや、これはエリスの知る物とは些かながら違う 隠されていたいやエリスの知らなかった真実がそこにはあった



その文を読んだ時全身鳥肌が立つのを感じた、震えて寒気を感じた 出来れば嘘だと思いたかった、何処かに 否定する一文が欲しかったが、どうやらこれは真実らしい

かあさまが死んだと 思われていた あの朝の真相…それが書かれていた


ハルジオンは朝、いつものように奴隷の様子 エリスとハーメアの様子を見に行ったらしい そこで、冷たくなったハーメアを発見し ハルジオンは取り乱した、ようやく自分がやってきたことの重大さを理解したのか 悲しみにくれ、せめてもの償いとしてハーメアを盛大に弔ってやろうと 棺に入れ、葬ったらしい…のだが

後になって といっても二、三日後になるのだが ハルジオンはある事実に気がつく

かあさまは ハーメアは死んでなかったのだ、冷たくなり 仮死状態になる薬 仮死薬を服用し死んだふりをしていたらしい、そんな薬があるのかとハルジオンも驚いていたがエリスは驚かない この医療大国アジメクになら そんな薬もあるだろうと

そしてハーメアは事前にハルジオンに願い 故郷に手紙を出すふりをしてアンダーテイカーを味方につけ、棺桶に入り 外へ出て…逃げたらしい

エリスを置いて…そこで全てを理解した、かあさまの言動の全てを理解した

『ごめんねごめんね』と謝っていたのは エリスを見捨てるつもりだったからの謝罪だ

かあさまが死ぬ前日 エリスがまた明日と言った時 悲しげな顔をしたのは、次の日 エリスを置いて行くつもりだったから

かあさまは ハーメアは、エリスをダシにして ハルジオンを動かし、逃げ出す準備を進め 憎きハルジオンとの子であるエリスを見捨て逃げ出す腹づもりでエリスを表面上で可愛がっていたのだ

エリスは かあさまに微塵も愛されていなかった


「は…あぁ…」

脱力し 日記を取落すと同時に 手で顔を覆う…、かあさまだけはエリスの味方だと思っていた かあさまだけはエリスを愛してくれていると思っていた、なのに この真実はあんまりだ…エリスは 誰からも愛されてなかったんだ

次の瞬間に湧いてくるのは怒り 激しい怒り 憎しみ、かあさま…いやハーメアへの怒りだ、かあさまが死んだ頃からエリスの扱いは悪くなった 当然だ 逃げた女の面影を残すエリスをハルジオンが許せるはずもない

エリスの扱いが悪くなったのはかあさまと言う 守ってくれる人がいなくなったからだと当時は思っていたが、まさか ハーメアが原因だったとは、ハーメアだってそんなこと理解していただろうに それを無視してエリスを捨てたのだ

かあさまが生きていたと言うのに かけらも嬉しくない、代わりに沸くのはやはり怒り

怒りだ!燃えるような怒りがエリスを囃し立てる、エリスにあんな扱いを受けさせておきながら 産んでおきながら!のうのうと逃げ出して…なかったかのように扱って消えて、許せない

許せない 許せない!憎い!ハーメアが憎い、あの館での酷い扱い全てが勝手に産み勝手に捨てた 勝手に傷つけたハルジオンとハーメアのせいだと思うと憎しみに燃える心を止められない

……それから後の日記は 殆ど書かれていなかった、最後に書かれていたのは

『ハーメアは マレウスという国に向かった後、何処かへ消えた との情報を得た、コイツを連れて コイツを叩き連れてやる』

だった、多分 馬車で出かけたのは 大雨だと言うのに強行したのは アニクス山道という危険なルートを通って急いだのは、全てハーメア憎しの一心でハルジオンが焦っていたからだろう

そして、山道を踏み外し エリスとハルジオンは星惑いの森へ落ち…エリスはししょーに出会い エリスはエリスになった


「………………」

全て読み終え、気分が沈む…覚悟はしていたが 真実がそれを上回った、エリスは誰にも望まれず産まれ 誰からも祝福されず誰からも愛されていなかった事実に打ち拉がれる

と同時に思う、そうだ いつも言ってるじゃないか エリスはエリス、孤独の魔女の弟子エリス 誰の子供でもない…エリスはあの日星惑いの森で産まれたんだ、父親も 母親も…いない

そう思うと気分がすっと楽になった、うん エリスはししょーの弟子だ それ以上でも以下でもない ただそれだけの存在だ、うん そうだ

「クレアさん ありがとうございました」

日記を元の場所に戻し、そう呟くエリスの声は 思いのほか冷たいものだった、気分はこれ以上なく落ち着いてるというのに、なんでだろう

「ん、どういたしまして」

クレアさんは相変わらずこちらに目を向けない、だが …今はそれがありがたい 今エリスに誰かと話す余裕は…

「エリスちゃん、それに何が書いてあって エリスちゃんが何を思ったか知らないけどさ、もし 何か思い悩むようなことがあれば、一人で悩まず 誰かに言った方が楽になることもあるかもしれないわよ」

チラリと一瞬メロウリースさんの方を見ながらそう言ってくれるが、なんだろう メロウリースさんに相談しろということかな…いや違うか、誰でもいいから言ってみろということだ

でも、だとしても これは誰かに言えるようなことではない…うん、まぁ いつか 誰かに相談する日も来るかもしれないが、それは今じゃない

クレアさんにその場で一礼し 部屋を出る、とりあえず一人になりたかった 中庭でも倉庫の隅でもなんでもいいから誰にも見られない場所に行きたい…そこで少しだけ、休みたい…

今は…物を忘れられないこの頭が…とても煩わしい、今 エリスは全てを忘れたい…

…………………………………………

「よくぞ来てくださいました、我が友レグルス」

「お前は随分暇そうだな」

「どうぞ、お座りください」

友愛の魔女が居室 別名友愛の間に降り立つ、友愛の間 このアジメクという国が成立した時から存在する為、そこらの遺跡とは比べ物にならないほど長い年月ここに在り、壁は苔むし 床には魔女の力で花が咲き乱れる幻想的な空間となっている

そんな只中 目の前で優雅に紅茶を飲む我が友スピカに視線を送れば、私に座れと言わんばかりに虚空より椅子が現れる、こいつは相変わらず見栄っ張りなところがあるな…こういう『魔女らしい』演出が大好きなのだ

「それで、私の紅茶はあるのか?」

「ありません、貴女コーヒー派でしょう 今ハーマンに淹れさせていますので少しお待ちを、それまで 話を進めておきましょうか」

そう言いながらカップを置き、神妙な雰囲気を醸し出す いったいどんなすごい会話が始まるのだと普通ならば錯覚してしまいそうだが、コイツの話はいつも同じ 私という存在を世間に発表する時 どんな劇的な演出がいるか そんな感じだ

「それで、前回の話ですけど とりあえずレグルスさんが一人で紛争地帯に突っ込んで 紛争を終わらせて その時に名乗るって形でまとまったんでしたかね?」

「してないぞそんな話、何故私が勝手に戦争に行くことになってるんだ!?」

「あれ?そうでしたか?」

とぼけやがって、普通に言ったら絶対却下されるからと こういう小賢しい真似を挟み込むとは、そんな劇的な演出はいらんといつも言っているだろう

「お前が重大発表がありますといえば それだけで劇的演出になるし、それ以上にあんまり発表を引き伸ばすといざ発表する時には 既に周知の事実になってる可能性もあるぞ?」

少なくともオルクスの私兵は私の存在を知っていた、ならどこから私の存在が漏れていてもおかしくない、むしろ私は普通に街とか歩いてるんだ 国家の重大機密ならいざ知れず、街を歩き回る奴に秘密もクソもないだろう

「た 確かに、あまり引き伸ばさないほうがいいのは 私も同意します」

「だろう?、それにだ…もしこれが 『アジメクが秘密裏に魔女を匿って戦力にしてる』なんて噂が流れてみろ…、争乱の魔女アルクトゥルスや無双の魔女カノープス辺りがすっ飛んできてこの国滅ぼしにかかるぞ」

「うっ、魔女大国同盟の条約…『魔女同士は各国の力の均衡を守る過密に関係を持たぬこと』、確かカノープスさんが決めた条約でしたか、守る気はさらさらありませんが 破ったら破ったであの人怖いですしね…うん、なら早々に発表してしまいましょうか、残念です…みなさんを驚かせたかったのに」

それは残念だったな、愛想のないあいつらの事だ 私が見つかったと聞いても『ふーん』と返事するのが関の山だろう、いや カノープス辺りは喜んでくれるかな…アイツは私のことを親友と呼び慕ってくれていたしな うん期待してしまう

「はぁ、じゃあ 色々まとめて声明を出すのは一週間後くらいですかね」

露骨に残念そうにするな、いや…まぁ コイツはコイツなりに私のことを気遣ってくれいたのかも知れないし、もしかしたらそれは話の物種で 単に私と一緒にいたいだけだったのかも知れない

そう思うと…悪いことをしたな とは思う

「ふぅ、じゃあ今日のところは…」

「いや待て、スピカ…実は 今日はもう一つ話があるんだ」

「…話?レグルスさんの方から話とはまた珍しい、なんですか? やっぱり自分の国が欲しくなったから私を殺して国を奪おうって話ですか?」

「そんなわけあるか、そんなわけないから徐に杖を取り出すな魔力を滾らせるな!」

今更スピカのように国を治めるなんて真似が私にできるわけがない、私についてきてくれる人間なんて エリスとクレアの二人くらいだろう、それに 必死に国を治めているスピカからそれを取り上げようだなんて…そんなことすると思うか?私が

「違うなら、なんですか? …これは貴女の友人としての経験則なんですが、貴女が『話がある』と前置きを挟む時はいつも『面倒臭い』か『大事』のどちらかなんですよね」

「なんだそりゃ、違う…ただ もうすぐこのアジメクを発とうと思ってな」


「発つ?…発つって え?出てくってことですか?私の国を?」

「まぁ悪い言い方をすれば出て行くってことだね」

「な なんでですか!一体この国のどこが不満なんですか!」

慌てふためき立ち上がるスピカ、まぁまて 何もお前が不満だからというわけではない…

「発つって ムルク村に戻るのですか?いいじゃないですかここに住めば!」

「ムルク村にはまだ戻らん、他国へ行く このアジメクに来てから思ったことだが、エリスは経験を多く積むことで 急激に成長できる子だ、実際アジメクに来てからエリスは 初めて経験する事柄が多く そのおかげで一回り大きくなれた…だからこそ 一処に留まるよりも いろんな国を回り いろんな経験をさせたほうが、あの子の為になると考えたのだ」


何も 昨日今日思い立って決めたわけではない、そもそもムルク村を発つ時 エドウィンにしばらく帰るつもりはない と言ったのは、エリスの様子を見て旅をするかどうか決めるつもりだったんだ

そして結果は良好、エリスはこの街で大きく変わり 大きく成長した、そりゃあこの街に留まって デティと一緒に魔術の道を邁進すれば相応の魔術師になれるだろう

だがな、それじゃあダメなんだ 魔女の弟子に『相応』なんて半端は許されない、目指すは頂点 目指すは最強、魔女の弟子である以上 それくらい目指さなくてはならない

「行き先は…?」

「決めてない、だがなるべく多くのものを見たい だから魔女大国は全て回るつもりだ」

「全てって!ほとんど世界一周じゃないですか!」

ほとんども何も世界一周だ、私が計画しているエリスの武者修行の旅の内容は一つ

世界に跨る七つの魔女大国を順繰りに巡り、一つ一つの文化に触れ 多くを学ぶのだ

尋常じゃないくらいの時間がかかるだろう、十年か…そこくらいで帰って来られれば良い方と考えてすらいる、長い ひたすら長い旅だが 、それから帰還した時 エリスは今とは比べ物にならないほど強くなっているはずだ、魔術師としても人間としてもな


「…それエリスちゃんの許可は取ったんですか?」

「エリスは私が言えば嫌とは言わん」

「イヤな師匠ですね」

「お前よりマシだ」

「じゃあデティは?、エリスはデティとあれだけ仲がいいのに 引き離すのですか?」

「それは、… 話をするつもりだ」
エリスにできた初めての友達それを引き離すのは些か心苦しい…だが、友とは一緒にいた時間や距離の近さを言うのではない

……というのは、師のエゴだろうか…弟子が成長さえすれば良い、というのは 師の感情の押し付けでしかないのだろうか、いや でも私はエリスにもっと多くのことを知ってほしい

世界はこんなに広いのだと、世界にはもっと色んな事があるのだと…その為にはやはり、一度エリスはアジメクを出るべきだと思う

「はぁ、…分かりましたよ せっかく再会できたのに又すぐに旅に出てしまうのは寂しいですが、レグルスさんはそんな人ですからね、分かりましたよ…で? いつ出るんですか?」

「ん?、そうだな旅の支度が終わる頃合いだから、一、二週間後くらいかな…」

とりあえずスピカに貰った金を元手に馬車や食料を買って…、そういえば昔 八千年前旅した時はどうやって旅をしたんだったか…

「では、旅の支度は我々がやります、代わりに出発を三週間後に伸ばしてください…一つ頼みたいことがあるので」

「は?…なんだ」

スピカに目を向ければ、姿勢を正し 真面目な面持ちでこちらを見据えるスピカに、私も思わず襟元を正す、魔女としての真面目な話…いや 要請といっても良い程だ

「ええ、レグルスさんが旅をする という事なので一つお願いを…実は最近 軍事国家アルクカースで不穏な動きがある との報告を貰っていましてね」

軍事国家アルクカース、アジメクの隣に位置する魔女大国であり争乱の魔女 アルクトゥルスが統べる国だ

アルクトゥルスの苛烈極まる性格と好戦的な性質が反映された大国を簡単に言い表すなら『勝ち負けに関わらず戦争大好き 殴り合うのはもっと好き』そんな国だ、男も女も子供も老人もみんな平然と殴り合い 戦いがあれば街人全員で堪能しに行く そんな恐ろしい戦闘民族国家なのだ

かつてより周辺諸国と戦争したり内紛やったりと騒がしい国だったが、最近ではその切っ先はアジメク…つまり かつての仲間にも向けられ始めているという、魔女の暴走が目立つ国だ

「アルクカースの様子がおかしい?、確か以前もアジメクに戦争仕掛けようと手を回して来たんだったな…まさか こちらに攻めてこようとしてるのか!?」

だとするなら大変だ、魔女大国同士が戦えばどんな被害が起こるか分からない…確かに戦力差ではアジメクは大きく劣っているがその分治癒魔術が発達している 、化け物国家アルクカース相手に持久戦に持ち込める程に この国はタフだ

戦争は長引くだろう、せっかく魔女が復活させたこの秩序を破壊し尽くす程に 続くだろう…、もし戦争が起きれば 大変なことになる

「いえ、狙っているのはアジメクではありません、狙っているのはアルクカースのもう一つの隣国…デルセクト国家同盟群です」

「次はフォーマルハウトを狙ってるのか…!」

デルセクト国家同盟群 、地理的にはアルクカースの更に向こう側に存在する魔女国家で、およそ数十強の国家が魔女の元に寄り集まり、圧倒的経済力を持つと言われる 世界一金持ちな国であり、最も高貴な魔女 栄光の魔女フォーマルハウトが統べる国だ

デルセクトは新型の兵器をいくつも開発していると聞く…何を作っているかまでは知らんが、こことアルクカースが戦えば どのみちタダでは済まんだろう

「今…この問題を放置すれば、いずれアルクカースとデルセクトは大戦争を巻き起こすでしょう、そうなれば 世界は未曾有の危機へと陥り 我々の作り出した秩序は泡と消えることになる…」

「だろうな、どっちも国としては破格のデカさと強さだ…それがぶつかり合えばそれこそ 災厄の再来と言えるかもしれん」

「ええ、なので…レグルスさん 旅に行くなら序でにアルクカースに赴いて アルクトゥルスさんに戦争やめるように言ってきてください」

「い 言ってきてくださいって…、お前 前に私がアルクトゥルスに接触するの止めたよな、無闇に刺激するなって」

「刺激すればアルクトゥルスが何をするか分からないからです、でも状況が変わりました…今のままでは放っておいても戦争は起きます、なら行動しない手は無いでしょう」

そりゃあそうだが、いやまぁエリスとの旅ではアルクカースにも立ち寄るつもりだった…だがもし私が接触して 説得にでも失敗して戦争のトリガーを引いてしまったらと思うと、少々怖いのだ

何より頭に血が上ったアルクトゥルスは人の話など受け入れない

「スピカ…アイツは言って止まるようなやつじゃ無いぞ」

「分かってますよそんなの事、でも 私には打つ手がないのです…この報告を貰っても 私には何もできなかった、大国を持つ私が無理に解決に動けば、今度はアジメクがターゲットになる…それだけは絶対に避けなければならない」

「それは、うん そうだな」

「そこに、貴女の旅が重なったのです…出来れば巻き込みたくなかった と言えば建前となるでしょう、正直絶好のタイミングでの提案でした…私では止められない、いえ もしかしたらアルクトゥルスを止められるのは 国を持たぬ唯一の魔女であるレグルスさんを於いて他にいないと言えます」

「……………………」

「友として 魔女として、お願いします…アルクトゥルスを止めて 私の国と私たちが守った秩序を守ってください」

頭を下げるスピカを見て ふと、目を閉じ思い出す アルクトゥルスの顔をだ

確かにアイツは好戦的だったが、昔は仲間にまで襲いかかるような野獣じゃなかった…それが 八千年という時を経て 変質し、もはや理性のかけらもない存在に成り果ててしまっているのかも知れない

…止められる自信ははっきり言ってない、口で止められる自信はもちろん 力づくで止める自信もないんだ、正直に言おう こと殴り合いに於いて私はアルクトゥルスという女に勝ったことがない、魔術を遠距離からブチ込みまくっても五分五分の戦いになる…そもそも私とアルクトゥルスがぶつかり合った時点で相当な被害が出るだろうしな


だけど見てみろ、今 目の前で友が頭を下げている 見える位置で友が過ちを犯そうとしている、見えるところで友が危機に迫られている…なら であるならば

止めねばなるまい、それが友の責務だ


「分かった、旅のついででいいなら あの筋肉バカに一発拳骨入れておくよ」

「…ありがとうございます」

故に引き受けた、安請け合いかも知れない けど…なに、どのみち旅に出ることは変わりないし 行き先と寄り道の先が決まっただけ、本筋に大きな影響はない

私とエリスはこれからアルクカースに向かう、そこで エリスはまた多くの発見と成長をするだろう、様々な国の様々な文化に触れて 人としてまた一段階大きくなる…そんな未来を信じて、私は再び 旅に出る

今度の目的は世界一周 、この旅で果てしない世界の全てを余さずエリスに見せるんだ
序でに、他の魔女達に挨拶をして回ろうじゃないか

…………………………………………………………………………

「エリス~?おーい、エリス~」

なんてスピカと旅の計画を軽く詰めた後 今日はもう御開きとなった

世界を一周回る壮大な旅だ、準備期間は三週間でも短いすぎるくらいだが、一応体裁としてはアルクトゥルスを止めるという任務もくっついているため アジメクも準備に全力で協力してくれるらしい

資金援助や移動用の馬車の確保、その他諸々の物資も全部向こうが用意してくれることとなった

ルート決めやなんやかんやはまた後日決めるとしてだ…取り敢えずエリスと合流しようと城の中を歩いているのだが

見つからん、今まで私が一声かければ すぐにすっ飛んできてししょー ししょーと駆け寄ってくるのだが、何かあったのか?…思えばエリスに単独行動をさせて無事だった試しがない、目を離すと基本戦ってる 特にレオナヒルドと

まさかまたレオナヒルドとどっかで戦ってるんじゃなかろうか!?


なんて心配は 杞憂に終わった、ちょっと探し回ったら見つかったのだ

どこでだ?中庭でだ…ボーッと空を見ながら 黄昏ていた…いや考え事か、雰囲気的に楽しげではなさそうだが…まぁいい


「エリス、ここにいたか」

「ししょー…?すみません、気付きませんでした…」

エリスは こちらに顔を向けず、相変わらず空を見ている こんな態度は初めてだな…置いていったことに怒ってる ってわけでもなさそうだ

「何かあったのか?」

「いえ、何もありませんでした」

あったなこれは、エリスは無意味にこんな雰囲気を醸し出す子ではない

そして、本当に何かを抱え込んだ時には私に隠そうとすることも知っている、無理に暴き立ててもいいが…

「エリス、それは私に話せない事か?」

「…ししょーはなんでもお見通しですね、そうですね 今は話したくないです」

そうか、いやそうかそうか うん ちょっとショックだがエリスも一人の人間、話したくないことの一つ二つ 出来ていてもおかしくはない、私だってエリスに言いたくない事 言っていない事だらけだ

例えば、そうだなエリスの母親 ハーメアの事だ、私はオルクスからエリスの母親の名を聞いた…エリスが生まれた場所のことも知っている だがそれを話してはいない、終ぞ父親が誰かも分からなかったし 母親の墓もまだ見つかってないが、…どうしよう エリスと過去のことを話すか?

聞けばエリスはかつての主人ハルジオンの館で戦ったというが、エリスは過去のことをどこまで把握しているんだろうか、今からハルジオンの館へ赴き エリスとエリスの過去についてしっかり話とかするべきか?

だがなんだか分からないが話したくないんだ、だから今日に至るまでその話は出来ていない…、エリスと過去のことを話せば エリスが私から離れてしまう気がしたから…

きっと母が恋しくなって ここに住むとか言ってしまうのだろう…、それは なんだか嫌だ、私はもうエリスを手放したくない 私の手で私の弟子として 育て上げたい、そんなわがままな欲求にエリスを付き合わせてしまっているのが現状だ

…思考が逸れたな、ともあれ 師弟であれ 言いたくないことは踏み込まない、それがいい

「ししょー…」

「ん?なんだエリス」

するとエリスがようやくこちらを向いて私の目をジッと見つめてくる、神妙…いや鬼気迫る面持ちだ、エリスにこんな目を向けられたことは未だ嘗てなかった為 少々たじろぐ

そして悟る、この目…昔の私とそっくりだ、余裕がなかった頃の私 そして…師に絶対の信頼と盲信的なまでの愛を抱いていた頃の私とそっくりだ

「ししょー…いえ、レグルス師匠 エリスは…レグルス師匠の弟子 エリスです、それ以外の何者でもありません」

「どうした 急に」

「…再確認しておきたいんです、エリスが何者なのか エリスはなんなのか、…エリスはエリスなんです 他の…誰でもありません」

エリスが何を言いたいのか なんでこんなこと急に言いだしたのか、正直言えばよく分からんが…よく分からんが、気持ちはなんとなくわかる

私も昔、似たようなことを仲間に言った覚えがある…あの時はなんで言ったんだったか、確か 私の出自について少し揉めたんだ…私の中に流れるこの血が 危険か否か、そんな話だった気がする

その時私は縋り付くように 私はレグルスだそれ以外の誰でもないし何でもないと 仲間達に言い放った気がする

…かつての私と同じだろう、今エリスは 私の弟子という立場に固執し縋り付いているのだ、そうしなければ きっと立っていられないのだろう

何故そんなに状況になったのか分からないが、私にできることは一つ

「そうだ、お前は我が無二の愛弟子 …孤独の魔女レグルスの弟子エリスだ、それ以外の名は無い…そうだな?」

肯定してやることだ、固執してもいいし縋り付いてもいい…結局のところ自分を確立して立ち続けることが出来るのなら何に頼ってもいいのだ、強がって一人で立とうとしても倒れて起き上がれなくなるのが目に見えている

「…………」

ただ 抱きしめないし頭も撫でない、この子は我が子では無い 弟子なのだ…求めているのはきっと愛では無い 互いを繋ぐ全幅の信頼、今この子が欲しているのはきっとそれだけだ

「…ありがとうございます師匠、一生ついていきます」

「ああ、好きにしなさい」

かしこまって頭を下げるエリスを見下ろし、なんとなく思う…多分 今この瞬間を以ってしてエリスは『魔女の弟子』から本当の意味で『レグルスの弟子』になったのかもしれないと、心持ちを新たにし

うまく言い表せないが 、纏う雰囲気の変化を漠然と感じる


「エリス、早速だが 話がある」

「なんでしょうか師匠!エリスはどんな話でも聞きます!」

そう言って顔を上げるエリスの顔は、またいつもの可愛らしい笑顔に戻っていた…うんうん私はそっちの顔の方が好きだぞ?エリス

「実はな、もうすぐアジメクを発ち旅に出ようと思う 、世界をぐるりと回る武者修行だ」

「世界を…ぐるりって 一周回るんですか!?でで 出来るんですか」

「出来るさ、世界は全て繋がっている 行って行けない場所はない、お前に多くの国を見せてやりたい 、各地でいろんな環境で修行し 魔術を極めさせるつもりだ…それでその、いいか?それでも」

いいのかとは ついてきてくれるのか?という意味だ、我ながら卑怯な問いだと思う、だって断りようがないもん、ただエリスが渋るようなら この話もう少し考えるつもりだ、下手すれば旅の話もなしだ、そうなればアルクトゥルスの一件は、私一人で解決しよう

するとエリスはムッと顔をしかめて

「さっき言ったではないですか、エリスは師匠の弟子です 何処へでもどこまででもついていきますし、師匠が言うならなんでも聞きます 、師匠が言うなら世界一周だろうが百周だろうがどこまでも行きます、しかもそれがエリスの修行のためなら尚更です」

その顔には 心外 の二文字が大きく刻まれている、そうだったな さっき思い切り表明したばかりじゃないか、弟子を疑うのは良くないな しかし

「デティフローアと別れることになるぞ、世界は広い 次ここに戻ってくるのは十年後になるかもしれん」

「一時の話です、また会えるなら その時お互いの成長を讃え合えば良いのです!」

その通りだ、少なくとも私は他の魔女 我らが友人達に同じく思っている、会えないからといって友で無くなるわけじゃなし、離れたのなら次会った時 肩を叩き合えばいい、と私は思っていたが…そうか エリスも同じ心算だったか

「というか師匠って 自分から提案しておきながら脅したりしますよね、エリスが弟子になる時も誘っておきながら脅してましたし…もう少し エリスを信用して欲しいです」

「むぅ、す すまん…」

「エリスはデティの友人である前に魔女レグルスの弟子ですし、デティもエリスの友人である以上にスピカ様の弟子です 、師の修行は 何よりも優先されます…それはデティだって同じですから、きっと分かってくれます」

そうか、ならこれ以上脅かすのは逆にエリスの怒りを買いそうだ…エリスが弟子としての心持ちを新たにしたのなら、私もまた 師として今一度姿勢を正さねばならんのかもしれないな

「よし、ならエリス!今より三週間後 我らは旅に出る…世界を跨ぐ果てしない旅だ、次ここに帰って来るときは 世界のあらゆる物を経験し、今よりも一回り大きく 強く 立派になって戻って来るぞ?いいな!」

「はい!師匠!」

エリスの威勢のいい返事が木霊する、その声には微塵の迷いもない 世界を前にしても一切の躊躇なくついてきてくれる 私はいい弟子を持った
このエリスの気勢に応えるためにも、この旅でエリスを一人前にするくらいの気概で挑むとしよう

向かうはアルクカース、我が友アルクトゥルスの膝元…今度は アジメクのように歓迎される道行ではないだろうが、その覚悟を今一度 エリスに問う必要はなさそうだとその顔つきを見て悟る…

これなら問題なさそうだ



「ところで師匠?、その世界一周の武者修行…道中に『マレウス』という国へは行きますか?」

「マレウス?…聞いたことない国だな、いや 確か非魔女国家の中にそんな国があったな、私の記憶が正しければ巨大運河を渡る為の船が出てる街だったはずだ、…多分寄ることになるが どうしてだ?」

「…いえ!、なんでもありません!」

…うーん、いや やはり…私の知らないところで何かあったなこれは、この一件も 長引くようなら旅の道中聞くとしよう
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