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22話 キス

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「な、なんで……」
「分からないの!?  お母さんバカなの!?  そんなのお母さんがお姉ちゃんの事いじめるからじゃない!」

 僕にうつ伏せに押さえつけられたままでクソ女はそう聞いてくる。果たして何に対しての『なんで』なのかが分からないので無視していると、さっきまでベッドに座っていた少女が泣きながら立ち上がってそう叫ぶ。やっぱりこの子が藤宮さんの妹さんみたいだね。そして僕に助けを求めてきた子。

 実はさっきファーストフード店で藤宮さんからのメッセージを見てる時、一通だけ知らないアカウントからのメッセージがあったんだよね。その内容は『お母さんに虐められている伊月お姉ちゃんを助けて。私、なんでもするから』ってものだったんだ。
 そんな事言われたら助けるしかないよね。

 だって──
』って言われたんだもの!

 さて、そのなんでもしてくれる子はどんな子なのかをじっくり見てみよう。
 んー?  見た感じ中学生くらいかな?   ギャルに憧れてるけどギャルになりきれてない感じが中途半端で可愛いね。なぜならまだこれからギャルにも清楚にもなれる可能性を秘めているからね。きっとこれから出会う男の趣味に染められて行くんだろうなぁって思うとゾクゾクする。
 だけど藤宮さんの妹って割にはあまり似てないかな?  顔と……あと胸。藤宮さんは特盛だけど妹さんは僅かに膨らんでる程度。いや、僕的に大きさは問題じゃないんだけどね。女の子の胸っていうだけでそれはそれは価値のあるものだからね。そこに優劣を付けてはいけない。絶対に。

「私、お姉ちゃんの事嫌いだなんて言ったことある!?   勝手に決めつけないで!  本当はお姉ちゃんが出来て嬉しかったし、お姉ちゃんの事大好きなんだよ!?   それなのにお母さんがお姉ちゃんの事を無視することを私とお義父さんに強要してきたんじゃない!  ホントは……ホントは凄く辛かったんだから!」

 ん?   あれ?    まだ続いてたの?

「ゆ、雪菜……そうだった……の?」

 そんな声と一緒にクローゼットが開き、そこから藤宮さんが出てきた。
 顔は泣き顔でぐしゃぐしゃに。それでもまだ溢れてくる涙が頬を伝っている。

「そう……だよぉ……。だって嬉しかったんだもん。お姉ちゃん欲しかったんだもん。だからこんなに可愛くて優しいお姉ちゃんがいるんだ!  ってホントは自慢したかったんだもん。なのに……」
「雪菜……ゆきなぁぁぁぁっ!」
「お姉ちゃぁぁぁぁん!」
「「ふえぇぇぇぇん!!」」

 泣きながら抱きしめ合う姉妹。なんて美しいんだ。そしてなんで僕はそんな状況でクソ女を押さえつけてないといけないんだっけ?
 うん。もう離してもいっか。目が死んでるし。

「ふう」

 僕は捻っていた腕を離すとスマホの画面を見る。
 そこには通話中の表示が出ていて、相手は天気予報サービス。なるほど。明日は雨なんだね。傘を忘れたフリをして下駄箱で立ってたら美少女が「一緒に……入ってく?」って言ってくれるかな?

「拓真くん……拓真くんもありがとう……。拓真くんのおかげで雪菜がボクのことをホントは好きでいてくれたのわかったよぉ……。で、でもなんで?  ボク、このこと誰にも言ったことないのに……」

 ん?   姉妹百合タイムは終わったの?

「お礼なら妹さんにね。僕がこうして突入できたのも妹さんのおかげだからね」
「……え?  雪菜が?」

 そこで藤宮さんは再び妹さんを見る。すると妹さんは気まずそうに目を伏せながらボソボソと語り出した。

「あ、あのね?  実はお姉ちゃんが寝てる時に勝手にスマホ見ちゃったの。寝ながら『ありがとう拓真くん』って言ってたから、お姉ちゃんにもやっと頼れる友達が出来たのかと思って……。そんな人なら私が出来ない事出来るかな?  お姉ちゃんを助けてくれるかな?  って……。それでこっそりID見て、私のスマホでメッセージ送ったの」
「そうだったんだ……」

 そうだったんだね。なんで僕のIDを知ってるのか不思議だったけど、そういうことだったのか。

「でも、そんないきなりのお願いでも助けてくれたんだもん。やっぱり拓真くんにもありがとうだよ……」
「うん。私の方からもありがとうございます。ホントに助けてくれるなんて思って無かったから……ホントに……。これからもお姉ちゃんの友達でいてくれますか?」

 友達……。う~ん?   友達?  確かにさっきは友達って言ったけど、まだそこまででは無いような?  けどまぁいっか。凄くウルウルとした目で見てくるし、ここで「友達じゃないよ」っていうのはね。僕は空気を読める男だから。

「うん。いいよ」
「良かった。あ、そうだ。お礼しないと。あ、あの!  メッセージで送った通りになんでもします。どんな事でも。その……拓真さんになら私、なんでもできちゃうと思いますから……。だから好きな事言ってください!」
「いいよいいよ」
「でも、それじゃあ!」
「もう貰ってるからね」
「えっ!?」

 そう。実はもうこの部屋に入った時にお礼は貰ってるんだよね。だってさ?  妹さんスカートで無防備に体育座りしてたんだよ?   そうするとさ、見えるよね?  パンツ。ムチッとした太ももに挟まれたパンツがさ。しかも中学生なのに薄紫のレースだよ?  これ以上を望んだらバチが当たるよね。

「も、もしかしてこうして私達が仲良くなれたことが報酬だってことですか?  そんな……そんなこと言われたたら……。どうしよう。私、拓真さんのこと……」

 ん?   何を言ってるの?  僕そんなこと一言も言ってないんだけど。耳大丈夫?  

「た、拓真くん!  ボクも!  ボクからも何かお礼させてよ! お金あげる!」
「いらない」

 だからすぐにお金でなんとかしようとするの辞めようよ。

「じゃあ……そうだ。ブラあげる!   あと……パンツも!  男の子だもん、好きだよね!?」
「いらない」

 好きだけどいらない。そんなの貰ってどうしたらいいの?   僕に社会的に死ねって言ってるの?  もし持ってるのが母さんにバレたりなんかした日にはバックドロップからの後ろ回し蹴りで首から上が吹き飛んじゃうよ。
 なによりも下着単体が好きなんじゃなくて、身につけてる姿が好きなんだ。下着じゃなくて下着姿が好きなんだ。

「そんな……ならボクはどうしたらいいの?  こんなに嬉しいのになにも出来ないなんて……」
「じゃあこれからも仲良くしてよ。僕、友達少ないから」
「う。うん!  する!  する!」

 ……?   なんだろう。今の『仲良く』が妙に恐ろしく感じたのは。気のせい……だよね?  仲良くするなんて普通に話したりする程度だもんね。何も恐れることはないもんね。うん。

「じゃあ僕は帰るね。そこの干からびた蛇みたいな人のことは家族でなんとかしてね」
「うん。ボク頑張る!  だって今は雪菜も一緒だもん!」
「はい。お姉ちゃんのことはもう絶対に虐めさせません!  お姉ちゃん、お部屋半分こしよーね?」
「うんっ!」

 うん。なんかよく分からないけど多分パンツ分のお願いは叶えられたよね。帰ろう帰ろう。

「あ、待って!」

 部屋から出ようと二人に背中を向けるとすぐに呼び止める声。振り返るとすぐそこに藤宮さんの顔があった。

「拓真くん……」

 そして僕の右頬に近付いてくる目を閉じた藤宮さんの顔。

 ちいぃっ!!

 僕は某ロボットアニメの仮面パイロットの如くソレを避ける。

「んむっ……」
「んん!?」

 ……え?   どういうこと?   
 確かに避けたはずなのになんで目の前に顔があるの?  まさか質量を持った残像?   そしてこの唇に伝わる感触は……

「ん……ちゅ……ぷぁ……。拓真さぁん……」
「へ?   え?   なんで?」
「だってぇ……ほっぺにお礼のちゅうしようとしたらこっち向くんですもぉん……嬉しかったですけどぉ……」

 なぜ頬を赤らめてるの?  なぜ唇を指で撫でるの?  なぜ瞳がそんなに潤んでいるの?  なぜ?  なぜ?

「ファーストキス、あげちゃったぁ……」

 僕もなんですけどね!?   僕のファーストキスが中学生に奪われたんですけど?

「あっ!  あ、あーーーーーっ!!    あーーーーーーっ!!!」

 ちょっと藤宮さんうるさいから黙って。


 ◇◇◇


 と、いうわけでこれが事の顛末。
 ちなみにあのクソ女が藤宮さんを虐めた理由は、亡くなった元奥さんに藤宮さんがソックリだった為、旦那さんが元奥さんとの事を思い出して自分の事を嫌いになるんじゃないかと不安になったからという愛するが故の行動だったみたい。
 つまり連れ子同士の再婚だったって訳だね。

 妹さんの雪菜ちゃんから届いたメッセージによると、あの後クソ女は藤宮さんにちゃんと謝り、ホントの事情を知ったお父さんも寛大すぎる心で受け止めて家族仲はだんだん良好になっているみたい。それなんてドラマ?  って言いたくなったけど言わないでおくね。

 そして今は新しい問題が発生してるんだ。しかも僕を巻き込んで。それはコレ。僕のスマホを見ればわかる。画面に表示された新着通知69件。
 この全てが藤宮姉妹からの物なんだ。内訳すると藤宮さんから37件。雪菜ちゃんから32件。

 ……ねえ、義理の姉妹って嘘でしょ。やること同じなんだけど。ねぇ。


 ────ポコン!
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