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21話 お姉ちゃんを助けて…

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 昨日の買い物の付き添いのお礼という要件を済まして帰っていった日高姉妹。

「これからどうしようかな。今からまたぐうたらするって気分でもないんだよね」

 ふと時計を見るとお昼前。そうだ。今日のお昼は久しぶりに外で食べよう。
 そうと決まれば行動は早い。
 まずは父さんの部屋に行ってエロ本の間に挟まっている封筒から諭吉さんを一枚抜き取る。その代わりに手紙を一枚。『無理矢理系はどうかと思うよ?  あ、母さんには言わないでおくからね』って書いた。
 その後は自分の部屋に行って財布とスマホをポケットに入れる。通知が26件だったけど今は見ない。お腹を満たして心の準備をしないとね。
 そして戸締りを確認して街に向かって歩き出す。

 どこで食べようかな?


「いらっしゃいませ~」

 やってきたのは街中のビルの二階にあるファーストフード店。しばらく来てなかったけどここの制服可愛いんだよね。店員もみんな可愛い子ばかりだし。いつかその可愛い店員さんが照れ顔で「あの……コレ」って言いながら連絡先を渡してくれるのを期待してるんだけど、全然そんな事がないんだ。不思議だね。

 さてと、混んでないみたいだからどの店員さんの所に行こうかな?  今日は三人いるけど、右から妖艶なお姉さん、ロリお姉さん、ギャル。
 う~ん……悩む。どのタイプも捨て難い。だけどここは敢えてのギャルにしよう。見た目だけギャルで実は照れ屋な女の子だったりするとグッと来るもんね。笑顔を頼んでどんな顔するかが楽しみ。

「西園寺《さいおんじ》さーん!   休憩入っちゃって。代わりに藤宮さん入れるから」
「はい。かしこまりました。藤宮さん、あとお願い致しますね」

 なんということでしょう。ギャルの中身は大和撫子だったのです。たまりません。屈服させたくなるね。

「いらっしゃいま……た、拓真くん……やほ」

 そしてギャルの代わりに僕の前に立ったのは一番上のボタンが留められない程にお胸の大きな女の子。そう、藤宮さんだ。
 注文しようとした時に入れ替わったから他の場所にはいけない。まぁいっか。

「藤宮さんここでバイトしてたんだね」
「うん。ここの制服可愛いくてボク好きなんだ」

 その可愛い制服が今にもはち切れそうだけどね。

「うん。確かに可愛いよね。あ、注文いいかな?」
「あ、そうだったね。──いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
「スマイル」
「……え?」
「スマイル」
「え、えっと……」

 昨日は僕のロンギヌスの槍を見られたからちょっとした仕返しだよ。

「冗談だよ藤宮さん。それで注文なんだけど、イートインでこのセットをお願い」
「え、あ……」

 若干テンパりながらも操作をする藤宮さん。会計が終わってレシートを受け取り、適当な席に行こうとした時、

「た、拓真くん!」
「うん?」
「……(ニコッ)」

 藤宮さんは突然僕を呼び止め、首を小さくコテっと倒しながら微笑んだんだ。

「っ!?」
「こ、これでイイ……かな?」
「あ、うん……」
「じゃあ、出来次第持って行くね」

 そう言って手際良くトレーに色んなものを乗せていく。慣れているのか動きは素早いや。胸も揺れているね。
 それにしても……さっきの笑顔はビックリしたなぁ。あんなに可愛いんだから二次元に拘らなくても彼氏出来そうなのにな。ま、僕には関係ないか。


 窓の外を通風口の上を歩く女の子のスカートがめくれないかな?  って思いながら眺めていると、僕の頼んだバーガーセットが目の前に置かれた。
 横を見ると胸。上を見ると藤宮さんの顔があった。

「お待たせしました。ご注文の品です」
「ありがと」
「ごゆっくり♪   あと……あ、あのね?   ボク、もう少しでバイト終わるんだけど、良かったら待ってて貰えたり……する?」
「しないよ。帰るから」
「そ、そっかぁ……」

 肩を落としながら戻っていく藤宮さん。ごめんね。あのメッセージ乱舞を見たあとだとさすがに怖いんだよ。
 あ、そういえばまだ見てないメッセージがあったや。今ならバイト中だから既読付けてもすぐに反応してこないよね。えっと……

「…………ちっ」

 藤宮さん、確かもう少しで終わるって言ってたよね。ここからなら入口見えるし、従業員用通路も無さそうだからここで待ってれば見えるか。


「お疲れ様でしたー。お先に失礼します」

 そんな声が聞こえた方に顔を向けると、おじぎをしている藤宮さんの姿。顔色はどこか暗く、さっき知らない相手から届いたメッセージの通りならそれが原因だろうね。
 はぁ、本当はこういうことはしたくないんだけどなぁ……。

「藤宮さん」
「っ!?    え、拓真くん?   どうして?」
「さっきもう少しで終わるって言ってたでしょ?  だから待ってたんだ」
「あ……ありがと……。嬉しい……」

 それから店を出た僕達は本屋に行き、近くのクレープ屋で二つクレープを買うと近くのベンチで食べた。何故か藤宮さんは頑なに買おうとせず、奢ると言っても「怒られる……」って言いながら拒否してきたので、「食べないなら店員の目の前で舌打ちしながら地面に叩き付けて来る」って言ったらやっと観念して食べてくれた。
 目尻に涙を浮かべながら凄く美味しそうに食べてくれたから奢ったかいがあったね。


「じゃあ行こっか」
「え?   どこに?」
「藤宮さんの家に。送っていくよ」
「いい……の?」
「もちろん」

 ──さて、どうなるかな。

「ここがボクの……えと……家?  だよ。ありがとね?   クレープもおいしかったなぁ。ほんとにありがとね!」
「大したことしてないよ」
「そんなことないっ!  あ……ごめん。なんでもないの。じゃあここで。今お礼のお金渡すね」

 そう言って財布を出す藤宮さん。イラつくなぁ。
 お金で何とかなるのはゲームだけだよ。

「お金いらないよ」
「え?  でも……」
「いいからいいから。それよりも中入らないの?  鍵は?」
「あ……鍵は……大丈夫だよ?  うん、大丈夫。大丈夫」

 少し顔が青ざめてきてるね。

「もしかして忘れてきたとか?  中に家の人は?」
「だ、大丈夫!  大丈夫だから」

 藤宮さんはさっきから大丈夫しか言わない。何が大丈夫なのかも言わない。鍵があるのかも、家に人がいるのかも。きっとそれは大丈夫じゃないから。だから僕はこうする。

 ピンポーン

「あぁっ!   た、拓真くん!?」

 僕はインターホンを押してカメラに映る範囲から離れた。

『はい。って誰かと思ったら……はぁ』

 インターホンから女の人の声がする。きっとお母さんかな。隣を見ると藤宮さんの肩は震えている。
 ……これはお母さんなんかじゃないね。

「あ、あの……た、ただいま。えっと……鍵を開けてくれませんか?」
『…………』
「おねがいします」
『…………はぁ』

 そんなため息の後、ガチャっと鍵の開く音。
 藤宮さんは僕の方を見ようとはしないで小さく「バイバイ」と行って中に入っていこうとする。だけどゴメンね。ここでそのまま帰らせるわけにはいかんないんだよね。だって──

 お姉ちゃんを助けてって頼まれたんだから。

「お邪魔しまーす!」
「へっ!?」
「ちょっと、あなた、誰?」
「僕ですか?   僕ですよね。僕は伊月さんの友人です。友人より5ミリくらい上かも知れないですけど。友達ですから遊びに来たんです。ねぇ伊月さん、伊月さんの部屋はどこ?   そこで遊ぼっか。あ、お母さん……ですよね?  遅ればせながら初めまして。赤坂拓真です。飲み物とかは結構ですので」
「え?   え?   た、拓真くん!?」
「は……はぁ?」

 藤宮さんとクソ女が呆然としている内に靴を脱いで中に上がる。部屋の場所は既に聞いてるからね。

「あ、ここかな?   妹さんと同じ部屋なんだね。失礼しまーす」

 部屋の中に入ると一人の少女がベッドの上で膝を抱えて座って僕を見てくる。一瞬だけ表情が変わったけど、すぐに興味無さそうな顔になってそっぽを向いた。

「ま、待って!   拓真くん!   お願い!」

 待ちませーん。

「あれれ~?  おかしいな~?  ベッドも机も一つずつしか無いよ~?   あれ?  クローゼットの中にランプ?  なんでだろ」
「!!??    だめっ!   そこはホントに!」

 叫ぶ藤宮さんを無視してクローゼットを開ける。するとそこにあったのは卓上ランプと長座布団と怜央きゅん掛け布団に充電器。上には数着の私服と制服が吊り下げられ、角には下着が隠されることも仕舞われることも無く、そのままで置かれていた。

「…………」
「だ、だめ……見ないで……お願い。見ないで……」

 藤宮さんは泣きながらその全てを隠そうとするけど、それは無理な話だよね。隠せるわけが無い。

 そしてクソ女も部屋に入ってくるなり僕の肩を掴んで引っ張るとクローゼットの扉を閉めた。それも藤宮さんごとだ。

「あなた、勝手に家に入ってきて何してるの?  警察呼ぶわよ」
「いいよ。呼んで」
「はぁ?   いいから出ていきなさい!」
「呼ばないの?   なら僕が呼ぶから」

 そう言ってポケットからスマホを取り出す。するとクソ女はいきなり僕のスマホに向かって手をのばしてきたから、その手首を捻って床に押し付けてやった。

「いたいっ!」
「ねぇおばさん。おばさんが伊月さんにしてる事、コレってなんて言うと思う?  わからないはずないよね?   ねぇどうしよっか?  あ、そうそう。僕の母の名刺渡しておきますね」
「はぁ!?   このクソガキ何を言って……っ!?」

 僕は財布に入れて置いた母さんの名刺を出してクソ女の目に見える場所に置いた。その途端に青ざめていく姿が見える。

 それを確認してから僕は耳元で小さく呟いた。

「生きてるってそれだけで素晴らしい事ですよね?」

 ってね。
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