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海賊

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「クラッチロウ、やっぱりキレてしまいましたね」

「お言葉ですがスペンサー様、あれはキレたのではありません」

 コホンと咳ばらいをする。

 馬車に戻って早速お説教をされているが、今回は珍しく反論しているぞ。

「あれがキレてないって言い訳できんやろ?」

「フッ。渋滞の先頭にいる者は自分のことしか考えていない。だから俺は抹殺すると宣言した」

「なんであんな者に蹴りを喰らわす」

「俺、マーベリック・クラッチロウは粛清しようと言うのだよ、ルーチェ」

「エゴだよ、それは!」

 何のやり取りだ。逆襲のクラッチか?

「ですからあれはキレてやったのではないのです。悪者を粛清したのですから称えられても良いくらいです」

 ため息をつくスペンサーだったが、粛清ということで落ち着いた。

「フハハ! どうだ! 俺のやったことは正しかったんだ!」

「声大きいわ。それよりアンタ途中から空気になってたで」

 ぐぬぬと言いたそうな顔をしたがその通りだった。

「ミゼルが珍しく煽ってたよな。邪魔して相手の神経を逆なでるのは毎度のことだけど」

「私、嫌いなの。海賊」

「そう言えば海賊がどうとか言ってたな、あいつ等。誰かさんが自己紹介最後まで聞かずに失神させてたけど。俺も嫌いだな、海賊とかの賊は」

 一斉にみんなの視線がクラッチロウに向けられ、申し訳なさそうに下を向く。

「市民の強奪するし、風呂入らないし不潔だから嫌い!」

「まぁ海賊が好きっていう普通の人はいないわな」

「それに……」

 ミゼルは神妙な顔つきでカイトの方を見た。

 少しの間をおいてカイトは口を開く。

「僕の両親は海賊に殺されたんだ……」

 一瞬で馬車の中の空気が重たくなる。

 こんな時、誰もが次の一言に気を使い合ってなかなか沈黙が続くものなのだが。

「どういうことだってばよぉ!」

 空気を読めない男が一人いたようだ。カイトの心の中を覗こうとするなよという止める気持ちと、理由を知りたい気持ちが半々で拮抗していた。

「僕の父さんは軍で海賊の撲滅部隊に所属していたんだ。海賊に顔を覚えていられたんだろうって。休日に三人で買い物に出掛けているところに海賊がまた強奪しているところに遭遇してしまって」

 少し薄暗くなってきた外に目をやる。思い出したくもない過去を口に出すのはいつまで経っても非情なことだ。

「軍が到着する頃には逃げた後が多いのが悔やまれていた父さんは、一人でも多く捕らえるために時間を稼いだのだけど、対した武器も無く海賊の恨みを買っていた父さんは海賊に殺された。そして母さんも」

 苦笑いをするが、心の中が安らぐことはないのか。

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