上 下
93 / 138
はじめましてこんにちは、魔王ですか?

92

しおりを挟む
「カイト!!」

「カイト様!!」

 受け止めることなどできもしないのに、避けることが見捨てることとの錯覚に陥ったのだろうか、セリカはその場から避けようとしなかった。もしくはできなかったのかもしれない。

 氷の十字架は勢い止まらず迫りくる。氷上ということを気にして滑らないように気を使いながらセリカの前に移動して、左手で十字架を受け止めた。

 初めて間近で見たカイトの顔色は白かった。だがその真後ろにはクラッチロウが既に迫ってきていた。

 右手に持っていた聖剣ヨシミツでクラッチロウの攻撃を防ぐ。

「クラッチロウ、そういった戦法は卑怯と言われるんだよ」

 力任せに押してくる剣の圧力をやれやれと言った力で押し返す。クラッチロウが後ろに弾かれた瞬間に魔導士のような者が詠唱し氷の矢が浴びせられた。

「捲土重来!」

 ルーチェの詠唱と共に氷上から盛り上がってきた氷の壁が敵の攻撃を防いだ。

「手出しするな! 元々貴様は攻撃に向いてないんだからよぉ!」

 氷の壁を軽々と超えるほどジャンプしてきたクラッチロウが頭上から襲い掛かってくる。

 弓を向け、セリカは矢を放ったがクラッチロウの剣によって弾かれる。二本目の矢を準備するも迫りくるクラッチロウの方が早い。

「近距離には不向きだろう?」

 狙いはミゼルだった。

 ルーチェは杖から炎を浴びせる。しかしクラッチロウが左手で空を切ると炎は沈下される。迫る勢いはそのままミゼルの元に。

「ぬるい! ぬるいんだよぉ!」

 真上から振り落とした剣はミゼルの頭上の少し上で止められた。

「お前の相手は俺なんだろ?」

 クラッチロウの脳裏に怒りと理解不能が交互に過ったのだろうか。着地したクラッチロウは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 剣を止めたのがヨシミツの先端だったからだろう。

 渾身の一撃を巨大とはいえ剣の先端で防がれるのは屈辱以外の何物でもないのだろう。

 手を休めていなかったルーチェの攻撃でミゼルから遠ざかる。

「ミゼル大丈夫か? 死んだかと思ったわ。それにあれ……」

「私もそうかなと思ってたんや。あの魔導士、〇〇先生や!」

「な? 知っているのか?」

「あぁ、我が軍の魔法士官だったお方だ」

 だったという過去形が引っ掛かった。

「数年前に姿を消したと言われている。噂では単独で山賊討伐に出向いたって話だったのだが」

「まさか敵さんの仲間になっておるとは驚きやわ」

 少し焦っている表情は寒さのせいではなさそうだった。

「フンッ。有名人だなぁ」

「……」

 黒の頭巾を被ったままなので表情は分からなかったが、返事もなく只々こちらを見ていた眼光だけはわかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢日記

瀬織董李
ファンタジー
何番煎じかわからない悪役令嬢モノ。 夜会で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢がとった行動は……。 なろうからの転載。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇

藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。 トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。 会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……

処理中です...