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第十三章 ひとりぼっちの温泉旅行
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「グルフフフ、これしきの吹雪で俺を止めれると思っているのかー!」
酒呑童子の持つ妖気は雪実の起こした竜巻の勢いを弱めた。だが止まらず舞い散る雪を巻き込んでもう一度竜巻の威力を取り戻す。
「グルフフフー!」
暫し雪実の吹雪と酒呑童子の妖気が拮抗しスパークが起こる。
「お兄ちゃん、コイツは酒の熱量で体内の感覚が麻痺して矢の効力を無効にしてるのだわ。わらわが氷になってコイツ諸共凍らすからその間に粉々にして……」
「よし……って、じゃあ雪実も……」
「言ったでしょ……雪実は幸せだったって。お兄ちゃんが助かるなら……雪実は幸せのまま死ねるの……」
「雪実!」
「お兄ちゃん……大好きだったよ……」
竜巻は今まで以上に威力を増し空に舞い上がった。その場には氷になった雪実を掴んだままの酒呑童子が居た。
「……雪実……」
「あやかしを浄化するのが我磐石家の使命」
「じいちゃん!」
「使命を貫くのか、己の心に従うのか」
「……」
「明、お前が射抜けぬのならワシが射抜こう、磐石家の誇りに掛けて」
じいちゃんは掌から光る弓矢を出して構えようとした。俺はその姿を見て決意をして止めた。
「じいちゃん……俺がやるよ……。雪実の最後は、俺の手で……」
掌から出る光の弓矢を見ながら涙が溢れ出る。
先日、手紙を残して去った時も胸の真ん中にぽっかりと穴が空いたような感覚だった。辛く、悲しかったけど仕事や詩織さんのこともあって雪実が出て行った辛さだけじゃ無かった。何より喧嘩別れでもないしいつか何処かで会えて事情を知ればまた一緒に過ごせると思ってた。可能性はあった……。けど、この矢を放したら最後、雪実には二度と会えなくなる。俺の手で……雪実の生涯を終わらせることになる……。
弓を持つ手は震え、涙で雪実が揺れて見える……。
「……雪実……俺は……お前を失いたくないよ……」
臆病な俺は構えた弓を降ろし、その場に膝を着いた。
雪実の冷気も限界だったのだろう酒天童子の持つ熱気と妖気が混ざり合い、雪実によって凍らされた肉体を再び現した。
力を使い果たしかつ、酒天童子の熱気を浴びせられた雪実はその場に倒れこむ。
「グルフフフ、グルフフフ、グルフフフ!」
鼻息荒い酒天童子は興奮状態を続ける。だがこちらに向かって一歩も動かず、横に倒れている雪実に目もくれずその場で鼻息を荒くするだけだった。
真っ赤な身体はやがて青白くなり、巨体もいつしか幼子の様に縮んでいった。
「どうなっているんだ?」
「時間じゃよ」
「じいちゃん?」
じいちゃんはゆっくりと二人の方へ歩いていったので、俺も後に続いた。
「酒天童子の体内は大量に摂取したアルコールによって神経を麻痺させていた。その為明の放つ矢を受けても浄化されずにいたんだ」
「そんなことがあるのか?」
「だが、矢の効力がゼロになったわけではない。云わば麻酔が切れた時、それまでに負った痛みが己に一斉に襲いかかる」
「どうして麻酔が切れた……もしかして!?」
「左様。この娘のお陰じゃ」
じいちゃんは倒れている雪実をゆっくりと抱き上げた。その頃には酒天童子の姿は見えなくなっていた。まるで溶けた氷のように。
「おっと」
お姫様抱っこをしたが、持病の腰痛が出たのか雪実を抱えたまま前のめりに倒れてしまった。
気を失っていた雪実の着物は肌蹴たままだったので素肌にじいちゃんは覆い被さるような姿になる。
「ちょ、ちょっと! このエロじじいぃ!」
「ぐふぉ!」
倒れた衝撃か胸元をまさぐられる危機反応が働いたのか、意識を取り戻した雪実は先程までの生きるか死ぬかの状況を忘れさせるかのようにじいちゃんに強烈なビンタをして、着物で胸元を隠した。
酒呑童子の持つ妖気は雪実の起こした竜巻の勢いを弱めた。だが止まらず舞い散る雪を巻き込んでもう一度竜巻の威力を取り戻す。
「グルフフフー!」
暫し雪実の吹雪と酒呑童子の妖気が拮抗しスパークが起こる。
「お兄ちゃん、コイツは酒の熱量で体内の感覚が麻痺して矢の効力を無効にしてるのだわ。わらわが氷になってコイツ諸共凍らすからその間に粉々にして……」
「よし……って、じゃあ雪実も……」
「言ったでしょ……雪実は幸せだったって。お兄ちゃんが助かるなら……雪実は幸せのまま死ねるの……」
「雪実!」
「お兄ちゃん……大好きだったよ……」
竜巻は今まで以上に威力を増し空に舞い上がった。その場には氷になった雪実を掴んだままの酒呑童子が居た。
「……雪実……」
「あやかしを浄化するのが我磐石家の使命」
「じいちゃん!」
「使命を貫くのか、己の心に従うのか」
「……」
「明、お前が射抜けぬのならワシが射抜こう、磐石家の誇りに掛けて」
じいちゃんは掌から光る弓矢を出して構えようとした。俺はその姿を見て決意をして止めた。
「じいちゃん……俺がやるよ……。雪実の最後は、俺の手で……」
掌から出る光の弓矢を見ながら涙が溢れ出る。
先日、手紙を残して去った時も胸の真ん中にぽっかりと穴が空いたような感覚だった。辛く、悲しかったけど仕事や詩織さんのこともあって雪実が出て行った辛さだけじゃ無かった。何より喧嘩別れでもないしいつか何処かで会えて事情を知ればまた一緒に過ごせると思ってた。可能性はあった……。けど、この矢を放したら最後、雪実には二度と会えなくなる。俺の手で……雪実の生涯を終わらせることになる……。
弓を持つ手は震え、涙で雪実が揺れて見える……。
「……雪実……俺は……お前を失いたくないよ……」
臆病な俺は構えた弓を降ろし、その場に膝を着いた。
雪実の冷気も限界だったのだろう酒天童子の持つ熱気と妖気が混ざり合い、雪実によって凍らされた肉体を再び現した。
力を使い果たしかつ、酒天童子の熱気を浴びせられた雪実はその場に倒れこむ。
「グルフフフ、グルフフフ、グルフフフ!」
鼻息荒い酒天童子は興奮状態を続ける。だがこちらに向かって一歩も動かず、横に倒れている雪実に目もくれずその場で鼻息を荒くするだけだった。
真っ赤な身体はやがて青白くなり、巨体もいつしか幼子の様に縮んでいった。
「どうなっているんだ?」
「時間じゃよ」
「じいちゃん?」
じいちゃんはゆっくりと二人の方へ歩いていったので、俺も後に続いた。
「酒天童子の体内は大量に摂取したアルコールによって神経を麻痺させていた。その為明の放つ矢を受けても浄化されずにいたんだ」
「そんなことがあるのか?」
「だが、矢の効力がゼロになったわけではない。云わば麻酔が切れた時、それまでに負った痛みが己に一斉に襲いかかる」
「どうして麻酔が切れた……もしかして!?」
「左様。この娘のお陰じゃ」
じいちゃんは倒れている雪実をゆっくりと抱き上げた。その頃には酒天童子の姿は見えなくなっていた。まるで溶けた氷のように。
「おっと」
お姫様抱っこをしたが、持病の腰痛が出たのか雪実を抱えたまま前のめりに倒れてしまった。
気を失っていた雪実の着物は肌蹴たままだったので素肌にじいちゃんは覆い被さるような姿になる。
「ちょ、ちょっと! このエロじじいぃ!」
「ぐふぉ!」
倒れた衝撃か胸元をまさぐられる危機反応が働いたのか、意識を取り戻した雪実は先程までの生きるか死ぬかの状況を忘れさせるかのようにじいちゃんに強烈なビンタをして、着物で胸元を隠した。
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