上 下
57 / 99
第十章 二人だけのイブの始まりに

02

しおりを挟む
「お待たせ」

「一緒の電車じゃん」

 本当は歩いて来た。同じ電車に乗った同僚に降りる所を見られた場合、天野さんに何か噂でも立ったら迷惑だと思い、時刻表を見て歩くことに決めた。途中走ったのだけど、勘づかれないよう息を整えて駅で待つ。ここで同僚が降りて来て見られたら努力虚しくなるのだけれど。

「磐石君、酔ってないの?  お酒強いんだ?」

「さっきは飲んでないんだ。食べるの優先してたから」

「そうなんだ。私は二杯も飲んじゃったよぉ」

 笑いながら天野さんは言った。若干テンションが上がってしまうのは仕方ないのだろうが、アルコールのテンションよりもコッチは二人っきりの二次会テンションの方が数倍上がっていることを証明させたい!  けどそれを証明させるとアルコールさえも蒸発してシラケさせてしまうだろうから、今はまだ抑え気味にしておこうと思う。

「天野さんは普段からお酒飲むの?」

「んー、飲んでも週末位かなぁ。友達とご飯行ったら飲んじゃうけどね、弱いからあんまし」

 良かった。酒豪で吐くまで飲まされても困るし毎日飲まなきゃやってらんないアル中でも困る。

「ここだよ」

 指差す電飾看板には『PRELUDE』と書かれていた。俺と天野さん二人の初デートの場所に相応しい名だ。それが例え『地獄の番人』でも『パブ・バクテリア』でも相応しいと思っていただろう。つまりはだ、店名はなんでもいいという結論に至る。どんな店名だろうが、ドンと来い。天野さんとの初デートを見守って俺とお花畑で二人手を繋いで回転しているのを想像しながら……。

「看板の前で突っ立ってないで早くおいでよ」

 二階への階段に登った天野さんは、電飾看板に照らされながら妄想にログインしていた俺を呼び起こした。

   ※

「いらっしゃいませ」

 黒のベストを着てオールバックの店員がカウンター越しに挨拶をしてくれる。

 まだ時間が早いのか店内は空いていて一番奥の席に座った。

 窓越しから少しだけ見える夜景を主張し過ぎない程度のこの場所は、天野さんが気に入ってるのがわかる気がする。

「何飲もっか?」

「じゃあ、カシスオレンジ」

「え?  意外。じゃあ私もおんなじのを飲もおっと」

 注文を聞いてくれて暫し待つ。その間はお酒の話を淡々とした。このような店に来るのは初めてだしお酒の種類も殆ど知らないという事を素直に伝えた。それによって天野さんが俺に持っていた印象が真逆だということがわかった。

「もっとこう、ジンとかスコッチとかキツイのを飲むのかと思ってた。私もお酒のことあまり知らないんだけどね」

 どこをどう見たらそんな印象になるのだろうか。落差が激しいと申し訳ない気持ちにもなる。

「じゃあ改めて、先日はありがとうございました」

「どういたしまして。乾杯」

 運ばれてきたカシスオレンジのグラスを持ち、乾杯をした俺の手は震えてぎこちないのがバレないようにするのが必死だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幽閉された花嫁は地下ノ國の用心棒に食されたい

森原すみれ@薬膳おおかみ①②③刊行
キャラ文芸
【完結・2万8000字前後の物語です】 ──どうせ食べられるなら、美しく凜々しい殿方がよかった── 養父母により望まぬ結婚を強いられた朱莉は、挙式直前に命からがら逃走する。追い詰められた先で身を投げた湖の底には、懐かしくも美しい街並みが広がるあやかしたちの世界があった。 龍海という男に救われた朱莉は、その凛とした美しさに人生初の恋をする。 あやかしの世界唯一の人間らしい龍海は、真っ直ぐな好意を向ける朱莉にも素っ気ない。それでも、あやかしの世界に巻き起こる事件が徐々に彼らの距離を縮めていき──。 世間知らずのお転婆お嬢様と堅物な用心棒の、ノスタルジックな恋の物語。 ※小説家になろう、ノベマ!に同作掲載しております。

星詠みの東宮妃 ~呪われた姫君は東宮の隣で未来をみる~

鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました!🌸平安の世、目の中に未来で起こる凶兆が視えてしまう、『星詠み』の力を持つ、藤原宵子(しょうこ)。その呪いと呼ばれる力のせいで家族や侍女たちからも見放されていた。 ある日、急きょ東宮に入内することが決まる。東宮は入内した姫をことごとく追い返す、冷酷な人だという。厄介払いも兼ねて、宵子は東宮のもとへ送り込まれた。とある、理不尽な命令を抱えて……。 でも、実際に会った東宮は、冷酷な人ではなく、まるで太陽のような人だった。

魔法少女はそこにいる。

五月七日ヤマネコ
キャラ文芸
ある時、突如大勢の魔法少女がこの世界、日本へと押し寄せてきた。 自衛隊の対魔法少女特殊戦術部隊が応戦する。 魔法少女たちの目的とは? そしてその数日前、高校生イクローの前に一人の魔法少女が現れる。 彼女、キルカはイクローと結婚するためにやってきたと言う。 彼女とその仲間たちと共にイクローは否応なしに戦いに巻き込まれていく。 呑気なのかハードなのかよくわからない謎の多重構造を持つ作品です(笑) お楽しみください!

最強の幽霊、癒し女のおみっちゃん

渋谷かな
キャラ文芸
本編は5-1からです。「私、生き返りたい。」この物語は5万0000字の駄文を書き続け、ようやくネ申が降臨され、幽霊だから、望は生き返りでいいんじゃないという単純な話に落ち着いた作品です。 カクヨム・なろう転載

CODE:HEXA

青出 風太
キャラ文芸
舞台は近未来の日本。 AI技術の発展によってAIを搭載したロボットの社会進出が進む中、発展の陰に隠された事故は多くの孤児を生んでいた。 孤児である主人公の吹雪六花はAIの暴走を阻止する組織の一員として暗躍する。 ※「小説家になろう」「カクヨム」の方にも投稿しています。 ※毎週金曜日の投稿を予定しています。変更の可能性があります。

【完結】非モテアラサーですが、あやかしには溺愛されるようです

  *  
キャラ文芸
『イケメン村で、癒しの時間!』 あやしさ満開の煽り文句にそそのかされて行ってみた秘境は、ほんとに物凄い美形ばっかりの村でした! おひめさま扱いに、わーわーきゃーきゃーしていたら、何かおかしい? 疲れ果てた非モテアラサーが、あやかしたちに癒されて、甘やかされて、溺愛されるお話です。

あやかしの王子の婚約者に選ばれましたが、見初められるようなことをした記憶がなかったりします

珠宮さくら
キャラ文芸
あやかしの王子の婚約者に突然選ばれることになった三觜天音。どこで見初められたのかもわからないまま、怒涛の日々が待ち受けているとは思いもしなかった。 全22話。

希望が丘駅前商店街-神神飯店バイト君大作戦

神山 備
キャラ文芸
「日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃい)」のバイト君、岸本大介(ダイサク)視点の物語です。 なので、この作品も「政治家の嫁は秘書様」の鏡野悠宇様より了承頂いて書いているコラボ作品です。 ダイサクこと岸本大介はその名前を理由に喫茶店のバイトを断られてしまう。その代わりにと紹介されたのが、「本格中華菜館神神飯店」。 ダイサクが神神飯店の面々に振り回されて変わっていく成長? の記録。 他にコラボしている作品 ・『桃と料理人』http://ncode.syosetu.com/n9554cb/ ・『青いヤツと特別国家公務員 - 希望が丘駅前商店街 -』http://ncode.syosetu.com/n5361cb/ ・『希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271 ・『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376 ・『希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々 』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/274274583/188152339 ・『希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~』https://ncode.syosetu.com/n7423cb/ ・『Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街』https://ncode.syosetu.com/n2519cc/

処理中です...