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第三章 密かに想いを寄せた彼女の前で良い所と妄想を

01

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 秋葉原におよそ似つかわしくないその男性は、夜型になったら元気になりそうな見た目で昼間に起きてることさえもイレギュラーのようなものだろう。

 その女性には気の毒だったが、俺はそそくさとその場所を通り過ぎることに全神経を集中したかった。

 相手があやかしなら、なんら焦ることもなく成敗してあげれるのだが、一般人相手だと高く見積もっても喧嘩で勝算があるのは小三までだ。相手次第では小六までいけるが、身体付きが良い子も武道を嗜んでいる子もいるだろうから安全牌で三年生にしとこう。

 こんな縮れた茶髪野郎なんかソイツが両手をポケットに入れた状態でも勝てる気がしない。

 こんな俺の思いも、今までだったらこんな路地裏を通ることもなく、仮に表通りでこの状況に遭遇しても見て見ぬふりで空気と化していたのに、今日に限って可愛い可愛い妹キャラの雪実が無視して絡んでくれた。

 じっと立ち止まって縮れパーマを見つめる雪実。

「おい!」

 俺の小さな掛け声虚しく黙って見続ける。

 なるべく縮れパーマの方と目を合わさないようにして、隣の女性に目を向けた。

「天野……さん?」

「え?」

 俺の突然の名指しに驚く女性二人。

 そのうちの一人、雪実が驚いて俺の方を見たことにより、押された力で立ち止まっていた体勢が崩れてその場から立ち去ることができた。

 

「お兄ちゃん、あの人知ってる人?」

「あ、あぁ会社の人だよ、多分」

 多分ではない、間違いないのだ。

 天野詩織。俺が唯一密かに想いを寄せている子である。

 会社の事務員でたまに見かける。おそらく向こうは俺の事など知る筈もないだろう。

 専門学校を卒業して俺より二年遅れで入社したが同い年。

 まさかこんな所で会うとは。会うというより見てしまったという方が正しいのかも。

「助けにいかなくていいの?」

「助けにって、彼女には彼女達の事情があるんだろう。他人が入ってとやかく言うことじゃないんだよ」

「けど、困ってたんじゃないの?  彼女」

 俺もそれは感じた。ただ、本当に困っていたとしてもそれは二人の問題だろう。

 例えば金銭の貸し借りで喧嘩をしてたとしても、そこに愛情が絡んでくると簡単に解決することでもないし、どこかで聞いたことある勘違いパターンだと兄妹かもしれないし。

 たまたま喧嘩をしている所に居合わせて、たまたま女性を知ってる人で、たまたま助けを求められたら、この場合俺はどうすれば正解なのだろうか。

「まぁ仲裁に入って喧嘩になったら困るじゃん?  雪実もお兄ちゃんがボコボコにされてる所を見たくないだろ?」

「見たくないけど、そのお兄ちゃんを助けたら雪実はお兄ちゃんの命の恩人になるね」

 なんでもニコニコしながらポジティブに話を持っていかれて返答に困る。 普通の人が相手になると、俺よりもあやかしの雪実の方が強いとか?  笑えない設定だ。断固としてその場面に遭遇する前に解散しなくては。
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