上 下
4 / 99
第一章 たった一人の温泉旅行中に

04

しおりを挟む
「グヘヘヘヘ、グヘヘヘヘヘ、グヘグヘ」

「出たな、妖怪グヘ!」

「誰がグヘじゃい! 俺は狒々ヒヒ。その雪女は俺の物だ。死にたくなかったらさっさと寄こしな」

「どぞ」

「ちょっと!」

 雪女と呼ばれるあやかしを差し出すと、すぐさま俺の後ろに回り込む。

「わらわは嫌じゃ! あんな者になんか抱かれとうない!」

「まぁそれは好みの問題だから俺に言われても困るんだけどな。とりあえず二人ともこの部屋から出てってくれないかな? 俺の大事な有給休暇が終わってしまうんだよ」

「殺生なこと言わないでよ! 休暇と私どっちが大事なの!」

 俺の浴衣の首元を掴んでガンガン力強く前後に振る。

「脳震盪起こすわ」

 あいにく、あやかしを助けるために大事な休暇を消化するほど俺はお人好しではない。

「あいつはね、とんでもないくらい女好きなのよ! あんな醜い見た目の癖に女好きで嫌われても無理やりなんだから!」

「まぁ確かにあいつは醜い。だけど見た目が悪くても女好きな奴は山ほどいるだろ」

「お前も見た目悪いが、女が好きなのか?」

「おいおい、人に助けを求めておいてなかなか心をエグルようなことを言うじゃないか。俺は見た目など気にしていないのだ。それがたまたま悪いってだけだ、勘違いするな」

 見苦しい言い訳をしながら俺はその女を狒々の方へ差し出した。

「ちょ、ちょっとちょっと!」

「グヘヘヘヘ、もう観念しろ。そんなヤワなヲタクみたいな男より俺の方がたくましいだろ?」

 腕の力こぶを見せつけてくる。見た目も野蛮だが脳みそも野蛮のようだ。

 筋肉で女を落とせるのなら皆、筋トレに励めば良いだけだろうに。やはりあやかし程度の脳内ではそんなものか。

「この人は、わらわのお兄ちゃんなの!」

 いきなりなにを言っているのだろうか、この雪女は。

「助けてよお兄ちゃん! あのあやかしがわらわを滅茶苦茶にするのよ!」

 お兄ちゃんに助けを求めるこのシチュエーション、萌える展開ではないか。

 実の妹はこんな風に助けを俺に求めることはないというのに。

「お前、すると雪男か? そんな不細工に化けてなにしてんだ。さっさと雪山にでも帰ってアニメでも観てろ、この糞ヲタクが!」

 よだれを垂らしながら完全にイッてる目つき。女という獲物を前にしたら周りが見えないのだろうか。邪魔しようものなら容赦なく殺しに掛かってくる。無類の女好きで凶暴なあやかし狒々。

「お前、言ってはならんことを言ってしまったな」

 会社の同僚と関わりを持たない三つ目にして最大の理由。

 立ち上がり部屋につむじ風が吹く。相変わらず狒々はよだれをたらしたまま怯んでいない。

「俺はヲタクをバカにされると、ブチ切れてしまうんだよぉぉぉ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

カフェキュエンティンの不思議な暇つぶし

符多芳年
キャラ文芸
このカフェには、良い魔法が巡っている。 商店街のどこかにある静かなお店、カフェキュエンティンには 自然と【息抜きを必要とする人々】が訪れる。 「暇潰しをしませんか?」 美味しい珈琲とお菓子。 それと、不思議で暖かな、魔法の暇潰しでおもてなし。 ちょっとした謎解きをしたり、ゲームをしたり、お悩み相談をしたり。 時にとんでもない事件に繋がったり…… 現代の魔女今理と、人々が織りなす。 ほのぼのほっこり現代ファンタジー。

【完結】非モテアラサーですが、あやかしには溺愛されるようです

  *  
キャラ文芸
『イケメン村で、癒しの時間!』 あやしさ満開の煽り文句にそそのかされて行ってみた秘境は、ほんとに物凄い美形ばっかりの村でした! おひめさま扱いに、わーわーきゃーきゃーしていたら、何かおかしい? 疲れ果てた非モテアラサーが、あやかしたちに癒されて、甘やかされて、溺愛されるお話です。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

幽閉された花嫁は地下ノ國の用心棒に食されたい

森原すみれ@薬膳おおかみ①②③刊行
キャラ文芸
【完結・2万8000字前後の物語です】 ──どうせ食べられるなら、美しく凜々しい殿方がよかった── 養父母により望まぬ結婚を強いられた朱莉は、挙式直前に命からがら逃走する。追い詰められた先で身を投げた湖の底には、懐かしくも美しい街並みが広がるあやかしたちの世界があった。 龍海という男に救われた朱莉は、その凛とした美しさに人生初の恋をする。 あやかしの世界唯一の人間らしい龍海は、真っ直ぐな好意を向ける朱莉にも素っ気ない。それでも、あやかしの世界に巻き起こる事件が徐々に彼らの距離を縮めていき──。 世間知らずのお転婆お嬢様と堅物な用心棒の、ノスタルジックな恋の物語。 ※小説家になろう、ノベマ!に同作掲載しております。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈 
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

ハンクラ好きのJKは冬に死神になる

久保 倫
キャラ文芸
宇野澪は、ぱっちりとした黒目がちの瞳が魅力的な高校1年生。 身長147センチと小柄だけど、出るとこ出て引っ込むところは引っ込んでいる極めて魅力的なプロポーションの持ち主。 そんな彼女の趣味は、2つ。 一つはハンクラ。 もう一つは東京に冷たく乾いた風が吹くとき、電車内の悪に対する死神となることである。 不定期更新です。 一発ネタですんで、そうそう更新できないと思います。 それでもいいという人はお付き合い下さいませ。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

夢みるいつか

後見 ナイ
キャラ文芸
 アルファポリスキャラ文芸大賞用の作品です。 〜更新日時〜  一月末での完結を目指して執筆します。更新は毎週日曜日の朝7時です。 〜あらすじ〜  現代社会を生きていく人は皆、様々な想いを持って生きている。悩みを抱える人、夢を追い求める人、過去を忘れられない人……。そんな悩みを屋台で聞いて周る物好きな女性がいるらしい。その姿の美しさだけでなく作られる料理もとても美味しく心に秘められた願望すらうっかり言ってしまうほどだと言う。  悩みを抱えたり、忘れたり、諦めたり、始まったり多くの人は限られた人生で今の生活よりも良いいつかを夢見て生きていく。

処理中です...