70 / 75
第四章 智慧
70 過去は全て現在におさまる
しおりを挟む
一週間ぶりの再会と言えば恋人同士に聞こえるから言い直せと言われそうなので、口に出さず頭の中だけで言うが、一週間ぶりの再会である。
曜子の部屋に入ったは良いがさて、何から話せば良いのか、何から聞けば良いのだろうか、ここに来るまでに考えていたのだが良い意味と言って良いのだろうか、曜子のテンションに調子を狂わされる。
今に始まったことではないが、今日ばかりは明るいテンションに救われる。たとえそれが、曜子の本心を隠す為であってもだ。
今日から夏休みのはずなのに、どうして制服なのかと尋ねたら、入院中で行けなかったから学校まで私物を取りに行ってたが真面目な曜子は制服に着替えて行くという自慢付きで説明してくれた。
美味しいケーキと熱い紅茶をいただきながら話す内容でもないのだが、話さないと前に進まないので俺は重たい口を開いた。
「お父さんが言ってたこと、本当なのか?」
少し意地悪とも取れる言い方に俺は逃げた。病気とか死という単語を言わずに曜子から現状を聞こうというのだから。
美味しそうにケーキを食べる曜子の姿を見てると、何かの間違いなのではないかとさえ思ってしまう。間違いであって欲しいという願望の眼鏡をかけているせいかもしれないが。
「本当だよ。私は死ぬっていう選択をしたの」
この玄関美味しいね。どこの店?って聞くようなテンションで言う曜子に改めて驚かされる。
ただ、選択?という俺の問いかけには何も答えなかった。
「どうして、死ぬの?」
「私、病気なの。病名は白血病。持って後一年って言われてからどれくらい経ったかなぁ」
一年という期間が既に始まっている事に改めて、死ぬ現実に襲われそうになる。
「じゃあ入院してたのもその影響で?」
「そうよ。けど大したことないのにお母さん心配性だから」
俺は、テストの順位が悪くて不貞腐れているとばかり思っていたのだが、比べるのも申し訳ない位まだそっちの方がマシだった。
聞きたい事は山ほどあるのに、何からどれ程聞けば良いのか訳がわからなくなってしまった俺は、落ち着かせる為に紅茶のカップを手に取ろうとした。
ところが手元が狂い、掴みそこなったカップは倒れ、中の紅茶がこぼれてしまった。
もう夏だと言うのに、熱い紅茶を飲んでる事をちょっと後悔するように、飛び散った紅茶が針で刺したように肌に求めていない刺激を与えてくる。
「ちょっと、なにやってんのよ。ホントとろいんだからぁ」
慌てて勢いよく取り出したティッシュをテーブルにこぼれた紅茶に乗せ、ハンカチで俺に飛び散った紅茶を拭いてくれた。
無防備な曜子がすぐ手の届く所にいる。俺は一生懸命拭いてくれる曜子の手を握り、強く抱きしめる……ことができなかった。
手慣れた男性なら、簡単に抱きしめるのだろうか。抱きしめたいから抱きしめる。そんな時に相手の気持ちは関係ないのか?
俺が手慣れていたら抱きしめていただろうか?考えても仕方ないが、ハプニングを利用してすることではない。
しかし、かつてこんなに接近したことがあっただろうか。勉強を教えているときにあったかもしれなが、その時は邪心という下心は全くなかったはずだ。
じゃあ今は下心があるのか。違う、下心で抱きしめたいのではない。恋心かと言われると、なにか違うような気もする。
曜子が病気だからか。可哀想だからなのか。抱きしめて何かが救われるのか。
拭き終わった曜子は離れてテーブルの上を綺麗にしてティッシュをごみ箱にポイッと捨てた。
曜子の部屋に入ったは良いがさて、何から話せば良いのか、何から聞けば良いのだろうか、ここに来るまでに考えていたのだが良い意味と言って良いのだろうか、曜子のテンションに調子を狂わされる。
今に始まったことではないが、今日ばかりは明るいテンションに救われる。たとえそれが、曜子の本心を隠す為であってもだ。
今日から夏休みのはずなのに、どうして制服なのかと尋ねたら、入院中で行けなかったから学校まで私物を取りに行ってたが真面目な曜子は制服に着替えて行くという自慢付きで説明してくれた。
美味しいケーキと熱い紅茶をいただきながら話す内容でもないのだが、話さないと前に進まないので俺は重たい口を開いた。
「お父さんが言ってたこと、本当なのか?」
少し意地悪とも取れる言い方に俺は逃げた。病気とか死という単語を言わずに曜子から現状を聞こうというのだから。
美味しそうにケーキを食べる曜子の姿を見てると、何かの間違いなのではないかとさえ思ってしまう。間違いであって欲しいという願望の眼鏡をかけているせいかもしれないが。
「本当だよ。私は死ぬっていう選択をしたの」
この玄関美味しいね。どこの店?って聞くようなテンションで言う曜子に改めて驚かされる。
ただ、選択?という俺の問いかけには何も答えなかった。
「どうして、死ぬの?」
「私、病気なの。病名は白血病。持って後一年って言われてからどれくらい経ったかなぁ」
一年という期間が既に始まっている事に改めて、死ぬ現実に襲われそうになる。
「じゃあ入院してたのもその影響で?」
「そうよ。けど大したことないのにお母さん心配性だから」
俺は、テストの順位が悪くて不貞腐れているとばかり思っていたのだが、比べるのも申し訳ない位まだそっちの方がマシだった。
聞きたい事は山ほどあるのに、何からどれ程聞けば良いのか訳がわからなくなってしまった俺は、落ち着かせる為に紅茶のカップを手に取ろうとした。
ところが手元が狂い、掴みそこなったカップは倒れ、中の紅茶がこぼれてしまった。
もう夏だと言うのに、熱い紅茶を飲んでる事をちょっと後悔するように、飛び散った紅茶が針で刺したように肌に求めていない刺激を与えてくる。
「ちょっと、なにやってんのよ。ホントとろいんだからぁ」
慌てて勢いよく取り出したティッシュをテーブルにこぼれた紅茶に乗せ、ハンカチで俺に飛び散った紅茶を拭いてくれた。
無防備な曜子がすぐ手の届く所にいる。俺は一生懸命拭いてくれる曜子の手を握り、強く抱きしめる……ことができなかった。
手慣れた男性なら、簡単に抱きしめるのだろうか。抱きしめたいから抱きしめる。そんな時に相手の気持ちは関係ないのか?
俺が手慣れていたら抱きしめていただろうか?考えても仕方ないが、ハプニングを利用してすることではない。
しかし、かつてこんなに接近したことがあっただろうか。勉強を教えているときにあったかもしれなが、その時は邪心という下心は全くなかったはずだ。
じゃあ今は下心があるのか。違う、下心で抱きしめたいのではない。恋心かと言われると、なにか違うような気もする。
曜子が病気だからか。可哀想だからなのか。抱きしめて何かが救われるのか。
拭き終わった曜子は離れてテーブルの上を綺麗にしてティッシュをごみ箱にポイッと捨てた。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
【完結】悪女のなみだ
じじ
恋愛
「カリーナがまたカレンを泣かせてる」
双子の姉妹にも関わらず、私はいつも嫌われる側だった。
カレン、私の妹。
私とよく似た顔立ちなのに、彼女の目尻は優しげに下がり、微笑み一つで天使のようだともてはやされ、涙をこぼせば聖女のようだ崇められた。
一方の私は、切れ長の目でどう見ても性格がきつく見える。にこやかに笑ったつもりでも悪巧みをしていると謗られ、泣くと男を篭絡するつもりか、と非難された。
「ふふ。姉様って本当にかわいそう。気が弱いくせに、顔のせいで悪者になるんだもの。」
私が言い返せないのを知って、馬鹿にしてくる妹をどうすれば良かったのか。
「お前みたいな女が姉だなんてカレンがかわいそうだ」
罵ってくる男達にどう言えば真実が伝わったのか。
本当の自分を誰かに知ってもらおうなんて望みを捨てて、日々淡々と過ごしていた私を救ってくれたのは、あなただった。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
完結 この手からこぼれ落ちるもの
ポチ
恋愛
やっと、本当のことが言えるよ。。。
長かった。。
君は、この家の第一夫人として
最高の女性だよ
全て君に任せるよ
僕は、ベリンダの事で忙しいからね?
全て君の思う通りやってくれれば良いからね?頼んだよ
僕が君に触れる事は無いけれど
この家の跡継ぎは、心配要らないよ?
君の父上の姪であるベリンダが
産んでくれるから
心配しないでね
そう、優しく微笑んだオリバー様
今まで優しかったのは?
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる