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第三章 嘘の幸せと真実の絶望と
55 神話のカケラ03
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もう少し踏み込んで、母親に憧れて看護師になるのが夢と言う話もしたがそれも承知している様子だった。
しかし、医者になる親の期待に応えらえず生じた歪みについて聞いてみた。
「……そのことは本当に主人も後悔しているんです」
ひょっとしたら曜子の勘違いの可能性もあるかと期待したのだが、どうやら歪は事実だという確証を得ることになった。
だが、聞けば医者を目指させたのも子供たちの将来を思ってのことで、思いやりの伝え方に温度差があったという感じだ。そりゃ子供の頃は勉強勉強と五月蠅くない親の方が有り難いが実際子供の事を本当に心配しているのは五月蠅い親の方だが、それに気付くのは大人の仲間入りする頃だというのが悲しい現実なのだ。
小さい頃から看護師を夢見てきた曜子を頭ごなしに医者になることを植え付けてきたのが間違いだったと、曜子の夢を尊重すべきだったと両親も後悔されている。
結局その歪は反抗期も重なって修復が容易なものでは無くなったというわけだ。曜子が意地になっているのもあるのかもしれないが。
しかし、医者を目指す教育をしてくれていたおかげで看護師になる為の大学も現在の成績であれば十分射程圏内であることを伝え、それもご両親の今までの教育方針のおかげであることを曜子に言った時には素直に受け入れていた。
「……ですので、来年の春には志望の大学に合格できるところまで来てますので、ご両親も安心していてください。それと、差し出がましいかもしれませんが曜子さんとご両親との仲の修復は私が緩衝材になりますので任せて貰えませんか?」
親子は仲良くあるべきだ。しかも憎しみ合ってる訳じゃないのなら尚更だ。素直な気持ちで言ったのだが、余計なお世話と言われたら諦めるしかあるまい。
どう返事が来るか待っていたのだが、母親は片手で目を押さる仕草をした。
「ごめんなさい……」
物静かなリビングでもやっと聞こえるような小さな声で謝ったのは俺に対してだろうか。そんな疑問を持ったと同時にリビングに入るドアが開いた。
曜子かな?と嬉しさを抑えドアの方に目をやるとしらない男性が立ってこっちを見ていた。
今いる場所を考えてこの男性が曜子の父親だろうとは直ぐにわかった。父親の方が俺を誰か理解するのに時間を有するだろうと思い、立ち上がって自己紹介をした。
納得はしたようだが、少し泣いている様子の母親の状況を説明するのは難易度が高く、父親の出方を伺うことにした。
だが、曜子の話を思い出せば両親との歪というより特に医者である父親との歪が大きいのだろうと思い、もう一度母親に話した内容を言うことにした。
もしかしたら男親なら余計なことはするなと言われる可能性があるからだ。しかし両親共に納得した上で修復に買って出なければ意味がないからだ。
「ありがとう。君は本当に良くやってくれていると家内からも聞いているよ」
どうやら俺とのことを母親には良いように話してくれていたのがわかった。直接言わなくても母親から父親に間接的に伝わると見越してのことだったのかもしれない。
曜子なりに、父親との歪の解消方法を考えていたのかもしれないな。
「もっと早くに曜子も君みたいな人に出会っていれば良かったのかもしれないな」
その言葉を聞いてから母親は、声を押し殺せず泣いているのがわかった。
「娘が心を開いてくれない親は親失格だな」
「そんなことないですよ。ですからこれから私も協力させていただきますし大学入って立派な看護師になるって張り切ってますよ……」
俺が言い終わる頃には父親の方も眉間を押さえて目頭を熱くしているのが分かった。俺は今の状況が全く理解できなかった。
「君は曜子からなにも聞いてないのかい……」
「……曜子の命は……あと一年持たないんだよ……」
しかし、医者になる親の期待に応えらえず生じた歪みについて聞いてみた。
「……そのことは本当に主人も後悔しているんです」
ひょっとしたら曜子の勘違いの可能性もあるかと期待したのだが、どうやら歪は事実だという確証を得ることになった。
だが、聞けば医者を目指させたのも子供たちの将来を思ってのことで、思いやりの伝え方に温度差があったという感じだ。そりゃ子供の頃は勉強勉強と五月蠅くない親の方が有り難いが実際子供の事を本当に心配しているのは五月蠅い親の方だが、それに気付くのは大人の仲間入りする頃だというのが悲しい現実なのだ。
小さい頃から看護師を夢見てきた曜子を頭ごなしに医者になることを植え付けてきたのが間違いだったと、曜子の夢を尊重すべきだったと両親も後悔されている。
結局その歪は反抗期も重なって修復が容易なものでは無くなったというわけだ。曜子が意地になっているのもあるのかもしれないが。
しかし、医者を目指す教育をしてくれていたおかげで看護師になる為の大学も現在の成績であれば十分射程圏内であることを伝え、それもご両親の今までの教育方針のおかげであることを曜子に言った時には素直に受け入れていた。
「……ですので、来年の春には志望の大学に合格できるところまで来てますので、ご両親も安心していてください。それと、差し出がましいかもしれませんが曜子さんとご両親との仲の修復は私が緩衝材になりますので任せて貰えませんか?」
親子は仲良くあるべきだ。しかも憎しみ合ってる訳じゃないのなら尚更だ。素直な気持ちで言ったのだが、余計なお世話と言われたら諦めるしかあるまい。
どう返事が来るか待っていたのだが、母親は片手で目を押さる仕草をした。
「ごめんなさい……」
物静かなリビングでもやっと聞こえるような小さな声で謝ったのは俺に対してだろうか。そんな疑問を持ったと同時にリビングに入るドアが開いた。
曜子かな?と嬉しさを抑えドアの方に目をやるとしらない男性が立ってこっちを見ていた。
今いる場所を考えてこの男性が曜子の父親だろうとは直ぐにわかった。父親の方が俺を誰か理解するのに時間を有するだろうと思い、立ち上がって自己紹介をした。
納得はしたようだが、少し泣いている様子の母親の状況を説明するのは難易度が高く、父親の出方を伺うことにした。
だが、曜子の話を思い出せば両親との歪というより特に医者である父親との歪が大きいのだろうと思い、もう一度母親に話した内容を言うことにした。
もしかしたら男親なら余計なことはするなと言われる可能性があるからだ。しかし両親共に納得した上で修復に買って出なければ意味がないからだ。
「ありがとう。君は本当に良くやってくれていると家内からも聞いているよ」
どうやら俺とのことを母親には良いように話してくれていたのがわかった。直接言わなくても母親から父親に間接的に伝わると見越してのことだったのかもしれない。
曜子なりに、父親との歪の解消方法を考えていたのかもしれないな。
「もっと早くに曜子も君みたいな人に出会っていれば良かったのかもしれないな」
その言葉を聞いてから母親は、声を押し殺せず泣いているのがわかった。
「娘が心を開いてくれない親は親失格だな」
「そんなことないですよ。ですからこれから私も協力させていただきますし大学入って立派な看護師になるって張り切ってますよ……」
俺が言い終わる頃には父親の方も眉間を押さえて目頭を熱くしているのが分かった。俺は今の状況が全く理解できなかった。
「君は曜子からなにも聞いてないのかい……」
「……曜子の命は……あと一年持たないんだよ……」
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