短編集【BLACK】

タピオカ

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緑色の犬

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 私は犬。つまり人間に飼われる従順な生き物らしいけど、そんなのは嫌なんだ。
 自由奔放な猫ならまだ良かったのにね。
 脱走しようと思うけど、ただ脱走するだけじゃつまらない。


 今日は少し逆らって飼い主に思いきり噛み付いたけど………痛くなかったって事かな?無反応だから意味が無かった。
 精一杯の一撃だったのに…ショックだよ。どうやったら傷つける事ができるだろう。

「ワン…」

 う~ん、他にも反撃の方法がないかな…?………あ!もしかしたらあの方法は使えるかも!
 よし、今夜決行だ!



「ワンワン!ワオーン!!!」

 …ふぅ。だいぶ大声で吠えたけど食いつくかな??

 「ワカメ、どうしたんだ~」

 よし、飼い主が来た!…ていうかその名前ダサくて嫌いだから呼ばないでよ。
 海が好きで私の体が緑色だからって、犬の名前にまでするなんてね。
 人間でいうキラキラネームって奴よ。

「ワン!」

 今から脱走をするよ、飼い主と付かず離れずの距離をとりながらね!

「待てよ、勝手に家から出るなって~!どこに行くんだよ!」

 そう言われても止まるわけないじゃん。
 なるべく私のペース通りに順調についてきてほしいね!
 …ふふっ、しかし夜の追いかけっこってなんだかワクワクするもんだ!



 だいぶ走ったな……疲れてきたけどあと少しの距離で目的地にたどり着きそう!
 以前飼い主と少し遠くまで散歩した時に来たのをよく覚えていたからさ。

「もう疲れた、待ってくれ~!」

 待たないよ、あと少しで着くから頑張ってちょうだい。


 …着いた!ここは海の浜辺、普段は人も来る場所だ。
 今は夜遅いから誰もいないみたいだけど。

「ワオーン!」

 ふっふっふ…さあ、覚悟しろ飼い主!

「目的地は海…?もしかしてお前、俺と一緒に海を見に来たかったのか?」

 …そんなわけないじゃん。私がここに来た目的は…これよ!

「…ワン!」

 海に入り少し沖の方へ行って溺れたフリをする。
 飼ってる犬がそんなことをすると、飼い主を少しはビビらせることができるでしょう?

「何してんだ、ワカメー!!」

 ………あれ?少しは遠くへ泳いだけど中々進めない…え?体が溶けているよ。
 緑色の毛皮がツルツルした物体に変わってる。これってもしかして…


「捕まえた………元に戻ってしまったな」

 飼い主が泳いで捕まえに来たし海に入った瞬間、確かにビビっていたから目的は成功だけど…元に戻る?
 私は元々犬なんじゃないの?この体ってただのワカメじゃん。

「せっかく知り合いのすごい研究者に頼んで、大好きなワカメを飼いたい動物である犬に変えたのに…」

 …私は研究所によって作られた存在だったのね。どおりで毛皮が他の犬と違って緑なわけだ。
 今はもう犬じゃなくてただのワカメだから鳴く事も動く事もできないよ。

「元がワカメだからだいぶ他の犬と性格は違ったけど、今まで楽しかったな…」

 そっか、そもそも他の犬は従順なのに私はそんな気持ちになれなかったのは元が違うからだったのね。

「…1度こうなったら復元はできないからしょうがない。帰ってワカメを入れた味噌汁にして食べるよ、今までありがとう」



 …熱い、熱い!お湯が熱い!ここから出たいけど犬じゃないから動けない!!
 こんな事なら脱走しなきゃよかった……。

「さあ、今度はもう普通の犬でいいや、早く飼おうっと」

 …え?嘘でしょう?こんな事があったのにもう次の犬を飼う事を考えてるとか、切り替えが早すぎるよ!
  結局ちゃんと傷つける事なんて無謀だったんだね……。
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