聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します

陽炎氷柱

文字の大きさ
上 下
46 / 60
第二章

40.村の状況

しおりを挟む
 服ビリというのは、漫画などの戦闘シーンにて起こることがある現象だ。
 どれだけ攻撃を受けても、衣服が変な破れ方をするだけで全裸にはならないという二次元マジックだが。


(まさか洗浄クリア魔法でこの手で実現させる日が来るとは……)


 日本であれば人権をなくしていたところだった。
 私は目のハイライトが人権の代わりに消えていくのを感じながら、そっとシーツを呆然としているクロヴィスたちに巻いた。大丈夫、破けたといってもまだ六割くらい布地が残っている。もともと敵の攻撃で八割損傷していたから誤差の範囲だ。よく見ればハロウィンのコスプレとして通用しなくもない気がするし。


「うんうん、初めてにしては上出来だね!個性的な破れ方だけど」
「怪我が蒸れるといけないので、風通しを良くしただけです」
『外傷は全部治していなかったか?』


 クロヴィスたちにも聞こえるようにミハイルに答える。怪しまれるといけないからフブキに返答しなかっただけで、別に他意はない。ないよ。


「はは、そう気にするな。久しぶりにさっぱりできて気分がいいよ。私はどうも攻撃魔法に特化しすぎて、こういう生活魔法は全くできないんだ」


 さすが一国の王子というか、クロヴィスはすぐに我に返ってフォローを入れてくれた。まあ、立場的に本当のことかもしれないが。
 ともかく、気にしていないようで何よりだ。私はクロヴィスの気が変わる前にさっさと話題を変えた。


「久しぶりって……そういえば、クロヴィスの髪って金色なんだね」
「……ああ、泥で分からなかったのか。家を汚してごめんね」
「薬局はそういうけが人を受け入れるための場所なんだから、気にしないでゆっくり休んで」


 この世界に病院のような概念がないせいか、クロヴィスはまるで人の家に土足で入ってしまったような反応をみせる。というか、たとえ家だったとしてもひん死の相手にそんなことで怒るはずもない。


「それはありがたい提案だが、よそ者が数少ないベッドを占領していいのか?」
「もちろんよ。この村は平和なところだから、薬局に泊めるほど大怪我する人はそういないわ」


 今まで黙っていたジェラルドが申し訳なさそうにそう言った。それでも外に出て宿をとるとは言わないところを見ると、少し信頼してくれているようだ。


「でも、最近地方に避難する貴族が増えてきているだろう?中ではお前らが黒い死を連れてきたって攻撃的になるところもあるから、ちょっと心配だったんだ」
『実際にあったような言い方だな』
「王子だし、そういう報告でもあったんじゃない?」


 やっぱり、クロヴィスたちも黒い死に悩まされているようだ。しかもこの感じであれば、まだ解決法は見つかっていない。少し誘導されているのは分かっているが、打ち明けるなら今だろう。


「その心配ならいらないわ」


 そうはっきりと断言すれば、クロヴィスはわずかに整った眉をひそめた。何も言葉を返さず、私の次の言葉を待っている。ジェラルドは驚いたように目を丸くしたが、クロヴィスを真似て同じように沈黙を保つ。
 そんな二人の目線を受けて、私はなんてことないことのように事情を説明する。


「実をちょうど昨日、この村にも黒い死にかかった村人が出たの」


 ジェラルドがわずかにベッドから腰を浮かせた。そして血相を変えてクロヴィスを見るが、クロヴィスはまっすぐ私を見つめたままだ。


「その話だと、むしろタイミングが最高に悪いように思えるけど」
「ううん、黒い死はかかった瞬間に発症するわけじゃない。二日から七日ほどの潜伏してから発症するんだよ。ここの村人ならみんなこのことを知っているから、二人のせいにすることはないわ」
「は、すぐに発症しないだと!?」
「――――、ずいぶん詳しいんだな」


 目を見開いて驚くジェラルドとは対照的に、クロヴィスはこちらを探るような視線を向ける。
 これはエダや村人たちと話して分かったことだが、この世界では症状が出るまで病気にかかっているという認識はないのだ。症状が出たその時に原因があると考えているから、その場で理由を決めてしまう。
 だから病気の始まりをたどるのがすごく難しかったりするのだが……これは今説明しても、すぐに理解してもらうのは難しいだろう。


「私はエダの弟子で、ずっと黒い死の研究をしていたのよ」
「なっ!?」
「それは本当か?」
「昨日二人に飲ませた薬湯はオリジナルレシピだって言ったの覚えてる?」
「………………ああ、あの」


 ジェラルドとフブキの顔が分かりやすく歪んだ。口にしたジェラルドに至っては思い出したくもないといった様子である。
 私は苦笑いを返しつつ、今朝作った丸薬を取り出して見せた。


「あれはこの丸薬を水に溶かしたものだよ。これ自体は黒い死に向けて開発したものだけど、回復力を大きく上げるから他にも効果があるの」


 万病に効くというフレーズと迷ったけど、怪しすぎたのでやめた。それにそんな煽り文句じゃ世の中に売り出されたときに余計な争いを生み出しそうだ。


「回復力を上げる?ポーションと何が違うんだい?」
「ポーションは体力を回復させるけど、この丸薬はその回復力自体を上げているイメージね」


 本当は丸薬に付与した治癒魔法が発動しているだけだが、まだ本当のことを言うわけにはいかない。薬のことで嘘を言いたくないが、黒い死はしっかりこの世界から消し去ると自分に言い訳をする。


「……??これが、昨日の薬湯になるのか?」


 ジェラルドは何もわかっていないようで、不思議そうに丸薬を見ていた。この世界で薬師がレシピを公言しないおかげで、クロヴィスからも深く突っ込まれることはない。彼らにとって薬の成分はどうでもよく、治ればそれでいいのだろう。
 少し複雑な気持ちになりながら、二人の手に丸薬をそれぞれ一つ載せる。

「二人もこれをのんでね。怪我を治すし、黒死病を防げるから」


 なぜか丸薬を口にしたあと無敵時間が一日ほど続くので、それを利用するつもりだ。治癒魔法を直接かけたときにはない効果である。
 特にクロヴィスは昨日薬湯をのんでいないので早急に口にして欲しいが、なぜか丸薬を手にしたジェラルドはこの世の終わりのような表情を浮かべた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

なりすまされた令嬢 〜健気に働く王室の寵姫〜

瀬乃アンナ
恋愛
国内随一の名門に生まれたセシル。しかし姉は選ばれし子に与えられる瞳を手に入れるために、赤ん坊のセシルを生贄として捨て、成り代わってしまう。順風満帆に人望を手に入れる姉とは別の場所で、奇しくも助けられたセシルは妖精も悪魔をも魅了する不思議な能力に助けられながら、平民として美しく成長する。 ひょんな事件をきっかけに皇族と接することになり、森と動物と育った世間知らずセシルは皇太子から名門貴族まで、素直関わる度に人の興味を惹いては何かと構われ始める。 何に対しても興味を持たなかった皇太子に慌てる周りと、無垢なセシルのお話 小説家になろう様でも掲載しております。 (更新は深夜か土日が多くなるかとおもいます!)

実は私が国を守っていたと知ってましたか? 知らない? それなら終わりです

サイコちゃん
恋愛
ノアは平民のため、地位の高い聖女候補達にいじめられていた。しかしノアは自分自身が聖女であることをすでに知っており、この国の運命は彼女の手に握られていた。ある時、ノアは聖女候補達が王子と関係を持っている場面を見てしまい、悲惨な暴行を受けそうになる。しかもその場にいた王子は見て見ぬ振りをした。その瞬間、ノアは国を捨てる決断をする――

影の聖女として頑張って来たけど、用済みとして追放された~真なる聖女が誕生したのであれば、もう大丈夫ですよね?~

まいめろ
ファンタジー
孤児だったエステルは、本来の聖女の代わりとして守護方陣を張り、王国の守りを担っていた。 本来の聖女である公爵令嬢メシアは、17歳の誕生日を迎えても能力が開花しなかった為、急遽、聖女の能力を行使できるエステルが呼ばれたのだ。 それから2年……王政を維持する為に表向きはメシアが守護方陣を展開していると発表され続け、エステルは誰にも知られない影の聖女として労働させられていた。 「メシアが能力開花をした。影でしかないお前はもう、用済みだ」 突然の解雇通知……エステルは反論を許されず、ろくな報酬を与えられず、宮殿から追い出されてしまった。 そんな時、知り合いになっていた隣国の王子が現れ、魔導国家へと招待することになる。エステルの能力は、魔法が盛んな隣国に於いても並ぶ者が居らず、彼女は英雄的な待遇を受けるのであった。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

戦地に舞い降りた真の聖女〜偽物と言われて戦場送りされましたが問題ありません、それが望みでしたから〜

黄舞
ファンタジー
 侯爵令嬢である主人公フローラは、次の聖女として王太子妃となる予定だった。しかし婚約者であるはずの王太子、ルチル王子から、聖女を偽ったとして婚約破棄され、激しい戦闘が繰り広げられている戦場に送られてしまう。ルチル王子はさらに自分の気に入った女性であるマリーゴールドこそが聖女であると言い出した。  一方のフローラは幼少から、王侯貴族のみが回復魔法の益を受けることに疑問を抱き、自ら強い奉仕の心で戦場で傷付いた兵士たちを治療したいと前々から思っていた。強い意志を秘めたまま衛生兵として部隊に所属したフローラは、そこで様々な苦難を乗り越えながら、あまねく人々を癒し、兵士たちに聖女と呼ばれていく。  配属初日に助けた瀕死の青年クロムや、フローラの指導のおかげで後にフローラに次ぐ回復魔法の使い手へと育つデイジー、他にも主人公を慕う衛生兵たちに囲まれ、フローラ個人だけではなく、衛生兵部隊として徐々に成長していく。  一方、フローラを陥れようとした王子たちや、配属先の上官たちは、自らの行いによって、その身を落としていく。

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる

みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。 「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。 「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」 「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」 追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

処理中です...