聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します

陽炎氷柱

文字の大きさ
上 下
34 / 60
第二章

30.黒い死を防ごう

しおりを挟む
 正直、まだ『黒い死』と黒死病が全く同じ病気だと決まったわけじゃない。所詮素人に毛が生えた程度の知識しかない私が感染症対策を広めるのは少し不安だが、まったく意味がないと言うことはないだろう。
 というか治す側が不安になってどうする!


「実はさっき皆さんに飲んでいただいた丸薬、いつもと同じものじゃないんです。これはつい最近完成した改良版で……『黒い死』にもよく利く薬です」


 自分で言っておいて、怪しさ満点だなとは思う。偶然持ってきていた物を使う羽目になってしまたから、前回のようにちゃんとした設定を考えていなかったのだ。もっとマシな説明はなかったのかという冷たい視線がミハイルからとんでくる。


「黒い死……!やっぱり、そうだったのね」
「噂に聞いてたより大分フツーなんだな。おらあてっきり、かかったら苦しんで死ぬしかないかと思ってたぜ」
「お前は馬鹿か!それはどう考えてもコハクさまのおかげだろ!さっきまで苦しい苦しいって喚いてたくせによォ!」
「ほれ、そうすぐに騒ぐじゃないわい。話が進まんじゃろ」


 村人たちもある程度冷静になって来たのか、今度は場が荒れることはなかった。
 中にはさっそく改良版丸薬に興味が出てきたのか、まじまじと瓶を眺めている者もいる。というかこの村は私という存在と関わってきたせいか、はじめて会ったときよりも新しいものに寛容になったと思う。


「皆さんご存じの通り、『黒い死』はとてもうつりやすい感染病です。噂にもあるように『黒い死』はネズミなどの動物からもうつりますが、当然人から人にもうつります」
「ってことは、やっぱり家畜は燃やした方がええんが?」
「患者が増えすぎない限り、その必要はありません。ですが、家畜など動物と接したあとは念入りに清潔にしてください」


 そう答えてやれば、おそらく家畜を飼っている男性は分かりやすく安堵した様子だった。
 本当なら減らした方がいいかもしれないが、私の魔法がある分少し緩くても大丈夫だろう。ケイン村全員分の丸薬ならすぐに作れるし、彼らの生活へのダメージが少ない方がいいはずだ。


「あら、じゃあ家畜を殺すのは間違っていたっていう事かしら?」
「いえ、治療できる人がいない場合、できるだけ感染源を減らすのは大事なことですよ」
「この病気がうつるってのは分かったんだけど、俺普通に嫁と過ごしちまったんだ。嫁もかかっちゃったかな」


 人から人にもうつると言ったからか、みんな不安そうにしている。この村は狭い家に家族で生活しているのがほとんどなので、家族は全身感染していると考えた方がいいだろう。
 なるべく分かりやすい言葉に気を付けながら、順番に説明していく。一瞬しっかり説明しようとも考えたが、彼らの家族がこれ以上他の村人と接触しないためにも多少省いた方が良いだろう。


「そうですね、その可能性は十分にあると思います。患者と話したり、触れたり、触ったものに触れただけでも感染しますので」
「そ、そんな!」
「コハクちゃまや、まさかここであたいらだけに説明してるのは」
「はい。村人全員を一か所に集めたとして、それは余計に黒い死を広めているだけです。ひとまずここに居る”間違いなく健康”なみなさんに対策を教えますので、それを他の方に広めてください」


 丸薬はどうやら治癒魔法と相性がいいらしく、なんとのんだあとに無敵時間が発生する。そんな馬鹿なことある?と困惑したエダと二人で散々検証した結果、改良版丸薬をのんだあと24時間は何の状態異常にもならないことが判明したのだ。
 なお鑑定を引き受けてくれたミハイルは大爆笑していたが、たぶん私も生産者じゃなかったら笑ってた。無敵時間がある薬イズ何。むしろ無敵時間そのものが状態異常では。


「本当は薬師である私がお伝えしたいのですが、丸薬の在庫が少なくて……」


 まさかこんなことになるとは思っていなかったので、今日持ってきた分が全部なのだ。不信に思われないためにも、一度引き上げるべきだろう。


「ああ、そう言う事ならまかせな!何としても今日中に全員に伝えておくぞ!」
「ありがとうございます。明日には追加分を持ってくるので、残りは今ここに居るみなさんの家族に飲ませてください。包んでお渡ししますので、あとで必要数を教えてくださいね」
「……!ありがとうございます!」


 とりあえず急ぎの分は足りるだろう。
 安堵したように頭を下げる村人たちをちらりとみて、小声でミハイルに話しかける。


「ミハイルさん、先に戻って丸薬の準備をお願いできますか?50もあれば十分だと思います」
「はあ!?この状況でコハクちゃんを一人にしろって?」
「基本的な対策を教えたらすぐに帰るので大丈夫ですよ。フブキもいますし、うろちょろしたりしませんから」
「そうは言ってもねえ……」
『こんな狭い村じゃ何かしたらすぐにバレるし、馬鹿が現れないように俺が見張っておく。それよりも丸薬の準備に余計な魔力を取られる方が面倒だろう』


 それでもミハイルは渋い顔をしたが、一応はフブキの言葉に納得したようだ。
 眉間にしわを寄せながら私に防御魔法を何重もかけ、そして結界魔法もかけてやっと薬局から出ていった。別れる直前まで何度も振り返っていたが、私はそんなに危なっかしそうにみえるのだろうか。

 少し不満に思うもの、今はそれどころじゃないと気持ちを切り替えた。

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

なりすまされた令嬢 〜健気に働く王室の寵姫〜

瀬乃アンナ
恋愛
国内随一の名門に生まれたセシル。しかし姉は選ばれし子に与えられる瞳を手に入れるために、赤ん坊のセシルを生贄として捨て、成り代わってしまう。順風満帆に人望を手に入れる姉とは別の場所で、奇しくも助けられたセシルは妖精も悪魔をも魅了する不思議な能力に助けられながら、平民として美しく成長する。 ひょんな事件をきっかけに皇族と接することになり、森と動物と育った世間知らずセシルは皇太子から名門貴族まで、素直関わる度に人の興味を惹いては何かと構われ始める。 何に対しても興味を持たなかった皇太子に慌てる周りと、無垢なセシルのお話 小説家になろう様でも掲載しております。 (更新は深夜か土日が多くなるかとおもいます!)

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

影の聖女として頑張って来たけど、用済みとして追放された~真なる聖女が誕生したのであれば、もう大丈夫ですよね?~

まいめろ
ファンタジー
孤児だったエステルは、本来の聖女の代わりとして守護方陣を張り、王国の守りを担っていた。 本来の聖女である公爵令嬢メシアは、17歳の誕生日を迎えても能力が開花しなかった為、急遽、聖女の能力を行使できるエステルが呼ばれたのだ。 それから2年……王政を維持する為に表向きはメシアが守護方陣を展開していると発表され続け、エステルは誰にも知られない影の聖女として労働させられていた。 「メシアが能力開花をした。影でしかないお前はもう、用済みだ」 突然の解雇通知……エステルは反論を許されず、ろくな報酬を与えられず、宮殿から追い出されてしまった。 そんな時、知り合いになっていた隣国の王子が現れ、魔導国家へと招待することになる。エステルの能力は、魔法が盛んな隣国に於いても並ぶ者が居らず、彼女は英雄的な待遇を受けるのであった。

実は私が国を守っていたと知ってましたか? 知らない? それなら終わりです

サイコちゃん
恋愛
ノアは平民のため、地位の高い聖女候補達にいじめられていた。しかしノアは自分自身が聖女であることをすでに知っており、この国の運命は彼女の手に握られていた。ある時、ノアは聖女候補達が王子と関係を持っている場面を見てしまい、悲惨な暴行を受けそうになる。しかもその場にいた王子は見て見ぬ振りをした。その瞬間、ノアは国を捨てる決断をする――

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

戦地に舞い降りた真の聖女〜偽物と言われて戦場送りされましたが問題ありません、それが望みでしたから〜

黄舞
ファンタジー
 侯爵令嬢である主人公フローラは、次の聖女として王太子妃となる予定だった。しかし婚約者であるはずの王太子、ルチル王子から、聖女を偽ったとして婚約破棄され、激しい戦闘が繰り広げられている戦場に送られてしまう。ルチル王子はさらに自分の気に入った女性であるマリーゴールドこそが聖女であると言い出した。  一方のフローラは幼少から、王侯貴族のみが回復魔法の益を受けることに疑問を抱き、自ら強い奉仕の心で戦場で傷付いた兵士たちを治療したいと前々から思っていた。強い意志を秘めたまま衛生兵として部隊に所属したフローラは、そこで様々な苦難を乗り越えながら、あまねく人々を癒し、兵士たちに聖女と呼ばれていく。  配属初日に助けた瀕死の青年クロムや、フローラの指導のおかげで後にフローラに次ぐ回復魔法の使い手へと育つデイジー、他にも主人公を慕う衛生兵たちに囲まれ、フローラ個人だけではなく、衛生兵部隊として徐々に成長していく。  一方、フローラを陥れようとした王子たちや、配属先の上官たちは、自らの行いによって、その身を落としていく。

処理中です...