聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します

陽炎氷柱

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第二章

28.改良版丸薬

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 ペストのような感染力の強い感染症において、初期対策はとても大事だと思う。
 だがこのまま素直に村人に伝えてしまえばきっと混乱を招く。黙っていてもこの感染力じゃすぐに誰かが気づくはずだ。


「突然飛び出してごめんなさい。入口に丸薬を置き忘れてしまって」


 焦りがバレないように表情を作り、改良版丸薬の瓶を取り出す。ノラは突然飛び出した私を咎めることなく、むしろ不思議そうに瓶を見つめていた。


「おやまあ、そうだったんね。でも、まだ倉庫に残ていねけかい?」
「ふふ、実はこれ、改良版なんですよ!」
「改良版だ?そりゃ驚いたの。前のやつでもポーションより効いたのに」


(癒しの魔法をこっそり使ってたんだから、そりゃそうだよね!)


 実はあれただの栄養剤みたいなものなんですよとはいえず、にっこり笑顔を浮かべて誤魔化した。ちゃんと治療しているが、何だか悪徳商法している気分だ。
 まあ、その罪悪感から改良版丸薬が生まれたわけだが。


「あれ、それ」


 少し驚いたようなミハイルは、私の手元……改良版丸薬を見ていた。
 実は、この改良版には癒しの魔法がかかっているのだ。性能こそ大きく落ちてしまったが、それでも下級ポーションよりずっと効き目がいい。怪我や風邪程度なら、これだけであっという間に治せてしまう。


『魔法を使わないのか?』
「うん。このペストは感染力が強くてね、一気に増えすぎると私の魔力が足りなくなるわ。それに、必ず丸薬をのむところに居合わせなきゃいけないから、誰かが怪しむかもしれないし」
「そうだねえ。口止めも難しいだろうし、話が広まれば治して欲しい人が押し寄せてくると思うよ。一日数人しか治せないんじゃ、感謝より先に暴動が起きるだろうね」
『む、それは困る』


 もちろんこの改良版だって作るのに魔力が必要だから大量生産はできないが、それでも直接魔法を使うよりずっと効率がいい。誰でも作れる丸薬に魔法をかけていくだけだから、一日に少なくとも百は作れるしね。


「しっかし、そんなすごい薬をあたしゃが使うのは勿体ないのう。流行り病が怖くて来てみたはええが、所詮だるいだげじゃしの」
「まあ、そういう軽い気持ちが病気を拗らせるんですよ!ノラさんだって、ずっと眠れないのはお辛いでしょう」
「うむ……それを言われるどのう。コハクちゃまの薬はよく効くし、ありがたくのむさね」


 ノラが丸薬をのむのに合わせて鑑定を発動させる。
 どんな繊細な変化も見逃さないようにじっと観察していると、不調を示すマーカーがゆっくりと小さくなっていくのが確認できた。
 直接癒しの魔法を使うより何倍も遅いが、ちゃんと効果は出ているぞ!


「……?おやまあ、何だが急に息がしやすくなだような」
「コハクちゃん!腕にあったシミが消えてるよ!」


 ミハイルの声を聞き流しながら、期待通りに結果が表れてほっと胸を撫でおろす。これで最悪の結果は避けられる、はずだ。


「あたしゃはじめてコハクちゃまの丸薬をのんだが、本当によぐ効くんだねえ。さきまでのだるさが嘘みてえだ」
「ノラさん、実はそのことで大事な話があるのですが」


 できるだけ真剣な顔を意識して話しかける。


「ノラさんは、流行り病を知っていますか?」
「そりゃねえ。確か、黒い死とか言われとったわい」
「実は私、ずっと流行り病……黒い死の治療法を探していたんです。私が丸薬を使うのも、ポージョンが効かないからです」


 もちろん今付けた設定である。
 あらかじめ話を通してあったミハイルは姿が見られないのをいいことに腹抱えて笑っている。研究してる割に正式名称も知らないからだろう。ちょっとは大人しいフブキを見習ってほしい。


「不安にさせたくなくて黙っていたんですけど、さっきノラさんが飲んだ丸薬は黒い死の特効薬なんです。それが効いたということは……ノラさんは黒い死にかかっていたんです」


 ノラは小さく息をのんだが、あまり驚いた様子はない。
 説明もなく薬を飲ますなんて現代じゃ考えられないが、今ばかりここが異世界でよかったと思う。


「薄々そうだとは思ったが、やっぱりそうかい。でも、あたしゃはもう治ったんだろう?」
「はい!まだ不調がなければ、もう大丈夫だと思います」


 ペストを一瞬で治すなんて、癒しの魔法って本当にすごい。この世界で聖女が敬われるのも分かる気がする。
 というかどんな病気も呪文一つで治せるんだから、日本でも同じか。


「してやコハクちゃま。もしかして、待合室にいる連中もみんな黒い死に掛かってるのかい?」


 一人納得している私に、再び表情を暗くしたノラが問いかけてきた。

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