聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します

陽炎氷柱

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第二章

24.単独診察

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 丸薬の数をもう一度数え直して、エダがくれた瓶に入れる。
 私の作業が終わるのを見計らって、エダは申し訳なさそうに切り出した。


「すまないが、アタシは今日の往診に行けそうにないんだ」


 昨夜まで全くそんな素振りはなかったのに。予想外の言葉に、私は思わず立ち尽くしてしまう。


「今朝王都から緊急連絡が来てね。何やら結構大ごとみたいでね、ちょいと顔を出さなきゃならんのさ」
「王都からですか」


 最近やっと覚えてきたこの付近の地理を思い出す。
 ここから王都まではワープできたはずだから、移動にはそんなに時間はかからないだろう。しかしエダの話を聞くに、そう簡単に終わる話じゃなさそうだ。


「じゃあ、今日の往診は中止ですね」


 私の丸薬は一応生薬という括りなのだが、状態保存の魔法をかけてしまえば消費期限なんて無いようなものだ。
 次回の往診に使えば無駄になることは無いだろう。


「いいや、今回の往診はコハクだけで行ってもらおうと思ってね。アンタのやり方にゃ口出しできないし、村人への対応もしっかりしてるしな。アタシが居なくても問題はないだろ」
「私一人で行くんですか!?」
「まさか。ミハイルに姿隠しさせて護衛させるよ。他人には見えないから話はしづらいだろうけど、一人よりはマシだろうよ。」
「……本気ですか?」
「本気さね。それに何だかんだ一か月経つし、そろそろ独り立ちしてもいいんじゃないかって思っていたところだよ」


 ブラック企業もブルーになる言葉に、私は震えた。
 もちろん精一杯の抵抗を示したが、ことごとくエダに切り伏せられた。


(もうあいつらに薬師がいないって不安にさせたくないって言われたら、うなずくしかないよね)



 私になら任せてもいいという期待に応えようじゃないか。




。。。




 すっかり慣れたワープでケイン村の近くまで移動すると、ミハイルは姿隠しの魔法を使った。私の目では半透明になっただけなのでいまいち不安だが、ここはミハイルの腕を信じるしかない。


「いやあ、久しぶりにこういうところに来たなあ」
「ミハイルさん、あんまり外に行かないですよね」
「ぼくって人目を引くみたいでさ、どこに行ってもすっごく見られるんだよね。あまりにも視線がうっとうしいから、つい足が重くなっちゃうんだよ」
『コイツにもそう言う気持ちはあるんだな』


 イケメンはどこの世界でも似たような悩みを持つんだね。でもミハイルほどの顔面なら、つい眺めてしまう気持ちも分かる。


「こういう機会がなきゃ姿隠しの魔法は使わないし、せっかくだから今日はじっくりコハクちゃんのお仕事を見学するね!」
「飽きたとしてもあんまり遠くに行かないでくださいね」
「そんなの飽きるわけないよ」
『俺も見張っておこう』


少し不安な気持ちはあるものの、門が見えてきたので一旦話をやめる。それと同時に門番の青年も私に気づいたようで、満面の笑みで迎えてくれた。


「今日もありがとうございます、コハクさま!いつもの空き家はもう用意できていますよ」
「こんにちは、今回も掃除して頂いてありがとうございます」
「いえいえ、先生たちにはとてもお世話になっているのでこれくらいは……あれ、今日はお一人ですか?」
「はい。師匠は急用で王都の方に行きました」
「なんと!では、今日はコハクさまの初めての単独診察ですね!」


 特に気にした様子のない門番の態度に少し安心する。むしろ彼は嬉しそうにしていて、純粋に応援してくれているようだ。


「へえ、ちゃんと薬師として認めてるんだね。師匠は鼻が高いよ!」
『お前が教えているのは実践魔法だろ』


 二人に返事はできないので、門番に気付かれないように小さく微笑み返す。実践魔法もちゃんと役に立っているよ!


「そっす、こないだ腰を痛めていたコリンナさんですが、鍋を片手にウィルくんを追いかけられるくらいに元気になりましたよ!」
「あはは、元気そうでよかったです。他のみなさんもお変わりはないですか?」
「それはもう、みんな元気すぎて十歳若返ったみたいっす!隣の村の連中が羨ましがってましたよ!」


 丸薬をもっといい物にすべく気軽に村人に配っていたのだが、さっそく効果が出ているようだ。一か月で近隣の村が反応してくれたし、やはり人の噂話は早いと細く微笑む。
 とそこで、にこにこと報告していた門番は何か思い出したように声を上げた。


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