聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します

陽炎氷柱

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第一章

11.これから

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「さて。大事なことはだいたい済ませられたし、そろそろ移動しようか」


 私が少し落ち着いたのを見計らって、ミハイルはそう切り出した。


「移動、ですか」
「ずっと洞窟《ここ》に居る訳にもいかないからね。最低限の生活さえできる状態じゃないし、野宿の経験がないぼくじゃ足りないところも多いだろうし」
『俺も賛成だ。不慣れな野宿は逆に体力を消耗させるだけだからな』
「それはそうだけど……他に行くところないのよ」


 何しろ私は家無し金無し頼れる人無しの異世界人だ。町に出たとしても悪目立ちするだけだと思うし、万が一私が生きていると夢野に知られたら困る。


「……まさかと思うけど、ぼくが一人でどっかに行くと思ってるの?コハクちゃんをこのままにして?」
「えっ、私を連れていってくれるんですか?」
「…………」
「……」
「…………」


 ミハイルは無言で私のほっぺたを横に引っ張った。わりとというか待って結構痛い!?


「み、みひゃいるしゃん!いら、いらいれふ!!」
「痛くしてるんだよ!もう、ぼくがそんな人に見えるのかな!?」
「いら、あほ、ほんろうにいらい!」
『……今のはコハクが悪いと思うぞ』


 そして一通りミハイルが満足するまでこねくり回された私のほっぺたは見事に赤くなってしまった。心なしか少し伸びてる気がする。まさかフブキまでミハイルの味方になるとは。


「一緒に魔法練習しようねって言っても何も言わなかったのに……」
「てっきり社交辞令かと思ったんですよ」


 ミハイルは社交辞令を言わないタイプだとは思うが、初対面の人の言葉を信じれるわけないだろう。


(もしかしてミハイルさん、大事なことは言わないタイプなのかな)


『コイツが言葉足りないのは認めるが、それを逆手に取って図太くいったほうが丁度いいと思うぞ。コハクにはその権利がある』
「権利、ねえ」


 確かに私を召喚したのはミハイルだけど、それは国に命令されたからだし。そもそもどんな理由があったとしても、助けてくれた事実は変わらない。
 これ以上何か求めるのはちょっと違う気がするのだ。


『コハクが納得しているなら俺も構わないが……コイツが顔を歪ませるくらいの要求を突き付けてもいいんだぞ?』
「話が矛盾してるよ。しないってば」
「フブキの目線が刺さるなあ」


 すっとフブキから目をそらしたミハイルは、気を取り直すように息をついた。


「避難先だけど、ぼくに心当たりがあるんだ。ここからそう遠くないから、日が落ちる前に着くと思う。……コハクちゃんさえよければ、いっしょに行こうよ」
「!こちらこそよろしくお願いします。お世話になります!」
『はっ、ちゃんと言えるじゃないか』


 そんなわけで、私たちはすぐに出発することになった。正直廃屋でもいいから、洞窟に何泊もするのは避けたいよね。


「追手が来るとは思えないけど、一応痕跡を消しておくね。落とし物はない?」
「大丈夫です!」
「よし。それじゃあ、コハクちゃんはちょっと下がっててね」


 言われた通りに一歩下がると、ミハイルは私が寝ていた葉っぱのベッドを指差した。すると次の瞬間、木の葉ベッドが炎に包まれる。勢いのいい炎は不思議なことに燃え広がることなく、ただ葉っぱだけを燃やしていく。


「これが、火魔法?」
「今のは火炎《ファイア》という下級魔法だよ」
『どうやら口だけじゃないようだな。下手な中級魔法より火力があるぞ』


 フブキはフンスと鼻を鳴らしただけだが、それってもしかしなくてもすごいことなのではないだろうか。
 瞬く間に灰になってしまった元葉っぱに、私は思わず遠い目をした。


「よし、これで大丈夫かな。道中疲れたらいつでも休憩入れるから、無理しないでね」
「はい!」
『俺の背中に乗っても構わないぞ』
「ううん、できるだけ自分でがんばるよ」


 銀狼の背中は確かに魅力的ではあるけど、余裕があるうちに山歩きに慣れておきたい。
そうしてもふもふの誘惑をなんとか断ち切って、私たちはミハイルの案内を頼りに洞窟を離れた。



。。。



「そういえば、フブキはどうしてミハイルさんを私のところに?」


 せっかくだからと鑑定をしながら進んでいると、ふと気になっていた疑問が口をついた。


『俺は獣を追い払うことしかできなかったからな。"人手"が必要だったから、害意のないそいつを通してやった』


 私を運んだり、手当したり、起きたときに状況説明をする存在が必要だったという事だろう。


(契約してない状態じゃフブキと話せなかったし、猫の子みたいに運べなかったんだろうなあ)


 気を使ってもらえたことが嬉しくて、移動中であることを忘れて思いっきり抱き着く。
 移動するにあたって私の腰ほどに大きくなったフブキはそれにまったく動じず、そのふわふわな頭を押し付ける余裕まで見せた。


「私、めちゃくちゃフブキに助けて貰っていたんだね!あの時逃げたりしてごめんね……!」
『あの状況じゃ仕方ないさ。俺だって、あんな事さえなければ子犬の姿で会うつもりだったんだ』


 フブキの顔は見えなかったが、その声色はどこか拗ねているように聞こえた。
 実際に怯えた私はいいフォローを思いつけず、もう怖くないよという気持ちを込めてさらに強くフブキを抱きしめる。


「さて、歩きにくい姿勢で進んでいる二人にいいお知らせだよ」


 もふもふに取り込まれて半ば運んで貰っていた私は、その言葉でしぶしぶ立ち上がる。
 それにしてもフブキ、まったく文句を言わないどころかしっぽを振っていたけど、歩きにくくはなかったのかな。


「目的地が見えてきたよ。ほら、あそこに」


 ミハイルの指先を追うと、その先には木に隠れるように民家がひっそりと建っていた。
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