聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します

陽炎氷柱

文字の大きさ
上 下
8 / 60
序章

08.使い魔契約

しおりを挟む
  次から次へと飛躍していく話題に目を回している私に、ミハイルはマイペースに説明してくれた。

 私を召喚した国の正式名称はヨークブラン神聖王国で、今はグロスモント王国という国と戦争しているとのこと。当初は大国だと余裕をかましていたらしいが、普通に善戦されてこのままだと負けるところまで来てしまったのだ。

 そこでやつらは〈召喚の儀〉という魔法で、すごい力を持った聖女を召喚して何とかして貰う計画を立てたようだ。本当に自己中心で他力本願なふざけた話である。


「〈召喚の儀〉には膨大な魔力が必要でね。あの国は雑魚しかいないから、ぼくが一人で儀式をすることになったんだ」


 断れなかったミハイルは万全な準備で当日を迎えたが、予想外のトラブルが起きてしまった。

 私と夢野の二人が召喚されてしまったのだ。
 一人しか召喚されないと思っていたところに、対象がいきなり二倍になってしまった。余裕があったはずのミハイルは召喚が成功した瞬間に気絶してしまい、召喚後に行うはずだった鑑定といった予定がほとんど流れてしまったのだ。


「流れてしまったって、全部ミハイルさんの一人の仕事だったんですか?」
「馬車馬のように働かされたよ。目覚めるや否や鑑定させておいて、"聖女さまが我々を騙しているとでもいうのか!魔導士殿は〈召喚の儀〉で頭がおかしくなったようだな!"って幽閉されかけたし」
「うわぁ……」


(そういえばあの人たち、鑑定できる人が誰もいないって騒いでいたっけ)


 誰も見えないから、逆に夢野が聖女じゃないと気付いたミハイルは異質だった。それで吹っ切れたミハイルが夜逃げの算段を立てていると、私が帰らずの森に追放されたと知ったらしい。

「今頃はフェンリルから逃げた兵士たちも王城に着いた頃だろうから、もうコハクちゃんは死んだことにされていると思うよ」
「悲しめばいいのか喜べばいいのか……」
「死んだと思われた方が変に追われなくて済むし、喜んでいいと思うよ」
「そうですかね……」


 夢野はしつこいところがあるから、私が生きているって分かればまた殺そうとしてくるかもしれない。罪人として指名手配されても困るし、ここは縁が切れてよかったと思っておこう。


「あれ、結局どうしてミハイルさんはここに?」
「白いフェンリルは聖女様の使い魔だって聞いたことがあってね。コハクちゃんが生きてる可能性にかけて、ぼくも追放されてやったんだ」
「それは胸張って言う事じゃないんですよ」


 どこに出しても恥ずかしくない罪人二人組の出来上がりである。
 この森に入るイコール死亡になるからいいものの、下手したら冤罪で一生人前に出られなくなるんだぞ。


「で、ここに来たのはいいものの、ぼくは君がどこにいるのか全く分からないことに気が付いたんだ」
「すごい行き当たりばったり……よく私を見つけられましたね」


 私が気絶したころには日が落ちていたはずだ。ただでさえ足場の悪い森の中なのに、意識のない人間を探すのは相当苦労しただろう。


「うん、フェンリルが案内してくれたんだ」
「え、フェンリルって」
「グルルッ」


 足元から自慢げな鳴き声がした。そっと足元のもふもふの存在を思い出して、まさかそんなと祈りつつミハイルの視線をたどる。


「グルッ」
「…………………………ずいぶん、縮んだんだね」


たっぷりと熟慮した結果、私が言えたのはそれだけだった。


「その子、気絶したコハクちゃんをずっと守っていたんだ」


 ミハイルの説明によると、気絶した私が獣とかに襲われなかったのはフェンリルのおかげだそうな。聖女の魔力を辿ってみれば、私は殺される寸前。
兵士を肉体的にちぎっては投げていたあの巨大な狼が本来の姿で、怒りに我を忘れてつい暴れてしまったんじゃないのかって。

今こうして小さな犬の姿になっているのも、私を怖がらせたことを気にしているかららしい。


「ねえ、ミハイルさんが言ったことは本当?」
「くぅん」


 話を聞いた私はしゃがんで、白い犬と目を合わせた。そのルビーのような瞳は、確かにあの狼とまったく同じ色だ。


「そうだ。コハクちゃん、使い魔の契約をしてみない?意思疎通できないのは不便でしょ」
「使い魔の契約?」
「魔導士と魔獣の間に魔力のつながりを持つことだよ。そうすることで魔獣は魔力不足を恐れなくて済むし、契約者は魔獣を使役できるようになる」


 魔獣って確か、普通の動物と違って魔法とか使えるすごい生き物だったよね。他にも身体能力が高かったり、知能があったり。


「それに、使い魔の契約を結んだ魔獣とはどこにだって一緒に居られる。人間で性別も違うぼくじゃいつも一緒に居られないからね。フェンリルも望んでいるし、悪いことはないよ」
「ハフッ!」


 ミハイルの言葉を肯定するように、フェンリルが鳴き声を上げる。
 心なしかきらきらと輝いているその瞳を見つめ返しながら、私は心を決めた。


「分かりました、契約します!どうすればいいんですか?」
「使い魔の契約は簡単だよ。使い魔に名付けて魔力を込めて呼ぶ……"契約して欲しい"って念じながら名前を読んであげて。あとはフェンリルが了承すればそれで契約成立だ」
「私が名付けるんですか!?」


 てっきり魔法陣に血を垂らして名乗り合うのかと思ったが、もっと平和的だった。フェンリルの期待に満ちた目を除けば。
 というか私、普通に日本語で会話しているけど、この世界の共通語はたぶん日本語じゃないよね。やっぱり外国人も言いやすい名前の方がいいかな。


「えっと……フブキ、なんてどうでしょうか」


 さんざん悩んだ私は、大人しく和風な名前を付けることにした。結局一番呼ぶのは私だろうし、馴染みがある方が呼びやすいしね。


「フブキ?変わった響きだねえ」
「私の国の言葉で、強い風と一緒に降る雪のことです。あの大きな体と真っ白な毛並みが忘れられなくて」


 方法は過激だったけど、あれは私を守るためだった。あの時、フェンリルが居なかったら首と胴がさよならしていたのは私の方だ。
 そう思いながらミハイルに名前の由来を教えると、カチリと胸の奥で何かが引っかかる感じがした。それを疑問に思う前に、頭にミハイルよりずっと低い男性の声が響いた。
 

『____やっと名を与えてくれたか』
「え……?」
「今、コハクが聞こえたのはフェンリルの声だよ。契約が成立したから、念話できるようになったんだ」
「そういう大事なことは!先に言ってください!」


 この人は私を驚かせたいのだろうか。


『主よ、お前の名前も教えてくれ』
「私は聖川心白。契約成立、ってことでいいんだよね?これからよろしくね、フブキ」
『ああ。この命が尽きるまで、コハクに忠誠を誓おう』


 そういうと、フブキは遠吠えを一つ上げて頭を下げた。
 この時から、私の生活に伸縮自在な賢い魔獣が一匹参加することになったのだ。

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

なりすまされた令嬢 〜健気に働く王室の寵姫〜

瀬乃アンナ
恋愛
国内随一の名門に生まれたセシル。しかし姉は選ばれし子に与えられる瞳を手に入れるために、赤ん坊のセシルを生贄として捨て、成り代わってしまう。順風満帆に人望を手に入れる姉とは別の場所で、奇しくも助けられたセシルは妖精も悪魔をも魅了する不思議な能力に助けられながら、平民として美しく成長する。 ひょんな事件をきっかけに皇族と接することになり、森と動物と育った世間知らずセシルは皇太子から名門貴族まで、素直関わる度に人の興味を惹いては何かと構われ始める。 何に対しても興味を持たなかった皇太子に慌てる周りと、無垢なセシルのお話 小説家になろう様でも掲載しております。 (更新は深夜か土日が多くなるかとおもいます!)

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

影の聖女として頑張って来たけど、用済みとして追放された~真なる聖女が誕生したのであれば、もう大丈夫ですよね?~

まいめろ
ファンタジー
孤児だったエステルは、本来の聖女の代わりとして守護方陣を張り、王国の守りを担っていた。 本来の聖女である公爵令嬢メシアは、17歳の誕生日を迎えても能力が開花しなかった為、急遽、聖女の能力を行使できるエステルが呼ばれたのだ。 それから2年……王政を維持する為に表向きはメシアが守護方陣を展開していると発表され続け、エステルは誰にも知られない影の聖女として労働させられていた。 「メシアが能力開花をした。影でしかないお前はもう、用済みだ」 突然の解雇通知……エステルは反論を許されず、ろくな報酬を与えられず、宮殿から追い出されてしまった。 そんな時、知り合いになっていた隣国の王子が現れ、魔導国家へと招待することになる。エステルの能力は、魔法が盛んな隣国に於いても並ぶ者が居らず、彼女は英雄的な待遇を受けるのであった。

実は私が国を守っていたと知ってましたか? 知らない? それなら終わりです

サイコちゃん
恋愛
ノアは平民のため、地位の高い聖女候補達にいじめられていた。しかしノアは自分自身が聖女であることをすでに知っており、この国の運命は彼女の手に握られていた。ある時、ノアは聖女候補達が王子と関係を持っている場面を見てしまい、悲惨な暴行を受けそうになる。しかもその場にいた王子は見て見ぬ振りをした。その瞬間、ノアは国を捨てる決断をする――

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

戦地に舞い降りた真の聖女〜偽物と言われて戦場送りされましたが問題ありません、それが望みでしたから〜

黄舞
ファンタジー
 侯爵令嬢である主人公フローラは、次の聖女として王太子妃となる予定だった。しかし婚約者であるはずの王太子、ルチル王子から、聖女を偽ったとして婚約破棄され、激しい戦闘が繰り広げられている戦場に送られてしまう。ルチル王子はさらに自分の気に入った女性であるマリーゴールドこそが聖女であると言い出した。  一方のフローラは幼少から、王侯貴族のみが回復魔法の益を受けることに疑問を抱き、自ら強い奉仕の心で戦場で傷付いた兵士たちを治療したいと前々から思っていた。強い意志を秘めたまま衛生兵として部隊に所属したフローラは、そこで様々な苦難を乗り越えながら、あまねく人々を癒し、兵士たちに聖女と呼ばれていく。  配属初日に助けた瀕死の青年クロムや、フローラの指導のおかげで後にフローラに次ぐ回復魔法の使い手へと育つデイジー、他にも主人公を慕う衛生兵たちに囲まれ、フローラ個人だけではなく、衛生兵部隊として徐々に成長していく。  一方、フローラを陥れようとした王子たちや、配属先の上官たちは、自らの行いによって、その身を落としていく。

処理中です...