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第二章 真実の目
廃遊園地の探索
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「ったく、もう二度と飛び出すなよ」
「おかげで助かったとはいえ、君の膝から血が出たときは本当に肝が冷えたぞ」
そういうフーゴとロゼットの声色には隠しきれない心配の色が含まれていた。治癒魔法も浄化魔法も使って今じゃ傷一つないのに、ずいぶんと心配性だ。
ルチアは苦笑いをぐっと堪えて、代わりに申し訳なさそうな笑顔を浮かべた。
「ごめん、私もとっさのことでつい前に出過ぎちゃった。これから気を付けるね」
とはいえ似たような状況になれば、また飛び出す自信があるので約束はしないルチアであった。
「それより、早くアーノルド先輩と合流しようよ」
「そのアーノルド先輩が待機しとけって言ってたの、もう忘れたわけ??」
フーゴは口をへの字にして、ルチアを怪訝そうな目で見た。
「先輩は“あんまり動かないで”って言ったのであって、別に待機とは言ってないよ」
「俺もルチアに賛成だ。いくら二人が役職持ちでも、あの量のマネキンが襲い掛かってきたら魔力を消耗するだろ。せめてここから出た方が良い気がする」
そう言いながら、ロゼットは険しい顔でショーウィンドウの外をみた。その視線の先には先ほどスレッドにも上げた大量のマネキンが視える。
こうしている間にもその姿は少しづつ鮮明になっていき、着実にこちらに近づいていることが分かる。悩んでいる時間はあまりないだろう。フーゴもそれが分かっているのか、肺を空っぽにする勢いでため息をついた。……すぐに血の匂いにむせていたが。
「で、脳筋の二人はそう言ってますけど、アーノルド先輩はどう思いますか」
その問いかけはルチアのスマホに向けられていた。その画面には通話中という文字が光っていた。
――当初の予定とは違い、情報共有は二手に分かれていた。
どういう手を使ったかはルチアには予想もできないが、アーノルドは異界に居ながらもこちらに電話をかけてきたのだ。以前スカーレット嬢に招かれたときにフレンド追加されていたため、ルチアのスマホは今アーノルドとの通話専用になっている。
なおロゼットのスマホは変わらず温存用だ。
『アンタレスの得意魔法は水魔法だったか?』
しばしの沈黙、アーノルドはそう訪ねた。突然話を振られたロゼットは目を丸くしたもののすぐに答えた。
「俺は水と、気持ち氷魔法が得意です」
『威力はどれくらいだ?』
「えっと、水なら教室一つ分くらい出せます!氷魔法は簡単な造形物が作れるくらいで、何かを凍らすのはまだ苦手です」
ちなみにヘスティアとフーゴは炎魔法の特化型で、ルチアは何でも適性がある万能タイプだ。
パッと見は何でも使える万能型が強そうに感じられるが、同時に熟練度がバラけてしまい、器用貧乏になりがちだ。それもあって得意の属性に絞った特化型魔法使いが評価される傾向にあるが、ルチアは万能型の中でもかなりの成功例だ。
(故郷で鍛えられたおかげだなあ。年の近い子たちで魔法使える私とフーゴだけだったし、フーゴはもう最初から属性がとがっていたから私が頑張るしかなかったもの)
この様子だとロゼットも特化型だと思うが、この年でサブ属性もあるのなら優秀な方だろう。フーゴも浄化をサブで持っているが、あれはほとんど体質でノーカウントだ。
『いや、二属性も待っているのなら十分だ。サンタリオもカルドも攻撃が得意だから、サポート魔法が多い水と氷属性は相性がいい』
「まあ、そうじゃなくても水はオレと相性がいいし?」
そう言いつつも、友人が褒められてフーゴはどこか嬉しそうだ。
『ああ、お前たちは友人だったか。なら連帯も問題なさそうだな』
「……先輩、その言い方ってもしかして」
『フッ、察した通り、そのマネキン包囲を突破しろ』
「うっっそだろ」
怖いものが苦手なフーゴは分かりやすく顔色を悪くした。電話越しじゃ顔色が見えないせいか、アーノルドはどんどん話を進めていく。
『お前たちはここの地図を持っているんだったな。今どこにいるのか分かるか?』
「はい、おおよその位置は把握できています」
『俺は今管制室にいるが、合流できそうか?』
フーゴは撮った地図の写真に視線を落とした。なんだかんだ言いながらも頑張っている。
「んー、こっからそう遠くなさそうっすね。売店エリアと管制室の間に何もないみたいですし、迷う可能性もないと思います」
その言葉で、私たちの移動先が決まった。ロゼットとフーゴもいつでも魔法を使えるように魔導書を呼び出す。両手が塞がるのを防ぐため、音声入力に切り替えてスマホを浮遊魔法で浮かせる。
『管制室は完全防音みたいだから、ノックはいらない。一応ここから監視カメラで外を見れるが、何台か壊れているみたいで死角が多い。着いたら電話で言ってくれ』
「監視カメラがあるってことは最近の遊園地なのかしら」
「お前、今の話聞いて最初に言うのがそれなわけ?」
「他に何かあるのか?」
「あるだろ!異界化してるのに何で電力あるのとか、何でまだ動いてるのとか!」
「なるほど!まだ監視カメラが機能しているからアーノルド先輩は俺たちが囲まれてるって分かったんだな!」
「だからそうじゃねえって!てか今気づいたのかよ!」
ハッとしたような顔をしたロゼットにフーゴが肩を落とした。空気が少し緩んだところで、アーノルドは口を開いた。
『お前たちの実力なら問題ないと思うが、突破する際はなるべく目立たないようにやれ。さっきのピエロが倒されたことで向こうも動き出すはずだ』
「ねえ、やっぱりここに立てこもらねえ……?」
「うーん、それは難しいかも」
再び顔色が悪くなったフーゴが怪訝そうルチアを見た。
「もう気づかれたみたい」
「おかげで助かったとはいえ、君の膝から血が出たときは本当に肝が冷えたぞ」
そういうフーゴとロゼットの声色には隠しきれない心配の色が含まれていた。治癒魔法も浄化魔法も使って今じゃ傷一つないのに、ずいぶんと心配性だ。
ルチアは苦笑いをぐっと堪えて、代わりに申し訳なさそうな笑顔を浮かべた。
「ごめん、私もとっさのことでつい前に出過ぎちゃった。これから気を付けるね」
とはいえ似たような状況になれば、また飛び出す自信があるので約束はしないルチアであった。
「それより、早くアーノルド先輩と合流しようよ」
「そのアーノルド先輩が待機しとけって言ってたの、もう忘れたわけ??」
フーゴは口をへの字にして、ルチアを怪訝そうな目で見た。
「先輩は“あんまり動かないで”って言ったのであって、別に待機とは言ってないよ」
「俺もルチアに賛成だ。いくら二人が役職持ちでも、あの量のマネキンが襲い掛かってきたら魔力を消耗するだろ。せめてここから出た方が良い気がする」
そう言いながら、ロゼットは険しい顔でショーウィンドウの外をみた。その視線の先には先ほどスレッドにも上げた大量のマネキンが視える。
こうしている間にもその姿は少しづつ鮮明になっていき、着実にこちらに近づいていることが分かる。悩んでいる時間はあまりないだろう。フーゴもそれが分かっているのか、肺を空っぽにする勢いでため息をついた。……すぐに血の匂いにむせていたが。
「で、脳筋の二人はそう言ってますけど、アーノルド先輩はどう思いますか」
その問いかけはルチアのスマホに向けられていた。その画面には通話中という文字が光っていた。
――当初の予定とは違い、情報共有は二手に分かれていた。
どういう手を使ったかはルチアには予想もできないが、アーノルドは異界に居ながらもこちらに電話をかけてきたのだ。以前スカーレット嬢に招かれたときにフレンド追加されていたため、ルチアのスマホは今アーノルドとの通話専用になっている。
なおロゼットのスマホは変わらず温存用だ。
『アンタレスの得意魔法は水魔法だったか?』
しばしの沈黙、アーノルドはそう訪ねた。突然話を振られたロゼットは目を丸くしたもののすぐに答えた。
「俺は水と、気持ち氷魔法が得意です」
『威力はどれくらいだ?』
「えっと、水なら教室一つ分くらい出せます!氷魔法は簡単な造形物が作れるくらいで、何かを凍らすのはまだ苦手です」
ちなみにヘスティアとフーゴは炎魔法の特化型で、ルチアは何でも適性がある万能タイプだ。
パッと見は何でも使える万能型が強そうに感じられるが、同時に熟練度がバラけてしまい、器用貧乏になりがちだ。それもあって得意の属性に絞った特化型魔法使いが評価される傾向にあるが、ルチアは万能型の中でもかなりの成功例だ。
(故郷で鍛えられたおかげだなあ。年の近い子たちで魔法使える私とフーゴだけだったし、フーゴはもう最初から属性がとがっていたから私が頑張るしかなかったもの)
この様子だとロゼットも特化型だと思うが、この年でサブ属性もあるのなら優秀な方だろう。フーゴも浄化をサブで持っているが、あれはほとんど体質でノーカウントだ。
『いや、二属性も待っているのなら十分だ。サンタリオもカルドも攻撃が得意だから、サポート魔法が多い水と氷属性は相性がいい』
「まあ、そうじゃなくても水はオレと相性がいいし?」
そう言いつつも、友人が褒められてフーゴはどこか嬉しそうだ。
『ああ、お前たちは友人だったか。なら連帯も問題なさそうだな』
「……先輩、その言い方ってもしかして」
『フッ、察した通り、そのマネキン包囲を突破しろ』
「うっっそだろ」
怖いものが苦手なフーゴは分かりやすく顔色を悪くした。電話越しじゃ顔色が見えないせいか、アーノルドはどんどん話を進めていく。
『お前たちはここの地図を持っているんだったな。今どこにいるのか分かるか?』
「はい、おおよその位置は把握できています」
『俺は今管制室にいるが、合流できそうか?』
フーゴは撮った地図の写真に視線を落とした。なんだかんだ言いながらも頑張っている。
「んー、こっからそう遠くなさそうっすね。売店エリアと管制室の間に何もないみたいですし、迷う可能性もないと思います」
その言葉で、私たちの移動先が決まった。ロゼットとフーゴもいつでも魔法を使えるように魔導書を呼び出す。両手が塞がるのを防ぐため、音声入力に切り替えてスマホを浮遊魔法で浮かせる。
『管制室は完全防音みたいだから、ノックはいらない。一応ここから監視カメラで外を見れるが、何台か壊れているみたいで死角が多い。着いたら電話で言ってくれ』
「監視カメラがあるってことは最近の遊園地なのかしら」
「お前、今の話聞いて最初に言うのがそれなわけ?」
「他に何かあるのか?」
「あるだろ!異界化してるのに何で電力あるのとか、何でまだ動いてるのとか!」
「なるほど!まだ監視カメラが機能しているからアーノルド先輩は俺たちが囲まれてるって分かったんだな!」
「だからそうじゃねえって!てか今気づいたのかよ!」
ハッとしたような顔をしたロゼットにフーゴが肩を落とした。空気が少し緩んだところで、アーノルドは口を開いた。
『お前たちの実力なら問題ないと思うが、突破する際はなるべく目立たないようにやれ。さっきのピエロが倒されたことで向こうも動き出すはずだ』
「ねえ、やっぱりここに立てこもらねえ……?」
「うーん、それは難しいかも」
再び顔色が悪くなったフーゴが怪訝そうルチアを見た。
「もう気づかれたみたい」
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