ここは超常現象お悩み相談所ではありません

陽炎氷柱

文字の大きさ
上 下
25 / 25
第二章 真実の目

廃遊園地の探索

しおりを挟む
「ったく、もう二度と飛び出すなよ」
「おかげで助かったとはいえ、君の膝から血が出たときは本当に肝が冷えたぞ」


 そういうフーゴとロゼットの声色には隠しきれない心配の色が含まれていた。治癒魔法も浄化魔法も使って今じゃ傷一つないのに、ずいぶんと心配性だ。
 ルチアは苦笑いをぐっと堪えて、代わりに申し訳なさそうな笑顔を浮かべた。


「ごめん、私もとっさのことでつい前に出過ぎちゃった。これから気を付けるね」


 とはいえ似たような状況になれば、また飛び出す自信があるので約束はしないルチアであった。


「それより、早くアーノルド先輩と合流しようよ」
「そのアーノルド先輩が待機しとけって言ってたの、もう忘れたわけ??」


 フーゴは口をへの字にして、ルチアを怪訝そうな目で見た。


「先輩は“あんまり動かないで”って言ったのであって、別に待機とは言ってないよ」
「俺もルチアに賛成だ。いくら二人が役職持ちでも、あの量のマネキンが襲い掛かってきたら魔力を消耗するだろ。せめてここから出た方が良い気がする」


 そう言いながら、ロゼットは険しい顔でショーウィンドウの外をみた。その視線の先には先ほどスレッドにも上げた大量のマネキンが視える。

 こうしている間にもその姿は少しづつ鮮明になっていき、着実にこちらに近づいていることが分かる。悩んでいる時間はあまりないだろう。フーゴもそれが分かっているのか、肺を空っぽにする勢いでため息をついた。……すぐに血の匂いにむせていたが。


「で、脳筋の二人はそう言ってますけど、アーノルド先輩はどう思いますか」


 その問いかけはルチアのスマホに向けられていた。その画面には通話中という文字が光っていた。

――当初の予定とは違い、情報共有は二手に分かれていた。

 どういう手を使ったかはルチアには予想もできないが、アーノルドは異界に居ながらもこちらに電話をかけてきたのだ。以前スカーレット嬢に招かれたときにフレンド追加されていたため、ルチアのスマホは今アーノルドとの通話専用になっている。
 なおロゼットのスマホは変わらず温存用だ。


『アンタレスの得意魔法は水魔法だったか?』


 しばしの沈黙、アーノルドはそう訪ねた。突然話を振られたロゼットは目を丸くしたもののすぐに答えた。


「俺は水と、気持ち氷魔法が得意です」
『威力はどれくらいだ?』
「えっと、水なら教室一つ分くらい出せます!氷魔法は簡単な造形物が作れるくらいで、何かを凍らすのはまだ苦手です」


 ちなみにヘスティアとフーゴは炎魔法の特化型で、ルチアは何でも適性がある万能タイプだ。
 パッと見は何でも使える万能型が強そうに感じられるが、同時に熟練度がバラけてしまい、器用貧乏になりがちだ。それもあって得意の属性に絞った特化型魔法使いが評価される傾向にあるが、ルチアは万能型の中でもかなりの成功例だ。


(故郷で鍛えられたおかげだなあ。年の近い子たちで魔法使える私とフーゴだけだったし、フーゴはもう最初から属性がとがっていたから私が頑張るしかなかったもの)


  この様子だとロゼットも特化型だと思うが、この年でサブ属性もあるのなら優秀な方だろう。フーゴも浄化をサブで持っているが、あれはほとんど体質でノーカウントだ。


『いや、二属性も待っているのなら十分だ。サンタリオもカルドも攻撃が得意だから、サポート魔法が多い水と氷属性は相性がいい』
「まあ、そうじゃなくても水はオレと相性がいいし?」


 そう言いつつも、友人が褒められてフーゴはどこか嬉しそうだ。


『ああ、お前たちは友人だったか。なら連帯も問題なさそうだな』
「……先輩、その言い方ってもしかして」
『フッ、察した通り、そのマネキン包囲を突破しろ』
「うっっそだろ」


 怖いものが苦手なフーゴは分かりやすく顔色を悪くした。電話越しじゃ顔色が見えないせいか、アーノルドはどんどん話を進めていく。


『お前たちはここの地図を持っているんだったな。今どこにいるのか分かるか?』
「はい、おおよその位置は把握できています」
『俺は今管制室にいるが、合流できそうか?』


 フーゴは撮った地図の写真に視線を落とした。なんだかんだ言いながらも頑張っている。


「んー、こっからそう遠くなさそうっすね。売店エリアと管制室の間に何もないみたいですし、迷う可能性もないと思います」


 その言葉で、私たちの移動先が決まった。ロゼットとフーゴもいつでも魔法を使えるように魔導書を呼び出す。両手が塞がるのを防ぐため、音声入力に切り替えてスマホを浮遊魔法で浮かせる。


『管制室は完全防音みたいだから、ノックはいらない。一応ここから監視カメラで外を見れるが、何台か壊れているみたいで死角が多い。着いたら電話で言ってくれ』
「監視カメラがあるってことは最近の遊園地なのかしら」
「お前、今の話聞いて最初に言うのがそれなわけ?」
「他に何かあるのか?」
「あるだろ!異界化してるのに何で電力あるのとか、何でまだ動いてるのとか!」
「なるほど!まだ監視カメラが機能しているからアーノルド先輩は俺たちが囲まれてるって分かったんだな!」
「だからそうじゃねえって!てか今気づいたのかよ!」


 ハッとしたような顔をしたロゼットにフーゴが肩を落とした。空気が少し緩んだところで、アーノルドは口を開いた。


『お前たちの実力なら問題ないと思うが、突破する際はなるべく目立たないようにやれ。さっきのピエロが倒されたことで向こうも動き出すはずだ』
「ねえ、やっぱりここに立てこもらねえ……?」
「うーん、それは難しいかも」


 再び顔色が悪くなったフーゴが怪訝そうルチアを見た。


「もう気づかれたみたい」
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

まーにや
2022.06.06 まーにや
ネタバレ含む
陽炎氷柱
2022.06.06 陽炎氷柱

わー!ありがたい言葉ありがとうございます(°ᗜ°)
なにを隠そう書いてる私もホラー苦手でして……怖くないホラーが読みたい!という気持ちで始めたものです。

たまにジャンル違いでは……という気持ちにもなりますが、少しでも楽しんで頂けていたら幸いです!

解除

あなたにおすすめの小説

『忌み地・元霧原村の怪』

潮ノ海月
ホラー
とある年の五月の中旬、都会から来た転校生、神代渉が霧野川高校の教室に現れる。彼の洗練された姿に女子たちは興味を示し、一部の男子は不満を抱く。その中、主人公の森月和也は、渉の涼やかな笑顔の裏に冷たさを感じ、彼に違和感を感じた。 渉の編入から一週間が過ぎ、男子達も次第に渉を受け入れ、和也の友人の野風雄二も渉の魅力に引き込まれ、彼の友人となった。転校生騒ぎが終息しかけたある日の学校の昼休み、女子二人が『こっくりさん』で遊び始め、突然の悲鳴が教室に響く。そしてその翌日、同じクラスの女子、清水莉子が体調不良で休み、『こっくりさん』の祟りという噂が学校中に広まっていく。その次の日の放課後、莉子を心配したと斉藤凪紗は、彼女の友人である和也、雄二、凪沙、葵、渉の五人と共に莉子の家を訪れる。すると莉子の家は重苦しい雰囲気に包まれ、莉子の母親は憔悴した姿に変わっていた。その異変に気づいた渉と和也が莉子の部屋へ入ると、彼女は霊障によって変わり果てた姿に。しかし、彼女の霊障は始まりでしかなく、その後に起こる霊障、怪異。そして元霧原村に古くから伝わる因習、忌み地にまつわる闇、恐怖の怪異へと続く序章に過ぎなかった。 《主人公は月森和也(語り部)となります。転校生の神代渉はバディ訳の男子です》 【投稿開始後に1話と2話を改稿し、1話にまとめています。(内容の筋は変わっていません)】

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。