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第二章 真実の目
まあ初デートに廃遊園地を選ぶはずもなく
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かつては売店だったと思われる小屋のカウンターの下で、フーゴたちは一息をついていた。
【シェフが気まぐれサラダ】とかいうふざけたメニュー看板が視界にちらつくが、ここにはあのマネキンがないのだ。
ルチア、フーゴ、ロゼットの順で肩を寄せてフーゴのスマフォを覗き込み、そろって黙って掲示板を追っていく。
「フーゴ、本当に平気?」
スマフォから顔を上げて小さくため息をつけば、ルチアが心配そうに声をかけてきた。
幼馴染みということでお互いの得意不得意は熟知しているから、ホラー苦手なフーゴを気遣ってくれなのだろう。あんまりかっこよくないからできれば気にしないでほしいのだが……噓やっぱり気にしてほしい。怖い物は怖い。
でもかっこつけたがりの男子高校生がここで素直に怖いと言えるはずもなく、フーゴは虚勢を見破られるのを承知の上で満面の笑顔を浮かべて見せた。
「ヘーキヘーキ!俺火魔法は得意だからさ、怪異なんて全部燃やしてやるって」
「へえ、さっき人影を見てドデカイ悲鳴を上げた奴のセリフとは思えないな」
「今のはそっと暖かくスルーしてやる流れだろ!」
にやりとロゼットが人の悪い笑みを浮かべる。
いつもだったら絶対に許さないが、その軽口のおかげで気が紛れているのも確かなのでフーゴは広い心で見逃してあげた。それはそうと一般生徒のくせに役職持ちの俺より怖がってないから一発小突いてやる。
そのやり取りをニコニコと見守っていたルチアだが、収拾がつかなくなるまえに話を戻した。
「それで、アーノルド先輩とは連絡が取れそう?」
「んや、そっちは音沙汰ナシ。一緒にこっちに来てるのかも分かんない」
フーゴは一度掲示板を閉じて、トークアプリを開いた。相変わらずの圏外表示で、送ったメッセージには既読すらつかない。連絡手段の温存ということでフーゴのスマフォを優先的に使っているが、ルチアにも試してもらった方がいいかもしれない。
大きなため息で状況を察したルチアは顎に手を当てて考え込んだ。
「詳しい情報はまだ出てないけど、たぶんこれは私が耐性検査で見た写真に写っていた遊園地で間違いないと思うの」
「僕たちは写真を見てないから分からないが、ここは写真の世界ってことか?」
「ああ、写真に吸い込まれたってのは間違いねえと思う。転移魔法特有の浮遊感はなかったし」
それにルチアに駆け寄った時、フーゴには写真に意識吸い取られるような感覚があった。怪異だから絶対の自信があるわけじゃないが、こういう直感が間違ったことはない。
「うん、私も魔法の気配を感じなかったよ。――だからここから出るには、核を壊すか、空間の裂け目を見つけるしかないと思う」
「……穏便な手段はねえってこと?」
「うーん、空間の裂け目なら敵に認知されず、それか仲間を呼ばれる前にささっ倒していけば何とか見つけられそうな気がするけど……」
「それもうだいぶきつくね?俺たちさっき追いかけっこしたばっかじゃん」
あのおぞましい人影と近寄ってくる汚れたピエロが脳裏に過ぎ去り、思わず体が震えそうになる。
そこに、ロゼットが不思議そうな顔で口を開いた。
「空間の裂け目ってなんだ?あ、核を壊すのは分かるぞ!この遊園地のボスを倒せばいいんだろ?」
不思議そうな顔じゃない、こいつは本当に何も分かっていなかった。
「空間の裂け目ってのは、こういう定位置結界系の怪異が持つ現実世界と唯一つながっている、いわば出入口みてえなもんだ。完全に閉じていたら、外から連れてくることもできないだろ?まあ、大体は開く手順やら鍵やらが必要だけど」
「なるほど、つまりは脱出ゲームみたいなものか!」
「お前は緊張感なさすぎ」
張り詰めた空気が一瞬で消え去った。ルチアはそれに小さく笑った。
「参加料が命ということを除けば、確かにそうかも。探索も推理も必要だし」
「それはもう脱出ゲームじゃなくてデスゲームなんだよ」
少しまごついたが、ひとまずはこの廃遊園地を探索して情報を集めつつ、掲示板で現実世界に考察してもらうことになった。
フーゴは入り口にあった地図を写真に撮っていたので、それをヒントにルートを決めていく。辺りに漂う錆びた鉄のような臭いから意識を反らすように。
「お、ここを知ってるやつが出てきた!……でもこれ長くなりそうだな」
「じゃあ探索しながら掲示板を確認しよう。その方が効率良いし、ここだっていつまで安全か分からないしな」
むしろよく今まで安全だったものだ。
こういう結界内で一か所にとどまり続けるのはよくないし、それもそうかとロゼットに習ってカウンターの下から這い出る。動く度に腐敗臭が鼻につくのがたまらなく気持ち悪い。
とりあえず掲示板に移動開始する旨を書き込んで、ロゼットの後に続いて店の外に出ようとしたとき。
【123 鯖缶 でるな!】
待ち望んでいた存在からのメッセージに、ピタリとフーゴの歩みが止まった。
ネットジャンキーが変換すらもせずに送られた言葉に嫌な予感を覚える。
ぎぃ、というきしんだ音にハッと顔を上げれば、先に進んでいたロゼットが扉に手をかけていた。
わずかに開かれていく扉。
【124 鯖缶 でるなかこまれてる】
「ロゼット!!」
続けて届いた切羽詰まったメッセージとほぼ同時に、フーゴの後ろにいたルチアが叫んだ。
【シェフが気まぐれサラダ】とかいうふざけたメニュー看板が視界にちらつくが、ここにはあのマネキンがないのだ。
ルチア、フーゴ、ロゼットの順で肩を寄せてフーゴのスマフォを覗き込み、そろって黙って掲示板を追っていく。
「フーゴ、本当に平気?」
スマフォから顔を上げて小さくため息をつけば、ルチアが心配そうに声をかけてきた。
幼馴染みということでお互いの得意不得意は熟知しているから、ホラー苦手なフーゴを気遣ってくれなのだろう。あんまりかっこよくないからできれば気にしないでほしいのだが……噓やっぱり気にしてほしい。怖い物は怖い。
でもかっこつけたがりの男子高校生がここで素直に怖いと言えるはずもなく、フーゴは虚勢を見破られるのを承知の上で満面の笑顔を浮かべて見せた。
「ヘーキヘーキ!俺火魔法は得意だからさ、怪異なんて全部燃やしてやるって」
「へえ、さっき人影を見てドデカイ悲鳴を上げた奴のセリフとは思えないな」
「今のはそっと暖かくスルーしてやる流れだろ!」
にやりとロゼットが人の悪い笑みを浮かべる。
いつもだったら絶対に許さないが、その軽口のおかげで気が紛れているのも確かなのでフーゴは広い心で見逃してあげた。それはそうと一般生徒のくせに役職持ちの俺より怖がってないから一発小突いてやる。
そのやり取りをニコニコと見守っていたルチアだが、収拾がつかなくなるまえに話を戻した。
「それで、アーノルド先輩とは連絡が取れそう?」
「んや、そっちは音沙汰ナシ。一緒にこっちに来てるのかも分かんない」
フーゴは一度掲示板を閉じて、トークアプリを開いた。相変わらずの圏外表示で、送ったメッセージには既読すらつかない。連絡手段の温存ということでフーゴのスマフォを優先的に使っているが、ルチアにも試してもらった方がいいかもしれない。
大きなため息で状況を察したルチアは顎に手を当てて考え込んだ。
「詳しい情報はまだ出てないけど、たぶんこれは私が耐性検査で見た写真に写っていた遊園地で間違いないと思うの」
「僕たちは写真を見てないから分からないが、ここは写真の世界ってことか?」
「ああ、写真に吸い込まれたってのは間違いねえと思う。転移魔法特有の浮遊感はなかったし」
それにルチアに駆け寄った時、フーゴには写真に意識吸い取られるような感覚があった。怪異だから絶対の自信があるわけじゃないが、こういう直感が間違ったことはない。
「うん、私も魔法の気配を感じなかったよ。――だからここから出るには、核を壊すか、空間の裂け目を見つけるしかないと思う」
「……穏便な手段はねえってこと?」
「うーん、空間の裂け目なら敵に認知されず、それか仲間を呼ばれる前にささっ倒していけば何とか見つけられそうな気がするけど……」
「それもうだいぶきつくね?俺たちさっき追いかけっこしたばっかじゃん」
あのおぞましい人影と近寄ってくる汚れたピエロが脳裏に過ぎ去り、思わず体が震えそうになる。
そこに、ロゼットが不思議そうな顔で口を開いた。
「空間の裂け目ってなんだ?あ、核を壊すのは分かるぞ!この遊園地のボスを倒せばいいんだろ?」
不思議そうな顔じゃない、こいつは本当に何も分かっていなかった。
「空間の裂け目ってのは、こういう定位置結界系の怪異が持つ現実世界と唯一つながっている、いわば出入口みてえなもんだ。完全に閉じていたら、外から連れてくることもできないだろ?まあ、大体は開く手順やら鍵やらが必要だけど」
「なるほど、つまりは脱出ゲームみたいなものか!」
「お前は緊張感なさすぎ」
張り詰めた空気が一瞬で消え去った。ルチアはそれに小さく笑った。
「参加料が命ということを除けば、確かにそうかも。探索も推理も必要だし」
「それはもう脱出ゲームじゃなくてデスゲームなんだよ」
少しまごついたが、ひとまずはこの廃遊園地を探索して情報を集めつつ、掲示板で現実世界に考察してもらうことになった。
フーゴは入り口にあった地図を写真に撮っていたので、それをヒントにルートを決めていく。辺りに漂う錆びた鉄のような臭いから意識を反らすように。
「お、ここを知ってるやつが出てきた!……でもこれ長くなりそうだな」
「じゃあ探索しながら掲示板を確認しよう。その方が効率良いし、ここだっていつまで安全か分からないしな」
むしろよく今まで安全だったものだ。
こういう結界内で一か所にとどまり続けるのはよくないし、それもそうかとロゼットに習ってカウンターの下から這い出る。動く度に腐敗臭が鼻につくのがたまらなく気持ち悪い。
とりあえず掲示板に移動開始する旨を書き込んで、ロゼットの後に続いて店の外に出ようとしたとき。
【123 鯖缶 でるな!】
待ち望んでいた存在からのメッセージに、ピタリとフーゴの歩みが止まった。
ネットジャンキーが変換すらもせずに送られた言葉に嫌な予感を覚える。
ぎぃ、というきしんだ音にハッと顔を上げれば、先に進んでいたロゼットが扉に手をかけていた。
わずかに開かれていく扉。
【124 鯖缶 でるなかこまれてる】
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