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陽炎氷柱

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第二章 真実の目

瘴気耐性の再検査(偽)

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 コンコンと控えめなノック音が二回響く。

 扉を開けると臆病な寮母の姿がそこにあり、ルチアはすぐに理由を思い当たった。用意していたカバンを持って談話室に出ると、そこには幼馴染のフーゴとその友人が待っていた。


「おう、待ってたぜ」
「どっちかというと待たせたのは俺たちだと思うぞ」
「うっせえ。アビッソが何回も絡んでくんのがわりぃんだろ」


 昨日、アーノルドに勝手に予定を埋められた後、ルチアが最初に頼ったのは幼馴染だった。そこに居合わせたロゼットも同行を申し出てくれたのだ。アーノルドは複数人連れてこいと言っていたし、変に友達がいないやつだと思われても嫌なので二つ返事で了承した。


「昨日はうやむやになってしまったから、改めて自己紹介するよ。僕はロゼット・アンタレス、フーゴと同じクラスで同室だ。ルチアのことはよく聞いてるよ」
「一体何を話されているのか気になるけど、私はルチア・サンタリオだよ。今日は付き合ってくれてありがとう」
「瘴気耐性の再検査だっけ。僕はそこそこ高い方だから、何かあった時のフォローは任せてくれ」
「フーゴの友達と思えないくらいのしっかり者……」
「おいどういう意味だそれは」


 涼し気なアクアブルーの髪が太陽の光を反射して、大変爽やかな少年だ。とても天邪鬼なフーゴの友人とは思えない。現に何か言いたげにこちらを見つめるフーゴとは大違いだ。用があるなら言え。

 絶対に反応してやるもんかと無視してロゼットと情報室に向かえば、ヤツは慌てて追いかけてきた。


「てか、なんで再検査になったんだ?先週やったばっかだろ」
「瘴気耐性ってのは一生変わらないんだよな。せいぜいヤバい怪異案件に巻き込まれて覚醒した話くらいじゃないか?」
「再検査って言っても、瘴気耐性じゃなくて」
「サンタリオの能力の検査だ」


 突然背後から声をかけられて、フーゴの肩が少し跳ねた。


「うっわ、アーノルド先輩」
「遅い」
「怪異対策本部の先輩がどうして」


 不思議そうに首を傾げたロゼットを一瞥したアーノルドは、私たちを追い越して情報室の扉を開けた。そしてプロジェクターやパソコンを立ち上げると、その腕に抱えていたものをデスクの上に広げる。


「映像の前に、紙媒介の物を確認してみようか。三人とも、どんな馬鹿げたものが見えてもいいから正直に答えて」
「一切の説明がないんだが」
「説明なら今してるでしょ」
「違う、そうじゃない」
「順番は……カルド、アンタレス、サンタリオの順で頼むよ」
「俺たちの声届いてる?」
「え、僕たちもやるのか?」


 三人を大いに混乱させたアーノルドは、まるで何も見えていないかのようにアルバムのようなものを手に取って押し付ける。能力の真価を測るため、一切の説明ができないのだ。


「これ、なんだ?」
「心霊写真アルバム」


 一拍を置いて、実はお化けが苦手なフーゴの甲高い悲鳴が情報室に響き渡った。防音なので外部に漏れることはないため、彼の男子高生としてのプライドは辛うじて守られた。
 まあ逆に言うと、助けを求めることもできないのだが。


 アーノルドは後輩の冥福を祈りながら記録を取る準備をした。

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