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陽炎氷柱

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第一章 赤い封筒

怪異とは

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「副会長、掲示板への報告終わりました」
「怪異変質のことは書いてないわね?」
「はい。言われた通りに」
「ありがとう。あとは匿名で書き込んでいる役員が話を濁してくれるはずだわ」


 あの後、ルチアたちはすぐに異界から吐き出された。お互いの無事を確認して胸を撫でおろして、急いで周りに生存報告をしていく。

 結局、スカーレット嬢が突然小さな少女に変質した理由は分からなかった。ヘスティアいわく、あそこまで存在強度の高い怪異が理由もなく変異することはまずありえないらしい。
 アーノルドからの追加メッセージにも、怪異が変異した瞬間に原因があるのは間違いないそうで、彼はすでに保健室で待機していた。


「計測結果、怪異スカーレットは別の怪異に変質、弱体化したわけではないと分かった」


 ウェリントン型の眼鏡をかけた神経質そうな青年……アーノルドは数字がびっしりと書かれた書類をにらみながらそう言った。いつもワックスできっちりと固められた深緑の髪は少し乱れていて、なんとなく困っているなと思った。


「そんなはずないわ。わたくしの目の前で起こったのよ!?」
「別に何も変ってないとは言ってないだろ。ファルニスは話を最後まで聞け」


 ヘスティアが黙ったのを見てから、アーノルドは再び口を開く。その萌黄の瞳はまっすぐこちらに向けられていて、ルチアはとにかく居心地が悪かった。
 現実でもスレッドにいる時のような愉快な性格なら話しかけやすいんだけど。


「俺が考えるに、怪異スカーレットは歪みがから本来の姿に戻ったんじゃないのか?」
「あの女の子が怪異スカーレットの本来の姿ですって!?」
「そういうことだ。ところで、サンタリオはどうやって怪異が生まれてくるか知ってるか?」
「ええと、世界のどこかで発生した歪みや淀みなどが魔力を吸収してカタチを得たものだと習いました」


 魔力と穢れで構成された怪異は魔法を使えない代わりに、世界を歪めることでこちら側に干渉してくる。そして理不尽な超常現象として人に認識されるのだ。

 弱いモノであれば驚かされる程度でほぼ害はないのだが、自分の歪みを異界として外部に出力できるほどの強さを持つモノは発する瘴気や穢れだけで回りを汚染できる。
 汚染されてしまえば人動植物関係なく衰弱させられ、最悪命に係わる事態になってしまうのだ。


「その発生原因になった”歪み”によって、怪異はタイプ分けされるんだ。怨念型や土地関連型くらいなら聞いたことがあるだろ?」
「言われてみれば……」
「例をあげると、いわくつきの施設に怪異が発生して禁足地になるパターンは後者、特定の人間を襲っていた突き落とし女は前者だ」
「なるほど。赤い封筒とスカーレット嬢が結びついたことでタイプが特定できて、歪みを観測できたってことですか?」
「ああ。だから俺は性質が変化したのではなく、本来あるべき姿に戻ったんだと判断した」


 そこまで言うと、アーノルドは資料をサイドテーブルに置いてルチアの前に椅子を持ってきて腰かけた。


「それから異界での話を聞くに、おそらくこの変化にはサンタリオが関わっているんだと思う」

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