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第四章 犯人を捕らえろ!

42.仲間

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「何も帰れって言ってるわけじゃない。雪乃は女の子だし、秋兎は手が商売道具だ。怪我なんかさせたくない」


 アキくんの事を出されて、私の勢いがそがれてしまった。
 勝手に返事をするわけにはいかなかったし、芸術を愛しているアキくんが腕を大切にしているのは知っていたからだ。


「逆に俺は剣道もやってるし、護身術も習ってる。……それに、俺は今日何もしていない。リーダーを任されたのに……って、頼むからそんな顔をするなって」


 少し乱暴に頭をなでられて、出そうになっていた涙が引っ込んだ。一瞬で頬が熱くなるのが分かる。今、颯馬くんの顔を見ちゃいけない気がする。


「お前たちがいなかったら俺はここまでたどり着けなかった。間違っても役に立たなかったとか思わないでくれ。俺の立つ瀬がなくなるだろ」
「私は頼まれた仕事をやっただけだよ」
「じゃあ、犯人を捕まえるのはオレたちの仕事だ。それにきっかけは俺の依頼だけど、俺たちはもう仲間だろ。一緒に同じ仕事をやるんじゃなくて、お互いに得意不得意を補っていこうぜ」


 私はその言葉にとても驚いた。
 だって私にとって、仲がいい友達は”みんな揃って同じことをする”っていうものだ。影響力のある子にすごく気を使いながら、常に一緒に行動する。実際、小学校の頃もそうしていた。


(でも、颯馬くんが言うような関係の方が、もっと素敵だと思う)


 表面的な付き合いじゃなくて、その人を丸ごと好きになる。お互いに敬意をもっているから、ずっと気を張っていなくてもうまくやっていけるんだ。


「適材適所ってやつだね。さっそく良いところをとられたけど、オレも雪乃にはカッコ良いところをみせたいな。ここは任せてくれない?」


 ぱちりとウィンクをする桜二くん。
 私も二人とそんな関係になれたらいいと思って、思い切って勇気を出してみた。


「うん、二人のカッコいいところ、楽しみに待ってるね!」
「!ああ、任せてくれ!」


 颯馬くん太陽のような笑顔で胸を叩いて見せた。
 ……一方、桜二くんはというと。


「……桜二が照れてる」
「うるさい照れてない。朴念仁は黙ってて」


 耳まで赤くしてそっぽ向いていた。
 頑なにこちらを見ようとせず、手は落ち着きなく前髪をいじっている。


(ぼくねんじんって、何だろう)


 だけどそれを聞く前に、桜二くんはさっさと話題を変えてしまった。


「ほら、早く寄木細工を隠す場所を作るよ!」


 その耳はまだうっすら赤い。桜二くん、本当に照れていたんだ。


「葵さんが抵抗することも考えて、周りの物はどかそうか。ここにあるものが寄贈されてるのは知ってるはずだから、変に思わないはずだ」


 作業が始まれば、二人とも真剣な空気に戻った。
 颯馬くんは骨董品を片端から二階に避難させ、私は汚れないようにブルーシートをかけていく。桜二くんは蔵の隅で、カメラやレコーダーをセットしていった。いつの間にあんなに持ってきてたんだろう。


「颯馬くん、本当に力持ちなんだね。あの銅鐸を軽々と持ち上げるとは思わなかったよ」


 ある程度運び終わったところで、私は山になっている骨董品たちを見上げる。
 そしてあれだけ重い物を運んでおきながら、少しも息を切らしてない颯馬くんと見比べた。


「俺はフィジカルに恵まれてるらしくてな。昔、剣道の試合で相手の竹刀まっ二つにしたこともあるんだ」


 今までのことを思い出して、私はすんなり納得してしまった。銅鐸持ち上げるくらいだし、竹刀くらい簡単に折れる……切れる?だろう。


「そういえば、さっき剣道をやってるって言ってたね」
「ああ。こう見えて全国少年剣道大会で優勝してるんだぜ」


 そういうと、力こぶを作って見せてくれた。うーん、アキくんより少し太いくらいの腕のどこにあんな力が……。


「って、優勝!?」
「秋兎から聞いたことないのか?」


 こくりとうなずく。


「まあ、俺も秋兎に幼馴染みがいるって知らなかったくらいだ。雪乃はその目があるから、慎重になってるんだろう。あいつ、雪乃のことになると目に見えて過保護になるし」
「過保護っていうか、心配性なだけだよ」
「それだけには思えないけどな。俺もなんとなくアキに気持ちは分かるしな」


 そんな話をしながら整理していると、颯馬くんがまじまじと私を見つめた。


「……俺さ、こんなに女の子と楽しく話せたの、初めてなんだ」

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