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第三章 物と付喪神

33.カミングアウト

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「……え?」


 ぺろっと舌を出して片目をつぶったお茶目な付喪神に、私は思わず裏返った声で返事をしてしまった。
 あまりにも困った顔をしてしまったのだろう、颯馬くんは心配そうに私を見ている。どうやってこの真実を伝えるべくか悩んでいると、着物の付喪神は慌てたように言葉を付け足した。


『ああ、なにも妾がいたずらで隠したわけじゃあない。誰の手も及ばぬところに隠してほしいと言ってきたのは、かの寄木細工の方だ』
「付喪神は、”寄木細工が自分から誰にも見つからないように隠してほしいって頼んできた”って」


 これは私だけで抱えるべき話じゃない。そう思った私は、簡潔に着物の付喪神から言われたことをみんなに伝えた。


(寄木細工に宿っている付喪神が自分から頼んだ……?)


 いきなり事態が大きく進み、三人とも狐に化かされたような顔になる。だけどそれは一瞬のことで、すぐに真剣な顔に戻ってお互いに顔を見合わせた。
 最初に沈黙を破ったのは、桜二くんだ。口ごもる颯馬くんを見て、代わりに質問してくれた。


「なんで寄木細工がそんな頼み事したのか、理由はわかる?」
『む。確かあおいのがどうのこうのと言っていたような気がしたのだが……よう覚えとらんのう。ほれ、最近物の移動が多すぎて、そちらで手一杯だったのじゃ』
「そこをどうにか……!」


 着物の付喪神が考え込むのを横目に、私はもう一度部屋の中を見回した。


(活動している付喪神が少ないのは、みんな眠りについてるからかな)


 きっと別邸の鍵探しで、さっきの男の人たちのような人がたくさんいたのだろう。
 売って金を稼ごうっていう声が聞こえている中で、仲間たちがどんどん違う場所に移動されていく。知性が低い付喪神なら、遺品整理を見て「捨てられる」って勘違いしたんじゃないかな。
 付喪神の本質は道具で、人に生み出されて使われることが存在意義だ。人の愛によって生まれた彼らにとって、壊れるよりも捨てられる方が怖いのだ。


「それにしても”隠して欲しい”、か……」


 それは私も気になっていたところだ。隠してほしいって、まるで何かに狙われているような言い方だ。


「たぶん、私が予想していたよりも意思がはっきりしているのかも。すごく大事にされていた物は付喪神化が早いこともあるし」


 ほとんど独り言のような呟きだったが、着物の付喪神がそれを聞いて顔を上げた。


『ふむ、何やら勘違いをしているようだが、あの寄木細工は姿を持っておるぞ』
「えっ!?」
『思い出したわい。アレは今にでも消えてしまいそうな妖精であったが、たった60年でよくあそこまで化けたものよ』


 確かにたくさん使われれば、早く付喪神になることはある。


(だけど、四十年も飛ばして姿を得るなんて)


 驚きで何も言えない私に、着物の付喪神はマイペースに微笑んだ。


『そうじゃのう……そういえばあの小さきもの、鍵についても何か言っておったな』

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